民法ゼロから民法#70

条件

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第1章 民法総則 #70/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

まだ起きていない出来事と約束

冒頭設例板。父Aが息子Bに「この試験に合格したら、この時計をあげる」と言った。合格できなかったら?父が時計を売ってしまったら? 図:冒頭設例板

  • 父Aが息子Bに「この試験に合格したら、この時計をあげる」と言った
  • 合格できなかったら?父が時計を売ってしまったら?

前回は、表見代理の5つの経路を1枚の板にまとめました。どの経路でも軸になっていたのは、本人の意思がどこまで関与していたかでしたね?今日から見るのは、少し違う切り口です。本人の意思が、まだ起きていない出来事にどう結びつくか、という話です。父Aが息子Bに、こう言いました。「この試験に合格したら、この時計をあげる」。もし息子が合格できなかったら、この約束はどうなるでしょうか。では、もし父が、息子が合格しそうになったのを見て、「やっぱりやめた」と言って時計を売り払ってしまったらどうでしょうか。まだ起きていない出来事に賭けた約束を、法律がどう守るのか。今日はそれを見ていきます。

条件と期限の対比

対比板。附款=法律行為の効力の発生・消滅を当事者の意思で結びつける付属の意思表示。条件=将来発生するかどうか不確実な事実(例:試験に合格すること)。期限=将来発生することが確実な事実(例:来年の4月1日になること、いつか死ぬこと)。 図:対比板

  • 附款=法律行為の効力の発生・消滅を当事者の意思で結びつける付属の意思表示
  • 条件=将来発生するかどうか不確実な事実(例:試験に合格すること)
  • 期限=将来発生することが確実な事実(例:来年の4月1日になること、いつか死ぬこと)

法律行為の効力は、当事者が何も付け加えなければ、成立と同時にそのまま生じます。しかし当事者は、その効力の発生や消滅を、将来の出来事に結びつけることができます。この付け加えを附款と呼びます。以前、契約が効くまでの四つの関門を見ました。その四つ目、効力がいつから生じるかを決める効力発生要件のところで、「試験に合格したら」という条件と、「来年の四月になったら」という期限を少しだけ見ました。今回はその中身です。附款には条件と期限がありますが、この2つを分ける基準はたった1つです。その出来事が、起きるかどうか分からないか、それとも必ず起きるかです。条件は将来発生するかどうか不確実な事実にかかります。期限は将来発生することが確実な事実にかかります。

確実に起きるものが期限だとすると、いつ起きるか分からなくても期限なんですか。なります。「いつか死んだら」という出来事は、いつ来るか分かりませんが必ず来ます。これは期限です。「試験に合格したら」は、そもそも起きるかどうか自体が分かりません。これは条件です。

127条・停止条件と解除条件

時間軸イメージ板。契約時点では効力なし→合格という条件成就の時点で効力が発生する(停止条件)。契約時点で効力あり→不合格という条件成就の時点で効力が消える(解除条件)。 図:時間軸イメージ板

  • 契約時点では効力なし→合格という条件成就の時点で効力が発生する(停止条件)
  • 契約時点で効力あり→不合格という条件成就の時点で効力が消える(解除条件)

父Aが息子Bに言った「合格したら時計をあげる」を、条文に当てはめます。

条文民法127条1項〜3項

民法第百二十七条(条件が成就した場合の効果) 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。 解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。 当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従う。

成就した時から効力が生じる条件を、停止条件と呼びます。合格するまでは、時計をあげるという効力そのものが止まっている状態です。合格した時点で、初めて効力が生じます。成就した時から効力を失う条件が、解除条件です。設例を少し変えます。父Aが先に時計を息子Bに渡しておいて、「もし試験に落ちたら、この時計を返しなさい」と言ったとします。この場合、時計を渡す効力はすでに生じていて、不合格という出来事が起きた時に、その効力が失われます。3項も見ておきます。条件が成就した効果は、成就した時から生じるのが原則です。合格した瞬間からあげる約束が効力を持ち、不合格が確定した瞬間から返す義務が生じる、という具合に、遡って効力が生じたり失われたりはしません。ただし当事者が、成就した効果を成就より前の時点にさかのぼらせると決めていれば、その意思に従います。

