民法ゼロから民法#318

婚姻の成立と婚姻意思・婚姻の無効

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第7章 親族 #318/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

届出だけの婚姻は有効か

冒頭の設例。AとBは、生まれてくる子Cを夫婦の子として届けるためだけに婚姻届を出す。一緒に暮らす気はなく、すぐ離婚する約束。届出は二人の合意で出した。問い=この婚姻は有効か。 図:冒頭の設例

  • AとBは、生まれてくる子Cを夫婦の子として届けるためだけに婚姻届を出す
  • 一緒に暮らす気はなく、すぐ離婚する約束
  • 届出は二人の合意で出した
  • 問い=この婚姻は有効か

届出は、二人の合意で出しています。役所も、受け付けました。それでも、この婚姻は、有効になりません。結論は、無効です。なぜ、合意があるのに無効なのか。この答えを、条文から組み立てるのが、今日の道のりです。届出に合意があれば有効になる、とは限りません。そこが、今日ほどく部分です。婚姻の仕組みは、3つの段でできています。届出で成立する。婚姻意思があって有効になる。取消しの理由がなくて確定する。この3段のうち、どこが欠けたかで、効果の名前が変わります。前回から、第7章の親族に入りました。前回の最後に、家族法には、届出で成立する身分の行為が多い、と言いました。今日は、その代表の婚姻を使って、その中身を回収します。

今日の地図。①婚姻の3段(届出・婚姻意思・取消原因)→②届出(739条)と受理(740条)→③婚姻意思(742条1号)=実質的意思説→④臨終婚と意思の存在時期→⑤742条2号=確認規定→⑥無効な婚姻の追認→⑦成年被後見人の婚姻(738条)→⑧冒頭の問いの答え。軸=どの段が欠けたか。 図:今日の地図

  • ①婚姻の3段(届出・婚姻意思・取消原因)→②届出(739条)と受理(740条)→③婚姻意思(742条1号)=実質的意思説→④臨終婚と意思の存在時期→⑤742条2号=確認規定→⑥無効な婚姻の追認→⑦成年被後見人の婚姻(738条)→⑧冒頭の問いの答え
  • 軸=どの段が欠けたか

今日の道のりです。まず、婚姻の3段の地図。次に、1段目の届出と、役所の受理。次に、2段目の婚姻意思、その中身。次に、臨終の婚姻と、意思がいつ要るのか。次に、無効の条文の2号。次に、無効な婚姻が、あとから有効になる場合。最後に、成年被後見人の婚姻を見て、冒頭の問いに戻ります。貫く軸は1本です。どの段が欠けたのか。届出が欠ければ、不成立。婚姻意思が欠ければ、無効。取消しの理由があれば、取り消せる。この順に当てはめます。

婚姻の3段 成立・有効・確定

婚姻の要件の3段(#7-3・#7-6で再利用する板)。表の列=何が要るか/欠けたとき/条文。1段目=届出(成立要件)/欠ければ不成立(内縁は別の回)/739条。2段目=婚姻意思(有効要件)/欠ければ無効(当然無効・追認で有効になる場合あり)/742条1号。3段目=取消原因が無いこと/あれば取り消せる(取り消すまでは有効)/743条以下(取消しの回)。 図:婚姻の要件の3段

  • #7-3・#7-6で再利用する板
  • 表の列=何が要るか
  • 欠けたとき
  • 条文。1段目=届出(成立要件)
  • 欠ければ不成立(内縁は別の回)
  • 739条。2段目=婚姻意思(有効要件)
  • 欠ければ無効(当然無効・追認で有効になる場合あり)
  • 742条1号。3段目=取消原因が無いこと
  • あれば取り消せる(取り消すまでは有効)
  • 743条以下(取消しの回)。

まず、3段の地図です。1段目は、届出です。届出がなければ、婚姻は、成立しません。成立しない、とは、婚姻が、そもそも存在しない、ということです。2段目は、婚姻意思です。届出が出されて、婚姻は成立しています。でも、当事者に、婚姻をする意思がなければ、その婚姻は、効力を認められません。これが、無効です。3段目は、取消しの理由が、ないことです。たとえば、結婚できる年齢に達していない、といった事情です。届け出も、婚姻意思も、そろっています。でも、理由があれば、あとから取り消せます。取り消されるまでは、婚姻は、有効です。取消しの中身は、別の回で扱います。

