民法ゼロから民法#44

代理の三面関係

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第1章 民法総則 ㊷/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

借りているのは、誰なのか

北海道のA・東京の母B・不動産屋Cの賃貸設例ボード 図:北海道のA・東京の母B・不動産屋Cの賃貸設例ボード

来月から東京で働くことになったAは、まだ北海道にいて内見にも行けないので、東京にいる母Bに「私の名前で借りてきて」と頼み、Bが不動産屋Cのところで契約書にサインして、賃貸借契約を結びました。ここで聞きます。この部屋を借りているのは誰でしょうか。賃料を払う義務があるのは誰でしょうか。答えは、この回の終わりにもう一度戻ってきます。実は契約の成立を四つの関門で整理した回があったのを覚えていますか。三つ目の関門、効果帰属要件。契約の効果が誰に及ぶかを決める関門です。名前だけ触れて、そのままにしていた関門を、今日から開けます。

契約したのはB、効果はA——三面関係

三面関係の図(本人A・代理人B・相手方C/代理権授与=A→B・契約=B–C・効果=A–C) 図:三面関係の図

  • 本人A・代理人B・相手方C
  • 代理権授与=A→B・契約=B–C・効果=A–C

代理の三面関係:Bが契約し、効果はAに直接帰属する 図:代理の三面関係:Bが契約し、効果はAに直接帰属する

図を見てください。二重になっているAからBへの線が、代理権を授ける、という関係です。実線の矢印がBからCへの線で、これが契約そのものです。ところが、一番下の細い矢印を見てください。AからCへ、直接つながっています。これが代理の正体です。行為をしたのはBです。でも効果が届く先はAです。行為の主体と効果の帰属先が、ズレている。これが代理という制度の全部です。賃料を払う義務は、Aに生じます。部屋を使う権利も、Aのものです。Bには何も残りません。請求先もAです。Cが裁判を起こすとしても、訴える相手はAで、契約書にサインしたBではありません。逆に、部屋のエアコンが壊れたとき、Cに修理を求められるのもAです。向き合う相手として立っているのは、最初からAとCなんです。

鍵を受け取るのも、Aです。実際に鍵を手渡されるのがBだったとしても、その部屋を使う権利はAのものなので、鍵はAのために預かっているにすぎません。とはいえ、Bはただの窓口ではありません。Bは、意思表示という重要な役割を果たしています。ただ、その効果を自分のものにはしない、というだけです。サインしたのはBの手ですが、その効果はBを素通りしてAに届きます。だから、冒頭の問いの答えは、もう見えていますね。頼む行為そのもの、たとえば委任契約を結ぶことと、代理権を与えることは、理屈のうえでは別の行為です。ただ、実際にはセットで行われることがほとんどです。この区別は、また別の回で扱います。今日は、代理権を与える行為がある、という一点だけ押さえてください。

99条の三つの言葉

99条1項の三つの言葉を色分けして3要件に対応づける板(その権限内において→①代理権/本人のためにすることを示して→②顕名/本人に対して直接にその効力を生ずる→③効果帰属)

  • その権限内において→①代理権
  • 本人のためにすることを示して→②顕名
  • 本人に対して直接にその効力を生ずる→③効果帰属

この仕組みを、条文はどう書いているか、見てみましょう。

条文民法99条

民法 第九十九条(代理行為の要件及び効果) 代理人がその権限内において****本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。 2 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。

この三か所が、それぞれ別の要件に対応しています。「その権限内において」は、代理人が代理権を持っていること。「本人のためにすることを示して」は、Bが契約のときに、Aのためにやっていると示すこと。そして「本人に対して直接にその効力を生ずる」は、その結果として効果がAに届くことです。Aが「五万円までで借りてきて」と頼んだのに、Bが十万円の部屋を契約したら、その部分は権限内とは言えません。頼まれた範囲を超えているからです。この超えた部分の扱いは、また別の回で扱います。前半の二つが要件で、後半が効果です。2項は、Cの側からBに意思表示をした場合にも同じ扱いが及ぶという規定です。今日の中心は1項なので、2項は名前だけ押さえておいてください。

