自己契約・双方代理108条
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第1章 民法総則 ㊺/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
値段を決めたのは誰か
図:冒頭設例板
- 親Bが自分の土地を10歳の子Aに売る契約を、子の法定代理人として結んだ
- 値段を決めたのは誰か
この契約で値段を決めたのは誰でしょうか。値段を決めたのはBで、その値段で買うことになるのもAです。ここで聞きます。この値段は本当にAのためになっていると言えるでしょうか。売主として高く売りたい気持ちと、代理人として安く買わせたい気持ちが同じ人の中でせめぎ合う、そのせめぎ合いこそが今日のテーマです。代理人は本人の利益のために動くはずなのに、代理人自身が相手方になってしまうと、その前提が崩れます。先に答えを言っておくと、この契約は当然に無効になるのではなく、あとから本人が認めるかどうかに委ねられた状態に置かれます。今日はこの崩れをどう防ぐかを条文から確かめます。
法定代理人はどうやって決まったか
図:前回想起板
- 法定代理人の代理権は法律の規定で定まる
- 親権者は818条1項・824条本文で子の法定代理人になる
本編に入る前に、以前の回の復習を一つします。法定代理人の代理権は、何によって決まるんでしたか?
法律の規定によって決まります。本人からの授権ではなく、条文がそのまま代理権を与えます。親権者が子の法定代理人になるのも法律の規定によります。親権は子の利益のために行使するものと定められていて、親権を行う者は子の財産に関する法律行為について子を代表します。冒頭のBもこの規定によってAの法定代理人になっています。
この契約、代理権の範囲の中なのに
図:設例の法的構造板
代理権があってもこの契約が問題になるのは、代理権があることと、その代理権の使い方が許されることが別の話だからです。今日の設例を見てください。Bは、Aの代理人として契約する側であると同時に、土地を売る側つまり契約の相手方そのものでもあります。代理人と相手方が同一人物になっている、この形がまず問題です。代理人が相手方を兼ねるときの扱いを定めているのが今日の主役である108条です。条文を開いて確認しましょう。
108条——代理権の中の行為でも
図:108条全文カード板
- 1項=自己契約・双方代理、ただし書2つ
- 2項=利益相反行為、ただし書1つ
条文民法108条1項・2項
民法 第百八条(自己契約及び双方代理等) 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。 2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
1項の前半、「相手方の代理人として」した行為が自己契約です。Bは相手方本人であり、同時にAの代理人でもあります。1項にはもう一つ、「当事者双方の代理人として」した行為も書かれています。これは双方代理と呼ばれる形で、一人が契約の両側それぞれの本人の代理人を同時に務める場合です。形の違いは、後で三つを並べて比べます。では「代理権を有しない者がした行為とみなす」とはどういうことか。その意味こそが今日のいちばんの急所なので順番に確認していきます。まずはこの規定がなぜ置かれているのかという理由からです。
なぜ問題なのか
図:趣旨板(一方の得は他方の損になる構造/本人の利益が害されるおそれ)
代理という制度は、代理人が本人の利益のために動くという前提の上に成り立っています。ところが代理人自身が相手方になったり、一人が両方の代理人になったりすると、この前提が崩れます。前提が崩れるのは、一方の得がそのまま他方の損になる場面だからです。冒頭の設例で言えば、値段を高くすればBの得でAの損、安くすればAの得でBの損です。この綱引きを当のB自身が両側の代表として一人で決めることになります。本人の利益が害されるおそれが、構造そのものに埋め込まれているんです。だから民法はこの形に当てはまる行為を一律に、代理権を有しない者がした行為として扱うことにしました。
三つの形、比較して見る
図:三類型の比較板
- 自己契約=代理人が相手方そのもの
- 双方代理=一人が両当事者の代理人
- 利益相反行為=形はどうであれ利益がぶつかる
108条が扱う形は三つあります。比較して見ましょう。

