債権者代位権の対象と行使方法
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第4章 債権総論 #193/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
名誉を傷つけられた借主が、慰謝料を請求しない
図:冒頭の関係図
- 貸主Aは借主Bに100万円を貸している
- Bは無一文
- Bは名誉を傷つけられたが、加害者Cに慰謝料を請求しようとしない
- 問い=AはBに代わって、Cに慰謝料を請求できるか
貸主のAが、借主のBに、100万円を貸しています。Bは無一文で、めぼしい財産がありません。ところがBは、加害者のCに、名誉を傷つけられました。Bには、Cに慰謝料を請求する権利があります。けれどもBは、なぜか、請求しようとしません。問いです。貸主のAは、Bに代わって、Cに慰謝料を請求できるでしょうか。お金の請求なのだから代わりに請求してよさそうだ、という面と、傷つけられた本人のことに他人が口を出すのはおかしい、という面があります。この両方が、今日の出発点です。先に答えを言います。慰謝料の金額がはっきり決まるまでは、Aは請求できません。金額が決まれば、請求できます。なぜ金額で線が引かれるのかは、この回の後半で決着がつきます。この回では、前の回に残した宿題を片づけます。債権者が代わりに使おうとする、借主の側の権利、つまり被代位権利に、どんな条件があるのかです。そのうえで、どんな権利が代位できるのか、そして、どうやって、どこまで行使できるのかを見ます。
被代位権利の側の要件——全体像
図:被代位権利の側の要件の全体像
- 縦に4行、右端に根拠の種類
- ①被代位権利が存在すること=当然(無い権利は行使しようがない)
- ②債務者が自ら行使していないこと=解釈・判例(条文に無い)
- ③債務者の一身に専属する権利でないこと=条文どおり(423条1項ただし書)
- ④差押えを禁じられた権利でないこと=条文どおり(423条1項ただし書)
本題の前に、前の回の復習です。債務者の無資力を証明しなければならないのは、代位する債権者と債務者の、どちらでしたか?代位する債権者のほうです。口出しをする側が、必要性を示すのでした。無資力の立証は、代位するAの側です。前の回では、Aの債権の側の条件と、無資力を見ました。残っているのは、Bが友人や加害者に対して持つ権利、つまり被代位権利の側の条件です。先に全体像を1枚にします。被代位権利の側の条件は、4つです。1つめは、被代位権利が存在することです。無い権利は行使のしようがないので、これは当然です。2つめは、債務者が自分でその権利を行使していないことです。これは、条文に書いていません。判例が立てた基準です。3つめと4つめは、一身専属権でないことと、差押えを禁じられた権利でないことです。この2つは、423条1項のただし書に書いてあります。
今回も、同じ区別をします。答案の書き方が変わるからです。条文どおりの要件は、条文番号を挙げて確認すれば足ります。解釈で立てた基準は、規範として、なぜそうなるのかという理由から書きます。今回、規範にあたるのは、2つめの、債務者の未行使です。2つめから4つめは、1つの考え方から出てきます。前の回で見たとおり、債権者が口を出せるのは、債務者が権利を使わないせいで、責任財産が保たれない場面だけです。債務者が自分で動いているなら、口を出す必要がありません。本人の意思だけに委ねるべき権利には、口を出せません。差押えを禁じられた権利は、そもそも責任財産に入りません。だから、この3つが条件になります。理由は、このあと1つずつ確かめます。
債務者が自分で行使していないこと——下手な行使でも割り込めない
図:債務者の未行使
- BがCを相手に権利を行使している最中に、Aが割り込もうとしても代位は認められない
- 下段に、債務者の行使が不十分なときに債権者が取りうる道=補助参加・当事者参加・詐害行為取消
解釈で立てた基準から見ます。債務者が、自分で権利を行使していないことです。先に、考えてみてください。BがすでにCを訴えていて、でもBの訴え方が下手で、負けそうだとします。Aは、そこに代位して割り込めるでしょうか。判例の結論は、逆です。判旨を、カードで読みます。