なぜ他人に頼むのか——拡張と補充

私的自治の拡張と補充を並べる板(拡張=できるのに手が回らない人の活動範囲を広げる/補充=自分では決められない人の能力を補う) 図:私的自治の拡張と補充を並べる板

  • 拡張=できるのに手が回らない人の活動範囲を広げる
  • 補充=自分では決められない人の能力を補う

今回のAは、北海道にいて動けません。忙しくて時間が取れない人も、病気で外に出られない人もいます。一人の人間が使える時間には限りがあります。そこで他人の手を借りて、自分の活動範囲を広げる。これが一つ目の理由です。会社が、支店ごとに営業担当者を置くのも、同じ理由です。社長一人では、全部の契約に立ち会えません。もう一つ、まったく違う理由もあります。生まれたばかりの赤ちゃんは、契約という判断そのものができません。判断能力が育っていない人や、衰えてしまった人もいます。認知症が進んで、契約の内容を理解できなくなった高齢者も同じです。この場合は、活動範囲を広げるのではなく、本人に代わって判断してくれる人が要ります。たとえば、その高齢者が、施設に入るために自宅を売る場面です。売るかどうか、いくらで売るかを、本人はもう判断できません。かといって、売らなければ入所の費用が出せない。誰かが本人に代わって決めるほかありません。

ここで一つ言葉を置きます。私的自治というのは、自分のことは自分の意思で決める、という民法の土台の考え方です。誰と、どんな条件で契約するかは、国ではなく自分が決める。この土台を前提にすると、さっきの二つは、こう言い換えられます。前者を私的自治の拡張と呼びます。後者を私的自治の補充と呼びます。自分の意思で他人に頼むのが拡張、本人の意思とは関係なく法律が代理人を用意するのが補充。この二つの方向が、そのまま次の区別に対応します。

あの後見人、覚えていますか

成年後見人の再登場を予告する板(成年被後見人を守る人として見た成年後見人・失踪のときに名前だけ出た不在者財産管理人) 図:成年後見人の再登場を予告する板

前回までに見た制限行為能力者の話を思い出してください。判断能力が欠けていると家庭裁判所に認められた人、成年被後見人を扱った回で、その人を守る成年後見人という人が出てきましたね。あの人は、本人が選んだ代理人でしたか、それとも法律が決めた代理人でしたか?本人は選んでいなかった気がします。家庭裁判所が決めていました。あの成年後見人こそ、今日の補充のほうの代理人です。もう一人、失踪の話のときに名前だけ出てきた人がいます。不在者の財産管理人です。行方が分からなくなった人の財産を、家庭裁判所が選んだ人が代わりに管理する。あのときは名前だけでしたが、あの人も、法律が用意した代理人です。

任意代理と法定代理——発生原因がすべてを分ける

任意代理と法定代理の対比板(発生原因/機能/典型例/本人の意思の有無) 図:任意代理と法定代理の対比板(発生原因/機能/典型例/本人の意思の有無)

拡張のほうを、任意代理と呼びます。法定代理は補充のほうです。二つを分ける軸はたった一つ。代理権が、どうやって発生したかです。Aが自分の意思でBに頼みました。だから任意代理です。代理権は本人の授権によって発生します。これに対して法定代理は、法律の規定によって代理権が発生します。未成年者について言えば、818条1項が、親権は子の利益のために行使しなければならないと定め、824条本文が、親権を行う者は子の財産に関する法律行為についてその子を代表すると定めています。この二つの条文だけで、親が子の法定代理人になります。十六歳の子どもがアパートを借りるとき、親が子の代理人として契約を結ぶことができます。子ども自身が「頼む」と言ったかどうかは関係ありません。親であることから、法律上あたりまえに代理権が生じているからです。

