民法ゼロから民法#79

取得時効の要件

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第1章 民法総則 #79/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

20年のBは勝ち、40年のCは負ける

冒頭対比。甲土地の名義人はA。Bは20年間、自分の土地だと信じて畑として占有してきた。隣の畑は、Aから借りたCが40年間耕し続けている。 図:冒頭対比

  • 甲土地の名義人はA
  • Bは20年間、自分の土地だと信じて畑として占有してきた
  • 隣の畑は、Aから借りたCが40年間耕し続けている

甲土地を20年間、自分の土地だと信じて畑にしてきたBが所有者になれるか。今日、その答えを出します。ただ、その前にもう1人紹介させてください。甲土地の隣に、Cという人がいます。Cは、40年前にAから土地を借りて、以来ずっと賃料を払いながら耕しています。ところが、20年のBは所有者になれるのに、40年のCは、永久に所有者になれません。今日の問いは、長く使えば自分の物になるのか。先に答えを言うと、なります。ただし条件が5つあります。そして5つのうち勝負を決めるのは、たった1つです。その1つで、Cさんが負ける理由も分かるんですか。分かります。それでは、条文から見ていきましょう。

取得時効の全体像

取得時効の全体像。所有権は162条、所有権以外の財産権は163条。それぞれ20年の場合と10年の場合がある。今日は162条1項の20年だけを扱う。 図:取得時効の全体像

  • 所有権は162条、所有権以外の財産権は163条
  • それぞれ20年の場合と10年の場合がある
  • 今日は162条1項の20年だけを扱う

取得時効には、大きく4つのマスがあります。所有権についての取得時効は162条、所有権以外の財産権については163条です。それぞれに、20年の場合と10年の場合があります。今日は、左上の1マスだけです。162条1項、20年の所有権の取得時効。10年の短期取得時効は次の回、所有権以外の財産権は、そのあとの回で扱います。本題の前に1問だけ。時効の効果を確定させるのに何が必要だったか、思い出せますか?援用、でしたよね。時効の利益を受ける人が、自分から主張しないといけませんでした。今日も、それを前提に進めます。

162条1項を5つに切り分ける

162条1項の全文カード板 図:162条1項の全文カード板

条文民法162条1項

民法第百六十二条(所有権の取得時効)第一項 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

これが162条1項の全文です。声に出して読むと1つの文ですが、要件は5つに分けられます。

5要件への分解と予告の板 図:5要件への分解と予告の板

5つ、ですか。1つめ、20年間。2つめ、所有の意思をもって。3つめ、平穏に、かつ、公然と。4つめ、他人の物。5つめ、占有したこと。これで5つです。ただ、先にひとつだけ言っておきます。このうち初めの3つは、あとで推定されることが分かります。つまり本当に争うのは、他人の物占有の2つだけになっていきます。推定、というのはどういうことですか。そこは中盤でじっくり扱います。まず、要件を1つずつ見ていきましょう。なお、要件をすべて満たしても、それだけでは所有権は確定しません。前回までに見た援用があって、初めて所有権を取得します。

⑤占有とは何か

占有の意義・間接占有の板 図:占有の意義・間接占有の板

占有の話に入る前に一言。占有そのものは、物権のカタログの回で、十種類目の物権=占有権として一度出しています。今日はその占有を、162条の要件として測り直します。まず、5つめの占有です。占有とは、物に対する事実上の支配をいいます。所有権のような権利を持っているかどうかは関係なく、実際にその物を自分の支配下に置いているかどうかで決まる、ということです。自分で直接持っていなくても占有は認められます。間接占有という考え方があり、賃貸人は、賃借人を通じて目的物を占有している、と扱われます。

占有は、かなり抽象化された概念なんです。

占有は相続の対象になる、という板 図:占有は相続の対象になる、という板

もう1つ大事な性質があります。占有は相続の対象になります。判例も、そう認めています。気づいていなくても、占有は承継されるとされています。もし承継されないなら、相続が起きるたびに、時効の進行が振り出しに戻ってしまいます。占有は事実上の支配にすぎませんが、法はこれを財産的な地位として扱っている、ということです。