判例最判昭28・12・14 民集7巻12号1386頁
債務者が自分で行使しているなら、やり方が下手でも、債権者は代位できない 債権者代位権の行使は、債務者がみずから権利を行使しない場合に限り許されるものと解すべきである。債務者がすでに自ら権利を行使している場合には、その行使の方法又は結果の良いと否とにかかわらず、債権者は、……債権者代位権を行使することはできない。
読み方です。この判決で問われたのは、債務者がすでに権利を行使していた場合に、債権者の代位行使が認められるか、という点でした。最高裁は、債務者が自分で行使しているなら、その方法が良くても悪くても、債権者は代位できない、と判断しました。省略した部分では、債務者を押しのけることも、債務者と並べて重ねて行使することも、できないと述べています。判決自身は、債権者代位権という制度の本質から見て、と述べるだけで、これ以上は説明していません。そこで一般には、次のように説明されます。債務者の財産の管理は、債務者に委ねられるのが原則でした。債権者が口を出せるのは、債務者が権利を使わないために、責任財産が保たれない場面に限られます。すでに債務者が動いているなら、口を出す必要がありません。やり方が上手か下手かまでは、債権者が口を出す事柄ではない、という考え方です。
同じ判決が、道を示しています。債務者の行使が不十分で、不誠実で、不適当な場合には、債権者は、その訴訟に自分も加わることで、自分の権利を守ることができます。加わり方は2つで、当事者の一方を助けるために加わる補助参加と、場合によっては、自分も当事者として加わる当事者参加です。また、事情によっては、詐害行為として取消しを請求することもできます。名前と条文だけ押さえます。補助参加は、訴訟の結果に利害を持つ第三者に認められ、民事訴訟法42条に定めがあります。当事者参加は、第三者が当事者として訴訟に加わる手続です。詐害行為取消権は、債務者が積極的に財産を減らした場面の制度で、前の回の地図に出てきました。中身は、別の回と民事訴訟法で扱います。注意点が1つあります。ここで扱ったのは、代位する前に、債務者がすでに行使している場合だけです。代位した後に債務者がどうなるかは、また別の話です。
代位できる権利の範囲——原則として制限が無い
図:代位できる権利の一覧
- 見出し「原則 制限なし」
- 債権(金銭債権に限らない)/物権的請求権/形成権(取消権・解除権・相殺権)/消滅時効の援用権/債権者代位権そのもの
- 理由=行使すれば責任財産が保たれる・増える権利なら、種類を問う理由が無い
次は、どんな権利が代位の対象になるのか、です。結論は、原則として制限が無い、です。板の5つは、代位できる権利の例です。債権は、金銭債権に限りません。物権に基づく請求権、たとえば所有者としての明渡しの請求も対象です。取消権、解除権、相殺権のように、行使すると法律関係が変わる権利、つまり形成権も対象です。消滅時効の援用権も、債権者代位権そのものも、対象になります。代位権が見ているのは、その権利を行使すれば、債務者の責任財産が保たれる、あるいは増える、という一点だからです。責任財産は、強制執行の対象になる財産でした。行使すれば責任財産が保たれる権利なら、債権か、物権的な請求か、形成権かという種類を、問う理由がありません。形成権の例を、1つ挙げます。Bが、中古車の販売店から、高い代金で中古車を買いました。ところが、売買契約には、取り消せる事情があります。取り消せば、払った代金を取り戻す道が開けます。それなのに、Bが取り消さないとします。このとき、Aは、Bの取消権を代位して行使できます。時効の援用権は、援用権の回で見ました。自分では援用できない債権者や、後順位抵当権者でも、債務者が無資力なら、債務者の援用権を代位して行使できます。取り違えやすい点があります。このときの被代位権利は、債務者のもとの債権ではなく、その債権の消滅時効の援用権です。被保全債権と混ぜないでください。
制限は、個別に出てきます。1つは条文で、次に見るただし書です。もう1つは、自己の債権を保全するため必要がある、という要件から出てきます。たとえば、債務者が無資力でも、行使したところで責任財産の増加に結びつかない権利は、保全のために必要とは言えず、代位できないと解されています。
