民法ゼロから民法#97

相続放棄・遺贈と登記

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第2章 物権 #97/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同じさかのぼる効力なのに、結論が逆になる

冒頭の場面。Xが死んで子のAとBが相続人になった。Aは家庭裁判所で相続放棄をした。土地はBが全部受け継いだが、Bが登記をしないうちに、Aの債権者Yが「Aの持分」を差し押さえた。 図:冒頭の場面

  • Xが死んで子のAとBが相続人になった
  • Aは家庭裁判所で相続放棄をした
  • 土地はBが全部受け継いだが、Bが登記をしないうちに、Aの債権者Yが「Aの持分」を差し押さえた

Xが亡くなりました。相続人は、子のAとBの二人です。今回、Aは、家庭裁判所で相続放棄をしました。放棄の結果、土地はBが全部受け継ぎました。ところが、Bが登記をしないうちに、Aの債権者Yが「Aの持分」を差し押さえてしまいました。先に答えを言います。今日は、Bは登記がなくても勝てます。理由は、放棄のさかのぼる効力は、誰に対しても曲げられないからです。909条のような、第三者を守るただし書が、放棄の条文には置かれていません。遺産分割と同じ「さかのぼる効力」なのに、なぜ結論が逆になるのか。今日は、この境目を確かめます。そのうえで、遺言で財産をもらった場合は、また話が変わることも見ていきます。

相続放棄の基本

放棄の基本の板。放棄は938条により家庭裁判所への申述で行う。期間は915条1項により、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内。家庭裁判所で伸長できる。939条により、放棄をした者は初めから相続人とならなかったものとみなされる。 図:放棄の基本の板

  • 放棄は938条により家庭裁判所への申述で行う
  • 期間は915条1項により、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内
  • 家庭裁判所で伸長できる
  • 939条により、放棄をした者は初めから相続人とならなかったものとみなされる

まず、相続放棄そのものを、最短で確認します。相続放棄は、家庭裁判所に申し述べることで行います。口約束や、遺産に手を付けないだけでは、放棄にならないんですか。なりません。家庭裁判所への申述という、決まった手続を踏む必要があります。そして、この手続には期限があります。

条文民法915条1項

民法 第915条第1項 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

承認は相続を受け継ぐこと、限定の承認は、プラスの財産の範囲でだけ借金を払う受け継ぎ方です。自分のために相続が始まったと知った時から、3か月以内です。ただし書のとおり、事情があれば、家庭裁判所に申し立てて、この期間を伸ばしてもらうこともできます。この短さが、あとで効いてきます。そして、放棄をすると、どうなるか。

条文民法939条

民法 第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

「初めから相続人とならなかったものとみなす」。前回の遺産分割は、いったん共有になったものを、話し合いでさかのぼって決め直す、という形でした。放棄は違います。Aという人が、その相続に関して、最初から存在しなかったことになるんです。いったん共有になった、という段階すら無かったことになる、ということですか。ここが、今日の一番の軸になります。

放棄の後の差押え——登記なしでBが勝つ

放棄の後の差押えの図。Aが家庭裁判所で相続放棄をし、土地はBの単独取得と確定する。Bが登記を備える前に、Aの債権者Yが「Aの持分」を差し押さえる。939条の遡及効により、Aの持分はそもそも存在しなかったことを示す。 図:放棄の後の差押えの図

  • Aが家庭裁判所で相続放棄をし、土地はBの単独取得と確定する
  • Bが登記を備える前に、Aの債権者Yが「Aの持分」を差し押さえる
  • 939条の遡及効により、Aの持分はそもそも存在しなかったことを示す

冒頭の場面に戻ります。Aが放棄し、Bが土地を全部受け継ぎました。Bが登記を備える前に、Aの債権者Yが、Aの持分を差し押さえました。939条をそのまま当てはめると、どうなりますか。Aの持分が最初から存在しなかった以上、Yが差し押さえたのは、誰の物でもない持分ということになります。判例も、この結論をはっきり示しています。

