民法ゼロから民法#43

法定追認125条と期間制限126条

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第1章 民法総則 ㊶/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

代金を受け取ってしまった

Aはだまされて絵画を安く売らされたと気づいた後にその契約の代金を受け取ってしまった/もう取り消すとは言えないのか/一言も追認するとは言っていないのに

  • Aはだまされて絵画を安く売らされたと気づいた後にその契約の代金を受け取ってしまった
  • もう取り消すとは言えないのか
  • 一言も追認するとは言っていないのに

結論から言うと、Aはもう取り消せません。「追認する」と言わなくても、行動が意思の代わりになる仕組みが、民法にはあるからです。なぜそうなるのか、その仕組みから見ていきます。最後に、もう一度この場面へ戻ります。

残っているのは、あと1つ

5軸の一覧板(①主張の要否②主張権者③期間制限④追認⑤時の効力/無効|取消しの2列、③だけが空欄) 図:5軸の一覧板(③だけが空欄)

  • ①主張の要否②主張権者③期間制限④追認⑤時の効力
  • 無効|取消しの2列、③だけが空欄

前回、この表の右の列——取消しの列を、③期間制限を残してほとんど埋めました。①取消しの意思表示が必要、②取消権者だけが言える、④追認できる、⑤遡及的無効です。③の期間制限だけが、まだ空いています。今日は、その③を埋めます。ただ、その前にもう1つ、追認には別の形があることを見ておきます。今日の道のりは、追認のもう1つの形と、期間の話です。この2つで、取消権が宙に浮いたままにならない仕組みが、全部そろいます。

行動が、意思の代わりになる——125条の意義

追認の2つの形を並べる板(122条=意思表示による追認/125条=行動があれば意思を問わず追認とみなす=法定追認) 図:追認の2つの形を並べる板

  • 122条=意思表示による追認
  • 125条=行動があれば意思を問わず追認とみなす=法定追認

前回見た122条の追認は、追認する、という意思表示でした。取消権者が、自分の口で「もういい」と言う行為です。ですが、放棄の意思をいちいち言葉にしなくても、放棄したのと同じ扱いになる場合があります。取消権者が、追認する気があったかどうかを問わず、法律上当然に追認があったものとみなされる場合です。これを、法定追認といいます。

条文民法125条

民法 第百二十五条(法定追認) 追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。 一 全部又は一部の履行 二 履行の請求 三 更改 四 担保の供与 五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡 六 強制執行

事実があれば、それだけで追認したものとして扱われます。取消権者の内心を確かめる余地はありません。趣旨は2つです。1つは、相手方の信頼を守ることです。取消権者が契約を前提に動いたのを見た相手方は、もう取り消されないと信じます。その信頼を裏切らないためです。もう1つは、法律関係を早く安定させることです。宙に浮いた状態を、いつまでも続けさせません。法定追認の効果は、122条の追認と同じです。追認したものとみなされた以上、以後は取り消せません。確定的に有効になります。行き着く先は同じで、そこにたどり着く経路が、意思表示か、行動かで分かれているだけです。

6つの号を、1本の物差しで読む

①履行と②履行の請求を「取消権者が動いたか」で読む板(①=取消権者の履行も相手方の履行の受領も成立/②=取消権者からの請求に限る) 図:①履行と②履行の請求を「取消権者が動いたか」で読む板

  • ①=取消権者の履行も相手方の履行の受領も成立
  • ②=取消権者からの請求に限る

覚える数は、1つです。取消権者が、その契約を前提にして、自分から動いたと言えるか。この物差し1本で、6つ全部が説明できます。1号から順に見ていきます。1号は、履行です。AとBの絵画の契約に当てはめます。Aが絵画を渡す義務を果たしても、法定追認になります。ですが、それだけではありません。相手方Bの履行を、Aが受け取った場合も、1号に入ります。

判例大判昭和8年4月28日 民集12巻1040頁

履行には、取消権者が相手方の履行を受け取った場合も含まれる この事案では、取消権者が相手方から履行として代金の支払を受け取った行為も、125条1号の履行にあたるとされた。

受け取るのも、契約を前提に動いたことに変わりありません。渡す側でも、受け取る側でも、契約を前提に自分から動けば、それで1号にあたります。2号は、履行の請求です。ここは、取消権者からの請求に限られます

判例大判明治39年5月17日 民録12輯837頁

履行の請求は、取消権者みずからが請求した場合に限られる この事案では、125条2号の履行の請求は、取消権者みずからが相手方に請求した場合に限られ、相手方から請求を受けただけでは法定追認にならないとされた。

