民法ゼロから民法#271

建物賃借人の死亡と同居人の保護

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第5章 契約 #271/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

夫の名義で借りた家に住み続けられるか

冒頭の設例 20年連れ添った内縁の夫が亡くなった。借りていた家の契約者は夫。大家A、亡くなった夫B、内縁の妻C、前妻の子D(相続人)。AからC「契約者が亡くなったので出て行ってほしい」。DからC「父の借家の権利は相続人の自分のものだ、出て行ってくれ」。 図:冒頭の設例 20年連れ添った内縁の夫が亡くなった

  • 借りていた家の契約者は夫
  • 大家A、亡くなった夫B、内縁の妻C、前妻の子D(相続人)
  • AからC「契約者が亡くなったので出て行ってほしい」
  • DからC「父の借家の権利は相続人の自分のものだ、出て行ってくれ」

登場人物に記号を付けます。Aが、大家です。Bが、借りていて亡くなった夫です。Cが、内縁の妻です。Dが、Bの前妻の子で、相続人です。前の回では、借家人は、建物の引渡しで新しい大家に対抗でき、家賃が相場とずれたら、増額や減額を請求できると見ました。では、借りた本人が亡くなったら、どうなるのでしょうか。今日は、この場面を見ます。そのあとで、借家の規定が働かなくなる例外を、ひとつ見ます。先に、答えの方向を言います。大家のAから出て行けと言われた場合と、相続人のDから出て行けと言われた場合とでは、Cが使う理屈が違います。誰から請求されたかで、構成が変わります。最後に、この問いに答えます。

相続人でない同居人の保護

賃借権は相続される。896条=相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。借家人Bが死亡→相続人Dが賃借権を相続。同居人が相続人(婚姻届のある配偶者・子)なら、相続した賃借権で居住を続けられる。内縁の妻Cは婚姻届がない→配偶者ではなく相続人でもない。賃借人でもない。 図:賃借権は相続される

  • 896条=相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する
  • 借家人Bが死亡→相続人Dが賃借権を相続
  • 同居人が相続人(婚姻届のある配偶者・子)なら、相続した賃借権で居住を続けられる
  • 内縁の妻Cは婚姻届がない→配偶者ではなく相続人でもない
  • 賃借人でもない

冒頭の問いに戻ります。まず、前提を確認します。賃借人が死亡すると、賃借権は、どうなるでしょうか。民法896条は、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する、と定めています。賃借権も、相続の対象です。ですから、同居人が相続人であれば、相続した賃借権で、住み続けられます。たとえば、婚姻届を出した妻や、子です。問題は、相続権のない同居人です。内縁の妻は、婚姻届がありませんから、民法上の配偶者ではなく、相続人にもなりません。賃借人でもありません。出発点は、賃借人でも相続人でもない、ということです。

同居人保護の3行表。誰から明渡しを請求されたか→同居人の使う法律構成。賃貸人から=相続人が承継した賃借権を援用して拒む。相続人から=権利の濫用(1条3項)で拒む。相続人がいない=借地借家法36条で同居人が賃借人の権利義務を承継する。 図:同居人保護の3行表

  • 誰から明渡しを請求されたか→同居人の使う法律構成
  • 賃貸人から=相続人が承継した賃借権を援用して拒む
  • 相続人から=権利の濫用(1条3項)で拒む
  • 相続人がいない=借地借家法36条で同居人が賃借人の権利義務を承継する

結論から言います。覚えるのは、3行表です。大家から明渡しを請求されたら、同居人は、相続人が承継した賃借権を援用して、つまり、引き合いに出して、拒みます。相続人から請求されたら、援用は使えません。権利の濫用で拒みます。そして、相続人がいなければ、36条で、同居人が賃借人の権利義務を承継します。1行ずつ、見ていきます。

同居人保護の関係図。大家A、亡くなった借家人B、同居の内縁の妻C、相続人D。AからC「出て行ってほしい」→CはDの賃借権を援用。DからC「出て行ってほしい」→権利の濫用。相続人がいない→CがBの賃借人の地位を承継(36条)。 図:同居人保護の関係図

  • 大家A、亡くなった借家人B、同居の内縁の妻C、相続人D
  • AからC「出て行ってほしい」→CはDの賃借権を援用
  • DからC「出て行ってほしい」→権利の濫用
  • 相続人がいない→CがBの賃借人の地位を承継(36条)

