死んだ順番で、遺産の行き先が変わる——認定死亡と同時死亡の推定
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第1章 民法総則 ㉑/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
認定死亡とは何か

まず、認定死亡から見ていきます。例えば、船が転覆する事故が起きたとします。乗っていた人の一人が、行方不明になりました。状況からして、助かった可能性はほとんどありません。でも、遺体は見つかっていません。こういうとき、どうやってその人の死亡を扱うのか。それが認定死亡です。現場を調べた官公署——例えば、海上保安庁のような役所です。その役所が、死亡地の市町村長に死亡の報告をします。それを受けて、市町村長が戸籍に死亡の記載をします。認定死亡に、裁判所は出てきません。ここが、後で見る失踪宣告との大きな違いです。条文の言葉も、確認しておきましょう。
条文戸籍法89条
戸籍法 第八十九条 水難、火災その他の事変によつて死亡した者がある場合には、その取調をした官庁又は公署は、死亡地の市町村長に死亡の報告をしなければならない。但し、外国又は法務省令で定める地域で死亡があつたときは、死亡者の本籍地の市町村長に死亡の報告をしなければならない。
条文の言葉どおりです。本文は、日本国内で亡くなった場合の話です。取り調べた役所が、死亡地の市町村長に報告します。外国や、法務省令で定める地域で亡くなった場合です。この場合は、死亡者の本籍地の市町村長に報告します。どちらにしても、届け出るのは役所であって、裁判所ではありません。
推定にすぎない——覆り方の違い

ここで、一つ確認しておきたいことがあります。失踪宣告のところで扱った「みなす」を思い出してください——死亡とみなされた人が生きて帰ってきたら、宣告の効力はどうすれば消えるでしょうか?では、認定死亡はどうでしょうか。認定死亡で死亡として扱われていた人が、生きて戻ってきたら——取消しのような手続を経る必要はありません。当然に、効力を失います。ここが、失踪宣告との決定的な違いです。89条が定めているのは、官公署が死亡を「報告する」ということだけです。裁判所が死亡を認定する手続きは、どこにも入っていません。
戸籍というのは、起きた出来事を書き留める帳簿にすぎません。以前、登記のところで確認しましたよね——日本の不動産登記には、公信力がありません。記載があることと、その記載が真実であることは、別の問題なんです。戸籍の記載も、同じ構造です。だから、生きて戻ってきたという事実さえあれば、記載のほうが黙って引っ込みます。

一度、まとめて見てみましょう。まず根拠法です。失踪宣告は、民法です。認定死亡は、戸籍法に根拠があります。次に場面です。失踪宣告は、生死不明の状態が一定期間続いたときです。認定死亡は、死亡がほぼ確実だけど遺体が無いときです。だれが動かすかも違います。失踪宣告は、家庭裁判所の審判です。認定死亡は、官公署の報告です。そして、効果の強さです。失踪宣告は、死亡と「みなす」。認定死亡は、戸籍上死亡として扱います——これが「推定」です。だから覆し方も変わります。失踪宣告は、取消しの審判が無ければ覆りません。失踪宣告の回で確かめたとおり、みなすは、違う事実が証明されても、それだけでは覆りません。推定は、違う事実が証明されれば、そちらを採ります。認定死亡は、生きて現れれば当然に覆ります。同じ船の事故でも、役所が死亡を認めて報告すれば、認定死亡になります。その報告がないまま、生死の分からない状態だけが続けば——出番は、失踪宣告のほうです。入口が分かれるのは、役所の報告があるかどうかです。
この違いを裏づける判例もあります。
判例最判昭和28年4月23日(民集7巻4号396頁)
反証があれば、この記載は覆る 戸籍の死亡の記載は、反証がない限り、そのとおりに認めてよい。ただし、反証があれば、その限度で覆る。
反証というのは、今言った、違う事実の証明のことです。官公署の報告という、確定力の弱い手続きで戸籍に記載される以上——反証が出れば、その記載は覆ります。
相続人の範囲——計算に必要な最小限

ここまでで、死亡という事実が戸籍にのるところまで来ました。ここから先は、その死亡によって誰が財産を受け継ぐか——相続人の話です。今日、これから計算するために必要な部分だけに絞って押さえます。広い分野ですが、今日は必要な部分だけです。まず配偶者です。配偶者は、常に相続人になります。890条です。配偶者は、他の誰と並んでも必ず相続人です。次に血族側です。血族側には順位があります。第一順位は子です。887条1項です。子がいなければ、第二順位——直系尊属です。父母や祖父母のような、自分より上の世代の血族のことです。889条1項1号です。直系尊属もいなければ、第三順位——兄弟姉妹です。889条1項2号です。

