民法ゼロから民法#192

債権者代位権の要件

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第4章 債権総論 #192/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

無一文の借主が、友人への貸金を放置している

冒頭の関係図。貸主Aは借主Bに100万円を貸している。Bは他にめぼしい財産が無い。ただしBは友人Cに200万円を貸したまま取り立てようとしない。問い=AはBに代わって、Cから200万円を取り立てられるか。 図:冒頭の関係図

  • 貸主Aは借主Bに100万円を貸している
  • Bは他にめぼしい財産が無い
  • ただしBは友人Cに200万円を貸したまま取り立てようとしない
  • 問い=AはBに代わって、Cから200万円を取り立てられるか

貸主のAが、借主のBに、100万円を貸しています。ところがBは無一文で、めぼしい財産がほとんどありません。ただし、Bにはあてが1つだけあります。友人のCに、200万円を貸したままなのです。Bは遠慮しているのか、その200万円を取り立てようとしません。問いです。貸主のAは、Bに代わって、Cから200万円を取り立てることができるでしょうか。他人どうしの貸し借りに口を出すのはおかしい、という感覚と、放っておけば貸主が回収できない、という感覚。この2つのぶつかり合いが、今日の出発点です。先に答えの形を言います。できます。ただし、何でもかんでも代われるわけではありません。代われる条件が、民法423条に書いてあります。今日は、その条件のうち、貸主の側の条件と、借主の財産の状態に関する条件を見ます。そして中心の問いは、原則として口を出せないはずの他人の財産に、なぜ債権者が口を出してよいのか、です。最後に、冒頭の問いに戻ります。

原則は口出し禁止——なぜ例外が許されるのか

総論の板。原則=債務者は自分の財産を使うのも使わないのも自由(財産管理の自由)。債権者は管理に口を出せない。例外=責任財産が足りなくなると、判決を取っても強制執行が空振りになり、債権の力の裏づけが失われる。だから債権者が自分の債権を守るのに必要な限度でだけ、口出しを認める。例外だから要件は厳しい。 図:総論の板

  • 原則=債務者は自分の財産を使うのも使わないのも自由(財産管理の自由)
  • 債権者は管理に口を出せない
  • 例外=責任財産が足りなくなると、判決を取っても強制執行が空振りになり、債権の力の裏づけが失われる
  • だから債権者が自分の債権を守るのに必要な限度でだけ、口出しを認める
  • 例外だから要件は厳しい

本題の前に、前に見た内容の復習です。責任財産が空っぽなら、強制執行はどうなるのでしたか?判決を取っても、取れるものが何も無いので、空振りに終わります。強制執行の対象になる財産を、責任財産と呼びました。債務者の総財産から、差押えが禁じられた財産を除いたものです。責任財産が足りなければ、債権者どうしで分け合うことになりました。債権の力は、最終的には、この責任財産に支えられています。だったら、債権者が、債務者の財産をいつも見張って、減りそうならとめればいいんじゃないですか。違います。原則はその逆です。債務者は、自分の財産を、使うのも使わないのも、自由に決められます。これを、財産管理の自由と呼びます。Bが友人に貸したお金を、取り立てるかどうか。取り立てを待ってあげるかどうか。それは、本来、Bが決めることです。貸主のAは、そこに口を出せない、というのが原則です。

それなら、冒頭の、できます、は何だったんですか。例外です。そして、例外が許される理由が、今日の軸です。金銭の債権は、最後は債務者の責任財産に頼っています。責任財産が足りなくなれば、判決を取っても強制執行が空振りに終わり、債権の力の裏づけが失われます。そこで民法は、債権者が自分の債権を守るのに必要な限度で、債務者の財産管理への口出しを、例外的に認めました。例外ですから、要件は厳しく作られています。今日見る要件は、どれも、この例外を許してよい場面かどうかを確かめる条件です。この見方で読むと、条文の細かい線が、1本につながります。

民法が用意した手段は、2つです。次の板で、地図にします。

2つの制度の役割分担——しないか、したか

責任財産の保全の地図。債務者が「しない」ために責任財産が増えない(増えるはずのものが増えない)=債権者代位権(423条〜423条の7)/債務者が「した」ために責任財産が減る(減ってはいけないものが減る)=詐害行為取消権(424条〜426条)。共通の入口=債務者の資力が足りないこと。 図:責任財産の保全の地図

