賃借権・地役権の取得時効
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第1章 民法総則 #81/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
Cの20年は無になるのか
図:冒頭の関係図
- Cは20年前からBに土地を借り、地代を払い建物を建てて住んできた
- ある日Aが現れ、Bには貸す権利がなかったと告げる
Cは、毎月きちんと地代を払い、その土地に自分の家を建てて、20年間住み続けてきました。ところがある日、見知らぬAが現れてこう言います。「その土地は私の物です。Bには貸す権利なんてありませんでした。家を壊して出ていってください」。本当でした。Bはただの無権利者で、登記も所有権もずっとAの物だったんです。今日の問いは、借りる権利も時効で手に入るのか。先に答えを言うと、手に入ります。条文は163条です。ただし、所有権のときより確かめることが増えます。そして地役権という権利では、条文がもっと重い条件を足してきます。
163条の全文——162条と3語だけ違う
図:163条の全文カード板。162条1項と骨格は同じで、3語だけ入れ替わっている。
条文民法163条
民法第百六十三条(所有権以外の財産権の取得時効) 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。
これが163条の全文です。前回までに見た162条1項と、骨格はそっくりです。
図:162条1項と163条の差分表
違うのは3か所だけです。所有の意思が自己のためにする意思に、占有したが行使するに、その所有権を取得するがその権利を取得するに、それぞれ入れ替わっています。全部162条と同じです。前回までにやりましたから、今日はもう説明しません。別物です。162条の所有の意思は、その物を自分の物にする意思でした。163条の自己のためにする意思は、その権利を、自分のために使う意思をいいます。物を自分の物にする話ではありません。もう1つ、条文の書き方に注目してください。「前条の区別に従い二十年又は十年」とあります。
163条は、10年ルートの要件を自分では書いていません。162条2項をそのまま引いているんです。だから、善意無過失を判断するタイミングも、行使を始めた時の1点という、前回の結論がそのまま効きます。占有を伴わない権利では、準占有という考え方が「行使」にあたります。自分のためにその権利を事実上使っている状態のことです。中身は205条に定められていますが、今日はこの一言だけ押さえてください。
取れる権利・取れない権利
図:一覧板
- 取れる=地上権・永小作権・地役権・不動産賃借権
- 取れない=形成権・1回的給付の債権・法定担保物権
163条の「所有権以外の財産権」には、実はすべての権利が入るわけではありません。取れるのは、地上権・永小作権・地役権・不動産の賃借権です。永小作権は、小作料を払って他人の土地で耕作や牧畜をする権利でしたね。形成権は、一方的な意思表示だけで法律関係を変えられる権利のことです。取れないのは、取消権や解除権のような形成権、代金を1回払ってもらえば終わるような1回きりの給付を目的とする債権、それに留置権や先取特権です。20年間、その権利を使い続けている姿を描けるかどうか、この一点です。
時効は、長く続いた事実の姿を、そのまま権利に変える制度でしたね。姿が一瞬で終わってしまう権利には、変えるべき事実そのものが残りません。ここだけ理由が別です。留置権や先取特権は、当事者が合意して作る権利ではなく、法律が要件を満たせば自動的に与える権利です。だから、そもそも行使を積み重ねて新しく生み出す、という発想自体が成り立ちません。地上権にも同じ構造が及びます。物権だから当然に姿が出る、という単純な話ではありません。判例は、土地を継続的に使用しているという外形的事実に加えて、その使用が地上権を行使する意思にもとづくことが、客観的に表現されていることを求めています。
継続的な使用と、意思の客観的表現、この骨格は地上権にも及びます。この後、賃借権の2要件を見るときに、また出てきます。
図:最判昭45・5・28の判旨カード
判例最判昭和45年5月28日 集民第99号233頁
地上権の時効取得にも要る客観的表現 地上権の時効取得が成立するためには、土地の継続的な使用という外形的事実が存在するほかに、その使用が地上権行使の意思にもとづくものであることが、客観的に表現されていることを要する。
そこが誤解しやすいところです。物権かどうかは関係ありません。使っている事実だけでなく、その使い方が権利行使の意思にもとづくと分かる形になっているか、ここが問われます。今日、山になるのは賃借権のほうです。
賃借権が山になる理由
図:冒頭の関係図の再掲。BC間の賃借権はAに届かず、Cの占有は無権原になってしまう。
