民法ゼロから民法#24

社長がやったことは、会社がやったことか——代表権の制限と法人の不法行為責任

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第1章 民法総則 ㉓/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

法人には、手も口もない

法人には身体が無いという発見+この回で見る2本の規則(契約の場面/損害の場面)の予告

  • 法人には身体が無いという発見
  • この回で見る2本の規則(契約の場面/損害の場面)の予告

ここで、一つ確かめておきたいことがあります。法人には、体がありません。手も、口もありません。契約するのも、事故を起こすのも、いつも代表者という生身の人間です。代表者の行為がどこまで法人の行為になるか。そこが、今日いちばん考えたいところです。少したとえてみます。遊園地の、着ぐるみのキャラクターを想像してください。着ぐるみの中に誰が入っていて、何を考えているかは、外から見ている子どもには分かりません。見えるのは、着ぐるみが手を振ったとか、握手したとか、外に見える動きだけです。だから、子どもたちは、その”動き”だけを信じて、キャラクターと接します。法人と代表者の関係も、同じ形をしています。代表者の頭の中——定款で決めた内側のルールも、その人が本当は何を考えていたかも——外の人には見えません。

だから、「その人がやったこと」を「法人がやったこと」に変える規則が要ります。今日は、この規則を2本見ます。一つ目は、契約の場面。冒頭の、承認の話です。二つ目は、損害の場面。理事が着服目当てで動いていたら、という話です。そこは、最後のお楽しみにしておきましょう。まずは、一つ目から見ていきます。

内側のルールは、外の人には見えない——代表権の制限

内と外の板・1回目(法人の枠の内側=1000万円超は総会承認/枠の外=取引相手の業者)+内側の制限は外の人に効かないという向き 図:内と外の板・1回目

  • 法人の枠の内側=1000万円超は総会承認
  • 枠の外=取引相手の業者
  • 内側の制限は外の人に効かないという向き

冒頭の場面に戻りましょう。理事が承認を取らずに、二千万円の契約をしました。この場面で、代表理事の権限を定める条文を見てみます。代表権制限説を連想したなら、いい線です。ただ、別の話です。あの学説は、目的の範囲の外に出た行為をどう扱うか、という名前でした。今日は、定款が代表理事に付けた、社内の条件の話です。

条文一般法人法77条4項・5項

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第七十七条(一般社団法人の代表) 4 代表理事は、一般社団法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。 5 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者対抗することができない

正式名称は長いのですが、一般に、一般法人法と呼ばれています。まず四項です。代表理事は、法人の業務について、裁判の内でも外でも、一切の行為をする権限を持ちます。理事のうち、外に向かって法人を代表する人です。冒頭の理事も、この立場だと考えてください。基本は、何でもできます。問題は五項です。「前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない」。「善意」は、以前確かめたとおり、知らないこと。親切心という意味ではありません。この制限は、法人の内側——定款という紙の中にしかありません。業者は、その紙を見ていません。だから法人は、この制限を業者に対抗できないんです。

「この契約は、うちの内輪のルールでは無効なので、払いません」とは言えない、ということです。業者が善意——つまり、承認が要ることを知らなければ、契約は有効で、代金は払われます。相手が安心して取引に入れるように、という考え方でした。五項は、その考え方を、代表権の場面で条文にしたものです。ここで、一つ注意しておきたいことがあります。すべての制限が、この「対抗できない」に当たるわけではありません。もし、この「承認が要る」というルールが、定款ではなく、法律のほうに書かれていたら、どうでしょうか。法律は誰でも確認できます。だから、法律による制限は、外から見えないものではありません。五項が対象にしているのは、あくまで定款のような、法人の内側だけにあるルールです。

では、業者の”善意”というのは、具体的にどこまでなら守られるのでしょうか。

「知らなかった」にも、境界がある

「善意」の意義を問う板(まったく知らなかった/噂で聞いていた/はっきり知っていた)+判例がこの線を決めているという説明 図:「善意」の意義を問う板

  • まったく知らなかった
  • 噂で聞いていた
  • はっきり知っていた
  • 判例がこの線を決めているという説明

以前、“知らなかった”にも段階がある、という話をしましたね。あのとき、まったく落ち度が無い場合と、少しの不注意にとどまる場合を合わせて、一つの呼び方をしました。ここで、その言葉が”効き目”を持ちます。五項の「善意」は、どこまでを守るのでしょうか。実は、争いのある論点です。そして、判例は、善意無重過失だと解しています。ここで、宗教法人法二十四条ただし書についての判例を、一つ見てみましょう。

