民法ゼロから民法#201

対抗要件を備えさせる行為・詐害の意思・受益者の悪意

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第4章 債権総論 #201/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

登記だけを取り消せるか

冒頭の時系列と関係図。A 債権者、B 債務者、C 受益者。Bの財産は、土地1つだけ。1月 BはCに土地を売る契約をした(登記はまだ)。3月 AがBに600万円を貸した。6月 Bは登記をCに移した。問い=Aは、6月の登記だけを取り出して取り消せるか。 図:冒頭の時系列と関係図

  • A 債権者、B 債務者、C 受益者
  • Bの財産は、土地1つだけ
  • 1月 BはCに土地を売る契約をした(登記はまだ)
  • 3月 AがBに600万円を貸した
  • 6月 Bは登記をCに移した
  • 問い=Aは、6月の登記だけを取り出して取り消せるか

設例から入ります。Bの財産は、土地が1つだけです。1月に、Bはこの土地をCに売る契約をしました。ただし、登記はまだ移していません。3月に、AがBに600万円を貸しました。6月に、Bは登記をCに移しました。そのあと、Bは、Aに返せなくなりました。Aは、6月の登記だけを取り出して、取り消せるでしょうか。直感が割れる場面です。契約はAの貸付けより前、登記はあとで、時期がずれています。登記のように、権利を人に主張するための手続だけを、取消しの対象として取り出せるのか。これが今日の問いです。債権を譲ったときの通知も、同じ型です。答えは、最高裁の判決の言葉で、そのまま言えるようになります。

この回では、条文の言葉、判例、解釈による整理を分けて書きます。解釈による整理とは、条文にも判例にも書かれていないけれど、学説が筋道を立てて説明しているものです。

登記や通知は、主張するための手続

設例の時系列。A 債権者、B 債務者、C 受益者。1月 売買契約(BからC、登記はまだ)=Aの貸付けより前だから、424条3項により取り消せない。3月 貸付け(AからB、600万円)。6月 登記(BからC)=Aの貸付けよりあと、今日の問い。対抗要件=不動産は登記(177条)、債権は通知か承諾(467条)。 図:設例の時系列

  • A 債権者、B 債務者、C 受益者
  • 1月 売買契約(BからC、登記はまだ)=Aの貸付けより前だから、424条3項により取り消せない
  • 3月 貸付け(AからB、600万円)
  • 6月 登記(BからC)=Aの貸付けよりあと、今日の問い
  • 対抗要件=不動産は登記(177条)、債権は通知か承諾(467条)

対抗要件を思い出します。対抗とは、契約の当事者ではない人に、自分が権利者だと主張することでした。そのために必要な条件が、対抗要件です。不動産なら登記で、177条です。債権の譲渡なら、467条の通知か承諾でした。対抗できない、というのは無効という意味ではなく、当事者の間では有効で、ほかの人に言えないだけでした。登記も通知も、権利が動いたことを、ほかの人に主張するための手続です。そこで問いが立ちます。対抗要件を備えさせる行為は、財産を動かす行為なのか。それとも、すでに動いた財産を主張するための手続なのか。取消権の対象は、財産を減らした行為です。どちらなのかで、取り消せるかが変わります。設例を時系列で見ます。その前に、被保全債権の回で読んだ、424条3項を思い出してください。取り消したい行為が、自分の債権が生じる前のものだと、取り消せるでしょうか?

設例の売る契約は1月で、Aの貸付けの3月より前です。債権が行為の前の原因に基づく、という3項の条件を満たしません。ですから、契約そのものは取り消せません。残るのは、貸付けよりあとの、6月の登記だけです。問いは、この登記だけを取り出せるか、に絞られました。

登記だけを取り消せるか——最初の判決

最初の判決の事案。不動産の譲渡後の登記についての判断。取消しを求められたのは、債権者の債権が生じる前にされた不動産物権の譲渡。登記だけが、債権の成立よりあと。原審は詐害行為の成立を否定し、最高裁は上告を棄却(取消しを認めない)。 図:最初の判決の事案

