民法ゼロから民法#322

協議離婚と離婚意思・調停離婚・審判離婚

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第7章 親族 #322/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

同居したまま離婚届だけを出した夫婦

冒頭の設例。A(夫)とB(妻)=同居を続けるつもり/生活保護を受けやすくなると考えて離婚届だけを役所に提出/問い=この離婚は有効か(生活保護を実際に受けられるかは別の問題)。 図:冒頭の設例

まず、予想してみてください。この二人は、別れるつもりがないまま、届出だけを出しています。この離婚は、有効でしょうか?暮らしが変わらないなら無効、二人で届け出たのだから有効。その両方の見方が、民法の議論の中に入っています。先に答えを言います。この離婚は、有効です。ただし、いつでも有効になるわけではありません。届出を出すこと自体に意思が無ければ、無効になります。その分かれ目が、今日の中心です。なお、ここで問うのは、離婚が有効かどうかだけです。生活保護が実際に受けられるかどうかは、別の問題です。婚姻では、形を借りた届出は無効、離婚では有効。この食い違いが、今日の2つめの問いです。婚姻はなぜ実質を求められ、離婚はなぜ求められないのか。筋だけ先に言うと、婚姻は、夫婦という実体のある関係を法が認める制度で、離婚は、法律上の結びつきを解く行為だから、と説明されます。順に見ていきます。

離婚の4種類 合意・届出・誰が決めるか

離婚の4種類の比較表。行=協議離婚(763条)/調停離婚(家事事件手続法244条・268条)/審判離婚(同法284条)/裁判離婚(770条)。列=合意が要るか/届出が成立のために要るか/誰が決めるか/成立の時点。協議=要・要(届出で成立)・夫婦自身・届出の時。調停=要・不要(以後の届出は報告)・夫婦の合意(調停委員会が間に入る)・調書に記載された時。審判=不要・不要・家庭裁判所が職権で・確定の時。裁判=判決の場合は不要・不要・裁判所(離婚原因が要る)・判決の確定の時。小注=訴訟の中の和解・請求の認諾で離婚する形もある(人事訴訟法37条)。報告の届出=調停の成立・審判の確定・判決の確定から10日以内(戸籍法77条・63条の準用・運用)。 図:離婚の4種類の比較表。行=協議離婚(763条)/調停離婚(家事事件手続法244条・268条)/審判離婚(同法284条)/裁判離婚(770条)。列=合意が要るか/届出が成立のために要るか/誰が決めるか/成立の時点。協議=要・要(届出で成立)・夫婦自身・届出の時。調停=要・不要(以後の届出は報告)・夫婦の合意(調停委員会が間に入る)・調書に記載された時。審判=不要・不要・家庭裁判所が職権で・確定の時。裁判=判決の場合は不要・不要・裁判所(離婚原因が要る)・判決の確定の時。小注=訴訟の中の和解・請求の認諾で離婚する形もある(人事訴訟法37条)。報告の届出=調停の成立・審判の確定・判決の確定から10日以内(戸籍法77条・63条の準用・運用)。

最初に、離婚の地図を作ります。婚姻が終わる原因は、離婚のほかに、夫婦の一方の死亡と、婚姻の取消しがあります。中心になるのは離婚です。離婚には4種類あります。協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚です。4つを、3つの問いで見分けます。1つめ、当事者の合意が要るか。2つめ、届出が成立のために要るか。3つめ、誰が決めるか。協議離婚は、763条です。夫婦が話し合って合意し、役所に届け出て成立します。決めるのは、夫婦自身です。調停離婚は、家事事件手続法に定めがあります。家庭裁判所で、調停委員会が間に入って話し合い、合意が成立して、それが調書、つまり調停の内容を記録した書面に記載されたときに成立します。届出は、成立のためには要りません。審判離婚も、家事事件手続法に定めがあります。調停で合意ができなくても、家庭裁判所が、職権で、つまり当事者の申立てを待たずに裁判所の判断で、離婚を定める審判をすることがあります。当事者の合意は要りません。審判が確定したときに成立します。裁判離婚は、770条です。裁判所が離婚を認める判決をして、その判決が確定したときに成立します。合意は要りません。離婚の原因が必要になりますが、これは別の回で扱います。なお、訴訟の中で、和解や、請求の認諾、つまり訴えられた側が離婚の請求をそのまま認めることによって、離婚する形もあります。今日は、判決の場合だけ見ます。