判例最判昭42・1・20

相続放棄と差押え——放棄の絶対効 民法が承認、放棄をなすべき期間(同法九一五条)を定めたのは、相続人に権利義務を無条件に承継することを強制しないこととして、相続人の利益を保護しようとしたものであり、同条所定期間内に家庭裁判所に放棄の申述をすると(同法九三八条)、相続人は相続開始時に遡ぼつて相続開始がなかつたと同じ地位におかれることとなり、この効力は絶対的で、何人に対しても、登記等なくしてその効力を生ずると解すべきである。

放棄の効力は絶対的で、誰に対しても、登記などなくして生じます。Yがどれだけ善意で差し押さえたとしても、それだけでは覆りません。Bは、登記が無くても、Yに対抗できます。遺産分割のときは、話し合いより後に現れた第三者には、登記の先後で決まる別の理屈が働きましたよね。今回はそれが無いんですか。無いんです。909条ただし書のような、第三者を守る規定が、放棄の条文には置かれていません。ここが、遺産分割と放棄の一番の違いです。まず、前々回の物差しを思い出してください。899条の2は、法定相続分までは登記が無くても対抗できて、それを超える部分だけは登記などの対抗要件が要る、という条文でした。ここを数字で確かめましょう。法定相続分は、法律が決めている各相続人の取り分で、誰が相続人かで決まります。相続人がAとBの二人なら、法定相続分は、それぞれ2分の1です。ですが、Aが放棄すると、939条により、Aはその相続に関して最初から相続人でなかったことになります。相続人がBだけになる以上、法定相続分を計算し直すと、Bの法定相続分は最初から100パーセントです。

遺産分割の場合、法定相続分の基準はAもBも相続人のままという前提で決まっていました。だから、話し合いでBが全部取得すると、もともとの2分の1を超える部分が生まれました。ところが放棄の場合は、Aがそもそも相続人の数から外れるので、Bが土地を全部取得しても、超える部分自体が生まれないんです。超える部分が無いのなら、899条の2が要求する対抗要件も、そもそも問題になりません。名簿にたとえるなら、遺産分割は、名簿はそのままで、取り分の分け方を後から決め直す手続です。放棄は、名簿からAの名前を最初から消す手続です。名簿そのものが書き換わるので、Bの取り分からはみ出す部分が生まれないんです。

放棄の前の差押え——それでも結論は変わらない

放棄の前の差押えの図。Aの債権者Yが先にAの持分を差し押さえ、その後にAが家庭裁判所で相続放棄をする。時系列は差押えが先、放棄が後。939条の遡及効が差押えの前後を問わず及ぶことを示す。 図:放棄の前の差押えの図

  • Aの債権者Yが先にAの持分を差し押さえ、その後にAが家庭裁判所で相続放棄をする
  • 時系列は差押えが先、放棄が後
  • 939条の遡及効が差押えの前後を問わず及ぶことを示す

時系列を逆にしてみましょう。Yが先にAの持分を差し押さえ、その後で、Aが家庭裁判所で相続放棄をした場合です。差押えの瞬間だけを見れば、Aは共同相続人の一人で、持分も現実にありました。ですが、その後にAが放棄すると、939条の効力が働きます。939条は「その相続に関しては」と言っていて、時点を区切っていません。放棄をした以上、Aは、相続の開始の時にさかのぼって、最初から相続人でなかったことになります。差押えの時点までさかのぼって、Aは相続人でなかったことになる。そう考えるのが、通説的な理解です。この場面を正面から決めた判例は無いのですが、学説の多くは、差押えは遡及的に他人の持分に対するものとなり、効力を生じないと考えます。理由は三つです。一つ目、放棄という制度は、借金の方が多い相続財産の負担から、相続人を解放するための仕組みです。この趣旨を徹底するなら、放棄の前後で結論を変える理由がありません。たとえば、Xが土地より大きな借金を残していたら、Aは放棄で借金から逃れられます。二つ目、909条ただし書のような、第三者を保護する規定が、放棄には置かれていません。置かれていない以上、遡及効を制限する足場がそもそも無いんです。三つ目は、放棄には、さっき見た3か月という短い期間があり、しかも家庭裁判所という公的な手続を通ります。前回見た遺産分割の判例も、放棄との違いとして、この期間の短さを挙げていました。第三者は、この短い期間と手続の存在を通じて、Aの相続人としての地位がまだ確定していない、と気づける立場にあります。だから、放棄によって第三者が不意打ちを受ける可能性は、比較的小さいんです。

