民法ゼロから民法#323

裁判離婚と有責配偶者の離婚請求

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第7章 親族 #323/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

家を出た夫が10年後に起こした離婚の訴え

冒頭の設例。A(夫)が家を出て、C(別の相手)と同居(10年)。A→B(妻)=離婚の訴え。Bは離婚に反対。問い=この訴えは認められるか。 図:冒頭の設例

  • A(夫)が家を出て、C(別の相手)と同居(10年)
  • A→B(妻)=離婚の訴え
  • Bは離婚に反対
  • 問い=この訴えは認められるか

まず、予想してみてください。家を出て別の相手と暮らしている夫が、自分から離婚を求めています。認められるでしょうか?ずるい、という感覚と、もう終わった夫婦、という感覚。その両方が、実際の判例の中に入っています。先に1つだけ言います。この答えは、10年という数字だけでは決まりません。何で決まるのかが、今日の中心です。裁判離婚は、合意がいりません。離婚の訴えを認める判決が確定すると、それだけで離婚が成立します。相手が反対していても成立します。今日は、その裁判離婚の中身を見ます。

今日の地図。関門①訴えの入口=調停前置(家事事件手続法257条)→関門②離婚原因(770条1項・現行は4号まで)→関門③裁量棄却(770条2項・1号から3号だけ)→関門④有責配偶者の関門(4号の請求)→冒頭の答え。軸=この訴えは、どの関門を通ったか。 図:今日の地図

  • 関門①訴えの入口=調停前置(家事事件手続法257条)→関門②離婚原因(770条1項・現行は4号まで)→関門③裁量棄却(770条2項・1号から3号だけ)→関門④有責配偶者の関門(4号の請求)→冒頭の答え
  • 軸=この訴えは、どの関門を通ったか

今日の道のりです。まず、訴えの入口です。離婚の訴えは、いきなり起こせるわけではありません。次に、離婚原因です。法律が決めた原因がなければ、訴えは認められません。3つめに、裁量棄却です。原因があっても、裁判所が認めないことがあります。最後に、浮気をした側からの請求です。冒頭の答えは、ここで決まります。貫く軸は1本です。この訴えは、どの関門を通ったか。調停を経たか、離婚原因があるか、裁量棄却にかからないか、そして、請求した側に問題はないか。関門を1つずつ通っていくイメージで見てください。ここで、令和6年の民法改正に触れておきます。2026年4月1日から、770条1項の離婚原因は4号までになりました。以前の判決や過去問に出てくる「5号」は、現行法の4号にあたります。

訴えの入口 調停前置主義

訴えの入口の流れ。協議が調わない→家庭裁判所に離婚調停を申し立てる→調停が成立しない(審判離婚も成立しない)→離婚の訴え(家庭裁判所)。脇=調停を経ずに訴えた→裁判所が職権で調停に付す(257条2項・相当でないときを除く)。脚注=離婚の訴えは家庭裁判所の専属管轄(人事訴訟法4条1項)。 図:訴えの入口の流れ

  • 協議が調わない→家庭裁判所に離婚調停を申し立てる→調停が成立しない(審判離婚も成立しない)→離婚の訴え(家庭裁判所)
  • 脇=調停を経ずに訴えた→裁判所が職権で調停に付す(257条2項・相当でないときを除く)
  • 脚注=離婚の訴えは家庭裁判所の専属管轄(人事訴訟法4条1項)

1つめの関門です。離婚の訴えを起こすには、その前に、家庭裁判所の調停を経なければなりません。これを、調停前置主義と言います。条文を見ます。家事事件手続法257条です。

条文家事事件手続法257条

家事事件手続法第257条(調停前置主義) 第二百四十四条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。 2 前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。 3 裁判所は、前項の規定により事件を調停に付する場合においては、事件を管轄権を有する家庭裁判所に処理させなければならない。ただし、家事調停事件を処理するために特に必要があると認めるときは、事件を管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に処理させることができる。

1項です。244条の規定によって調停を行うことができる事件について、訴えを起こそうとする者は、まず、家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければなりません。

条文家事事件手続法244条

家事事件手続法第244条(調停事項等) 家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件(別表第一に掲げる事項についての事件を除く。)について調停を行うほか、この編の定めるところにより審判をする。

