婚姻の効果・同居義務・夫婦財産契約
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第7章 親族 #320/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
家を出た夫に戻れと命じられるか
図:冒頭の設例
- 夫が家を出て別のアパートで暮らし始めた
- 妻は家庭裁判所に申し立てる
- 問い①=家庭裁判所は「戻れ」と命じられるか。問い②=命じられたとして、夫が従わなかったら何ができるか。
問いを2つに分けます。1つめ。家庭裁判所は、夫に「家に戻れ」と命じることができるか。2つめ。命じられたのに、夫が従わなかったら、何ができるか。まず、予想してみてください。夫婦に同居の義務があることは、そのとおりです。答えを先に言うと、家庭裁判所は、戻れと命じることはできます。でも、無理やり連れ戻すことは、できません。なぜできないのかが、今日の山場です。理由は、同居の義務を見たあとで出します。

前に、婚姻の3段を見ました。届出で成立する。婚姻意思があって有効になる。取消しの理由がなくて確定する。今日は、その先です。確定した婚姻から、何が生まれるのか。順に進みます。最初に、婚姻の効果を、地図にして並べます。次に、夫婦の氏、同居・協力・扶助の義務、貞操義務を見ます。そのあと、不貞をしたときの責任を整理します。最後に、夫婦の財産を、結婚の前に取り決める契約を見ます。
婚姻の効果の地図
図:婚姻の効果の一覧板
- 身分上の効果=夫婦同氏(750条)/同居・協力・扶助(752条)/貞操義務(明文なし)=今日
- 財産上の効果=夫婦財産契約(755条〜759条)=今日/法定財産制=別の回
- その他=姻族関係(親族の回)・嫡出推定(別の回)・配偶者の相続権(相続の章)
- 注記の行=夫婦間の契約取消権(かつてあった・今は無い・のちほど一言)
婚姻が確定すると、効果は3つの系統で生まれます。身分上の効果、財産上の効果、そのほかの効果です。身分上の効果は、夫婦の関係そのものから生まれる効果です。夫婦が同じ氏を称すること。同居し、協力し、扶助する義務。それに、貞操の義務です。ここは全部、今日見ます。財産上の効果は、夫婦の財産の扱いです。夫婦財産制と呼びます。結婚の前に取り決める夫婦財産契約は、今日見ます。取り決めが無いときに働く法定財産制は、別の回で扱います。そのほかの効果は、結婚から波及するものです。夫婦それぞれと、相手の血族との間に、姻族関係が生まれること。子が、結婚している夫婦の子として扱われ、父が推定されること。配偶者が、相続人になること。これらは、それぞれ別の回で扱います。今日は、地図の上に名前だけ置きます。
夫婦間の契約の取消しは、かつては、効果の1つでした。いまは無い規定です。ここは、あとで一言だけ触れます。
夫婦同氏 750条

- 750条=夫婦は婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称する
- 婚姻届に「夫婦が称する氏」を書く
- 離婚すると氏を改めた側は婚姻前の氏に戻る(離婚の回)
- 一方の死亡後、生存配偶者は婚姻前の氏に復することができる(751条1項)
- 憲法判断=大法廷は合憲・制度のあり方は国会で論じられるべき(詳しくは憲法の回)
1つめの身分上の効果は、夫婦の氏です。750条です。
条文民法750条
民法第750条(夫婦の氏) 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
夫婦は、婚姻のときに定めるところに従い、夫又は妻の氏を称します。氏とは、名字のことです。夫の氏にするか、妻の氏にするかは、夫婦の話し合いで決めます。婚姻届には、夫婦が称する氏を書く欄があります。ここが決まっていないと、届出は受理されません。夫婦で別々の名字にすることは、今の民法では、できません。夫婦は、必ず同じ氏を称します。これが、夫婦同氏の原則です。この点は、最高裁の大法廷が判断しています。夫婦同氏を定める750条は、憲法13条、14条1項、24条に違反しない、という判断です。理由を2つだけ挙げます。1つは、夫と妻のどちらの氏にするかを、夫婦の話し合いに委ねていて、条文の上では、男女で扱いを分けていないこと。もう1つは、氏が変わる不利益はあっても、結婚前の氏を、職場などで通称として名乗り続けることまでは禁じておらず、不利益は、ある程度やわらぐこと。こうした事情を総合して、制度が直ちに合理性を欠くとはいえない、とされました。その後の大法廷の決定も、同じ判断を維持しています。そのうえで、夫婦の氏の制度をどうするかは、国会で論じられ、判断されるべき事柄だとされています。詳しい理屈は、憲法の回で扱っています。選択的夫婦別姓にするかどうかは、立法の話です。離婚や死亡のときの氏も、一言だけ。氏を改めた人は、離婚すると、婚姻前の氏に戻ります。届出をすれば、婚姻中の氏を名乗り続けることもできます。これは離婚の回で扱います。夫婦の一方が亡くなったときは、生き残った配偶者は、婚姻前の氏に戻ることもできます。戻らない、という選択もあります。751条1項です。
