消滅時効の起算点
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第1章 民法総則 #82/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
数え始めはどこか
図:冒頭設例板
- Bは10年ほど前、Aから100万円を借りた
- 返す期日は決めなかった
- 連絡が途絶え、Bはもう終わった話だと思っていた
- 今になってAから内容証明が届き「100万円を返してください」
- Bは「もう時効ではないか」と思うが、Aは「あなたの居場所を知ったのは去年です。まだ5年たっていません」と言う
ところが今になって、Aさんから内容証明が届きます。「100万円を返してください」。でもAさんはこう言います。「私があなたの居場所を知ったのは去年です。まだ5年たっていません」。今日の問いは1つです。消滅時効は、いつから数え始めるのか。先に答えを言っておきます。実は数え方は2つあって、先に満了したほうで時効が完成します。片方は知った時から5年、もう片方は行使できる時から10年。そして「行使できる時」という言葉の意味が、この回でいちばんの山になります。
逆側の話——今日から消滅時効
図:対比板
- 取得時効(前回まで)=使い続けると権利を得る
- 消滅時効(今日から)=使わないでいると権利を失う
- 今日扱うのは債権の消滅時効(166条1項)
- 所有権以外の財産権が20年で消える166条2項の話、所有権が消滅時効にかからない話は次回に送る
ここまで10本、時効の趣旨から援用、完成猶予と更新、そして権利を手に入れる取得時効までを見てきました。今日からは逆側です。使わないでいると、権利が消えていく消滅時効に入ります。今日扱うのは、債権の消滅時効、166条1項です。今日はまず、債権がいつから数え始めるのかだけに絞ります。
二重の起算点・166条1項
図:二重の起算点の時間軸図
- 1本の債権に2本の時間軸が同時に走る
- 上の軸=主観的起算点(知った時から5年)
- 下の軸=客観的起算点(行使できる時から10年)
- 先にゴールした軸で時効が完成する
- 両方そろう必要はない
消滅時効の出発点になる条文を見てみましょう。
条文民法166条1項
民法第百六十六条第一項(債権等の消滅時効): 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
5年と10年、2つの数字が出てきますね。両方たたないと消えないんですか。そこが最初のつまずきどころです。違います。1号と2号は、それぞれ別の物差しで、どちらか早く満了したほうで時効が完成します。両方そろえる必要はありません。1号は、債権者が「行使できる」と知った時から5年。これを主観的起算点と呼びます。2号は、知っていようがいまいが、行使できる状態になった時から10年。これを客観的起算点と呼びます。「主観的」は債権者が知ったかどうかで動く物差し、「客観的」は知ったかどうかと無関係に動く物差し、とまず区別してください。
なぜ2本立てになったのか
図:一言板
- 2017年改正で、職業別に1年・2年・3年とバラバラだった短期の時効を廃止して統一した
- その代わりに「知った時から5年」という短い物差しを新設し、債権者が知っていながら長期間放置する場面を拾った
実は昔の民法は、職業ごとに時効期間がばらばらでした。飲食店のツケは短い、といった具合に、細かく分かれすぎていて分かりにくかったんです。2017年の改正で、この職業別の短期の時効はすべて廃止されました。では単純に10年へ一本化すればよいかというと、今度は別の問題が起きます。債権者が「もう請求できる」と分かっているのに、10年間はのんびり放置してもよい、ということになりかねません。それでは知っているのに眠っている人まで長く保護してしまいます。そこで、知っている場合には短い5年で区切る物差しを新しく入れて、両方の物差しを持たせたんです。
権利を行使することができる時とは何か
図:問いの板。Bが病気で入院していて権利行使できなかったら、時効は止まるか?
