民法ゼロから民法#52

無権代理人の責任117条と相手方の催告・取消し

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第1章 民法総則 ㊾/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

Cは、宙ぶらりんに置かれたまま

無権代理の三面関係図(AからBへの授権は無い/BからCへの契約は顕名あり/AからCへの効果は、追認があるまで届かない) 図:無権代理の三面関係図

  • AからBへの授権は無い
  • BからCへの契約は顕名あり
  • AからCへの効果は、追認があるまで届かない

もう一度、場面を確認しておきます。息子のBが、父Aの実印を無断で持ち出し、「父Aの代理人です」と名乗って、Aの土地をCに売る契約を結びました。Cは、委任状の中身と実印の押印をきちんと確認し、Bの説明に不自然な点はありませんでした。それでもAは、追認するとも拒絶するとも言ってきません。Cは、いつまで待たされるのでしょうか。自分から何かできることはないのでしょうか。そして、勝手に契約したBには、何の責任も無いのでしょうか。

Cは、ずっと待つ必要はありません。Cの側から動ける手段が、ちゃんと3つ用意されています。しかも1つ目の催告は、Aが黙っていたときの結論が、以前見た催告と逆になります。その理由は、効果がもともとどちら側に届いているか、で決まります。今日はその3つを、一本の筋で見ていきます。

Cが使える3つの手段

3つの手段板(①催告(114条)=Aに向かって確答を迫る②取消し(115条)=Cが自分で契約をなかったことにする③無権代理人の責任追及(117条)=Bに向かって履行または損害賠償を求める・向かう相手が3つとも違う) 図:3つの手段板

3つの手段は、向かう相手がそれぞれ違います。1つ目は、Aに向かって「認めるのか認めないのか、はっきりさせてください」と迫る、催告です。2つ目は、Cが自分で、この契約をなかったことにする、取消しです。3つ目は、契約を結んだ張本人であるBに向かって、責任を取らせる、無権代理人の責任です。図を見てください。Aに向かう矢印、Cが自分で完結させる動き、Bに向かう矢印。この3方向を意識すると、条文の中身が整理しやすくなります。順番に見ていきましょう。

1つ目の手段、催告(114条)

催告の関係図(CからAへ、相当の期間内に確答するよう催告する/確答が無ければ追認を拒絶したものとみなす) 図:催告の関係図

まず1つ目、催告です。仮に、CがAに宛てて、「2週間以内に、認めるかどうか返事をください」と書面で求めたとします。これが、催告の具体的な形です。

条文民法114条

民法 第百十四条(無権代理の相手方の催告権) 前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす

期間内にAが確答しなければ、追認を拒絶したものとみなされます。今の例なら、2週間が過ぎてもAから返事が無ければ、Cはもうこの契約が生きる見込みが無いと判断して、次の行動に移ってよいことになります。悪意のCでも、催告はできます。催告は、Cが善意か悪意かを問いません。ここは、このあと見る取消しとの大きな違いです。

20条の催告と向きが逆になる理由

20条と114条の対比板(20条=契約はもともと有効・黙っていたら追認とみなす/114条=効果がもともとAに届いていない・黙っていたら追認拒絶とみなす/期間=20条一箇月以上・114条相当の期間) 図:20条と114条の対比板

  • 20条=契約はもともと有効・黙っていたら追認とみなす
  • 114条=効果がもともとAに届いていない・黙っていたら追認拒絶とみなす
  • 期間=20条一箇月以上・114条相当の期間

以前の内容を、思い出してください。催告のルールは、たった一つの問いから全部導けると言いました。その問いは何でしたか?催告された人は、その返事だけで、決着をつけられるか、という問いでした。決着をつけられる人が黙っていたら、追認したものとみなす、という結論でした。たとえば、17歳のときに結んだ契約について、その人が成人したあとに催告を受けたとします。もう自分一人で決められる立場なので、黙っていれば、有効な契約がそのまま続くものとみなされます。Aも自分だけで決着をつけられる人なのに、114条で結論が逆になるのは、もう一つの物差しを足すと分かります。黙っていたら、今ある状態がそのまま確定する、という物差しです。20条の場面の契約は、もともと有効です。取り消せるだけで、効果はすでに本人の側に届いています。だから黙っていれば、その有効な状態がそのまま確定して、追認したものとみなされます。これに対して114条の場面は、Aはまだ何もしていません。息子Bが父Aに無断で実印を持ち出しただけで、Aは何も承諾していないので、効果はまだAに届いていません。だから黙っていれば、その届いていない状態がそのまま確定して、追認を拒絶したものとみなされるんです。