人事に関する訴訟事件、その他家庭に関する事件です。人事に関する訴訟とは、婚姻や親子など、身分関係についての訴えのことです。離婚の訴えも、これに入ります。ですから、離婚の訴えの前には、調停が要ります。前回、訴えの前にまず調停を経る決まりがある、と予告しました。その決まりが、この257条です。調停を経ないで、いきなり訴えを起こしたら、どうなるのですか。門前払いですか。問いです。調停を経ずに訴えを起こしたら、訴えは却下されるでしょうか?却下ではありません。2項です。調停の申立てをしないで訴えを起こした場合、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければなりません。つまり、裁判所のほうが、調停に回します。ただし、調停に付すことが相当でないと認めるときは、例外です。たとえば、相手方の所在がまったく分からず、話し合いのしようがないとき、といった場合が考えられます。順序を整理します。協議が調わない。家庭裁判所に離婚調停を申し立てる。調停が成立しない。審判離婚も成立しない。ここで初めて、離婚の訴えです。前回見たとおり、離婚は審判で決める事項ではないので、調停が成立しなくても、自動では審判に移りません。訴えは、自分で起こします。審判離婚に異議が出て効力を失った場合も、訴えに進む、と前回見ました。冒頭の夫も、いきなり訴えたわけではありません。まず家庭裁判所に調停を申し立て、妻が反対して調停が成立しなかったので、訴えに進んだ、という順序になります。

管轄も、1つだけ。離婚の訴えは、人事訴訟法4条1項により、家庭裁判所の専属です。専属とは、その裁判所だけが扱える、という意味です。調停が先に置かれている理由は、説明のための整理です。夫婦や家族の問題は、勝ち負けをはっきりさせる前に、まず話し合いで、非公開の場で解決を探るほうが適している、という考え方です。判例が述べた理由ではありません。

離婚原因は4つ 770条1項

770条1項の4つの離婚原因。1号 不貞な行為/2号 悪意の遺棄(752条の義務の不履行)/3号 3年以上の生死不明/4号 その他婚姻を継続し難い重大な事由(一般条項)。帯=2026年4月1日から4号まで(強度の精神病の号が削除・その他の事由が5号から4号へ繰上げ)。脚注=重婚は列挙事由ではない(732条は婚姻の取消しの原因・743条以下)。 図:770条1項の4つの離婚原因

  • 1号 不貞な行為/2号 悪意の遺棄(752条の義務の不履行)/3号 3年以上の生死不明/4号 その他婚姻を継続し難い重大な事由(一般条項)
  • 帯=2026年4月1日から4号まで(強度の精神病の号が削除・その他の事由が5号から4号へ繰上げ)
  • 脚注=重婚は列挙事由ではない(732条は婚姻の取消しの原因・743条以下)

2つめの関門、離婚原因です。770条です。

条文民法770条

民法第770条(裁判上の離婚) 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。 一 配偶者に不貞な行為があったとき。 二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。 三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。 四 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。 2 裁判所は、前項第一号から第三号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

1項は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる、と言っています。限り、が大事です。離婚原因は、法律が数え上げています。これ以外の理由では、離婚の訴えを起こせません。限定列挙です。そして、4つの原因は、条文どおりの要件です。解釈で立てる規範ではありません。答案では、770条1項1号のように、号の数字を添えて引きます。令和6年の改正で、配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき、を理由とする号が削除されました。そのため、その他婚姻を継続し難い重大な事由は、5号から4号に繰り上がりました。2項の裁量棄却の対象も、1号から4号までだったのが、1号から3号までになっています。施行は2026年4月1日で、施行前に起きた事件の扱いには、別に決まりがありますが、答案では現行法で答えます。

重婚は、離婚原因の列挙に入っていません。条文を読んでも、重婚という事由はありません。重婚をした配偶者に対する離婚の訴えは、1号の不貞な行為や、4号の枠で考えます。732条の重婚の禁止は、婚姻の取消しの原因であって、離婚原因の列挙とは別の話です。取消しは、婚姻の取消しの回で見ました。

1号から3号 具体的な離婚原因

1号〜3号の整理。1号=不貞な行為=配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと(相手方の自由な意思にもとづくか否かは問わない・最判昭48・11・15)。2号=悪意の遺棄=正当な理由なく752条の同居・協力・扶助の義務を履行しないこと。3号=配偶者の生死が3年以上明らかでない。 図:1号〜3号の整理

  • 1号=不貞な行為=配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと(相手方の自由な意思にもとづくか否かは問わない・最判昭48・11・15)
  • 2号=悪意の遺棄=正当な理由なく752条の同居・協力・扶助の義務を履行しないこと
  • 3号=配偶者の生死が3年以上明らかでない

