民法ゼロから民法#73

援用権者の範囲

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第1章 民法総則 #73/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

保証人は自分で時効を言えるか

冒頭設例板。銀行Aが借主Bに1000万円を貸した。友人のCがBの保証人になった。Aは10年以上、BにもCにも一度も請求しなかった。主債務の消滅時効は完成している。しかしBは「借りたものは返す」と言い、時効を主張しない。Cは自分で主債務の時効を主張して保証債務を免れられるか。 図:冒頭設例板

  • 銀行Aが借主Bに1000万円を貸した
  • 友人のCがBの保証人になった
  • Aは10年以上、BにもCにも一度も請求しなかった
  • 主債務の消滅時効は完成している
  • しかしBは「借りたものは返す」と言い、時効を主張しない
  • Cは自分で主債務の時効を主張して保証債務を免れられるか

銀行Aが、借主Bに1000万円を貸しました。返済の際、Bの友人であるCが保証人になっています。ところがAは、10年以上、BにもCにも一度も返済を求めませんでした。主債務の消滅時効は、もう完成しています。Bが主張してくれないなら、保証人のCは、自分の保証債務をそのまま払うしかないのでしょうか。先に答えを言うと、Cは自分で時効を主張できます。今日は、なぜCに言えるのか、そして言える人と言えない人をどう見分けるのかを、1つの問いでほどいていきます。

援用とは何か

一言板。援用=時効の利益を主張する意思表示。単独行為(相手方の同意は不要)。以前見たとおり、援用があってはじめて時効による権利の得喪が確定する。 図:一言板

  • 援用=時効の利益を主張する意思表示
  • 単独行為(相手方の同意は不要)
  • 以前見たとおり、援用があってはじめて時効による権利の得喪が確定する

まず、援用とは何かです。時効の期間が過ぎただけでは、権利は自動的には動きません。援用とは、その時効の利益を主張する意思表示のことです。援用に相手方の同意は要りません。援用は単独行為で、援用する側の意思表示だけで足ります。以前、時効の完成そのものを見たとき、権利の得喪は援用があってはじめて確定するという考え方を扱いました。援用は、その確定のスイッチを押す行為にあたります。

145条の全文

事案要点板。Cの立場=主債務者Bの保証人。主債務の消滅時効が完成している。Cが援用の対象にできるのは、自分の保証債務ではなく主債務そのもの。 図:事案要点板

  • Cの立場=主債務者Bの保証人
  • 主債務の消滅時効が完成している
  • Cが援用の対象にできるのは、自分の保証債務ではなく主債務そのもの

援用を定めた条文を見てみましょう。

条文民法145条

民法第百四十五条(時効の援用) 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

この括弧書きは、2017年の改正で追加されました。ただし気をつけてほしいのは、この改正によって、援用できる人の判断基準そのものが変わったわけではないということです。それまで積み重ねられてきた判例の結論を、条文に書き写したものにすぎません。括弧の中の「その他権利の消滅について正当な利益を有する者」という部分は、今も解釈の余地が残っています。ここを判断するための物差しを、このあと立てていきます。

判例の基準——直接利益を受ける者

対比板。狭義説(判例)=時効により直接利益を受ける者に限る。広義説(多数説)=間接的に利益を受ける者も含める。判例は狭義説を採り、援用権者の顔ぶれを判例の積み重ねで広げてきた。 図:対比板

  • 狭義説(判例)=時効により直接利益を受ける者に限る
  • 広義説(多数説)=間接的に利益を受ける者も含める
  • 判例は狭義説を採り、援用権者の顔ぶれを判例の積み重ねで広げてきた

ここで一度、前回の内容を思い出してください。なぜ民法は、援用というワンクッションを置いたんでしたっけ?時効の利益を潔しとしない人がいるから、本人の意思に任せる、という話でした。前回の3つの趣旨とは別の、援用だけに向けられた理由でしたね。この趣旨をもとに、判例は「当事者」の意味を、時効により直接利益を受ける者、と解しています。これを狭義説と呼びます。学説には、間接的に利益を受ける者まで含める広義説も有力ですが、判例は一貫して狭義説の立場です。さっきの趣旨に戻ってください。意思を尊重すべきなのは、その時効によって自分の負担が動く人です。間接的にしか関わらない人にまで援用権を与えると、自分は何も負っていないのに他人の時効を主張できることになり、意思の尊重という趣旨から外れてしまいます。判例は、この理由づけから、援用権者の顔ぶれを少しずつ広げてきた歴史があります。

「直接」と「反射」を分ける1本の線

問いの板。問い=時効で消えるのは、その人が現に負っている責任そのものか(直接)。それとも、他人の事情が変わった結果として自分の取り分が増えるだけか(反射)。前者は援用できる。後者はできない。 図:問いの板