覚えるのは3点です。婚姻のときに、どちらかの氏を選ぶ。離婚で、氏を改めた人は婚姻前の氏に戻る。憲法判断は、合憲です。
同居・協力・扶助の義務 752条
図:752条の3義務の表(行=同居/協力/扶助、列=中身/例/履行の形)。同居=同じ住まいで共同生活を送る/協力=生活を成り立たせるために力を合わせる(家事・看護・子の養育)/扶助=経済的に支える(婚姻費用の分担で具体化)。正当な理由があれば免れる(合意した別居・単身赴任・暴力からの避難)。
2つめの身分上の効果は、752条の義務です。
条文民法752条
民法第752条(同居、協力及び扶助の義務) 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
夫婦は同居し、互いに協力し、扶助しなければなりません。ここには、義務が3つ入っています。同居、協力、扶助です。3つは別のものです。同居は、同じ住まいで、共同生活を送ることです。協力は、生活を成り立たせるために、力を合わせることです。家事をする。病気の配偶者を看病する。子を育てる。中身は、夫婦ごとの事情で変わります。扶助は、経済的に支えることです。協力と扶助は、似ていますが、向きが違います。協力は、日々の暮らしの中で、力を出し合うことです。扶助は、お金の面で、相手の生活を支えることです。扶助は、生活費という形で現れることが多く、婚姻費用の分担という形で具体化されます。この分担の中身は、別の回で扱います。
正当な理由があれば、義務は免れます。夫婦で話し合って合意した別居。仕事の都合の単身赴任。暴力から逃れるための別居。これらは、正当な理由のある別居です。逆に、気に入らないからと一方的に家を出るのは、正当な理由がありません。
同居は審判で命じられる 家事審判の性質
図:同居の審判の流れ
- 妻の申立て(夫又は妻の住所地の家庭裁判所)→ふつうは調停で話し合い→成立しなければ審判→同居を命ずる(時期・場所・態様を定める/必要なら給付を命ずる)
- 夫婦間の協力扶助に関する処分は、家庭裁判所が審判する事項の一覧(別表第二)に載っている
冒頭の問いに戻ります。1つめの問いは、家庭裁判所は、戻れと命じられるか、でした。答えは、命じられます。手続きを見ます。妻は、家庭裁判所に、同居を求める申立てをします。夫婦のどちらかの住所地の家庭裁判所です。夫婦間の協力扶助に関する処分は、家庭裁判所が審判する事項を並べた一覧、別表第二に載っています。審判する事項というのは、裁判所が、裁判の形で結論を出す事柄のことです。ただ、家族の争いは、ふつう、まず調停で話し合います。調停が成立しなければ、審判に移ります。審判の手続きは、ふつうの裁判と違って、公開の法廷では行いません。
審判では、裁判所は、何を決めるのですか。同居する義務があるかどうかを決める、ということですか。そこが、判例の大事な点です。最高裁の大法廷が、この審判の性質を述べています。見てください。
判例最高裁判所大法廷決定 昭和40年6月30日(民集19巻4号1089頁)
同居の審判は、義務の存否を確定する裁判ではない 家事審判法九条一項乙類は、夫婦の同居その他夫婦間の協力扶助に関する事件を婚姻費用の分担、財産分与、扶養、遺産分割等の事件と共に、審判事項として審判手続により審判の形式を以て裁判すべき旨規定している。……従つて前記の審判は夫婦同居の義務等の実体的権利義務自体を確定する趣旨のものではなく、これら実体的権利義務の存することを前提として、例えば夫婦の同居についていえば、その同居の時期、場所、態様等について具体的内容を定める処分であり、また必要に応じてこれに基づき給付を命ずる処分であると解するのが相当である。……審判確定後は、審判の形成的効力については争いえないところであるが、その前提たる同居義務等自体については公開の法廷における対審及び判決を求める途が閉ざされているわけではない。