  • 債務者が「しない」ために責任財産が増えない(増えるはずのものが増えない)=債権者代位権(423条〜423条の7)/債務者が「した」ために責任財産が減る(減ってはいけないものが減る)=詐害行為取消権(424条〜426条)
  • 共通の入口=債務者の資力が足りないこと

2つの制度は、債務者が、しないか、したかで分かれます。1つめは、債務者が、取り立てるべきお金を取り立てないために、責任財産が増えない場面です。増えるはずのものが増えない。これに手当てするのが、債権者代位権です。423条から423条の7に定められています。冒頭のAとBとCの話は、こちらです。2つめは、債務者が、財産を安く手放すなどしたために、責任財産が減る場面です。減ってはいけないものが減る。これに手当てするのが、詐害行為取消権で、424条から426条です。そして、どちらも入口に共通の条件があります。債務者の資力が足りない、ということです。今日は、左側の債権者代位権の要件を見ます。詐害行為取消権の要件や効果は、別の回で扱います。代位権のほうも、要件、行使のしかた、効果、使い道の広がりと、このブロックの中で順に積み上げていきます。今日はその土台です。

423条1項——条文の構造

423条1項の構造。3つのまとまり=①被保全債権の側(自己の債権)②保全の必要性(保全するため必要があるとき)③被代位権利の側(債務者に属する権利・ただし書)。今日は①と②。 図:423条1項の構造

  • 3つのまとまり=①被保全債権の側(自己の債権)②保全の必要性(保全するため必要があるとき)③被代位権利の側(債務者に属する権利・ただし書)
  • 今日は①と②

条文で確かめます。債権者代位権の入口は、423条1項です。

条文民法423条1項

民法第423条第1項 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。

3つのまとまりに分けて読むと、見通しがよくなります。1つめは、債権者は、自己の債権を、という部分です。口を出す側の債権者が、どんな債権を持っていなければならないか、という条件です。2つめは、保全するため必要があるとき、という部分です。口を出す必要があるのか、という条件で、今日の中心です。3つめは、債務者に属する権利、つまり被代位権利と、ただし書です。代位される権利の側の条件です。ただし書は、債務者の一身に専属する権利と、差押えを禁じられた権利は代位できない、と言っています。ここは条文を読むだけにして、中身は別の回に回します。

今日見るのは、1つめと2つめです。口を出す債権者の側の条件と、口を出す必要があるかどうかの条件です。

3人の呼び名と、2つの債権

用語の3者図。貸主A=代位債権者/借主B=債務者/友人C=第三債務者。AがBに持つ100万円の債権=被保全債権。BがCに持つ200万円の債権=被代位権利。A→C=代位行使(AがBに代わってCに請求する)。 図:用語の3者図

  • 貸主A=代位債権者/借主B=債務者/友人C=第三債務者
  • AがBに持つ100万円の債権=被保全債権
  • BがCに持つ200万円の債権=被代位権利
  • A→C=代位行使(AがBに代わってCに請求する)

冒頭の設例に、条文の用語を当てはめます。責任財産の回で一度出てきた呼び名を、ここで固めます。貸主のAは、代位債権者です。代位して、他人の権利を使う人、という意味です。借主のBは、債務者です。Aが、Bに対して持つ100万円の債権を、被保全債権と呼びます。代位によって守りたい、自分の債権です。友人のCは、第三債務者です。Bから見れば債務者ですが、貸主のAから見ると、当事者ではない、第三の債務者になるからです。そして、Bが友人のCに対して持つ200万円の債権が、被代位権利です。Aが、Bに代わって使う権利です。Aは、Bではなく、Cに対して、直接、請求します。

被保全債権は、被担保債権と字は似ていますが、別物です。被担保債権は、抵当権のような担保が守る債権です。被保全債権は、代位で守る債権です。担保が付いているかどうかとは、関係がありません。ここから先は、被保全債権の話が中心です。その前に、要件の全体像を1枚にします。