窓口の例で整理します。申込書を、窓口に出していなければ、申し込みは、そもそも存在しません。これが、不成立です。出していても、申し込む気が、本人にまったくなかったなら、申し込みは、効力を持ちません。これが、無効です。申し込みが、いったん有効に受け付けられて、後から、問題が見つかったとき、取り消せる、という扱いが、取消しです。無効は、取消しの手続きを要さずに、最初から、効力がありません。取消しは、取り消すまでは、有効です。この違いは、総則の無効と取消しの回で、見たとおりです。今日は、1段目と2段目が中心です。まず、1段目から見ます。

届出 739条

739条(婚姻の届出)。1項=婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。2項=届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又は口頭で。身分行為=婚姻・離婚・縁組・離縁・認知など家族の身分に関わる行為(その多くが届出で成立)。 図:739条

  • 婚姻の届出
  • 1項=婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。2項=届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又は口頭で。身分行為=婚姻・離婚・縁組・離縁・認知など家族の身分に関わる行為(その多くが届出で成立)。

1段目の条文です。739条です。

条文民法739条

民法第739条(婚姻の届出) 婚姻は、戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。 2 前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。

1項、婚姻は、届け出ることによって、効力を生じます。ここでの効力を生じる、は、成立する、という意味です。届出は、成立の要件です。例で見ます。AさんとBさんが、20年間、夫婦として暮らしてきました。近所の人も夫婦だと思っています。でも、婚姻届を、出したことがありません。この二人の間に、法律上の婚姻は、成立していません。暮らした年月が、どれだけ長くても、届出がなければ、婚姻は存在しません。届け出のない夫婦、つまり内縁は、別の回で扱います。2項は、届出の方式です。当事者の双方と、成年の証人2人以上が署名した書面で、または、これらの者からの口頭で、します。前回、家族法には、届出で成立する身分の行為が多い、と言いました。婚姻、離婚、縁組、離縁、認知。成年被後見人の回で見たとおり、こうした、家族の身分に関わる行為を、身分行為と呼びました。財産の取引なら、当事者が合意すれば、契約は成立します。身分行為の多くは、届出が、成立のための、関門になっているのです。

受理と形式的審査 740条

740条(婚姻の届出の受理)。戸籍係は、法令に違反しないことを認めた後でなければ受理できない。窓口が見る=必要な記載がそろっているか/年齢・重婚などの法令違反がないか。窓口が見ない=本人の署名が本人のものか・夫婦になる気持ちが本当にあるか。形式的審査=条文の語ではなく解釈。 図:740条(婚姻の届出の受理)

  • 戸籍係は、法令に違反しないことを認めた後でなければ受理できない。窓口が見る=必要な記載がそろっているか
  • 年齢・重婚などの法令違反がないか。窓口が見ない=本人の署名が本人のものか・夫婦になる気持ちが本当にあるか。形式的審査=条文の語ではなく解釈。

条文民法740条

民法第740条(婚姻の届出の受理) 婚姻の届出は、その婚姻が第七百三十一条、第七百三十二条、第七百三十四条から第七百三十六条まで及び前条第二項の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ、受理することができない。

740条です。役所の戸籍係は、婚姻が、法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ、届出を受理できません。たとえば、年齢の要件を満たしているか、すでに婚姻していないか、といった点です。ここで、1つ注意です。条文には、形式的審査、という言葉は、書かれていません。ただ、窓口の審査は、形式的な範囲、つまり記載事項や必要な書類がそろっているかを確かめる範囲にとどまる、と解釈されています。これを、形式的審査と呼びます。窓口が本心まで確かめようとすれば、届け出のたびに、当事者の内心を調べることになります。それでは、大量の届出を書類の上で処理するという役所の仕事に合いません。窓口の例えで言えば、受付は、記入欄が埋まっているか、必要な署名があるかは、見ます。足りなければ、受理を拒否できます。けれども、その署名が、本当に本人のものか。夫婦になる気持ちが、本当にあるのか。そこまでは、確かめません。

本人の知らないうちに、誰かが勝手に届出を出しても、受理されることがあるのですか。あります。形式が整っていれば、受理されうるのです。そこで、意思が欠けた届出は、受理されても、あとから無効として争う、という仕組みになっています。これが、2段目につながります。もう1つ。形式的な違反があるのに、受理されてしまった婚姻も、受理されれば、婚姻は成立します。違反の中身によっては、取消しの理由になります。これは、取消しの回で見ます。