一つ目、自己契約です。冒頭の設例がこれにあたります。AとBを横に並べると、Bは代理人という立場と売主という立場を、一人で両方背負っています。
図:双方代理の図(AとCを両端に、Bを中央に置き、Bから左右へ一本ずつ線を伸ばす)
二つ目、双方代理です。AとCという別々の本人がいて、Bがその両方の代理人を一人で務めます。Bから見て契約の相手はAでもありCでもあります。土地の売買で言えば、売主側の代理人も買主側の代理人も同じBが務める形です。この場合B自身に得が無くても、値段を高くすればCに有利でAに不利、安くすればAに有利でCに不利です。Bはどちらの本人のために動いても、もう一方の本人を裏切る立場に立たされます。
図:利益相反行為の図
三つ目、利益相反行為です。これは自己契約でも双方代理でもありません。たとえば親権者Bが、自分の借金の担保として子Aの不動産に抵当権を設定する場面です。契約の相手はBの債権者Dであって、Aではありません。Bは相手方の代理人にもなっていませんし、両方の代理人にもなっていません。それでもBはDからお金を借りられるという得をし、Aは、Bが返せなければ自分の不動産を失うという損を負います。この意味で、代理人と本人の利益がぶつかっています。図で確認してください。Bの借金を守るために、Aの不動産に抵当権が付き、その抵当権を持つのはDです。自己契約や双方代理のように同じ相手が向かい合う形はしていませんが、Bが得をしてAが損をする構造は同じです。だから2項はこの形も同じように扱います。
例外は二つだけ
図:例外二つの板
- ①債務の履行=新たな利害の判断が無い
- ②本人の許諾=おそれを本人が引き受けた/2項の例外は②のみ
108条は、一律に禁止しているわけではありません。1項のただし書に二つの例外があります。一つ目は債務の履行です。債務の履行が許される理由は、すでに内容が確定した債務をそのとおりに実行するだけだからです。新しく利害を判断する余地が、そもそもありません。
判例最高裁判所判決 昭和43年3月8日
登記申請における双方代理 不動産の権利者・義務者双方の代理人を一人が務めて登記を申請した事案で、登記申請という行為はすでに確定している実体上の権利関係を書面にするだけであり、新たに当事者の利害を左右するものではないから、双方代理を禁止する趣旨には触れないとした。
不動産の登記を申請する場面を思い浮かべてください。売買契約そのものはすでに終わっていて、あとは登記簿に反映するだけです。この申請を司法書士のような一人の人が、権利者側と義務者側双方の代理人として行うことがあります。形の上では双方代理ですが、登記申請は実体の権利関係を新しく作るものではありません。だから判例もこの場面は許されるとしています。本人があらかじめこの行為をしてよいと許諾していれば、それも例外になります。おそれを本人自身が引き受けているからです。
では、2項の利益相反行為にも同じ二つの例外があるのか。そこが条文の文言で正確に押さえてほしいところです。2項のただし書は本人の許諾しかありません。1項は二つ、2項は一つです。2項は、自己契約や双方代理という決まった形に当てはまらなくても、代理人と本人の利益がぶつかる行為を広く押さえる規定です。すでに決まった債務をそのとおり履行するだけなら、そもそも利益がぶつかる行為にあたらないので、2項のただし書にわざわざ書く必要が無かったと考えられています。
「みなす」は終わりではない
図:「みなす」の中身板
- 代理権を有しない者がした行為とみなす=当然無効ではない
- 本人が追認すれば有効になる
108条にあたる契約は、当然に無効と決まるわけではありません。ここが今日の一番の急所です。「代理権を有しない者がした行為とみなす」というのは、無権代理と同じ扱いにするという意味です。無権代理の行為は、そのままでは本人に効力が及びませんが、本人が追認すれば、その行為は有効になります。以前の回で、無効な行為は追認しても原則として有効にならない、取り消せる行為は追認で有効と確定する、という二つを見ました。無権代理の追認は、そのどちらとも違う、本人に効力を及ぼすかどうかを本人が選ぶ仕組みです。なぜ一律に無効にしないのか。108条が守ろうとしているのは本人の利益です。値段がたまたま本人に有利な契約まで消してしまうと、かえって本人が損をします。だから契約を生かすか消すかを、守られる本人の判断に委ねているんです。