ここからは客観的起算点、2号の「権利を行使することができる時」の意味に入ります。その前に1つ聞かせてください。もし権利者が病気で入院していて、実際には請求できなかったとしたら、時効の進行は止まると思いますか。体が動かせないなら請求のしようがない、と考える人は多いはずです。でも結論は逆です。通説は、「行使することができる時」を、権利の行使に法律上の障害がなくなった時と解しています。判定の物差しは1つです。「自分の力ではどうにもならない法律上の壁があるか」ではなく、「請求すれば通る状態になっているか」。これで3つの例を仕分けてみます。1つめ、契約に停止条件が付いていて、その条件がまだ成就していない場合。これは条件が来るまでは請求しても通りませんから、法律上の障害にあたります。時効は進行しません。
権利者が病気で入院していた、あるいは権利があること自体を知らなかった。これは事実上の障害にすぎません。請求すれば通る状態そのものは変わっていないので、時効は進行します。3つめが、いちばん間違えやすい例です。相手に同時履行の抗弁権が付いている債権。同時履行の抗弁権というのは、簡単に言えば「そっちが先に履行しろ」と言い返せる権利のことです。これが付いていても、時効は進行します。債権者は、自分の債務について弁済の提供さえすれば、相手の同時履行の抗弁権を消すことができます。つまり、この壁は自分の力で外せる壁なんです。自分で外せる壁は、法律上の障害とは呼びません。
⭐ 論文で書く規範:権利を行使することができる時(客観的起算点)の意味 権利の行使につき法律上の障害がなくなった時をいう。単なる事実上の障害(病気・不知など)や、債権者が自ら除去できる障害(同時履行の抗弁権など)は、ここにいう法律上の障害にあたらない。 (通説で立てる規範)
客観的起算点の8つの型
図:一覧板
- 客観的起算点の8類型
- 確定期限のある債権=期限の到来時
- 不確定期限のある債権=期限の到来時
- 期限の定めのない債権=債権の成立時
- 返済期限を決めなかった消費貸借=契約成立から相当期間経過時
- 停止条件付債権=条件の成就時
- 解除条件付債権=債権の成立時
- 期限の利益喪失特約付き割賦払債権=原則各回の弁済期ごと
- 履行不能に基づく損害賠償請求権=元の債権の履行期
まず全体を見せます。客観的起算点は、債権の型ごとに8つの場面に仕分けられます。1つずつ降りていきましょう。1つめ、確定期限のある債権は、期限の到来時。2つめ、不確定期限のある債権も、同じく期限の到来時です。どちらも、債権者が期限の到来を知っていたかどうかは関係ありません。期限が来れば請求は通る状態になるので、債権者の主観は関係ない。この「主観は関係ない」という点は、あとで主観的起算点と比べるときにもう一度呼び戻しますから、覚えておいてください。
図:対比板
- 原則=期限の定めのない債権は成立した時から時効が進行する(成立していればいつでも請求できるから)
- ところが412条3項では、履行遅滞になるのは請求を受けた時とされる
- 時効の起算点と履行遅滞の起点が、わざと食い違っている
3つめ、期限の定めのない債権は、債権が成立した時から時効が進行します。冒頭のAさんとBさんが、まさにこの型です。期日を決めずに貸したので、原則は貸した時から。ただしお金の貸し借りには、すぐあとで見る例外が効きます。なぜ成立時なんですか。期限を決めていない以上、成立していればいつでも請求できるからです。ここで412条3項を並べてみます。期限の定めのない債務について履行遅滞になるのは、債務者が履行の請求を受けた時です。あれ、時効はもう成立時から進んでいるのに、履行遅滞になるのは請求されてからなんですか。ここはわざと食い違っています。時効の物差しは成立時から動き出す一方、履行遅滞という別の物差しは請求を受けてから動き出す。同じ債権について、2つの制度が別々の起点を持っていると考えてください。測っているものが違うからです。時効は「請求すれば通る状態だったか」を測るので成立した時から動き、履行遅滞は「債務者を責めてよい状態か」を測るので、請求を受けて初めて動きます。この型の典型例が、不当利得返還請求権です。中身は別の回で扱いますが、名前だけ覚えておいてください。
図:一言板
- 返済期限を決めなかった消費貸借は例外=契約の成立から相当期間を経過した時が起算点になる(591条1項参照)
- 借りた金をすぐ返せというのは酷だから、貸主も相当期間は請求できないと解されている