婚姻意思は有効要件 742条1号

742条(婚姻の無効)。婚姻は、次に掲げる場合に限り、無効とする。1号=人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。2号=当事者が婚姻の届出をしないとき。ただし書=739条2項の方式を欠くだけなら効力は妨げられない。限定列挙・人違いは例示。 図:742条

  • 婚姻の無効
  • 婚姻は、次に掲げる場合に限り、無効とする。1号=人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。2号=当事者が婚姻の届出をしないとき。ただし書=739条2項の方式を欠くだけなら効力は妨げられない。限定列挙・人違いは例示。

2段目です。婚姻の無効の条文、742条です。

条文民法742条

民法第742条(婚姻の無効) 婚姻は、次に掲げる場合に限り、無効とする。  一 人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。  二 当事者が婚姻の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、婚姻は、そのためにその効力を妨げられない。

今日は1号を見ます。当事者間に、婚姻をする意思がないとき、婚姻は無効です。人違いは、その例です。届出は、本人たちのつもりで出した。でも、相手を、別の人と取り違えていた。婚姻をする意思が、そもそもない、と言える場合です。条文の人違いその他の事由、のその他の中に、冒頭の婚姻のような、便法の婚姻、つまり、別の目的を果たすために、婚姻の形だけを借りた婚姻も、入ってくるかどうかが、問題になります。頭の片隅に、もう2つ置いてください。1つは、次に掲げる場合に限り、とあるので、無効になる原因は、ここに並ぶものだけだ、ということ。限定的に列挙されています。もう1つは、無効は、取消しの手続きを要さず、当然に効力がない、ということです。

婚姻意思の中身 実質的意思説

婚姻意思の2つの説。実質的意思説(判例・通説)=婚姻意思とは、社会観念上夫婦と認められる関係を作ろうとする意思/偽装結婚は無効/理由=生活の実態のないところに、法的な夫婦関係を認めるべきでない。形式的意思説(少数説)=婚姻意思とは、届出をする意思/偽装結婚でも有効になってしまう。 図:婚姻意思の2つの説

  • 実質的意思説(判例・通説)=婚姻意思とは、社会観念上夫婦と認められる関係を作ろうとする意思/偽装結婚は無効/理由=生活の実態のないところに、法的な夫婦関係を認めるべきでない
  • 形式的意思説(少数説)=婚姻意思とは、届出をする意思/偽装結婚でも有効になってしまう

婚姻意思とは、何でしょうか。ここで、立ち止まってください。冒頭の設例です。届出は、二人の合意で出しています。それでも無効になるのは、何が欠けているからでしょうか?欠けているのは、届出をする意思とは別の、夫婦になる意思のほうです。ここで、考え方が2つに分かれます。1つめは、婚姻意思とは、届出をする意思で足りる、という考え方です。形式的意思説と呼びます。少数の説です。この説だと、困ることがあります。冒頭の設例のように、届出だけが目的の婚姻も、届出をする意思は、あるので、有効になります。偽装結婚でも、有効です。もう1つは、婚姻意思とは、社会観念上夫婦と認められる関係を作ろうとする意思だ、という考え方です。実質的意思説と呼びます。判例と通説の立場です。理由は、生活の実態をまったく伴わないところに、法的な夫婦関係を認めるべきではない、ということです。

当てはめます。AさんとBさんは、届出を出す点では、合意しています。けれども、夫婦として暮らす気は、ありません。目的は、子に、夫婦の子という地位を得させることだけです。社会観念上、夫婦と認められる関係を作ろうとする意思は、ありません。ですから、婚姻意思を欠き、742条1号により、婚姻は無効です。判例を見ます。

判例最高裁判所判決 昭和44年10月31日(民集23巻10号1894頁)

届出の合意があっても、便法なら無効 民法七四二条一号にいう「当事者間に婚姻をする意思がないとき」とは、当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指し、たとえ婚姻の届出自体については当事者間に意思の合致があつたとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものにすぎないときは、婚姻は効力を生じない。