読み解きます。ここに出てくる家事審判法は、いまの家事事件手続法に引き継がれています。判旨は2段です。前半は、審判は何を決めるのか。後半は、それでも公開の裁判を受ける道が残るか、です。前半の中心は、審判は、同居の義務があるかないかを確定するものではない、という点です。義務があることを前提にして、いつ、どこで、どんなふうに同居するか、具体的な中身を定める処分で、必要なら、それに基づいて給付、つまりお金や物を渡すことを命じる処分だ、と言います。義務があるかどうかを決めないのなら、夫が「そもそも義務は無い」と争いたいときは、どうなるのですか。そこが後半です。審判が確定すると、審判が定めた同居の中身そのものは、もう争えません。判旨の、形成的効力というのは、このことです。それでも、同居義務そのものについて、公開の法廷で争う道は、閉ざされていません。だから、非公開で行う審判が、裁判を受ける権利や、裁判の公開に反することにはならない、と結論づけています。決め手は、審判が決めるのは具体的な中身で、義務の有無という根っこの争いは、別の訴えで争えるからです。例で並べます。夫婦に同居義務があることは前提で、家の場所を決めるなら、審判の中身です。では、夫が、別居には正当な理由がある、と言ったらどうなるか。審判の中でも、家庭裁判所は、その言い分を、前提として調べます。正当な理由があると見れば、同居は命じません。ただ、その判断は、義務が無いことを確定するものではありません。夫が、義務そのものが無いことを確定させたいなら、別の裁判で争います。
命じられても強制はできない
図:強制の3方法の呼び戻しと同居義務
- 直接強制(物をそのまま動かす)・代替執行(誰がやっても同じ作業を第三者にやらせる)・間接強制(履行するまで金銭を払わせて圧力をかける)
- 414条1項ただし書=債務の性質がこれを許さないときは強制できない
- 同居義務は性質上強制できない(大審院の決定)
- 理由=連れてきても同居の中身は実現しない
2つめの問いです。命じられたのに、夫が従わなかったら、何ができるか。ここで思い出してください。債権総論で、債務の性質が強制を許さない例として、夫婦のある義務を見ました。何でしたか?夫婦の同居義務でした。性質上、強制執行ができない、という古い判例でした。強制の方法は、3つありました。直接強制は、物や財産を、そのまま動かす方法。代替執行は、誰がやっても同じ作業を、第三者にやらせる方法。間接強制は、履行するまで、一定の金額を払わせて、圧力をかける方法です。同居は、このどれにもなじみません。414条1項のただし書の、債務の性質がこれを許さないとき、にあたります。
直接強制も間接強制も、使えません。決め手は、中身が実現しないからです。無理やり連れてきて、同じ家に置いても、夫婦として協力し、信頼して暮らす、という同居の中身は、実現しません。お金で圧力をかけても、同じです。いやいや同じ屋根の下にいる人と、夫婦として暮らしているとは、言えません。喩えます。手をつないで散歩しなさい、と命じられたとします。手錠でつないで歩かせても、それは散歩ではありません。手錠をかけた時点で、命じられた中身は、無くなっています。同居も同じです。強制はできなくても、同居しないことには、別の形で結果が付いてきます。行き先は2つです。1つめ。正当な理由なく同居しないことは、悪意の遺棄にあたりえます。悪意の遺棄は、離婚原因です。770条1項2号です。これは離婚の回で扱います。2つめ。扶助は、同居していなくても続きます。別居中でも、生活費は、婚姻費用の分担として、請求できます。これは財産の回で扱います。冒頭の答えを出します。妻は、家庭裁判所に、同居を求めることができます。ただし、夫に別居の正当な理由があれば、同居は命じられないことがあります。命じられても、強制する手段はありません。その代わり、義務違反は、離婚原因と、生活費の請求に、つながっていきます。大法廷の決定は、強制できるかどうかには触れていません。強制できない根拠は、債務の性質がこれを許さないとき、という414条の入口と、同居の中身が実現しない、という理由です。ここは、論文で論点になりえます。
貞操義務 明文のない義務
図:貞操義務の根拠の並べ方
- 貞操=配偶者以外の人と性的な関係を持たないこと
- 条文に定めは無い
- 根拠として挙げられるもの=①一夫一婦制(重婚の禁止=732条)②不貞な行為が離婚原因とされていること(770条1項1号)③婚姻が人格的な共同生活であるという性質