423条1項ただし書——一身専属権とは
図:一身専属の2つの物差しの区別
- 行使上の一身専属=代位できるかの物差し(423条1項ただし書)
- 帰属上の一身専属=相続で承継されるかの物差し(896条ただし書「被相続人の一身に専属したもの」)
- 2つは別
- 例=扶養請求権(877条)・認知の訴え(787条)
ここで、条文に戻ります。ただし書を読み直すために、423条1項を、もう一度出します。
条文民法423条1項
民法第423条第1項 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
ただし書は、2種類の権利を、代位の対象から外しています。1つめが、債務者の一身に専属する権利、2つめが、差押えを禁じられた権利です。差押えのほうは、あとで見ます。一身専属権の意味を、言葉で言います。その権利を行使するかしないかを、債務者本人の意思だけに委ねるべき権利です。他人である債権者が、本人の代わりに決めてはいけない権利、と言い換えられます。身近な場面に置き換えます。けんかをした相手から謝られたとき、その謝罪を受け入れるかどうかは、謝られた本人が決めることです。周りの人が、代わりに決めることはできません。一身専属権も、これと同じ型です。
たとえば、親族間の扶養請求権です。877条に定めがあります。扶養を求めるかどうかは、その人の事情と気持ちで決めることです。もう1つは、認知の訴えです。子が、法律上の親子関係を認めるよう、親に求める訴えで、787条に定めがあります。認知を求めるかどうかも、本人が決めることです。どちらも理由は同じ型で、行使するかどうかを本人の意思に委ねるべきだから、代位できません。ここで、取り違えやすい別の物差しを、区別します。一身専属には、2つの意味があります。1つめが、行使上の一身専属です。代位できるかどうかの物差しで、今見た、423条1項ただし書の話です。2つめが、帰属上の一身専属です。相続で承継されるかどうかの物差しで、896条ただし書の話です。896条は、相続人が被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めたうえで、ただし、被相続人の一身に専属したものは承継しない、としています。
同じ一身専属なら、2つは重なりませんか。重なりません。別の物差しです。承継される権利でも、行使上は一身専属で、代位できない、という組み合わせが成り立ちます。その例が、遺留分の請求の権利です。遺留分とは、一定の相続人に保障された、相続財産の最低限の取り分のことです。あとで確認します。答案では、どちらの意味で一身専属と言っているのかを、書き分けてください。
慰謝料請求権はいつから代位できるか——判例の線引き
図:慰謝料請求権の時間軸
- 被害の発生→請求の意思を示す(まだ代位できない)→合意の成立または支払を命じる債務名義の成立(金額が客観的に確定=代位できる)
- 別ルート=被害者の死亡(代位できる)
いよいよ、冒頭の問いです。名誉を傷つけられたことによる慰謝料請求権は、貸主のAが、いつから代位できるのか。
図:事件の中身
- 元町長が、賄賂を受け取ったとして起訴された
- 起訴は違法で名誉を傷つけられたと主張し、慰謝料2000万円の賠償を求めて訴えた
- 訴えの前に破産宣告を受けていた
- 第一審=訴える資格あり、支払を命じた
- 控訴審=訴える資格なし、訴えを却下
- 争点=破産した本人に、自分で訴える資格があるか
- 注記=債権者が代位した事件ではない
最高裁が、この点に判断を示した事件があります。先に、事件の中身を言います。注意してください。この事件は、債権者が代位した事件ではありません。元町長が、町長だった間に賄賂を受け取ったとして起訴されました。この起訴は違法で、名誉を傷つけられたと主張して、慰謝料2000万円の賠償を求める訴えを起こしました。ところがこの元町長は、訴えの前に破産宣告を受けていました。裁判所の決定で、破産の手続に入っていた、ということです。第一審は、元町長に訴える資格があるとして、支払を命じました。控訴審は、破産した人が慰謝料を請求する意思を示した時点で、その請求権は破産財団に属する財産になる、と考えました。元町長が請求したのは破産宣告の後だから、本人に訴える資格が無いとして、請求の中身を判断せずに、訴えを退けました。これを、訴えの却下と言います。破産財団とは、破産した人の財産のうち、債権者への配当にあてるために、破産管財人が管理する財産のことです。争われたのは、破産した本人に、自分で訴える資格があるかどうか、でした。