  • 問い=時効で消えるのは、その人が現に負っている責任そのものか(直接)
  • それとも、他人の事情が変わった結果として自分の取り分が増えるだけか(反射)
  • 前者は援用できる
  • 後者はできない

ここからが今日の中心です。「直接利益を受ける者」という言葉だけでは、まだ抽象的です。これを実際に仕分けるための、1つの問いを立てます。時効で消えるのは、その人が現に負っている責任そのものか。それとも、他人の事情が変わった結果として、自分の取り分が増えるだけか。前者なら直接、後者なら反射です。行列を思い浮かべてください。目の前の人が、もう並ばなくてよいと言われて列を離れたら、自分の順番は1つ繰り上がります。得はしますが、それは自分が何かを主張して勝ち取った利益ではなく、前の人が抜けた分のおこぼれにすぎません。これが反射です。

では、直接のほうはどうでしょうか。自分自身が背負っていた荷物を、誰かの一存で、もう運ばなくてよいと言われる場合です。これは自分に直接及ぶ話になります。この1問を、これから出てくる全員に当てはめていきます。

保証人と物上保証人・第三取得者——直接の側

担保関係図。銀行Aが借主Bに融資。Bの債務を担保するため、物上保証人Dが自分の倉庫に抵当権を設定した。その倉庫を第三取得者Fが買い受けた。2番抵当権者Gが同じ倉庫に抵当権を持っている。 図:担保関係図

  • 銀行Aが借主Bに融資
  • Bの債務を担保するため、物上保証人Dが自分の倉庫に抵当権を設定した
  • その倉庫を第三取得者Fが買い受けた
  • 2番抵当権者Gが同じ倉庫に抵当権を持っている

さっきの保証人Cから見ていきます。Cが援用の対象にできるのは、自分の保証債務そのものではなく、主債務です。保証のところで見た付従性——主たる債務が消えれば保証債務も一緒に消える、という性質です。主債務が時効で消えれば、付従性によって保証債務も消えます。これは、自分が負っている保証債務そのものが消える話ですから、直接です。保証債務が自分の債務である以上、直接なのは当たり前に見えます。そこがポイントです。自分の保証債務の時効を援用できるのは、Cが保証債務の当事者だから当然のことです。145条括弧書きの実益は、そこではなく、主債務という他人の債務の時効まで援用できる、という点にあります。それを認めるのが、この付従性による直接利益という理屈です。次に、Bの融資には担保もついています。物上保証人Dが、自分の倉庫に抵当権を設定しました。その倉庫を、あとから第三取得者Fが買い受けています。

DもFも、Bの借金そのものとは関係のない人たちに見えます。たしかに直接の債務者ではありませんが、自分の財産に抵当権という負担を背負っています。被担保債権であるBの主債務が時効で消えれば、付従性によって抵当権も消えます。これは、DとFにとって、自分の財産にかかっていた負担そのものが消える話ですから、直接です。だからDとFも援用できます。

詐害行為の受益者——もう1つの直接

一言板の設例。Bが自分の財産を、事情を知る第三者Lに移した。Aはこの財産移転を詐害行為として取り消そうとしている。もし取消しの前提になっているAの債権が時効で消えれば、Lは財産を返さずに済む。 図:一言板の設例

  • Bが自分の財産を、事情を知る第三者Lに移した
  • Aはこの財産移転を詐害行為として取り消そうとしている
  • もし取消しの前提になっているAの債権が時効で消えれば、Lは財産を返さずに済む

もう1つ、直接に当たる例があります。Bが自分の財産を、第三者Lに移したとします。この移転がAの債権回収を妨げる詐害行為にあたるなら、Aはこの移転を取り消せます。あのとき出てきた、利益を受けた者——受益者にあたるのがLです。取消しの前提になっているAの債権は、被保全債権と呼びました。もし、その被保全債権が時効で消えれば、Lは財産を取り消されて返す必要がなくなります。自分に向けられていたリスクそのものが消えるという意味で、これも直接にあたります。

判例最判平成10年6月22日 民集52巻4号1195頁

詐害行為の受益者は、被保全債権の消滅時効を援用できるか 詐害行為の受益者は、その行為が詐害行為として取り消されれば利益を失う関係にあるから、詐害行為取消権を行使する債権者の債権(被保全債権)の消滅時効について、これを援用することができる。

受益者という立場そのものが、被保全債権の消滅と直接つながっている、という理由づけです。

後順位抵当権者と一般債権者——反射の側

担保関係図の再掲。先順位(1番)の抵当権者Aの被担保債権が時効で消えると、2番抵当権者Gの順位が繰り上がり、配当額が増える。しかしGの抵当権そのものには何の負担も付いていなかった。 図:担保関係図の再掲