判例最高裁判所第三小法廷判決 昭和47年11月28日(民集26巻9号1686頁)

宗教法人法二十四条ただし書の「善意」は、無重過失まで求める——ある最高裁判例 ……同条但書は、「善意の相手方又は第三者に対しては、その無効をもつて対抗することができない」と規定するが、同条本文に記載する物件が宗教法人の存続の基礎となるべき重要な財産であり、特殊な利害関係人を多数擁する宗教法人の特性に鑑みるときは、右但書の規定は、善意であつても重大な過失のある相手方又は第三者までも保護する趣旨のものではないと解するのを相当とする。

この判例が実際に判断したのは、宗教法人法という、別の法律の条文についてです。宗教法人法のその条文も、「善意の第三者に対抗できない」という、まったく同じ形の規定なんです。だから、同じ形の規定の解釈として、この判断が五項の解釈にも、そのまま使われています。ここは正確に言っておきたいところです。最高裁が五項そのものを直接判断したわけではありません。中身に戻りましょう。では、なぜ重い落ち度のある人は、守られないのでしょうか。判例は、宗教法人の側にも守るものがある、と見ています。その団体の土台になる大事な財産と、そこに関わる大勢の人たちです。

だから、相手方の落ち度が重いときは、団体の側を優先する。ここは、五項でも同じです。もし、冒頭の業者が「承認が要るらしいですね」と噂で聞いていたら、どうなるでしょうか。もし、そこに重い過失——少し確認すれば分かったのに、まったく確認しなかった、という状況があれば。この業者は、もう五項では守られません。ここまでが、一つ目の規則、契約の場面でした。次は、二つ目の規則に進みます。

内側の思惑も、外の人には見えない——法人の不法行為責任

内と外の板・2回目(法人の枠の内側=理事の本当の狙い/枠の外=被害者の保護者)+保護者は法人に賠償を求められるかという問い 図:内と外の板・2回目

  • 法人の枠の内側=理事の本当の狙い
  • 枠の外=被害者の保護者
  • 保護者は法人に賠償を求められるかという問い

もう一つの場面に入ります。学習塾を運営する、ある法人があります。この法人の理事が保護者たちにこう言いました。「校舎を建てるので、資金を集めます」。保護者たちは、お金を出しました。ところが理事は、そのお金を自分の借金の返済に充てていました。この保護者たちは、法人に賠償を求められるでしょうか。ここで、条文を見てみましょう。

条文一般法人法78条

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第七十八条(代表者の行為についての損害賠償責任) 一般社団法人は、代表理事その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う

理事は、たしかに自分のために動いていました。でも、外から見て、どうでしょうか。保護者たちの目には、「学習塾の理事が校舎建設のための資金を集めている」としか見えません。この「職務を行うについて」は、理事の本当の意図ではなく、外から見た行為の形——外形から客観的に判断されます。理事の内側の思惑——本当は着服目当てだった、という事情も、業者が知らなかった定款の制限と、まったく同じ扱いを受けます。だから、この法人は、保護者たちに賠償する責任を負います。財団のほうも、同じです。一般財団法人には、この七十八条が準用されます。準用というのは、別の場面にその条文を持ってきて、同じように使うことです。代表権の制限についての五項も、同じように準用されます。

同じ規定を、財団にも及ぼしているだけです。

山場——なぜ、法人が払うのか

過失責任の原則との衝突を示す板(原則=落ち度が無ければ責任を負わない/結論=それでも法人は払う)+原則を曲げてまで払わせる理由は何かという問い 図:過失責任の原則との衝突を示す板

