期限と期間の計算
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第1章 民法総則 #71/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
猶予はいつ終わるか
図:冒頭設例板
- 4月1日午後2時、AがBに10万円を「10日後に返す」約束で貸した
- 返す日はいつか
- 叔父Aが甥Bに「私が死んだら、この家をあげる」という約束は条件か期限か
前回は、条件を見ました。「この試験に合格したら、この時計をあげる」という約束、これが実現するかどうかは、契約の時点で分かっていましたか?違います。分かりませんでした。合格するかどうかは、そのときまで誰にも分からないことでした。条件は、成就するかどうか自体が不確実な出来事にかかっていました。今日見るのは、その裏返しです。必ず来ることは分かっているけれど、いつ来るかが問題になる出来事です。4月1日の午後2時に、AがBに10万円を貸しました。「10日後に返す」という約束です。Bが返すべき日は、いつでしょうか。
4月10日と数えたくなりますが、実際の満了日は4月10日からずれます。もう一つ考えてほしい約束があります。叔父のAが、甥のBに「私が死んだら、この家をあげる」と言いました。これは、前回見た条件なのでしょうか。うーん、死ぬかどうかは不確実ではないので、条件とは言えない気がします。でも、いつ死ぬかは誰にも分かりません。この2つの謎を、今日の中で解いていきます。
確定期限と不確定期限
図:対比板
- 条件=成就するかどうかが不確実な事実(例:試験に合格すること)
- 確定期限=到来する日時が明確な事実(例:来年4月1日になること)
- 不確定期限=到来することは確実だが日時が不明な事実(例:人が死ぬこと)
条件と期限を分ける基準は、その出来事が起きるかどうか自体が不確実か、それとも必ず起きるかでした。期限は必ず起きる出来事にかかりますが、その中にも2種類あります。分かれる基準は、来る時期が分かっているかどうかです。1つは、いつ来るかまで明確な確定期限です。来年の4月1日になること、がその例です。もう1つは、来ることは確実でも、いつ来るかが分からない不確定期限です。人はいつか必ず死にますが、それがいつかは誰にも分かりません。だからこれは条件ではなく、不確定期限にあたります。冒頭の謎の1つが、これで解けました。
始期と終期・135条
図:一言板
- 始期=到来するまで履行を請求できない(135条1項)
- 終期=到来した時に効力が消滅する(135条2項)
期限には、もう1つ別の分け方があります。効力を生じさせる向きに使うか、失わせる向きに使うかです。
条文民法135条1項・2項
民法第百三十五条(期限の到来の効果) 法律行為に始期を付したときは、その法律行為の履行は、期限が到来するまで、これを請求することができない。 法律行為に終期を付したときは、その法律行為の効力は、期限が到来した時に消滅する。
1項は始期です。期限が来るまでは、履行を請求できません。AとBの約束で言えば、「10日後に返す」という約束によって、Aは10日が経つまでBに返済を請求できません。終期は、期限が到来した時に効力が消滅します。「この部屋を3月31日まで貸す」という約束であれば、3月31日が来た時点で貸す義務そのものが消えます。同じ「期限をつける」でも、発生を待たせる形と、消滅を予定する形の2つがあるということです。
期限になじまない行為
図:一言板
- 身分行為(期限付きの婚姻など)は原則不可
- 単独行為(相殺など)も原則不可だが、遺贈のように例外的に期限を付けられるものもある
条件のときと同じく、すべての法律行為に自由に期限をつけられるわけではありません。婚姻のような身分行為には、原則として期限をつけられません。相殺のような単独行為も、原則として期限になじみませんが、遺贈のように例外的に期限を付けられるものもあります。理屈は前回の条件と同じです。婚姻のように身分を変える行為を宙づりにしておくと、本人の身分関係がいつまでも定まりません。相殺のように一方的な意思表示で法律関係を動かす行為は、相手方を不安定な状態に置いてしまいます。遺贈が例外なのは、遺言者の一方的な意思表示でありながら、効力が生じるのは遺言者の死後で、相手方を宙づりのまま待たせる問題が起きないからです。
期限の利益とは誰のものか・136条1項
図:期限の利益の関係図
- AがBに10万円を貸し、10日間の返済猶予という「期限の利益」がBに帰属する
- Bが早期に返済しても、136条2項ただし書によりAの利息分の利益は害せない
ここからが今日の中心です。期限は、いったい誰のためにあるのでしょうか。
条文民法136条1項・2項
民法第百三十六条(期限の利益及びその放棄) 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。 期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。
期限が誰のためかは、実は逆です。1項は、期限は債務者の利益のために定めたものと推定する、としています。AとBの約束で言えば、借りた側のBです。10日間、Bは返済を待ってもらえるという利益を得ています。「推定する」という言葉を使うのは、反証で覆せるからです。もし利息をつけて貸していたなら、Aにも「10日間、利息を受け取り続けられる」という利益があります。そのときは、Bだけでなく双方に利益がある期限、という扱いになります。この向きが効いてくるのが、次に見る2項です。双方に利益があるなら、Bが一方的に期限を放棄しても、Aの利益まで消すことはできません。
期限の利益の放棄・136条2項
図:数字板
- 10万円を年利12パーセント・1年後返済の約束で貸した(利息1万2000円)
