民法ゼロから民法#42

取消権者120条と追認124条

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第1章 民法総則 ㊵/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

どの「取消し」の話なのか

一般的取消し/特殊的取消しの対比板(一般的取消し=制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫/特殊的取消し=詐害行為取消権・754条)

  • 一般的取消し=制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫(120条以下が適用される)
  • 特殊的取消し=詐害行為取消権・754条(120条以下は適用されない)

120条に入る前に、1つ釘を刺しておきます。「取消し」という言葉は、実は複数の制度を指します。120条以下が適用されるのは、一般的取消しと呼ばれるものだけです。制限行為能力、錯誤、詐欺、強迫を理由とする取消しがこれにあたります。一般的取消し以外の取消しもあります。借金を抱えた人が財産を逃がしたときに債権者がそれを取り消す詐害行為取消権や、夫婦間の契約の取消しです。これらは特殊的取消しと呼ばれ、120条以下は適用されません。詐害行為取消権の中身は、別の回で扱います。無権代理行為の取消しにも、120条以下は適用されません。取消しは本来、一応有効な行為を遡って無効にする行為です。ですが無権代理行為の取消しは、もともと無効な行為の無効を確定させて、本人があとから認めて有効にする権利——追認権を奪う行為です。性質が違います。

代理権の無いBが、Aの代理人だと名乗ってCと契約した場合です。この契約はもともと効力がありません。Cがする取消しは、有効なものを壊す行為ではなく、Aがあとから追認する道を閉じる行為です。だから120条以下の枠には入りません。今日この先で扱うのは、一般的取消しだけです。

取消しは、取り消す側に不利益を生まない——120条

120条1項の取消権者4種の板(①制限行為能力者本人②代理人③承継人④同意権者=保佐人・補助人/本人が単独で取り消せる理由=取り消す側に新たな不利益を生まない) 図:120条1項の取消権者4種の板

  • ①制限行為能力者本人②代理人③承継人④同意権者=保佐人・補助人
  • 本人が単独で取り消せる理由=取り消す側に新たな不利益を生まない

②主張権者を埋めます。誰が取り消せるのか——冒頭の、17歳のAが親に黙って中古バイクを買った設例で言えば、取り消すと言えるのは親だけなのか、という問いです。条文は120条です。

条文民法120条

民法 第百二十条(取消権者) 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。 2 錯誤詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

1項は、制限行為能力を理由とする取消しです。取消権者は、本人、代理人、承継人、同意権者の4種類です。同意権者というのは、保佐人と、同意が要る旨の審判を受けた場合の補助人のことです。被保佐人の回と、被補助人の回で会った人たちです。13条1項の10個の行為に同意していたのが保佐人、審判で決まった範囲に同意していたのが補助人でした。同意を出す立場だったから、その契約を取り消す権利も持っています。ここが今日いちばんの持ち帰りです。なぜ本人も単独で取り消せるのか、理由は1つです。取消しは、取り消す側に新たな不利益を生みません。

契約を結ぶ場面では、保護者の同意なしに単独で契約すると、不利な条件を押しつけられる危険があります。だから同意が要ります。でも取消しは逆に、その契約を無かったことにする行為です。取り消して損をすることはありません。だから保護者の同意なしに、単独で確定的に取り消せます。ただし1つだけ、例外があります。成年被後見人は、他の制限行為能力者と違って、単独でした行為なら何であれ取り消しうる、というのが9条本文の建前でした。では、その人が「取り消す」と言ったら、それで確定するでしょうか。成年被後見人も、取消権者ではあります。ただ、「取り消す」と言うこと自体が、1つの意思表示です。成年被後見人が単独でした意思表示である以上、さっきの9条本文がここにも及びます。だから、その取消しの意思表示は不確定的に有効にとどまり、それ自体をさらに取り消すことができる、という扱いになります。

成年被後見人だけは、他の制限行為能力者と少し違う扱いになります。

1項の内側の3つの注意点(成年被後見人=取消しの意思表示は不確定的有効/承継人=包括承継人・契約上の地位の譲受人は入る、目的物だけの譲受人は入らない/かっこ書=他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為) 図:1項の内側の3つの注意点

