民法ゼロから民法#23

定款に書いていないことをしたら——34条「目的の範囲」

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第1章 民法総則 ㉓/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

今日の地図(保存版)

今日の地図(法人格の線/権利能力の想起)+線の内側にもう一本の線があるという予告 図:今日の地図(法人格の線/権利能力の想起)+線の内側にもう一本の線があるという予告

最初に、少し前の話を確かめておきます。思い出してください。法人格って、何と何のあいだに引かれた線でしたか?たしか……団体と、それを作っている人たちのあいだの線でした。今日は、その線の内側に、もう一本、細い線がある、という話をします。線を引いてもらった法人は、中で何をしてもいいのか。実は、そうではありません。もう一つ、前に配った言葉を、そのまま使います。権利能力——権利や義務を持てる資格のことでした。この言葉が、今日の話の土台になります。この線は、誰を守るために引かれているのか。今日の地図は、これだけです。

シンプルですが、同じ線が、相手によって姿を変えます。順番に、見ていきましょう。

34条を読む——強い言葉で書かれた条文

定款とは何か(法人の内部ルールブックで外からは見えない)+34条は素直に読むと強い制限に見える 図:定款とは何か

  • 法人の内部ルールブックで外からは見えない
  • 34条は素直に読むと強い制限に見える

法人には、必ず「定款」と呼ばれる文書があります。その法人が何のために作られ、どんな仕組みで動くかを定めた文書です。この定款と、法人の権利義務の関係を定めた条文を見てみましょう。

条文民法34条

民法 第三十四条(法人の能力) 法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。

法人の種類によって、定款を別の名前で呼ぶことがあるだけです。ここでは、定款のことだと思って読んでください。素直に読むと、こう聞こえませんか。目的の範囲を出た瞬間、法人は権利も義務も持てない、と。以前、権利能力という言葉を配りましたね。権利や義務を持てる資格、のことでした。この言葉で言い直すと、こうなります。目的の範囲外では、法人には権利能力が無い。冒頭の会社で言えば、こうなります。定款に政治献金と書いていないなら、その献金は、そもそも会社の行為にならないはずだ——しかも、もう一つ、押さえておきたいことがあります。

34条は、営利法人か非営利法人かを問わず、あらゆる法人に適用される。これが通説です。会社だからといって、条文の外にいるわけではありません。では、この強い制限が、実際にどう働くのか。見ていきましょう。

34条は、法人の何を制限したのか

学説対比板(権利能力制限説/代表権制限説=結論・帰結・理由の3行×2列、帰結を強調) 図:学説対比板

  • 権利能力制限説
  • 代表権制限説=結論・帰結・理由の3行×2列、帰結を強調

ここで一つ、確かめておきたいことがあります。34条は、法人の「何」を制限しているのでしょうか。もう一歩、踏み込みます。目的の範囲を外れたとき、失われるのは何か、という問いです。具体的な場面で、考えてみましょう。ある法人の理事が、目的の範囲外としか読めない契約を結んでしまいました。あとになって、社員総会が「あれで構わない」と決議しました。この契約、生き返ると思いますか。実は、この問いへの答えは、学説によって真っ二つに割れます。まず、通説である権利能力制限説です。34条が制限しているのは、法人の権利能力そのものだと考えます。

この説では、目的の範囲外の行為は、完全に無効です。資格そのものが無い以上、あとから何を決めても、生き返りません。追認しても、だめです。理由は、こうです。法人は、もともと一定の目的のために作られた存在だから。目的の外では、法人という存在そのものが、そこに関われないんです。もう一つは、代表権制限説です。制限されているのは、理事の代表権だけだと考えます。法人に代わって契約を結ぶ、理事の権限のことです。この説では、目的の範囲外の行為は、無権代理として扱われます。権限の無い人が、代わりに契約をしてしまった、という扱いです。詳しい中身は、また別の回で扱います。無権代理なら、法人があとから追認すれば、有効になります。もう一つ、表見代理という仕組みもあります。

権限があるように見える形を、法人の側が作っていたときは、それを信じた相手方が保護される、という考え方です。この説を採ると、生き返る可能性が出てきます。ここに、二つの説の実益があります。そして、代表権制限説には、こういう理由づけがあります。取引の安全です。この言葉の意味は、もう少し先で、正面から効いてきます。覚えておいてください。