  • 不動産の譲渡後の登記についての判断
  • 取消しを求められたのは、債権者の債権が生じる前にされた不動産物権の譲渡
  • 登記だけが、債権の成立よりあと
  • 原審は詐害行為の成立を否定し、最高裁は上告を棄却(取消しを認めない)

最初の判決です。これは、不動産の登記についての判断です。債権譲渡の通知ではありません。次の判決と、取り違えないでください。事案です。取消しを求められたのは、債権者の債権が生じる前にされた、不動産の譲渡でした。登記だけが、債権が生じたあとでした。原審は、詐害行為の成立を否定します。最高裁は、上告を棄却しました。取消しは認められなかった、ということです。判決の言葉を読みます。旧かなづかいなので、読み方は、このあと直します。

判例最判昭55・1・24 民集34巻1号110頁

不動産の譲渡後の登記と詐害行為取消し 詐害行為と主張される不動産物権の譲渡行為が債権者の債権成立前にされたものである場合には、たといその登記が右債権成立後にされたときであつても、債権者において取消権を行使するに由はない……物権の譲渡行為とこれについての登記とはもとより別個の行為であつて、後者は単にその時からはじめて物権の移転を第三者に対抗しうる効果を生ぜしめるにすぎず、登記の時に右物権移転行為がされたこととなつたり、物権移転の効果が生じたりするわけのものではないし、また、物権移転行為自体が詐害行為を構成しない以上、これについてされた登記のみを切り離して詐害行為として取り扱い、これに対する詐害行為取消権の行使を認めることも、相当とはいい難いからである。

言葉を直します。「たとい」は、たとえ、です。「取消権を行使するに由はない」は、行使する手立てがない、という意味です。「別個」は、別々、です。結論は、こうです。取り消したい譲渡が、債権者の債権ができる前なら、登記が債権ができたあとでも、取消権は使えません。理由は、3つ述べています。1つめ、物権の譲渡行為と登記は、別個の行為です。2つめ、登記は、その時から初めて、物権の移転を第三者に対抗できる効果を生じさせるにすぎません。登記の時に、物権移転行為がされたことになるわけではありません。3つめ、物権移転行為自体が詐害行為を構成しない以上、登記だけを切り離して取り消すのは、相当とは言いにくい、です。

設例に当てはめます。Bが土地を譲る契約は、1月に済んでいます。判決の言う物権移転行為は、こちらです。6月の登記は、その譲渡を、ほかの人に主張できるようにする手続にすぎません。登記をしたから、その時に土地が動いた、というわけではないのです。設例の形は、この判決の事案と同じ型です。判決は、もう1つ付け加えています。破産の手続には、対抗要件を備えさせたこと自体を否定できる、特別な規定があります。判決は、それは破産の手続などの特殊性から設けられた規定で、民法上の詐害行為取消しに類推することはできない、と述べました。破産の話は、ここまでです。

債権譲渡の通知は取り消せるか——次の判決

次の判決の事案の順序。登場人物=譲受人(貸主)、債務者(製本会社)、売掛先(書店)、別の貸主。担保目的の譲渡契約(貸金の不履行が停止条件)→別の貸主2社が債務者に貸付け→債務者が手形の不渡り、条件が成就→譲受人の通知が先に書店へ到達→債務者の別の3社への譲渡の通知が、あとに到達→書店が供託。争われ方=本訴は譲受人が供託金の還付請求権の確認、反訴は別の2社が譲渡通知の取消しを求める。 図:次の判決の事案の順序

  • 登場人物=譲受人(貸主)、債務者(製本会社)、売掛先(書店)、別の貸主
  • 担保目的の譲渡契約(貸金の不履行が停止条件)→別の貸主2社が債務者に貸付け→債務者が手形の不渡り、条件が成就→譲受人の通知が先に書店へ到達→債務者の別の3社への譲渡の通知が、あとに到達→書店が供託
  • 争われ方=本訴は譲受人が供託金の還付請求権の確認、反訴は別の2社が譲渡通知の取消しを求める