Aが後で認めれば、Bのした自己契約も有効になります。ただし冒頭の設例では、Aは10歳の子どもで、自分で追認するという判断もまだできません。この追認の中身、たとえば誰が代わりに追認できるのか、追認するとどこまで遡って有効になるのかは、この先の無権代理の回で扱います。今日は108条にあたる行為が当然に無効ではなく、追認できる状態に置かれる、という一点を押さえてください。
利益相反は、何を見て判定するか
図:外形説の板
- 判断基準は行為の外形
- 代理人の動機や結果としての得は問わない
- 理由は取引の安全
利益相反行為かどうかは何を見て決めるのか。Bが本当に子どものためを思っていたかどうかは、関係ありません。判例は行為の外形から客観的に判断するという基準を採っています。代理人の動機や、結果として本人が得をしたかどうかは問いません。
判例最高裁判所判決 昭和37年10月2日
親権者による担保設定と利益相反 親権者が、自己の債務の担保として、未成年の子の不動産に抵当権を設定した事案で、仮に借入金を子の養育費に充てる意図であったとしても、利益相反行為にあたるとした。
この判例を見てください。親権者が、自分の借金の担保として子どもの不動産に抵当権を設定しました。その親権者は借りたお金を子どもの生活のために使うつもりだったとしても、外から見れば親権者自身の借金のために子どもの財産が担保に入っている、という形にしか見えません。判例はこの外形だけで利益相反にあたると判断しました。内心を見ないのは、相手方、つまり抵当権の設定を受ける債権者から見て、代理人の内心は分かりようがないからです。取引に入ってくる相手が、いちいち代理人の本心を確かめないと安心できないのでは、取引そのものが成り立ちません。だから外から見える形だけで判定し、取引の安全を守っています。
同じ担保の設定でも、利益相反行為にあたるかは、担保の対象になっている債務が誰のものかで分かれます。代理人Bが、第三者Cの債務の担保として本人Aの不動産に抵当権を設定した場合、外形上得をするのはCであってBではありません。この場合は利益相反行為にはあたりません。ところが担保になっている債務がB自身のものであれば、外形上得をするのはB自身です。この場合は利益相反行為にあたります。ここで一つ考えてみてください。Bが自分の借金の担保として子Aの不動産に抵当権を設定しました。Bは「これは子どもの将来のための借金だ」と説明しています。これは利益相反行為にあたるでしょうか。
あたります。借金は外形上B自身の債務です。Bの内心がどうであれ、外から見ればB自身が得をする形をしているので、利益相反行為にあたります。外形だけを見て判断するという物差しがぶれなければ、答えは変わりません。
冒頭の設例、決着をつける
図:826条の板
- 親権者と子の利益相反は特別代理人を家庭裁判所に請求する
- 108条ではなく826条の枠組みで処理する
冒頭の設例は108条1項の自己契約にあたると同時に、もう一つの条文にもあたります。
条文民法826条1項・2項
民法 第八百二十六条(利益相反行為) 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。 2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
826条は108条とほとんど同じことを言っているように見えます。中身は近いですが、826条は親権者と子という関係に特化した特則です。親権者はこの利益相反にあたる行為を自分で代理することができません。代わりに家庭裁判所に、子のための特別代理人を選んでもらうよう請求しなければなりません。冒頭の設例のような親子間の売買は、親権者と子という関係そのものが問題になっているので、108条の一般的な枠組みではなく826条の枠組みで処理されます。108条と違って家庭裁判所が出てくるところが、親子の場面の特徴です。10歳のAは、許諾するかどうかを自分で判断できません。そして、本来Aの代わりに判断するはずの法定代理人が、利益がぶつかっているB自身です。本人の側で判断できる人がいないので、家庭裁判所に、利害の無い別の人をAの代理人として選んでもらうんです。
特別代理人を立てるべき場面で親権者が自分で代理してしまうと、その行為は無権代理として扱われます。効果は108条と同じ構造です。当然に無効になるのではなく、後にAが自分で追認できるようになったときに、追認するかどうかで決まります。値段を決めたのがBで、それが本当にAのためになっているかどうかを、Aの代わりに確かめる役目を負うのが、この特別代理人です。