調停や裁判で離婚が決まったあとも、役所に届出は出します。ただし、意味が違います。協議離婚の届出は、これが無ければ離婚が成立しない、成立のための届出です。調停や裁判のあとの届出は、すでに成立した離婚を、役所に知らせる報告の届出です。契約書の提出と、完了の報告の違いです。

今日の地図。協議離婚の届出(成立要件)→届出があっても離婚意思が無ければ無効→その意思は届出の時に要る→意思の中身(冒頭の答え)→婚姻意思との違い→詐欺・強迫による取消し→調停離婚と審判離婚。軸=この離婚は、どの時点で決まったのか。 図:今日の地図

  • 協議離婚の届出(成立要件)→届出があっても離婚意思が無ければ無効→その意思は届出の時に要る→意思の中身(冒頭の答え)→婚姻意思との違い→詐欺・強迫による取消し→調停離婚と審判離婚
  • 軸=この離婚は、どの時点で決まったのか

今日の道のりです。まず、協議離婚が、届出で成立すること。次に、届出があっても、離婚の意思が無ければ無効になること。その意思は、届出の時に要ること。その意思の中身が、冒頭の答えを決めます。そのあと、婚姻の意思との違いを見ます。さらに、詐欺や強迫による取消し。最後に、調停離婚と審判離婚です。貫く軸は、1本です。この離婚は、どの時点で決まったのか。協議離婚は届出の時、調停離婚は調書に記載された時、審判離婚は確定した時です。

協議離婚の成立 届出

協議離婚の条文。763条=夫婦は協議で離婚できる。764条=準用先は738条・739条・747条。準用されない条文=742条(婚姻の無効)・748条(取消しの効力)。脚注=738条は令和8年の法律で削除予定(未施行)/765条2項=離婚の届出が法令に違反して受理されても離婚の効力は妨げられない。 図:協議離婚の条文

  • 763条=夫婦は協議で離婚できる
  • 764条=準用先は738条・739条・747条
  • 準用されない条文=742条(婚姻の無効)・748条(取消しの効力)
  • 脚注=738条は令和8年の法律で削除予定(未施行)/765条2項=離婚の届出が法令に違反して受理されても離婚の効力は妨げられない

協議離婚の条文から見ます。763条です。

条文民法763条

民法第763条(協議上の離婚) 夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。

夫婦は、協議で離婚ができます。協議とは、話し合って合意することです。ただし、合意しただけでは、離婚は成立しません。成立の要件は、届出です。それを定めるのが、764条です。

条文民法764条

民法第764条(婚姻の規定の準用) 第七百三十八条、第七百三十九条及び第七百四十七条の規定は、協議上の離婚について準用する。

準用とは、別の場面の条文を借りて、読み替えて使うことです。ここでは、婚姻の条文を、離婚の場面に借ります。借りるのは、3か条です。1つめは、738条です。成年被後見人の婚姻には、成年後見人の同意が要らない、という条文でした。離婚でも同じで、成年被後見人が協議離婚をするのに、成年後見人の同意は要りません。この738条は、令和8年の法律で削除されることになっていますが、まだ施行されていません。現行法で答えてください。2つめは、739条、届出の条文です。3つめは、747条、詐欺や強迫による取消しの条文で、あとで見ます。借りていない条文も、大事です。婚姻の無効を定める742条は、借りていません。婚姻の取消しの効力を将来だけに限る748条も、借りていません。この2つは、今日の後半で効いてきます。

条文民法739条

民法第739条(婚姻の届出) 婚姻は、戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。 2 前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。

婚姻の回で見た条文です。離婚の場面では、婚姻を離婚と読み替えます。協議上の離婚は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生じます。届出は、成立の要件です。条文どおりの要件で、覚えるのではなく、条文から復元できます。方式も同じで、当事者の双方と、成年の証人2人以上が署名した書面か、口頭です。例を置きます。AさんとBさんが、話し合って、離婚に合意しました。けれども、離婚届を出さないまま、別々に暮らして10年たちました。この二人は、法律の上では、夫婦のままです。合意があっても、届出がなければ、離婚は成立していません。

役所が確かめるのは、婚姻と同じで、記載事項や必要な書類がそろっているかという範囲です。二人の気持ちまでは確かめません。もう1つ、765条2項があります。離婚の届出が、法令の規定に違反して受理されても、離婚は、そのために効力を妨げられません。子がいる夫婦の届出の要件は、別の回で扱います。

