民法ゼロから民法#84

物権の三つの性質と一物一権主義

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第2章 物権 #84/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

自転車を、貸しただけのはずだった

冒頭設例の関係図。Aが自分の自転車をBに貸した(実線矢印「貸した」)。Bはその自転車を自分の物のような顔でCに売り、引き渡した(実線矢印「売った・引き渡した」)。AからCへは点線矢印で「返してと言えるか?」の問いを残す。 図:冒頭設例の関係図

  • Aが自分の自転車をBに貸した(実線矢印「貸した」)
  • Bはその自転車を自分の物のような顔でCに売り、引き渡した(実線矢印「売った・引き渡した」)
  • AからCへは点線矢印で「返してと言えるか?」の問いを残す

Aは、自分の自転車をBに貸しました。ところが、Bはその自転車を売ってしまいました。自分の物のような顔で、Cに売ったんです。引き渡しも、もう終わっています。Aが気づいて、取り戻そうとしました。するとCは、こう言います。「私はBから買ったんです」「あなたとは、何の関係もありません」AとCは、契約で結ばれていません。何の約束もない相手です。Aが持っているのは、貸した相手Bに向けた権利のはずです。それなのに、赤の他人のCに、何か言えるのでしょうか。今日の問いは、1つです。自分の物だと言えるのは、誰に対してか。先に、答えを言っておきます。Aは、契約の無いCに対しても、言えます。所有権が、物権だからです。

今日は、その理由を見ていきます。なぜ物権には、そんな力があるのか。そして、物権はそもそも、どんな物の上にしか成立しないのか。この2つを、今日押さえます。

民法の後半、第2章のはじまり

一言板。総則は「契約が効くかどうか」の話だった。物権法は、効いた結果として手に入った物に対する権利が、どう動くかの話。 図:一言板

  • 総則は「契約が効くかどうか」の話だった
  • 物権法は、効いた結果として手に入った物に対する権利が、どう動くかの話

前回まで、総則を69本、通してきました。四つの関門は、契約が効くかどうかの話でした。では、効いた結果として手に入る、物に対する権利は、どういう仕組みで動くのか。ここから先が、第2章、物権です。今日から31本、物権を見ていきます。最初の3本は、物権全体に共通する土台です。

目次板。今日の地図。前半=誰に対して言えるか(直接性・排他性・絶対性)。後半=何について言えるか(特定性・独立性・一物一権主義)。 図:目次板

  • 今日の地図
  • 前半=誰に対して言えるか(直接性・排他性・絶対性)
  • 後半=何について言えるか(特定性・独立性・一物一権主義)

今日の地図は、2段構えです。前半は、物権が誰に対して言えるか。3つの性質を見ます。後半は、物権がそもそも何について成立するのか。物権の対象になる物の条件を見ます。誰に対して言えるかと、何について言えるか。この2つが、この先31本の土台になります。

物権とは何か——定義を1枚で確定する

この回の骨格板。物権の定義=物を直接的かつ排他的に支配する権利。定義に入っている2つ=直接性・排他性。定義には入らないがもう1つ=絶対性。 図:この回の骨格板

  • 物権の定義=物を直接的かつ排他的に支配する権利
  • 定義に入っている2つ=直接性・排他性
  • 定義には入らないがもう1つ=絶対性

まず、物権そのものを定義します。物を直接的かつ排他的に支配する権利。これが、物権の定義です。順番に見ていきます。

論文で書く規範:物権の定義 その中身は、物を直接的かつ排他的に支配する権利。 (学説上の定義)

その前に、1つ、意外な事実があります。民法典を開いても、この定義そのものを書いた条文は、実はありません。175条から179条まで、見てみましょう。物権は創設できないという話や、対抗要件の話は出てきます。でも、「物権とは何か」を定義した条文は見当たりません。学問の積み重ねから、性質の側で押さえるしかないんです。物権には、3つの性質があります。今の定義には、そのうち2つが、もう入っています。直接性と、排他性です。もう1つ、定義には織り込まれていない性質があります。絶対性です。定義に入っている2つと、入らないもう1つ。この3本立てで、今日の前半を進めます。

性質その1、直接性——他人を介さない

一言板。直接性=他人の行為を介在させることなく物を支配する性質。Aが自分の自転車に乗るのに誰の協力も要らない。賃借人は貸主の行為を介した間接的な支配にとどまる。 図:一言板

  • 直接性=他人の行為を介在させることなく物を支配する性質
  • Aが自分の自転車に乗るのに誰の協力も要らない
  • 賃借人は貸主の行為を介した間接的な支配にとどまる