⑤の続き——占有の一部・公物

占有の一部・公物の一覧板 図:占有の一部・公物の一覧板

占有はまとまった物の単位でしか成立しないわけではありません。物の一部でも、経済的価値の単位として扱えるなら、時効取得できます。土地の一部や、権限なく植えた樹木がその例です。公物、つまり公園や道路は、原則として時効取得できません。公共の用に供されている間は、私人が排他的に支配することと両立しないからです。その機能を失い、維持すべき理由がなくなっていれば、時効取得が認められます。原則を支えていた理由のほうが先に消えているからです。

①20年の継続——証明しなくてよい理由

164条の全文カード板 図:164条の全文カード板

条文民法164条

民法第百六十四条(占有の中止等による取得時効の中断) 第百六十二条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。

次は1つめ、20年の継続です。占有者が自分から占有をやめたり、他人に占有を奪われたりすると、時効は中断します。中断すると、それまでの期間はどうなるんですか。消えます。これは、前に見た完成猶予・更新とは別の制度です。完成猶予や更新は進行を止めたり戻したりしますが、164条の中断は、取得時効に固有の規定です。占有回収の訴え——占有を奪われた人が、奪った相手に返してくれと求める訴えです——を起こして取り戻せば、占有は、奪われていた間も継続していたものとみなされます

単に行けなかっただけなら、占有の意思そのものは失われていません。占有は、四六時中の物理的な接触を要求しないので、明け渡しや占有を奪われるような事実がない限り、継続は途切れません。164条に戻ります。自分から占有をやめた場合と、他人に奪われた場合、この2つだけです。一時的に足が遠のいただけでは、継続は否定されません。さて、ここで問題があります。「20年間ずっと占有していたことを証明しろ」と言われたら、誰も勝てません。これは、前に時効の趣旨を3つ挙げたときの2つ目、立証の困難の救済が、条文の形で顔を出している場面です。そこで、186条2項が登場します。

186条2項の全文カード板 図:186条2項の全文カード板

条文民法186条2項

民法第百八十六条(占有の態様等に関する推定)第二項 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。

占有開始の時点と、20年後の時点、この2つさえ証明すれば、その間はずっと継続していたと推定されます

前後2時点の証明だけで、その間が推定される図 図:前後2時点の証明だけで、その間が推定される図

推定されるというのは、確定するという意味ではありません。証明責任がひっくり返る、という意味です。占有者は前後2時点さえ示せばよく、「途中で切れていた」と示す責任は相手方に移ります

①の続き——占有をつなげる187条

187条1項・2項の全文カード板 図:187条1項・2項の全文カード板

条文民法187条1項・2項

民法第百八十七条(占有の承継) 占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。 2 前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。

占有は、承継人が引き継ぐこともできます。187条1項によると、承継人は自己の占有のみを主張してもいいし、前の占有者の占有を併せて主張してもかまいません。

Bが15年占有した畑をDが買い5年占有=通算20年の図 図:Bが15年占有した畑をDが買い5年占有=通算20年の図

例えば、Bが15年間占有した畑を、Dが買って5年間占有したとします。Dは、自分の5年だけを主張してもいいですが、Bの占有を併せれば、通算20年を主張できます。いつもそうとは限りません。2項を見てください。併せて主張すると、前の占有者の瑕疵も一緒に引き継ぎます。意思表示の瑕疵の場面と、占有の瑕疵の場面は違います。占有の瑕疵とは、悪意・過失や、暴力・隠しごとといった、占有の質のマイナスのことです。