要件の全体像——条文どおりのものと、解釈で立てるもの

要件の全体像。縦に3段。①被保全債権の側:弁済期にあること=423条2項(条文どおり。保存行為は例外)/強制執行により実現できる債権であること=423条3項(条文どおり)/金銭債権であること=原則(責任財産の保全という趣旨から)/具体的内容が形成されていること=判例/被代位権利より前に成立している必要は無い=解釈。②保全の必要性:債務者の無資力=「保全するため必要があるとき」の解釈(判例)。③被代位権利の側:一身専属権・差押禁止でないこと(423条1項ただし書)ほか=今日は名前だけ。 図:要件の全体像

  • 縦に3段
  • ①被保全債権の側:弁済期にあること=423条2項(条文どおり。保存行為は例外)/強制執行により実現できる債権であること=423条3項(条文どおり)/金銭債権であること=原則(責任財産の保全という趣旨から)/具体的内容が形成されていること=判例/被代位権利より前に成立している必要は無い=解釈
  • ②保全の必要性:債務者の無資力=「保全するため必要があるとき」の解釈(判例)
  • ③被代位権利の側:一身専属権・差押禁止でないこと(423条1項ただし書)ほか=今日は名前だけ

要件を、根拠の種類で分けて見ます。答案の書き方が変わるからです。条文にそのまま書いてある要件は、条文番号を挙げて確認すれば足ります。弁済期が来ていること、これは423条2項です。強制執行で実現できる債権であること、これは423条3項です。それぞれ、条文を読めば出てきます。覚えるというより、条文を引いて復元できればよいものです。一方で、条文の言葉を読むだけでは結論が決まらず、判例や解釈が、判断の基準を立てているものがあります。この、解釈で立てた基準を、規範と呼びます。条文を引いても出てこないので、答案では、なぜその基準になるのか、理由から書きます。今日の山は2つです。具体的な内容が形成されていること、そして、債務者が無資力であること。どちらも、判例が立てた基準です。

無資力は、423条1項のどこかに書いてありますか。書いてありません。条文にあるのは、保全するため必要があるとき、という言葉だけです。判例が、この言葉を、無資力と読んでいます。だから無資力は、条文の要件ではなく、条文の言葉の解釈で立てた規範です。理由づけが、答案の中心になります。ほかに、被保全債権は金銭債権が原則であること、被保全債権が被代位権利より前に成立している必要は無いこと、も解釈の側です。順番に、理由つきで見ます。

被保全債権①——まず、存在すること

被保全債権の存在。金銭債権が原則=理由は、代位権が責任財産を守って強制執行を準備する制度だから。例=「建物を引き渡せ」という債権だけでは、責任財産が増えても満足は増えない。物的担保つきの金銭債権=担保で確保される額を引いた残りの額。被代位権利より前に成立している必要は無い=今ある責任財産を守る制度だから(取消権は成立時期が問題になる)。 図:被保全債権の存在

  • 金銭債権が原則=理由は、代位権が責任財産を守って強制執行を準備する制度だから
  • 例=「建物を引き渡せ」という債権だけでは、責任財産が増えても満足は増えない
  • 物的担保つきの金銭債権=担保で確保される額を引いた残りの額
  • 被代位権利より前に成立している必要は無い=今ある責任財産を守る制度だから(取消権は成立時期が問題になる)

まず、被保全債権が存在していることです。ただ、存在すればどんな債権でもよいわけではありません。原則は、金銭債権です。理由は、代位権の趣旨にあります。代位権は、責任財産を守って、強制執行を準備する制度でした。金銭債権の債権者は、債務者の責任財産に強制執行できる立場です。だから、責任財産が増えれば、自分の満足に直結します。たとえば、貸主のAが、Bに、この建物を引き渡せ、という債権だけを持っているとします。Bの責任財産が増えても、建物が手に入るわけではありません。Aの満足は増えません。だから、責任財産を守るための代位権は、原則として使えません。ただし、Bが引渡しを怠って、Aの債権が損害賠償という金銭債権に変わった場合は、Aも責任財産に頼る立場になるので、金銭債権として扱います。金銭債権でない債権のために、代位権を使う場面は、転用と呼ばれます。これは、あとで名前だけ触れます。