1つめの性質、直接性です。他人の行為を介さずに、物を支配できる性質です。例えば、冒頭のAで考えます。Aが自分の自転車に乗るとき、誰かの協力が要りますか。いえ、要りません。鍵を開けて、乗るだけです。これが、直接性です。一方、物を借りている人は、事情が違います。貸主が、使わせ続けてくれて、初めて使えます。この違いは、前に物権と債権を比べた回で見た軸です。今日は、そこをもう一段掘り下げます。直接支配が、誰かに侵されたらどうなるでしょうか。自分の力で、取り除きたくなります。実は、この「取り除け」と言える力は、条文にありません。直接支配という性質そのものから、当然に導かれています。総則で、物権的請求権として一度見た力ですね。

この章では、誰に、どんな形で言えるのかを、正面から扱います。

性質その2、排他性——同じ内容の物権は1つだけ

一言板。排他性=同じ物の上に、同じ内容の物権をもう一つ成立させない性質。ある土地に完全な所有権が成り立っていれば、同じ土地に別の完全な所有権が同時に成り立つことはない。ただし内容が違えば並立できる(所有権と抵当権など)。 図:一言板

  • 排他性=同じ物の上に、同じ内容の物権をもう一つ成立させない性質
  • ある土地に完全な所有権が成り立っていれば、同じ土地に別の完全な所有権が同時に成り立つことはない
  • ただし内容が違えば並立できる(所有権と抵当権など)

2つめの性質、排他性です。名前は、前に物権と債権を比べた回で出ていました。今日は、その効きどころを見ます。同じ物への、同じ内容の物権を、排除する性質です。例えば、ある土地に、完全な所有権があるとします。この同じ土地に、別の人の完全な所有権が、同時に成り立つことはありません。ただし、気をつけてください。内容が違えば、同じ物の上に複数の物権が並び立てます。同じ土地に、所有権と抵当権が両方成立するのは普通です。ここで、冒頭の自転車の場面とは別の場面を、1つ挟みます。

二重譲渡の関係図。Dが甲土地の売主。Dから、Bへ「売った」の矢印。Dから、Cへも「売った」の矢印。BとCは、冒頭の自転車の場面のB・Cとは別人物であることを注記。 図:二重譲渡の関係図

  • Dが甲土地の売主
  • Dから、Bへ「売った」の矢印
  • Dから、Cへも「売った」の矢印
  • BとCは、冒頭の自転車の場面のB・Cとは別人物であることを注記

Dという人が、自分の甲土地を持っています。このあと出てくるBとCは、冒頭の自転車とは別の人だと思ってください。それを、BとCという2人に、両方売りました。BとCは、それぞれDと契約を結びました。この2人とも、所有者になれるでしょうか。今の話からすると……無理ですよね。排他性がありますから。2人とも所有者にはなれません。だから、どちらが勝つかを決める仕組みが要ります。対抗要件です。総則で、177条と178条を見た回に出てきました。物権のどこからその必要が出てくるのか——それが、今日の排他性です。物権変動の全体像は、この章でもう一度、正面から扱います。

性質その3、絶対性——誰に対しても言える

冒頭設例の場面の再掲。AからCへの矢印を太く強調した板。「Aは、契約の無いCに対しても、返してと言えるか?」の問いを残す。 図:冒頭設例の場面の再掲

  • AからCへの矢印を太く強調した板
  • 「Aは、契約の無いCに対しても、返してと言えるか?」の問いを残す

ここで、冒頭のAとCに、いったん戻ります。AとCの間に、契約はありません。それでも、AはCに対して、何か言えると思いますか。Bにしか言えないのか、それとも誰にでも言えるのか。そこが、今日いちばんの山です。3つめの性質、絶対性を見ていきます。定義はこうです。物権は、何人に対しても、主張できる。特定の相手だけでなく、誰であっても、という意味です。今の問いに、答えを出します。Aは、Cに対しても、「自分の物だ」と言えます。理由は、こうです。Aの所有権は、Bに対する権利ではありません。自転車そのものに対する権利です。だから、誰が持っていようと、追いかけて主張できます。

ここに、2つだけ留保を置きます。1つめ。この主張ができるのは、対抗要件を備えている限り、という条件つきです。対抗要件の中身は、この先の回でじっくり扱います。ただ、対抗要件が働くのは、同じ持ち主から権利を得た人どうしがぶつかる場面です。さっきのD・B・Cが、まさにその場面でした。冒頭の自転車に戻ると、Cは、持ち主でないBから買っています。だから、対抗要件の話は出てきません。2つめ。動産を、取引によって手に入れた人を守る仕組みがあります。Cのように、事情を知らずに買った人は、それだけで守られることがあります。