同じ「試験」という出来事でも、効力を生じさせる向きに使えば停止条件、失わせる向きに使えば解除条件になります。

出世払いは条件か期限か

出世払い特約の板。「出世したら返す」という約束で貸したお金。判例=不確定期限。出世しないことが確定した時点でも支払義務が生じる。 図:出世払い特約の板

  • 「出世したら返す」という約束で貸したお金
  • 判例=不確定期限
  • 出世しないことが確定した時点でも支払義務が生じる

ここで、条件と期限の区別が単なる言葉の問題ではないことを示す例を見ます。「出世したら返す」という約束で貸したお金、いわゆる出世払いの特約です。これは条件でしょうか、期限でしょうか。実は、判例はこれを期限、それも、いつ来るかは分からないが必ず来る不確定期限だと考えます。出世しなかった場合でも、出世しないことが確実になった時点で、支払う義務が生じる、というのが判例の考え方です。出世するという出来事そのものは不確実でも、「出世するか、出世しないと確定するか、そのどちらかは必ず起きる」と捉えます。どちらに転んでも、いつかは支払いという効力が生じる、という当事者の意思を読み取っているのです。お金を貸した人が、相手が出世しなければ返してもらわなくてよい、つまりあげてしまうつもりだったとは、普通は考えられないからです。

条件と期限の区別は、条文の言葉づかいではなく実質で決まる問題だということを、この例は示しています。

条件になじまない行為

条件になじまない行為の板。身分行為(婚姻・養子縁組)=原則不可(身分秩序の安定)。単独行為(相殺など)=原則不可(相手方の地位の不安定化を防ぐ)。例外=相手方に不利益がない条件付き単独行為。 図:条件になじまない行為の板

  • 身分行為(婚姻・養子縁組)=原則不可(身分秩序の安定)
  • 単独行為(相殺など)=原則不可(相手方の地位の不安定化を防ぐ)
  • 例外=相手方に不利益がない条件付き単独行為

すべての法律行為に、自由に条件をつけられるわけではありません。婚姻や養子縁組のような身分行為には、原則として条件をつけられません。なぜですか。身分関係が条件の成否という不安定な状態に置かれると、身分秩序そのものが揺らぐからです。単独行為も、原則として条件になじみません。例えば相殺は、条件をつけることが明文で禁止されています。それも同じ理由ですか。少し違います。単独行為は相手方の同意なしに一方的な意思表示だけで効力が生じる行為なので、そこに条件をつけると相手方の地位がいつまでも不安定になってしまいます。ただし、相手方に不利益がない条件であれば例外的に許されます。期限内に履行しなければ契約を解除する、という条件付きの解除の意思表示などがその例です。

条件付きの権利は守られる

期待権の板。条件成否未定の間の地位も権利として保護される。128条=相手方の利益を害してはならない。129条=処分・相続・保存・担保ができる。 図:期待権の板

  • 条件成否未定の間の地位も権利として保護される
  • 128条=相手方の利益を害してはならない
  • 129条=処分・相続・保存・担保ができる

合格するかどうかがまだ決まっていない間、息子Bは何も持っていないのでしょうか。実は、民法はこの「まだ決まっていない間」の地位も、権利として保護します。保護しなければ、条件が成就しそうになった途端に相手が目的物を処分できてしまい、条件付きの約束が意味を失うからです。

条文民法128条

民法第百二十八条(条件の成否未定の間における相手方の利益の侵害の禁止) 条件付法律行為の各当事者は、条件の成否が未定である間は、条件が成就した場合にその法律行為から生ずべき相手方の利益を害することができない。

条文民法129条

民法第百二十九条(条件の成否未定の間における権利の処分等) 条件の成否が未定である間における当事者の権利義務は、一般の規定に従い、処分し、相続し、若しくは保存し、又はそのために担保を供することができる。

128条は、条件の成否が未定の間、相手方の利益を害してはならないと定めています。設例に戻ります。父Aが、息子Bの合格が近づいているのを見て、「やっぱりやめた」と時計を売ってしまったとします。これは、Bが持っている条件付きの期待、いわゆる期待権を害する行為です。128条に違反するので、もし息子が試験に合格すれば、父は時計そのものを渡せなくても、損害賠償の責任を負います。129条は、条件の成否が未定の間の権利義務も、一般のルールに従って、処分したり、相続したり、保存したり、担保に供したりできる、という規定です。まだ成就していない権利でも、財産として扱ってよいということです。

130条1項・条件成就の妨害

関係図。A(依頼者)→B(仲介業者)へ「売却が成立したら仲介手数料を払う」という条件付きの約束。A(依頼者)→C(買主)へ、Bを排除して直接契約する矢印。 図:関係図