物差しに戻ってください。Aが「代金を払ってください」とBに請求すれば、Aが自分から動いています。ですが、Bが「絵を早く引き渡してくれ」とAに請求しただけなら、動いたのはBで、Aは何もしていません。物差しに照らせば、当然の結論です。

法定追認6類型のつづき(③更改=取消権者が債権者としても債務者としても成立/④担保の供与=取消権者が供与しても相手方から受けても成立) 図:法定追認6類型のつづき

  • ③更改=取消権者が債権者としても債務者としても成立
  • ④担保の供与=取消権者が供与しても相手方から受けても成立

3号は、更改です。AとBが合意して、代金債務を、分割払いの新しい債務に置き換えたとします。これは双方向です。Aが債権者としてした場合も、債務者としてした場合も、更改を持ちかけた時点でAは動いています。4号は、担保の供与です。ここは1号と同じ構造で、Aが担保を供与した場合も、Bから担保の供与を受けた場合も、どちらも4号に入ります。担保の供与は、受ける側でもかまいません。Bから抵当権の設定を受け入れれば、Aはその契約が有効に続くことを前提に、担保を受け取る側に回っています。1号の受領と同じ理屈です。

法定追認6類型のつづき(⑤取得した権利の譲渡=取消権者の譲渡に限る/⑥強制執行=取消権者が取り立てる側のときだけ) 図:法定追認6類型のつづき

  • ⑤取得した権利の譲渡=取消権者の譲渡に限る
  • ⑥強制執行=取消権者が取り立てる側のときだけ

5号は、取得した権利の譲渡です。ここは、Aが譲渡した場合に限られます。Aが、この契約で取得した代金債権を、第三者Cに譲渡すれば5号です。ですが、Bが絵画を勝手にCへ転売しても、それはBの行為であって、Aとは関係がありません。6号は、強制執行です。裁判所の手続を使って、相手方の財産から強制的に取り立てることですね。ここも、取り立てにかかったのがAの側であるときだけです。Aが代金債権について強制執行をかければ、6号です。ですが、Aが債務者として、絵画の引渡義務を強制執行された側なら、Aは動いていません。この号は、条文の文言だけで説明がつきます。強制執行という言葉を、取消権者の側の行為と読めば足ります。

混ざって見えるのは、丸暗記しようとしているからです。1号と4号は、受け取ることそのものが、契約を前提に動く行為です。2号、5号、6号は、相手方の行為はAにとって受け身でしかなく、Aが動いたことにはなりません。3号は、どちらから持ちかけても双方が動きます。全部、同じ物差しで説明できます。

論文で書く規範:法定追認の物差し——取消権者が、契約を前提に自分から動いたと言えるか ①履行=取消権者の履行も相手方の履行の受領も○②履行の請求=取消権者からの請求に限る③更改=双方向○④担保の供与=取消権者が供与しても相手方から受けても○⑤権利の譲渡=取消権者の譲渡に限る⑥強制執行=取消権者が取り立てる側のときだけ (125条6類型の物差し)

この物差しを、境界の1組で確かめておきます。Aが、Bから代金を受け取った場合は、法定追認になります。取消権者であるA自身が、契約を前提に動いているからです。逆に、BがAに「代金を払ってくれ」と請求しただけの場合は、なりません。動いたのはBで、Aは何もしていないからです。同じ「代金」という言葉が出てきても、動いたのが誰かで結論が分かれます。受け取ったか、請求されただけか。その一点だけで、法定追認になるかどうかが変わります。

いつから、何を告げれば止まるのか

125条の要件を時系列で示す板(①法定追認事由の発生②追認をすることができる時以後であること=柱書本文③異議をとどめていないこと=ただし書) 図:125条の要件を時系列で示す板

125条には、6類型のほかに、要件がもう2つあります。1つは、時期です。柱書の「追認をすることができる時以後」という部分です。125条柱書の「追認をすることができる時」は、124条で見たものと同じ物差しです。取消しの原因となっていた状況が消滅した後、という意味です。未成年者Cが、17歳のうちに親に黙ってゲーム機を買う契約を結んだとします。Cが18歳になる前に、相手方の引渡しを受け取っても、法定追認にはなりません。Cはまだ17歳で、取消しの原因となっていた状況——未成年であること——が消えていないからです。