  • 先順位(1番)の抵当権者Aの被担保債権が時効で消えると、2番抵当権者Gの順位が繰り上がり、配当額が増える
  • しかしGの抵当権そのものには何の負担も付いていなかった

では、さっきの図に出てきた、2番抵当権者のGはどうでしょうか。Aの1番抵当権が時効で消えれば、Gの順位は繰り上がり、受け取れる配当額は増えます。Gは、直接でしょうか、反射でしょうか。例えば、具体的な数字で見てみましょう。倉庫の価値を1800万円、Aの1番抵当権の被担保債権を1000万円、Gの2番抵当権の被担保債権を1200万円とします。1番抵当が生きているなら、配当はまずAに1000万円、残りの800万円がGに回り、Gは1200万円のうち800万円しか回収できません。ではAの被担保債権が時効で消えたらどうなるか。Gの順位が繰り上がって1番になるので、倉庫の価値1800万円のうち、Gの被担保債権1200万円が全額回収できるようになります。800万円から1200万円へ、400万円増えるわけです。

配当が増えるのだから直接に見える、というのはもっともです。しかし、消えるのはAの抵当権であって、G自身の抵当権に付いていた負担ではありません。Gは、自分が何かを主張したから得をするのではなく、先順位が抜けた分の、順番のおこぼれを受けているだけです。さっきの行列と同じ構造です。だからGは反射で、援用できません。ここは論文でも問われる論点で、この「反射的利益にすぎない」という理由づけが、そのまま答案の核になります。

判例最判平成11年10月21日 民集53巻7号1190頁

後順位抵当権者は、先順位の被担保債権の消滅時効を援用できるか 先順位抵当権の被担保債権が消滅すれば順位が上昇し配当額が増加することを期待し得るにとどまり、その利益は順位上昇によってもたらされる反射的な利益にすぎないから、後順位抵当権者は、消滅時効の援用権者にはあたらない。

実際に金額が動くとしても、その動きは他人の権利が消えた反射でしかない、という評価です。もう1人、一般債権者のHを見ましょう。具体的に言うと、Hは、Bに担保なしで500万円を別口で貸しているとします。Aに対するBの1000万円の債務が時効で消えても、Hが当然に500万円を多く回収できるようになるわけではありません。Bの手元にお金が残りやすくなる、というだけの話です。これも自分の負担そのものが動くわけではないので、反射です。Hも援用できません。

ここまでを振り返る

一覧板(肯定例)。列=その人/時効で何が消えるか/直接か反射か/結論。①債務者B=自分の主債務/直接/○。②保証人C=付従性で保証債務/直接/○。③物上保証人D=付従性で抵当権/直接/○。④第三取得者F=付従性で抵当権/直接/○。⑤受益者L=詐害行為取消しの根拠/直接/○。 図:一覧板

援用できる側(肯定例)

その人時効で何が消えるか直接か反射か結論
①債務者B自分の主債務直接
②保証人C付従性で保証債務直接
③物上保証人D付従性で抵当権直接
④第三取得者F付従性で抵当権直接
⑤受益者L詐害行為取消しの根拠直接

直接に当たる側をまとめておきます。債務者本人、保証人、物上保証人、第三取得者、そして詐害行為の受益者、この5人はすべて、自分が現に負っている責任そのものが消えるので援用できます。

一覧板(否定例)。列=その人/時効で何が消えるか/直接か反射か/結論。⑥後順位抵当権者G=先順位の抵当権(自分のものではない)/反射/×。⑦一般債権者H=債務者の他の債務(自分のものではない)/反射/×。 図:一覧板

援用できない側(否定例)

その人時効で何が消えるか直接か反射か結論
⑥後順位抵当権者G先順位の抵当権(自分のものではない)反射×
⑦一般債権者H債務者の他の債務(自分のものではない)反射×

反射に当たる側は、後順位抵当権者と一般債権者です。どちらも、消えるのは他人の負担であって、自分は順番や資力の変化のおこぼれを受けるだけです。同じ1つの問いで、7人がきれいに分かれました。

取得時効の場合

取得時効の設例板。土地の占有者Jが、他人の土地を20年間占有し、その上に自分の建物を建てて、Kに貸している。Jは土地の所有権を時効取得できるが、Kは土地の時効取得を援用できない。 図:取得時効の設例板

  • 土地の占有者Jが、他人の土地を20年間占有し、その上に自分の建物を建てて、Kに貸している
  • Jは土地の所有権を時効取得できるが、Kは土地の時効取得を援用できない