子どもの意思は関係ありません。法定代理は本人の意思とは無関係に発生します。ここが任意代理との決定的な違いです。もう一つだけ予告しておきます。代理権の範囲も、代理人が別の人に頼む復代理の要件も、代理権が消える場面も、任意代理と法定代理では中身がすべて違います。この先の回で一つずつ見ていきます。

代理の3要件——ここから先の目次

代理の3要件板(①代理権の存在→欠けたら無権代理/②顕名→欠けたら100条の検討/③代理人自身の意思表示→欠けたらそもそも代理でない) 図:代理の3要件板

  • ①代理権の存在→欠けたら無権代理
  • ②顕名→欠けたら100条の検討
  • ③代理人自身の意思表示→欠けたらそもそも代理でない

さっきの99条の三つの言葉を、もう一度、要件として並べ直します。①代理権があること。②顕名、つまりAのためにすることを示すこと。③代理人自身が意思表示をすること。実は、条文の文言そのものには出てきません。「代理人が」「した意思表示」というところに隠れています。意思表示をするのは代理人自身でなければならない、という前提です。これが無いと、あとで出てくる使者と区別がつかなくなるからです。三つとも、あとの回で一つずつ深く扱います。①が欠けると無権代理になります。②が欠けると100条の検討に入ります。③が欠けると、そもそも代理という話にすらなりません。境界を一組、具体的に見ておきます。Bが、Aから頼まれてもいないのに、勝手にAの名前で契約書にサインしたとします。この場合、①代理権がありません。効果はAに届きません。逆に、Aから正式に頼まれたBが、Cとの契約で「Aのために」と一言も示さずに、自分の名前だけで契約書にサインしたとします。今度は①はありますが、②がありません。同じように効果はAに届きません。

欠けている場所を見分けることが、これから先の回で問われます。三つ目が欠けるのは、どんな場面か。Aが「この部屋で決めてきて」ではなく、「この部屋を、この条件で借りると伝えてきて」とだけ頼んだ場合です。Bは、どの部屋にするかも、いくらで借りるかも決めていません。決めたのはAで、Bは言葉を運んだだけです。これだと、代理人自身が意思表示をしたとは言えません。三つ目が欠けると、代理かどうかを論じる手前で話が終わる、というのはこの場面です。1つめ、代理権が無ければ無権代理。2つめ、顕名が無ければ100条の問題。3つめ、代理人自身の意思表示が無ければ、代理そのものが成立しません。この三つが、ここから先の目次です。

意思を決めたのは誰か——使者との違い

使者と代理人の対比板(意思表示の主体/意思能力の要否/典型例) 図:使者と代理人の対比板(意思表示の主体/意思能力の要否/典型例)

さっきの③を使うと、代理でないものがはっきり見えてきます。まず、使者です。Aが「三万円で売ります、と伝えてきて」と頼んで、Bがその言葉どおりに伝えるだけの場合です。Bは自分で意思決定をしていません。Aが決めたことを、そのまま運んでいるだけです。違いはまさにそこにあります。代理人は、代理人自身が意思決定をします。今日の設例で言えば、Bはどの部屋にするか、条件をどう詰めるか、自分の判断で動いています。使者はその判断すらしません。意思決定をしない以上、意思能力も行為能力も要りません。伝言を運べれば足ります。代理人は、自分で意思表示をする以上、意思能力が必要です。

名前を出さない代わり——間接代理と代表

間接代理・代表を並べる板(間接代理=自己の名で行いあとで効果を移す・顕名しない/代表=法人の機関・代表者の行為が法人の行為そのもの) 図:間接代理・代表を並べる板