放棄の趣旨、第三者を守る規定が無いこと、そして短い期間と家庭裁判所の手続。この三つの理由から、差押えが放棄より前でも後でも、結論は変わりません。Bは、登記が無くても、Yに対抗できます。

論文で書く規範:【論文で書く定義・規範】放棄前の第三者との関係 相続放棄の遡及効は、放棄の前に生じた第三者の権利取得に対しても及ぶ。放棄の趣旨(相続財産の負担からの解放)、第三者保護規定の不存在、期間制限と家庭裁判所の関与による不意打ちの少なさから、差押え等は遡って他人の持分に対するものとなり、効力を生じないと解するのが通説である。 (規範(通説で立てる))

この論点は、答案では、遡及効の徹底とその理由づけを自分の言葉で書けるかが問われる、論文で問われうる骨格の一つです。

Aが自分で持分を処分した場合——放棄そのものができなくなる

処分行為の図。Aが放棄の前に自分の持分を第三者に売ってしまう。差押えとは異なり、Aが自ら処分行為を行った場合には、単純承認とみなされ、以後は相続放棄ができなくなることを示す。 図:処分行為の図

  • Aが放棄の前に自分の持分を第三者に売ってしまう
  • 差押えとは異なり、Aが自ら処分行為を行った場合には、単純承認とみなされ、以後は相続放棄ができなくなることを示す

ここまでは、Yが差し押さえた場面でした。ここで、よく似ているけれど違う場面を確認します。Aが、自分の持分を、自分の意思で誰かに売ってしまった場合です。決定的に違うのは、行為の主体です。差押えは、Aの債権者が、Aの意思とは関係なく行う行為です。ですが、持分を売るのは、A自身の意思による処分行為です。前回の判例が、放棄との違いとして挙げていた、処分行為があれば放棄は許されない、という点がこれです。民法には、相続人が相続財産を処分すると、単純承認をしたものとみなす、という規定があります。Aが自分の持分を売ってしまうと、その時点で単純承認をしたとみなされます。単純承認したとみなされた以上、Aは、もう相続放棄を選べなくなります。

差押えの場合は、Aの意思が入らないので、放棄という選択肢は残ったままです。ですが、Aが自分で処分すると、その瞬間に放棄という選択肢そのものが失われます。だから、「差し押さえた」場合と「売った」場合とでは、話がまったく違ってくるんです。この場合、Aは単純承認をした相続人として扱われるので、以後の処理は、前々回に見た、持分を超えて処分した共同相続人の場面と同じ考え方になります。

遺贈と登記——登記が無ければ負ける

遺贈の図。Xが遺言で土地をBに与える遺贈。相続人Aは別におり、Aの債権者Yが、Aに代わってAの持分の相続登記を入れたうえで、その持分を差し押さえる。BとYが対抗関係に立つことを示す。 図:遺贈の図

  • Xが遺言で土地をBに与える遺贈
  • 相続人Aは別におり、Aの債権者Yが、Aに代わってAの持分の相続登記を入れたうえで、その持分を差し押さえる
  • BとYが対抗関係に立つことを示す

ここから、場面を変えます。遺贈です。遺贈とは、遺言によって、財産を無償で与える意思表示のことです。場面を見ましょう。Xが、遺言で土地をBに与えました。相続人はAとBの二人ですが、Bは受遺者として、遺言でこの土地をもらいます。Bが登記をしない間に、Aの債権者Yが、Aの法定相続分に相当する持分について、Aに代わって、Aの持分の相続登記を入れたうえで、差し押さえました。どこが違うか、考えてみてください。放棄では、Aという相続人が、最初から居なかったことになりました。今回、Aは相続人のままですか。あっ、そうか。遺贈があっても、Aは相続人のままですよね。Xが、自分の財産の一部を、遺言でBに渡しただけで。ここが決定的な違いです。判例も、この点をはっきり述べています。