法人の理事にも、同じ発想がある
図:一般法人法84条の板
- 理事と法人の利益相反は社員総会・理事会の承認で処理する
- 承認を受けた取引には108条を適用しない
親子や個人だけでなく、法人でも同じような問題は起きます。一般社団法人・一般財団法人では、理事と法人の利益相反を別の条文で処理します。
条文一般社団法人及び一般財団法人に関する法律84条1項・2項
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第八十四条(競業及び利益相反取引の制限) 理事は、次に掲げる場合には、社員総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。 一 理事が自己又は第三者のために一般社団法人の事業の部類に属する取引をしようとするとき。 二 理事が自己又は第三者のために一般社団法人と取引をしようとするとき。 三 一般社団法人が理事の債務を保証することその他理事以外の者との間において一般社団法人と当該理事との利益が相反する取引をしようとするとき。 2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。
理事会を置く法人では、社員総会ではなく理事会が承認します。理事会は、理事全員で法人の業務について決める会議です。一般法人法の92条が、そう読み替えることを定めています。理事は取引の前に重要な事実を開示して、承認を受けなければなりません。2項が言っているのは、承認を受けた二号・三号の取引には108条を適用しないということです。理事が自分の持っている建物を法人に貸すように、理事と法人が直接取引する場面や、法人が理事の債務を保証する場面は、そのままなら108条にも触れそうな形をしています。ですが承認という別のルートを通せば、108条の無権代理とみなす扱いを持ち出す必要が無くなります。承認という手続きで、あらかじめ本人つまり法人の側の許諾を取り付けておく仕組みだと考えると、108条のただし書の考え方と根っこは同じです。親子の場面と比べると違いが見えます。子には代わりに判断できる人がいないので家庭裁判所が特別代理人を選びました。法人には、取引をする理事とは別に社員総会や理事会という判断の場があるので、その承認で本人の許諾に代えられるわけです。
似ているけど、判断の仕方が違う
図:107条との対比板(108条=外形で判断/107条=相手方の主観を問う)
では、代理人の目的や動機の話は107条と関係があるのか。107条と関係はありますが、108条とは判断の物差しが違います。108条は行為の外形だけで判断し、代理人の主観は問いません。これに対して代理権の濫用を扱う107条は、相手方が代理人の目的を知っていたか、知ることができたかという相手方の主観を問う条文です。似ているようで見ているところが違います。
答え合わせ
図:保存版板
- 108条=自己契約・双方代理・利益相反は無権代理とみなす
- 例外は債務の履行と本人の許諾
- 利益相反は外形説
- 826条は特別代理人
- 84条は承認で処理
今日の内容を並べ直します。代理人が相手方になる自己契約、一人が両方の代理人になる双方代理、そして形は違っても利益がぶつかる利益相反行為。この三つはいずれも代理権を有しない者がした行為とみなされます。当然に無効になるのではなく、本人が追認すれば有効になります。1項の例外は債務の履行と本人の許諾の二つ、2項の例外は本人の許諾だけです。利益相反行為にあたるかどうかは、代理人の内心ではなく行為の外形から客観的に判断します。親権者と子の利益相反は826条の枠組みで、家庭裁判所に特別代理人を請求して処理します。法人の理事と法人の利益相反は、社員総会や理事会の承認で処理し、承認を受けた取引には108条を適用しません。
冒頭の設例に戻ると、Bが特別代理人を立てずに自分でAを代理して結んだこの契約は、無権代理として扱われます。値段を決めたのが本当にAのためになっていたかは、後に追認するかどうかという形で、あらためて確かめられることになります。今日はここまでにします。
参照条文
- 民法108条1項・2項
- 民法826条1項・2項
- 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律84条1項・2項