代位とは関係ない事件なのに、どうして、今日取り上げるんですか。資格を判断する前提として、最高裁が、慰謝料請求権の性質を論じたからです。その中で、被害者の債権者は、差押えや債権者代位の目的にできるか、に答えています。判旨を、3つのカードで読みます。請求権の性質、金額が確定する前、金額が確定した後、の順です。1枚目は、慰謝料請求権の性質です。
判例最判昭58・10・6 民集37巻8号1041頁
慰謝料請求権を行使するかどうかは、被害者自身の意思で決まる 名誉を侵害されたことを理由とする被害者の加害者に対する慰藉料請求権は、金銭の支払を目的とする債権である点においては一般の金銭債権と異なるところはないが、本来、右の財産的価値それ自体の取得を目的とするものではなく、名誉という被害者の人格的価値を毀損せられたことによる損害の回復の方法として、被害者が受けた精神的苦痛を金銭に見積つてこれを加害者に支払わせることを目的とするものであるから、これを行使するかどうかは専ら被害者自身の意思によつて決せられるべきものと解すべきである。
図:慰謝料請求権の時間軸
- 被害の発生→請求の意思を示す(まだ代位できない)→合意の成立または支払を命じる債務名義の成立(金額が客観的に確定=代位できる)
- 別ルート=被害者の死亡(代位できる)
読み方です。慰謝料請求権は、金銭を支払わせる債権という点では、普通の金銭債権と変わりません。ただし、目的が違います。お金そのものを得るための債権ではなく、名誉という人格的な価値を傷つけられた損害を回復する方法として、精神的な苦痛を金銭に見積もって、加害者に支払わせるものです。だから、請求するかしないかは、専ら被害者自身の意思で決める、と言っています。ここが、一身専属の理由になります。2枚目は、金額がまだ確定していない間の扱いです。
判例最判昭58・10・6 民集37巻8号1041頁
金額が客観的に確定しない間は、差押えも代位もできない その具体的金額自体も成立と同時に客観的に明らかとなるわけではなく、被害者の精神的苦痛の程度、主観的意識ないし感情、加害者の態度その他の不確定的要素をもつ諸般の状況を総合して決せられるべき性質のものであることに鑑みると、被害者が右請求権を行使する意思を表示しただけでいまだその具体的な金額が当事者間において客観的に確定しない間は、被害者がなおその請求意思を貫くかどうかをその自律的判断に委ねるのが相当であるから、右権利はなお一身専属性を有するものというべきであつて、被害者の債権者は、これを差押えの対象としたり、債権者代位の目的とすることはできないものというべきである。
読み方です。慰謝料の金額は、権利が生じた時に、すでに客観的に明らかになっているわけではありません。苦痛の程度、本人の主観的な意識や感情、加害者の態度などの不確定な事情を、総合して決まります。だから、被害者が請求する意思を示しただけで、具体的な金額が当事者間で客観的に確定していない間は、なお請求を貫くかどうかを、被害者の自律的な判断に委ねるのが相当だ、と言っています。その間は、なお一身専属性があります。だから、被害者の債権者は、差押えも、代位もできません。本人が請求すると言い出しても、駄目なんですか。駄目です。意思を示しただけでは、金額が決まっていないので、まだ本人の判断に委ねる段階だからです。3枚目は、金額が確定したあとと、被害者が亡くなった場合です。カードに、債務名義という言葉が出てきます。支払を命じる確定判決など、強制執行の根拠になる書面のことです。
判例最判昭58・10・6 民集37巻8号1041頁
