民法ゼロから民法#55

表見代理(全体像)

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第1章 民法総則 #55/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

少しでも関わっていたら

冒頭設例板の再掲。息子Bが父Aの実印を無断で持ち出し、「父Aの代理人です」と名乗ってAの土地をCに売った。Aは何も関与していない。Aが追認しない限り効果はAに届かない。 図:冒頭設例板の再掲

  • 息子Bが父Aの実印を無断で持ち出し、「父Aの代理人です」と名乗ってAの土地をCに売った
  • Aは何も関与していない
  • Aが追認しない限り効果はAに届かない

前回までに、息子Bが父Aの実印を無断で持ち出し、Aの代理人だと名乗ってAの土地をCに売った場面を見てきました。Aが何も関与していなければ、Aが追認しない限り、効果はどうなりましたか?Aが追認しなければ、効果はAに届きませんでした。今日は、その設例に一点だけ手を加えます。もしAが、この取引に少しでも関わっていたらどうなるでしょうか。例えば、Aが前からCに「土地のことはBに任せてある」と言っていたとします。実際にはBに代理権を与えていません。それでもAは「知らなかった」で済ませられるでしょうか。今日はこの問いを、Aの関わり方を変えた3つの場面で追いかけます。前にも名前だけ出てきた、表見代理と呼ばれる制度です。

表見代理とは何か

表見代理の意義板。表見代理とは、代理権が無いのに、一定の条件がそろえば、効果だけを本人に届ける制度。無権代理そのものを消すのではなく、例外的に効果だけを届ける仕組み。 図:表見代理の意義板

  • 表見代理とは、代理権が無いのに、一定の条件がそろえば、効果だけを本人に届ける制度
  • 無権代理そのものを消すのではなく、例外的に効果だけを届ける仕組み

表見代理とは、代理権が無いのに、一定の条件がそろえば、効果だけを本人に届ける制度です。Bには代理権が無く、無権代理であることは変わりません。ただ、一定の条件がそろったときだけ、例外的にその効果がAに届く、という位置づけです。

なぜ本人が責任を負うのか

権利外観法理の3要素板。①代理権があるかのような外観②その外観を本人が作った(本人の帰責性)③相手方がそれを信じ、信じたことに落ち度がない(善意無過失)。3つがそろえば効果は本人に届く。 図:権利外観法理の3要素板

  • ①代理権があるかのような外観②その外観を本人が作った(本人の帰責性)③相手方がそれを信じ、信じたことに落ち度がない(善意無過失)
  • 3つがそろえば効果は本人に届く

例えば、あるお店を思い浮かべてください。そのお店では、店員だけが「STAFF」と書かれた腕章を着けています。客は、腕章を着けている人を店員だと信じて注文します。ある日、腕章を着けた人がレジで会計を済ませました。でも実はその人は店員ではありませんでした。それでも、お店はその会計を認めなければならないのでしょうか。条件がそろえば認めることになります。1つ目は、腕章という「店員に見える外観」があったこと。2つ目は、その外観をお店の側が作った、あるいは作らせてしまったこと。3つ目は、客がその外観を信じて、信じたことに落ち度が無かったことです。この3つがそろうと、お店は自分では雇っていなくても、その接客の結果を引き受けることになります。

お店が悪いわけでもないのに責任を負わされるのは、お店に、腕章を管理できたはずなのにしなかった、という側面があるからです。そして客のほうは、腕章という目に見える証拠を信じただけで、落ち度はありません。どちらに結果を引き受けさせるほうが公平かを考えると、外観を作った側に責任を負わせる、という考え方になります。これを権利外観法理と呼びます。禁反言は、前に信義則から生まれる考え方として見た、「自分がいったん示した態度と矛盾する主張は許されない」という考え方でしたね。表見代理の考え方も、かつてはこの禁反言の原理として説明されていました。今は権利外観法理として整理されていて、どちらで説明しても実質的な違いは無いとされています。Aと土地の場面でも、同じ理屈が働きます。

Aの関わり方で3つに分かれる

3類型の地図板。109条=Cに「Bに任せた」と言っただけ(与えたと言った)/110条=別件の代理権は本当に与えていた(少しは与えた)/112条=以前は与えていたが撤回した(かつて与えた)。3つとも骨格は「外観+本人の関与+相手方の善意無過失」で共通。 図:3類型の地図板

  • 109条=Cに「Bに任せた」と言っただけ(与えたと言った)/110条=別件の代理権は本当に与えていた(少しは与えた)/112条=以前は与えていたが撤回した(かつて与えた)
  • 3つとも骨格は「外観+本人の関与+相手方の善意無過失」で共通