まず、1行めです。大家のAから、出て行けと言われた場合です。ここでは、援用という言葉を使います。時効の援用と言葉は同じですが、ここでの援用は、他人の権利を引き合いに出して、自分の立場の根拠にすることです。Dが相続した賃借権に乗って、大家に、住む権利を言い張る、ということです。判例を3つ見ます。1つめは、事実上の養子の事案です。亡くなった人は、琴の師匠でした。被上告人は、その人の内弟子として、同じ家に住んでいました。年を経るにつれて、2人の間柄は、師弟というより、事実上の母子の関係になりました。その人が亡くなったときには、別に相続人がいましたが、親族一同の了承のもと、被上告人が喪主として葬儀を行い、遺産はそのまま被上告人の所有と認め、祭祀も被上告人が受け継ぎました。大家は、明渡しを求めました。判決はこうです。

判例最判昭37・12・25 民集16巻12号2455頁

家族共同体の一員は、賃借権を援用して居住する権利を対抗できる 亡Dの有していた本件家屋の賃借権は、同人の死亡による相続により、原判示E外五名の相続人等に承継された旨の原審の判断は正当である。また、原審が確定したところによれば、被上告人は、昭和一七年四月以来琴師匠のDの内弟子となつて本件家屋に同居してきたが、年を経るに従い子のなかつたDは、被上告人を養子とする心組を固めるにいたり、晩年にはその間柄は師弟というよりはまつたく事実上の母子の関係に発展し、周囲もこれを認め、D死亡の際も、別に相続人はあつたが親族一同諒承のもとに、被上告人を喪主として葬儀を行わせ、Dの遺産はすべてそのまま被上告人の所有と認め、同人の祖先の祭祀も被上告人が受け継ぎ行うこととなり、Dの芸名Fの襲名も許されたというのであり、叙上の事実関係のもとにおいては、被上告人はDを中心とする家族共同体の一員として、上告人に対しDの賃借権を援用し本件家屋に居住する権利を対抗しえたのであり、この法律関係は、Dが死亡し同人の相続人等が本件家屋の賃借権を承継した以後においても変りがないものというべきであり、結局これと同趣旨に出た原審の判断は、正当として是認できる。

読み方です。賃借権は、相続人らが承継した。そのうえで、同居していた被上告人は、家族共同体の一員として、賃貸人に対し、亡くなった人の賃借権を援用して、家に居住する権利を対抗できた。この関係は、相続人が賃借権を承継した後も、変わらない、という意味です。

内縁の妻(昭42・2)。内縁の妻は相続人の賃借権を援用して居住を主張できる。ただし相続人と並ぶ共同賃借人にはならない(内縁の妻は賃借人ではない)。 図:内縁の妻

  • 昭42・2
  • 内縁の妻は相続人の賃借権を援用して居住を主張できる。ただし相続人と並ぶ共同賃借人にはならない(内縁の妻は賃借人ではない)。

2つめは、内縁の妻の事案です。

判例最判昭42・2・21 民集21巻1号155頁

内縁の妻は相続人の賃借権を援用できるが、共同賃借人となるわけではない 原判決(引用の第一審判決を含む。以下同じ。)が確定した事実関係のもとにおいては、上告人A1は亡Dの内縁の妻であつて同人の相続人ではないから、右Dの死亡後はその相続人である上告人A2ら四名の賃借権を援用して被上告人に対し本件家屋に居住する権利を主張することができると解すべきである(最高裁昭和三四年(オ)第六九二号、同三七年一二月二五日第三小法廷判決、民集一六巻一二号二四五五頁参照)。しかし、それであるからといつて、上告人A1が前記四名の共同相続人らと並んで本件家屋の共同賃借人となるわけではない。したがつて、Dの死亡後にあつては同上告人もまた上告人A2ら四名とともに本件家屋の賃借人の地位にあるものというべきであるとした所論原判示には、法令の解釈適用を誤つた違法があるといわなければならない。

読み方です。内縁の妻は、相続人ではありません。しかし、相続人の賃借権を援用して、家に居住する権利を主張できる。ただし、だからといって、相続人と並んで、共同賃借人になるわけではない、という意味です。ここが、答案の要です。援用は、相続人の賃借権に乗って居座ることです。同居人自身が、賃借人になるのではありません。