カードの、仮託、とは、形だけを借りる、という意味です。判決が言っているのは、こうです。子に、夫婦の子という地位を得させる便法として、届出についての意思の合致はあった。けれども、一方に、真に夫婦関係の設定を欲する効果意思はなかった。だから、婚姻は効力を生じない、としました。効果意思とは、ある行為の結果を、法律の上でも、本当に欲する意思、という意味です。婚姻で言えば、夫婦という関係になることを、本気で望む意思です。届出の紙を出す意思とは、別物です。ここで、決め手を整理します。形式的意思説だと、偽装結婚も有効になります。実質的意思説なら、届出の合意だけの婚姻を、無効にできます。ですから、判例は、実質的意思説を採ります。覚え方は、看板ではなく、実体です。届け出という看板ではなく、夫婦関係という実体を作る意思があるかを見る、ということです。離婚の意思については、判例は、婚姻のような実質は求めず、便法の離婚でも有効とする方向です。これは、離婚の回で、婚姻と比べます。今日は、婚姻意思は実質、と覚えてください。ここは、論文で論点になりえます。

臨終婚と意思の存在時期

臨終婚と婚姻意思。意思の中身=夫婦と認められる関係を作る意思(将来の同居の見通しとは別)。例=病床で入籍する長年のパートナー。判例が直接言うこと=届書作成時に婚姻意思があり事実上の夫婦であれば、受理の時に意識を失っていても、受理前に翻意するなどの特段の事情がなければ有効。 図:臨終婚と婚姻意思

  • 意思の中身=夫婦と認められる関係を作る意思(将来の同居の見通しとは別)
  • 例=病床で入籍する長年のパートナー
  • 判例が直接言うこと=届書作成時に婚姻意思があり事実上の夫婦であれば、受理の時に意識を失っていても、受理前に翻意するなどの特段の事情がなければ有効

実質的意思説だと、夫婦として暮らす意思が必要になるのですか。病気で、もうすぐ亡くなる人は、結婚できないことになりませんか。大事な点です。実質的意思説の、社会観念上夫婦と認められる関係を作ろうとする意思、は、今後も一緒に暮らす見込みがあること、とは違います。例で見ます。長年、事実上の夫婦として暮らしてきた二人がいます。一方が重い病で、入院しました。余命は、わずかです。それでも、二人は、これまでの関係を、法律上の婚姻として、きちんと整えたいと考えて、病床で婚姻届を出します。これからの共同生活は、ありえません。けれども、夫婦と認められる関係を作ろうとする意思は、あります。相続権などを確保したい、という動機があっても、それだけで、直ちに無効にはなりません。ここは、言い分けが要ります。判例が直接に判断したのは、意識を失っていた場合の婚姻です。判例は、意識を失っていた事案で、有効と判断しました。その背景に、夫婦と認められる関係を作ろうとする意思がある、という整理があります。将来の共同生活の意思は要らない、という言葉が、判決に書いてあるわけではありません。次は、婚姻意思が、いつ必要なのか、です。739条1項で、婚姻は、届け出ることによって成立します。届出は、役所が受理した時に、効力を生じます。ですから、婚姻が成立するのは受理の時で、婚姻意思も、その受理の時に、存在していなければなりません。以前に意思があっても、受理の時に失っていれば、有効には成立しません。例外は、あとで見ます。

受理される時に、本人に意識がなければ、だめですか。そこは、判例が、あるところまで認めています。判例を見ます。

判例最高裁判所判決 昭和44年4月3日(民集23巻4号709頁)

受理の時に意識を失っていても、有効に成立しうる 事実上の夫婦共同生活関係にある者が、婚姻意思を有し、その意思に基づいて婚姻の届書を作成したときは、届書の受理された当時意識を失つていたとしても、その受理前に翻意したなど特段の事情のないかぎり、右届書の受理により婚姻は有効に成立する。

事案です。重い病気で入院していた人がいて、昏睡状態の間に、婚姻届が役所に持ち込まれて受理されました。受理のとき、本人はすでに意識がなく、同じ日のうちに亡くなっています。原審は、意識がなく、意思能力、つまり、自分の行為の結果を判断できる力が、ない者の届出だから、無効だとしました。最高裁は、この原審の判断を破棄して、審理のやり直しを命じました。理由は、こうです。もし、届書が本人の意思に基づいて作られ、作ったときに婚姻意思があり、その意思を失ったこともなく、事実上の夫婦の生活も続いていたのなら、受理の瞬間に、たまたま意識を失っていたというだけで、無効とするのは、きわめて不合理だからです。ここで、本人の意思と、受理の時点の関係が、浮かびます。時間の順に並べます。