営利法人が「目的の範囲外」とされることは、まず無い

判断基準の空欄を判例が埋めた図(34条自身は必要かどうかを説明していない) 図:判断基準の空欄を判例が埋めた図(34条自身は必要かどうかを説明していない)

もう一度、34条を見てください。「目的の範囲内」とだけ、書かれています。では、何が範囲内で、何が範囲外なのか。条文自身は、何も説明していません。この空欄を埋めたのが、判例です。冒頭の、鉄を作る会社の話を思い出してください。これによく似た事件が、実際にありました。この事件で、裁判所が示した基準を見てみましょう。

判例最高裁判所大法廷判決 昭和45年6月24日(民集24巻6号625頁)

八幡製鉄事件——目的の範囲を判断する物差し 「会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有するわけであるが、目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行するうえに直接または間接に必要な行為であれば、すべてこれに包含されるものと解するのを相当とする。そして必要なりや否やは、当該行為が目的遂行上現実に必要であつたかどうかをもつてこれを決すべきではなく、行為の客観的な性質に即し、抽象的に判断されなければならないのである。」

分解しましょう。まず、目的に直接必要な行為だけでなく、間接に必要な行為も含む、とあります。しかも、もう一つ大事な言葉があります。現実に必要だったかは問わない、というところです。実際に必要だったかどうかは、判断の材料に入りません。行為の性質に照らして、客観的・抽象的に判断する、とされています。カードの一行目です。「目的の範囲内において権利能力を有する」と書かれていますね。判例は、通説と同じ、権利能力の側の言葉で判断しています。政党への献金も、会社の経営を円滑にする、間接の効果はあります。この事件でも、政党への献金は、目的の範囲内と判断されました。

株主の訴えは、認められませんでした。もう一つ、別の場面でも確かめてみましょう。定款の目的に、ソフトウェアの開発とだけ書いてある会社があります。この会社が、社員が住むための集合住宅を、一棟買いました。直接必要とは、言いにくいですね。でも、人を集めて働いてもらうためには、間接に必要と言えます。だから、営利法人が目的の範囲外とされることは、まず無いんです。条文の見た目は強い制限でしたが、実際の運用は、ほとんど制限になっていません。

なぜ、そこまで緩めるのか

目盛りの板・1回目(取引の相手方⇔構成員/針は営利法人側に振り切れる) 図:目盛りの板・1回目(取引の相手方⇔構成員/針は営利法人側に振り切れる)

ここで、一つ聞いてみます。なぜ、ここまで緩めるんでしょうか。活動を邪魔したくない、という見方は近いですが、もう一歩踏み込めます。定款という文書について、考えてみてください。契約する相手は、その定款を、いちいち取り寄せたりしません。もし目的外の契約をすべて無効にしてしまったら、どうなるでしょうか。それでは、安心して会社と取引できません。だから、判断基準を緩めて、契約する相手を守っているんです。ここで、正面から効いてきました。34条を緩く読むのは、条文をないがしろにしているのではありません。条文の外にいる人を、守っているんです。

この関係を、一本の目盛りで考えてみましょう。左端が、取引の相手方を守る側。右端が、構成員を守る側です。営利法人の判断基準は、この目盛りの、左端いっぱいに振り切れています。右端に振れる場面も、あります。次に、その話をします。

針が逆に振れる場面——非営利法人の場合

営利/非営利の判断基準の対比板(判断の緩さ・基準の文言・具体例) 図:営利/非営利の判断基準の対比板(判断の緩さ・基準の文言・具体例)

非営利法人にも、同じ34条が適用されます。ただし、その読み方が正反対になります。物差しの言葉そのものは変わりません。目的を果たすうえで、直接または間接に必要か。変わるのは、その「必要」をどこまで広く取るかです。営利法人では、限界まで広く取りました。ここでは、うんと狭く取ります。代表的な例が、員外貸付けです。組合や金庫のような非営利法人が、会員でない人に、お金を貸してしまうことです。この員外貸付けは、判例上、目的の範囲外として、無効とされています。ここで、目盛りを、もう一度見てください。