悪意のEが8年占有した土地をFが善意無過失で買い2年占有=瑕疵を承継する図 図:悪意のEが8年占有した土地をFが善意無過失で買い2年占有=瑕疵を承継する図

今度は、悪意のEが8年間占有した土地を、善意無過失のFが買って2年間占有したとします。Fが自分の占有だけなら悪意はありませんが、Eの占有を併せて通算10年を主張すると、Eの悪意という瑕疵も引き継ぎますうまい話だけ取ることはできない、というのが187条1項と2項をセットで読んだときのルールです。前主が善意無過失だった場合の逆のパターンは、10年の短期取得時効の回で扱います。ここでは、承継のもう1つの場面——相続——を見ておきましょう。相続でさらに引き継いだ子も、自己の占有だけでも、前の占有者の占有を併せてもよいので、望むならB・Dの占有までさかのぼって併せることができます。相続も187条にいう「承継」に含まれるからです。

ただし、瑕疵も同じように何代でも引き継がれます。途中の代に悪意だった人が1人でもいれば、その悪意は最後の承継人にまで及びます。

②所有の意思——内心は見ない

所有の意思の判断基準と、内心を見ない理由 図:所有の意思の判断基準と、内心を見ない理由

占有のところで、「自己のためにする意思」というのを習いました。今日のこれと、同じものですか。別物です。180条の意思は、占有そのものが成立するかどうかの話で、借りている人にもあります。今日の162条の所有の意思は、その占有が自主占有か他主占有かを分ける話です。ここからが、今日の山場です。2つめの所有の意思を見ていきます。「意思」って書いてあるので、占有している人の気持ち次第、ということですか。実は逆です。所有の意思の有無は、占有者の内心をまったく見ません。判断基準は、占有を取得した原因である事実の性質から、外形的・客観的に決まります。

もう一度聞きますけど、本当に、占有している人が何を思っていたかは、まったく関係ないんですか。関係ありません。占有を取得した原因、つまり契約や事実の性質だけで決まります。理由は2つあります。1つ目、内心は、後からいくらでも「自分の物だと思っていました」と言えてしまいます。裁判になってから言えることは、立証の対象になりません。2つ目、相手方には、それを反証する手段がありません。占有者が「自分の物だと思っていた」と言い張れば、相手は心の中を覗いて否定することができないんです。だから、外に表れた事実だけで判断するしかありません。

自主占有と他主占有——原因の性質で決まる表 図:自主占有と他主占有——原因の性質で決まる表

まず、不法占有者や、窃盗犯人を考えてください。自主占有にあたります。おかしく感じますよね。でも、これが「内心を見ない」ということの意味です。泥棒は、内心で「これは自分の物だ」とは思っていないはずですが、奪うという行為の性質そのものが、所有者として振る舞う行為だから、自主占有になります。賃借人は、他主占有です。盗んだ人が自主占有で、契約してお金を払っている賃借人が他主占有——逆に感じるのが自然です。でも、賃貸借という契約は、そもそも所有権を借主に移さない契約です。契約の性質上、最初から「これは他人の物として使わせてもらう」という前提で占有が始まっています。だから、賃借人が心の中でどれだけ「いつか自分の物にしたい」と願っていても、他主占有のままです。

所有権を移す契約——売買や贈与——で占有を始めれば自主占有、所有権を移さない契約——賃貸借・使用貸借・寄託——で始めれば他主占有。この線引きだけで決まります。

冒頭のCを回収する

40年の賃借人Cは他主占有=永久に所有権を取得できない 図:40年の賃借人Cは他主占有=永久に所有権を取得できない

ここで1つ、考えてみてください。40年間耕し続けてきたCは、所有者になれるでしょうか。理由も考えてみてください。実は、なれません。Cは、賃貸借によって占有を始めました。つまり他主占有です。40年でも、80年でも、所有権を取得できません。20年のBが勝ち、40年のCが負ける理由は、期間の長さではなく、どうやって占有を始めたかにあったんです。このあと出てくる権原という言葉だけ、先に渡しておきます。そこにいてよい、正当な理由のことです。Cの占有は、賃貸借という権原で始まった。だから、その権原の性質上、所有の意思が無いものとされます。

185条の全文カード板 図:185条の全文カード板

条文民法185条

民法第百八十五条(占有の性質の変更) 権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。

Cが自主占有に変わる道は、まったくないんですか。2つだけあります。185条によると、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示するか、新たな権原によって、改めて所有の意思をもって占有を始めるか、です。