金額が確定したとき、被害者が死亡したときは、代位できる 加害者が被害者に対し一定額の慰藉料を支払うことを内容とする合意又はかかる支払を命ずる債務名義が成立したなど、具体的な金額の慰藉料請求権が当事者間において客観的に確定したときは、右請求権についてはもはや単に加害者の現実の履行を残すだけであつて、その受領についてまで被害者の自律的判断に委ねるべき特段の理由はないし、また、被害者がそれ以前の段階において死亡したときも、右慰藉料請求権の承継取得者についてまで右のような行使上の一身専属性を認めるべき理由がないことが明らかであるから、このような場合、右慰藉料請求権は、……客観的存在としての金銭債権となり、被害者の債権者においてこれを差し押えることができるし、また、債権者代位の目的とすることができるものというべきである。
読み方です。確定の場面は2つです。1つめは、加害者が一定額の慰謝料を支払う内容の合意か、支払を命じる債務名義が成立して、金額が当事者間で客観的に確定したときです。この段階になると、残っているのは加害者の現実の履行だけです。受領するかどうかまで、被害者の自律的な判断に委ねる理由はありません。2つめは、被害者がそれ以前に死亡したときです。慰謝料請求権を引き継いだ人にまで、行使上の一身専属性を認める理由はない、と言っています。どちらの場合も、この請求権は、客観的な金銭債権になります。そして、被害者の債権者は、差押えもできるし、代位もできる、と述べています。
冒頭の問いの答えと、同じ型の権利
図:冒頭の設例の答え
- Bが請求の意思を示しただけ・迷っている間=Aは代位できない
- BとCの合意の成立、または支払を命じる判決の確定=金額が確定→Aは代位できる
- Bが死亡して承継された場合も同じ
- 同じ型の権利=財産分与請求権・遺留分侵害額請求権
冒頭の問いに、答えを出します。Bが、Cに請求する意思を示しただけの間、あるいは、請求するか迷っている間は、AはBに代わって、Cに慰謝料を請求できません。慰謝料を請求するかどうかは、Bの人格に関わる決断で、金額もまだ定まっていないからです。一方で、BとCの間で、いくら払うという合意が成立したり、支払を命じる判決が確定したりして、金額が確定すれば、あとは普通の金銭債権と同じです。Aは代位できます。Bが亡くなって、その請求権が承継された場合も、同じです。線を引く決め手は、金額が確定して、受領するかどうかを本人の判断に委ねる理由が無くなったかどうかです。同じ型の権利を、2つ名前出しします。1つめは、離婚の財産分与請求権で、768条に定めがあります。前の回では、財産分与請求権を守るために代位できるか、つまり被保全債権になれるかを見ました。今回は向きが逆で、財産分与請求権が代位される側になる場面です。線の引き方は、慰謝料と同じ型です。協議や審判で決まる前は、分与を求めるかどうかも、金額も、まだ定まっていません。求めるかどうかは、離婚する本人の判断に委ねるべきなので、行使上の一身専属の側に置かれます。具体的な金額が確定すれば、本人の判断に委ねる理由が無くなり、代位できます。これが通説です。中身は、親族法の回で扱います。2つめは、遺留分侵害額請求権で、1046条1項に定めがあります。旧法の遺留分減殺請求権について、判例は、遺留分制度は被相続人の財産処分の自由と相続人の利益の調整であり、侵害された遺留分を回復するかどうかを、専ら遺留分権利者の自律的な決定に委ねたものだとして、行使上の一身専属性を認めました。遺留分権利者が、この権利を第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的な意思を、外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除いて、代位できないとしています。
この判例は、さらに、承継人にも認められる権利であることは、帰属上の一身専属性を持たないことを示すにすぎず、行使上の一身専属性を認める妨げにならない、と区別しています。承継される権利でも、代位できない権利がある、という例です。2018年の相続法の改正で、権利の名前が遺留分侵害額請求権に変わりました。行使するかどうかを権利者の判断に委ねる構造は同じなので、現行法でも同じように解されるのが一般です。中身は、相続の回で扱います。慰謝料請求権が代位されるかどうかは、論文でも論点になりうる部分です。
差押えを禁じられた権利は代位できない