ただし、4つめとして例外があります。返済期限を決めなかった消費貸借、つまりお金の貸し借りだけは別です。契約の成立から、相当な期間が経過した時が起算点になります。冒頭のAさんとBさんの100万円も、この例外にあたります。貸したその瞬間ではなく、契約から相当な期間がたった時から数え始めます。借りた金を、契約したその瞬間から「今すぐ返せ」と言われるのは、借主にとって酷だからです。貸主の側にも、相当な期間は請求できないという制約がかかると解されています。
図:対比板
- 停止条件付債権=条件の成就時が起算点(条件が来るまで請求は通らない)
- 解除条件付債権=債権の成立時が起算点(条件が成就するかどうか未定の間も、権利者は権利を行使できるから)
5つめと6つめは、条件付きの債権です。停止条件付債権は、条件の成就時。さっき見た、条件が成就していないと請求が通らない、という話そのままです。解除条件付債権はどうなりますか。こちらは、債権の成立時です。解除条件が付いていても、条件が成就するかどうか決まっていない間は、権利者は普通に権利を行使できます。だから成立時から数え始めるんです。停止条件と解除条件、名前は似ていますが、起算点はこう分かれます。
期限の利益喪失特約付き割賦払債権
図:関係図
- Cが商品を分割払いで買い、Dが売主
- 契約には「1回でも支払いが遅れたら、Dの請求により残額全部を直ちに払う」という期限の利益喪失特約が付いている
- Cが1回目の支払いを怠った
7つめの型は、少し込み入っています。Cが商品を分割払いで買い、Dが売主です。この場面は、AさんBさんの貸し借りとは別の場面です。契約には、以前見た期限の利益——期限が来るまでは払わなくてよいという債務者の利益——を使った特約が付いています。「1回でも支払いが遅れたら、Dが請求すれば、残り全部を直ちに払え」という期限の利益喪失特約です。この瞬間から、残り全部の時効が走り出すように見えませんか。特約のとおりなら、Dはこの瞬間に残額全部を請求できるようになる。つまり、法律上の障害が消えたように見えます。
ところが、それでは結論がおかしくなります。この特約は、そもそも債権者Dの利益のために置かれた特約です。それなのに、その特約があるせいでDの時効が早く走り出す、つまりDが不利益を受けるのでは、筋が通りません。自分のために付けた条項で自分が損をするのは、おかしいですよね。
判例最判昭和42年6月23日 民集第21巻6号1492頁
期限の利益喪失特約付き割賦払債権はいつから時効が進行するか 割賦金弁済契約において、割賦払の約定に違反したときは債務者は債権者の請求により償還期限にかかわらず直ちに残債務全額を弁済すべき旨の約定がされた場合には、一回の不履行があつても、各割賦金債務について約定弁済期の到来ごとに順次消滅時効が進行し、債権者が特に残債務全額の弁済を求める旨の意思表示をしたときにかぎり、その時から右全額について消滅時効が進行するものと解すべきである。
判例の結論はこうです。原則は、各回の約定弁済期が来るたびに、その回の分だけ時効が順次進みます。例外として、Dが実際に「残額全部を払え」という意思表示をしたときだけ、その時から残額全部の時効が進み始めます。実は、これとは反対の考え方もあります。1回でも遅滞したら、その時から当然に全額の時効が進むという有力説です。ですが、この考え方には批判があります。それだと、悪質な債務者ほど、遅滞した瞬間から時効の得点を稼げてしまい、かえって早く逃げ切れることになってしまいます。判例が原則・例外の形をとったのは、この不都合を避けるためでもあります。いまのは特約の読み方をめぐる争いでした。特約そのものの型にも、一言だけ。ここで判例が判断したのは、「債権者が請求して初めて残額全部を払う」という型の特約です。1回でも遅れたら請求を待たずに当然に全額を払う、という型の特約は、この判例が判断した場面の外側になります。
⭐ 論文で書く規範:期限の利益喪失特約付き割賦払債権の起算点 原則として、各割賦金債務は約定弁済期の到来ごとに消滅時効が進行する。ただし、債権者が残債務全額の弁済を求める意思表示をしたときは、その時から残債務全額について消滅時効が進行する。 (判例で立てる規範)
履行不能に基づく損害賠償請求権
図:関係図
- Gが土地を買い、代金も払い済み
- ところが売主Fがその土地を第三者に売却し登記も移してしまい、Fの引渡義務は履行不能になった