Cの転換2場面と、何もしなければ転換しないという表 図:Cの転換2場面と、何もしなければ転換しないという表

例えば、Cが賃貸人Aに「この畑はもう自分の物だ」と告げれば、表示にあたり、転換しうる場面になります。もう1つの道が新たな権原です。その例が相続です。Cが死亡し、子のGが、事実上の支配を自分の物として始めれば、相続が新たな権原になりうる、というのが判例の立場です。理由は、相続人が始めたのが前の占有をそのまま引き継いだ支配ではなく、自分の物としての新しい支配だからです。外形で決める、という所有の意思の基準がここでもそのまま効いています。Cが何もしないまま耕し続けるだけでは、転換は起きません。他主占有のまま、時間だけが過ぎていきます。占有権の詳しい中身は別の回で扱いますが、今日の要件判断としては、転換が起きない限り、所有の意思は生まれないということだけ押さえてください。

②③の推定——背骨の明示

186条1項の全文カード板 図:186条1項の全文カード板

条文民法186条1項

民法第百八十六条(占有の態様等に関する推定)第一項 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。

186条1項に戻ります。占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有するものと推定されます。ただし、善意が効いてくるのは162条2項、10年の時効の話です。今日扱っている20年の時効では、善意は要件ではありません。ここは10年の短期取得時効の回に送ります。今日押さえるのは、所有の意思・平穏・公然の3つです。

平穏・公然の意味の板 図:平穏・公然の意味の板

平穏とは、実力で奪ったり相手を脅したりせずに占有を始め、それを続けていることをいいます。占有そのものが不法な窃盗であっても、暴力や隠匿がなければ、平穏・公然にあたりえます。公然とは、占有を秘匿しないことです。さて、ここまで来ると、最初に予告したことが回収できます。20年の継続は186条2項で推定され、所有の意思平穏・公然は186条1項で推定されます。

立証責任配置表——今日の到達点 図:立証責任配置表——今日の到達点

占有者が立証しなければならないのは、実質的には占有していたことだけです。他人の物については、この後の節で見ます。Bは、「20年前から占有していた」ことと、「今も占有している」ことの2点さえ示せば十分です。そこから先——所有の意思があったか、平穏だったか、公然だったか——は、こちらから積極的に立証する必要がありません。Aは、186条の推定を破る事実を出すしかありません。例えば、「Bは、実は自分から借りて占有を始めた」という賃貸借契約書を出せば、所有の意思の推定は崩れます。あるいは、「Bは、力ずくで土地を追い出して占有を始めた」ことを示せば、平穏の推定が崩れます。

推定は、相手方が崩さない限り勝つ、という意味です。相手が何も出さない限り、Bはこの3つを一切立証せずに勝てます。学校の提出物で考えてみてください。毎日出していたと主張する生徒に、先生が「1日分ずつ全部証明しろ」と言えば、誰も証明できません。先月出したことと、今月出したことさえ示せば、その間は出し続けていたことにする——186条がやっているのは、これです。取得時効も同じ形をしています。ここで、今日の背骨を言い切っておきます。取得時効は、20年使えば勝てる制度ではありません。20年使ったと言えれば、あとは相手方が崩さないかぎり勝てる、という制度です。

④他人の物——自己の物でも時効取得できる

条文の文言と正面からぶつける問い。162条は「他人の物」と規定しているが、自己の所有物でも時効取得できるか。 図:条文の文言と正面からぶつける問い

最後に4つめ、他人の物という要件です。162条にははっきり「他人の物」と書いてあります。自分の物を時効取得するというのは、言葉の上では確かに変です。ですが、判例・通説は、自己の所有物についても時効取得を認めています

論文で書く規範:162条の「他人の物」は、自己の所有物であっても妥当する 自己の物を時効取得できないとすると、時効の趣旨がそのまま当てはまる場面で、たまたま自己の物だったというだけで保護されないことになるから。 (規範(最判昭42・7・21))