  • 成年被後見人=取消しの意思表示は不確定的有効
  • 承継人=包括承継人・契約上の地位の譲受人は入る、目的物だけの譲受人は入らない
  • かっこ書=他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為

承継人にも、範囲があります。相続人のように、その人の立場をまるごと引き継いだ人——包括承継人と、契約上の地位を譲り受けた者は含まれます。ですが、目的物だけを譲り受けた者は含まれません。これは通説です。取消権は、契約という立場にくっついて動く権利であって、物にくっついて動く権利ではないからです。Aが買ったバイクだけを誰かに譲っても、その人は取消権までは受け継ぎません。もう1つ、1項のかっこ書きにも触れておきます。制限行為能力者が、他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、その他の制限行為能力者も取消権者に含まれます。

16歳のDの唯一の親権者Fが、被保佐人だったとします。Fが親権者としてDを代理してした行為は、Fだけでなく、D自身も取り消せます。

120条2項の取消権者(瑕疵ある意思表示をした者/代理人/承継人)=1項との違いは同意権者が無いことだけ

2項は、錯誤、詐欺、強迫を理由とする取消しです。取消権者は、瑕疵ある意思表示をした者、その代理人、承継人です。1項との違いは、同意権者が無いことだけです。同意権者は、制限行為能力者を保護する制度の一部です。錯誤や詐欺、強迫は制限行為能力とは関係なく起きるので、同意権者という発想がそもそも要りません。

保証人の履行拒絶(457条3項)の関係図(A詐欺により契約→B主債務→Cは保証人/主債務者が取消権を行使すれば免れる限度でCは履行拒絶できる)

120条には、実は出てこない人がいます。保証人です。保証人は取消権を持ちません。120条のどこにも、保証人は出てきません。ただし、黙って払わされるわけでもありません。457条3項に、履行拒絶の抗弁権があります。主債務者が取消権を持っているなら、その取消権の行使によって主債務者が債務を免れるはずの限度で、保証人は履行を拒めます。Aが詐欺にあって、Bと500万円の契約を結んだとします。Cがその保証人になっていて、うち450万円分がAの詐欺による意思表示だったとしたら、Cは、Bから450万円分の履行を求められても、その限度で拒めます。

取消権を持つのは、あくまで主債務者です。保証人は、その取消権が行使されたら自分も助かる範囲だけ、先取りして拒める、という設計です。保証の本体は、別の回で扱います。1項も2項も保証人も、たどり着く先は同じです。取消しは、取り消す側に新たな不利益を生まない。だから言える人は絞られ、その人は単独で言えます。

取消しの意思表示は、誰に言うのか

123条の要旨板(相手方が確定している場合はその相手方に意思表示/裁判外でよい/転得者は含まない) 図:123条の要旨板

  • 相手方が確定している場合はその相手方に意思表示
  • 裁判外でよい
  • 転得者は含まない

①主張の要否を埋めます。無効は、主張しなくても当然に無効でした。取消しはどうでしょうか。

条文民法123条

民法 第百二十三条(取消し及び追認の方法) 取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消し又は追認は、相手方に対する意思表示によってする。

取消しは、意思表示が必要です。相手方が確定している場合は、その相手方に対して取消しの意思表示をします。取消しの意思表示に裁判は要りません。裁判外でもよい、という点も押さえてください。無効が「主張しなくても当然」だったのと対比すると、取消しは「言わなければ効果が生じない」という違いが際立ちます。契約は有効なままです。Aが店に「あの売買を取り消します」と伝えて、初めて効果が生じます。手紙1通でもかまいません。黙っていれば、バイクの売買はそのまま生きています。ただし、転売された先の人は含まれません。

判例大判大正14年3月3日 民集4巻90頁

転得者は「相手方」に含まれない この事案では、制限行為能力者Aが物をBに売り、BがそれをさらにCに転売していても、Aが取消しの意思表示をする相手は契約の相手方Bであり、転得者Cには含まれない。

BがCに転売していても、Aが取り消すときに言う相手はBです。取消しは、自分が結んだ契約を壊す意思表示だからです。契約を結んでいないCに言っても、壊す相手がいません。Cの手元に残った物をどうするかは、第三者保護の規定で別に決まります。