Cがまだ17歳のうちに、法定代理人が代わりにその引渡しを受け取れば、法定追認になります。判断できる人がすでに関与しているからです。前回、124条2項の例外で見たのと同じ理屈です。もう1つの要件は、ただし書です。取消権者が異議をとどめていないこと。履行はするけれど、「取り消す権利は残しておきます」と、相手方にはっきり告げることです。Aが、Bから代金を受け取るときに「この契約を取り消す権利は、まだ残しておきます」と一言伝えていれば、代金を受け取っても法定追認にはなりません。告げていなければ、擬制が働きます。

124条の要件、覚えていますか

124条の要件2つを再掲する板(①取消しの原因となっていた状況が消滅した後②取消権を有することを知った後) 図:124条の要件2つを再掲する板

ここで、前回の内容を1つ確認しておきたいのですが、124条で見た追認の要件は、何が2つありましたか?1つは、取消しの原因となっていた状況が消滅した後であること。もう1つは、取消権を有することを知った後であること、でした。その2つめを、今日はもう一度使います。

知らなくても、法定追認になる——122条との弁別

122条の追認と125条の法定追認の弁別板(追認の意思=122条必要・125条不要/取消権を知っていること=122条必要・125条不要/取消原因消滅後であること=両方必要/異議の留保=125条のみ/効果=両方確定的有効) 図:122条の追認と125条の法定追認の弁別板

  • 追認の意思=122条必要・125条不要
  • 取消権を知っていること=122条必要・125条不要
  • 取消原因消滅後であること=両方必要
  • 異議の留保=125条のみ
  • 効果=両方確定的有効

ここが、今日いちばんの持ち帰りです。124条は、追認するには、取消権を有することを知った後でなければならない、としていました。では、125条の法定追認にも、同じことが要るでしょうか。125条の要件には、取消権を知っていることは出てきません。そして、判例の立場もそうです。法定追認には、取消権を有することを知っている必要はありません。

判例大判大正12年6月11日 民集2巻396頁

取消権を有することを知らなくても、法定追認は成立する この事案では、125条の法定追認は、取消権者が取消権を有することを知っていたかどうかを問わず成立するとされた。

124条とは正反対です。ここは必ず対比してください。122条の追認は、取消権という権利の放棄です。前回、返品期限のついた「これでいいです」ボタンに例えましたね。捨てる権利があると知らずには、捨てられません。だから、知っていることが要件になります。125条の法定追認は、違います。内心の放棄ではなく、相手方から見た外形に対する信頼を保護する制度です。相手方は、取消権者の内心の認識までは見えません。契約を前提に動いた、という外に出た事実だけを見て、もう取り消されないと信じます。だから、内心での認識も問わないんです。

取消権に気づかないまま代金を受け取っても、法定追認になります。気づいていたかどうかは関係ありません。動いたという事実だけで、擬制が働きます。ただ、1つだけ触れておきます。取り消せると分かってから動いたのでなければ法定追認とは言えない、と考える立場も有力です。ここでは、判例の立場を軸に押さえておいてください。

動かなくても、時間が消していく——126条

126条の趣旨板(取り消せる行為は一応有効/取消しの意思表示があれば遡及的に無効になる/取消権がいつまでも残ると法律関係が不安定) 図:126条の趣旨板

  • 取り消せる行為は一応有効
  • 取消しの意思表示があれば遡及的に無効になる
  • 取消権がいつまでも残ると法律関係が不安定

③期間制限に入ります。制限行為能力者の相手方を守る回で、期間制限には一度だけ触れました。今日がその本体です。取り消せる行為は、取り消されるまでは、一応有効です。前回見たとおり、取消しの意思表示があれば、遡って無効になります。この状態が、いつまでも続くとどうなるでしょうか。相手方は、いつまでも不安定なままですね。取消権がいつまでも残ると、法律関係が極めて不安定になります。だから、期間で区切ります。

条文民法126条

民法 第百二十六条(取消権の期間の制限) 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

2つの数字は、起算点が違います。5年は、追認をすることができる時から。20年は、行為の時からです。

126条5年・20年の起算点を並べたタイムライン板(行為の時→取消原因の消滅=追認をすることができる時→5年/行為の時→20年/成年被後見人が回復しないまま20年経過する例) 図:126条5年・20年の起算点を並べたタイムライン板

  • 行為の時→取消原因の消滅=追認をすることができる時→5年
  • 行為の時→20年
  • 成年被後見人が回復しないまま20年経過する例

5年は、本人が「取り消せると分かって、自分で動ける状態」になってからの猶予です。未成年者なら行為能力者になった時、だまされたり脅されたりした人ならその状態を脱した時。それに加えて、取り消せると知った後であることも要ります。両方がそろって、はじめて5年が動き出します。20年は、本人の事情とは無関係に、法律関係を切る上限です。行為の時から数えます。20年の上限が効いてくるのは、成年被後見人が、判断力を回復しないまま20年が経過した場合です。この人は、まだ「取り消せると分かって動ける状態」になっていません。5年の起算点は、始まってすらいません。それでも、行為の時から20年が経てば、取消権は消えます。本人がまだ判断できない状態でも、です。

