民法ゼロから民法#74

援用の相対効と時効の効果

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第1章 民法総則 #74/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

主債務は消えたのに、まだ請求できる

今日の問い 図:今日の問い

銀行Aが借主Bに1000万円を貸し、Bの友人Cがその保証人になっている、という場面でした。主債務の消滅時効は完成していましたが、Bは「借りたものは返す」と言って、時効を主張しませんでした。それでCが、自分で主債務の時効を援用できると確かめたんでした。では、Cが援用した後、Aは誰に、いくら請求できるでしょうか。実はAは、今もBに1000万円を請求できます。今日の問いは、援用の効果は誰に及ぶのか、です。先に答えを言うと、援用した人との間にしか及びません。なぜそうなるのか、そしてこの発想がどこまで効くのかを、今日はほどいていきます。

相対効の原則

相対効の原則 図:相対効の原則

まず結論を1枚で置きます。複数の援用権者がいる場合でも、権利の得喪という効果は、援用した者との関係でのみ生じます。これを相対効と呼びます。得喪とは、得ることと、失うことです。時効なら、所有権を得る、あるいは債務を失う、という変化のことです。この1枚が、今日ずっと使う道具です。

論文で書く規範:時効の効果の相対効 時効の効果は、援用した者との関係においてのみ生じる。 (規範(通説で立てる)——145条の意思尊重の趣旨から導かれる)

なぜそうなるのか。援用は、時効の利益を受けるという意思表示、つまりその人の行為だからです。理由は次の節で、停止条件説からたどります。銀行Aと借主Bの1000万円は、Bが自分で援用しない限り、残ったままです。この後、その場面を1つずつ確かめます。

今日の地図 図:今日の地図

今日の地図はこの4つです。まず相対効の理由、次に主債務者が援用した場合との違い、そして後順位抵当権者がなぜ頑なに否定されるのかの本当の理由、最後に144条とさかのぼる効果です。

なぜ援用が要るんでしたっけ?

問いの板。時効は、期間が満ちただけでは権利が動かない。援用という行為が要る。なぜ要るのか。 図:問いの板

  • 時効は、期間が満ちただけでは権利が動かない
  • 援用という行為が要る
  • なぜ要るのか

なぜ援用が要るのかという問いは、これから話す相対効の理由そのものに直結します。

なぜ相対効なのか

なぜ相対効になるのか 図:なぜ相対効になるのか

以前見た停止条件説を思い出してください。時効期間が満了しただけでは、権利の得喪は確定しません。援用があって初めて確定する、という考え方でした。満了がスタートラインで、援用がゴールです。そしてこの援用は、意思表示という、個人の行為です。Cが「援用します」と言った瞬間に確定するのは、Cの関係だけです。Bは何も言っていないので、Bの関係では、まだ何も確定していません。もう1つ、援用が要る理由も思い出してください。時効の利益を受けるかどうかは、当事者の意思を尊重するため、というものでした。

Bは時効の利益を受けたくないという意思を示しています。援用していないBの分まで、勝手に確定させてしまったら、意思の尊重になりません。停止条件説と、意思の尊重という2つの理由が、そのまま相対効という結論を導きます。相対効は、暗記すべき別ルールではなく、この2つの当然の帰結なんです。イメージで言うと、3人がそれぞれ自分のスイッチを持っていて、自分のスイッチを押した人の前の電球だけが消える、という感じです。

Cが援用した場合——冒頭の問いに戻る

Cが援用した場合 図:Cが援用した場合

では、いよいよ冒頭のCの話に戻ります。Cが援用したら、AとBの関係はどうなると思いますか?Cが援用すると、AとCの間では、主債務が時効で消えたものとして扱われます。その主債務にぶら下がっているCの保証債務も、AとCの間では支えを失う。Cが自分のスイッチを押した効果が、そこまでで止まっている、ということです。しかしAB間の主債務は、なお残存します。図で見ると、A-Bの線は残り、A-Cの線だけが消えています。ここが、今日いちばん腑に落としてほしい所です。「時効が完成した」と聞くと、権利は誰から見ても消えたように感じますが、実際に動いたのは、Cが自分のスイッチを押した、その部分だけなんです。