前の物差しを否定しているわけではありません。Aは、その返事だけで決着をつけられる人なので、黙っていれば決着がつく、というところまでは以前と同じです。違うのは、どちら向きに決着するかです。以前、決着をつけられる人が黙っていたら追認とみなされたのも、そのときの契約が、もともと有効だったからなんです。期間の長さも違います。20条は「一箇月以上の期間」でしたが、114条は「相当の期間」です。事案ごとに変わる期間を許しているところが、20条との違いです。ただ、期間は違っても、黙っていたら今ある状態のまま決着する、という考え方は同じです。20条は有効なまま、114条は効果がAに届かないまま、固まります。

2つ目の手段、取消し(115条)

取消しの板(Cが自分で契約をなかったことにする/取り消すと代金の支払いも土地の引渡し請求も無くなる) 図:取消しの板

  • Cが自分で契約をなかったことにする
  • 取り消すと代金の支払いも土地の引渡し請求も無くなる

2つ目は、取消しです。Aが追認をしない間、Cは自分でこの契約を取り消すことができます。取り消せば、Cはもう代金を払う必要が無くなり、Aの土地の引渡しを求めることもできなくなります。

条文民法115条

民法 第百十五条(無権代理の相手方の取消権) 代理権を有しない者がした契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りでない。

契約の時に、Bに代理権が無いことをCが知っていたときは、取り消せません。取消しは、代理権があると信じて契約したのに宙ぶらりんにされたCを、その不安定な立場から解放するための仕組みだからです。ただし、条文が除外しているのは「知っていたとき」だけです。だから、Cに過失があっても、悪意でさえなければ取り消せます。善意でありさえすればよく、過失の有無は問いません。ここが、このあと見る117条との違いになります。115条で取り消したときの効果は、以前見た取消しとは性質が違います。以前の取消しは、いったん有効に進んでいた契約を、あとから遡って崩すものでした。この契約は、もともと効果がAに届いていません。ですから115条の取消しは、崩す行為ではなく、効果がAに届かないことを確定させて、Aがあとから追認する道を閉じる行為です。取り消してしまうと、Aはもう追認できなくなりますし、Cも、Bに対して117条の責任を追及することはできなくなります。

117条は、Bとの間に、履行か損害賠償かという法律関係を作る制度です。ところが取り消してしまうと、Cが自分からこの契約を降りたことになるので、履行を求める土台そのものが無くなってしまいます。土台が無いところに、責任だけを残すことはできないんです。Aが先に追認すれば、Cはもう取り消せません。Cが先に取り消せば、Aはもう追認できません。どちらかが先に動いた時点で、契約の運命が確定します。

114条と115条の比較板(主観的要件=催告は善意悪意不問・取消しは善意〈行為時〉のみ/行使の効果=催告は追認拒絶の擬制・取消しは効果がAに届かないことを確定させ追認も117条の追及もできなくなる) 図:114条と115条の比較板

  • 主観的要件=催告は善意悪意不問・取消しは善意〈行為時〉のみ
  • 行使の効果=催告は追認拒絶の擬制・取消しは効果がAに届かないことを確定させ追認も117条の追及もできなくなる

ここで、114条と115条を並べて比較しておきます。板を見てください。催告は、Cの善意・悪意を問わず使えて、Aが黙っていれば追認拒絶とみなされます。取消しは、Cが善意であることが要件で、行使すれば効果がAに届かないことが確定し、Aの追認もCの117条追及も、もうできなくなります。

3つ目の手段、無権代理人の責任(117条)

無権代理人の責任の関係図(CからBへ、Cの選択に従い履行または損害賠償を求める) 図:無権代理人の責任の関係図

3つ目は、無権代理人自身の責任です。Cが、「約束どおり土地を渡してほしい」と履行を求めることもできますし、「別の土地を、より高い値段で買い直すことになった、その差額を賠償してほしい」と求めることもできます。

条文民法117条

民法 第百十七条(無権代理人の責任) 1項 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。 2項 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。 一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。 二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。 三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。

履行か損害賠償かを選ぶのはCであって、Bが選ぶのではありません。Bのほうから「損害賠償で済ませたい」と決めることはできません。履行というのは、条文上はB自身がAの土地を渡すことですが、Aの土地はBのものではないので、実際には履行できず、損害賠償になることが多いです。その場合の賠償は、契約が有効だったら得られたはずの利益、つまり履行利益にまで及びます。