次の判決は、債権譲渡の通知についてです。事案が少し込み入っているので、役割の名前で話します。冒頭の設例のA、B、Cには、当てはめません。登場人物です。お金を貸した人が、譲受人です。借りたのが製本会社で、債務者と呼びます。債務者が売掛代金債権を持っている相手の書店を、売掛先と呼びます。ほかに、債務者にお金を貸した、別の貸主が出てきます。順に見ます。譲受人は、債務者に920万円を貸しました。同じ日に、その貸金の担保として、債務者が売掛先に対して持つ売掛代金債権の全部を、譲受人に譲る契約を結びます。ただし、貸金を返さないことを停止条件にしました。停止条件とは、その事実が起きたときに、はじめて効力が生じる、という条件のことです。そのあと、別の貸主2社が、債務者に貸付けをします。どちらも、譲渡の契約よりあとです。やがて債務者は、手形の不渡りを出します。約束の日に、手形のお金を払えなかった、ということです。貸金の返済も怠りました。条件が成就して、譲渡の効力が生じます。譲受人は、債権譲渡兼譲受通知書を、債務者と連名で、売掛先に内容証明郵便で送りました。債務者は、同じ売掛債権を、別の3社にも譲ったとする通知を出しています。この3社のうち2社は、譲渡の契約よりあとに、債務者へ貸付けをした会社です。ただ、この通知が着いたのは、譲受人の通知より、あとでした。売掛先は、債権者を確かめられないとして、供託します。供託とは、払うべきお金を国の機関に預けて、支払の義務を終えるしくみです。

裁判は2本立てです。本訴は、譲受人が、供託金を受け取る権利、つまり還付請求権は自分にある、と確認を求めたものです。反訴は、別の2社が、譲受人への譲渡通知は詐害行為だとして、取消しを求めたものです。反訴とは、訴えられた被告が、同じ手続の中で逆に起こす訴えのことです。

原審と最高裁の対比。問い=登記が取り消せないなら、債権譲渡の通知も取り消せないのか。原審=通知は取り消せる(通知は、売掛先に対して債権者が変わったと主張するのに欠かせない要件で、登記とは性質が違う)。反訴を認め、本訴を退けた。最高裁=通知も取り消せない。原判決を破棄して自判。本訴を認め、反訴を退けた。 図:原審と最高裁の対比

  • 問い=登記が取り消せないなら、債権譲渡の通知も取り消せないのか
  • 原審=通知は取り消せる(通知は、売掛先に対して債権者が変わったと主張するのに欠かせない要件で、登記とは性質が違う)
  • 反訴を認め、本訴を退けた
  • 最高裁=通知も取り消せない
  • 原判決を破棄して自判
  • 本訴を認め、反訴を退けた

原審は、通知は登記と同じには扱えない、と考えました。通知は、譲られた債権の債務者、つまり売掛先との関係で、債権者が変わったと主張するのに欠かせない要件で、第三者への対抗要件を備える以上の働きがある。登記とは性質が違うから、登記が取り消せないとしても、通知は取り消せる、という判断です。反訴を認めて、本訴を退けました。最高裁は、原判決を破棄し、第一審判決を取り消して、自分で結論を出しました。破棄自判です。譲受人の本訴は認め、2社の反訴は退けました。判決の言葉を読みます。

判例最判平10・6・12 民集52巻4号1121頁

債権譲渡の通知と詐害行為取消し 債務者が自己の第三者に対する債権を譲渡した場合において、債務者がこれについてした確定日付のある債権譲渡の通知は、詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である……詐害行為取消権の対象となるのは、債務者の財産の減少を目的とする行為そのものであるところ、債権の譲渡行為とこれについての譲渡通知とはもとより別個の行為であって、後者は単にその時から初めて債権の移転を債務者その他の第三者に対抗し得る効果を生じさせるにすぎず、譲渡通知の時に右債権移転行為がされたこととなったり、債権移転の効果が生じたりするわけではなく、債権譲渡行為自体が詐害行為を構成しない場合には、これについてされた譲渡通知のみを切り離して詐害行為として取り扱い、これに対する詐害行為取消権の行使を認めることは相当とはいい難いからである。

