無権代理と相続(共同相続・後見人就職)
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第1章 民法総則 #54/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
相続人が一人から二人に増えたら

図:AをBとDの2人が相続する場面の関係図
前回は、Bが一人で相続したので、Bは自分がした無権代理を拒めない、という結論になりました。今日は、そこに一点だけ条件を加えます。もしAに、Bのほかに妹Dがいて、AをBとDの2人で相続したらどうなるでしょうか。Aの配偶者はすでに亡くなっていたとします。Bの取り分だけは届くのでは、と多くの人が考えます。ですが、判例はそう考えません。今日はその理由を、共同相続・二段階の相続・後見人になる場合・土地そのものを譲り受ける場合の4つの場面で追いかけます。
条文民法900条4号
民法 第九百条第四号(法定相続分) 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
まず前提を確認します。BとDは、どちらもAの子です。900条4号により、相続分は等しく分けられるので、BとDはそれぞれ2分の1ずつ相続します。
一部有効説と全部無効説
図:一部有効説と全部無効説を対比した板
- 一部有効説=Dは拒絶できるがBは拒絶できない→Bの相続分(2分の1)の限度で有効→土地はDとCの共有になる
- 全部無効説(判例)=追認する権利は相続人全員に不可分的に帰属→全員が共同で追認しない限り、Bの相続分の部分も当然には有効にならない→土地はBとDの共有のまま、Cには届かない
Bの取り分だけ届く、という考え方もあります。板の左側を見てください。Dは拒絶できる、けれどBは自分がした無権代理なので拒絶できない。だったら、Bの相続分である2分の1の限度でだけ、契約の効果が届いてよいはずだ、という考え方です。これを一部有効説と呼びます。この考え方だと、土地はDとCの共有になります。一見、Bの相続分の限度でならうまく収まりそうに見えます。ですが判例は、板の右側、全部無効説と呼ばれる考え方を採ります。全員がそろって追認しない限り、Bの相続分に当たる部分についても、当然には有効になりません。この場合、土地はBとDの共有のまま、Cには届かないことになります。判決が挙げる理由はこのあと見ますが、結論の座りのよさは帰結からも分かります。一部有効説だと、Cは土地を半分だけ、面識のないDと共有することになります。Dも、自分は拒絶したのに、兄Bのしたことのせいで、Cとの共有を押しつけられます。どちらも望んでいない形なんです。
判例最判平成5年1月21日
追認する権利は相続人全員に不可分に帰属し、全員がそろって追認しない限り無権代理人の相続分についても当然には有効とならない 無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属する……他の共同相続人全員の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分に相当する部分においても、当然に有効となるものではない。
判決が述べる理由は一点だけです。追認する権利は、性質上、相続人全員に不可分に帰属する。分けることができない1個の権利として、BとDが2人で持っている、という考え方です。「全部無効説」という呼び名に「無効」と入っていますが、中身は今までと同じ「届かない」の話です。みんなで持っている権利が、まだ使われていない状態だと考えてください。ちなみに、Cが117条でBに履行を求めて、Bの持分だけでも取れないか、という問題もあります。これには、Bが遺産分割の結果として土地を一人で相続したときにだけ、この責任追及を認めてよい、という考え方があります。半分の持分だけを渡されても、Cは土地を自由に使えず、Dとの共有を押しつけられるだけで、買った土地を渡してもらったことにはならないからです。
1個の権利を2人で持つとは
図:金庫のたとえを示す板
- 鍵穴が1つしかない金庫にBとDが1本の鍵を一緒に持っている
- 金庫を開けるには2人が同時に鍵を回す必要がある
- Bだけが回そうとしても、Dが手を離せば金庫は開かない
- 金庫には部分的に開く機能が無い=開くか開かないかの2択しかない
鍵穴が1つしかない金庫を想像してください。その金庫の鍵は1本しかなく、BとDが一緒に持っています。開けるには、2人が同時に鍵を差し込んで回さないといけません。Bだけが回そうとしても、この金庫は開きません。この金庫には、もう一つ大事な特徴があります。「半分だけ開く」という機能が、そもそも無いんです。開くか、開かないかの2択しかありません。だから、Bが自分の無権代理を理由に「回さない」という選択を封じられても——それは信義則の話で、前回と同じ理由です——それだけでは金庫は開きません。Dが手を離している限り、金庫は閉まったままです。