117条の要件と3つの例外

117条要件板(原則=①他人の代理人として契約②自己の代理権を証明できない③本人の追認を得られない/責任を負わない=(1)Cが悪意(2)Cが過失で知らなかった〈ただしBが自分に代理権無いと知っていればただし書で責任あり〉(3)Bが行為能力の制限を受けていた) 図:117条要件板

  • 原則=①他人の代理人として契約②自己の代理権を証明できない③本人の追認を得られない
  • 責任を負わない=(1)Cが悪意(2)Cが過失で知らなかった〈ただしBが自分に代理権無いと知っていればただし書で責任あり〉(3)Bが行為能力の制限を受けていた

117条の要件を、条文の構造どおりに整理します。原則として責任が発生するのは、①他人の代理人として契約をした、②自分に代理権があったと証明できない、③本人の追認を得られない、の3つがそろったときです。Bが責任を負わなくてよい場合も、3つあります。1つ目は、Cが、Bに代理権の無いことを知っていた場合。2つ目は、Cが過失によってそれを知らなかった場合。3つ目は、Bが行為能力の制限を受けていた場合です。以前、代理人には行為能力、つまり一人で確定的に有効な取引をする力は要らない、と見ました。代理の効果は本人に届くので、代理人自身の財産は傷つかないからでした。ところが117条の責任は、B自身が、自分の財産で履行や賠償を背負う責任です。そうなると、一人で取引する力が制限されている人を守る、という考え方が、ここではまた働くんです。

2つ目の例外には、ただし書がついています。Cに過失があっても、Bが自分に代理権が無いことを知っていたときは、この例外は働きません。つまりBはやはり責任を負います。自分の非を分かっていながら契約を結んでおいて、Cの落ち度を理由に逃げることは許されない、という意味の規定です。このただし書は、現在の条文になって加わったものです。代理権があったことを、誰が証明しなければならないのか。条文は、「自己の代理権を証明したときを除き」と書いています。つまり、代理権があったことは、Bの側が証明しなければなりません。Cが、代理権の無かったことを証明する必要はありません。

Bの落ち度が無くても負う責任

無過失責任の板(Bに過失が無くても要件を満たせば責任を負う/過失は重大な過失に限られない/代理制度への信頼を守るための責任) 図:無過失責任の板

  • Bに過失が無くても要件を満たせば責任を負う
  • 過失は重大な過失に限られない
  • 代理制度への信頼を守るための責任

Bは、自分に代理権が無いことを知らなかっただけでも、責任を負うことがあります。117条の責任は、Bに落ち度があったかどうかを問わない、無過失責任です。Bが「まさか代理権が無いとは思わなかった」と言っても、要件を満たせば責任を負います。

判例最判昭62・7・7 民集41巻5号1133頁

117条の責任は無過失責任である/無権代理人は表見代理の成立を主張して117条の責任を免れることはできない 117条2項にいう「過失」は、重大な過失に限定されない。117条による無権代理人の責任は……相手方の保護と取引の安全並びに代理制度の信用保持のために、法律が特別に認めた無過失責任である。無権代理人は、117条1項所定の責任を免れる事由として、表見代理の成立を主張することはできない。

なぜそこまで重い責任にしているのか。代理という制度は、代理人と名乗った人を信じて契約したCが、あとで裏切られないことを前提に成り立っています。Bに過失が無くても免責してしまうと、Cは「代理人と名乗った人を信じてよいのか」を毎回疑わなければならなくなります。代理制度そのものへの信頼を守るために、法律がBに特別に重い責任を課しているんです。判決は、もう一つ述べています。117条2項2号の過失は、重大な過失、つまりひどい不注意に限られない、ということです。Bの責任が落ち度を問わない重い責任である以上、Cの側も、ふつうの不注意があれば、この例外に当たりうる、という判断です。判決の最後の一文、表見代理との関係は、このあと見ていきます。

3つの変形で当てはめる

変形当てはめ板(変形①Cに過失・Bは悪意=ただし書で責任あり/変形②Bが代理権ありと思い込み・Cに過失=責任なし/変形③Bが未成年=責任なし〈114条・115条は使える〉) 図:変形当てはめ板

  • 変形①Cに過失・Bは悪意=ただし書で責任あり
  • 変形②Bが代理権ありと思い込み・Cに過失=責任なし
  • 変形③Bが未成年=責任なし〈114条・115条は使える〉