離婚意思は有効要件

離婚の3段(婚姻の3段の板を離婚に当てはめる)。1段目=届出(成立要件・739条1項・条文どおり)→欠ければ不成立/2段目=離婚意思(有効要件・条文に明文なし=742条は準用されない)→欠ければ無効/3段目=取消原因が無いこと(詐欺・強迫・747条)→あれば取り消せる 図:離婚の3段

  • 婚姻の3段の板を離婚に当てはめる
  • 1段目=届出(成立要件・739条1項・条文どおり)→欠ければ不成立
  • 2段目=離婚意思(有効要件・条文に明文なし=742条は準用されない)→欠ければ無効
  • 3段目=取消原因が無いこと(詐欺・強迫・747条)→あれば取り消せる

婚姻の回の3段の板を、離婚に当てはめて進みます。1段目の届出は、前の節で見ました。ここから2段目です。届出が出されても、当事者に離婚の意思が無ければ、協議離婚は無効です。ここで、764条をもう一度見てください。婚姻の無効を定める742条は、借りていません。つまり、離婚意思が有効要件だと書いた条文は、ありません。解釈で導いているのです。趣旨で考えます。763条は、夫婦が協議で離婚できる、と言っています。協議は、当事者の意思の合致です。意思がまったく無いのに離婚が成立するなら、協議という前提が崩れます。離婚するかどうかは、本人が決めることだからです。例です。夫のAさんが、妻のBさんに無断で離婚届を書いて、役所に出しました。窓口は書類の形を見るので、受理されることがあります。でも、Bさんには、離婚の意思が無いので、この離婚は無効です。婚姻の取消しの回で、無断の離婚届が、重婚の生じる道筋として出てきた場面です。無効なので、取消しの手続きは要りません。最初から効力がありません。争うときは、離婚の無効を確認する訴えを起こします。3段で並べ直します。1段目は届出で、成立の要件です。2段目は離婚意思で、有効の要件です。2つは、欠けたときの姿が違います。届出が欠けると、離婚は、そもそも成立していません。戸籍も、夫婦のままです。離婚意思が欠けると、届出は受理されて、戸籍には離婚と書かれ、形はできています。でも、中身の意思が無いので、効力がありません。形はあるのに、効力が無い。これが、無効です。3段目は、取消しの原因が無いこと。離婚の場合の原因は、詐欺と強迫です。あとで見ます。

次の問題は、この離婚意思が、いつ、何について要るのか、です。まず、いつ、から見ます。

届出の時に気が変わったら

届出の時の翻意の時系列。届書を作成→届出をAに委ねる→前日=Bが市役所の係員に「離婚届が出されるかもしれないが承諾していない。受理しないでほしい」と申し出る→当日=Aが届出を提出→届出の時にBに離婚の意思が無いことが明確→協議離婚は無効。対比=BからAへの通知・委託の解除は要らない。 図:届出の時の翻意の時系列

  • 届書を作成→届出をAに委ねる→前日=Bが市役所の係員に「離婚届が出されるかもしれないが承諾していない。受理しないでほしい」と申し出る→当日=Aが届出を提出→届出の時にBに離婚の意思が無いことが明確→協議離婚は無効
  • 対比=BからAへの通知・委託の解除は要らない

問いです。AさんとBさんが、離婚届書を作りました。届出は、Aさんに預けました。ところが、Bさんは、届出が出される前の日までに、気が変わりました。Bさんは、市役所の係員に、離婚届が出されるかもしれないが、承諾していないので、受理しないでほしい、と頼みました。翌日、Aさんは、預かった届出を出し、受理されました。この離婚は、有効でしょうか?Bさんは、役所にはっきり反対を伝えていますから、無効になってほしいです。でも、Aさんには何も伝えていません。Aさんは、頼まれたとおりに出しただけです。それでも、無効になるのでしょうか。そこが、争点です。判決を見ます。

判例最高裁判所第二小法廷判決 昭和34年8月7日(民集13巻10号1251頁)

届出の時に離婚の意思がなければ無効 そうであるとすれば上告人から届出がなされた当時には被上告人に離婚の意思がなかつたものであるところ、協議離婚の届出は協議離婚意思の表示とみるべきであるから、本件の如くその届出の当時離婚の意思を有せざることが明確になつた以上、右届出による協議離婚は無効であるといわなければならない。そして、かならずしも所論の如く右翻意が相手方に表示されること、または、届出委託を解除する等の事実がなかつたからといつて、右協議離婚届出が無効でないとはいいえない。