取り消すと、最初から無かったことになる——121条

遡及的無効の説明板(取り消されるまでは有効/取消しによって最初から無かったことになる/無効との対比) 図:遡及的無効の説明板

  • 取り消されるまでは有効
  • 取消しによって最初から無かったことになる
  • 無効との対比

⑤時の効力を埋めます。

条文民法121条

民法 第百二十一条(取消しの効果) 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。

取り消された行為は、初めから無効だったことになります。これを、遡及的無効といいます。詐欺や強迫の回で、時間が巻き戻る効果を遡及効と呼びましたが、同じことを指しています。無効は、最初から一度も効いていません。取消しは違います。取り消されるまでは、いったん有効に進んでいます。それが取消しによって、あとから最初まで遡って崩れる、という違いです。前回、無効な契約で受け取ったものを返す義務——原状回復には、3段階の物差しがありましたね。覚えていますか?121条の2ですよね。原則は全部返還で、無償行為の善意者と、意思無能力者・制限行為能力者は現存利益でした。そして、その物差しがそのまま使えます。121条が「初めから無効であったものとみなす」と決めている以上、取り消された行為は無効な行為として扱われるからです。取消し専用の後始末のルールが、新しく生まれるわけではありません。

失踪宣告の回で作った物差しです。そのお金が無くてもどのみち出ていくはずだった分は、形を変えて残っている。遊びに使った分や盗まれた分は、残っていない。ここでも同じ基準です。

121条の2の三段構造の再掲(1項原則全部返還/2項無償行為の善意者は現存利益/3項意思無能力者・制限行為能力者は現存利益) 図:121条の2の三段構造の再掲

  • 1項原則全部返還
  • 2項無償行為の善意者は現存利益
  • 3項意思無能力者・制限行為能力者は現存利益

冒頭の設例——17歳のAが、親に黙って中古バイクを買った件に当てはめます。Aは17歳の制限行為能力者です。取り消せば、Aは店に対して、受け取ったバイクを返す義務を負います。Aが受け取ったバイクによる利益が、現に残っている限度で返せば足ります。使い込んで無くなった分まで、自腹で埋め合わせる必要はありません。一般論としては、現物を返せないときはその価額を返すのが原則です。ですが、Aのように3項が効く場面では、話が変わります。返す範囲はあくまで現存利益の限度なので、利益が形を変えて残っている分だけを、その限度で返せば足ります。本当に何も残っていなければ、返すものはありません。もう1つ、原状回復の義務には性質があります。

判例最高裁判所判決 昭和47年9月7日 民集26巻7号1327頁

双方の原状回復義務は同時履行の関係に立つ この事案では、詐欺を理由に売買契約が取り消され、取消しによって生じる双方の原状回復義務は、533条を類推適用して、同時履行の関係に立つとされた。

バイクを返す義務と、代金を返す義務は、同時に行う関係にあります。どちらかが一方的に先に返す必要はありません。なお、所有権に基づく返還請求権と、121条の2第1項の返還請求権は、どちらを使ってもかまいません。取消しの後に、バイクが別の人に転売されていた場合はどうなるか。初めから無かったことにするという建前をどこまで押し通すかで、結論が変わります。そこは登記の回で扱います。

「もういい」で確定させる——追認

追認の法的性質の板(追認=取消権の放棄/追認権者は取消権者と同じ範囲) 図:追認の法的性質の板(追認=取消権の放棄/追認権者は取消権者と同じ範囲)

④追認を埋めます。無効は、原則追認できませんでした。取消しはどうでしょうか。

条文民法122条

民法 第百二十二条(取り消すことができる行為の追認) 取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない

追認すると、以後取り消せなくなります。有効な状態が確定します。ここで、追認の性質を先に立てます。追認は、取消権の放棄です。この1点から、これから見る要件が全部出てきます。返品期限のついた「これでいいです」ボタンだと思ってください。押した瞬間、二度と返品できなくなります。追認できる人の範囲は、122条の文言どおり、取消権者と同じです。自分の権利を放棄するのだから、放棄できるのは権利を持つ人だけです。

