民法ゼロから民法#46

代理権の範囲と顕名

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第1章 民法総則 ㊸/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

頼んだことになるのは、どこまでか

前回の100条一言を受けた導入板(顕名を欠くと代理の枠から外れる、を受けて今日の二つの柱を提示) 図:前回の100条一言を受けた導入板

顕名を欠いたときに何が起きるのか、今日はそこを正面から扱います。今日見ていく柱は二つです。一つは、代理人がどう振る舞えば代理の枠に乗るのかという顕名の中身、もう一つは、代理人が実際にどこまで動いてよいのかという範囲です。この二つが分かれば、代理人が頼まれたことをやりすぎた場面も、頼まれたことを言わずに動いた場面も、条文から自分で判定できるようになります。

要件の重み、覚えていますか

前回の成立要件・有効要件の対比再掲板(顕名が欠けると舞台に上がらない/代理権が欠けると無権代理) 図:前回の成立要件・有効要件の対比再掲板

  • 顕名が欠けると舞台に上がらない
  • 代理権が欠けると無権代理

本編に入る前に一つだけ確認します。前回、要件が欠けたときの重みの違いを見ました。顕名が欠けたときと、代理権が欠けたとき、代理の扱いはどう違いましたか?顕名が欠けたときは舞台にすら上がらず、代理権が欠けたときは舞台の上で無権代理として扱われる、その重みの違いのとおりです。なぜ顕名にそこまでの重さがあるのかは、このあと顕名の目的から確かめます。今日はまず、その顕名が欠けたときに実際に何が起きるのかを、条文の言葉で見ていきます。

示さなければ、自分の契約になる

99条1項の再掲と100条の位置づけ板(顕名を示す→99条1項/顕名を示さない→100条) 図:99条1項の再掲と100条の位置づけ板

  • 顕名を示す→99条1項
  • 顕名を示さない→100条

99条1項を思い出してください。代理人が、その権限内において、本人のためにすることを示して意思表示をすると、本人に直接効力が生じる、という条文でした。この「本人のためにすることを示して」という部分が顕名です。先に、顕名が何のためにあるのかを押さえておきます。契約の効果が誰に届くのかは、相手方にとって一番大事な情報です。誰と契約したのか分からないまま縛られては困る。だから、効果の帰属先を相手方に分からせることが顕名の目的です。この目的を持っておくと、このあとの例外も特則も、全部同じ物差しで読めます。

示さなかった場合の扱いを定めているのが100条です。

条文民法100条

民法 第百条(本人のためにすることを示さない意思表示) 代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。

「自己のためにしたものとみなす」というのは、前回の設例の続きで考えると分かりやすくなります。海外赴任中の父Aが、空き家の実家を息子Bに任せ、買主Cが現れた場面です。息子Bが買主Cのところへ行き、Aのためだとは一言も示さずに、自分の名前だけで契約書にサインしたとします。この場合、契約はB自身がCとの間で結んだ契約として扱われます。効果はAには届きません。契約の当事者はBとCになります。Bの契約になる理由は、相手方から見た景色にあります。人から頼まれて荷物を送るのに、差出人の欄に自分の名前だけを書いたところを思い浮かべてください。受け取った側は、書かれている差出人からの荷物として扱います。Cも同じで、目の前のBが自分の契約相手だと思って取引に入っています。その信頼のとおりに扱うのが100条本文です。しかも条文は「みなす」と書いています。あとからBが自分の内心だけを持ち出して「本当はAのためだった」と証明しても、この扱いはひっくり返りません。

ただし書が例外です。相手方Cが、Bが本人Aのためにやっていることを知っていたか、知ることができたときは、99条1項が準用されて、効果はやはりAに届きます。知っていれば救われる理由は、顕名の目的に戻ると分かります。顕名は、相手方に対して契約の効果が誰に帰属するのかを明らかにするためのものです。Cがもう分かっているなら、その目的はすでに達成されています。Bが口で言わなくても、Cの中では効果の帰属先がAだと分かっている。だったら、わざわざBを契約の当事者にして、Aとの間の代理を否定する必要がありません。