判旨カード。贈与で得た家屋をめぐる別事件で示された考え方 図:判旨カード。贈与で得た家屋をめぐる別事件で示された考え方

判例最判昭42・7・21 民集21巻6号1643頁(家屋明渡請求・破棄差戻)

自己物への162条適用 民法一六二条所定の占有者には、権利なくして占有をした者のほか、所有権に基づいて占有をした者をも包含するものと解するのを相当とする。 同条は、自己の物について取得時効の援用を許さない趣旨ではないからである。

162条の占有者には、権利なくして占有した者だけでなく、所有権に基づいて占有した者も含まれる162条は、自己の物について時効取得の援用を許さない趣旨ではない、と言い切っています。時効の趣旨を、1つずつ自己物に当てはめてみましょう。まず1つ目、永続した事実状態の尊重です。20年間、その物を自分の物として使い続けてきた事実状態は、自己物であっても他人の物であっても、同じように尊重に値します。2つ目、立証の困難の救済です。長年占有してきた人に、あらためて「本当に自分が所有者だった証拠」まで出せというのは酷です。占有物が自己物でも他人の物でも変わりません。3つ目、権利の上に眠る者は保護しないということです。真の所有者が20年も何も言わずに放っておいたなら、それが自己物か他人の物かにかかわらず、もはや保護に値しません。3つとも、自己物にそのまま当てはまります。

Aから先に買い占有を始めたB、後から買い登記を備えたHの二重譲渡の図 図:Aから先に買い占有を始めたB、後から買い登記を備えたHの二重譲渡の図

具体的な場面で見てみましょう。まず、Aが甲土地をBに売り、Bは代金を払って引き渡しを受け、そこに住み始めます。ところが、Aは同じ土地を、後からHにも売ってしまいます。二重譲渡です。そして、Hが先に登記を備えてしまいます。対抗要件の話でいえば、Bは負けます。登記の無いBは、Hに所有権を対抗できません。問われていることが違うからです。登記の勝負は、同じ人から買った者どうしの、どちらが優先するか。一方、時効取得は、占有という事実が20年続いたことそれ自体から、要件を満たせば権利が認められる話です。登記を持っているかどうかは、162条1項の5要件のどこにも出てきません。

Bはもう何も残っていないんですか。残っています。Bは、占有を続けている限り、時効取得を主張できます。すでに自分の物である甲土地を、時効であらためて取得する、という形になります。登記で負けた者の敗者復活とも言える場面です。ここには「取得時効と登記」という、もう1つの論点がありますが、それは別の回で扱います。

今日の地図(保存版)

まとめ板。冒頭の分かれ目は所有の意思。5要件と立証責任の全体像。10年の短期取得時効と効果へ 図:まとめ板

  • 冒頭の分かれ目は所有の意思
  • 5要件と立証責任の全体像
  • 10年の短期取得時効と効果へ

冒頭に戻りましょう。20年のBは所有者になれて、40年のCはなれません。分かれ目は、期間ではなく、所有の意思でした。Bは自主占有、Cは他主占有のままだったからです。20年の継続と平穏・公然、そして所有の意思は、186条で推定されます他人の物は、自己物でも認められます。占有者が実際に立証しなければならないのは、実質的に占有していたことだけです。最後に1問だけ。40年耕し続けたCが所有者になれないのは、どの要件が欠けるからでしょうか?所有の意思です。賃貸借で始めた占有は、他主占有のままだからですね。

20年使ったと言えれば、あとは相手が崩さない限り勝てる、という話でしたね。ただし、162条にはもう1つ、2項があります。こちらは10年で足ります。分かれ目は、占有を始めたときに善意無過失だったかどうかです。この10年の短期取得時効と、時効取得が起きたときの効果——原始取得と遡及効——は、続く回で扱います。

参照条文

  • 民法162条1項
  • 民法164条
  • 民法186条2項
  • 民法187条1項・2項
  • 民法185条
  • 民法186条1項

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