  • 間接代理=自己の名で行いあとで効果を移す・顕名しない
  • 代表=法人の機関・代表者の行為が法人の行為そのもの

ここまでは、意思を決めたのは誰か、という物差しで切ってきました。もう一つ、別の物差しで切れるものがあります。誰の名前で行為をしたか、という物差しです。まず、間接代理です。名前は似ていますが、中身は別物です。Aが証券会社に「百株買ってきて」と頼んだとします。証券会社は、自分の名前で株を買い、あとから利益をAに渡します。このとき証券会社は自己の名で行為をしていて、Aのためにすることを示してはいません。②の顕名が、そもそもありません。99条には乗りません。効果は、いったん証券会社自身に発生してから、あとでAに移されます。今日の三面関係のように、最初から直接Aに届くわけではありません。もう一つ、代表という言葉もあります。会社の代表取締役が、会社の名前で契約したとき、それは会社の機関としての行為で、法人の行為そのものとして扱われます。代理は他人の行為ですが、代表は組織そのものの行為です。この違いは、また別の回で扱います。

本人の意思そのものが大事な場面——身分行為

代理に親しまない行為の板(婚姻・離婚・縁組・認知・遺言/例外=代諾養子縁組797条) 図:代理に親しまない行為の板

  • 婚姻・離婚・縁組・認知・遺言
  • 例外=代諾養子縁組797条

どんな行為でも任せられるわけではありません。婚姻、離婚、縁組、認知、遺言。こうした身分行為には代理が使えません。誰と結婚するか、財産を誰に遺すか。これは本人の意思そのものが大事な場面です。他人が代わりに決めていいものではありません。身分行為の例外は一つだけあります。797条1項です。養子となる者が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができる、と定めています。幼い子ども自身には判断できないので、法定代理人が代わりに承諾します。育っていない意思を、代理で埋め合わせている。だから例外なんです。

誰の行為として見るか——代理の本質

代理の本質をめぐる学説対立の結論板(代理人行為説=通説・判例/根拠=101条が瑕疵の有無を代理人基準で判断していることと整合する) 図:代理の本質をめぐる学説対立の結論板

  • 代理人行為説=通説・判例
  • 根拠=101条が瑕疵の有無を代理人基準で判断していることと整合する

代理行為をしているのはAとBのどちらなのか——行為の主体をめぐっては、争いがあります。行為の主体は本人だとする見方と、代理人だとする見方です。代理人が行為の主体だとする見方が、通説であり、判例の立場でもあります。あとの回で扱う101条という条文が、意思表示に瑕疵があったかどうかを、原則として代理人を基準に判断すると定めています。たとえば、冒頭の場面でCが嘘をついたとして、だまされたかどうかを見るのは、家にいるAではなく、その場で話を聞いたBのほうだ、ということです。だまされたのはBなのに、行為の主体はAだ、というのは据わりが悪い。行為の主体が代理人だと考えれば、この規定は素直に理解できます。もし行為の主体が本人だとすると、なぜ代理人の事情で判断するのか、説明がつきにくくなります。

この対立が実際に効いてくるのは101条を扱うときなので、今日は結論と、この一点だけ持ち帰ってください。

答え合わせ

冒頭設例への回帰板(契約線B–C・効果線A–C・A=賃借人・賃料債務者) 図:冒頭設例への回帰板(契約線B–C・効果線A–C・A=賃借人・賃料債務者)

冒頭の問いに戻ります。この部屋を借りているのは誰でしょうか。賃料を払う義務があるのは。契約したのはBとCなのに、効果はAとCの間に生じる。これが代理の三面関係です。最後に、確認を二つだけします。まず、もしAから何も頼まれていないのに、Bが「Aのために」と示してCと契約していたら、どうなりますか?代理権が無いので、無権代理になります。効果はAには届きません。示し方が合っていても、権限そのものが無ければ意味がありません。もう一つ。もしBが、Aのためにすることを示さないまま、自分の名前だけでCと契約していたら、効果はAに届きますか?

届きません。顕名が無ければ99条には乗りません。効果はBのところで止まります。三つの要件のどれか一つが欠けても、効果はAまで届きません。今日から始まった代理の道具は、この図と、99条の三つの言葉と、三つの要件です。この先の回で、何度も使い回します。次の回では、その三要件の一つ目、代理権そのものを、正面から見ていきます。

参照条文

  • 民法99条

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