登記の判決と通知の判決の比較。登記の判決=対象は不動産の譲渡後の登記/譲渡行為と登記は別個の行為/登記は、第三者に対抗できる効果を生じさせるにすぎない。通知の判決=対象は確定日付のある債権譲渡の通知/譲渡行為と通知は別個の行為/通知は、債務者その他の第三者に対抗できる効果を生じさせるにすぎない。共通の結論=譲渡行為自体が詐害行為にならないなら、それだけを切り離して取り消すことは相当でない。 図:登記の判決と通知の判決の比較

  • 登記の判決=対象は不動産の譲渡後の登記/譲渡行為と登記は別個の行為/登記は、第三者に対抗できる効果を生じさせるにすぎない
  • 通知の判決=対象は確定日付のある債権譲渡の通知/譲渡行為と通知は別個の行為/通知は、債務者その他の第三者に対抗できる効果を生じさせるにすぎない
  • 共通の結論=譲渡行為自体が詐害行為にならないなら、それだけを切り離して取り消すことは相当でない

結論は、確定日付のある債権譲渡の通知は、詐害行為取消権の対象にならない、です。理由は、先ほどの登記の判決と、同じ型で組まれています。取消権の対象は、債務者の財産の減少を目的とする行為そのものです。債権の譲渡行為と譲渡通知は、別個の行為です。通知は、その時から初めて、債権の移転を債務者その他の第三者に対抗できる効果を生じさせるにすぎません。債権譲渡行為自体が詐害行為を構成しない場合に、通知だけを切り離して取り消すのは、相当とは言いにくい、です。この判決は、登記の判決を、参照する形で引いています。登記と通知は、同じ型で扱われました。原審は、通知が無いと売掛先にも主張できない点で、登記とは性質が違う、と見ました。最高裁の言葉は、債務者その他の第三者に対抗できる効果を生じさせるにすぎない、です。この債務者は、譲られた債権の債務者で、この事件では売掛先です。売掛先に対する関係でも、通知は主張するための手続で、債権を動かすのは譲渡行為の側だ、と読めます。通知の時に債権が移るわけではない点は、登記と変わりません。判決が最後に述べた帰結は、こうです。譲受人は、別の3社に先立って対抗要件を具備したから、供託金の還付請求権を有する、というものです。この判決が答えた範囲を確かめます。別の2社が取消しを求めたのは、通知だけでした。ですから、判決が答えたのは、通知だけを切り離して取り消せるか、までです。譲渡の契約そのものが詐害行為になる場合にどうなるかは、この判決の答えの外です。

整理——対抗要件だけを取り出して取り消すことはできない

規範の整理。登記と通知は同じ型。譲渡行為=財産を動かす行為。対抗要件を備えさせる行為=動いた財産を主張するための手続。譲渡行為と別個の行為だから、切り離して取り消せない。譲渡行為そのものが詐害行為なら、取り消す対象は譲渡行為そのもの(こちらの整理)。 図:規範の整理

  • 登記と通知は同じ型
  • 譲渡行為=財産を動かす行為
  • 対抗要件を備えさせる行為=動いた財産を主張するための手続
  • 譲渡行為と別個の行為だから、切り離して取り消せない
  • 譲渡行為そのものが詐害行為なら、取り消す対象は譲渡行為そのもの(こちらの整理)

2つの判決から、規範を取り出します。

⭐ 論文で書く規範:対抗要件を備えさせる行為と詐害行為取消し(判例の規範) 対抗要件を備えさせる行為(不動産の登記、債権譲渡の通知)は、それだけを取り出して詐害行為として取り消すことはできない。譲渡行為そのものが詐害行為になるなら、取り消す対象は、譲渡行為そのものである。 (出どころ=前半は判例(条文に無い基準を、判例が立てたもの)。後半は判決の答えの外で、こちらの整理)

判決の文言が置く条件は、譲渡行為自体が詐害行為を構成しない場合に、という形です。その場合に、対抗要件だけを切り離せない、という書き方です。ここから先は、判決が述べた言葉ではなく、こちらの説明です。譲渡がそのまま有効に残るなら、登記や通知だけを取り消しても、動いた財産は債務者に戻りません。取り消されるのは、ほかの人に主張できる、という効果だけです。それは、責任財産、つまり強制執行の対象になる債務者の財産を元に戻す、という取消しの目的から外れます。取り消せる側の場面も、設例で確かめます。設例を変えて、Aが貸したあとに、Bが、ただ1つの土地をCに贈与する契約をして、登記も移したとします。今度は、契約そのものが、貸付けよりあとの、財産を減らす行為です。ほかの要件がそろえば、Aが取り消す対象は、登記ではなく、贈与の契約そのものです。

