夫婦別産制・婚姻費用・日常家事債務
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第7章 親族 #321/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
妻が買った机の代金を夫は払うのか
図:冒頭の設例
- 妻が通販で子どもの学習机を分割払いで購入→支払いが滞る→販売店が夫に請求
- 問い=夫は払わなければならないか
まず、予想してみてください。夫は、妻の買い物の代金を、払う義務があるでしょうか?夫は関係ない、という感覚も、夫婦だから払う、という感覚も、民法の中に入っています。先に答えを言っておくと、机の購入が、日常の家事に入るなら、夫も払います。入らなければ、原則として、払いません。鍵は、夫婦の財産は別々、という原則と、その原則に空いた小さな例外です。前回、婚姻の効果の地図を見ました。そのとき、財産上の効果のうち、結婚の前に取り決める夫婦財産契約は見て、取り決めが無いときの法定財産制は、別の回に回しました。今日は、その回収です。順に進みます。最初に、法定財産制の地図を作ります。次に、財産は誰のものかを決める762条。生活費の分担を決める760条。日常の家事の債務を決める761条。そして、日常の家事を超えた取引に、110条がどう関わるか。最後に、冒頭の机に戻ります。
法定財産制の地図
図:法定財産制の地図。上端の帯=契約が先(755条・前回)/契約が無いとき=ここ。行=762条(財産は誰のものか=別産制)/760条(生活費は誰がどう負担するか=婚姻費用の分担)/761条(日常の家事の債務は誰が負うか=連帯責任)。列=何を決める/中身の一言/別の回で扱うもの。
夫婦の財産の決まりは、2階建てです。1階は、結婚の前に結ぶ夫婦財産契約。前回、見ました。契約をしなかった夫婦には、もう1つの決まりが働きます。ほとんどの夫婦が、契約をしていません。ですから、法定財産制が、事実上の原則です。法定とは、法律が用意した標準仕様、という意味です。契約が無いときに、自動で当てはまる決まりだと思ってください。標準仕様は、3本の柱でできています。1本目は、762条。財産は、誰のものか。2本目は、760条。生活費は、誰がどう負担するか。3本目は、761条。日常の家事の債務は、誰が負うか。この順に読む理由があります。土台は、財産は別々、という762条です。その土台の上に、生活は共同で支える、という760条が乗ります。さらにその上に、日常の取引では相手方を守る、という761条が乗ります。土台を先に押さえないと、761条が、なぜ例外なのか、分からなくなります。
では、土台からいきます。
夫婦別産制 762条
図:762条の板
- 1項=婚姻前から有する財産・婚姻中自己の名で得た財産はその特有財産
- 2項=いずれに属するか明らかでない財産は共有と推定
- 3マス=特有財産(A・Bそれぞれの財布)/共有推定の財産(家財道具など)/名義と実質のずれ→清算は離婚のときの財産分与(別の回)
前回の最後に見た、755条を思い出してください。夫婦が婚姻の届出前に、財産について別段の契約をしなかったとき、財産関係は何によるのでしたか?次款に定めるところ、つまり、法定財産制によります。755条でした。その法定財産制の1本目が、762条です。
条文民法762条
民法第762条(夫婦間における財産の帰属) 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。 2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。
1項です。結婚する前から持っていた財産と、結婚してから自分の名前で手に入れた財産は、その人の特有財産になります。特有財産とは、夫婦の一方が、単独で持っている財産のことです。自分の物は自分の物。これが、夫婦別産制です。例を置きます。夫が結婚前から持っていた預金は、夫の特有財産です。妻が結婚前から乗っていた自転車は、妻の特有財産です。結婚してから、妻が自分の名前で契約して買った家電は、妻の特有財産です。条文の言葉は、自己の名で得た財産、です。決め手は、名義です。夫の給料を貯めて、夫の名義で買った車は、妻が家事を一手に引き受けて夫の仕事を支えていたとしても、夫の特有財産になります。誰の名前で手に入れたか、で決まるのです。