8つめの型です。GがFから土地を買い、代金も払い済みです。ここも、さっきのCさんDさんとは別の場面です。ところがFは、その土地を第三者に売って登記まで移してしまいました。もうFはGに土地を引き渡せません。これを履行不能と呼びます。Gさんは、もう泣き寝入りですか。違います。Gは、Fに対して損害賠償を請求できます。この請求できる根拠自体は、別の回で詳しく扱いますが、今日の問題はここからです。この損害賠償請求権の時効は、いつから数えるのか。履行不能になった日でしょうか、それとも、元の引渡しを請求できた日でしょうか。
判例最判平成10年4月24日 集民第188号263頁
履行不能に基づく損害賠償請求権はいつから時効が進行するか 契約に基づく債務の履行不能による損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時から進行する。
元の債権を請求できた時、という結論ですか。履行不能になった時ではなく。理由はこうです。この損害賠償請求権は、本来の履行請求権が形を変えたもの、いわば本来の履行請求権の拡張であって、本来の履行請求権と法的に同一の権利だとされています。姿を変えただけで、同じ1本の権利だということです。
図:時間軸の板
- 引渡債務の履行期=ここから時効が進む
- 履行不能になった時=ここではない
- Gが気づいた時=もう残り時間が少ない
だから、この結論はかなり厳しい結論になります。Fの引渡義務がもともと履行期を過ぎていたなら、時効の時計は、Gが履行不能に気づくよりずっと前から動いていたことになります。履行不能に気づいた時には、もう残り時間が少ない、という事態が起こり得るんです。これは怖いですね。契約に基づく債務の話、というのがポイントですか。大事な注意点です。この判例の射程は、契約に基づく債務の履行不能による損害賠償請求権に限られます。「債務不履行なら何でもこの結論になる」と広げてはいけません。では契約に基づかない債務の履行不能なら、どこから数えるのか。特別扱いはせず、今日の原則に戻ります。166条1項2号の「権利を行使することができる時」、つまり法律上の障害がなくなった時から数えます。同じ理屈のもう1つの例が、契約を解除したときの原状回復請求権です。これは、解除権を行使した時が起算点になります。解除によって契約がさかのぼって消えた結果生まれる債権なので、さっきの「期限の定めのない債権は成立時」という扱いに戻ると考えてください。
⭐ 論文で書く規範:履行不能に基づく損害賠償請求権の起算点 契約に基づく債務の履行不能による損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求し得る時から進行する。本来の履行請求権が形を変えたにすぎず、これと法的に同一性を有するためである。 (判例で立てる規範)
主観的起算点——知った時とは何か
図:対比板
- 客観的起算点と主観的起算点の違い
- 不確定期限の到来=客観は知らなくても進む、主観は知って初めて進む
- 債務者が誰か=客観は関係ない、主観は知る必要がある
ここまでずっと客観的起算点を見てきました。ここからは、もう1本の物差し、主観的起算点に戻ります。1号の「知った時」を、もう一度見てください。
条文民法166条1項
民法第百六十六条第一項(債権等の消滅時効): 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
権利を行使しようと思えばできる、と言える程度の認識です。つまり、権利がすでに生まれていること、履行期がすでに来ていること、行使を妨げる事情もすでに消えていること。この三つを債権者本人がつかんでいる状態、という意味です。そしてもう1つ、客観的起算点には無かった要素が加わります。債務者が誰であるかを知ったことも必要になります。客観的起算点では、債務者が誰かなど関係ありません。期限が来れば、それだけで時効は進みます。ところが主観的起算点は、債権者本人の認識を基準にするので、相手が誰か分からないうちは「知った」とは言えないんです。
ここで、冒頭の問いに答えが出ます。Aさんが知らなかったのは、Bさんの居場所です。Bさんが誰であるか自体は、貸した時から最初から知っています。主観的起算点で必要なのは、債務者が誰かを知ることであって、居場所を知ることではありません。Aさんは、誰に貸したかは分かっているのに、単に探さなかっただけです。以前見た時効の趣旨、権利の上に眠る者は保護しない、という考え方が、まさにここで効いてきます。主観的起算点は、10年前——つまり貸した時から、すでに動き出していたことになります。5年は、とっくに過ぎています。
不法行為だけ物差しが違う理由
図:対比板
- 166条1項と724条の数字の対比
- 契約の債権=主観5年・客観10年