この腕章の話を、Aと土地の場面に置き換えます。Aの関わり方を1点だけ変えた場面が3つあります。もしAが少しでもこの取引に関わっていたとしたら、どの条文が使われそうか、考えてみてください。Aが言葉で「Bに任せた」と示していた場合が、1つ目の場面です。他に、Aが本当に何かの代理権をBに与えていた場合や、以前は与えていたけれど今は無くなっている場合も考えられます。なぜこの3つに分かれるのか。理由は、Aがどういう形で外観づくりに関わったか、その形が違うだけだからです。言葉だけで外観を作った場合、別件の代理権を本当に渡した場合、渡したものをあとから取り戻さなかった場合。どれも、Aの側に「その外観を防げたはずなのに防がなかった」という帰責性があります。この帰責性の作られ方が違うだけで、骨格そのものは同じ1本の理屈です。前に、無権代理には、最初から代理権が無い型、範囲を超えてしまった型、消滅した後にした型の3つがあると見ましたね。今日の3つの場面は、この3つの型を1つずつ、Cが守られるかという側から見直すものです。順番に見ていきます。1つ目は、AがCに「Bに任せた」と表示していた場面です。

場面①与えたと言った

三面関係図。A→Bの代理権の線は無い(実際には与えていない)。A→Cに向けて「Bに任せた」という表示の線が引かれている。B→Cの契約の線は実線。 図:三面関係図

Aは、実際にはBに代理権を与えていません。でも、Aは前からCに「土地のことはBに任せてある」と伝えていました。腕章の話でいえば、腕章そのものは無いのに、店長が客に「あの人は店員です」と直接言って回っていたのと同じです。言葉だけで外観ができてしまう場面です。

条文民法109条

民法第百九条(代理権授与の表示による表見代理等) 1項 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。 2項 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

1項は、Aが表示した範囲そのままの行為に効きます。2項の構造は、少し丁寧に読む必要があります。まず、表示した範囲内の行為をしていたなら1項で責任を負うはずの人、というAの立場を確認します。そのAが、実は範囲を超えた行為までBにされてしまった場合には、Cがその行為についても代理権があると信じるべき正当な理由があるときに限って、Aは責任を負います。つまり、範囲内なら1項でそのまま責任を負う立場の人に、範囲を超えた部分だけ正当な理由という要件を重ねて効かせる規定です。正当な理由の中身は、別の回で扱います。

場面②少しは与えた

三面関係図。A→Bに「別件(銀行でのローン契約締結)の代理権」の実線がある。BはCとの土地の売買という別の行為をした。 図:三面関係図

次は、Aが本当にBへ何かの代理権を与えていた場面です。具体的に言うと、Aが銀行でローン契約を結ぶための代理権をBに与えて、その手続き用に実印を預けていたとします。ところがBは、その代理権とは関係のない、土地の売買までしてしまいました。腕章の話でいえば、仕入れの発注用の腕章だけ渡していたのに、その人がレジ打ちまでしてしまった場面です。

条文民法110条

民法第百十条(権限外の行為の表見代理) 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

「前条第一項本文」とは、さっきの109条1項本文のことです。その仕組みを、代理権はあるけれどその範囲を超えた場合に当てはめる、という条文です。ローン契約を結ぶ代理権と、土地を売る代理権は別のものなので、土地の売買は権限外の行為になります。権限外と言えるかどうかや、正当な理由の判断は、別の回で扱います。

場面③かつて与えた

三面関係図。A→Bにかつて代理権を与えていた線があるが、途中で撤回され消滅した記号(×付き)が加わっている。その後にBがCと契約している。 図:三面関係図

最後は、Aが以前Bに土地の売却を頼んで、そのための委任状と実印を渡していたけれど、途中でその話を撤回した場面です。ところがAは、撤回したのに、委任状と実印をBから取り戻していませんでした。Bはその委任状と実印をCに見せて、土地を売ってしまいました。Cは、撤回されたことを知りませんでした。腕章の話でいえば、以前は本当に店員として腕章を渡していたけれど、辞めさせたのに腕章を返してもらわなかった場面です。Bの手元に残った委任状と実印が、この場面の腕章です。

条文民法112条

民法第百十二条(代理権消滅後の表見代理等) 1項 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。 2項 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。

1項は、かつて与えられていた代理権の範囲内の行為に効きます。2項は109条2項と同じ組み立てです。範囲内なら1項で責任を負う立場だったAが、範囲を超えた行為までBにされた場合には、Cに正当な理由があるときに限って、Aは責任を負います。109条・112条は、どちらも1項が範囲内の場合、2項が範囲を超えた場合に正当な理由を重ねる、という同じ構造です。言っただけか、別件で本当に与えていたか、かつて与えていたか。3つの違いは、Aの関わり方の形だけで、外観ができて、相手方が落ち度なく信じれば効果が届くという骨格は、3つとも同じです。

4場面を並べて見比べる

4場面の比較表。基準点(Aの関与ゼロ・Bの代理権無し・Cを守る条文は無い)/109条(「任せた」と表示・Bの代理権無し)/110条(別件の代理権を与えた・Bの代理権あり〈別件〉)/112条(かつて与えたが消滅・Bの代理権無し〈今は〉)。いずれも相手方Cは善意無過失として置く。 図:4場面の比較表

  • 基準点(Aの関与ゼロ・Bの代理権無し・Cを守る条文は無い)/109条(「任せた」と表示・Bの代理権無し)/110条(別件の代理権を与えた・Bの代理権あり〈別件〉)/112条(かつて与えたが消滅・Bの代理権無し〈今は〉)
  • いずれも相手方Cは善意無過失として置く

