民法ゼロから民法#53

無権代理と相続(単独相続)

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第1章 民法総則 ㊿/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

地位が一人に集まったら

息子Bが父Aの実印を無断で持ち出し、Aの代理人と名乗ってAの土地をCに売る契約を結んだ場面の関係図。AからBへの代理権の付与は無く、BからCへの契約だけが成立し、AからCへの効果は追認するまで確定していない。

息子Bが父Aの実印を無断で持ち出し、Aの代理人と名乗って土地をCに売った場面です。Aが追認しなければ効果は届かず、Aが追認すれば契約の時にさかのぼって届きます。

今日は、この場面に一つだけ条件を加えます。もし、AとBのどちらかが、この契約の結末が決まる前に亡くなってしまったらどうなるでしょうか。亡くなれば話が終わる、とはなりません。むしろ、ここから、本人と無権代理人という別々だった二つの立場が、一人の中に集まってしまいます。Aが死んでBがAを相続すれば、Bは無権代理をした本人にも、無権代理をした代理人にもなります。逆にBが死んでAがBを相続すれば、Aもまた両方の立場を一人で背負います。今日は、この二つの場面で、結論が正反対になることを見ていきます。

地位は融合するのか、併存するのか

資格融合説(少数)と資格併存説(通説・判例)を対比した板。融合説=地位が一人に融合し追認拒絶の余地自体が無くなる。併存説=地位は融合せず、本人の資格と無権代理人の資格が別々のまま一人の中に並んで存在する。

地位が一人に集まれば当然に有効になる、と考える説もあります。資格融合説と呼ばれ、本人の地位と無権代理人の地位が一人に融合して、追認や拒絶という選択の余地自体が無くなる、という考え方です。ですが、この説には弱点があります。もし地位が融合してしまうなら、Cが持っていた115条の取消権も、Bが相続した瞬間に消えてしまいます。しかしCは、Bが誰を相続するかとは関係なく、この取消権を持っているはずです。それに、②の場面、つまりBが死んでAが相続する場面でも、地位が融合するなら当然に有効な契約になってしまいます。これではAは、自分が何もしていないのに、契約を押し付けられることになってしまいます。そこで、判例や通説が採るのは、もう一つの考え方です。資格併存説と呼びます。地位は融合せず、Bの中でも本人の資格と代理人の資格は別々のまま並んで存在する、という考え方です。だから、Bは相続しても、追認を拒絶する権利そのものは、まだ持っています。

持っているかどうかと、行使できるかどうかは、別の問題です。次に、行使できるかどうかを見ていきます。

Bは、自分がした無権代理を拒めない

AからBへの相続の矢印を追加した関係図。既存の三面関係(AからBへの代理権無し、BからCへの契約、AからCへの効果は未確定)に、Aの死亡によりBが単独で相続したことを示す矢印が加わっている。 図:AからBへの相続の矢印を追加した関係図

Bは、追認拒絶権をまだ持っています。ですが、思い出してください。この無権代理をしたのは、B自身です。Bが、自分でCと結んだ契約を、あとから「本人としては認めません」と拒むのは、自分がやったことを自分で否定する、矛盾した振る舞いです。たとえば、友人グループの飲み会で、幹事の名前を無断で使って店に予約を入れた人が、その後たまたま自分がそのグループの正式な幹事になったとして、「幹事として、この予約は認めません」と言えるでしょうか。無断で予約を入れたのは自分自身なのに拒むのは筋が通らない、民法もそう考えます。信義則、つまり誠実に振る舞うべきだという原則に反するので、Bは追認拒絶権を行使できません。行使できない結果、Cが履行を求めれば、Bは追認したのと同じ扱いになり、契約は結んだときにさかのぼって有効になります。

条文民法1条2項

民法 第一条第二項(基本原則) 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

判例最判昭和40年6月18日

無権代理人が本人を単独相続すると、本人が自ら法律行為をしたのと同様の地位が生じる 無権代理人が本人を相続し、本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたった場合には、本人が自ら法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当である。