- 違反の効果=離婚原因/不法行為
3つめの身分上の効果は、貞操義務です。貞操とは、配偶者以外の人と、性的な関係を持たないことです。夫婦は、互いにこの義務を負う、と解されています。貞操の義務は、条文のどこにも書いてありません。明文は無いのです。だから、根拠を説明で補います。挙げられるものは、いくつかあります。1つめは、一夫一婦制です。重婚は、732条で禁じられています。2つめは、配偶者の不貞な行為が、離婚原因とされていることです。770条1項1号です。不貞が離婚の理由になるなら、その裏返しとして、不貞をしない義務がある、と読めます。3つめは、婚姻が、性的な結びつきも含めた、人格的な共同生活だ、という性質です。
貞操義務に違反すると、その結果は、2つの形で現れます。1つめは、離婚原因になること。これは離婚の回です。2つめは、不法行為になることです。709条と710条の、損害賠償と慰謝料の責任です。ここから、2つめの責任を整理します。
不貞の3つの責任と連帯 相手方の責任
図:不貞の関係図
- A=不貞の相手方
- B=不貞をされた他方の配偶者
- C=不貞をしたBの配偶者
- B─Cは夫婦。C→Aの不貞の関係。責任の3本=A→B・C→B・AとCは連帯。
設例を置きます。AさんとBさんとCさん。BさんとCさんは夫婦です。CさんがAさんと、不貞の関係を持ちました。Aさんは、不貞の相手方です。Bさんは、不貞をされた、他方の配偶者です。Cさんは、不貞をした配偶者です。責任は、3本あります。AさんからBさんへ。CさんからBさんへ。そして、AさんとCさんの、2人の関係です。順に見ます。1本目、相手方のAさんの責任です。ここで思い出してください。不貞の相手方は、原則として責任を負いますか。例外は、どんなときでしたか?原則は、責任を負います。例外は、関係を持った当時、すでに婚姻関係が破綻していたときで、特段の事情のない限り、責任を負いません。判決のカードは、すでに不法行為の回で見ましたので、結論だけ呼び戻します。原則は、故意又は過失がある限り、他方の配偶者の、夫又は妻としての権利を侵害するので、責任あり。例外は、すでに婚姻関係が破綻していたとき。不貞が不法行為になるのは、婚姻共同生活の平和の維持、つまり夫婦が穏やかに共同生活を続けられる状態を、侵害するからです。破綻していれば、その守られる利益が、もう無いのです。破綻かどうかは、関係を持った当時で見ます。
なお、別居しているだけでは、破綻とは限りません。単身赴任のように、正当な理由のある別居でも、夫婦の共同生活は続いています。ここは、論文で論点になりえます。
配偶者自身の責任と、2人の連帯
図:配偶者自身の責任と連帯
- C→B=不貞をした配偶者も709条・710条の責任を負う(夫婦間でも、有責行為で離婚をやむなくされた精神的苦痛の賠償を求められる)
- 離婚させたことを理由とする責任=相手方は特段の事情のあるときに限る/配偶者自身は夫婦の間の責任として負いうる
- AとCは719条1項の共同不法行為=各自が全額を連帯して負う(案分できない)
2本目、CさんからBさんへの責任です。不貞をしたCさん自身も、Bさんに対して、不法行為責任を負います。709条と710条です。不貞は、Cさんにとっても、夫婦の間の貞操義務に反する行為だからです。相手方の責任とは、1つ、はっきりした違いがあります。離婚させたことを理由とする責任です。不貞でBさんが受ける苦痛は、大きく2つに分かれます。1つは、不貞をされたこと、そのものの苦痛です。もう1つは、そのせいで夫婦関係が壊れ、離婚に至ったことの苦痛です。後の方を償う責任が、離婚させたことを理由とする責任です。相手方のAさんは、離婚させたことを理由とする責任を、特段の事情のあるときに限って負います。離婚するかどうかは、本来、夫婦の間で決められる事柄だからです。これに対して、Cさんは夫婦の一方です。夫婦の一方は、他方に対し、有責な行為で離婚をやむなくされ、精神的な苦痛を受けたことを理由に、賠償を求めることができます。夫婦の間の責任として、負いうるのです。離婚に伴う慰謝料の中身は、離婚の回で扱います。並べます。不貞の行為そのものの責任は、AさんもCさんも負います。離婚させたことを理由とする責任は、Aさんは特段の事情が必要で、Cさんは夫婦の間の責任として負いうる。ここを取り違えないでください。3本目、AさんとCさんの関係です。ここで思い出してください。共同不法行為で、各自は、どの範囲で責任を負うのでしたか?