そして、もう一つ大事な仕組みがあります。亡くなって財産を残す側の人のことを、被相続人と呼びます。その被相続人より、子が先に死亡していた場合です。子が先に亡くなっていても、相続人がいなくなるわけではありません。その場合は、子の子——つまり孫が、代わりに相続人になります。887条2項です。これを代襲相続と呼びます。条文を、そのまま見ておきましょう。
条文民法887条2項
民法 第八百八十七条(子及びその代襲者等の相続権)第二項 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
相続の開始は、失踪宣告の回で見たとおり、その人が亡くなって、相続人が財産を引き継ぐ手続きが始まることです。代襲が起きる場合として挙がっているのは、三つ——死亡と、あとの二つです。あとの二つは、相続人になるはずだった人が、その相続権を失う場合です。今日は、そこまでで十分です。最後のただし書にある直系卑属は、さっきの直系尊属の反対で、子や孫のような下の世代です。なぜ、こういう仕組みがあるんでしょうか。本来、子が受け取るはずだった取り分を、そのまま孫に引き継がせる仕組みだからです。死亡は、本人にはどうにもできない事情です。代襲が働くのは、本人が自分の意思で相続から降りたわけではない場合です。死亡も、さっき条文で見た二つも、そこは同じです。さらに孫まで死亡していれば、ひ孫が再代襲します。887条3項です。
兄弟姉妹側にも代襲はあります。甥や姪が代襲します。889条2項です。ただし、ここに大事な違いがあります。
条文民法889条2項
民法 第八百八十九条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)第二項 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
ここで準用しているのは887条2項だけです。887条3項は含まれていません。兄弟姉妹側の代襲は、甥・姪の一代限りです。再代襲は起きません。そこが、試験でもよく問われる違いです。さっき確認した、取り分をそのまま引き継がせるという代襲の趣旨に照らして考えてみましょう。甥や姪のさらに先まで、その取り分を引き継がせるべき関係とは言いにくい——被相続人から見て、関係が遠くなりすぎる、と考えられています。そこまで広げる必要はない、という判断です。もう一つだけ触れておきます。相続を放棄した場合は、代襲は起こりません。
さっき読んだ887条2項を思い出してください——挙がっていたのは、死亡と、相続権を失う二つ、合わせて三つの場合だけです。放棄は、自分の意思で相続人の立場を手放すことです。だから、この三つのどれにも当たりません。この区別は、後で代襲相続の話に戻ったときに、もう一度効いてきます。
死亡の先後で、相続人が入れ替わる——結論を確認する

では、ここから実際に計算していきます。さっきの雪崩の場面を、もう少し詳しく設定します。亡くなったのは、夫のAさんと、その子のCさんです。残っているのは、妻のBさんです。まず、Aさんが先に亡くなり、そのあとでCさんが亡くなった場合を考えます。Aさんが亡くなった、その瞬間には——Cさんは、まだ生きています。Aさんの相続人は、配偶者のBさんと、子のCさんです。ところが、そのあとでCさんも亡くなってしまいます。Cさんが亡くなった時点で、Cさんを被相続人として、相続人を一から数え直します。まず配偶者はいるか——Cさんに配偶者は、いません。次に子はいるか——Cさんに子も、いません。
次の順位、直系尊属です。Cさんの父はAさんですが、もう亡くなっています。Cさんの母はBさんで、Bさんは生きています。結局、Aさんの財産はいったんCさんにも渡りますが、そのCさんが亡くなることで——最終的に、すべてBさんのものになります。ここで、たとえを一つ挟みます。相続は、椅子取りゲームに似ています。音楽が止まった瞬間——つまり死亡の瞬間に、まだゲームに参加していた人だけがその椅子に座れます。Aさんの音楽が止まった瞬間に、Cさんがまだ参加していれば、Cさんはその椅子に座れます。でも、Cさんが先に退場していれば、Cさんはその椅子に座れません。この家族では、Cさんに代わりに座れる人もいません。だから椅子は、次の順位の人に回ります。ここで一度、動画を止めて考えてみてください。もし、CさんがAさんより先に亡くなっていたとしたら——Aさんの相続人は、誰になるでしょうか?では、答え合わせです。

今度は、Cさんが先に亡くなり、そのあとでAさんが亡くなった場合です。Aさんが亡くなった、その瞬間に、Aさんの相続人を数えます。まず配偶者はいるか——妻のBさんが、います。次に子はいるか——Cさんは、もうこの世にいません。子がいない以上、次の順位——直系尊属に移ります。Aさんの父、Dさんです。Aさんの相続人は、妻のBさんと、父のDさんの二人になります。同じ、Aさんと、Cさんが亡くなったという事故なのに——死亡の順番が逆なだけで、相続人の顔ぶれが、まったく変わってしまいます。だからこそ、この死亡の順番が分からないという事態を、法律は放っておけないんです。
先後不明のとき——32条の2