内縁の夫(昭42・4)。唯一の相続人が行方不明・生死不明でも、死亡の確証がなければ相続人が賃借権を相続承継。内縁の夫は家族共同体の一員としてその賃借権を援用できる。 図:内縁の夫

  • 昭42・4
  • 唯一の相続人が行方不明・生死不明でも、死亡の確証がなければ相続人が賃借権を相続承継。内縁の夫は家族共同体の一員としてその賃借権を援用できる。

3つめは、内縁の夫の事案です。前半は、相続人についての判断です。

判例最判昭42・4・28 民集21巻3号780頁

唯一の相続人が行方不明でも、死亡の確証がなければ賃借権の相続承継を認めるほかない 本件家屋の賃借人Dには唯一の相続人として姉E(明治二八年二月二五日生)があり、EはDの死亡当時行先不明で生死も判然としないことが認められるけれども、Eがその頃すでに死亡していたとの確証がない本件では、Dの死亡によりEが遺産相続人として本件家屋の賃借権を相続承継したと認めるほかはない旨の原判決の判断は、その挙示する証拠関係から肯認することができる。

読み方です。賃借人の唯一の相続人は姉で、死亡当時、行き先不明で、生死も分かりませんでした。しかし、すでに死亡していたという確証がないので、姉が賃借権を相続承継したと認めるほかない、という意味です。相続人が行方不明でも、死亡の確証がなければ、賃借権は、その相続人が相続したものとして扱われます。続いて、後半です。内縁の夫の扱いが述べられます。

判例最判昭42・4・28 民集21巻3号780頁

内縁の夫は、家族共同体の一員として賃借権を援用できる さらに、Dは昭和一五年八月七日上告人から本件家屋を賃借したものであること、被上告人は、Dの内縁の夫であり、昭和二六年九月から本件家屋に同棲して互に扶け合い、Dが病床につき昭和三七年七月五日死亡するまでの約三年間は同人の面倒をみてきたものであり、D死亡後もひきつづき本件家屋に居住していることは、原判決の適法に確定するところである。以上の事実関係のもとにおいては、被上告人はDの家族共同体の一員として、上告人に対し、同人の賃借権を援用し本件家屋に居住する権利を対抗しえたのであり、この法律関係は同人が死亡し、その相続人が本件家屋の賃借権を承継した以後においても特別の事情のないかぎり変りがないというべきであるから(昭和三七年一二月二五日第三小法廷判決、集第一六巻第一二号二四五五頁参照)、結局これと同趣旨に出た原判決の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

読み方です。同棲して面倒をみてきた内縁の夫は、家族共同体の一員として、賃貸人に対して、その賃借権を援用して居住する権利を対抗できた。この関係は、相続人が賃借権を承継した後も、特別の事情のないかぎり、変わらない、という意味です。判決の言葉で確かめます。1つめの判決は、内弟子として長く同居し、事実上の母子となり、喪主も祭祀も任された、という事実を並べました。3つめの判決は、同棲して扶け合い、病床の面倒をみてきた、という事実を並べました。そのうえで、どちらも、亡くなった人を中心とする家族共同体の一員として、賃借権を援用し、居住する権利を、大家に対抗できた、と述べています。判決は、こうした事実関係のもとでは、と断っています。同じ家にいたというだけで足りる、とは述べていません。そして、居座れる根拠は、相続人が承継した賃借権です。相続人が賃借権を持っている間は、特別の事情が無い限り、その賃借権に乗った同居人にも、大家は、出て行けと言えません。あとで見る36条は、相続人がいない場合に、事実上の夫婦や養親子と同様の関係にあった同居者へ、賃借人の地位を引き継がせます。条文が承継で守る同居者も、判例が援用で守る同居人と、よく似た関係の人です。

相続人DからCへの請求。援用は使えない(乗る先の賃借権を持つ本人が請求者)。→権利の濫用(1条3項)で拒む。 図:相続人DからCへの請求

  • 援用は使えない(乗る先の賃借権を持つ本人が請求者)
  • →権利の濫用(1条3項)で拒む

次は、2行めです。相続人のDから、出て行けと言われた場合です。同じ援用ではだめなのですか?だめです。援用は、相続人の賃借権に乗る構成でした。ところが、いま出て行けと言っているのは、その賃借権を相続した本人、つまり相続人のDです。乗る先の本人から請求されて、その人の賃借権に乗ることはできません。そこで、別の理屈が必要になります。それが、権利の濫用です。