- 不法行為=主観3年・客観20年
- 主観側は短くなり、客観側は長くなる
- 逆方向に動く
最後に、不法行為だけ特別な物差しを持っている理由を見ます。
条文民法724条
民法第七百二十四条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効): 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
5年が3年に、10年が20年にと逆方向へ動いている。そこが今日の最後のポイントです。契約に基づく債権は、主観側が5年、客観側が10年でした。不法行為は、主観側が3年に短くなり、客観側が20年に長くなる。なぜ逆方向に動くのか。契約の当事者は、あらかじめ関係を結んでいます。ところが不法行為は、当事者が事前に何の関係も結んでいません。被害者は、損害と加害者を知って初めて動き出すしかないんです。知ってしまえば、あとは早く動けるはずですから、主観側は3年と短くても構いません。他方で、被害に気づくまでに長い年月がかかる被害の種類もあります。だから、客観側は10年より長い20年を確保しているんです。不法行為の要件そのものは別の回で扱いますが、今日は数字の理由だけつかんでおいてください。
生命・身体侵害の特例
図:一言板
- 167条=166条1項2号の「十年間」を「二十年間」に読み替え
- 724条の2=724条1号の「三年間」を「五年間」に読み替え
- 人の生命・身体が害されたときは、契約構成でも不法行為構成でも、主観5年・客観20年にそろう
もう1つだけ、特例があります。人の生命や身体が害されたときだけの、特別な条文です。
条文民法167条
民法第百六十七条(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効): 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については、同号中「十年間」とあるのは、「二十年間」とする。
条文民法724条の2
民法第七百二十四条の二(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効): 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
167条も724条の2も、自分では期間を書かず「二十年間とする」「五年間とする」とだけ定めています。これは読み替え条文という特殊な形です。自分では期間を定めず、別の条文の文字だけを差し替えるんです。167条は166条1項2号の「十年間」を「二十年間」に、724条の2は724条1号の「三年間」を「五年間」に、それぞれ差し替えます。結果を1枚にまとめます。人の生命や身体が害されたときは、契約に基づく債務不履行として構成しても、不法行為として構成しても、主観5年・客観20年にそろうんです。
なぜわざわざそろえたんですか。同じ交通事故でも、契約責任で行くか不法行為で行くかで時効の期間が変わってしまうのは、被害者にとって不合理だからです。人の生命や身体は、いちばん守るべき法益ですから、どちらの構成を選んだかで結論が変わらないようにしたんです。
今日の地図(保存版)
図:冒頭設例板の再掲
- Bは10年ほど前、Aから100万円を借りた
- 返す期日は決めなかった
- 今になってAが「居場所を知ったのは去年だ」と言うが、Aは最初からBが誰かは知っていた
今日の背骨を、もう一度お願いします。「いつから数えるか」は、突き詰めると「いつから請求すれば通る状態だったか」を探す作業でした。知っていたかどうかという主観の物差しと、請求すれば通る状態だったかという客観の物差しは、別々に走っていて、先にゴールしたほうが使われます。Aさんの言い分は通りません。知らなかったのは居場所であって、Bさんが誰であるかは最初から知っていたからです。ただし、客観的起算点で見ると話は変わります。今回は返済期限を決めなかった貸金ですから、契約から相当な期間がたった時——貸してまもない時点から、10年の物差しが動いています。
主観の5年も、客観の10年も、どちらもすでに満了しています。どちらか早いほうで完成しますから、Bさんは時効を援用できます。判決で確定した権利は何年になるのか、時効とよく似ているのに援用のいらない除斥期間とは何が違うのか、そして総則のどこを埋めてきたのかを1枚で振り返ります。
参照条文
- 民法166条1項
- 民法724条
- 民法167条
- 民法724条の2