各自が、損害の全額について、連帯して責任を負います。寄与の割合で案分して、減らすことはできません。条文を、再掲します。
条文民法719条1項
民法第719条(共同不法行為者の責任) 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
AさんとCさんの不貞は、Bさんを被害者とする、共同不法行為です。ですから、BさんはAさんにも、Cさんにも、損害の全額を請求できます。どちらも、全額です。Bさんが、2人から二重に取ることはできません。連帯ですので、どちらかが払えば、その分だけ、もう一方の債務も小さくなります。この債務は、不真正連帯債務と呼ばれていました。2017年の改正で、連帯債務の側も、免除が他の債務者に及ばない扱いに改められたので、区別の意味は小さくなっています。細かい点は、債権総論の回です。払った人が、もう1人に求められるかは、共同不法行為の効果の回で見た求償の話です。3本を、まとめて覚えます。相手方は、原則責任あり。破綻していれば、特段の事情のない限り責任なし。配偶者自身も、責任あり。2人は共同不法行為で、全額を連帯します。
夫婦間の契約取消権は削除された

ここで、地図の端にあった、夫婦間の契約の取消しです。かつての民法754条は、夫婦の間でした契約は、婚姻中いつでも取り消せる、と定めていました。ただし、第三者の権利は害せない、とされていました。この規定は、令和6年の改正で削除され、2026年4月1日から、いまの民法にはありません。いつでも取り消せるとなると、夫婦の仲が壊れたときに、一度した約束を、一方的に覆す手段になります。判例も、婚姻関係が破綻したあとは取り消せない、と使える場面を絞っていました。夫婦間の契約取消権は、現行法に無い。これだけ押さえます。
夫婦財産契約 755条・756条

- 755条=届出前に別段の契約をしなかったときは法定財産制による
- 756条=法定財産制と異なる契約は婚姻の届出までに登記しないと夫婦の承継人及び第三者に対抗できない(登記が無くても夫婦の間では有効)
- 承継人=権利義務を引き継ぐ人(相続人など)
- 「対抗できない」=その相手に主張できない
最後は、財産上の効果です。夫婦の財産関係の取り決めを、夫婦財産契約といいます。ここで、考えてみてください。婚姻届を出したあとで、夫婦の財産の取り決めを、新しく契約できるでしょうか?届出のあとで契約できるかの答えは、あとで出します。まず、755条です。
条文民法755条
民法第755条(夫婦の財産関係) 夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。
夫婦が、婚姻の届出前に、財産について別段の契約をしなかったときは、財産関係は、次款に定めるところによります。次の款とは、760条以下の、法定財産制のことです。つまり、契約が先で、契約が無いときに、法定財産制が働くのです。届出前に契約すれば、内容は、自由に決められます。例えば、夫の収入は、妻との共有とする。そんな取り決めも、契約で可能です。次は、756条です。
条文民法756条
民法第756条(夫婦財産契約の対抗要件) 夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。
法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までに登記をしなければ、夫婦の承継人と第三者に、対抗できません。承継人とは、権利や義務を引き継ぐ人で、相続人などです。対抗できない、というのは、その相手に対しては主張できない、という意味です。物権変動の回で使った言葉と同じです。登記をしなくても、契約が無効になるわけではありません。登記が無くても、夫婦の間では、契約は有効です。ただ、夫婦の相続人や、取引の相手方といった第三者には、主張できません。例えば、夫の収入で買った物も2人の共有にする、と契約していても、登記が無ければ、夫にお金を貸した人が、その物を夫の財産として差し押さえてきたとき、妻は、半分は自分のものだ、とその人に主張できません。
届出後は変更できない 758条・759条
図:夫婦財産契約の時間軸
- 届出前=契約→届出までに登記→届出→以後は変更できない(758条1項)
- 登記が無い契約=夫婦の間だけ有効(756条)