被保全債権に、抵当権などの担保が付いている場合です。担保で確実に回収できる部分は、責任財産に頼らなくて済みます。そのため、担保で確保される額を引いた残りの額が、被保全債権になると解されています。ここは細部なので、考え方だけ押さえてください。もう1つ、取り違えやすい点です。被保全債権は、被代位権利より前に成立している必要は、無いと考えられています。たとえば、BがCにお金を貸したあとで、AがBにお金を貸した場合でも、代位できます。代位権は、今ある責任財産を守る制度だからです。Aが貸した時に、Bの財産をあてにしていたかどうかは、関係がありません。詐害行為取消権のほうは、債権が成立した時期が問題になります。これは、取消権の回で見ます。

被保全債権②——具体的な内容が決まっていること

離婚の財産分与請求権の事案小カード。財産分与を主張する者が、その請求権を保全するためとして、ある者名義の所有権移転登記の抹消登記手続請求権を代位行使した。最高裁=この代位行使は代位原因を欠く。 図:離婚の財産分与請求権の事案小カード

  • 財産分与を主張する者が、その請求権を保全するためとして、ある者名義の所有権移転登記の抹消登記手続請求権を代位行使した
  • 最高裁=この代位行使は代位原因を欠く

次は、判例が立てた条件です。被保全債権は、具体的な内容が形成されていなければなりません。事案です。離婚に伴う財産分与請求権を主張する者が、その請求権を保全するためだとして、ある者の名義になっている所有権移転登記の、抹消登記手続請求権を、代位して行使しました。最高裁は、この代位行使は代位原因を欠く、つまり代位して請求する根拠が足りない、と判断しました。判旨を、カードで読みます。

判例最判昭55・7・11 民集34巻4号628頁

財産分与請求権は、内容が決まるまでは、代位で守れない 離婚によつて生ずることあるべき財産分与請求権は、一個の私権たる性格を有するものではあるが、協議あるいは審判等によつて具体的内容が形成されるまでは、その範囲及び内容が不確定・不明確であるから、かかる財産分与請求権を保全するために債権者代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。

読み方です。財産分与請求権は、一個の私権ではあります。権利としては存在し得ます。それでも、協議や審判などで、具体的な内容が形成されるまでは、範囲も内容も不確定で不明確です。そのため、これを保全するために代位権を使うことはできない、と言っています。決め手は、守る対象の輪郭です。代位権は、債権者の債権を満足させるために、責任財産を守る制度です。守るべき債権が、いくらなのか、何を求める権利なのか、まだ定まっていなければ、責任財産を守る必要があるのかどうかも、判断できません。口出しは、債権を守るのに必要な限度でだけ許される例外でした。必要かどうかを確かめられないまま、他人の財産管理に口を出すのは、行き過ぎです。境界のペアで見ます。AがBに貸した100万円は、額も、返す約束も、はっきり定まっています。被保全債権になれます。他方で、離婚の話し合いの最中で、財産分与の額も中身もまだ決まっていない請求権は、輪郭が定まっていません。協議や審判で決まるまでは、被保全債権になれません。財産分与そのものは、別の回で扱います。ここでは、具体的な内容が形成される前の請求権は被保全債権になれない、という一点を押さえてください。

被保全債権③——弁済期にあること。423条2項

弁済期の要件。423条2項=期限が到来しない間は被代位権利を行使できない(条文どおり)。理由=自分の債権すらまだ請求できない/期限までは債務者は履行しなくてよく、口を出す根拠がまだ無い。例外=保存行為(債務者の財産の現状を維持する行為。例=時効の完成を止める措置、未登記の権利の登記)。理由=債務者に不利益が無く、急ぐことが多い。 図:弁済期の要件

  • 423条2項=期限が到来しない間は被代位権利を行使できない(条文どおり)
  • 理由=自分の債権すらまだ請求できない/期限までは債務者は履行しなくてよく、口を出す根拠がまだ無い
  • 例外=保存行為(債務者の財産の現状を維持する行為。例=時効の完成を止める措置、未登記の権利の登記)
  • 理由=債務者に不利益が無く、急ぐことが多い