判例の事案(相続人からの請求・冒頭の借家とは別の事案) 亡夫の所有家屋に内縁の妻が居住。相続人は亡夫の養子で、離縁することに決定していたが戸籍上の手続前に亡夫が死亡。相続人が所有権に基づき明渡しを請求。相続人に使用する差し迫った必要はない。妻は子女が独立前で、明け渡すと家計上相当重大な打撃。 図:判例の事案

  • 相続人からの請求・冒頭の借家とは別の事案
  • 亡夫の所有家屋に内縁の妻が居住。相続人は亡夫の養子で、離縁することに決定していたが戸籍上の手続前に亡夫が死亡。相続人が所有権に基づき明渡しを請求。相続人に使用する差し迫った必要はない。妻は子女が独立前で、明け渡すと家計上相当重大な打撃。

事案です。注意があります。この判決の事案は、借りていた家ではなく、亡くなった夫が所有していた家です。内縁の妻が、夫の死後も、その所有家屋に住み続けました。相続人は、夫の養子で、家庭内の不和のため、離縁することに決まっていましたが、戸籍上の手続をする前に、夫が亡くなっていました。相続人は、妻に、家屋の明渡しを請求しました。相続人に、その家屋を使わなければならない、差し迫った必要はありません。一方、妻の側では、子女がまだ独立して生計を営むに至らず、家屋を明け渡すと、家計上、相当重大な打撃を受けるおそれがありました。

判例最判昭39・10・13 民集18巻8号1578頁

相続人の本件建物明渡請求は、権利の濫用として許されない しかして、上告人および被上告人間の身分関係、本件建物をめぐる右両者間の紛争のいきさつ、右両者の本件建物の各使用状況およびこれに対する各必要度等の事情につき、原審がその挙示の証拠により確定した事実関係に照らせば、被上告人に対する上告人の本件建物明渡請求が権利の濫用として許されない旨の原審の判断は、正当として肯認するに足りる。

読み方です。両者の身分関係、紛争のいきさつ、建物の使用状況と必要度などの事情に照らせば、相続人の明渡請求は、権利の濫用として許されない、という原審の判断は正当だ、という意味です。権利の濫用は、第1章で見た、民法1条3項です。権利の濫用は、これを許さない、とあります。注意が2点あります。まず、この判決は、所有家屋の事案です。賃借建物で相続人から請求されたときも、援用は使えないので、この枠組みを当てはめて考えます。判例が、賃借建物で直接そう判示したのではありません。次に、この判決は、内縁の妻に、居住権が認められたと言った判決でもありません。相続人の請求が、権利の濫用にあたるから、許されないと言っただけです。境目のペアで考えます。相続人に、その家を使う差し迫った必要がなく、妻が出ていくと生活が立ち行かないなら、請求は止められます。逆に、相続人にその家を使う差し迫った必要があり、妻の側に出ていけない事情が乏しいなら、止められる余地は小さくなります。決め手は、双方の事情の比べ合わせです。

この回で見る枠組みでは、相続人本人に対しては、援用が使えず、権利の濫用で止めます。誰から請求されたかで、拒む手が変わります。ここまでが、相続人がいる場合です。

相続人がいない場合(36条)の要件と効果。要件=①居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡②婚姻・縁組の届出はないが、事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者③相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に反対の意思を表示しない。効果=同居者が賃借人の権利義務を承継(債権債務も帰属)。

3行めです。相続人が1人もいない場合です。大家も相続人もいる、というこれまでの場面とは違います。乗る先の相続人が、いません。この場合は、条文があります。

条文借地借家法36条

借地借家法第三十六条 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。 2 前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。