そこで、2項です。夫婦のどちらの物か、明らかでない財産は、共有、つまり2人で持っている物と推定されます。推定とは、反対の証拠が出るまで、そう扱う、という意味です。持ち主の分からない落とし物を、ひとまず2人の物として預かっておく、というイメージです。持ち主の証拠が出れば、その人に戻ります。例えば、食器棚やソファのような家財道具です。買ったのが誰か、お金を出したのが誰か、もう分からない。こういう物は、2人の共有と推定します。共有の持分は、各自が等しいと推定されます。250条です。ただし、妻が、これは結婚前から私が使っていた物だ、と証明できれば、妻の特有財産になります。推定は、覆せるからです。別産制から、2つの結論が出ます。1つは、財産の管理も処分も、各自が自由にできること。夫は、妻の特有財産を、勝手に売れません。もう1つは、一方の債務は、他方に及ばないこと。夫が借金をしても、妻の財産がそれで取られることはありません。この、及ばない、という原則に空いた例外が、あとで見る761条です。
名義は夫でも、夫婦が協力して築いた、という実質があります。この名義と実質のずれは、離婚のときに、財産分与として清算します。768条です。詳しい中身は、別の回で扱います。今日の段階では、結婚している間は名義で決まる、と押さえてください。
婚姻費用の分担 760条
図:婚姻費用の板
- 範囲=夫婦と未成熟子の共同生活を維持する費用(衣食住・子の養育)
- 考慮事情=資産・収入その他一切の事情
- 時間軸の帯=婚姻中(同居)→別居・破綻→離婚
- 離婚までは分担義務が続く
- 算定表=実務の目安(一言)
2本目は、生活費です。財産は別々でも、暮らしは一緒に支えます。760条です。
条文民法760条
民法第760条(婚姻費用の分担) 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
夫婦は、資産、収入、その他一切の事情を考えて、婚姻から生ずる費用を分担します。この婚姻から生ずる費用が、婚姻費用です。実務では、略して婚費と呼びます。夫婦と、夫婦の未成熟子が、共同生活を続けるために、通常必要な費用です。食費、住居費、光熱費、医療費、子の養育費や学費などです。未成熟子とは、経済的に自立していない子のことです。年齢で線を引くのではなく、自立して生活できるかどうかで見ます。分担の割合は、一切の事情で決まります。条文が、資産と収入を、先に挙げています。収入や資産が多い側が、多く負担するのが基本です。同じ割合で割るとは、書いていません。実務では、収入などから目安を出せる、算定表という表が使われています。
夫婦の仲が悪くなって、別居したら、どうなりますか。もう分担しなくていいのでしょうか。そこが、大事な点です。別居して、婚姻関係が破綻していても、離婚しない限り、分担の義務は、原則として免れません。例えば、夫が家を出て、別のアパートで暮らし始めたとします。妻と小学生の子は、元の家にいます。夫は、離婚が成立するまでは、妻と子の生活のために、婚姻費用を分担し続けます。前回、扶助の義務は、婚姻費用の分担という形で具体化される、と言いました。同居していなくても、扶助は続きます。その回収が、ここです。別居中の生活費は、請求できる。理由は、婚姻が続いている間は、共同生活を支える責任が、続いているからです。
離婚すると、夫婦ではなくなります。離婚の後の子の費用は、別の仕組みで扱います。それは別の回です。婚姻費用は、婚姻が続いている間の話です。
日常家事債務の連帯責任 761条
図:761条の板
- 本文=夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為→他の一方も連帯して責任
- 連帯債務の枠組み=436条(全部又は一部の履行を請求できる)/441条(一人に生じた事由は原則他に及ばない)/442条(弁済した者は負担部分に応じ求償)
- ただし書=取引前に第三者へ「責任を負わない」と予告→連帯しない
3本目は、日常の取引です。ここで、別産制の例外が出てきます。761条です。
条文民法761条
民法第761条(日常の家事に関する債務の連帯責任) 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
夫婦の一方が、日常の家事に関して、第三者と法律行為をしたとき。他の一方は、そこから生じた債務について、連帯して責任を負います。第三者とは、取引の相手方のことです。例を置きます。冬に、夫が、灯油の定期配達を、石油店に頼みました。契約したのは夫です。でも、灯油の代金は、妻も、連帯して払う責任を負います。灯油は、家族の暮らしに必要な、日常の家事の取引だからです。ここで、連帯債務の回を思い出してください。連帯債務とは、複数の債務者が、それぞれ、全部を払う義務を負う形でした。その1人に対して、債権者は、何を請求できますか。また、1人に生じた事由は、原則として、他の人に及びますか?