意思の存在時期(時系列)。①届書の作成(婚姻意思あり・事実上の夫婦)→②意識を失う→③受理=有効に成立(特段の事情なし)。③'受理前に翻意=無効。③''届書を出す前に死亡=不成立(成立は受理の時。生前に発送した届書は戸籍法47条で死亡の時に届出があったものとみなす)。昭44・4・3は破棄差戻(有効と確定したわけではない)、昭45・4・21は上告棄却(有効)。 図:意思の存在時期

  • 時系列
  • ①届書の作成(婚姻意思あり・事実上の夫婦)→②意識を失う→③受理=有効に成立(特段の事情なし)。③’受理前に翻意=無効。③”届書を出す前に死亡=不成立(成立は受理の時。生前に発送した届書は戸籍法47条で死亡の時に届出があったものとみなす)。昭44・4・3は破棄差戻(有効と確定したわけではない)、昭45・4・21は上告棄却(有効)。

流れです。まず、届書を作ります。このとき、婚姻意思があり、事実上の夫婦です。その後、意識を失います。そして、受理される。この場合、特段の事情がなければ、婚姻は有効に成立します。特段の事情の例は、受理される前に、翻意した場合です。やはり結婚するのをやめる、と取りやめていたなら、受理の時に意思は、ありません。この場合は、無効です。もう1つ。受理される前に、亡くなった場合です。判決も、届書受理前に死亡した場合とは異なる、と述べています。婚姻が成立するのは、受理の時です。届書を出す前に亡くなったなら、婚姻は、成立していません。ただし例外があります。生きているうちに郵便などで届書を発送していたときは、死亡の後で受理されても、戸籍法47条により、死亡の時に届出があったものとみなされます。

決め手は、意思は、届書を作った時にあって、受理の時まで失われていない、という点です。意識を失ったことは、意思を失ったことと、同じではありません。なお、最高裁は、別の事案でも、同じ考え方を示しています。将来婚姻することを目的に関係を続けてきた者が、届書を作成して、受理のとき意識を失っていた場合です。受理前に翻意するなどの特段の事情がなければ、有効に成立する、としました。ひとつ、確認です。先ほどの判決は、破棄差戻でした。有効と確定したわけではありません。届書が本人の意思に基づいて作られたのか、翻意など特段の事情があったのかを、あらためて、調べさせる判断です。

742条2号 確認規定

742条2号の整理。届出が成立要件(739条)なら、届出をしないとき=婚姻は成立していない(不成立)。2号本文=その確認の意味にとどまる(成立要件説)。実際に新しい中身を持つのはただし書=739条2項の方式(証人2人以上の署名など)を欠くだけの届出でも、受理されれば婚姻の効力は妨げられない。 図:742条2号の整理

  • 届出が成立要件(739条)なら、届出をしないとき=婚姻は成立していない(不成立)
  • 2号本文=その確認の意味にとどまる(成立要件説)
  • 実際に新しい中身を持つのはただし書=739条2項の方式(証人2人以上の署名など)を欠くだけの届出でも、受理されれば婚姻の効力は妨げられない

先ほどの742条に戻ります。2号です。当事者が婚姻の届出をしないとき、は無効です。通説は、届出は成立要件だ、と考えます。そう考えると、届出をしないとき、婚姻は、そもそも成立していません。無効にする、以前の話です。ですから、2号の本文は、すでに分かっていることを、条文にも書いてある、という確認の意味にとどまります。確認規定です。では、2号は、何も新しいことを言っていないのか。新しい中身が全く無いわけではありません。意味を持つのは、ただし書です。届出が、739条2項の方式を欠くだけなら、たとえば、証人が2人そろっていなかったなど、方式の欠けだけなら、受理された婚姻は、そのせいで効力を妨げられません。整理します。届出そのものが無い、は、不成立。届出はあるが、証人の署名などの方式に欠けがあるだけで、受理された、は、有効。届出があって、婚姻意思が無い、は、無効です。

無効な婚姻の追認

無効な婚姻の追認。場面=一方が、他方の意思に基づかず勝手に婚姻届を作成・提出した(意思の欠缺で無効)。ただし届出当時に夫婦としての実質的生活関係があり、後に他方が届出の事実を知って追認すると、婚姻は届出の当初にさかのぼって有効(116条本文の趣旨を類推)。 図:無効な婚姻の追認

  • 場面=一方が、他方の意思に基づかず勝手に婚姻届を作成・提出した(意思の欠缺で無効)
  • ただし届出当時に夫婦としての実質的生活関係があり、後に他方が届出の事実を知って追認すると、婚姻は届出の当初にさかのぼって有効(116条本文の趣旨を類推)

無効な婚姻は、そのままでは、効力がありません。ところが、あとから有効になる場合があります。場面を作ります。事実上の夫婦として、暮らしている二人がいます。Aが、Bに無断で、Bの署名を書いて、婚姻届を出しました。Bの意思に基づかない届け出ですから、Bの婚姻意思が、欠けています。無効です。ここで、立ち止まって、思い出してください。総則で見た、無効な行為は、知って追認すると、どうなるのでしたか?