詐害行為にあたるかの整理

詐害行為にあたるかの整理。3つの帯。取り消せる(原則)=贈与・安い値段での売却・債務の免除(財産を減らす行為。解釈による整理)/遺産分割協議(財産権を目的とする法律行為。判例)。取り消せない(原則)=婚姻・離婚・養子縁組(財産権を目的としない行為。424条2項)/相続放棄(身分行為で、財産の増加を妨げるにすぎず、取り消せば承認を強制する結果になる。判例)/対抗要件を備えさせる行為(譲渡行為と別個の行為。判例)。条件つき=離婚に伴う財産分与(不相当に過大な部分だけ。判例)/慰謝料の合意(賠償債務の額を超える部分だけ。判例)/相当な値段での処分(特則が受け持つ。要件は次の回)。 図:詐害行為にあたるかの整理

  • 3つの帯
  • 取り消せる(原則)=贈与・安い値段での売却・債務の免除(財産を減らす行為。解釈による整理)/遺産分割協議(財産権を目的とする法律行為。判例)
  • 取り消せない(原則)=婚姻・離婚・養子縁組(財産権を目的としない行為。424条2項)/相続放棄(身分行為で、財産の増加を妨げるにすぎず、取り消せば承認を強制する結果になる。判例)/対抗要件を備えさせる行為(譲渡行為と別個の行為。判例)
  • 条件つき=離婚に伴う財産分与(不相当に過大な部分だけ。判例)/慰謝料の合意(賠償債務の額を超える部分だけ。判例)/相当な値段での処分(特則が受け持つ。要件は次の回)

3つめの要件、どんな行為が詐害行為になるか、を、1枚にまとめます。前の回までの行為と、今日の行為を、3つの帯に分けます。1つめの帯は、取り消せる、原則です。贈与、安い値段での売却、債務の免除は、財産を減らす行為で、詐害行為の中心でした。遺産分割協議も、対象になりえました。共有になった相続財産を、だれのものにするか確定させる行為です。財産の行き先を決めるのですから、財産権を目的とする法律行為だ、という判例の理由でした。2つめの帯は、取り消せない、原則です。婚姻、離婚、養子縁組は、家族としての地位に関わる行為で、財産権を目的としない行為です。424条2項が根拠です。相続放棄は、判例の理由が2つでした。1つめ、放棄は、もとから持っていた財産を減らすのではありません。受け取れば増えたはずのものが、増えなかっただけです。取消しの対象は、財産を積極的に減らす行為に限られ、増加を妨げるにすぎない行為は入りません。2つめ、放棄は身分行為で、取り消せば、相続の承認を強制するのと同じ結果になります。そして、今日の、対抗要件を備えさせる行為です。譲渡行為とは別個の行為だから、という判例の理由です。3つめの帯は、条件つきです。離婚に伴う財産分与は、原則として取り消せません。分与する側が債務超過でも、相手は、相当な分与を受けられる、というのが判例でした。例外は、不相当に過大で、分与の名を借りた財産逃がしと認められるときです。その場合も、取り消されるのは、不相当に過大な部分だけです。慰謝料の合意は、賠償債務の額を超える部分だけが、対象になります。本来負う額までは、すでにあった賠償債務の額を決めただけで、新しく債務が増えたわけではありません。超えた部分は、慰謝料の名を借りた贈与か、対価を欠いた新たな債務負担にあたる、という判例の理由でした。最後に、相当な値段での処分があります。これは、特則が受け持ちます。特則とは、基本のルールである424条から外れる、特別のルールのことです。要件は、次の回に見ます。

冒頭の問いに答えます。6月の登記だけを取り出して、取り消すことはできません。契約は貸付けより前で、取消しの対象にならず、登記は、その契約とは別個の行為だからです。債権譲渡の通知も、同じ型でした。