債権者は、連帯債務者の1人に、全部でも一部でも請求できます。436条でした。1人に生じた事由は、原則として他の人には及びません。441条です。761条は、連帯して責任を負う、と書くだけで、その中身のルールを自分では置いていません。そこで、436条以下の、連帯債務のルールに当てはめて読みます。これが通説です。その回で、法令の規定による連帯債務の例として、761条の名前を挙げていました。今日は、その回収です。灯油の例に当てはめます。石油店は、夫にも、妻にも、全額を請求できます。どちらに請求するかは、石油店の自由です。もし妻が全額を払ったら、妻は、夫に、夫の負担部分を求償できます。442条です。負担部分とは、連帯債務者の間で、内部で分担する割合のことです。夫婦の間の、内部の分担で決まります。外向きは全額、内向きは分担。連帯債務の姿と同じです。
趣旨は、取引の相手方を守ることです。石油店から見れば、夫婦が別々の財布を持っているかどうかは、分かりません。家族の暮らしのための買い物なら、家族の財布から払われるだろう、と考えて取引します。その期待を守らないと、夫婦と取引する店が、不安になります。そうなると、夫婦は、日常の買い物をしにくくなります。だから、日常の家事に限って、夫婦の両方が責任を負うのです。夫が、うちは妻の買い物の責任を取らない、と決めていたら、どうなりますか。それが、ただし書です。第三者に対し、責任を負わない旨を予告したときは、連帯しません。予告する相手は、取引の相手方になる第三者です。取引の前に、石油店に、妻の注文には責任を負いません、と伝えておく。そうすれば、夫は連帯しません。取引のあとで伝えても、遅いです。相手方は、すでに、夫の責任を期待して取引してしまっているからです。夫婦の内輪の取り決めだけでは、相手方に対して、効きません。
日常の家事とは何か 判断の基準
図:日常の家事の判断基準
- 定義=個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為
- 範囲は夫婦ごとに異なる(社会的地位・職業・資産・収入・地域の慣習)
- 判断の基準=夫婦の内部事情・行為の個別的な目的のみを重視せず、客観的な行為の種類・性質等も十分に考慮
- 理由=761条は取引の相手方の保護
- 比べる例=子の学習机の分割払い/不動産の売却
ここで、問いです。子の学習机の購入と、土地の売却。同じ夫婦の取引でも、日常の家事に入りやすいのは、どちらでしょうか。分けているのは、何でしょうか?学習机のほうが入りやすい、という方向は合っています。ただ、金額や頻度だけでは足りません。分けるものを、もう少し正確に言います。判例を見ます。
判例最高裁判所第一小法廷判決 昭和44年12月18日(民集23巻12号2476頁)
日常の家事に関する法律行為の意義と範囲 民法七六一条にいう日常の家事に関する法律行為とは、個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指すものであるから、その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異なり、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なるというべきである。
読み解きます。日常の家事とは、その夫婦が共同生活を営むうえで、通常必要な法律行為です。ですから、範囲は、夫婦ごとに違います。社会的地位、職業、資産、収入によって変わります。住んでいる地域の慣習によっても変わります。例えば、収入の少ない夫婦にとって、高級な家具一式は、通常必要とは言えません。一方、ある夫婦にとっては、家族の人数に合わせて、大きな冷蔵庫を買い替えることは、通常必要な支出です。同じ物でも、夫婦によって、入るか入らないかが変わります。では、入るか入らないかを、どう判断するのか。この判決は、単に、夫婦の共同生活の内部的な事情や、行為の個別的な目的だけを重視するのではなく、さらに客観的に、行為の種類や性質も十分に考慮して判断すべきだとしています。
夫婦の事情を見ない、という意味ではありません。内輪の事情だけで決めない、ということです。決め手は、761条の趣旨です。761条は、夫婦の一方と取引をする、相手方を守る規定です。相手方には、夫婦の内側の事情は見えません。夫婦が、この買い物はやめようと話し合っていたかどうかは、店には、分かりません。見えるのは、行為の種類や性質といった、外から分かる部分です。だから、そこを重く見るのです。この点は、前に、日常家事代理の回で見たものと、同じです。分けているのは、金額や頻度だけではありません。その夫婦の暮らしに照らして、外から見て、生活のための取引と言えるか、です。学習机の購入は、子の養育や教育のための買い物ですから、生活のための取引に見えやすいです。土地の売却は、金額が大きく、生活費のやりくりとは、性質が違います。外から見ても、生活のための取引とは言いにくいのです。
日常家事代理権と、越権行為 三段の板
図:日常家事代理権の板
次は、代理の話です。761条は、条文の上では、連帯責任の規定です。代理権の規定ではありません。判例は、761条を、もう一歩進めて読みます。連帯責任が生じる前提として、夫婦は、お互いに、日常の家事に関する法律行為について、他方を代理する権限を持っている、と解しています。夫婦が互いに代理できないと、買い物のたびに、一方がその場にいなければならず、暮らしが成り立たないからです。この代理権は、法律が与える代理権、法定代理権です。もう1つ、通説の整理があります。ふつうの代理では、本人のためにすると示す、顕名が要り、効果は本人にだけ生じます。この代理権は、違います。顕名が要らず、効果は、代理した夫婦の一方自身にも生じる、と整理されています。761条で、夫婦の両方が責任を負うのと、つながります。ここで、110条の基本代理権の回で見た、110条を思い出してください。110条で、相手方が信じるのは、何でしたか?