読み解きます。判決の中の上告人は、届出を出した側、被上告人は、気が変わった側です。ここでは、Aさんが出した側、Bさんが気が変わった側として話します。判決の筋道は、3つです。1つめ、協議離婚の届出は、離婚の意思の表示だということ。2つめ、届出が出された時に、離婚の意思が無いことが明確なら、その届出による離婚は無効だということ。3つめ、気が変わったことが相手に伝えられていなくても、届出の委託を解除していなくても、無効でないとは言えない、ということです。決め手は、1つめです。届出が離婚の意思の表示なら、表示がされた時に、中身の意思が無ければ、表示は空っぽです。だから、届出の時に意思があるかどうかを見ます。相手に知らせたかどうかは、結論を動かしません。婚姻の回で見た、受理の前に翻意した場合と、同じ考え方です。婚姻でも、受理の時に意思が無ければ、無効でした。

判決の事案では、係員への申出が、離婚の意思が無いことを明確にする材料でした。そして、条件は、届出の時に、離婚の意思が無いことが明確、です。気が変わったかもしれない、という程度で、無効になるわけではありません。逆に、Bさんが、離婚の意思を持ったままで届出が出されたなら、有効です。2つ、補足です。1つめ。離婚の意思を欠く届出で、無効になった協議離婚も、あとから追認できます。判例にも、追認があったと認めた例があります。例えば、その後に、調停で、その離婚を前提にした慰謝料の支払いを合意していた、といった場合です。離婚があったことを前提に、慰謝料を決めたのですから、その離婚を認めた、と見られるのです。判決の言葉ではありませんが、婚姻の回で見た無効な婚姻の追認と同じく、欠けていた本人の意思が、追認で、あとから補われる、と整理できます。2つめ。この事案で、Bさんが係員に頼んだことの、いまの姿が、不受理申出です。離婚届を受理しないでほしいと、役所に先に申し出ておく制度が、戸籍法に置かれています。

離婚意思の中身 冒頭の答え

離婚意思の分かれ道。左=届出を出すこと自体への意思が無い(無断で出された/届出の時に翻意が明確)→無効。右=届出を出すことには合意したが目的が別(生活扶助を受けるための方便)→有効。下の3段=判決の言葉(法律上の婚姻関係を解消する意思の合致)/整理の名前(形式的意思説=離婚の届出に向けられた意思で足りる・判例・通説)/少数説(実質的意思説=共同生活を解消する意思まで要る)。 図:離婚意思の分かれ道

  • 左=届出を出すこと自体への意思が無い(無断で出された/届出の時に翻意が明確)→無効
  • 右=届出を出すことには合意したが目的が別(生活扶助を受けるための方便)→有効
  • 下の3段=判決の言葉(法律上の婚姻関係を解消する意思の合致)/整理の名前(形式的意思説=離婚の届出に向けられた意思で足りる・判例・通説)/少数説(実質的意思説=共同生活を解消する意思まで要る)

離婚意思が、届出の時に要る、と分かりました。では、その意思の中身は何か。冒頭の設例に戻ります。判決を見ます。

判例最高裁判所第二小法廷判決 昭和57年3月26日(集民135号449頁)

方便としてされた協議離婚 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件離婚の届出が、法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたものであつて、本件離婚を無効とすることはできないとした原審の判断は、その説示に徴し、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。

読み解きます。この判決が扱った事案は、夫婦が、事実上の婚姻関係を続けながら、生活扶助を受けるための方便として、協議離婚の届出をしたものです。方便とは、ある目的を果たすための手段、という意味です。冒頭の設例は、この事案の骨格を借りています。判決は、離婚の届出が、法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてされたものなら、その離婚を無効とすることはできない、と言っています。法律上の婚姻関係を解消するとは、法律の上で夫婦でなくなる、ということです。同居をやめる意思とは、言っていません。判決の言葉と、学説が整理した言い方は、分けて覚えてください。届出に向けられた意思で足りる、というのは、この結論を、学説が整理した言い方で、判決の言葉ではありません。この整理を、形式的意思説と呼びます。判例・通説の整理です。これに対して、夫婦の結合、つまり共同生活を解消する意思まで必要だ、という少数説があります。実質的意思説と呼びます。この説だと、同居を続けるつもりの冒頭の二人は、無効になります。