  • 原則=落ち度が無ければ責任を負わない
  • 結論=それでも法人は払う
  • 原則を曲げてまで払わせる理由は何かという問い

ここで、一度立ち止まりたいところがあります。以前、民法が立てた三本の柱の一つを見ましたね。「自分に落ち度——過失が無ければ、責任を負わない」という考え方でしたね。では、今の学習塾の場面をもう一度見てください。悪いのは、着服した理事です。法人自身に落ち度はあるでしょうか。うーん……法人自身は何もしていませんよね。定款どおり、普通に運営していただけです。法人自身には落ち度がありません。なのに、法人がこの損害を払います。過失責任の原則と矛盾しないのか。ここが、今日いちばんの問いです。原則を曲げてまで、法人に払わせる理由は何でしょうか。

理事を選んだのは法人だから、という見方は近いところまで来ています。もう一歩進めます。法人は、代表者を通して外の世界で活動し、その活動から利益を受けていますね。契約を結んで、商品を売って、儲けを出す。すべて、代表者が動いて、はじめて成り立ちます。法人は、代表者の活動によって利益を受け取っている以上、そこから出た損も引き受けるべきだ——この考え方を、報償責任の原理と呼びます。だから、法人自身に落ち度が無くても、代表者が職務を行う過程で生じた損害は、法人が賠償するんです。

山場——外形を信じていない人は、守られない

合流の板(善意無重過失なら守られる/悪意・重過失なら守られない)+同じ一本の線の両側という発見 図:合流の板

  • 善意無重過失なら守られる
  • 悪意・重過失なら守られない
  • 同じ一本の線の両側という発見

さっきの場面には、もう一つ続きがあります。もし、保護者の一人が理事から直接こう打ち明けられていたら、どうでしょうか。「実は、集めたお金、自分の借金に使うつもりなんです」。そういう場面を考えてみます。この保護者は、法人に賠償を求められるでしょうか。うーん……知っていたなら、もう”だまされた”とは言えない気がします。ここで、判例を一つ見てみましょう。

判例最高裁判所第二小法廷判決 昭和50年7月14日(民集29巻6号1012頁)

悪意・重過失なら、外形は通らない——ある地方公共団体の判例 地方公共団体の長のした行為が、その行為の外形から見てその職務行為に属するものと認められる場合には、民法四四条一項の類推適用により、当該地方公共団体は右行為により相手方の被つた損害の賠償責任を負うものというべきところ……地方公共団体の長のした行為が、その行為の外形から見てその職務行為に属するものと認められる場合であつても、相手方において、右行為がその職務行為に属さないことを知つていたか、又はこれを知らないことにつき重大な過失のあつたときは、当該地方公共団体は相手方に対して損害賠償の責任を負わないものと解するのが相当である。

この判例が扱ったのは、ある町の町長の行為です。当時の民法四十四条一項——今の一般法人法七十八条の、直接の前身にあたる条文が、類推適用されました。以前、条文の読み方の回で見た、類推です。その条文が直接あてはまる場面ではないけれど、趣旨が同じだから、同じ扱いをする、という読み方でした。町は、当時の民法四十四条一項が、直接あてはまる相手ではありませんでした。この判断の枠組みが、そのまま今の一般法人法七十八条の解釈として、受け継がれています。ここは正確に言っておきます。使用者責任の判例でも、一般法人そのものの事件でもありません。

中身に戻りましょう。外形から見て職務に見える場合でも、相手方がそれを職務外だと知っていたか——または、知らなかったことに、重い過失があったときは、法人は賠償責任を負いません。もう、守られません。理事から直接聞いていた以上、“知っていた”人だからです。ここで、今日の2本の規則が、一つに合流します。五項では、「善意無重過失なら守られる」。七十八条では、「悪意・重過失なら守られない」。言い方は逆ですが、言っていることは同じです。外から見えるものを信じた人だけが守られる。ちなみに、この「外形から見て判断する」という考え方は、使用者責任という制度にも、よく似た形で出てきます。