名乗らなくても、伝わることがある

本人の名のみを示した場合の板(「Aの代理人のBです」ではなく「Aです」とだけ名乗る場合) 図:本人の名のみを示した場合の板

「Aです」とだけ名乗った場合も、顕名として認められます。

判例大判大正9年4月27日 民録26輯606頁

本人の名のみを示した場合でも、顕名の要件を満たす この事案では、支配人が主人のために手形に裏書をする際、自分の名前を書かず、直接に主人の名前を記名捺印した場合でも、その行為は主人に対して効力を生じるとされた。

場面で確認しましょう。息子Bが買主Cの前で、「Bという、Aの代理人です」と名乗らず、単に実家の名義人である父Aの名前だけを書類に書いたとします。この場合も、顕名は満たされます。「Aの代理人です」と言っていなくても顕名が満たされる理由は、目的に戻れば分かります。目的は、効果の帰属先をCに分からせることです。Bが「Aです」と本人の名前だけを示せば、契約書の当事者としてAの名前が出ます。Cから見れば、契約の相手はAだと分かります。効果帰属先を明示するという目的は、これで十分に達成されています。「代理人の」という言葉そのものが決め手ではありません。

本人の名前だけを示すこのやり方を、署名代理と呼びます。呼び方が変わるだけで、扱いは今見たとおりです。

商売の場では、ルールが逆になる

商法504条の特則板(民法100条=示さなければ代理人のもの/商法504条=示さなくても本人に効力) 図:商法504条の特則板

  • 民法100条=示さなければ代理人のもの
  • 商法504条=示さなくても本人に効力

ここまでは民法の話でした。商売の場面になると、ルールがひっくり返ります。

条文商法504条

商法 第五百四条(商行為の代理) 商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、その行為は、本人に対してその効力を生ずる。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求をすることを妨げない

民法100条とは、原則が真逆です。民法100条は、示さなければ原則として代理人自身のものになる、という建て付けでした。商法504条は、示さなくても原則として本人に効力が生じます。商売の場面で原則が変わる理由は、取引の量にあります。日々の商取引では、いちいち「これは誰それの代理人です」とやり取りするのは非効率です。問屋や仲買人のような立場の人が、日常的に大量の取引を回しています。取引のたびに顕名の有無を争っていては、商売が回りません。だから商法は、示さなくても本人に効果が生じるのを原則にしました。

たとえば、酒屋の店主に雇われた仕入担当の人が、毎日あちこちの卸売業者に電話で注文を入れているとします。そのたびに「私は店主の代理人です」と名乗り直してはいません。それでも注文の効果は店主に生じ、代金を払うのも店主です。これが504条本文の世界です。ただし書は、相手方が保護される場面です。相手方が、代理人が本人のためにやっていることを知らなかったときは、代理人に対して履行を請求する道を選ぶこともできます。ここが民法と違うところです。民法100条は、知らなかった相手方は代理人が当事者になるという結果でした。商法504条では、まず本人との間に効果が生じます。そのうえで、知らなかった相手方は、本人との関係か、代理人との関係か、どちらか一方を選んで主張できます。代理人との関係を選んだら、もう本人との関係は主張できません。知らなかったことに過失がある相手方は、この保護を受けられません。初めて電話を受けた卸売業者が、仕入担当の人を店とは関係のない個人の客だと、無理もなく思い込んでいた場合でも、注文の効果はまず店主に生じます。ただ、その卸売業者は、店主ではなく仕入担当の人を相手に代金を請求する道を選ぶこともできる、ということです。

誰のためかは分かった、次はどこまでか

顕名から範囲への切り替え板(代理権の範囲の決まり方の原則=法定代理→法律の規定/任意代理→授権行為の解釈) 図:顕名から範囲への切り替え板

  • 代理権の範囲の決まり方の原則=法定代理→法律の規定
  • 任意代理→授権行為の解釈

ここまでは、誰のための行為かという顕名の話でした。ここからは、代理人がどこまでの行為をしてよいかという範囲の話に移ります。範囲の決まり方は、法定代理と任意代理で違います。法定代理は、法律の規定でそのまま決まります。親権者なら824条、成年後見人なら859条、亡くなった人の財産を引き継ぐ人が見つからないときに置かれる相続財産清算人なら953条、というように、それぞれの条文が権限の中身を定めています。任意代理は、代理権を与える行為、つまり授権行為の解釈で決まります。「実家の管理と売却を頼む」とはっきり伝えていれば、管理と売却がそのまま範囲になります。