拒絶する権利自体は残っているのに、それを使うと筋が通らないという理由づけは、さきほどの信義則で説明するのが一般的な考え方です。判決はその結論を確定させた、という位置づけになります。

Aがすでに拒絶していたら

Aが死亡する前に「この土地は売らない」とはっきり追認拒絶していた、という場面設定を示した板。この拒絶の後にBが単独相続しても、拒絶の結論は覆らない。

では、Aが生きているうちに、すでに拒絶していたらどうなるでしょうか。以前確認したとおり、本人が一度追認を拒絶したら、あとから本人自身が気を変えて追認することはできません。拒絶した時点で、効果が届かないことが確定します。もしAが生前に、この契約をはっきり拒絶していたなら、その時点でもう決着はついています。そのあとBが相続しても、この決着が覆ることはありません。

さきほどの信義則の話と矛盾するようにも見えますが、矛盾しません。信義則で拒絶を封じるのは、まだ何も決まっていない場合の話です。Aがすでに確定的に拒絶していたなら、封じる対象そのものが残っていません。決着済みの結論の上に、あとから信義則を持ち出す余地は無いんです。

判例最判平成10年7月17日

本人が生前に確定的に追認拒絶をしていれば、その後の相続によっても契約は有効にならない 無権代理行為について本人が生存中に追認を拒絶し、その拒絶が確定的なものであった場合には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではない。

Aは、された無権代理を拒める

BからAへの相続の矢印を追加した関係図。既存の三面関係に、Bの死亡によりAが単独で相続したことを示す矢印が加わっている。Bには配偶者も子もおらず、Aが唯一の相続人である。 図:BからAへの相続の矢印を追加した関係図

場面を切り替えます。今度は逆に、Bが亡くなり、Aが唯一の相続人としてBを相続したとします。Bには配偶者も子もいなかったとします。ここでも、地位は融合せず併存すると考えるので、Aは追認拒絶権を持っています。問題は、さっきと同じように、行使できるかどうかです。今回のAは、自分では何もしていません。実印を渡してもいませんし、委任状も作っていません。無権代理をしたのはBであって、Aではないんです。だから、Aが「この契約は認めません」と拒絶しても、自分がやったことを自分で否定しているわけではなく、矛盾した振る舞いにはなりません。

信義則に反する理由が無いので、Aは追認拒絶権を、そのまま行使できます。さっきの飲み会で言えば、無断で予約を入れたのが自分ではなく、名前を勝手に使われた側の人が、あとで幹事になって「この予約は認めません」と言う場面です。だから、Bは拒めず、Aは拒めます。地位が一人に集まるという入口は同じでも、拒むことが自分のした行為を自分で否定することになるかどうか、その一点で出口が分かれるんです。

判例最判昭和37年4月20日

本人が無権代理人を相続した場合、本人による追認拒絶は信義に反しない 無権代理人を相続した本人が、被相続人がした無権代理行為につき追認を拒絶しても、何ら信義に反するものではない。

それでも、117条の責任は相続する

民法117条1項の全文を示した板。他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。 図:民法117条1項の全文を示した板

ここで終わりにしてしまうと、Cが浮かばれません。もう一つ、確認しておくことがあります。契約の効果がAに届くかどうかと、Bが負っていた責任を誰が引き継ぐかは、別の話です。以前確認した117条を思い出してください。

条文民法117条1項

民法 第百十七条第一項(無権代理人の責任) 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。

Bは、代理権が無いのに契約をした時点で、Aの追認が得られなければ117条の責任を負う、という立場に立っていました。そしてAが追認を拒絶すれば、以前確認した「本人の追認を得られない」がそろうので、責任は消えるどころか確かなものになります。Aは、Bの相続人として、Bが負っていたこの責任を引き継ぎます。背負うのは、Aが自分で何かをしたからではありません。相続とは、亡くなった人の財産だけでなく、その人が負っていた債務も引き継ぐ制度です。117条の責任は、Bが負っていた法律上の債務なので、これも遺産の一部として、Aに引き継がれます。