本人にとって厳しい結果であることは、そのとおりです。ですが、相手方を含めた法律関係を、本人の事情とは無関係にいつかは確定させる必要があります。その役割を、20年という上限が担っています。

126条と消費者契約法7条1項の期間対比表(126条=追認をすることができる時から5年・行為の時から20年/消費者契約法7条1項=追認をすることができる時から1年・契約締結の時から5年) 図:126条と消費者契約法7条1項の期間対比表

  • 126条=追認をすることができる時から5年・行為の時から20年
  • 消費者契約法7条1項=追認をすることができる時から1年・契約締結の時から5年

消費者契約法の取消権にも、期間制限があります。消費者契約法7条1項です。追認をすることができる時から1年、契約締結の時から5年でした。民法の126条より、ずっと短いですね。5年に対して1年、20年に対して5年です。なぜここまで短くするか、理由は当時も見たとおりです。消費者契約は大量かつ定型的に結ばれるので、事業者の側をいつまでも不安定な立場に置けません。だから、民法よりも早く区切ります。同じ「取消権の期間制限」でも、誰を保護する制度かによって、切り方の厳しさが変わります。

126条の法的性質を整理する板(条文の文言=時効によって消滅する=消滅時効の体裁/取消権は行使すれば直ちに効果が生じるため時効の完成猶予を観念しにくい/除斥期間と解する見解が通説) 図:126条の法的性質を整理する板

  • 条文の文言=時効によって消滅する=消滅時効の体裁
  • 取消権は行使すれば直ちに効果が生じるため時効の完成猶予を観念しにくい
  • 除斥期間と解する見解が通説

126条には、もう1つ、押さえておきたい点があります。条文は「時効によって消滅する」と書いていますね。文言のとおり読めば、消滅時効です。なぜ争いになるのか、そこを考えてみてください。時効には、権利を行使できない事情があるとき、完成を先延ばしにする仕組みがあります。ですが、取消権は、行使すればその瞬間に効果が生じる権利です。行使を妨げる事情、という場面自体が想定しにくいんです。そこで、126条の期間制限は、除斥期間と解する見解が通説です。除斥期間というのは、行使を妨げる事情をいっさい考慮せず、決められた期間が満了すれば当然に権利が消える、という区切り方です。除斥期間と消滅時効の違いそのものは、また別の回でまとめて扱います。今日は、条文の文言は消滅時効の体裁でも、その中身をめぐって争いがある、という一点だけ持ち帰ってください。

表が、完成する

5軸の一覧板を両列そろえて再掲(①主張の要否②主張権者③期間制限④追認⑤時の効力/無効|取消し・今日③を埋めて完成) 図:5軸の一覧板を両列そろえて再掲

  • ①主張の要否②主張権者③期間制限④追認⑤時の効力
  • 無効|取消し・今日③を埋めて完成

③を埋めます。取消権には、2つの時計がついています。5年の時計と、20年の時計です。どちらかが先にゼロになった時点で、取消権は消えます。5年の起点は追認をすることができる時、20年の起点は行為の時でしたね。これで、無効の回から3回かけて作ってきた表が、両方の列とも埋まりました。宙に浮いた取消権は、3つの道のどれかで終わります。1つ、自分で「もういい」と言って終わらせる、122条の追認。2つ、言わなくても行動で終わったことにされる、125条の法定追認。3つ、動きも言いもしないまま時間が経って消える、126条の期間制限。今日見たのは、この2つめと3つめです。

Aは、詐欺に気づいたあとで、Bからその契約の代金を受け取りました。これは、125条1号の履行にあたります。相手方の履行を受け取る行為も、1号に入るからです。Aが「取り消す権利は残しておきます」と告げていなければ、異議をとどめたことにならず、法定追認が成立します。「追認する」と一言も言っていなくても、成立します。契約を前提に、自分から動いてしまった以上、もう取り消せません。最後に、もう一度確認します。Aが、Bから代金を受け取りながら、その場で「取り消す権利は残しておきます」と告げていたら、法定追認は成立しますか?

成立しません。異議をとどめたことになるので、125条ただし書によって、擬制が働かないからです。行動そのものより先に、その一言があったかどうかが、最後の分かれ目になります。

参照条文

  • 民法125条
  • 民法126条

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