追認の3種の対比。①総則の無効の追認(119条)=追認しても有効にならない。知って追認すれば、その時から新たな行為(さかのぼらない)。②無権代理の追認(116条)=契約の時にさかのぼって有効(第三者の権利は害せない)。③婚姻の無効の追認(判例)=届出の時にさかのぼって有効=116条本文の趣旨を類推(119条だけでは律しない)。 図:追認の3種の対比

  • ①総則の無効の追認(119条)=追認しても有効にならない
  • 知って追認すれば、その時から新たな行為(さかのぼらない)
  • ②無権代理の追認(116条)=契約の時にさかのぼって有効(第三者の権利は害せない)
  • ③婚姻の無効の追認(判例)=届出の時にさかのぼって有効=116条本文の趣旨を類推(119条だけでは律しない)

条文民法119条

民法第119条(無効な行為の追認) 無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす。

119条は、無効な行為は、追認しても有効にならない、でした。ただ、無効だと知って追認したときは、新たな行為をしたとみなされました。つまり、追認した時から、新しく始まる扱いでした。無効な行為の追認は、さかのぼりません。新しい行為になります。比べて、無権代理の追認はどうでしたか。116条です。

条文民法116条

民法第116条(無権代理行為の追認) 追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

無権代理の追認は、契約の時にさかのぼって有効になります。婚姻の無効の追認は、判例によれば、どちらに近いか。答えは、116条に近い結果です。判例を見ます。

判例最高裁判所判決 昭和47年7月25日(民集26巻6号1263頁)

無効な婚姻の追認 事実上の夫婦の一方が他方の意思に基づかないで婚姻届を作成提出した場合において、当時右両名に夫婦としての実質的生活関係が存在しており、かつ、のちに他方の配偶者が届出の事実を知つてこれを追認したときは、右婚姻は追認によりその届出の当初に遡つて有効となると解すべきである。

要件は2つです。1つは、届出の当時、夫婦としての実質的な生活関係があったこと。もう1つは、のちに、他方が届出の事実を知って、追認したことです。この2つがそろえば、婚姻は、届出の当初にさかのぼって有効になります。この判決が前提にしているのは、届け出の当時、すでに夫婦としての生活の実体があった場面です。生活の実体がなかった二人について、追認でさかのぼって有効になるとまで、述べたわけではありません。

追認に効力を認める理由(昭47・7・25)。①追認で届出の意思の欠けが補われる ②当事者の意思にそい、実質的生活関係を重視する身分関係の本質に合う ③第三者は生活関係と戸籍の記載を見て婚姻を有効と考えて行動するのが通常=害するおそれが乏しい。116条本文の趣旨を類推(119条だけでは律しない)。 図:追認に効力を認める理由

  • 昭47・7・25
  • ①追認で届出の意思の欠けが補われる ②当事者の意思にそい、実質的生活関係を重視する身分関係の本質に合う ③第三者は生活関係と戸籍の記載を見て婚姻を有効と考えて行動するのが通常=害するおそれが乏しい。116条本文の趣旨を類推(119条だけでは律しない)。

判決が挙げる理由は、3つあります。1つめ、追認によって、届出の意思の欠けが、補われるからです。2つめ、追認に効力を認めることは、当事者の意思にそい、実質的な生活関係を重視する、身分関係の本質に合うからです。3つめ、第三者は、生活関係の存在と戸籍の記載を見て、婚姻は有効だと考えて行動するのが通常なので、追認に効力を認めても、第三者の利益を害するおそれが乏しいからです。ここから先は、判決の言葉ではなく、覚えやすくするための整理です。無権代理の追認を例にすると、契約の中身は、そろっていて、欠けていたのは、本人の代理権だけでした。追認が、その欠けた1つを、あとから埋めるので、契約の時にさかのぼります。婚姻も、同じ形です。実質の夫婦生活は、届け出の当時から、もうあります。欠けていたのは、届け出についての意思だけです。追認が、そこを埋めます。届け出という形式が、あとから、実質に追いつく、という関係です。これに対して、119条の、ふつうの無効な行為は、最初から効力が無いと決まっていて、さかのぼって埋める土台がありません。ですから、追認の時に、同じ行為をやり直した、という扱いになります。婚姻は、土台が先にあるので、さかのぼって有効にしても、第三者を害しにくいのです。