断定はできません。今日確定するのは、Aが「言える」というところまでです。整理すると、2つの言い分が、ぶつかり合う形になります。Aは、絶対性を武器に「自分の物だ」と主張します。Cは、動産を守る仕組みを武器に対抗します。どちらが勝つかは、事案しだいです。この先の回で、決着させます。もう1つ、債権のほうも確認します。債権は、その相手にしか主張できません。ただし、まったくの無力ではありません。第三者が債権を侵害すれば、不法行為になることもあります。中身は、また別の回で扱います。誰に対しても主張できるのが物権。その相手にしか主張できないのが、債権です。

3つの性質を、一覧にする

物権と債権の対比一覧板。7行×2列(物権/債権)。客体=物そのもの/特定の人。直接性=ある/ない。排他性=ある/ない。絶対性=ある(誰に対しても)/ない(相手にしか)。優先的効力=物権が勝つ/劣る。存続期間=所有権は消滅時効にかからない/原則時効にかかる。譲渡性=当然に譲渡できる/別の仕組みが要る。 図:物権と債権の対比一覧板

  • 7行×2列(物権/債権)
  • 客体=物そのもの/特定の人
  • 直接性=ある/ない
  • 排他性=ある/ない
  • 絶対性=ある(誰に対しても)/ない(相手にしか)
  • 優先的効力=物権が勝つ/劣る
  • 存続期間=所有権は消滅時効にかからない/原則時効にかかる
  • 譲渡性=当然に譲渡できる/別の仕組みが要る

ここまでの3つの性質を、1枚の表にまとめます。客体・直接性・排他性・絶対性。優先的効力・存続期間・譲渡性。7つの項目を並べました。直接性・排他性・絶対性は、もう見ました。そこは板に置くだけにします。今日は、残り3つだけ、口で説明します。1つめ、優先的効力です。同じ物の上で、物権と債権がぶつかったとき。物権のほうが、勝ちます。例えば、借りて住んでいる家を、大家さんが別の人に売った場面です。借りている人が持っているのは、大家さんに「使わせてください」と言える債権。買った人が持っているのは、その家そのものに向かう物権です。物に向かう権利は、持ち主が変わってもついていきます。

ただし、対抗力を備えた不動産の賃借権という例外もあります。対抗力というのは、さっき名前を出した対抗要件を備えた結果として持つ力です。賃借権でも、決められた形を備えれば、買った人に対しても言えるようになります。中身は、この先の章で扱います。2つめ、存続期間です。前回確認したとおり、所有権は、時間が経っても消えません。3つめ、譲渡性です。物権は、当然に譲り渡せます。一方、債権を譲るには、別の仕組みが要ります。なぜ違うのか。物権は物に向かうので、持ち主が変わっても中身は変わりません。債権は特定の人に向かうので、その人に知らせる手続きが要るんです。名前だけ置いておきます。債権譲渡です。この先の章で、じっくり扱います。

地図を広げながら、少しずつ埋めていきます。

ここからは、何についてなら成立するのか

客体の3原則の骨格板。特定性・独立性・一物一権主義。前半=誰に対して言えるか。後半=何について言えるか。 図:客体の3原則の骨格板

  • 特定性・独立性・一物一権主義
  • 前半=誰に対して言えるか
  • 後半=何について言えるか

ここまでは、物権が誰に対して言えるか、という話でした。ここからは、同じ軸を、物の側から見ます。誰に対しても言える強い権利だからこそ、その権利が乗る「1個の物」の範囲を、曖昧なままにはできないんです。条件は3つあります。特定性、独立性、一物一権主義です。1つずつ、順番に見ていきます。

客体の原則その1、特定性

プリンター50台の在庫棚のイラスト。「1台ください」と注文した客がいる場面。50台のうちどれがその人の物になるか決まっていない。

  • 「1台ください」と注文した客がいる場面
  • 50台のうちどれがその人の物になるか決まっていない

1つめの条件、特定性です。例えば、こんな場面を考えてみます。同じ型番のプリンターを、50台、在庫している店があります。そこに「1台ください」と、注文が入りました。この段階で、50台のうち、どれがその人の物か決まっていますか。いえ……どれか1台、というだけですよね。まだ、どの1台かは決まっていません。どの物か確定していない段階では、所有権を観念できません。これが、特定性です。なぜ、そうなるのか、理由も見ておきます。物権は、物を直接支配する権利でしたね。支配する対象そのものが定まっていなければ、何を直接支配しているのか、決めようがありません。