145条が援用権者として挙げている、保証人・物上保証人・第三取得者は、みんな同じ理屈で動きます。自分が援用すれば、自分との関係でだけ効果が生じます。

Bが援用した場合——今度はCにも及ぶ

Bが援用した場合 図:Bが援用した場合

今度はAB間の主債務が、そのまま消えます。そして保証人Cの保証債務も、一緒に消えます。実はこれ、相対効の例外ではありません。Bが援用した効果は、あくまでAB間にしか及んでいません。相対効は、ここで崩れていないんです。Cの保証債務は、主債務があって初めて成り立つ、付き従う債務です。これを付従性と呼びます。主債務という壁にもたれかかった梯子のようなもので、壁が無くなれば、梯子も一緒に倒れます。「相対効なのに及ぶ」ではなく、「相対効で主債務が消えた。その結果、付従性で保証債務も消えた」という、2段階で押さえてください。

対比表。2つの場合の違い。列=誰が援用したか/援用の効果が及ぶ範囲/もう一方の債務はどうなるか/その理由。①Cが援用=AC間だけ/AB間の主債務は残存/理由は相対効そのもの。②Bが援用=AB間だけ/Cの保証債務も消える/理由は相対効ではなく付従性による連鎖。 図:対比表

  • 2つの場合の違い
  • 列=誰が援用したか/援用の効果が及ぶ範囲/もう一方の債務はどうなるか/その理由
  • ①Cが援用=AC間だけ/AB間の主債務は残存/理由は相対効そのもの
  • ②Bが援用=AB間だけ/Cの保証債務も消える/理由は相対効ではなく付従性による連鎖

2つの場合を並べておきます。違うのは、援用した人が誰かではなく、もう一方の債務が消える理由です。この2枚を見比べられれば、「相対効なのに及ぶ」という混乱は起きません。

連帯債務でも同じ発想

441条(相対的効力の原則) 図:441条(相対的効力の原則)

保証だけの話ではありません。連帯債務でも、同じ発想が条文になっています。441条です。

条文民法441条

民法 第441条(相対的効力の原則) 第四百三十八条、第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。

柱書にある除外は、連帯債務の回でまとめて扱います。今日は、連帯債務者の一人について生じた事由は、原則として他に及ばない、という発想だけ押さえてください。債権者と他の連帯債務者が、別段の意思を表示すれば、その意思のとおりに扱われます。つまり、合意で絶対効に変えることもできる、ということです。

前回、反射的利益と見ましたが

問いの板。後順位抵当権者は援用できない。理由は、順位が上がるのは反射的な利益にすぎないから。では、援用権者の範囲を広げてきた判例が、ここだけ譲らないのはなぜか。 図:問いの板

  • 後順位抵当権者は援用できない
  • 理由は、順位が上がるのは反射的な利益にすぎないから
  • では、援用権者の範囲を広げてきた判例が、ここだけ譲らないのはなぜか

ここで、前回の話を思い出してください。後順位抵当権者は、順位が上がるのは反射的な利益にすぎないから、時効を援用できないと見ました。

後順位抵当権者はなぜ認められないのか——三つ巴の循環

仮に後順位抵当権者に援用権を認めると 図:仮に後順位抵当権者に援用権を認めると

そこに、今日の相対効が効いてきます。設例を作ります。Bの倉庫に、Aが1番抵当権、Gが2番抵当権、そしてもう一人が3番抵当権を持っています。Aの被担保債権の消滅時効が完成しています。被担保債権とは、抵当権が担保している債権のことです。ここでは、AがBに貸したお金を返せ、という債権ですね。仮にその3番の人が援用できるとしましょう。相対効ですから、効果が及ぶのは、3番の人と、Aとの関係だけです。この関係では、Aの1番抵当権が消えて、3番の人が優先します。誰も援用していないので、Gとの関係では、Aの1番抵当権は、なお存在したままです。

図で1本ずつ追いましょう。まず、3番の人とAの関係では、3番の人が優先します。次に、AとGの関係は、もとのままなので、Aが優先します。最後に、Gと3番の人の関係も、もとのままなので、Gが優先します。3番、A、G、そしてまた3番へと、ぐるりと一周して、循環してしまいます。抵当権の配当は、優先順位を決めて、上から順番に配当します。ところがこの3人は、誰が一番優先するのか、決めようがありません。じゃんけんのグー・チョキ・パーのように、誰も一番になれない関係になってしまうんです。裁判所が順番を決めてしまうこともできません。抵当権の優先順位は、登記の前後という客観的な基準で決まる制度です。援用という一人の意思表示だけで、その基準を書き換えることはできないんです。