条文民法896条

民法 第八百九十六条(相続の一般的効力) 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

117条の責任のうち相続で引き継がれる範囲を示した板。損害賠償責任はそのまま引き継がれる。履行責任のうち金銭債務・不特定物の給付義務は引き継がれるが、有力な考え方では特定物である土地の給付義務は引き継がれないとされる。 図:117条の責任のうち相続で引き継がれる範囲を示した板

  • 損害賠償責任はそのまま引き継がれる
  • 履行責任のうち金銭債務・不特定物の給付義務は引き継がれるが、有力な考え方では特定物である土地の給付義務は引き継がれないとされる

引き継ぐ責任の中身は契約の内容とそのままは同じではなく、限度があると考えられています。損害賠償の責任は、そのままAが引き継ぎます。履行の責任、つまり実際に物を渡す義務については、金銭を払う義務や、種類だけ決まっていて特定していない物を渡す義務なら引き継がれます。そして有力な考え方では、今回のような特定の土地を渡す義務は引き継がれない、とされています。この考え方の理由は、Cを不当に得させないためです。Bが生きている間も、Cは、Bにその土地を渡すよう強制することはできませんでした。土地はBのものではなく、Aのものだからです。もしBが死んで、たまたまAが相続したというだけの事情で、Cが今度は土地そのものを手に入れられるようになったら、それは相続という偶然によって、Cを不当に有利にすることになります。ですから、この考え方では、履行の責任のうち特定物を渡す義務は相続の対象から外れ、金銭や不特定物の限度でだけ引き継がれる、とされます。

ですから、Cが117条で「土地を渡してください」と選んでも、Aに土地を渡させることはできません。その場合にCが取れるのは、土地の代わりのお金、つまり損害賠償です。

判例最判昭和48年7月3日

無権代理人を相続した本人は、無権代理人が負っていた117条の責任を免れることができない 無権代理人を相続した本人は、無権代理人が民法百十七条により相手方に対して負担していた債務を免れることができない。

なお、この判決自体は、土地を渡す義務を別扱いにしているわけではありません。履行か損害賠償かを区別せず、Aが117条の責任そのものを免れられない、という一般的な考え方を示したものです。結果として、Cは、Aが追認を拒絶しても、117条によってBの責任を、今はAに対して追及できます。ただし、これは①の場面のように無権代理行為そのものが有効になったわけではありません。あくまで、Bが負っていた責任という別の筋から、Cが救われているだけです。

答え合わせ

①②の場面を並べた比較板。①Aが死亡・Bが単独相続・拒絶できない・理由は矛盾挙動。②Bが死亡・Aが単独相続・拒絶できる・理由は評価対象の行為が無いこと。②では117条の責任のうち金銭・不特定物の限度で相続する。 図:①②の場面を並べた比較板

  • ①Aが死亡・Bが単独相続・拒絶できない・理由は矛盾挙動
  • ②Bが死亡・Aが単独相続・拒絶できる・理由は評価対象の行為が無いこと
  • ②では117条の責任のうち金銭・不特定物の限度で相続する

今日の内容を並べ直します。地位は一人に集まっても融合せず、併存します。分かれ目は、拒むことが、自分のした行為を自分で否定することになるかどうかです。ただし、Aが生前にすでに確定的に拒絶していたなら、その決着は覆りません。冒頭の問いに答えます。息子Bが父Aの実印を無断で持ち出し、Aの代理人と名乗って土地を売った場面で、Aが亡くなりBが単独で相続すると、Bは自分がした無権代理を、本人として拒絶することはできません。逆に、Bが亡くなりAが単独で相続すると、Aは自分がされた無権代理を拒絶することができます。ただし、Aが拒絶しても、Bが負っていた117条の責任は、金銭や不特定物の限度で、Aが相続人として引き継ぎます。

今日はここまでにします。

参照条文

  • 民法1条2項
  • 民法117条1項
  • 民法896条

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