反対に、Dも一緒に鍵を回せば、つまりBとDがそろって追認すれば、金庫は開いて、契約の効果は届きます。前回のようにBひとりが鍵を持っていたなら、Bが閉めておけない以上、開いたのと同じでした。Bが拒めないというのは、金庫を閉めておく力をBが失った、という話であって、Dの側から鍵を回してもらわなければ、そもそも金庫は開かないんです。
似ているようで違う場面・二段相続
図:A・B・Eの3人の関係と2回の相続を示す図
次は、単独相続と似ているようで、少し形が違う場面です。この場面だけ、Aの子はBだけとし、Bには子のEがいたとします。Bが先に亡くなり、Eが唯一の子としてBの地位を相続します。Bの地位というのは、無権代理をした人の地位のことです。そのあと、Aが亡くなります。Bはもう亡くなっているので、EがBに代わって、代襲相続という形でAの地位、つまり本人の地位を引き継ぎます。結果として、Eは無権代理人の地位と、本人の地位を、2回の相続を通じて両方受け継ぐことになります。
条文民法887条1項・2項
民法 第八百八十七条第一項・第二項(子及びその代襲者等の相続権) 1項 被相続人の子は、相続人となる。 2項 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
では、自分では何もしていないEも、本人の地位に立ったら拒めないのでしょうか。判決は、まさにその疑問を先に取り上げて、退けています。無権代理人を相続した人は、無権代理人の法律上の地位をまとめて引き継ぐのだから、その人があとから本人を相続した場合も、同じように扱うべきだ。自分が無権代理をしていないからといって、別に扱う理由は無い、と述べています。
判例最判昭和63年3月1日
無権代理人を相続した者がその後本人を相続した場合も追認拒絶はできない 無権代理人を相続した者は、無権代理人の法律上の地位を包括的に承継するのであるから、一旦無権代理人を相続した者が、その後本人を相続した場合においても、この理は同様と解すべきであつて、自らが無権代理行為をしていないからといつて、これを別異に解すべき根拠はなく……
自分がやっていないのに拒めないというのは、たしかに酷に思えるかもしれません。ここで前回の、Bが先に亡くなってAがBを相続した場面と比べてください。あのときAは、自分がされた無権代理を拒めました。Eも自分では何もしていない点は同じですが、Eが先に引き継いだのは、無権代理をしたBの側の地位なんです。地位を引き継ぐというのは、良いところだけでなく、この拒めないという不自由さも一緒に引き継ぐ、ということなんです。
似ているようで違う場面・後見人になったら
図:単独相続と後見人就職を対比した板
- 単独相続=Aが死亡・Bが本人の地位を相続・拒絶は自分の無権代理を自分で否定するので信義則違反
- 後見人就職=Aは生きている・Bは後見人として本人の代理権を行使する立場・原則として拒絶は信義則違反にならない
- 理由=後見人は本人の利益のために職務を行う義務を負う
Bが後見人になる場面は、単独相続と形はたしかに似ています。無権代理のあと、Aが認知症で判断能力を失い、家庭裁判所がBを、以前見た成年後見人に選んだ場面です。ですが、決定的に違う点が一つあります。Aが死んでいない点が決定的な違いです。単独相続では、Aは死んでいて、Bが本人の地位そのものを受け継ぎました。今回はAは生きています。Bは本人の地位を受け継いだのではなく、Aのために、Aの代理人として代理権を行使する立場に立っただけです。
条文民法859条1項
民法 第八百五十九条第一項(財産の管理及び代表) 後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
条文民法869条
民法 第八百六十九条(委任及び親権の規定の準用) 第六百四十四条及び第八百三十条の規定は、後見について準用する。
条文民法644条
民法 第六百四十四条(受任者の注意義務) 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
後見人には、本人の財産を管理し、代表する権限があります。そして869条が644条を準用しているので、後見人は委任の受任者と同じように、善良な管理者としての注意をもって、本人の利益のために職務を行う義務を負います。だからBは、今回は本人の立場を「引き継いだ」のではなく、本人のために働く係になった、というほうが近いんです。拒むことは、自分の無権代理を自分で否定することではなく、後見人としての職務、つまりAの利益を守ることそのものです。だから判決は、単独相続とは反対に、原則として拒絶は信義則に反しない、とします。
判例最判平成6年9月13日
後見人は原則として本人の無権代理人がした行為の追認拒絶権を含む代理権を行使できるが取引関係に立つ当事者間の信頼を裏切り正義の観念に反するような例外的な場合は許されない 禁治産者の後見人は、原則として、禁治産者の財産上の地位に変動を及ぼす一切の法律行為につき禁治産者を代理する権限を有するものとされており(民法八五九条、八六〇条、八二六条)、後見人就職前に禁治産者の無権代理人によってされた法律行為を追認し、又は追認を拒絶する権限も、その代理権の範囲に含まれる。……当該法律行為を代理してすることが取引関係に立つ当事者間の信頼を裏切り、正義の観念に反するような例外的場合には、そのような代理権の行使は許されないこととなる。