「反射的利益にすぎない」という言い方の裏には、相対効を徹底すると、複数人の優劣関係で循環という破綻が起きる、という実質的な理由があるんです。

循環しない道——代位行使

Bの援用権を代位行使した場合 図:Bの援用権を代位行使した場合

Bに他に財産が無い、つまり無資力なら、この3番の人は、責任財産のところで見た423条の債権者代位権で、Bの援用権を代位行使できます。代位行使なら、循環は起きません。代位行使は、あくまでBという1人の債務者の立場で援用するものだからです。効果が及ぶのは、Bとの関係です。Bとの関係で、Aの1番抵当権が消えます。動いたのが3番の人なのに効果がBとの関係に生じるのは、代位行使が、自分の名前で新しい権利を作るのではなく、Bが持っている援用権を、Bに代わって使う制度だからです。ですから援用したのはBだと扱われ、効果もBとの関係に生じます。相対効は、ここでも崩れていません。

Aはそもそも、当事者の関係から消えるんです。残るのは、Gとこの3番の人の2人だけ。2番だったGと、3番だった人の順位が、そのまま残ります。前回の、反射的利益だから認められず、でも代位行使という道がある、という結論が、循環という視点からも、きれいにつながりました。

144条——時効の効力は、さかのぼる

起算日とは 図:起算日とは

ここからは、援用の効果がいつまでさかのぼるかの話です。条文を見てみましょう。

条文民法144条

民法 第144条(時効の効力) 時効の効力は、その起算日にさかのぼる。

起算日とは、時効が進み始めた日です。取得時効なら、占有を開始した時。162条1項・163条です。消滅時効なら、権利を行使できることを知った時、または、行使できる時。166条1項です。何年かという期間の細かい話は、別の回で扱います。今日は、どこまでさかのぼるかの目印として、押さえてください。

遡及効は何をなかったことにするのか

遡及効の帰結 図:遡及効の帰結

言葉で終わらせず、具体的に何ができなくなるかまで見ましょう。まず取得時効です。Jが他人の土地を20年間占有して、援用したとします。この場合、占有を開始した時から、Jが所有者だったことになります。所有者だったことになるので、その20年間の占有は、さかのぼって適法な占有になります。元の所有者は、不法行為に基づく損害賠償を、請求できません。709条です。不法占有そのものが、なかったことになるからです。冒頭の設例で、Bが援用した場合を考えます。履行期から10年で援用すると、履行期にさかのぼって、債務が消えたことになります。

債務不履行も、なかったことになります。ですからAは、損害賠償請求、415条1項も、契約の解除、541条も、どちらもできません。もう1つ、忘れがちなポイントがあります。利息も発生しません。利息が消えるのは、債務が起算日にさかのぼって最初から消えた以上、その債務を生むはずだった利息も、最初から生まれようがないからです。たとえば10年分の利息がたまっていたとしても、元になる債務そのものが最初から無かったことになる以上、その利息も、あわせて無くなります。

対抗できるかは、また別の問題

一言板。さかのぼって所有者になることと、それを第三者に対抗できることは、別の問題。 図:一言板

さかのぼって所有者になることと、それを第三者に対抗できるかは、また別の問題です。時効で誰が所有者になるかは当事者の間の話ですが、その所有権を自分以外の人にも主張できるかは、登記という別の物差しで決まるからです。詳しくは別の回で扱います。

今日の地図(保存版)

まとめ 図:まとめ

今日のポイントをまとめます。援用の効果は、援用した者との関係でのみ生じます。これが相対効です。Cが援用しても、AB間の主債務は残るから、Aは今もBに1000万円を請求できる。逆にBが援用すると、主債務が消えて、付従性でCの保証債務も消えます。これは相対効の例外ではなく、別ルートの連鎖でした。そして後順位抵当権者に援用権を認めないのは、相対効を徹底すると優劣が循環してしまうからで、代位行使ならこの循環が起きませんでした。最後に144条、時効の効力はさかのぼります。何がなかったことになるかまで、具体的に押さえてください。

「時効は出来事じゃなくて、言った人の分だけ動く行為」だと思うと、今日の話が全部つながりますね。その1本の軸を、ぜひ持ち帰ってください。

参照条文

  • 民法441条
  • 民法144条

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