冒頭の二人に当てはめます。この二人は、法律の上で夫婦でなくなることに合意して、そのとおりに届け出ています。生活扶助を受けるという目的が別にあっても、離婚という効果自体は、二人が望んだものです。目的を理由に無効にするなら、二人が望んだ効果を、望まなかったことにすることになります。分かれ道を、並べます。1つは、届出を出すこと自体への意思が無い場合です。無断で出された届出。届出の時に、気が変わったことが明確な場合。これは、無効です。もう1つは、届出を出すことには合意していて、目的が別の場合です。生活扶助を受けるための届出。これは、有効です。同じように、別れるつもりが無い、と言っても、届出を出すこと自体への意思が有るか無いかで、結論が分かれます。冒頭の答えです。AさんとBさんの離婚は、有効です。二人は、法律の上では、夫婦ではありません。同居を続けているだけです。離婚の効果は、法律上、生じます。復氏、つまり名字の扱いなどの中身は、別の回で扱います。

婚姻意思との非対称 実質と形式

婚姻と協議離婚の比較表(婚姻の3段の板を拡張)。行=婚姻/協議離婚。列=成立要件(どちらも届出)/必要な意思(有効要件)/取消原因/取消しの効果。婚姻=届出/社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する意思(実質的意思説が判例・通説)/婚姻障害事由・詐欺・強迫/将来に向かってのみ(748条1項)。協議離婚=届出/法律上の婚姻関係を解消する意思(整理=離婚の届出に向けられた意思・形式的意思説が判例・通説)/詐欺・強迫だけ/届出の時にさかのぼる(通説)。脚注=764条の準用先は738・739・747条/748条は準用されない/離婚の無効には明文なし。 図:婚姻と協議離婚の比較表(婚姻の3段の板を拡張)。行=婚姻/協議離婚。列=成立要件(どちらも届出)/必要な意思(有効要件)/取消原因/取消しの効果。婚姻=届出/社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する意思(実質的意思説が判例・通説)/婚姻障害事由・詐欺・強迫/将来に向かってのみ(748条1項)。協議離婚=届出/法律上の婚姻関係を解消する意思(整理=離婚の届出に向けられた意思・形式的意思説が判例・通説)/詐欺・強迫だけ/届出の時にさかのぼる(通説)。脚注=764条の準用先は738・739・747条/748条は準用されない/離婚の無効には明文なし。

婚姻と離婚を、並べます。先に、婚姻のほうを思い出してください。婚姻意思の中身は、どう説明されていましたか?社会観念上、夫婦であると認められる関係の設定を欲する意思です。実質的意思説が、判例・通説でした。子に夫婦の子という地位を得させるためだけの届出は、届出の合意があっても、無効でした。表に並べます。成立の要件は、どちらも届出です。必要な意思は、婚姻では、夫婦であると認められる関係の設定を欲する意思。離婚では、法律上の婚姻関係を解消する意思、整理の名前では、届出に向けられた意思です。名前が、逆転していることに注意してください。婚姻意思は、実質的意思説が判例・通説です。離婚意思は、形式的意思説が判例・通説です。同じ実質と形式でも、多数の側が逆です。ですから、表で並べて覚えてください。

3つの面で考えます。1つめは、判決の言葉そのものが違うことです。婚姻では、社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する意思、つまり、夫婦という実体のある関係を望む意思を求めています。離婚では、法律上の婚姻関係を解消する意思、つまり、法律の上で夫婦でなくなる意思を求めています。2つめは、説明のための整理です。婚姻は、法が、夫婦という実体のある関係を認める制度です。実体の無い届出に、夫婦の地位を与えると、子の嫡出の地位、つまり夫婦の子という地位や、相続の権利のように、周りの人にまで効果が及びます。離婚は、法律上の結びつきを解く行為です。解いた後に、事実上の生活を続けるかどうかは、当事者の自由で、届出をしないまま夫婦として暮らす、内縁という形を、法は禁じていません。3つめも、説明のための整理です。離婚意思を、共同生活の実質で判断すると、同居していたか、本当に別れるつもりだったか、という動機を、あとから裁判で探ることになります。身分関係が、いつまでも不安定になります。届出に向けられた意思で足りるとすれば、判断は、はっきりします。境界を並べます。子に夫婦の子という地位を得させるためだけの婚姻届は、無効でした。生活扶助を受けるためだけの離婚届は、有効です。同じ、届出の形を借りた行為でも、婚姻は、実体のある関係を作る行為で、離婚は、法律上の結びつきを解く行為です。だから、求める意思が違います。

効果意思とは、ある行為の結果を、法律のうえでも、本当に望む意思、という意味でした。離婚では、法律の上で夫婦でなくなること、という結果を望んでいれば、足ります。ここは、論文で論点になりえます。