判例最判昭39・3・6民集18巻3号437頁

遺贈と登記——意思表示による物権変動 遺贈は遺言によつて受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示にほかならず、遺言者の死亡を不確定期限とするものではあるが、意思表示によつて物権変動の効果を生ずる点においては贈与と異なるところはないのであるから、遺贈が効力を生じた場合においても、遺贈を原因とする所有権移転登記のなされない間は、完全に排他的な権利変動を生じないものと解すべきである。そして、民法一七七条が広く物権の得喪変更について登記をもつて対抗要件としているところから見れば、遺贈をもつてその例外とする理由はないから、遺贈の場合においても不動産の二重譲渡等における場合と同様、登記をもつて物権変動の対抗要件とするものと解すべきである。

遺贈は、意思表示によって物権が動くという点で、贈与と変わりません。だから、登記がされるまでは、完全に排他的な権利変動は生じない。そして177条は、広く物権の変動に登記を求めていて、遺贈だけを例外にする理由は無い。これが判例の考え方です。今回は、Aが相続人から外れるわけではないので、法定相続分の計算は動きません。Aの法定相続分は2分の1のまま、Bの遺贈による取得も、そのままの形で残ります。ですから、BとYは、普通の対抗関係に立ちます。Bは、登記をしていなければ、Yに対抗できません。決め手は、いつも同じです。誰かが相続人から消えたのか、それとも、財産が意思表示によって動いただけなのか。この違いが、結論を分けています。

「相続させる」旨の遺言と登記——今は899条の2で上書き

相続させる遺言の図。Xが遺言で「甲土地はBに相続させる」と定める。相続人Aの債権者Yが、Aの法定相続分に相当する持分を差し押さえる。かつての判例は登記不要としたが、現在は899条の2第1項により、法定相続分を超える部分は登記が必要になることを注記する。 図:相続させる遺言の図

  • Xが遺言で「甲土地はBに相続させる」と定める
  • 相続人Aの債権者Yが、Aの法定相続分に相当する持分を差し押さえる
  • かつての判例は登記不要としたが、現在は899条の2第1項により、法定相続分を超える部分は登記が必要になることを注記する

もう一つ、似た場面があります。「甲土地はBに相続させる」という形の遺言です。これを、特定財産承継遺言と呼びます。遺贈は、遺言で財産を与えるものです。こちらは、どの遺産を誰が受け継ぐかという、相続の分け方そのものを、遺言で先に決めておくものです。今日は、登記との関係だけを見ます。このタイプの遺言は、かつて、次のように扱われていました。

判例最判平14・6・10

「相続させる」旨の遺言——旧判例 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は,特段の事情のない限り,何らの行為を要せずに,被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される……。このように,「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は,法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない。そして,法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については,登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる……。

登記が無くても対抗できる、と言っていますね。放棄と同じ結論ですか。ここが、今日の一番注意が要るところです。この判例は、平成30年の改正より前のものです。今は、この結論のままではありません。前々回に確認した899条の2第1項を思い出してください。899条の2は、分割によるものかどうかにかかわらず、と横断的に書かれています。特定財産承継遺言によって取得した場合も、この条文の対象に含まれます。だから、今は、法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件が必要です。かつての判例は登記不要としていましたが、それは現在の結論ではありません。

かつては、遺贈と、「相続させる」旨の遺言とで、扱いが分かれていました。899条の2という条文が新しく置かれたことで、法定相続分を超える部分は登記が要る、という一本の物差しに統一されたんです。

相続登記の申請義務化——対抗要件とは別の話

義務化の板。不動産登記法76条の2第1項により、相続で所有権を取得した者は、知った日から3年以内に登記を申請する義務を負う。76条の3の申出をすれば義務は履行したことになるが、対抗要件にはならない。正当な理由なく怠ると164条1項により10万円以下の過料。2024年4月1日施行で、施行前の相続にも適用される。 図:義務化の板

  • 不動産登記法76条の2第1項により、相続で所有権を取得した者は、知った日から3年以内に登記を申請する義務を負う
  • 76条の3の申出をすれば義務は履行したことになるが、対抗要件にはならない
  • 正当な理由なく怠ると164条1項により10万円以下の過料
  • 2024年4月1日施行で、施行前の相続にも適用される