124条の要件2つの板(①取消しの原因となっていた状況が消滅した後/②取消権を有することを知った後) 図:124条の要件2つの板

  • ①取消しの原因となっていた状況が消滅した後
  • ②取消権を有することを知った後

追認には、要件が2つあります。

条文民法124条

民法 第百二十四条(追認の要件) 取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。 2 次に掲げる場合には、前項の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない。 一 法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をするとき。 二 制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人、保佐人又は補助人の同意を得て追認をするとき。

1つめは、取消しの原因となっていた状況が消滅した後、ということです。制限行為能力なら行為能力者となった後、錯誤や詐欺、強迫ならその状態を脱した後です。判断できない状態のままの「もういい」は、保護になりません。制限行為能力者のまま追認させてしまうと、保護しているはずの制度が、逆に本人を追い込む道具になります。2つめは、取消権を有することを知った後、ということです。これは改正で明文化されました。追認は取消権の放棄です。捨てる権利があると知らずに、捨てることはできません。知らずに「もういい」と言っただけでは、放棄の意思とは言えません。

Aが18歳になった翌日、店に「このまま乗り続けます」と伝えた。1つめの要件——行為能力者になった後、はもう満たしています。そこで分かれます。Aが親から「未成年のうちの契約は取り消せる」と聞かされていて、それを分かったうえで「乗り続けます」と言ったのなら、追認です。もう取り消せません。ただ乗り続けていただけなら、追認にはなりません。取消権があると知らないまま、その権利を捨てたことにはできないからです。1つめの要件には、例外があります。例外は2つです。1つ目、法定代理人や保佐人、補助人自身が追認するとき。2つ目、成年被後見人ではない制限行為能力者本人が、同意を得て追認するとき。どちらでも、本人がまだ行為能力者に戻っていなくてもかまいません。

判断できる人が、すでに関与しているからです。1つめの要件が心配していたのは、判断できない状態のままの追認でした。保護者が関与していれば、その心配は要りません。1号は、法定代理人や保佐人、補助人が追認する場面です。Aがまだ17歳のうちに、親権者が店に「この売買を認めます」と伝えれば、それで追認は成立します。Aが18歳になるのを待つ必要はありません。2号は、制限行為能力者本人が、保護者の同意を得て追認する場面です。Aがまだ17歳のうちに、親権者の同意を得たうえで「乗り続けます」と店に伝えれば、これも追認になります。どちらも、判断できる人がすでに関与しているからです。追認の意思表示の相手方も、取消しと同じです。相手方が確定していれば、その相手方に対する意思表示で行います。

両方の列が、1つの理屈から出ている

5軸の一覧板を両列そろえて再掲(①主張の要否②主張権者③期間制限④追認⑤時の効力/無効|取消し) 図:5軸の一覧板を両列そろえて再掲

  • ①主張の要否②主張権者③期間制限④追認⑤時の効力
  • 無効|取消し

今日埋めた右の列を、もう一度並べます。①取消しの意思表示が必要、②取消権者だけが言える、④追認できる、⑤遡及的無効。③の期間制限だけは、まだ埋めていません。無効は、誰の利益でもないから、誰でも、いつでも言えます。取消しは、特定の人を守る制度だから、言える人が絞られ、いつまでも待たせられないので期間も切られ、その人が「もういい」と言えば確定します。どちらの列も、1つの理屈から出ています。ここで一つ確認したいのですが、なぜ120条1項は、本人自身にも単独での取消しを認めているのでしょうか?取消しは、取り消す側に新たな不利益を生まないからです。契約を結ぶときと違って、保護者の同意が無くても損をしません。

最後に、冒頭の設例——17歳のAが親に黙って中古バイクを買った件に戻ります。1つめ、取り消すと言えるのは親だけではありません。17歳のA自身も、単独で確定的に取り消せます。2つめ、Aが18歳になった翌日に「このまま乗り続けます」と言ったのは、行為能力者になった後の話なので、124条1項の1つめの要件は満たしています。ただし、もう1つの要件——取消権があると知っていたかどうかは、これだけでは分かりません。それが満たされていなければ、追認にはなりません。

参照条文

  • 民法120条
  • 民法123条
  • 民法121条
  • 民法122条
  • 民法124条

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