ここまでの要件を、いくつかの場合で当てはめてみます。まず、冒頭の場面そのままです。Bは父Aの代理人として契約し、代理権を証明できず、Aの追認もありません。Cは委任状と実印を確認していて、代理権が無いと知らず、知らなかったことに過失もありません。Bは成人です。3つの例外のどれにも当たらないので、Bは117条の責任を負います。次に、Cに過失があったとします。相場よりかなり高い値段だったのに、Cが一度もAに確認しなかった、という場合です。このとき、Bは責任を負うでしょうか。Cに過失があるなら、117条2項2号で、Bは責任を負わないように見えます。ですが、今回のBは、実印を無断で持ち出しているので、自分に代理権が無いことを知っています。そうなると、2号のただし書が働いて、Cに過失があっても、Bはやはり責任を負います。

ちなみに、同じ場面でも、取消しのほうはCに過失があっても使えます。代理権が無いと知らなかった以上、115条で取り消せるからです。過失が結論に効くのは、117条のほうだけです。次に、別の場合を考えます。もしBが、「以前Aから土地のことは任せると言われた」と勝手に思い込んでいて、実際にはAは何も言っていなかったとします。Cには過失があったとします。この場合、Bはどうなりますか。Bは自分に代理権が無いことを知らなかったので、ただし書は働かず、2号本文どおり、責任を負わないことになります。最後に、もしBが未成年だったとしたらどうでしょうか。117条2項3号で、Bは責任を負わないことになります。未成年のBに、自分の財産で背負う重い責任を負わせない、という先ほどの考え方です。ただし、これはあくまで117条の責任だけの話です。Bが未成年だったとしても、Cが114条の催告や115条の取消しを使うことは妨げられません。

表見代理が使えそうでも、117条は選べる

表見代理との関係板(もしAの側にもBに代理権があるように見える事情があり表見代理でAに請求できそうな場面でも、CはいきなりBに117条を選べる/どちらを使うかはCの自由・Bは表見代理の成立を主張して免責されない) 図:表見代理との関係板

  • もしAの側にもBに代理権があるように見える事情があり表見代理でAに請求できそうな場面でも、CはいきなりBに117条を選べる
  • どちらを使うかはCの自由・Bは表見代理の成立を主張して免責されない

代理権が無くても、本人に効果が届く場合があります。これを表見代理と呼びます。もし、Aの側にも、Bに代理権があるように見える事情があって、表見代理でAに請求できそうな場面だったとしたら、Cはどうすればよいでしょうか。まずAに表見代理を主張しなければならない、と思うかもしれませんが、実は、その必要はありません。CはAへの請求を主張せずに、いきなりBに117条の責任を追及することができます。Bのほうも、表見代理が使えそうだということを理由に、117条の責任を逃れることはできません。先ほどの判決も、無権代理人は表見代理の成立を主張して、117条の責任を免れることはできない、と述べていました。どちらもCを保護するための制度で、どちらを使うかはCが自由に選べます。それに、Bがそう主張するのは、自分が引き起こした無権代理の責任を、Aに押し付ける主張になってしまいます。表見代理は、Cを保護するための仕組みであって、Bを免責するための仕組みではありません。だから、その主張は通りません。

答え合わせ

保存版板(判断の順番=①Aは追認したか②Cは知っていたか〈取消し・117条〉③Cに過失があったか・Bは自分に代理権が無いと知っていたか④Bは制限行為能力者か⑤表見代理が使えそうでも117条は選べる) 図:保存版板

今日の内容を並べ直します。宙ぶらりんに置かれたCには、3つの手段がありました。Aに確答を迫る催告、自分で契約をなかったことにする取消し、そしてBに責任を取らせる117条です。冒頭の3つの問いに答えます。Cがいつまで待たされるかについては、待つ必要はなく、催告で相当の期間を区切ってAに確答を迫れます。Cが自分からできることについては、善意であれば115条で自分から契約を取り消せます。そしてBの責任については、冒頭の場面なら117条の3つの例外のどれにも当たらないので、Bは履行か損害賠償の責任を負います。この責任は、Bに落ち度が無くても負う、重い責任です。催告は、黙っていたら追認拒絶とみなされます。効果がもともとAに届いていないからです。Cの立場で整理するときは、板の順番で確かめます。まずAが追認したか。次にCが代理権の無いことを知っていたか。それからCに過失があったか、あったならBが自分に代理権が無いと知っていたか。そしてBが制限行為能力者か。最後に、表見代理が使えそうな場面でも、117条は選べます。今日はここまでにします。

参照条文

  • 民法114条
  • 民法115条
  • 民法117条

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