協議離婚の取消し さかのぼる

取消しの効果の時間軸。上段=婚姻の取消し(婚姻の成立→取消しの判決→以後だけ効力を失う・748条1項)。下段=協議離婚の取消し(離婚の届出→取消しの判決→届出の時にさかのぼって離婚は無かったことに)。脚注=原因は詐欺・強迫だけ/取消権は発見・強迫を免れた後3か月・追認で消滅/764条は747条を準用し748条を準用しない。 図:取消しの効果の時間軸

  • 上段=婚姻の取消し(婚姻の成立→取消しの判決→以後だけ効力を失う・748条1項)
  • 下段=協議離婚の取消し(離婚の届出→取消しの判決→届出の時にさかのぼって離婚は無かったことに)
  • 脚注=原因は詐欺・強迫だけ/取消権は発見・強迫を免れた後3か月・追認で消滅/764条は747条を準用し748条を準用しない

次に、協議離婚の取消しです。婚姻の取消しの回を思い出してください。婚姻の取消しの効果は、いつからでしたか?では、問いです。協議離婚が詐欺で取り消されたとき、離婚の効力は、いつから無くなるでしょうか。婚姻の取消しと同じでしょうか? 先に、取消しの条文です。

条文民法747条

民法第747条(詐欺又は強迫による婚姻の取消し) 詐欺又は強迫によって婚姻をした者は、その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる。 2 前項の規定による取消権は、当事者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後三箇月を経過し、又は追認をしたときは、消滅する。

764条が、この条文を借りています。離婚の場面では、婚姻を離婚と読み替えます。詐欺又は強迫によって離婚をした者は、離婚の取消しを、家庭裁判所に請求できます。実際には、訴えの形で進みます。取消しの原因は、詐欺と強迫だけです。婚姻のように、年齢や重婚といった、婚姻障害事由はありません。取消権は、詐欺を発見し、または強迫を免れた後、3か月で消えます。追認をしたときも消えます。民法の最初の総則にある、ふつうの取消し、たとえば、だまされてした売買の取消しは、追認できる時から5年、行為の時から20年でした。それよりも、ずっと短い期間です。例です。夫が、離婚しなければ子に危害を加える、と妻を脅しました。妻は、怖くなって、離婚届に署名しました。妻は、脅しを免れた後、3か月以内に、取消しを請求できます。では、効果です。協議離婚の取消しは、通説では、さかのぼります。通説の決め手は、条文の構造です。748条1項は、婚姻の取消しを将来に向かってだけ効力を生ずる、と定めていました。764条は、747条は借りていますが、748条は借りていません。将来だけ、という特別な規定が無いので、取消しの原則に戻ります。原則は、総則の121条です。

条文民法121条

民法第121条(取消しの効果) 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。

取り消された行為は、初めから無効だったものとみなす、という条文でした。だまされてした売買を取り消せば、売買は初めから無かったことになります。婚姻は、748条で、この原則を外していました。離婚には、外す条文がありません。だから、取り消された離婚も、初めから無効だったことになり、婚姻は、ずっと続いていたことになります。時間の軸で、並べます。婚姻の取消しは、成立から取消しの判決までは有効で、取消しの判決から先だけ、効力を失います。協議離婚の取消しは、離婚の届出の時にさかのぼって、離婚は無かったことになります。もう1つ、無効と取消しを整理します。離婚の意思が無い場合は、無効です。婚姻の取消しの回で見た、婚姻の無効と同じ形です。もともと効力が無いので、取り消すという手続きも、期間の制限もありません。主張できる人も、婚姻の無効と同じく、利益のある人なら誰でもです。離婚の意思はあるが、詐欺や強迫でゆがめられた場合は、取消しです。本人が、3か月以内に、家庭裁判所に請求します。ここは、論文で論点になりえます。

調停離婚 調書に記載された時

調停離婚の流れ。協議が調わない→家庭裁判所に離婚調停を申し立てる→調停委員会(裁判官1人と家事調停委員2人以上)が間に入って話し合う→合意が成立し調書に記載=調停離婚が成立(届出は報告)。記載は確定判決と同一の効力。 図:調停離婚の流れ

  • 協議が調わない→家庭裁判所に離婚調停を申し立てる→調停委員会(裁判官1人と家事調停委員2人以上)が間に入って話し合う→合意が成立し調書に記載=調停離婚が成立(届出は報告)
  • 記載は確定判決と同一の効力