- Bが半年で返済する場合、半年分は放棄できるが、残り半年分の利息6000円は払わなければならない
2項を見ます。期限の利益は放棄できます。ただし書に注目してください。放棄によって、相手方の利益を害することはできません。無利息の貸付なら、早く返してもらってAが困ることはありません。でも、利息がついている場合は違います。数字で見てみましょう。Aが年利12パーセントで10万円を貸し、1年後に返す約束をしたとします。1年分の利息は、1万2000円です。半年で返すこと自体はできます。期限の利益は、Bのものだから放棄できるからです。ですが、残りの半年分の利息、6000円は、払わなければなりません。放棄できるのは自分の利益だけであって、相手方が得るはずだった利益まで一方的に奪うことはできない、という規定です。
期限の利益の喪失・137条
図:一覧板
- 137条の3類型
- 1つ目=債務者が破産手続開始の決定を受けたとき
- 2つ目=債務者が担保を滅失・損傷・減少させたとき
- 3つ目=担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき
期限の利益は、いつまでも守られるわけではありません。137条は、債務者がその利益を主張できなくなる場合を定めています。
条文民法137条1号〜3号
民法第百三十七条(期限の利益の喪失) 次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。 一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。 二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。 三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
設例です。BがAへの借金の担保として差し入れていた建物を、B自身が取り壊してしまったとします。この場合、Bはもう期限の利益を主張できません。Aは10日を待たずに、すぐに返済を請求できます。3つはばらばらに見えますが、実はどれも同じ理屈です。1つ目は債務者の信用そのものが崩れた場合、2つ目と3つ目は担保という、期限を与える前提になっていたものが崩れた場合です。3つ目は、担保を差し入れる約束をしていながら、いつまでも差し入れないときです。債務者の信用か担保か、期限を与えた土台そのものが崩れたときに、もう猶予は与えられない、という1本の理屈で束ねられます。実務では、この3つの類型だけでは足りないので、契約書に期限の利益を失う場合を追加で定めることもあります。分割払いを1回でも怠ったら残額を一括請求できる、という特約などです。この特約が付いたとき、消滅時効がいつから進むかは論文で論点になりえますが、今日は深入りしません。
期間の計算に入る・138条
図:一言板
ここから視点を変えます。期限であれ契約であれ、法律が「何日後」「何か月後」と定めたとき、それをどう数えるかという共通ルールに入ります。
条文民法138条
民法第百三十八条(期間の計算の通則) 期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。
この条文は、これから見る140条から143条までのルールが、法令にも裁判所の命令にも契約にも、特別な定めがない限り一律に使われることを宣言しています。だからこの先の計算方法は、民法だけでなく、他の科目の期間計算でも共通して登場します。
初日不算入の原則・140条
図:一言板
- 140条本文=日・週・月・年の期間は初日を算入しない
- ただし書=期間が午前0時から始まるときは算入する
冒頭のAとBの約束に戻ります。4月1日の午後2時に、「10日後に返す」という約束をしました。この4月1日は、10日間に数えるでしょうか。契約した日を1日目に数えたくなる、そこが多くの人がはまる落とし穴です。
条文民法140条
民法第百四十条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
140条本文は、期間の初日を算入しないとしています。4月1日は午後2時から始まっていて、午前0時からではありません。まるまる1日ない日を1日として数えてしまうと、10日と言いながら実際には10日に満たない猶予になってしまいます。だから初日である4月1日は数えず、翌日の4月2日から数え始めます。ただし書は、期間が午前0時から始まるときは初日を算入する、としています。たとえば「今日から10日間」という契約を、その日の午前0時ちょうどに結んだのであれば、その日をまるまる1日として数えます。日常の契約では稀ですが、こういう例外があることは覚えておいてください。
満了点・141条142条
図:一言板
- 141条=期間は末日の終了(24時)をもって満了する
- 142条=末日が休日でも、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、翌日に満了する
条文民法141条
民法第百四十一条(期間の満了) 前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。
期間がどこで終わるか、を定めるのが141条です。期間は、末日の終了、つまりその日の24時をもって満了します。
条文民法142条
民法第百四十二条 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。