もう1つ、理由があります。その物だけを対象にした権利だと、外から見える形にもできません。特定性も、独立性も、根っこは同じ軸でつながっています。3つの性質と、客体の3原則。バラバラの暗記項目に見えますが、実は、物権が物に向かう強い権利だ、という1点から出てきています。この話は、実は、この先の大きな論点にもつながります。種類だけを決めて個数を注文する売買を、不特定物の売買と呼びます。この場合、所有権がいつ移るかは、まさに「特定」が起きたタイミングが鍵になります。中身は、この先の回で扱います。

客体の原則その2、独立性——物の一部には乗らない

自動車のイラストにハンドル部分だけを別枠で囲んだ図。1台の物の一部だけを取り出して物権の対象にすることは、原則として認められない。

2つめの条件、独立性です。さっき、特定性で見たのは、「どの物か」が決まっているか、でした。独立性は、その物の範囲を、勝手に切り刻めるか、という話です。原則はこうです。1個の物の一部だけを、物権の対象にすることは、原則として、認められません。例えば、こんな場面で考えます。1台の自動車のうち、ハンドルの部分だけが、別の人の所有物になっている。こういう状態は、認められません。なぜ、そんな原則があるのでしょうか。理由は、2つあります。ここが、今日いちばん大事な理屈です。1つめ。そんな一部だけの権利を認める、必要性が普通はありません。ハンドルだけを、別に売り買いする需要はないですよね。

2つめ。仮に必要性があっても、外から見える形にする手段がありません。前に、登記や引渡しの話をした回で、この考え方に名前がついていました。公示——外から見える形にすること。誰かに権利を主張するには、それを外から見える形にする必要がある、という話でした。自動車のハンドルにだけ、所有者名を書くわけにもいきません。必要性と、公示の手段。この両方がそろったときだけ、例外が認められます。実は、この例外に当たるものに、もう一度出会っています。以前、物の分類を見た回で、立木の話をしましたね。あのときの明認方法も、この2軸で説明がつきます。必要性と、公示の手段です。木材だけを取引したいという必要性があります。そして、明認方法という、外から見える形にする手段があります。

だから、例外が認められます。明認方法は、木からまだ離れていない果実にも使えました。未分離の果実も、同じ2軸で説明がつきます。独立性の例外は、他にもあります。一筆の土地のうち、一部分だけ。マンションの一室のような、区分所有。どちらも、名前だけ置いておきます。中身は、この先の回でじっくり扱います。

客体の原則その3、一物一権主義——まとめて1個にはしない

自転車3台のイラスト。1台=1個のラベル×3。3台まとめて1個ではなく、1台ごとに3個の所有権。

  • 1台=1個のラベル×3
  • 3台まとめて1個ではなく、1台ごとに3個の所有権

3つめの条件に入る前に、1つ確認したいことがあります。前に、時効の回で使った「一物一権主義」という言葉を、思い出せますか?あのときは、どういう意味で使っていましたか?えっと……たしか、1つの物に対して。同じ内容の物権は1つしか存在できない、という意味でした。それは、さっき見た排他性の言い換えでした。実は、「一物一権主義」という言葉には、2つの意味があります。今日は、もう1つの意味のほうを、正面から見ていきます。今日の3つめの条件はこうです。物権の客体には、独立性と単一性が要求される。独立性は、さっき見ました。今日はもう1つ、単一性のほうです。

複数の独立した物のまとまりを、集合物と呼びます。その集合物の上に、1個の物権を認めることはできない。そういう意味です。なぜ、こんな原則があるのでしょうか。独立性が「物の内側を勝手に割らない」という話なら、単一性は「複数の物を勝手にまとめない」という、逆向きの話です。どちらも、物権の対象をはっきりさせる歯止めです。自転車を3台持っている人がいるとします。この人の所有権は、3台まとめて1個でしょうか。それとも、1台ごとに1個でしょうか。法的には、3台まとめて1個、とはなりません。1台ごとに、それぞれ独立した所有権が、3個成立します。まとめて1個、という数え方はしません。

ただし、これにも例外があります。倉庫の在庫を、まとめて担保にする仕組みです。集合物譲渡担保と呼ばれます。範囲さえ特定すれば、複数の物のまとまりを1個の物として扱えます。中身は、また別の回で扱います。さっきの独立性のときと、似た構造ですね。原則があって、条件つきで例外を認める。

一物一権主義の2つの意味の整理板。意味1=独立性+単一性(今日この回)。意味2=排他性=同じ物に同じ内容の物権は1つ(前に使った意味)。 図:一物一権主義の2つの意味の整理板