条件の成就をめぐって不誠実な行為をした当事者には、民法は制裁を用意しています。

条文民法130条1項

民法第百三十条第一項(条件の成就の妨害等) 条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。

設例で確認します。Aが不動産業者Bに、「この土地の売却が成立したら、仲介手数料を払う」と約束したとします。ところがAは、Bを排除して、買主Cと直接契約してしまいました。Aが故意にBの仲介という条件の成就を妨げたと認められれば、Bは、条件が成就したものとみなすことができます。判例にも、同じ構造の事件があります。

判例最判昭和39年1月23日民集18巻1号99頁

条件成就の妨害の認定 山林売却の斡旋を依頼し、一定額以上で売れたら報酬を払うと約束した所有者が、斡旋した者を通さずに直接売却した行為が、条件成就の故意の妨害にあたるかが争われた。

最高裁は、この直接売却を条件成就の故意の妨害と認め、所有者は報酬の支払義務を免れないとして、原判決を破棄し、審理をやり直させました。ポイントは2つあります。まず、「故意」に限られること。過失で妨げただけでは足りません。もう1つは、「みなすことができる」という文言です。条件が成就したという効果が自動的に生じるのではなく、Bの側から成就を主張できる、という選択の余地を認めた規定です。

130条2項・不正な成就

関係図。B(違約金を受け取る側)→C(客を装った知人)へ、Aに注文するよう指示する矢印。C→A(作らないと約束した側)へ、当初は別仕様で注文し、製作途中で禁止された留め具付きに変えるよう迫る矢印。 図:関係図

では反対に、条件が成就すると得をする側が、ずるい手で成就を作り出したらどうでしょうか。

条文民法130条2項

民法第百三十条第二項(条件の成就の妨害等) 条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。

設例です。AB間で、「Aは今後この商品を作らない。もし作ったら、Bに違約金を払う」という和解をしたとします。ところがBは、知人に客を装わせて、最初は別の仕様で注文させ、Aが製作を始めた段階で、禁止された仕様に変えるよう迫らせました。Bが不正にその条件を成就させたと認められれば、Aは、その成就はなかったものとして扱えます。判例にも、同じ考え方を示したものがあります。

判例最判平成6年5月31日民集48巻4号1029頁

故意による条件成就 製造販売をしない約束に違反すれば違約金を払うという和解で、違約金を受け取る当事者が、関係者に客を装わせて注文させ、製作途中で禁止された仕様に変えるよう迫って作らせた行為が問題になった。

最高裁は、条件を故意に成就させた側は、130条の類推適用により、条件が成就しなかったものとみなされうると判断しました。この考え方が、いまの130条2項として条文になっています。ここは、よく問われる違いです。130条1項は「故意」、130条2項は「不正に」となっています。なぜ2項だけ、より絞られた要件になっているのでしょうか?条件が成就することを故意に妨げる側の行為は、そもそも正当な理由があるとは考えにくいものです。ところが条件を成就させる側には、正当な努力による成就も含まれてしまいます。今日の例で言えば、息子Bが必死に勉強して試験に合格するのも、「故意に条件を成就させた」行為の一種です。これを制裁の対象にしてしまうと、正当な努力まで巻き込んでしまいます。だから2項は、「不正に」という言葉で、正当な行為を外側に置き、不誠実な手段だけに絞りをかけているのです。1項は妨げる側だから絞りが弱く、2項は成就させる側だから絞りを強めている、ということです。

特殊な条件4類型

品質検査の板。条件の中身そのものに問題がある4つの類型。既成条件=もう結果が出ている。不法条件=内容が違法。不能条件=実現不可能。随意条件=債務者の気分次第。 図:品質検査の板

  • 条件の中身そのものに問題がある4つの類型
  • 既成条件=もう結果が出ている
  • 不法条件=内容が違法
  • 不能条件=実現不可能
  • 随意条件=債務者の気分次第

最後に、条件そのものの中身に問題がある4つの類型を見ます。まず既成条件です。

条文民法131条1項・2項

民法第百三十一条(既成条件) 条件が法律行為の時に既に成就していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無条件とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無効とする。 条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無効とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件とする。