末日が休日ならいつでも翌日に延びる、と考えたくなりますが、そこが短答でよく狙われるところです。142条は「その日に取引をしない慣習がある場合に限り」翌日に満了するとしています。休日だから自動的に翌日になる、という条文ではありません。取引をしない慣習がなければ、休日であっても、その日の終了で満了します。取引をしない慣習というのは、銀行や役所が休みで、その日には誰も支払や受取をしない、という取引社会の慣行のことです。逆に、二十四時間受け付けるインターネット上のやり取りのように、休日でも普通に取引される場面なら、慣習はありません。休日でも取引ができるのなら、わざわざ一日延ばしてやる理由が無い。だから142条は、休日そのものではなく、慣習があるかどうかに懸からせています。
暦による計算・143条
図:一言板
- 143条1項=週・月・年で期間を定めたときは暦に従って計算する
- 2項=起算日に応当する日の前日に満了
- 応当日が無ければその月の末日に満了する
条文民法143条1項・2項
民法第百四十三条(暦による期間の計算) 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
日で数えるときの起算と満了を見ました。では、週・月・年はどうか。これらは日数に直さず、暦のとおりに数えます。2項本文は、起算日に対応する日、つまり応当日の前日に満了する、としています。起算日そのものから1日引いた日が満了日になります。なぜ前日かを、さっきの起算日で見てみましょう。4月2日を起算日にして「1か月」なら、応当する日は5月2日です。応当日である5月2日まで数えてしまうと、4月2日から5月2日まで、暦の上では1か月と1日分になります。1日、多いんです。だから応当日の前日、5月1日の終了までが、ちょうど1か月分にあたります。そしてただし書は、その応当する日が存在しない場合を定めています。最後の月に応当日がなければ、その月の末日に満了します。
たとえば1月の末に近い日を起算日にして「1か月後」とすると、2月にはその日付が存在しないことがあります。このあと、実際の日付で3つとも計算してみましょう。
期間計算を実演する
図:実演導入板
- ①日で定めた場合=4月1日「10日後に返す」
- ②月で定めた場合=5月20日「4か月後に返す」
- ③応当日がない場合=1月29日「1か月後に返す」
ここまでの条文を使って、実際に日付を数えてみます。まず、冒頭のAとBの約束です。もう一度考えてみてください。4月1日の午後2時に「10日後に返す」と約束したとき、起算日はいつになりますか?
図:期間計算タイムライン板①
- 日で定めた場合
- 4月1日午後2時に契約、10日後に返す約束。初日不算入により起算日は4月2日。4月2日を1日目として10日目は4月11日。141条により4月11日の終了(24時)で満了。4月12日から履行遅滞。
140条本文で初日は算入しないから、4月2日からですね。起算日は4月2日です。ここから10日間を数えます。4月2日を1日目とすると、10日目は4月11日にあたります。141条により、期間は4月11日の終了、つまりその日の24時に満了します。Bが履行遅滞になるのは、満了の翌日、4月12日からです。履行遅滞は以前に見た言葉で、まだ履行できるのに、していない状態のことです。412条1項が定めるとおり、確定期限のある債務は、期限が到来した時から遅滞の責任を負います。冒頭の謎の答えは、4月11日です。
図:期間計算タイムライン板②
- 月で定めた場合
- 5月20日午後4時に契約、4か月後に返す約束。初日不算入により起算日は5月21日。最後の月(9月)の応当日は9月21日。143条2項本文により、その前日の9月20日に満了。
次は、月で定めた場合です。5月20日の午後4時に、「4か月後に返す」という約束をしたとします。起算日はいつでしょうか。さっきと同じ理屈なら、5月21日ですね。初日不算入で、起算日は5月21日になります。ここから4か月後の、最後の月は9月です。9月21日が、起算日に応当する日にあたります。143条2項本文により、期間はこの応当日の前日、つまり9月20日に満了します。
図:期間計算タイムライン板③
- 応当日がない場合
- 1月29日午後4時に契約、1か月後に返す約束。初日不算入により起算日は1月30日。最後の月(2月)には応当日「2月30日」が存在しない。143条2項ただし書により、2月の末日(平年28日・閏年29日)に満了。
最後に、応当日が存在しない場合です。1月29日の午後4時に、「1か月後に返す」という約束をしたとします。初日不算入で起算日は1月30日、ここから1か月後、最後の月は2月です。ところが、2月30日という日付は存在しません。143条2項ただし書により、この場合はその月の末日に満了します。2月の末日は、平年なら28日、閏年なら29日です。年を特定しない限り、どちらの年に当たるかは分かりませんが、いずれにせよ2月の末日で満了する、というのが結論です。
答え合わせ
図:冒頭設例板の再掲
- 4月1日午後2時、AがBに10万円を「10日後に返す」約束で貸した
- 返す日はいつか
- 叔父Aが甥Bに「私が死んだら、この家をあげる」という約束は条件か期限か
今日の内容をまとめます。期限は、必ず来ることが確実な出来事にかかる附款で、いつ来るかが明確な確定期限と、明確でない不確定期限に分かれます。期限は債務者の利益のために定めたものと推定され、その利益は放棄できますが、相手方の利益までは害せません。信用や担保という前提が崩れたときは、その利益を主張できなくなります。後半で見た期間の計算は、初日を算入せず、末日の終了で満了し、週・月・年は暦に従って数える、という一連のルールでした。冒頭の問いに戻ります。4月1日の午後2時に「10日後に返す」と約束したAとBの場合、満了は4月11日で、Bが履行遅滞になるのは4月12日からです。そして、叔父Aが甥Bに「私が死んだら、この家をあげる」という約束は、条件ではなく不確定期限でした。今日はここまでにします。
参照条文
- 民法135条1項・2項
- 民法136条1項・2項
- 民法137条1号〜3号
- 民法138条
- 民法140条
- 民法141条
- 民法142条
- 民法143条1項・2項