ここから、調停離婚と審判離婚です。協議が調わないとき、離婚を望む側は、家庭裁判所に、離婚の調停を申し立てます。調停は、調停委員会が、間に入って、話し合いを進めます。調停委員会は、裁判官1人と、家事調停委員2人以上でつくります。調停離婚の条文です。家事事件手続法268条1項です。個別法なので、読み上げは骨格だけにします。

条文家事事件手続法268条1項

家事事件手続法第268条(調停の成立及び効力) 調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、確定判決(別表第二に掲げる事項にあっては、確定した第三十九条の規定による審判)と同一の効力を有する。

調停で、当事者の間に合意が成立して、それが調書に記載されたとき、調停が成立します。離婚の合意が調書に記載されたその時に、調停離婚が成立します。その記載は、確定判決と同じ効力を持ちます。調停離婚でも、役所に届出を出さないと、離婚は成立しないのですか。成立します。調書に記載された、その時点で、離婚は成立しています。成立のための届出は要りません。調停のあとに役所へ出す届出は、すでに成立した離婚を知らせる、報告の届出です。協議離婚の届出と、役割が違います。この点が、最初の表の、届出が要るか、の列の答えです。合意が必要なことは、協議離婚と同じです。合意が成立しなければ、調停離婚は成立しません。1つ、混同しないでください。婚姻の効果の回で、家族の争いは、ふつう、まず調停で話し合い、成立しなければ審判に移る、と言いました。それは、夫婦の同居や、夫婦の生活費の分担である婚姻費用のように、家庭裁判所が審判で決める事項として、法律の一覧に並べられたものの話です。離婚は、その一覧に入っていません。調停が成立しなくても、自動では、審判には移りません。

多くの場合は、離婚の訴えに進みます。離婚は、審判で決める事項ではなく、合意ができなければ、公開の法廷で行う訴えで決める事項だからです。訴えを起こす前に、まず調停を経る決まりがあります。これは、別の回で扱います。ただ、例外的に、家庭裁判所が、調停に代わる審判をすることがあります。それが、審判離婚です。

審判離婚 異議で消える

審判離婚の流れ。調停が成立しない→家庭裁判所が相当と認める→調停に代わる審判(職権・合意不要)→2週間以内に異議なし=確定=審判離婚が成立(確定判決と同一の効力・287条)/適法な異議あり=審判は効力を失う(286条5項)→訴えへ(通知から2週間以内に訴えを起こせば、調停申立ての時に提起したものとみなす・286条6項)。脇の小注=同居などの審判(別表第二)とは入口が違う。 図:審判離婚の流れ

  • 調停が成立しない→家庭裁判所が相当と認める→調停に代わる審判(職権・合意不要)→2週間以内に異議なし=確定=審判離婚が成立(確定判決と同一の効力・287条)/適法な異議あり=審判は効力を失う(286条5項)→訴えへ(通知から2週間以内に訴えを起こせば、調停申立ての時に提起したものとみなす・286条6項)
  • 脇の小注=同居などの審判(別表第二)とは入口が違う

審判離婚の条文です。家事事件手続法284条1項です。これも個別法なので、骨格だけ読みます。

条文家事事件手続法284条1項

家事事件手続法第284条(調停に代わる審判の対象及び要件) 家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で、事件の解決のため必要な審判(以下「調停に代わる審判」という。)をすることができる。ただし、第二百七十七条第一項に規定する事項についての家事調停の手続においては、この限りでない。

調停が成立しない場合でも、家庭裁判所が、相当と認めるときは、職権で、解決に必要な審判をすることができます。これが、調停に代わる審判です。離婚を認める調停に代わる審判が確定すると、審判離婚が成立します。ここで、大事なのは、当事者の合意が要らないことです。協議離婚も調停離婚も、合意が必要でした。審判離婚は、合意が無くても、裁判所が離婚を定めます。当事者の意思を守るために、歯止めがあります。家事事件手続法286条です。これも、骨格だけ読みます。

条文家事事件手続法286条1項・5項

家事事件手続法第286条(異議の申立て等) 当事者は、調停に代わる審判に対し、家庭裁判所に異議を申し立てることができる。 5 適法な異議の申立てがあったときは、調停に代わる審判は、その効力を失う。この場合においては、家庭裁判所は、当事者に対し、その旨を通知しなければならない。