103条が出てくるのは、法律の規定にも授権行為の解釈にも範囲がはっきり定まらない場合だけです。順番を間違えないでください。まず法律の規定、または授権行為の解釈を見る。それでも決まらないときだけ、103条に頼ります。

「いい感じに」だけ頼まれたら

「いい感じに」の設例板(授権行為の解釈だけでは範囲が決まらない=103条がはじめて働く場面) 図:「いい感じに」の設例板

具体的な場面で確認しましょう。父Aが海外から電話で、息子Bに「実家を、いい感じにしておいて」とだけ伝えたとします。今回の頼み方は、前回よりも範囲があいまいです。前回は管理と売却という具体的な中身がはっきりしていました。今回は「いい感じに」としか言っていません。授権行為の解釈だけでは、Bがどこまで動けるのか決まりません。こういうときに103条が働きます。

条文民法103条

民法 第百三条(権限の定めのない代理人の権限) 権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。 一 保存行為 二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

「のみ」の急所板(103条は保存・利用・改良の3類型のみ/本人は範囲を決めていない) 図:「のみ」の急所板

  • 103条は保存・利用・改良の3類型のみ
  • 本人は範囲を決めていない

「のみ」という言葉が、この条文の急所です。範囲が決まっていないとき、Bは何でもできるわけではなく、この3つの類型に当てはまる行為しかできません。そこまで絞られる理由は、本人が範囲を決めていないという一点にあります。範囲を決めていない本人が、自分の財産を減らす行為まで任せたとは考えられません。任せたと言えるのは、せいぜい、財産を今のまま保つ行為と、姿を変えない範囲で活かす行為までです。だから条文は、この線の内側だけを切り出しました。

実家という一つの対象について、保存・利用・改良の3つがそれぞれどこまでの行為を指すのかを追いかけます

一つ目、保存行為です。現状を維持する行為のことです。実家の雨漏りを修繕すること、固定資産税を期限内に納めること。どちらも、実家という財産の価値を今のまま保つだけの行為です。家を売ってしまうのは、保存行為にはあたりません。処分行為です。現状維持どころか財産そのものを無くしてしまう行為なので、権限が無い以上、Bにはできません。二つ目、性質を変えない範囲内の利用行為です。収益を図る行為のことです。実家を短期間、人に貸して家賃を得る。これは602条が定める短期の賃貸借、建物なら3年、土地なら5年といった短い期間の範囲内であれば、利用行為として許されます。

602条の期間を超えるような長期の賃貸借は、性質を変える行為になります。一度貸してしまうと、家主の都合だけでは簡単に取り戻せなくなります。実家という財産の性質そのものが変わってしまうので、利用行為の範囲を超えます。用途を大きく変える契約も同じです。三つ目、性質を変えない範囲内の改良行為です。使用価値や交換価値を高める行為のことです。実家に手すりや空調設備を取り付けて、住みやすさや家の価値を高める。これは改良行為にあたります。更地にして別の用途の建物を建て直すのは、改良の範囲を超えます。決め手は、父Aが帰ってきたときに、頼んだときの実家がもう残っていないことです。手を入れた結果が元の実家の延長線上にあるなら改良、元の実家が無くなってしまうなら改良ではない。ここが性質を変えるかどうかの線です。

どれにも当てはまらない行為は、できません。103条は「のみ」と言い切っています。この3類型に入らない行為、とりわけ財産を処分してしまう行為は、範囲が定まっていない代理人には認められません。では、この線を越えてBが動いてしまったらどうなるか。そのときは、代理権の無い行為と同じ扱いになります。前回見た無権代理です。顕名で誰に効果が向かうかが決まり、範囲でどこまで背負わせてよいかが決まる。この二つを条文の順番どおりに当てれば、代理人がやりすぎた場面も、言わずに動いた場面も、自分で判定できます。