冒頭のC・B・Aに戻りましょう。BとCの間の賃貸借契約は、有効です。他人の物を貸す契約でも、契約自体は成り立ちます。だから、CはBに対する賃借権をちゃんと持っています。問題は、そこから先です。賃借権は債権です。債権は、相手にだけ言える権利でしたね。契約の当事者でないAには、Cは賃借権を主張できません。Aから見ると、Cは権原のない占有者です。だから、Aの明渡し請求は、そのまま通ることになります。Cさんが救われる道は、無いんですか。1つだけあります。CがAに対する賃借権を、時効で取得できれば、そこで勝負がつきます。
Cの占有は、権原に基づく占有に変わります。だからこそ、賃借権が時効で取れるかどうかが、この回のいちばんの山になるんです。
賃借権は時効取得できるか——この回の背骨
図:板
- 原則は債権は継続的な行使を観念できず対象外
- しかし賃借権は占有を不可欠の要素とするので例外になる
原則から確認します。債権は、継続的な行使を観念できません。1回ごとに完結するのが債権の性質だからです。ところが、賃借権だけは違います。なぜですか。賃借権は、占有を不可欠の要素とする権利だからです。目的物をずっと占有し続けている姿は、地上権とほとんど同じ見た目をしています。賃借権は163条の財産権にあたり、時効取得できる、というのが判例の結論です。ただ、これで解決ではありません。賃借権の時効取得は、無条件ではないんです。
図:板
- 2要件を条文文言に紐づける
- ①継続的な用益という外形的事実=「行使する」のあてはめ
- ②賃借の意思の客観的表現=「自己のためにする意思」のあてはめ
2つの要件が足されます。1つめ、目的物を継続的に用益しているという、外から見える事実があること。これは、条文の「行使する」にあたる部分です。2つめ、それが賃借の意思に基づくことが、客観的に表現されていること。こちらは、条文の「自己のためにする意思」にあたる部分です。1つめだけだと、所有者が時効の進行にまったく気づけません。気づけなければ、完成猶予や更新で止める機会そのものを失ってしまいます。2つめが無いと、手に入る権利が賃借権なのか、タダで借りているだけの使用借権なのか、区別がつきません。だから両方が要ります。実は、冒頭のCが、まさにこの型です。家を建てて住み、地代も払っていました。片方しか無ければ、ただで借りている姿と見分けがつきません。
図:最判昭43・10・8の判旨カード
判例最判昭和43年10月8日 民集第22巻10号2154頁
賃借権の時効取得——2要件 土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているときは、民法一六三条に従い土地賃借権の時効取得が可能であると解するのが相当である。
判例が言い切っているのは、まさにこの2つです。
あてはめ——何があれば2要件を満たすか
図:表
- ①の材料=建物を建てた・住んだこと
- ②の材料=賃料を払い続けたこと
- 賃料は真の所有者宛でなくてよい
土地の賃借権なら、その土地の上に建物を建てて使っていたこと。建物の賃借権なら、その建物に住んでいたことです。ここで、大事な注意があります。賃料は、真の所有者に払っている必要はありません。無権利の貸主に払っていれば足ります。要求されているのは、賃借の意思が外に表れていることであって、正しい相手に払ったことではないからです。無権利者にでも払い続けていれば、「タダで借りているのではなく、賃借している」という姿は、外にちゃんと表れています。ふつうの賃貸借でも、賃料を滞納する借主はいます。だから、払っていないだけで直ちに2つめが否定されるわけではありません。ただ、現実には、この要件を通すのはかなり厳しくなります。
Cは、家を建てて20年住みました。これで1つめは満たします。地代も、Bに払い続けました。これで2つめも満たします。Aの明渡し請求は通りません。なお、Bを所有者だと信じ、そう信じたことに落ち度がなければ、10年で足りる場合もあります。判断のタイミングは、さっきと同じく行使を始めた時の1点です。
地役権の時効取得——条文が要件を足す
図:通行地役権の関係図
ここからは、地役権の時効取得です。自分の土地の便益のために、他人の土地を使う権利です。典型が通行地役権——公道に出られない土地から、隣の土地を通らせてもらう権利です。Dが、公道に出られず困っている土地の所有者。Eが、その隣の土地の所有者です。Dは、Eの土地に通路を作って、公道まで行き来しています。言葉を先に決めておきます。便益を受けるDの土地が要役地、通らせる負担を負うEの土地が承役地です。今日は、時効で取れるかどうかだけを見ます。
図:283条の全文カード板
条文民法283条
民法第二百八十三条(地役権の時効取得) 地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。