目盛りの板・2回目(針が構成員側へ動く) 図:目盛りの板・2回目(針が構成員側へ動く)

貸したお金は、もともと、会員が出し合った財産です。それが、目的から外れた相手に流れてしまえば——損をするのは、その仲間たちです。針が、右端まで振り切れます。この結論は、農協の員外貸付けをめぐる事件でも、労働金庫の事件でも、同じでした。ただ、労働金庫の事件には、もう一つ、面白い続きがあります。

無効を言い出せるのは、誰か

労働金庫事件の構図(貸付は無効/でも借主本人はそれを言えない) 図:労働金庫事件の構図(貸付は無効/でも借主本人はそれを言えない)

労働金庫が、会員でない人に、お金を貸しました。この人は、担保として、自分の不動産に抵当権を設定しました。ところが、この人は、あとになってこう主張しました。「貸付けは目的の範囲外で無効だ。だから担保も無効だ」と主張したんです。この主張、通ると思いますか。実際の判決を、見てみましょう。

判例最高裁判所第二小法廷判決 昭和44年7月4日(民集23巻8号1347頁)

労働金庫事件——無効、それでも言えない人がいる 「労働金庫法が五八条においてその事業の範囲を明定し、その九九条において役員の事業範囲外行為について罰則を設けていること、同法がその会員の福利共済活動の発展およびその経済的地位の向上を図ることを目的としていることに鑑みれば、労働金庫におけるいわゆる員外貸付の効力については、これを無効と解するのが相当であつて」 「……上告人としては、右債務を弁済せずして、右貸付の無効を理由に、本件抵当権ないしその実行手続の無効を主張することは、信義則上許されないものというべきである。」

「上告人」というのは、ここでは、お金を借りた本人のことです。この判決は二段構えです。必ず両方セットで、覚えてください。片方だけだと、逆の意味に伝わってしまいます。一段目。貸付けそのものは、無効です。ここまでは、さっきの話と同じです。二段目です。ここで、信義則が働きます。借りた本人は、担保の実行まで無効だとは、主張できません。ここで、信義則を思い出してください。

条文民法1条2項

民法 第一条(基本原則)第二項 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

相手の正当な期待を裏切らない、という原則でしたね。この人は、お金を借りて、担保まで差し出しました。それなのに、都合が悪くなったら「無効だ」と言い出したんです。この無効というルールは、誰のためにありましたか。さっきの話だと……構成員を守るためのものでした。借りた本人を守るためのルールでは、ありません。だから、借りた本人が、自分の借金を帳消しにするために——このルールを持ち出すことは、許されないんです。制度が誰を守っているかを無視した主張は、通りません。ここで、以前の話を一つ思い出してください。無効には、誰でも言えるものと、守られる側だけが言えるものがありましたね。

今日のこれは、その並びとは、少し違う形です。あのときは、制度そのものが、最初から言える人を絞っていました。今日は違います。言える立場なのに、その人の口だけが、信義則でふさがれます。ここは混ぜないでください。金庫や会員の側からどうなるかは、この判決が答えていない部分です。判断したのは、借りた本人からの主張についてだけです。

非営利法人の中にも、割れ目がある

2判例の対比板(南九州税理士会/群馬司法書士会=事案・結論・分岐点) 図:2判例の対比板(南九州税理士会/群馬司法書士会=事案・結論・分岐点)

非営利法人だから、いつも厳格に判断されるわけでもありません。ある専門職の団体をめぐる、二つの事件を見てみましょう。一つ目は、税理士会が、税理士の政治連盟にお金を寄付した事件です。税理士の業界が作った、政治活動のための団体です。法律上は政治団体にあたります。そこが、この事件のいちばん面白いところです。身内の団体なら、税理士会の目的に沿っているとも言えそうですよね。実際、二審の裁判所は、その理由で目的の範囲内としました。そしてこの税理士会は、会員になることが法律で義務づけられていました。いわゆる、強制加入の団体です。

判例最高裁判所第三小法廷判決 平成8年3月19日(民集50巻3号615頁)