最後に、今日の話とは少し違う角度の制度を確認します。ここまでは、ずっと「登記が無いと第三者に負ける」という、対抗要件の話でした。ここからは、それとは別に、登記そのものを申請する義務があるという話です。負けるかどうかとは、別の話です。対抗要件は、私人どうしの争いで、どちらが勝つかを決めるルールです。これから話す義務は、国が、相続で所有権を取得した人に対して申請を義務づける、行政上のルールです。条文を見ましょう。

条文不動産登記法76条の2第1項

不動産登記法 第76条の2第1項 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。

相続で不動産の所有権を取得した人は、知った日から3年以内に、登記を申請しなければなりません。遺贈で取得した場合も、相続人に対する遺贈であれば、同じ扱いです。遺産分割がなかなかまとまらない場合など、すぐに正式な登記が難しいこともあります。そのための救済策として、76条の3という条文が置かれています。自分が相続人であるという申出を法務局にすれば、それだけで、いったんこの義務を果たしたことになります。それで登記が済んだことになるんですか。なりません。ここが大事なところです。この申出は、あくまで義務を履行したとみなすための手続で、正式な所有権の移転登記ではありません。ですから、今日ずっと見てきた対抗要件、177条や899条の2の話とは、無関係です。申出をしただけでは、第三者との争いには勝てません。

義務は果たしたけど、対抗要件は別に備えないといけない、ということです。そして、この義務を、正当な理由なく怠るとどうなるか。不動産登記法の164条1項が、10万円以下の過料に処すると定めています。過料は、刑罰ではない、行政上のお金の制裁です。この制度は、2024年4月1日に始まりました。それより前に始まった相続にも、この義務は及びます。昔の相続にも、さかのぼって義務が生まれるんですか。及びます。ただ、いきなり過去にさかのぼって期限切れにはなりません。3年の期限は、知った日と、制度が始まった日の、遅いほうから数えます。たとえば、2015年に親の死亡と土地の相続を知っていた人なら、2024年4月1日から3年、2027年3月31日までに申請すれば間に合います。今日ずっと見てきた「登記が無いと負けるかどうか」という私人どうしの勝負のルールと、この「期限内に申請しないと過料を科されるかどうか」という国とのルールは、まったく別物だという点を、押さえておいてください。

今日の物差し、もう一度

まとめの板。放棄の後の差押えは登記不要。放棄の前の差押えも通説で登記不要。Aが自ら処分した場合は単純承認とみなされ放棄自体が成立しない。遺贈は登記が無ければ対抗できない。「相続させる」遺言は899条の2により法定相続分を超える部分は登記が必要。相続登記の申請義務は対抗要件とは別に3年以内に生じる。 図:まとめの板

  • 放棄の後の差押えは登記不要
  • 放棄の前の差押えも通説で登記不要
  • Aが自ら処分した場合は単純承認とみなされ放棄自体が成立しない
  • 遺贈は登記が無ければ対抗できない
  • 「相続させる」遺言は899条の2により法定相続分を超える部分は登記が必要
  • 相続登記の申請義務は対抗要件とは別に3年以内に生じる

今日の話を、一枚にまとめます。相続放棄には、909条ただし書のような第三者保護規定がありません。だから、差押えが放棄の前でも後でも、Bは登記が無くてもYに対抗できます。理由は、Aが最初から相続人でなかったことになる結果、法定相続分そのものが数え直され、超える部分が生まれないからでした。その場合は、Aが単純承認をしたとみなされ、放棄そのものが成立しなくなります。遺贈は、意思表示による物権変動として、普通に177条が適用されます。登記が無ければ、第三者に対抗できません。「相続させる」旨の遺言も、かつては登記不要とされていましたが、今は899条の2により、法定相続分を超える部分は登記が必要という結論に統一されています。

登記の申請義務は、今まで見てきた対抗要件の話とは別に、知った日から3年以内に登記を申請しなければならない、という公法上の義務でした。怠ると過料が科されます。

参照条文

  • 民法915条1項
  • 民法939条
  • 不動産登記法76条の2第1項

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