継続性と、外形上認識できること、つまり表現性、この2つの条件が、条文自身で正面から足されています。所有権では占有の姿がはっきりしていて、賃借権では判例が2つの要件を組み立てて補いました。地役権では、条文自身が要件を重くしている、というのが今日の3つめの段階です。なぜ、地役権だけ条文が重くするんですか。他人の土地を通る姿は、権利があっても、ただの好意でも、同じに見えるからです。その線引きを、次に見ます。
「継続」の中身——通路を作るのは誰か
図:判例カード
通行地役権でいう継続とは、承役地の上に、通路が開設されていることです。それだけでは足りません。さらに、その通路を作ったのが、Dでなければならないというのが判例の立場です。
判例最判昭和30年12月26日 民集第9巻14号2097頁
通行地役権の「継続」の中身 民法二八三条による通行地役権の時効取得については、いわゆる「継続」の要件として、承役地たるべき他人所有の土地の上に通路の開設を要し、その開設は要役地所有者によつてなされることを要するものと解すべく
その場合も、継続にはあたりません。もともとあった道を使っていただけの場合も同じです。なぜ、そこまで厳しくするんですか。ここが、今日いちばん効く「なぜ」です。隣の人の好意で通らせてもらっているだけの通行は、世の中にいくらでもあります。好意で通らせてもらっていただけの通行を、20年たったら権利に変えてしまうと、親切にした人が、自分の土地の一部を取られることになります。誰も他人を通らせなくなってしまいます。だから、「自分で道を作った」という、好意ではありえない行動を要求しているんです。
承役地の所有者が気づいて止められるだけの姿でなければ、時効を進ませない、という狙いは同じです。
図:階段板
- 所有権(姿明瞭)→賃借権(2要件)→地役権(条文で加重)
- 要件の重さは姿の頼りなさに比例する
所有権は、姿がはっきりしているので要件は占有の1つ。賃借権は、姿が紛らわしいので、判例が2つの要件を組み立てました。地役権は、姿がいちばん消えやすいので、条文自身が要件を重くしています。要件の重さは、外から見える姿の頼りなさに比例する——これが、今日の背骨です。
取得時効の中断——改正で消えた中断とは別物
図:164条・165条の全文カード板
- 占有者が任意に占有を中止したり、他人に占有を奪われたりすると時効は中断する
- 163条にも準用される
条文民法164条・165条
民法第百六十四条(占有の中止等による取得時効の中断) 第百六十二条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。 第百六十五条 前条の規定は、第百六十三条の場合について準用する。
2017年の改正で無くなった中断と、164条の中断は、別物です。はっきり切り分けておきましょう。無くなったのは、請求や承認といった、外からの出来事で時効を止めたり数え直させたりする、あの中断です。前に完成猶予・更新として学んだものですね。まったく別の制度です。164条の中断は、数えていた事実そのものが途切れたという話です。占有者が自分から占有をやめる、または他人に占有を奪われる、この2つです。占有していないなら、そもそも占有の年数を数えようがありません。
だから、2017年の改正でも、164条の「中断」という文字はそのまま残っています。条文を見てのとおりです。165条は、163条の場合にも同じ規定を準用する、と言っているだけです。所有権以外の財産権でも、行使をやめたり妨げられたりすれば、同じように中断します。
図:比較表
完成猶予・更新は、請求・承認といった外からの出来事が引き金です。164条・165条の中断は、占有や行使という事実そのものが途絶えたことが引き金です。名前は同じ「中断」に見えても、まったく別系統だと覚えてください。
ここから先の地図
図:送りの一覧板。時効取得と登記、賃貸借の本体、地役権の本体は別の回。
最後に、これから先の地図を示しておきます。今日やらなかったことも、あるんですか。3つあります。時効取得した賃借権や地役権を、あとから土地を買った第三者に主張できるか、つまり登記が要るかという論点は、別の回に送ります。賃貸借そのもの——対抗要件や借地借家法の中身も、別の回です。地役権の本体、設定のしかたや存続期間、対抗要件の中身も、別の回に送ります。
今日の地図(保存版)
図:まとめ板
- 冒頭のCに戻る
- 背骨は3段の階段
- 時効は続いている姿を権利に変える制度
冒頭に戻りましょう。Cは救われます。20年間、家を建てて住み、地代を払い続けた事実が、Aに対する賃借権として時効で認められるからです。時効は、長く続いた事実の姿を権利に変える制度です。だから、続いている姿を持たない権利は取れず、姿が紛らわしいほど要件が重くなります。所有権は占有の1つで足り、賃借権は2つの要件が必要で、地役権は条文自身が要件を重くしていました。20年間、その権利を使い続けている姿を描けるかどうか、この一点でしたね。使わないでいると権利が消える——消滅時効に入ります。まず問題になるのは、いつから数え始めるのかです。
参照条文
- 民法163条
- 民法283条
- 民法164条・165条