4つめ——債務者は、何を知っていればよいか

424条1項の板。本文=債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを請求できる。後半の「知って」が4つめ。ただし書=受益者が行為の時に債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。「知らなかった」の側が5つめ。 図:424条1項の板

  • 本文=債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを請求できる
  • 後半の「知って」が4つめ
  • ただし書=受益者が行為の時に債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない
  • 「知らなかった」の側が5つめ

4つめに入ります。条文から読みます。

条文民法424条1項

民法第424条1項 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

今日読むのは1項です。本文の後半、債務者が債権者を害することを知ってした、が4つめです。ただし書は、受益者についての定めで、害することを知らなかったとき、と書いています。これが5つめです。詐害の意思、という呼び名は、語感がずれています。条文の言葉は、意思ではなく、知って、です。意思という語感より、弱い言葉です。気持ちの強さではなく、認識の問題です。最高裁が、この点を判断しています。事案です。無資力の債務者が、実兄のために、自分の不動産に抵当権を設定しました。第一審は、債務者は、それが他の債権者の債権を害することを知ってした、と推認します。推認とは、周りの事実から推し量って認めることです。原審がこれを維持し、最高裁も正当としました。上告は棄却です。

判例最判昭35・4・26 民集14巻6号1046頁

詐害の意思と認識 詐害行為の成立には債務者がその債権者を害することを知つて法律行為をしたことを要するが、必ずしも害することを意図しもしくは欲してこれをしたことを要しないと解するのが相当である。

債務者に、債権者を困らせたい、という気持ちまで必要でしょうか?必要ありません。債権者を害することを知っていれば足りて、害することを意図したり、欲したりしたことまでは要りません。ただし、この判決が述べたのは、ここまでです。特定の債権者を狙う認識が要るのか、行為の性質との関係はどうか、には触れていません。判決は、なぜそう解するのかを、書いていません。ここからは、こちらの説明です。取消権は、債務者の行為を、債権者のために遡って否定する強い制度です。ただ、狙い撃ちの害意まで求めれば、財産を逃がした人が、そのつもりではなかった、と言うだけで、言い逃れがとおってしまいます。何を知っていれば足りるのか、も確かめます。これは解釈による整理で、薄く触れます。自分の行為で財産が減り、債権者への支払に足りなくなる、つまり回収が危うくなることの認識です。特定の債権者を狙うつもりまでは要りません。債権者全体の回収が危うくなると分かっていれば足りる、と説明されます。設例に当てはめます。冒頭の設例で、Bには、ほかにも貸主がいたとします。Bは、ほかの貸主の存在も、土地を手放せばAへの返済が難しくなることも、分かっていました。Aを困らせたいわけではありませんでした。それでも、知って、の要件は満たします。時点も押さえます。知っていたかは、行為の時で見ます。

行為の性質との関係——相関と、2017年の改正

相関の板。解釈による整理。改正前=財産を減らす度合いが強い行為(唯一の財産の贈与など)は、認識で足りる/度合いが弱い行為(特定の債権者への弁済など)は、より強い主観(債務者と相手方の通謀など)が要る。2017年の改正後=弱い類型は特則の条文に出ていった。一般の424条の詐害の意思は、認識で足りると整理される。 図:相関の板

  • 解釈による整理
  • 改正前=財産を減らす度合いが強い行為(唯一の財産の贈与など)は、認識で足りる/度合いが弱い行為(特定の債権者への弁済など)は、より強い主観(債務者と相手方の通謀など)が要る
  • 2017年の改正後=弱い類型は特則の条文に出ていった
  • 一般の424条の詐害の意思は、認識で足りると整理される