読み方です。1項本文は、居住用の建物の賃借人が相続人なしに死亡し、そのとき婚姻や縁組の届出はないが、事実上の夫婦や養親子と同様の関係にあった同居者がいれば、その同居者が賃借人の権利義務を承継する、という意味です。ただし書は、相続人なしに死亡したことを知った後、1か月以内に、賃貸人に反対の意思を表示すれば、承継しない、という意味です。2項は、賃貸借関係に基づく債権や債務も、承継した人に帰属する、という意味です。要件は3点です。まず、居住用の建物の賃借人が、相続人なしに死亡したこと。次に、届出はないが、事実上の夫婦または養親子と同様の関係にある同居者がいること。最後に、ただし書の、反対の意思表示が、1か月以内にされないことです。境目のペアです。婚姻の届出を出していれば、配偶者は相続人です。この条文の出番は、ありません。届出のない内縁の配偶者や、縁組の届出のない事実上の養子が、この条文の対象です。

承継した人が、払います。2項が、賃貸借に基づく債権と債務は承継した人に帰属する、と書いています。家賃を払う債務も、承継した人が負います。承継したくなければ、ただし書を使います。相続人なしを知ってから1か月以内に、大家へ反対の意思を表示すれば、承継しません。

援用と承継の対比。援用(相続人がいる)=同居人は賃借人にならず、相続人の賃借権に乗って居座るだけ・共同賃借人ではない(判例)。承継(相続人がいない)=同居人が賃借人の地位そのものを承継・債権債務も帰属(36条)。たとえ=援用は同乗、承継は運転席の譲り受け。 図:援用と承継の対比

  • 援用(相続人がいる)=同居人は賃借人にならず、相続人の賃借権に乗って居座るだけ・共同賃借人ではない(判例)
  • 承継(相続人がいない)=同居人が賃借人の地位そのものを承継・債権債務も帰属(36条)
  • たとえ=援用は同乗、承継は運転席の譲り受け

ここで、答案のつまずきを整理します。援用と承継は、違います。援用は、相続人がいる場合です。同居人は、賃借人になりません。相続人の賃借権に、乗せてもらって居座るだけです。乗り物にたとえると、同乗です。承継は、相続人がいない場合です。同居人が、賃借人の地位そのものを引き継ぎます。運転席を譲り受けるのと同じで、家賃を払う義務も、一緒に引き継ぎます。立ち止まって考えてみましょう。相続人から出て行けと言われた内縁の妻が、賃借権の援用を使えないのは、なぜでしょうか?援用は、相続人の賃借権に乗る構成ですが、請求しているのが、その賃借権を相続した相続人本人だからです。そこで、権利の濫用で止めます。誰から請求されたかで、使う構成が変わる。これが、1つめの柱の答えです。ここは、論文で論点になりうるところです。なお、内縁の配偶者の居住を、共有や使用貸借から基礎づける話は、別の回で扱います。

一時使用目的の建物の賃貸借

一時使用目的の建物の賃貸借(40条)。借家の規定(章全体)=一時使用のために賃貸借をしたことが明らかな場合は適用しない。更新・正当事由・対抗力(31条)・増減額請求(32条)・造作買取・承継(36条)すべて適用なし。例=博覧会の会期中の売店用建物は一時使用。通常の1年契約のアパートは期間が短いだけでは一時使用とは言えない。 図:一時使用目的の建物の賃貸借

  • 40条
  • 借家の規定(章全体)=一時使用のために賃貸借をしたことが明らかな場合は適用しない。更新・正当事由・対抗力(31条)・増減額請求(32条)・造作買取・承継(36条)すべて適用なし。例=博覧会の会期中の売店用建物は一時使用。通常の1年契約のアパートは期間が短いだけでは一時使用とは言えない。

2つめの柱です。ここまでの36条を含む借家の章の規定が、まるごと外れる例外です。

条文借地借家法40条

借地借家法第四十条 この章の規定は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない。

読み方です。この章の規定は、一時使用のために建物を賃貸借したことが、明らかな場合には、適用されない、という意味です。この章とは、借地借家法の、借家の章のことです。今日見た36条だけでなく、これまでの回で見た、更新、正当事由、対抗力、借賃の増減額請求権、造作買取請求権も、すべて外れます。外れたあとは、借地借家法の特別扱いが無くなり、民法の賃貸借の規定で扱われます。覚えるのは、一時使用が明らかなら、借家の規定は全部、適用されない、です。境目のペアです。博覧会の会期中だけ使う売店用の建物の賃貸借は、一時使用のために貸したことが明らかです。借家の規定は、適用されません。会期が終われば、法定更新も正当事由もなく、終わります。一方、通常の、1年契約のアパートは、期間が短いだけでは、一時使用のためだと明らかとは言えません。借家の規定が、適用されます。決め手は、一時使用のためだと、明らかかどうかです。全部外れないと、どうなるかを、売店で確かめます。借家の規定が働けば、期間が満了しても、大家の側からは、正当事由がなければ終わらせられません。会期のあいだだけ貸す約束どおりには、終わらなくなります。40条は、一時使用のためだと明らかな賃貸借を、借家の規定の外に置いています。