- 契約なし=法定財産制(別の回)
- 758条2項=管理失当のとき自分で管理することを家庭裁判所に請求/3項=共有財産の分割も請求/759条=その管理者の変更・共有財産の分割も登記が無ければ対抗できない
先ほどの問いの答えです。758条です。
条文民法758条
民法第758条(夫婦の財産関係の変更の制限等) 夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は、変更することができない。 2 夫婦の一方が、他の一方の財産を管理する場合において、管理が失当であったことによってその財産を危うくしたときは、他の一方は、自らその管理をすることを家庭裁判所に請求することができる。 3 共有財産については、前項の請求とともに、その分割を請求することができる。
1項です。夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は、変更できません。ですから、さきの問いの答えは、できません、です。届出のあとに、財産について新しく契約することも、すでにした契約を変えることも、できません。届出のあとに変えられない理由は、一般に2つ挙げられます。1つは、結婚したあとは、夫婦の一方が、もう一方に、自分に有利な変更を押しつけるおそれがあること。もう1つは、夫婦と取引する第三者が、財産の取り決めが途中で変わって、不意打ちを受けないようにすることです。ただし、例外の入口が、2項と3項にあります。夫婦の一方が、他方の財産を管理している場合に、管理が失当で、財産を危うくしたときです。このときは、他方は、自分で管理することを、家庭裁判所に請求できます。共有財産なら、その請求と一緒に、分割も請求できます。759条は、この管理者の変更や、共有財産の分割も、登記をしなければ、承継人と第三者に対抗できない、という定めです。
実際に、夫婦財産契約は、ほとんど使われていません。登記される件数は、ごくわずかです。そのため、契約をしていない夫婦が、ほとんどです。その夫婦には、民法が標準仕様として用意した、法定財産制が適用されます。夫婦別産制や、婚姻費用の分担といった中身は、別の回で扱います。事実上の原則は、法定財産制です。覚えるのは3点です。契約は、婚姻の届出前にする。届出までに登記しないと、承継人と第三者に対抗できない。届出後は、変更できない。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
- ①効果の地図(身分/財産/その他)②夫婦同氏③752条の義務(同居は審判で命じられるが強制はできない)④貞操義務(明文なし)⑤不貞の3つの責任(相手方・配偶者自身・連帯)⑥夫婦間の契約取消権は無い/夫婦財産契約の時間軸
- 答え=審判で同居は命じられる・強制はできない・義務違反は離婚原因と婚姻費用へ
まとめます。1つめ、効果の地図です。婚姻の効果は、身分上、財産上、そのほかの3系統です。そのほかは、姻族関係、嫡出推定、配偶者の相続権で、それぞれ別の回です。2つめ、夫婦の氏です。婚姻のときに、夫又は妻の氏を選びます。夫婦同氏の規定は、憲法に反しない、とされています。3つめ、752条の義務です。同居、協力、扶助は別のものです。同居の審判は、義務の有無を確定せず、いつ、どこで、どのように同居するかを定める処分です。4つめ、貞操義務です。明文はありませんが、一夫一婦制、不貞が離婚原因であること、婚姻の性質から、導かれると解されています。5つめ、不貞の3つの責任です。相手方は、原則として責任を負い、すでに婚姻関係が破綻していたときは、特段の事情のない限り負いません。不貞をした配偶者自身も責任を負います。2人は共同不法行為で、各自が全額を連帯して負います。ここは、論文で論点になりえます。6つめ、夫婦間の契約取消権は、現行法にありません。夫婦財産契約は、届出前に結び、届出までに登記しないと、承継人と第三者に対抗できません。届出後は、変更できません。契約が無ければ、法定財産制です。冒頭の答えです。妻は、家庭裁判所に、同居を求められます。ただし、命じられても、直接強制も間接強制もできません。その代わり、義務違反は、悪意の遺棄として離婚原因になりえ、生活費は、婚姻費用の分担で請求できます。
参照条文
- 民法750条
- 民法752条
- 民法719条1項
- 民法755条
- 民法756条
- 民法758条