ここまでは、消滅時効の話でした。取得時効の場合も、同じ1問で考えられます。たとえば、Jが、他人の土地を20年間占有し続け、その上に自分の建物を建てて、Kに貸しているとします。自分の占有によって所有権を得るのですから、直接です。ではKはどうでしょうか。JがKに貸している建物は、Jが時効取得しようとしている土地の上に建っています。Jが土地を時効取得すればKも間接的に安心できそうに見えますが、判例はKの援用を認めていません。土地と建物は、法律上は別個独立の不動産です。土地の時効取得は、あくまでJという占有者本人に生じる話であって、その上の建物を借りているKに、直接及ぶわけではないからです。

Kは、担保に負担がかかっている物上保証人や第三取得者とは違い、負担そのものを背負っているわけではありませんから、反射側になります。もう1つ、短答で問われる場面があります。援用する前に、占有者本人が死亡して、複数の相続人に相続された場合です。この場合、判例は、各相続人が自分の相続分の限度でのみ援用できるとしています。占有していた人の立場が、そのまま分割されて相続人に受け継がれる、というイメージです。

援用できなくても残る道——援用権の代位行使

代位行使の関係図。一般債権者Hは、自分では援用できない。しかしBに他に財産がなく無資力であれば、423条の債権者代位権によって、Bの援用権を代わりに行使できる。 図:代位行使の関係図

  • 一般債権者Hは、自分では援用できない
  • しかしBに他に財産がなく無資力であれば、423条の債権者代位権によって、Bの援用権を代わりに行使できる

さっき援用できないとした一般債権者Hにも、実は残る道があります。援用できない、というのは、自分の権利としては持っていない、という意味です。絶対に主張できない、という意味ではありません。もしBに他に財産がなく、無資力であれば、Hは、責任財産のところで見た423条の債権者代位権によって、Bが持っている援用権を代わりに行使できます。Gも、担保を差し入れていた債務者が無資力であれば、同じように代位行使できます。本人の意思を尊重するという145条の趣旨は、その本人が無資力で債権者を害している場面では、後退するからです。無資力が要るという点も、そのときと同じです。

判例最判昭和43年9月26日 民集22巻9号2002頁

債権者は、債務者の援用権を代位行使できるか 債権者は、自己の債権を保全するのに必要な限度で、債務者が有する消滅時効の援用権を、債権者代位権に基づいて行使することができる。

自分の権利ではなくても、他人の権利を借りて主張する道が残っています。

援用の方法

一言板。援用は裁判外でもできる。訴訟で主張しないと裁判所が拾えないだけで、意思表示そのものは裁判の外でも成立する。援用の効果が誰との関係で及ぶかは、次に扱う。 図:一言板

  • 援用は裁判外でもできる
  • 訴訟で主張しないと裁判所が拾えないだけで、意思表示そのものは裁判の外でも成立する
  • 援用の効果が誰との関係で及ぶかは、次に扱う

最後に、援用の方法です。援用は、裁判外でもできます。相手方に対して、時効を援用する、と伝えるだけで足ります。訴訟の中で主張しないと、裁判所がその援用を拾ってくれないだけであって、意思表示そのものは裁判の外で成立しています。ただし、Cが主債務の時効を援用したとして、その効果が誰との関係で及ぶのかは、また別の問題になります。

答え合わせ

冒頭設例板の再掲。銀行Aが借主Bに1000万円を貸した。友人のCがBの保証人になった。主債務の消滅時効は完成している。Bは時効を主張しないが、Cは自分で主債務の時効を援用し、付従性によって保証債務を免れる。 図:冒頭設例板の再掲

  • 銀行Aが借主Bに1000万円を貸した
  • 友人のCがBの保証人になった
  • 主債務の消滅時効は完成している
  • Bは時効を主張しないが、Cは自分で主債務の時効を援用し、付従性によって保証債務を免れる

今日のまとめです。援用とは、時効の利益を主張する単独行為で、時効の利益を潔しとしない人の意思を尊重するために要求されています。判例は「当事者」を、時効により直接利益を受ける者と解し、その基準を、自分が現に負っている責任そのものが消えるか、それとも他人の事情が変わった結果の反射的な利益にすぎないか、という1つの問いで仕分けられることを見ました。保証人、物上保証人、第三取得者、詐害行為の受益者は直接で援用できます。後順位抵当権者と一般債権者は反射で援用できませんが、債務者が無資力であれば代位行使という道が残ります。冒頭のCに戻ります。Cは保証人ですから、145条括弧書きにより、主債務の消滅時効を自分で援用できます。主債務が消えれば、付従性によって、Cの保証債務も消えます。Bが時効を主張しなくても、Cは自分の意思で、保証債務から解放されるということです。今日はここまでにします。

参照条文

  • 民法145条

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