  • 意味1=独立性+単一性(今日この回)
  • 意味2=排他性=同じ物に同じ内容の物権は1つ(前に使った意味)

ここで、一物一権主義という言葉の整理に、もう一度戻ります。「一物一権主義」は、独立性と単一性を指すこともあります。今日、この2つを見ましたね。一方で、排他性を指すこともあります。1つの物に、同じ内容の物権は1つ、という意味です。この言葉は、実定法上、2つの意味で使われている。そういう事実として、覚えてください。文脈で判断します。「物の数え方」の話なら、独立性と単一性の意味です。「同じ物に同じ内容の権利が何個乗るか」の話なら、排他性の意味です。話している内容で、その場で判断してください。

例外はなぜ許されるのか——趣旨に戻る

5行×3列の趣旨一覧板。列=例外/必要性/公示の手段。立木=木材だけを取引したい/明認方法。未分離の果実=収穫前に権利者を分けたい/明認方法。一筆の土地の一部=一部だけ譲りたい/分筆・登記。区分所有=部屋ごとに持ち主を分けたい/区分建物の登記。集合物譲渡担保=在庫全体を担保にしたい/目的物の範囲の特定。 図:5行×3列の趣旨一覧板

例外必要性公示の手段
立木木材だけを取引したい明認方法
未分離の果実収穫前に権利者を分けたい明認方法
一筆の土地の一部一部だけ譲りたい分筆・登記
区分所有部屋ごとに持ち主を分けたい区分建物の登記
集合物譲渡担保在庫全体を担保にしたい目的物の範囲の特定

今日、独立性と単一性、両方で、いくつか例外の名前を挙げました。ここで、全部並べて、共通の軸で見直します。なぜ、この2つが軸になるのか、理由から見ていきます。物権は、誰に対しても主張できる、強い権利でしたね。強い権利だからこそ、2つの歯止めが要ります。1つめ。そもそも、そんな権利を認める実益が無ければ、例外を認める必要そのものがありません。2つめ。他人が知りようのない権利を、勝手に認めてしまうと、その物を取引した人が、不意打ちを受けます。だから、判定の軸は、実はこの2つだけです。1つめ、社会的な必要性があるか。2つめ、公示する手段があるか。この2つがそろえば、例外が認められます。

論文で書く規範:物権の客体の独立性の例外を認めるかどうかの判断 物権の客体は、原則として1個の独立した物でなければならない。ただし、当該部分について、取引上の必要性が認められ、かつ、公示の手段が存在する場合には、例外的に、当該部分に独立した物権の成立を認めることができる。 (通説で立てる規範)

必要性はあるのに公示の手段が無い、ということもあります。壁で仕切っていない、建物の一角だけを欲しい場合です。でも、登記できる形が無いので、例外にはなりません。壁で仕切ってしまえば、区分所有として登記できます。その一歩手前、ということです。一筆の土地の一部は、分筆や登記。区分所有は、区分建物の登記。集合物譲渡担保は、目的物の範囲を特定すること。それぞれ、公示の手段が違うだけで、軸は同じです。今日の到達点は、5つの名前を覚えることではありません。初めて見る例外に出会ったときも、必要性と公示の手段、この2つで判定できるようになることです。

今日の地図(保存版)

冒頭設例の板の再掲。AはCに対して「自分の物だ」と言える。ただし、動産を取引で手に入れた人を守る仕組みが残っている。D・B・Cの場面には対抗要件の宿題も残る。この先の回で決着する。 図:冒頭設例の板の再掲

  • AはCに対して「自分の物だ」と言える
  • ただし、動産を取引で手に入れた人を守る仕組みが残っている
  • D・B・Cの場面には対抗要件の宿題も残る
  • この先の回で決着する

今日の背骨を、もう一度お願いします。前半が、誰に対して言えるかの3つの性質。後半が、何について言えるかの客体の3原則。そして例外の判定は、必要性と公示の手段の2軸でした。では、冒頭のAとCに戻りましょう。Aは、Cに対して、「自分の物だ」と言えます。これが、絶対性の力でした。今日のCに残るのは、動産を取引で手に入れた人を守る仕組みです。さっきのD・B・Cの場面には、対抗要件という宿題も残っています。どちらも、この先の回で決着します。民法が認めた物権は、10種類しかありません。なぜ、自由に新しい種類を作れないのか。そして、「返せ・どけろ・やめろ」。この三つを、どんなときに、誰に対して言えるのか。この2つを見ていきます。

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