人を雇う側が、雇われた人の起こした損害を賠償する——それが、使用者責任です。詳しくは、また別の回で扱います。

誰が”法人の顔”なのか

78条の3要件板(代表者性/職務を行うについて=外形標準/代表者自身の不法行為の一般的要件) 図:78条の3要件板

  • 代表者性
  • 職務を行うについて=外形標準
  • 代表者自身の不法行為の一般的要件

一般法人法七十八条には、もう二つ押さえておきたい要件があります。一つ目は、行為をしたのが「代表理事その他の代表者」であることです。具体的な場面で考えてみましょう。法人が、ある一件の土地売買だけを外部の人に頼んだとします。この人が買主をだましました。法人は、一般法人法七十八条で責任を負うでしょうか。実は、負いません。この人は、「代表理事その他の代表者」には当たらないからです。この人は、一件の売買だけを頼まれた、いわば個別の使いです。法人の顔として、外から認識される立場ではありません。外から見て”法人の顔”と言える人に限られます。もう一つの要件は、代表者自身に、不法行為の一般的な要件がそろっていることです。

故意や過失、損害、因果関係といった中身です。詳しくは、また別の回で扱います。ここで大事なのは、代表者自身が個人としても責任を負わないなら、法人も負わない、ということです。そもそも、変える元が無いからです。代表者の行為を法人の行為に変えるのが、この条文の役割でした。そもそも代表者自身の行為が不法行為と言えないなら、変える対象が最初から存在しません。

締め——社員が一人でも、消えない線

解散事由の一覧から4号だけを取り出す板(社員が欠けたこと=ゼロになること)+1人でも線は消えないという確認 図:解散事由の一覧から4号だけを取り出す板

  • 社員が欠けたこと=ゼロになること
  • 1人でも線は消えないという確認

ここまで、法人が外に向かってしたことの話を、してきました。最後に短く、その法人が”終わる”ときの話をしておきます。一定の事由があれば、法人は解散します。一般社団法人の場合、一般法人法百四十八条が定めています。七つほど並んでいますが、今日は一つだけ見ます。

条文一般法人法148条4号

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第百四十八条(解散の事由) 一般社団法人は、次に掲げる事由によって解散する。 (一〜三号・五〜七号は省略) 四 社員が欠けたこと

一つ、言葉を確かめておきます。ここでいう社員は、以前見たとおり、その団体の構成員のことです。そこで働いている人、という意味ではありません。どこが引っかかりましたか。社員が一人になったら解散するのか。そこが、今日最後のひっかけです。「欠けた」というのは、ゼロになることを指します。一人になることでは、ありません。以前、法人格は、団体と、それを作っている人たちの間に引かれる、一本の線だ、という話をしましたね。今日ずっと見てきた、内と外を分ける線とは、別の線です。この線は、社員が一人になっても、まだ消えません。ゼロになって、はじめて消えます。

ちなみに、一般財団法人にも、同じように解散の事由があります。中身は、また別の機会にしましょう。

今日の地図(保存版)

まとめ板(内と外の板2回分+合流の板を1枚に束ねる)+到達点(法人がやったことの範囲は外から見えるところまで) 図:まとめ板

  • 内と外の板2回分
  • 合流の板を1枚に束ねる
  • 到達点(法人がやったことの範囲は外から見えるところまで)

今日、見てきたことをまとめましょう。法人には体がありません。だから、法人がやったことは、いつも代表者という人間の行為を通してしか、現れません。着ぐるみの中の思惑は、外からは見えません。見えるのは、外に現れた動きだけです。定款で決めた内側の制限も——理事が本当は何を考えていたかも——外の人には押しつけられません。ただし、この規則には条件があります。守られるのは、外から見えるものを信じた人だけです。内側を知っていた人——悪意や、重い過失のある人は、もう守られません。そして、法人自身に落ち度が無くても、法人が損害を賠償する理由も見ました。

今日の答えを一つにまとめます。法人がやったことの範囲は、外から見えるところまでです。内側の取り決めも、内側の思惑も、外の人には押しつけられません。ただし、それは、外から見えるものを信じた人のための規則です。この先の話につながる種を、いくつか挙げておきます。代表者が権限の範囲を超えて動いてしまった場面——代理という仕組みの、正面の問題です。代理権の範囲や、代理権の濫用、そして表見代理という考え方も、別の回でじっくり扱います。使用者責任との異同も、また別の回で扱います。今日、配ったのは、この一本の線でした。法人がやったことの範囲は、外から見えるところまで。

参照条文

  • 一般法人法77条4項・5項
  • 一般法人法78条
  • 一般法人法148条4号

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