南九州税理士会事件——会社と同じには測れない 「税理士会は、会社とはその法的性格を異にする法人であって、その目的の範囲については会社と同一に論ずることはできない。……税理士会は、以上のように、会社とはその法的性格を異にする法人であり、その目的の範囲についても、これを会社のように広範なものと解するならば、法の要請する公的な目的の達成を阻害して法の趣旨を没却する結果となることが明らかである。」

税理士会は、会員が自分の意思で入る団体ではありません。しかも、政治団体にお金を出すかどうかは——会員一人一人の、政治的な考え方に関わる問題です。そのうえで最高裁は、相手が身内の政治連盟でも同じだ、と言いました。身内でも、だめです。政治団体である以上、広く政治活動をすることが当然に予定されているからです。その先で何に使われるかまでは、税理士会には決められません。だから、この寄付は、目的の範囲外とされました。では、次の事件です。震災のあと、ある司法書士会が、被災地の司法書士会に、拠出金を送りました。

ところが、この拠出金は、範囲内とされました。

判例最高裁判所第一小法廷判決 平成14年4月25日(集民206号233頁)

群馬司法書士会事件——同業者支援は範囲内 「司法書士会は、司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするものであるが(司法書士法14条2項)、その目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で、他の司法書士会との間で業務その他について提携、協力、援助等をすることもその活動範囲に含まれるというべきである。 そして、3000万円という本件拠出金の額については、それがやや多額にすぎるのではないかという見方があり得るとしても、阪神・淡路大震災が甚大な被害を生じさせた大災害であり、早急な支援を行う必要があったことなどの事情を考慮すると、その金額の大きさをもって直ちに本件拠出金の寄付が被上告人の目的の範囲を逸脱するものとまでいうことはできない。したがって、兵庫県司法書士会に本件拠出金を寄付することは、被上告人の権利能力の範囲内にあるというべきである。」

「被上告人」というのは、ここでは司法書士会のことです。この司法書士会も、強制加入の団体です。そこは、税理士会と同じです。同じ強制加入の団体で結論が割れる。そこが、今日、一番細かい分岐点です。強制加入かどうかでは、決まりません。支出の中身が、会員一人一人の、思想や信条に関わる政治的な選択かどうかです。政治団体へお金を出すことは、まさにそこに関わります。会員それぞれが、自分で決めるべき事柄だからです。震災の支援は、違います。同業者を助けるための支援は、政治的な立場とは関係ありません。むしろ、司法書士会という団体の存在目的そのものに、沿っています。

ここで、目盛りを、もう一度見てみましょう。

目盛りの板・3回目(税理士会は構成員側のさらに奥、司法書士会はやや右寄りだが範囲内で分岐) 図:目盛りの板・3回目

税理士会の政治献金は、この目盛りの、右端のさらに奥まで振れました。個人の政治的な考え方は、それだけ強く守られるべきものだからです。司法書士会の震災支援は、同じ非営利法人でも、そこまでは振れませんでした。同じ強制加入団体でも、お金の使い道次第で、目盛りは動くんです。

一本の目盛りに、束ねる

まとめ板(目盛り軸に営利法人・員外貸付け・税理士会・司法書士会の4点を並べる) 図:まとめ板(目盛り軸に営利法人・員外貸付け・税理士会・司法書士会の4点を並べる)

今日、見てきたことを、一つにまとめましょう。34条の「目的の範囲」は、法人ができることの限界ではありません。取引の相手方と、構成員の、どちらをどれだけ守るかを決める、一本の目盛りです。定款は外から見えないから、契約する相手を守っていました。員外貸付けは、構成員の財産を守るために、無効とされていました。税理士会の政治献金は、目盛りの一番奥まで振れました。そして、無効を言い出せる人まで、信義則が最後に絞ります。今日、配ったのは、この一本の目盛りです。この目盛りの読み方は、この先の話にもつながります。

法人ができることの範囲は、今日、見ました。では、代表者が実際にやってしまったことは、法人に効くのでしょうか。あっ……範囲の話とは、また別の問題ですね。代表者がやってしまったことの話は、今日はしません。ほかにも、無効を誰が主張できるのか、追認できるのかという話。無権代理や表見代理の詳しい中身も、別の回で扱います。

参照条文

  • 民法34条
  • 民法1条2項

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