次の条件は、被保全債権の弁済期が来ていることです。423条2項です。まず、条文を読みます。

条文民法423条2項

民法第423条第2項 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。

本文は、被保全債権の期限が来ていない間は、代位できない、です。なぜ駄目なのでしょうか。理由は2つあります。1つめは、自分の債権すら、まだ請求できない債権者が、債務者の権利を代わりに使うのは、時期尚早だからです。2つめが、より大事です。債務者の財産管理に口を出す根拠は、債務の履行が滞っていることにあります。期限までは、債務者は、履行しなくてよいのです。口を出す根拠が、まだ無いのです。期限まで待てば、Bが自分で動いて、Cから取り立てて、返してくれるかもしれません。ただし書の保存行為とは、債務者の財産が減ったり失われたりしないよう、今の状態を保つ行為です。たとえば、債務者の債権の時効が完成しそうなとき、それを止める措置をとる。あるいは、債務者がまだ登記していない権利について、登記をしておく。こうした行為です。なぜ許されるのか。債務者に、不利益が無いからです。しかも、放っておくと権利が失われてしまうなど、急ぐ必要があることが多いからです。期限を待つ理由が、ここには当てはまりません。

保存行為なら債務者の資力を問わないのか、という点は、分けて考えてください。保存行為が例外になるのは、弁済期の要件です。無資力の要件については、債務者に十分な資力があるなら、財産管理に口を出す正当化が無いので、保存行為でも代位できないと解するのが一般です。Bに十分な預金があるなら、Bの債権の時効が完成しそうでも、Aが代わって止めることはできない、という考え方です。ただし、見解が分かれる点でもあります。ここでは、保存行為は弁済期の例外、と押さえてください。2017年の改正で、答案が変わる点を確認します。以前の2項は、期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ行使できない、と定めていました。裁判所の許可を得れば、期限前でも代位できたのです。現行は、この裁判上の代位の制度そのものが無くなりました。期限前の債権者が、債務者の財産を守りたいときは、仮差押えなどの民事保全によります。答案で、期限前でも裁判上の代位で、と書いてはいけません。

被保全債権④——強制執行で実現できること。423条3項

強制執行で実現できる債権。423条3項=強制執行により実現することのできない債権では代位できない(条文どおり)。理由=代位権は責任財産を守って強制執行を準備する制度。強制執行できない債権のために責任財産を守っても使い道が無い。例=自然債務(訴える力が欠けた債権)/不執行の合意のある債権。 図:強制執行で実現できる債権

  • 423条3項=強制執行により実現することのできない債権では代位できない(条文どおり)
  • 理由=代位権は責任財産を守って強制執行を準備する制度
  • 強制執行できない債権のために責任財産を守っても使い道が無い
  • 例=自然債務(訴える力が欠けた債権)/不執行の合意のある債権

3項です。条文を読みます。

条文民法423条3項

民法第423条第3項 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。

被保全債権が、強制執行によって実現できない債権のときは、代位できません。理由は、代位権の役割から出てきます。代位権は、責任財産を守って、強制執行の準備をする制度でした。最後に強制執行できない債権のために、責任財産を守っても、使い道がありません。債務者に債務があるのに、強制執行できない債権の例を、前に見ました。1つは、自然債務です。訴える力が欠けた債権でした。もう1つは、強制執行をしないという合意のある債権です。責任なき債務の例として見たものです。どちらも、この3項で、代位権の土台になれません。この3項は、2017年の改正で新設されました。ただ、従来から異論の少なかった考え方を、条文にしたものです。結論が大きく変わったわけではありません。答案では、条文番号を挙げて書けるようになった、と覚えてください。

保全の必要性——なぜ「必要があるとき」を無資力と読むのか

保全の必要性。条文=「保全するため必要があるとき」(無資力という語は条文に無い)。判例=金銭債権の保全のための代位は、債務者の資力が当該債権を弁済するについて十分でない場合に限る(条文の語を解釈して立てた規範)。理由=債務者に十分な資力があれば、直接請求して強制執行すれば足りる。他人の権利に手を出す正当化が無い。 図:保全の必要性

  • 条文=「保全するため必要があるとき」(無資力という語は条文に無い)
  • 判例=金銭債権の保全のための代位は、債務者の資力が当該債権を弁済するについて十分でない場合に限る(条文の語を解釈して立てた規範)
  • 理由=債務者に十分な資力があれば、直接請求して強制執行すれば足りる
  • 他人の権利に手を出す正当化が無い