判例が使うのは、116条本文の規定の趣旨を類推する、という形です。116条そのものを、適用するのではありません。条文を、そのまま当てはめるのではなく、趣旨を借りる、という意味です。判決は、無効な婚姻の追認について、直接の規定はないが、否定する規定もない、としています。そして、119条の規定だけで、律することはできない、としました。

黙示の追認(昭47・7・25の事案)。追認は方式不要・黙示でよい。事情=無断の届出を知った後も夫婦の生活を継続/税の申告書に妻と記載/共済組合から妻として認定されても異議を述べず、組合員証を妻に医療のため使わせた。 図:黙示の追認(昭47・7・25の事案)

  • 追認は方式不要・黙示でよい。事情=無断の届出を知った後も夫婦の生活を継続
  • 税の申告書に妻と記載
  • 共済組合から妻として認定されても異議を述べず、組合員証を妻に医療のため使わせた。

もう1つ。この追認は、決まった方式を要しません。黙示でもよいとされています。無権代理の回で見たとおり、言葉にしなくても、ふるまいから追認と読み取れればよい、ということです。事案では、無断の届出を知ったあとも、長く生活を続け、税の申告書に妻と記載し、共済組合、つまり医療の給付などを扱う組合から妻として認定されても異議を述べず、その組合員証を妻に医療のため使わせた、などの事情から、黙示の追認が認められました。あわせて覚えます。総則の無効の追認は、新たな行為。無権代理の追認は、契約の時にさかのぼる。婚姻の無効の追認は、届出の時にさかのぼる。この結論の違いは、実質の生活が先にあるかどうか、と整理すると覚えやすくなります。なお、縁組の追認は、縁組の回で見ます。

成年被後見人の婚姻 738条

738条(成年被後見人の婚姻)。成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない。9条の適用除外の1つ。意思能力がなければ婚姻意思を欠き無効(742条1号)。届出は本人がする(戸籍法32条)。令和8年法律第45号で削除予定(未施行・現行法で答える)。 図:738条

  • 成年被後見人の婚姻
  • 成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない。9条の適用除外の1つ。意思能力がなければ婚姻意思を欠き無効(742条1号)。届出は本人がする(戸籍法32条)。令和8年法律第45号で削除予定(未施行・現行法で答える)。

次は、成年被後見人の婚姻です。成年被後見人の回で見たとおり、成年被後見人とは、いつもの状態として判断する力を欠き、家庭裁判所の後見開始の審判を受けた人です。その回の内容を、思い出してください。成年被後見人が、した契約は、9条により、どうなりましたか?

条文民法738条

民法第738条(成年被後見人の婚姻) 成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない。

契約は、取り消せました。ところが、婚姻は、成年後見人の同意が、要りません。738条です。9条の適用除外の1つです。守るはずの後見人の同意が、要らないのは、なぜですか。婚姻のような身分行為は、本人の意思そのものが、大事だからです。後見人が同意するかどうかで、結婚の可否が決まるのは、おかしいのです。同意の仕組みで、本人を包まず、本人の意思に任せます。届け出も、本人が自分でします。戸籍法32条が、そう定めています。ただし、条件があります。意思能力がなければ、婚姻意思を欠き、742条1号により、無効です。同意は要らない。でも、本人に、婚姻をする意思が、必要です。意思能力は、前に見た意思能力の回の話と、つながっています。なお、この738条は、令和8年の法律で、削除されることになっています。成年後見の制度が、見直されるからです。ただ、まだ施行されていません。現行法の738条で、答えてください。新しい制度の中身は、成年後見の回で見ます。

身分行為と条件・期限

身分行為に条件・期限は付けない。例=「来年、転職が決まったら結婚する」「10年たったら婚姻の効力が終わる」のような条件・期限は付けられない。理由=身分関係を宙づりにしない。 図:身分行為に条件・期限は付けない