実際の事故では、どちらが先に亡くなったか、記録に残っていないことがほとんどです。そこで、民法は一つのルールを用意しています。
条文民法32条の2
民法 第三十二条の二 数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
32条の2と32条2項は、番号は似ていますが、別の条文です。前に扱ったのは失踪宣告の取消しの話、こちらは死亡の先後が分からないときの話です。よく見ると、条文は「先後が不明なとき」とは書いていません。「一方が、他方の死亡後もなお生きていたことが、明らかでない」という言い回しです。中身は同じことを指していますが、条文の言葉は、これです。そして効果は——これらの者は、同時に死亡したものと推定します。考えてみてください。先後が分からないままだと、さっき見たとおり、相続人が誰なのか決まりません。では、どちらかが先に死んだと決め打ちすればいいでしょうか。
それは、なんだか乱暴な気もします。証拠が無いのに、一方の側に有利な結論を作ってしまうことになります。例えば、いつも年上のAさんが先に死んだことにする、と決めてしまえば——さっき見た二つの結論のうち、いつも同じ側だけが得をすることになります。だから民法は、どちらにも傾かない扱いに揃えました。それが、同時死亡の推定です。推定が覆る場面は、最後にもう一度扱います。今、AさんとCさんに、これを当てはめてみましょう。

もう一度、Aさんの相続人を数えてみましょう。配偶者はいるか——妻のBさんが、います。子はいるか——Aさんが亡くなった瞬間に、Cさんが生きていたとは言えません。だから子がいない扱いになり、次の順位——直系尊属のDさんに移ります。Aさんの相続人は、妻のBさんと父のDさんです。もう一つ、大事な効果があります。遺言で財産を人に渡すことを遺贈と呼びますが、同時に死亡した者の間では相続も遺贈も生じません。同時に亡くなったと扱う以上、Aさんが亡くなったその瞬間には、Cさんももう生きていません。渡す相手そのものがいない——だから、渡しようがないんです。
ただし、代襲相続は生じる

同時死亡だから相続しない——では、孫も相続できないんでしょうか。それを、次に確かめましょう。結論から言うと、受け取れます。相続しないという話と、代襲の話は別なので、順番に見ていきましょう。Cさんに子供がいたとします。Aさんから見れば、孫にあたります。AさんとCさんが同時に死亡したと推定されました。この場合、Cさんの子——孫が、Cさんに代わって相続人になります。887条2項です。ここでは、Cさんが死亡したことが、代襲の原因になっています。さっきの椅子取りゲームで言えば、死亡という理由でゲームを退場した人の椅子には、その人の子が代わりに座ってよい、という特別ルールです。
しかも条文は、相続の開始「以前」に死亡したとき、と書いていました。「以前」は、その時点を含みます——同時に亡くなった場合も、ここに入ります。相続しない、と言ったのは、AさんとCさんの間で直接相続が起きるかどうか、という話です。そこは同時死亡なので、起きません。でも、代襲相続は別の話です。Cさんが死亡したという事実さえあれば、孫がCさんの代わりに相続人になります。ここを混同するのが、試験でも一番多い間違いです。ここは、論文でも狙われるところです。結果として、Aさんの相続人は、妻のBさんと——Cさんの子である孫の、二人になります。
Aさんの父であるDさんは、ここでは相続人になりません。孫は、子の代わりとして第一順位に立ちます。血族側の第一順位がいる以上、直系尊属の出番には回りません。ちなみに、さっき触れた放棄の話を思い出してください。もし、Cさんが相続を放棄していたら、どうなるでしょうか?放棄では代襲が起きない、という結論は、そのとおりです。死亡は、本人にはどうにもできない事情です。放棄は、自分から相続人の立場を降りることです。だから、条文に挙がっていた三つのどれにも当たりません——孫は代襲できません。この違いが分かっていれば、迷わなくなります。
推定だから、覆せる

最後に、もう一度確認しておきます。32条の2の効果は、あくまで「推定」です。証拠が出てきて、実際の死亡の先後が証明されれば——この推定は覆ります。逆に、証明できなければ、そのまま同時死亡として扱われ続けます。今日、実際にこの違いが、相続人の顔ぶれを動かすところまで確かめられました。
今日の地図(保存版)

今日、見てきたことをまとめましょう。認定死亡は、戸籍上の扱いにすぎず、生きて戻れば当然に覆ります。失踪宣告の「みなす」とは、そこが違いました。そして相続人は、配偶者が常に、血族側は子→直系尊属→兄弟姉妹の順で決まります。死亡の順番が変われば、この相続人の顔ぶれも、まるごと変わります。先後が分からないときは、32条の2で同時に死亡したものと推定します。そして、同時死亡者の間で相続が起きなくても——代襲相続は、別に生じます。そして、この推定はあくまで推定なので、証拠が出れば覆ります。これで、自然人のところを、一通り見終えました。
この先は、法人という、別の主体を見ていきます。
参照条文
- 戸籍法89条
- 民法887条2項
- 民法889条2項
- 民法32条の2