ここから、今日の山場です。保全の必要性です。先に、立ち止まってください。貸した相手に十分な財産があるなら、貸主は、友人のところまで手を伸ばす必要があるでしょうか。考えてみてください。借主のBに十分な財産があるなら、貸主のAは、Bに直接請求して、払わなければBの財産に強制執行すれば足ります。それができるのに、Bの友人のCに手を出すのは、財産管理の自由への口出しとして、行き過ぎです。手を伸ばす必要が生まれるのは、Bの財産が足りなくて、強制執行しても取り切れない場面です。ここで、冒頭の軸と、つながります。条文の言葉を確認します。423条1項は、保全するため必要があるとき、としか書いていません。無資力という言葉は、条文にありません。判例は、この必要があるときを、債務者の資力が、その債権を弁済するのに十分でない場合、と読みます。条文の解釈で立てた規範で、出どころは判例です。

被代位権利は、債務者の権利で、その管理は、債務者に委ねられるのが原則です。債権者が口を出してよいのは、債務者に資力が足りないのに、その権利を行使しないために、債権の満足が危うくなる場面に限られる、と説明されます。判旨は、理由を細かくは述べず、資力が足りない場合に限ることは、民法423条の法意に照らして明らかだ、としています。判旨を、カードで読みます。

判例最判昭40・10・12 民集19巻7号1777頁

金銭債権を守る代位は、債務者の資力が足りないときに限る。足りないことは債権者が証明する 債権者は、債務者の資力が当該債権を弁済するについて十分でない場合にかぎり、自己の金銭債権を保全するため、民法四二三条一項本文の規定により当該債務者に属する権利を行使しうると解すべきことは、同条の法意に照らし、明らかであり、右の場合に債務者の資力が十分でないことについては、債権者がこれを立証する責任を負うものと解するのが相当である。

読み方です。判旨は2つのことを言っています。1つめは、金銭債権を守るための代位は、債務者の資力が、その債権を弁済するのに十分でない場合に限る、ということです。2つめは、資力が十分でないことは、債権者が立証する責任を負う、ということです。代位する側のAが、Bは無資力だ、と示さなければなりません。Cから取り立てたいAのほうが、口出しを正当化する理由を示す、という形です。原則は口出し禁止で、Bの資力が足りないときに限って、例外が許されます。では、資力が足りないとは、どういう状態でしょうか。次に、数字で確かめます。

無資力とは何か——数値で見る。立証と判断の時点

無資力の数値例。資力あり=債務100万円(貸主Aへの分)に対し預金500万円→完済できる→代位は不可。無資力=債務100万円に対し、手元の財産は預金20万円と、友人Cへの200万円の債権(代位したい権利)だけ。代位したい権利を除くと20万円で100万円に足りない→無資力→代位できる可能性。 図:無資力の数値例

  • 資力あり=債務100万円(貸主Aへの分)に対し預金500万円→完済できる→代位は不可
  • 無資力=債務100万円に対し、手元の財産は預金20万円と、友人Cへの200万円の債権(代位したい権利)だけ
  • 代位したい権利を除くと20万円で100万円に足りない→無資力→代位できる可能性

無資力の意味を、定義から言います。債務者が、その債務について、自分の財産で完済できない状態です。債務の額が、財産の額を上回る状態、つまり債務超過と同じ、と整理されます。数字で見ます。借主のBは、貸主のAに対する100万円の債務を負っています。ほかに債務は無いとします。1つめのBは、預金を500万円持っています。100万円は、預金で完済できます。資力ありです。この場合、Aは、Bに直接請求し、払わなければ強制執行すれば足ります。代位は認められません。2つめのBは、預金が20万円だけです。そして、友人Cに対する200万円の債権があります。これは、Aが代位したい権利そのものです。この権利を除いて比べると、手元の財産は20万円だけで、100万円に足りません。完済できないので、無資力です。代位できる可能性があります。