条件をつけたつもりでも、実はその出来事がすでに起きていた、あるいは起きないことがすでに確定していた場合です。もし試験の合格発表がすでに出ていて、父がそれを知らずに「合格したら時計をあげる」と言っていたら、どうなるでしょうか。もう結果が出ているなら、条件をつける意味がない気がします。条件はもう賭けではなく、単なる過去の事実の確認になっています。停止条件なら、もう成就しているので、無条件の約束としてそのまま有効です。逆に不成就が確定していたなら、停止条件は無効になります。解除条件は向きが逆です。「不合格だったら時計を返してもらう」という約束だったのに、不合格がもう決まっていたらどうでしょう。渡した瞬間に返す理由がそろっていて、効力を持たせる意味がありません。だから無効です。反対に、合格がもう決まっていたら、返す場面は来ません。ただの贈与として、無条件になります。次は不法条件です。

条文民法132条

民法第百三十二条(不法条件) 不法な条件を付した法律行為は、無効とする。不法な行為をしないことを条件とするものも、同様とする。

「人を殴ったら10万円払う」のように、不法な行為を条件にした法律行為は無効です。逆に「人を殴らなかったら10万円払う」のように、不法な行為をしないことを条件にする場合も、同じく無効です。犯罪をしないという条件なら悪いことではない、と思うかもしれません。しかし、本来、してはいけないことをしないのは当然です。その当然のことにお金という対価を結びつけると、不法な行為を取引の材料にすることになり、社会の秩序に反すると扱われるからです。次は不能条件です。

条文民法133条1項・2項

民法第百三十三条(不能条件) 不能の停止条件を付した法律行為は、無効とする。 不能の解除条件を付した法律行為は、無条件とする。

そもそも実現不可能な出来事を条件にした場合です。停止条件が不能なら、その法律行為は無効です。永遠に成就しない条件に、効力の発生を賭けているからです。逆に、解除条件が不能なら、その法律行為は無条件になります。永遠に効力を失う出来事が起きないので、最初から無条件の約束と同じ扱いになります。最後は随意条件です。

条文民法134条

民法第百三十四条(随意条件) 停止条件付法律行為は、その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無効とする。

停止条件が、単に債務者の意思だけにかかっている場合です。「気が向いたら時計をあげる」というような約束です。それは、約束と呼べるんですか。呼べません。だから無効とされています。債務者の胸先三寸で成就するかどうかが決まるなら、それはもう法的な拘束力のある約束とは言えない、という考え方です。

効果一覧表(保存版)。既成条件=成就済みなら停止→無条件・解除→無効、不成就確定なら停止→無効・解除→無条件。不法条件=常に無効。不能条件=停止→無効、解除→無条件。随意条件(停止条件が債務者の意思のみによる場合)=無効。 図:効果一覧表

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  • 既成条件=成就済みなら停止→無条件・解除→無効、不成就確定なら停止→無効・解除→無条件。不法条件=常に無効。不能条件=停止→無効、解除→無条件。随意条件(停止条件が債務者の意思のみによる場合)=無効。

ここで、4つの類型を1枚の表にまとめます。軸は共通しています。条件の中身そのものが適法か、実現可能か、当事者の意思だけに委ねられていないか、という品質検査です。既成条件は、もう結果が出ているかどうかで停止・解除それぞれの結論が変わります。不法条件は、内容そのものが違法なので常に無効です。不能条件は、停止条件なら無効、解除条件なら無条件になります。随意条件は、停止条件が債務者の意思のみによる場合に無効です。

答え合わせ

冒頭設例板の再掲。合格できなかったら?父が時計を売ってしまったら? 図:冒頭設例板の再掲。合格できなかったら?父が時計を売ってしまったら?

今日の内容をまとめます。条件は、将来起きるかどうか不確実な出来事に効力をかからせる附款で、期限とは不確実か確実かで区別されます。停止条件は成就で効力が生じ、解除条件は成就で効力を失います。条件成就前の権利も期待権として保護され、条件成就をめぐる不誠実な行為には130条の制裁が用意されています。冒頭の問いに戻ります。息子が合格できなかったら、停止条件は成就しないので、時計をあげるという効力はそもそも生じません。父が、息子の合格が近づいたのを見て時計を売ってしまったら、128条に違反する行為として、損害賠償の責任を負う可能性があります。もし父が、わざと息子の受験を妨害していたら、130条1項で、合格したとみなされることもあります。

この妨害や不正成就の要件は、論文でも論点になりえます。今日はここまでにします。

参照条文

  • 民法127条1項〜3項
  • 民法128条
  • 民法129条
  • 民法130条1項
  • 民法130条2項
  • 民法131条1項・2項
  • 民法132条
  • 民法133条1項・2項
  • 民法134条

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