代理権があること、です。110条は、代理人が、与えられた代理権の範囲を超えて取引しても、相手方が代理権があると信じ、そう信じる正当な理由があれば、本人が責任を負う、という規定でした。そのとき足場になる、実際に与えられていた代理権を、基本代理権と呼びました。
図:三段の板
- ①762条=財産は別々(夫婦の財産的独立)→②761条=日常の家事の範囲内なら連帯責任・代理権→③範囲外=110条の直接適用は×(①を守る)/相手方が「日常の家事の範囲内」と信ずるにつき正当の理由があるときに限り110条の趣旨を類推○(相手方の取引の安全)
- 信じる対象=「この行為は日常の家事の範囲内」
では、日常家事の代理権の範囲を超えて、夫婦の一方が、他方の名で、第三者と取引をしたらどうなるか。ここで、三段の板です。1段目。762条。財産は、夫婦で別々です。2段目。761条。日常の家事の範囲内なら、他方も責任を負い、代理権もあります。3段目。範囲を超えたとき。1つの設例で通します。夫が、妻の名前で、高額な美術品を購入する契約を結びました。妻は、夫に、何の代理権も与えていません。日常の家事の範囲を超えています。この契約の相手方は、妻に、代金を請求できるでしょうか。761条の代理権は、法定代理権です。そうすると、110条の基本代理権の回で見た、法定代理権も110条の基本代理権に入る、という判例の筋で、この代理権を足場にして、110条を使えそうに見えます。でも、判例は、110条の直接適用を認めません。
110条を直接使わない理由は、1段目に戻ります。広く110条を認めてしまうと、夫が日常の家事を超えたことをしても、相手方が信じただけで、妻の財産が動いてしまいます。それでは、762条の、夫婦の財産的独立が、崩れます。ですから、直接適用はしません。ただし、まったく守らないわけではありません。相手方が、その行為は、この夫婦の日常の家事の範囲内だと信じた。信じるのに、正当な理由があった。このときに限り、110条の趣旨を類推適用して、相手方を守ります。類推とは、条文そのものではなく、趣旨だけを借りる、という意味です。
図:対比板
- 普通の110条 ↔ 日常の家事の越権
- 足場=基本代理権 ↔ 761条の代理権(直接の足場にしない)/信じる対象=代理権がある ↔ この行為はこの夫婦の日常の家事の範囲内/正当な理由+110条を適用 ↔ 正当な理由があるときに限り110条の趣旨を類推/代理権を過失なく信じただけ=足りる ↔ 足りない
信じる対象が、入れ替わっています。普通の110条では、代理権があると信じます。ここでは、この行為は、日常の家事の範囲内だ、と信じるのです。過失なく信じることが要るのは、どちらも同じです。ですから、代理権があると、過失なく信じただけでは、足りません。美術品の設例では、どうでしょう。高額な美術品の購入が、その夫婦の日常の家事の範囲内だと信じる正当な理由は、通常は、認められにくいです。高額で、生活のための取引とは言いにくいからです。ですから、この類推が認められる場面は、限られます。もう1つ、判決の限定句があります。夫婦の一方が、他の一方に対して、その他の何らかの代理権を授与していない以上、という条件です。もし、日常の家事以外の代理権が与えられていたなら、その代理権を足場に、110条の通常の適用の余地が出てくる、と読まれています。何の代理権も与えていない場合に、類推という形になります。判決の事案も、骨格だけ見ておきます。夫婦の一方が、他方の特有財産である土地と建物を、売却しました。目的は、買った相手方が主宰する会社が、売った側の主宰する会社に対して持っていた債権を、回収するためで、他方は、何の代理権も与えていませんでした。判決は、日常の家事とは言えず、相手方に範囲内と信じる正当な理由も無い、として、相手方の請求を認めませんでした。
図:三段の板
- ①762条=財産は別々(夫婦の財産的独立)→②761条=日常の家事の範囲内なら連帯責任・代理権→③範囲外=110条の直接適用は×(①を守る)/相手方が「日常の家事の範囲内」と信ずるにつき正当の理由があるときに限り110条の趣旨を類推○(相手方の取引の安全)
- 信じる対象=「この行為は日常の家事の範囲内」