図:差押えを禁じられた権利の例
- 給料等=支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分は差押え禁止(民事執行法152条1項)
- 生活保護=受けた保護金品などの差押え禁止(生活保護法58条)
- 年金=国民年金の給付を受ける権利は差押え不可(国民年金法24条)
- 理由=①差押禁止の趣旨が没却される ②責任財産に入らない
もう1つのただし書、差押えを禁じられた権利です。例を3つ挙げます。給料などは、支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分は、差し押さえてはならないと、民事執行法152条1項が定めています。高額の場合は、政令で定める額に相当する部分です。つまり給料は、一部が禁止されています。生活保護は、生活保護法58条が、すでに受けた保護金品などの差押えを禁じています。国民年金の給付を受ける権利は、国民年金法24条で、差押えができません。理由は2つあります。1つめは、差押えを禁じた法の趣旨です。その趣旨は、生活を支える給付を、本人が現実に受け取れるようにすることにあります。他人が代位して取り立てることを認めると、この趣旨が失われてしまいます。2つめは、責任財産の考え方です。差押えを禁じられた権利は、強制執行の対象になりません。つまり、責任財産に入りません。代位権は、責任財産を保全する制度なので、取り立てても、強制執行の引当てにならない権利は、対象にならないのです。給料のように一部だけが禁止されている場合は、代位できないのは、差押えが禁じられた部分と考えるのが筋です。この差押えを禁じられた権利は、2017年の改正で、ただし書に明記されました。以前は、解釈で除かれていました。今は、条文を引いて確認できます。
行使の方法——自己の名で・裁判外でも・訴えたら訴訟告知
図:行使の方法
- (a)自己の名で行使=代理ではない
- 代位訴訟の原告はA、被告はC
- (b)裁判外でも行使できる(詐害行為取消権は裁判で行使、424条)
- (c)訴えを起こしたら遅滞なく債務者に訴訟告知(423条の6)
- 判決の効力が及びうる(民事訴訟法115条1項2号)
次は、どうやって行使するのか、です。3つ押さえます。1つめは、自己の名で行使する、ということです。Aは、Aの名前で、Bの権利を行使します。Bの代理人としてではありません。AがCを訴える代位訴訟では、原告はAであって、Bではありません。行使される権利は、BのCに対する権利です。2つめは、裁判外でも行使できる、ということです。訴えを起こさなくても、AはCに、直接請求できます。内容証明郵便などで、裁判を経ずに請求してかまいません。対比すると、詐害行為取消権は、他人がした行為を取り消すという強い効果を持つので、裁判所を通して行使させる仕組みです。424条も、裁判所に請求することができる、と定めています。3つめが、訴えを起こしたときの義務です。条文に、訴訟告知という言葉が出てきます。訴訟告知とは、訴訟が起きていることを、その訴訟に参加できる第三者に知らせることです。民事訴訟法53条1項に定めがあります。条文を読みます。
条文民法423条の6
民法第423条の6 債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。
AがCを訴えたら、Aは、遅滞なく、Bに訴訟告知をしなければなりません。代位訴訟で争われるのは、Aの権利ではなく、BがCに対して持つ権利です。Aは、権利の持ち主であるBのために、自分の名で原告になっています。Bの意思に関係なく、法律が、Aにその資格を与えています。このような場合を、一般に法定訴訟担当と説明します。そして、民事訴訟法115条1項2号は、確定判決は、当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人に対しても、効力を有すると定めています。つまりBは、自分は訴訟の当事者ではないのに、判決の効力が及ぶとされています。自分で争っていないのに効力が及びうるのですから、Bにも、訴訟に関わる機会を与えなければ、不公平です。債務者の手続保障が、告知を義務づけた理由です。この条文は、2017年の改正で新設されました。押さえるべき内容は、提訴したら遅滞なく告知しなければならないこと、そして、その趣旨は、判決の効力が債務者に及びうることと、債務者の手続保障、の2点です。