当事者は、この審判に異議を申し立てることができ、適法な異議があると、審判は効力を失います。異議は、審判の告知から2週間以内です。異議が出なければ、審判は確定して、確定判決と同一の効力を持ちます。287条です。使われる場面を、例で見ます。離婚そのものには争いがなく、条件のごく一部の食い違いだけで、調停が成立しなかったとき。または、当事者が病気や遠方のために、調停の場に出られないとき。こうした場面で、裁判所が、一切の事情を考えて、決めることがあります。ですから、審判離婚は、異議が出なければ成立し、出されれば消える、脆い離婚です。成立の時点は、審判が確定した時です。異議で失効したあとも、離婚を求めるなら、訴えに進みます。通知から2週間以内に訴えを起こせば、調停を申し立てた時に起こしたものとみなす、という定めもあります。訴えの本体は、別の回で扱います。審判という言葉も、そろえておきます。婚姻の効果の回で見た審判は、同居や婚姻費用のように、一覧に並んだ事項を、裁判所が決めるものでした。当事者の一方が不服でも、異議を出しただけでは消えません。ここでの調停に代わる審判は、違います。調停が成立しなかったときに、家庭裁判所が職権で出す判断で、どちらか一方が異議を出せば、それだけで消えます。ですから、離婚が残るのは、二人のどちらも異議を出さなかったときだけです。離婚を、審判で決める事項にしていないことと、ぶつからないのは、このためです。反対があれば、結局、公開の法廷の訴えで決まります。

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まとめ。①離婚の4種類の表(合意・届出・誰が決めるか・成立の時点)②婚姻/協議離婚の比較表(成立要件・必要な意思・取消原因・取消しの効果)③届出の時の翻意と離婚意思の分かれ道④冒頭の答え(同居を続けたままの生活扶助目的の離婚=有効・届出を出すこと自体への意思が無ければ無効)⑤取消しの効果の対比(婚姻=将来/協議離婚=さかのぼる)。成立の時点=協議は届出の時・調停は調書記載の時・審判は確定の時。 図:まとめ

  • ①離婚の4種類の表(合意・届出・誰が決めるか・成立の時点)②婚姻/協議離婚の比較表(成立要件・必要な意思・取消原因・取消しの効果)③届出の時の翻意と離婚意思の分かれ道④冒頭の答え(同居を続けたままの生活扶助目的の離婚=有効・届出を出すこと自体への意思が無ければ無効)⑤取消しの効果の対比(婚姻=将来/協議離婚=さかのぼる)
  • 成立の時点=協議は届出の時・調停は調書記載の時・審判は確定の時

まとめます。1つめ、離婚の4種類です。協議、調停、審判、裁判。合意が要るか、届出が成立のために要るか、誰が決めるか、で見分けます。成立のための届出が要るのは、協議離婚だけです。2つめ、協議離婚です。763条で、夫婦は協議で離婚でき、764条が準用する739条で、届出によって成立します。届出は成立の要件です。離婚意思は有効の要件で、条文に明文は無く、解釈で導きます。無断で出された届出は、無効です。3つめ、届出の時の翻意です。届出の時に、離婚の意思が無いことが明確なら、無効です。相手に伝えていなくても、結論は同じです。4つめ、離婚意思の中身です。判決の言葉は、法律上の婚姻関係を解消する意思の合致。整理の名前は、離婚の届出に向けられた意思で足りる、という形式的意思説で、判例・通説です。ですから、同居を続けるつもりの、生活扶助のための離婚も、有効です。婚姻意思が実質的意思説なのと、逆です。理由は、婚姻は、実体のある関係を認める制度で、離婚は、法律上の結びつきを解く行為だからです。ここは、論文で論点になりえます。5つめ、取消しです。原因は、詐欺と強迫だけで、取消権は、3か月と追認で消えます。効果は、748条1項が準用されないので、通説では、さかのぼります。婚姻の取消しは、将来に向かってだけです。6つめ、調停離婚と審判離婚です。調停離婚は、合意が調書に記載された時に成立し、そのあとの届出は報告です。審判離婚は、合意が要らず、異議が出なければ確定した時に成立し、異議が出れば効力を失います。

冒頭の答えです。同居を続けたまま、生活保護を受けやすくするために出した離婚届でも、届出を出すことに二人が合意しているなら、離婚は有効です。どの時点で決まったか。協議離婚は、届出の時。調停離婚は、調書に記載された時。審判離婚は、確定した時です。

参照条文

  • 民法763条
  • 民法764条
  • 民法739条
  • 民法747条
  • 民法121条
  • 家事事件手続法268条1項
  • 家事事件手続法284条1項
  • 家事事件手続法286条1項・5項

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