三段を、一本の筋にします。財産は別々。日常の家事の範囲なら、例外として責任が及ぶ。範囲を超えたら、別産制を守るために、110条の直接適用はしない。信じた相手方に正当な理由があるときだけ、趣旨を類推する。ここは、論文で論点になりえます。
冒頭の答え 机の設例への当てはめ
図:机の設例の当てはめ
- 関係図(A=夫・B=妻・C=販売店)
- B→C=購入(分割払い)/C→A=請求/A→B=内部の負担(求償)
- 範囲内=連帯/予告があれば免責/範囲外=夫は原則責任なし(妻の自己の債務)
- 夫の名で契約した越権=三段の板へ
冒頭の問いに戻ります。妻が、自分の名で、子どもの学習机を分割払いで買いました。支払いが滞り、販売店が、夫に請求してきました。夫は、払うのでしょうか。手順は2つです。1つめ。この机の購入は、日常の家事に入るか。2つめ。入るなら、ただし書の予告はあるか。1つめ。子の学習机は、子の養育や教育に必要な物です。通常は、日常の家事に入りえます。では、分割払いや、金額はどうか。これも、行為の種類や性質の一部です。机1つの分割払いなら、家計の範囲に収まりやすく、範囲内になりやすいです。一方、高額な家具一式を買う契約や、夫婦の収入や資産に比べて、著しく大きな契約は、範囲外に傾きます。夫婦ごとに、収入も資産も違いますから、一律の金額では決まりません。
夫婦の内側だけの取り決めは、販売店には、見えません。見える部分で、生活のための取引と言えるなら、範囲内になりえます。内輪の事情だけで、範囲外とは決まりません。範囲内なら、761条本文のとおり、夫は連帯して責任を負います。販売店は、夫に全額を請求できます。436条です。夫が払ったら、夫は、妻に、妻の負担部分を求償できます。442条です。2つめ。夫が、あらかじめ販売店に、妻の買い物には責任を負わない、と予告していたら、ただし書で、連帯しません。取引の前の予告が必要です。範囲外なら、761条の連帯責任は及びません。妻が、自分の名前で結んだ契約ですから、妻自身の債務です。夫は、原則として、責任を負いません。ここで注意してください。110条の趣旨の類推は、さきほどの美術品の設例のように、夫婦の一方が、他方の名前で取引をした、代理の形の越権行為について、判例が立てた枠組みです。机の設例のように、妻が自分の名前で契約した場面は、まず761条の範囲内か外かで決まります。冒頭の答えです。机の購入が、日常の家事の範囲内なら、夫も連帯して全額を払う義務を負います。予告があれば、連帯しません。範囲外なら、原則として、夫は責任を負いません。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
まとめます。1つめ、法定財産制です。契約が無い夫婦には、法定財産制が働きます。財産の帰属が762条、生活費が760条、日常の取引が761条です。2つめ、夫婦別産制です。結婚前の財産と、自己の名で得た財産は、特有財産です。誰のものか明らかでない財産は、共有と推定され、持分は等しいと推定されます。名義と実質のずれは、離婚のときの財産分与で清算します。3つめ、婚姻費用です。夫婦と未成熟子の共同生活を維持する費用を、資産や収入などの事情を考えて分担します。別居や破綻があっても、離婚しない限り、原則として続きます。4つめ、761条です。日常の家事の債務は、夫婦が連帯して負います。取引の前に、第三者へ責任を負わないと予告すれば、連帯しません。日常の家事かどうかは、夫婦の資産や収入に照らし、内部の事情だけでなく、行為の種類や性質も十分に考慮して判断します。理由は、761条が、取引の相手方を守る規定だからです。5つめ、三段の板です。財産は別々。日常の家事の範囲なら、連帯して責任を負う。範囲を超えたら、110条の直接適用はせず、相手方が範囲内と信じる正当な理由のあるときに限り、110条の趣旨を類推します。ここは、論文で論点になりえます。冒頭の答えです。妻が買った机が、日常の家事の範囲内なら、夫も連帯して責任を負います。予告があれば、連帯しません。範囲外なら、原則として責任を負いません。これで、婚姻の成立、取消し、効果、財産と、婚姻の流れが、ひととおりつながりました。
参照条文
- 民法762条
- 民法760条
- 民法761条