4つめの主観は、行為の性質と関係づけて説明されてきました。前に見たことの確認です。詐害行為の中心になる行為は、どんな行為でしたか?贈与や安い値段での売却のように、財産を減らす行為が中心でした。その中でも、減らす度合いに強弱があります。改正前は、強い行為、たとえば唯一の財産の贈与のようなものは、認識で足りる、と整理されるのが通例でした。弱い行為、たとえば特定の債権者への弁済は、より強い主観、たとえば債務者と相手方の通謀が要る、とされました。通謀とは、示し合わせることです。強弱の中身を、贈与と弁済で比べます。贈与は、財産が出ていくだけです。弁済は、財産が出ていく代わりに、借金も同じ額だけ減ります。債権者を害する度合いは、贈与より弱いわけです。行為の側が弱いぶん、知っていた、というだけでは足りず、主観の側が強くて初めて、詐害行為と見る。学説は、そう整理してきました。行為の側の強さと、主観の側の強さを、組み合わせて見る。この見方を、相関と呼びます。詐害行為かどうかは、行為の客観面と主観面の相関で判断する、と説明されてきました。ここは、判例がそう述べた、という話ではありません。判例の個別の判断を、学説がそう整理した、という位置づけです。

2017年の改正で、弱い類型が、特則に出ていきました。特則とは、基本のルールである424条から外れる、特別のルールを定めた別の条文です。特則の側に、重い主観が、条文の言葉として入っています。その結果、一般の424条の詐害の意思は、認識で足りる、と整理されます。ここも解釈による整理です。相関という考え方が改正で消えた、とまでは言えません。特則の中身には、今日は入りません。板にまとめます。

⭐ 論文で書く規範:詐害の意思の中身 必要なのは、債権者を害することを「知っていた」まで。要らないのは、害することを意図し、欲していたこと。 (出どころ=「知って」は条文の言葉、意図が要らないことは判例)

5つめ——受益者の「知らなかった」は誰が証明するか

条文の形の板。424条1項。本文=取消しを請求できる(原則)。ただし書=受益者が行為の時に債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない(例外)。例外を言う側=受益者。取消債権者が証明するのは、本文の側。 図:条文の形の板

  • 424条1項
  • 本文=取消しを請求できる(原則)
  • ただし書=受益者が行為の時に債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない(例外)
  • 例外を言う側=受益者
  • 取消債権者が証明するのは、本文の側

5つめです。424条1項は、本文で、取消しを請求することができる、と書きます。ただし書で、受益者が、行為の時に債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない、と書きます。本文が原則で、ただし書が例外です。前に、5つの要件を並べたとき、最後の5つめを、受益者も知っていたこと、と言いました。結論を分けるのが、受益者が知っていたかどうかである点は、変わりません。今日足すのは、裁判で、それをどちらが証明するか、です。ただし書は、受益者が知らなかったとき、取り消せない、という例外です。例外を言うのは、受益者の側だ、と条文の形が読ませます。悪意の中身も確かめます。民法でいう悪意とは、悪だくみではなく、知っていることです。ここでは、債務者の行為が債権者を害する、という事実を、行為の時に知っていたことです。害する意図は要りません。条文は、債務者についてと同じ言い回しです。受益者が事情を知らなかった、と言うのは、取り消す側でしょうか、受益者の側でしょうか?

知らなかったことを言い、証明するのは、受益者の側です。条文の形がそう読ませますし、最高裁も判断しています。判決は、民法424条1項ただし書についての判断を述べたうえで、同条を準用する国税徴収法の規定の解釈でも同じだ、としました。

判例最判昭37・3・6 民集16巻3号436頁

受益者の善意の挙証責任 民法四二四条一項但書にいわゆる受益者または転得者の善意の挙証責任は受益者または転得者自身に存するものと解すべきであり、同条を準用する国税徴収法一七八条の解釈としても、この理を異にしない。

カードの言葉を読み分けます。「善意」は、知らなかったこと、「挙証責任」は、証明する責任です。「転得者」は、受益者からさらに財産を受け取った人です。判決は改正前の条文の判断で、転得者は今の条文では別の扱いです。後の回で見ます。今日は、受益者の善意は受益者が証明する、と読んでください。判決の結論は、善意の証明の責任は、受益者自身にある、です。判決は、理由を述べていません。ですから、なぜ受益者が負うのかは、こちらの説明です。1つめ、条文の形です。ただし書は例外で、例外を主張する側が負担する、と読めます。2つめ、民事訴訟の一般原則です。相手の権利を覆す事実は、それを主張する側が証明します。