一時使用の借地(25条)と借家(40条)の対比。借地=一部の規定だけ適用除外(3条〜8条・13条・17条・18条・22条〜24条。14条は適用あり)。借家=章全体が適用除外。

借地にも、一時使用の規定がありました。同じですか?違います。借地の一時使用は、25条です。借地の回で、守るべき大きな投資が無いので、更新や買取請求は要らない、と見ました。それでも外れるのは、一部の規定だけです。借家で同じ場面を定めるのは、40条です。借家の章全体が、外れます。借地は一部、借家は全部、と覚えてください。

冒頭の問いの答え合わせ

冒頭の答え合わせ。大家Aから請求=前妻の子D(相続人)が相続した賃借権を援用して拒める。DからCへの請求=援用は使えない、権利の濫用(1条3項)で拒む。Dもいない(相続人なし)=36条でCが賃借人の権利義務を承継(反対の意思表示は知って1か月以内)。 図:冒頭の答え合わせ

  • 大家Aから請求=前妻の子D(相続人)が相続した賃借権を援用して拒める
  • DからCへの請求=援用は使えない、権利の濫用(1条3項)で拒む
  • Dもいない(相続人なし)=36条でCが賃借人の権利義務を承継(反対の意思表示は知って1か月以内)

冒頭の問いの答えです。内縁の妻Cは、賃借人でも、相続人でもありません。まず、大家のAから出て行けと言われた場合です。Bの賃借権は、前妻の子Dが相続しています。Cは、Dが承継した賃借権を援用して、住み続ける権利を、Aに言えます。次に、前妻の子のDから出て行けと言われた場合です。Dこそ、賃借権を持つ本人ですから、援用は使えません。権利の濫用で、拒みます。Dに、その家を使う差し迫った必要がなく、Cの側に、出ていけない事情があるなら、止められます。そして、もしDのような相続人が1人もいなければ、36条です。CがBの賃借人の権利義務を承継します。承継を望まなければ、相続人なしを知ってから1か月以内に、大家へ反対の意思を表示します。

今日のまとめ。1=相続人でない同居人は、誰から請求されたかで構成が変わる(賃貸人から=援用・相続人から=権利の濫用・相続人がいない=36条の承継)。援用は共同賃借人になるのではない。2=一時使用が明らかなら借家の規定は全部適用なし(借地25条は一部)。 図:今日のまとめ

  • 1=相続人でない同居人は、誰から請求されたかで構成が変わる(賃貸人から=援用・相続人から=権利の濫用・相続人がいない=36条の承継)
  • 援用は共同賃借人になるのではない
  • 2=一時使用が明らかなら借家の規定は全部適用なし(借地25条は一部)

今日の話を整理します。まず、相続人でない同居人は、誰から請求されたかで構成が変わります。大家からなら援用。相続人からなら権利の濫用。相続人がいなければ、36条の承継です。援用は、相続人の賃借権に乗るだけで、同居人が賃借人になるわけではありません。承継は、賃借人の地位そのものを引き継ぎます。次に、一時使用が明らかなら、借家の規定は、全部適用されません。借地の一時使用は、一部だけでした。最後に、借地借家法の全体を、一言で振り返ります。賃借権は債権ですが、対抗要件を備えると、物権に近づきます。備えた賃借人は、占有を妨害する第三者に妨害の停止を、占有している第三者に返還を、直接請求できます。借り手が第三者に邪魔されたときの道として見た、民法605条の4です。借地では、借地権の譲渡や転貸に、地主の承諾の代わりに裁判所の許可を求められます。借地を人に譲る場面で見た、借地借家法19条です。債権の弱さを、法律が少しずつ補っている、というのが、借地と借家の全体の見取り図です。

参照条文

  • 借地借家法36条
  • 借地借家法40条

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