もしAが少しでも関わっていたら、どの条文が使われそうか。ここで一度、4つの場面を並べてみます。もう一度考えてみてください。Aが関与ゼロの基準点と、今見た3つの場面です。この表は、場面ごとに、まず「Aの関与」の欄を見て、それから「Cを守る条文」の欄を確認する、という順で読んでください。基準点の場面だけは、Aの関与がゼロなので、Cを守る条文の欄は「条文は無い」となっています。他の3つの場面は、どれかしらの関与があるので、条文が入っています。権利外観法理の3要素を、この4つの場面に当てはめてみましょう。基準点は、外観そのものがありません。Bが無断で持ち出しただけなので、代理権があるように見える手がかりがどこにもないんです。腕章の話でいえば、知らない人がこっそり腕章を作って着けていた場面です。109条の場面は、Aの言葉そのものが外観です。110条の場面は、本当に渡した別件の代理権が、そのまま外観として使われてしまいます。112条の場面は、かつて渡した代理権の名残が、消えたはずなのに外観として残っています。どの場面でも、本人の帰責性と相手方の善意無過失がそろえば、その外観どおりの効果が本人に届きます。

Aへの効果はどれも同じ

共通の効果板。表見代理が成立すれば、相手方は有権代理だった場合と同じ内容を本人に請求できる。3類型のどれで成立しても、この効果自体は変わらない。 図:共通の効果板

  • 表見代理が成立すれば、相手方は有権代理だった場合と同じ内容を本人に請求できる
  • 3類型のどれで成立しても、この効果自体は変わらない

3つとも効果は同じです。109条でも110条でも112条でも、成立すれば、Cは有権代理だった場合と同じ内容を、Aに対して請求できます。今回の設例なら、Cは土地の引渡しと登記の移転をAに求められる、ということです。条文が違うのは、外観がどうやってできたかの違いだけで、外観が認められたあとの帰結は1本にまとまっています。

有権代理に化けるわけではない

表見代理と117条の関係板。表見代理が成立しても、Bが無権代理をした事実は消えない。Cは表見代理を主張せず、117条でBの責任を追及する道を選んでもよい。Bは表見代理が使えることを理由に117条を免れられない。 図:表見代理と117条の関係板

  • 表見代理が成立しても、Bが無権代理をした事実は消えない
  • Cは表見代理を主張せず、117条でBの責任を追及する道を選んでもよい
  • Bは表見代理が使えることを理由に117条を免れられない

表見代理が成立しても、Bに最初から代理権があったことにはなりません。Bが代理権無く行為をしたという事実そのものは変わりません。前に見たとおり、Cはこの制度を使わずに、117条でB自身の責任を追及する道を選ぶこともできます。どちらもCを保護するための制度で、どちらを使うかはCが自由に選べます。Bのほうから「表見代理が成立しそうだから」といって117条の責任を免れることもできません。表見代理は、Aに効果を引き受けさせるための制度であって、Bを無権代理から救い出すための制度ではないからです。Bが代理権無く行為をした責任は、表見代理が成立するかどうかとは別に、そのままBに残ります。だからCは、Aに請求してもよいし、Bに117条で請求してもよい、という2つの道を持ち続けます。

表見代理は、無権代理を有効な代理に変える制度ではなく、一定の条件のもとで、その効果だけをAに引き受けさせる制度です。

答え合わせ

保存版板。関与ゼロ(届かない)/109条(言っただけ)/110条(別件で与えた)/112条(かつて与えた)の4場面横並び。共通の効果=有権代理と同内容の請求。表見代理が成立してもBの117条責任は消えない。 図:保存版板

  • 関与ゼロ(届かない)/109条(言っただけ)/110条(別件で与えた)/112条(かつて与えた)の4場面横並び
  • 共通の効果=有権代理と同内容の請求
  • 表見代理が成立してもBの117条責任は消えない

今日の内容を並べ直します。表見代理とは、代理権が無いのに、一定の条件がそろえば、効果だけを本人に届ける制度でした。Aが少しでも取引に関わって代理権があるように見える外観を作り、Cがそれを落ち度なく信じたなら、Aは効果を引き受けることになります。Aの関わり方によって、言っただけの109条、別件で本当に与えていた110条、かつて与えていたが消えた112条に分かれますが、成立すれば効果はどれも同じです。冒頭の問いに戻ります。Aが前からCに「土地のことはBに任せてある」と言っていたなら、Bに代理権が無いことは変わらなくても、Aは「知らなかった」では済みません。109条によって、Cが落ち度なく信じていた限り、効果はAに届きます。もう一度確認します。基準点の場面と、今日見た109条の場面とで、Cへの効果はどう変わりますか?

基準点ではAが追認しない限り届きませんが、109条の場面ではCが落ち度なく信じていれば効果がAに届きます。そして、この制度が使えても、Bが無権代理をした責任そのものは消えません。今日はここまでにします。

参照条文

  • 民法109条
  • 民法110条
  • 民法112条

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