代位したい債権そのものを財産に数えると、Bが取り立てずに放置している債権が大きいほど、資力があるように見えてしまいます。それでは、代位が必要な場面かどうかを、確かめられません。そこで、この例では、代位したい債権を除いて、債務の総額と、手元の財産を比べます。どんな場合にも除くのか、という線引きまでは、ここでは決めません。まずは、完済できない状態、という定義を使って、あてはめる感覚をつかんでください。もう2点あります。1点めは、立証責任です。先ほどの判例のとおり、無資力は、代位するAが立証します。2点めは、いつの時点で見るか、です。裁判で争われるときは、事実審の口頭弁論が終わる時点で、無資力であれば足りる、と解されています。口頭弁論が終わる時点とは、判決のもとになる主張と証拠が、最後に出そろう時点です。裁判所は、その時点までに出そろった材料で、口を出す必要がいまあるかどうかを判断する、という考え方です。そのため、訴えを起こした時には、まだ無資力でなくても、口頭弁論が終わる時点で無資力になっていれば足りる、と説明されます。被保全債権の認定と、無資力の認定は、論文で論点になりうる部分です。

お金の回収ではない使い方では、無資力を問わない

転用の名前出し。責任財産を守るのとは別の使い方(被保全債権が金銭債権でない場合)=無資力を問わない。例=登記・登録請求権の代位行使(423条の7)。理由=お金の回収ではなく、特定の権利そのものを実現するためで、債務者の資力と関係が無い。中身は別の回。 図:転用の名前出し

  • 責任財産を守るのとは別の使い方(被保全債権が金銭債権でない場合)=無資力を問わない
  • 例=登記・登録請求権の代位行使(423条の7)
  • 理由=お金の回収ではなく、特定の権利そのものを実現するためで、債務者の資力と関係が無い
  • 中身は別の回

最後に、無資力が要らない場面があることを、名前だけ言っておきます。今日見たのは、お金の債権を守るために、責任財産を守る使い方でした。これとは別に、責任財産を守るためではない使い方があります。たとえば、登記や登録を求める権利を、代位して行使する場合で、423条の7が定めています。前に、登記請求権の回で条文を読みました。転売を受けた買主が、売主に代わって、その前の持ち主に登記を求める場面です。そちらは、どうして無資力が要らないんですか。お金の回収ではなく、特定の権利そのものを実現するための使い方だからです。債務者の資力と関係がありません。細かい中身は、別の回で扱います。

冒頭の問いに戻る——今日の要件の範囲

まとめ。被保全債権の側=存在(金銭債権が原則・具体的内容が形成されている)/弁済期にあること=423条2項(条文どおり。保存行為は例外)/強制執行で実現できること=423条3項(条文どおり)。保全の必要性=債務者の無資力(「保全するため必要があるとき」の解釈・判例。立証は代位する債権者)。残る要件=被代位権利の側。 図:まとめ

  • 被保全債権の側=存在(金銭債権が原則・具体的内容が形成されている)/弁済期にあること=423条2項(条文どおり。保存行為は例外)/強制執行で実現できること=423条3項(条文どおり)
  • 保全の必要性=債務者の無資力(「保全するため必要があるとき」の解釈・判例。立証は代位する債権者)
  • 残る要件=被代位権利の側

冒頭の問いに戻ります。貸主のAは、借主のBに代わって、友人のCから200万円を取り立てられるのか、でした。今日の範囲で言えるのは、こうです。Aの100万円の債権が、金銭債権で、内容がはっきり定まっていて、弁済期が来ていて、強制執行で実現できるものであること。そして、Bに資力が足りないこと。Bの無資力は、Aが立証します。これらを満たせば、AはBに代わって、Cに請求できる可能性があります。友人への200万円の債権が、代位できる権利かどうか、という被代位権利の側の条件が残っています。ここは別の回で見ます。今日の軸をもう一度つなぎます。原則は、財産管理の自由で、債権者は口を出せません。例外が許されるのは、責任財産が足りなくなると、強制執行が空振りになるからです。だから、口を出す資格のある債権か、口を出す必要があるか、の2つを、条件にしています。条文に書いてあるのは、弁済期と、強制執行で実現できること。条文に書いていないのに、判例が立てたのが、具体的内容の形成と、無資力です。この区別が、答案の書き方の違いになります。

参照条文

  • 民法423条1項
  • 民法423条2項
  • 民法423条3項

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