証明の整理。取消債権者が証明=被保全債権、無資力、詐害行為、債務者が知っていたこと。受益者が主張し証明=自分は行為の時に知らなかったこと(善意)。注意=受益者の悪意を取消債権者が証明する、ではない。受益者が証明するのは、善意。根拠=判例(理由づけはこちらの説明)。 図:証明の整理

  • 取消債権者が証明=被保全債権、無資力、詐害行為、債務者が知っていたこと
  • 受益者が主張し証明=自分は行為の時に知らなかったこと(善意)
  • 注意=受益者の悪意を取消債権者が証明する、ではない
  • 受益者が証明するのは、善意
  • 根拠=判例(理由づけはこちらの説明)

証明の分担を、板に整理します。取消債権者が証明するのは、被保全債権があること、債務者が無資力であること、詐害行為があったこと、債務者が知っていたことです。受益者が主張して証明するのは、自分は行為の時に知らなかったこと、つまり善意です。言い方に注意してください。受益者の悪意を取消債権者が証明する、とは言いません。逆に聞こえます。受益者が証明するのは、善意です。冒頭の設例とは別の場面で、確かめます。たとえば、BがAから財産を逃がすために、1500万円の土地を、100万円でCに売りました。極端な安値です。Aは、Bが知っていたことを証明します。Cが、そんな事情は知らなかった、と言うなら、知らなかったことを証明するのは、Cです。Cが証明できれば、取消しは認められません。証明できなければ、Cは知らなかったとは扱われず、ほかの要件がそろっていれば、取消しが認められます。本文の話は取消債権者、ただし書の話は受益者、と一対一で当てはまります。詐害の意思で意図が要らないことと、善意の証明が受益者にあることは、判例の判断で、条文に書かれていません。ここは、論文で論点になりうる部分です。

⭐ 論文で書く規範:受益者の善意の証明 424条1項ただし書の善意、つまり受益者が、害することを知らなかったことは、受益者自身が証明する。 (出どころ=判例(条文に明記は無く、判例が立てた。ただし書の形は、こちらの説明。論文で論点になりうる))

冒頭の問いに戻る——今日のまとめ

今日のまとめ。3つの柱と根拠の種類。1 対抗要件を備えさせる行為だけを取り出して取り消せない=判例(登記と通知)。2 債務者の「知って」は認識で足り、意図は要らない=条文の言葉と判例。行為の性質との関係は解釈による整理。3 受益者の善意の証明は受益者=判例(理由づけはこちらの説明)。要件5つが出そろった。 図:今日のまとめ

  • 3つの柱と根拠の種類
  • 1 対抗要件を備えさせる行為だけを取り出して取り消せない=判例(登記と通知)
  • 2 債務者の「知って」は認識で足り、意図は要らない=条文の言葉と判例
  • 行為の性質との関係は解釈による整理
  • 3 受益者の善意の証明は受益者=判例(理由づけはこちらの説明)
  • 要件5つが出そろった

冒頭の問いに戻ります。Bは、土地をCに売る契約をしたあとに、AがBに貸し、そのあとで登記をCに移しました。Aは、6月の登記だけを取り出して、取り消せるか、でした。答えは、取り消せません。登記も、債権譲渡の通知も、それだけを取り出して取り消すことはできません。3つの柱を整理します。1つめ、対抗要件を備えさせる行為だけを取り出して、取り消すことはできません。譲渡行為とは別個の行為だからです。根拠は、判例です。2つめ、債務者の、知って、は、認識で足りて、意図は要りません。条文の言葉と判例が根拠です。行為の性質との関係は、解釈による整理です。3つめ、受益者の知らなかったことは、受益者が証明します。根拠は、判例です。条文の形は、理由づけのための、こちらの説明でした。これで、要件の5つが出そろいました。1つめ、被保全債権。2つめ、債務者の無資力。3つめ、詐害行為で、対抗要件を備えさせる行為は、それだけでは取り消せません。4つめ、債務者が害することを知っていたこと。5つめ、受益者も知っていたこと。ただし、取り消す側がそれを証明するのではなく、知らなかったことを、受益者が証明します。相当な値段で売ったらどうなるか、は、次の回です。

参照条文

  • 民法424条1項

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