行使の範囲——自己の債権の額が上限
図:行使の範囲の数値例
- A→B 100万円(被保全債権)、B→C 200万円(被代位権利・目的が可分)
- Aが代位して行使できるのは100万円の限度
- 下段=目的が不可分(絵画1枚の返還請求)なら全部
最後は、どこまで行使できるのか、です。ここからは、前の回の設例に戻ります。Cは、加害者ではなく、Bの友人です。AはBに100万円の債権を持ち、BはCに200万円の貸金債権を持っています。立ち止まって、考えてみてください。Aは、Cに対するBの200万円を、全部代位できるでしょうか。どこまで代位できるのかは、423条の2が定めています。読みます。
条文民法423条の2
民法第423条の2 債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。
数値に当てはめます。200万円の債権は、100万円と100万円に分けても、価値が減りません。つまり可分です。したがって、Aが代位して請求できるのは、自己の債権の額である100万円の限度までです。どうして、上限があるんですか。代位権は、債務者の財産管理に口を出す、例外的な制度だからです。口を出してよいのは、自分の債権を守るのに必要な限度までです。100万円の債権を守るのに、200万円の権利を全部行使する必要はありません。判例も、債権者代位権の行使の範囲は、債権の保全に必要な限度に限られると述べていました。2017年の改正は、この判例が認めてきた限度を、明文にしたものです。
条文は、可分であるときだけを定めています。不可分のときは、条文に書いていません。通説は、被代位権利の目的が不可分なら、被保全債権の額に満たなくても、全部を行使できると解しています。例で見ます。BがCに預けた絵画が1枚あります。Aの債権は30万円です。でも絵画の返還請求は、絵画全部についてしかできません。絵を30万円分だけ切って返してもらう、ということはできません。分けられないから、全部の行使が認められます。ここも、条文どおりのものと、解釈で立てるものの区別です。可分なら自己の債権の額まで、は423条の2です。不可分なら全部、は解釈です。
冒頭の問いに戻る——今日のまとめ
図:まとめの表
- 被保全債権の側=存在・弁済期(423条2項)・強制執行で実現できる(423条3項)
- 保全の必要性=債務者の無資力(解釈)
- 被代位権利の側=存在/債務者が自ら行使していない(解釈・判例)/一身専属権でない・差押禁止でない(条文どおり・423条1項ただし書)
- 行使の方法=自己の名・裁判外でも・訴訟告知(423条の6)
- 行使の範囲=可分なら自己の債権の額まで(423条の2)、不可分なら全部(解釈)
冒頭の問いに戻ります。借主のBが慰謝料を請求しないとき、貸主のAは、Bに代わって慰謝料を請求できるのか、でした。答えは、金額が客観的に確定するまでは、できません。BとCの合意や、支払を命じる判決の確定などで金額が確定すれば、あるいはBが死亡して承継されれば、できます。そして、できるとしても、Aの債権が100万円なら、100万円の限度までです。今日の軸をつなぎます。口出しが許されるのは、債務者が動かないせいで、責任財産が保たれない場面だけです。だから、債務者がすでに行使しているなら、割り込めません。行使すれば責任財産が保たれる権利なら、種類は問わず、広く代位できます。本人の意思に委ねるべき権利と、そもそも責任財産でない権利は外れます。行使するときも、自分の債権を守るのに必要な限度までです。条文どおりの要件は、一身専属権でないことと、差押えを禁じられた権利でないこと、訴訟告知、行使の範囲です。解釈で立てた基準は、債務者の未行使と、不可分のときの全部の行使です。この区別が、答案の書き方の違いになります。一身専属権の認定は、論文で論点になりうる部分です。代位で債権者が受け取ったものの扱いは、また別の回で扱います。
参照条文
- 民法423条1項
- 民法423条の6
- 民法423条の2