判決文の「禁治産者」というのは、今の成年被後見人のことです。平成11年の改正で制度が今の成年後見に改められましたが、後見人が本人の財産について代理権を持つという点は変わっていません。判決は、考える手がかりをいくつか挙げています。契約に至る経緯や契約の内容、追認すれば本人がどれだけ不利益を受けるか、拒絶すれば相手方がどれだけ不利益を受けるか、無権代理をした人と後見人になった人がどういう関係にあるか、そして相手方が本人の判断能力についてどこまで分かっていたか、といった事情です。これらを見て、取引関係に立つ当事者間の信頼を裏切ると言えるかどうかを判断します。方向だけ示すと、たとえばAの入院費を用意するための売買で、値段も相場どおり、Cも誠実に代金をそろえていた、という事情が重なれば、拒絶は信頼を壊す側に傾きます。反対に、相場よりずっと安く、追認するとAが大きく損をするなら、拒むのは後見人の仕事そのもので、原則どおり許されます。
実は、この判決の事件では、無権代理をした人と後見人になった人は別の人でした。今日の設例のように、同じBが両方を担うケースそのものではありません。ですが、後見人は本人の利益のために職務を行う義務を負う、という制度の趣旨から考えれば、無権代理をした人自身が後見人になった場合も、同じ枠組みで判断されるはずです。
Bが土地そのものを譲り受けたら
図:Bが後にAから土地を贈与または売買で譲り受けた場面を示す板
最後にもう一つ、別の場面を見ます。Aが亡くなるわけではなく、Bが生きているAから、この土地そのものを、贈与か売買で譲り受けたとします。Bが土地の持ち主になっただけで無権代理の問題が解決するように思いたくなりますが、判決はそう考えません。Bが土地を手に入れただけで、無権代理行為が当然に有効になるわけではないんです。
条文民法117条1項
民法 第百十七条第一項(無権代理人の責任) 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
判例最判昭和41年4月26日
無権代理人が相手方の選択により履行を選んで不動産の所有権を取得した場合には無権代理人自身と相手方との間に契約が成立したと同様の効果を生ずる 無権代理人は、民法百十七条の定めるところにより、相手方の選択に従い履行又は損害賠償の責に任ずべく、相手方が履行を選択し無権代理人が不動産の所有権を取得するにいたつた場合においては、前記売買契約が無権代理人自身と相手方との間に成立したと同様の効果を生ずる。
以前確認した117条を思い出してください。Bは、代理権を証明できず、Aの追認も得られなければ、相手方Cの選ぶとおりに、履行か損害賠償の責任を負う立場でした。CがここでBに履行を選び、Bが実際に土地の所有権を手に入れると、その時初めて、Bと相手方Cとの間で、契約が成立したのと同じ効果が生じます。土地を持っただけでは何も起きません。Cが履行を選ぶことと、Bが土地の所有権を手に入れること、この2つがそろって初めて、Bと契約したのと同じ扱いになります。なぜ土地を手に入れただけでは足りないのか。117条では、履行か損害賠償かを選ぶのはCでした。Cが、もう土地は要らない、お金で解決したい、と損害賠償を選べば、Bが土地を持っていても、契約の効果は生じません。選ぶ権利をCから取り上げないために、Cの選択を待つんです。
答え合わせ
図:単独相続・共同相続・二段相続・後見人就職の4場面を並べた比較板
- 単独相続=Bが拒絶できない(矛盾挙動)
- 共同相続=Dが拒絶すればBの相続分も届かない(追認権が不可分に帰属)
- 二段相続=Eは本人の資格でも拒絶できない(地位を包括的に承継)
- 後見人就職=原則として拒絶できる(Aは生存・後見人は本人のために職務を行う)
今日の内容を並べ直します。共同相続では、追認する権利は1個の権利としてBとDに不可分に帰属するので、Dが拒絶すれば、Bの相続分についても効果は届きません。二段相続では、Eは自分で無権代理をしていなくても、地位を包括的に受け継いだ以上、本人の資格でも拒絶できません。後見人就職では、Aが生きていて、Bは本人のために職務を行う立場に立つので、原則として拒絶できます。そして、Bが後から土地そのものを手に入れても、Cが117条の履行を選んで初めて、契約したのと同じ効果が生まれます。冒頭の問いに答えます。息子Bが父Aの実印を無断で持ち出し、Aの代理人と名乗って土地を売った場面で、AをBと妹Dの2人が相続すると、Dが追認を拒絶すれば、Bの相続分に当たる部分も届きません。せめてBの取り分だけでも、とはいかないんです。
一人で相続するか、二人で相続するかで、結論はこれだけ変わります。今日はここまでにします。
参照条文
- 民法900条4号
- 民法887条1項・2項
- 民法859条1項
- 民法869条
- 民法644条
- 民法117条1項