代理人になるのに、行為能力はいるか

102条全文カードと理由2つの板(行為能力は不要・意思能力は必要/理由①効果は本人に帰属②本人が選んだ) 図:102条全文カードと理由2つの板

  • 行為能力は不要・意思能力は必要
  • 理由①効果は本人に帰属②本人が選んだ

代理人になるのに、行為能力は必要ありません。

条文民法102条

民法 第百二条(代理人の行為能力) 制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない

代理人に行為能力、つまり一人で確定的に有効な取引をする力が要らない理由は、二つあります。一つ目、代理の効果はすべて本人に帰属します。99条1項のとおりです。制限行為能力者が代理人になっても、その行為の結果を背負うのは本人であって、代理人自身の財産が傷つくことはありません。だから、代理人本人を保護する必要がありません。二つ目、制限行為能力者を代理人に選んだのは、本人自身です。あえてその人を選んだ本人を、あとから保護してあげる必要はありません。選んだ結果は、本人が引き受けるべきだからです。たとえば、父Aが、実家に残った古い家具の売却を、17歳の孫に任せたとします。孫が古道具屋と売買の約束をしたあとで、「孫はまだ未成年だから」という理由でこの売買を取り消すことはできません。安く売れて損をしても背負うのは父Aですし、17歳の孫にあえて任せたのも父A自身だからです。

意思能力は要ります。自分で意思表示をする以上、最低限の判断力そのものが無ければ、代理人としての行為が成り立ちません。行為能力は要らないが、意思能力は要る、というのが102条本文の中身です。ただし書が効くのは、代理人自身が制限行為能力者で、しかもその人が別の制限行為能力者の法定代理人になっている場面です。設例で考えましょう。成年被後見人の成年後見人に選ばれた人が、就任したあとで保佐開始の審判を受け、被保佐人になったとします。その後見人が、保佐人の同意を得ないで、本人を代理して本人の土地を売ったとします。この売買は取り消せます。

さっきの理由とは矛盾しません。さっきの理由の二つ目は、制限行為能力者を代理人に選んだのは本人だから、という話でした。ですがこの場面では、成年後見人は家庭裁判所が選ぶもので、本人が自分で選んだわけではありません。本人が選んでいない以上、さっきの理由が働きません。だから、行為能力の制限を理由に取り消せる、という扱いに戻ります。もう一点だけ触れておきます。今のは、代理人が被保佐人になった場面です。これとは別に、代理人が後見開始の審判を受けた場合、代理権そのものが消えるという扱いがあります。これは取消しとは別の仕組みなので、また別の回で扱います。

答え合わせ

今日の内容の保存版板(顕名の原則・例外・署名代理・商法の特則/代理権範囲の原則・103条3類型・102条本文とただし書) 図:今日の内容の保存版板

  • 顕名の原則・例外・署名代理・商法の特則
  • 代理権範囲の原則・103条3類型・102条本文とただし書

今日の内容を並べ直します。顕名を欠くと、原則として代理人自身のものになります。ただし相手方が知っていたか知ることができたときは、なお本人に効果が届きます。本人の名前だけを示した場合も、顕名として有効です。商行為では原則が逆転し、示さなくても本人に効果が生じます。代理権の範囲は、法定代理なら法律の規定、任意代理なら授権行為の解釈で決まるのが原則で、それでも決まらないときだけ103条の3類型、保存・利用・改良が働きます。代理人になるのに行為能力は要りませんが、意思能力は要ります。ただし、本人が選んでいない法定代理人の場合は、話が変わります。

顕名と範囲、この二つの軸で、代理人がどう動けるかは全部整理できます。最後に一問だけ。父Aが「実家を、いい感じにしておいて」とだけ頼んだ場合、息子Bが、実家を更地にして別の用途の建物を建て直すことは、103条のどの類型にあたりますか?どれにもあたらない、という理解のとおりです。性質を変える行為である以上、改良行為の範囲を超えていて、範囲が定まっていない代理人にはできません。今日はここまでにします。

参照条文

  • 民法100条
  • 商法504条
  • 民法103条
  • 民法102条

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