  • 例=「来年、転職が決まったら結婚する」「10年たったら婚姻の効力が終わる」のような条件・期限は付けられない
  • 理由=身分関係を宙づりにしない

1つ、一言だけです。婚姻などの身分行為には、原則として、条件や期限を付けられません。たとえば、転職が決まったら結婚します、という条件です。届出で成立する行為に、そのような条件を付けると、夫婦かどうかが、宙づりになってしまうからです。総則の、条件と期限の回で見たとおりです。

冒頭の問いの答え

冒頭の問いの答え。AとBは届出の合意をしたが、夫婦と認められる関係を作る意思はなく、子に夫婦の子の地位を得させる便法にすぎない。1段目=届出はある(成立)/2段目=婚姻意思がない→742条1号で無効。 図:冒頭の問いの答え

  • AとBは届出の合意をしたが、夫婦と認められる関係を作る意思はなく、子に夫婦の子の地位を得させる便法にすぎない
  • 1段目=届出はある(成立)/2段目=婚姻意思がない→742条1号で無効

冒頭の問いに戻ります。AさんとBさんは、子に夫婦の子の地位を得させるために、婚姻届を出しました。一緒に暮らす気も、ありません。3段で当てはめます。1段目、届出はあります。婚姻は、成立しています。役所が、意思の中身まで見ないことは、さっき見たとおりです。2段目、婚姻意思です。実質的意思説の規範は、社会観念上夫婦と認められる関係を作ろうとする意思です。二人にあるのは、届出をする意思だけです。婚姻意思は、ありません。ですから、この婚姻は、742条1号により、無効です。判例も、届出の合意があっても、便法にすぎないときは、効力を生じない、としています。

今日の地図(保存版)

まとめ。①3段=届出(成立要件・739条)→婚姻意思(有効要件・742条1号)→取消原因の不存在(取消しの回)②740条=窓口は形式的審査(条文の語ではなく解釈)③婚姻意思=社会観念上夫婦と認められる関係を作ろうとする意思(実質的意思説)④意思は受理の時まで/意識喪失でも特段の事情なければ有効/届書を出す前の死亡は不成立(発送済みは戸籍法47条)⑤742条2号=確認規定・ただし書が中身 ⑥追認=実質的生活関係+追認で届出の当初にさかのぼる(116条本文の趣旨を類推・119条ではない)⑦738条=同意不要・意思能力は必要。 図:まとめ

  • ①3段=届出(成立要件・739条)→婚姻意思(有効要件・742条1号)→取消原因の不存在(取消しの回)②740条=窓口は形式的審査(条文の語ではなく解釈)③婚姻意思=社会観念上夫婦と認められる関係を作ろうとする意思(実質的意思説)④意思は受理の時まで/意識喪失でも特段の事情なければ有効/届書を出す前の死亡は不成立(発送済みは戸籍法47条)⑤742条2号=確認規定・ただし書が中身
  • ⑥追認=実質的生活関係+追認で届出の当初にさかのぼる(116条本文の趣旨を類推・119条ではない)⑦738条=同意不要・意思能力は必要

まとめます。1つめ、婚姻の3段です。届出が欠ければ不成立。婚姻意思が欠ければ無効。取消しの理由があれば、取り消せます。2つめ、届出と受理です。届出は成立要件で、証人は成年2人以上です。窓口は、形式的審査にとどまります。3つめ、婚姻意思です。社会観念上夫婦と認められる関係を作ろうとする意思です。判例と通説は、実質的意思説です。届出の合意だけの便法の婚姻は、無効です。4つめ、意思の存在時期です。婚姻意思は、受理の時まで必要です。届書を作ったとき意思があり、事実上の夫婦であれば、受理の時に意識を失っていても、特段の事情がなければ有効です。窓口に届書を出す前に亡くなれば、成立しません。生きているうちに発送した届書は、例外として戸籍法47条があります。5つめ、742条2号です。成立要件説に立てば、本文は確認で、実際の中身は、ただし書です。6つめ、追認です。実質的な生活関係があり、他方が知って追認すれば、届出の当初にさかのぼって有効です。116条本文の趣旨を類推しています。119条の、新たな行為、とは違います。7つめ、738条です。成年被後見人は、後見人の同意なしに婚姻できます。ただし、意思能力が必要です。貫く軸は、1本でした。どの段が欠けたか。それで、不成立か、無効か、取り消せるかが決まります。

参照条文

  • 民法739条
  • 民法740条
  • 民法742条
  • 民法119条
  • 民法116条
  • 民法738条

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