1号から3号は、具体的な事由です。1号は、不貞な行為です。最高裁は、不貞な行為を、配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと、と言っています。そして、相手方の自由な意思にもとづくものか否かは問わない、とも言っています。性的関係がなければ、1号の不貞な行為にはあたりません。ただし、4号の婚姻を継続し難い重大な事由として、考える余地はあります。相手方の意思を問わない、とはどういうことか。たとえば、夫が、相手の女性の意思に反して関係を結んだ場合でも、夫自身は自由な意思で関係を結んでいるので、夫の不貞な行為にあたります。補足です。妻が、生活費を得るために、夫の意思に反して他の男性と情交関係を持った事案でも、判決は、妻の不貞行為を前提に判断しています。2号は、悪意の遺棄です。整理すると、正当な理由なく、752条の同居、協力、扶助の義務を履行しないことです。典型は、配偶者を置いて家を出てしまい、生活費も送らない場合です。752条を、もう一度見ます。

条文民法752条

民法第752条(同居、協力及び扶助の義務) 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

前に、同居の義務は審判で命じられても強制できない、と見ました。その代わり、正当な理由のない不履行は、悪意の遺棄として離婚原因になりえる、と予告しました。ここが、その回収です。日常の言葉とは違います。取引の場面で見た、事情を知っている、という意味の悪意とも、別の使い方です。ここでの悪意は、正当な理由なく、義務を果たさないことと整理されます。反対に、正当な理由があれば、悪意の遺棄ではありません。前に見た、合意した別居、単身赴任、暴力から逃れるための別居は、正当な理由のある別居でした。ここで、冒頭の夫に戻ります。家を出て、別の相手と暮らす夫は、1号の不貞な行為にも、2号の悪意の遺棄にも、あたりうる側です。つまり、離婚原因を作ったのは、夫のほうです。この点が、有責配偶者の話の入口になります。3号に進む前に、確認です。問いです。民法総則の失踪宣告を思い出してください。普通失踪は、生死不明が何年でしたか?

7年です。では、離婚の3号は、何年でしょうか。

3号と失踪宣告の比較表。行=離婚の訴え(770条1項3号)/失踪宣告(30条1項)。列=期間(3年以上/7年)・手続(離婚の訴え/家庭裁判所に利害関係人が請求)・効果(判決の確定で離婚成立/期間満了の時に死亡したものとみなす・31条=婚姻は死亡で解消)・根拠条文。 図:3号と失踪宣告の比較表。行=離婚の訴え(770条1項3号)/失踪宣告(30条1項)。列=期間(3年以上/7年)・手続(離婚の訴え/家庭裁判所に利害関係人が請求)・効果(判決の確定で離婚成立/期間満了の時に死亡したものとみなす・31条=婚姻は死亡で解消)・根拠条文。

条文には、3年以上、とありました。3年です。3号は、配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。失踪宣告は、7年です。比べます。離婚の訴えは、判決が確定して、離婚が成立します。婚姻は、離婚で終わります。失踪宣告は、家庭裁判所に、利害関係人が請求して、宣告を受けた人は、期間が満了した時に死亡したものとみなされます。31条です。婚姻は、死亡で終わります。結果が違います。3年と7年の取り違えには、気をつけてください。

4号 婚姻を継続し難い重大な事由

4号の読み方。判決の言葉=夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成しえなくなり、その回復の見込みがなくなつた場合(最大判昭62の理由)。整理の名前=破綻主義。例(自前)=暴力・虐待/重大な浪費/長期の別居/性格の不一致の積み重ね。判断=1つの事情ではなく全体として破綻したか。別居の年数は規範ではなく目安にすぎない。 図:4号の読み方

  • 判決の言葉=夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成しえなくなり、その回復の見込みがなくなつた場合(最大判昭62の理由)
  • 整理の名前=破綻主義
  • 例(自前)=暴力・虐待/重大な浪費/長期の別居/性格の不一致の積み重ね
  • 判断=1つの事情ではなく全体として破綻したか
  • 別居の年数は規範ではなく目安にすぎない

4号は、その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき、です。1号から3号に当たらなくても、婚姻が壊れていれば、裁判離婚を認める趣旨の規定で、一般条項と呼ばれます。一般条項とは、具体的に数え上げられない場合を、まとめて拾う条項、という意味です。後で見る大法廷判決は、この4号を、当時の5号という数え方で、こう言っています。夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成しえなくなり、その回復の見込みがなくなった場合には、夫婦の一方は他方に対し、訴えにより離婚を請求することができる旨を定めたものと解される。これは判決の言葉です。婚姻が破綻していれば離婚を認める、という考え方を、破綻主義と呼びます。破綻主義は、整理の名前です。

条文に例はありません。例を挙げます。配偶者からの暴力や虐待。重大な浪費の繰り返し。長期にわたる別居。性格の不一致の積み重ね。大事なのは、1つの事情だけでなく、全体として、婚姻が破綻したといえるかです。破綻を示す、重要な事情になります。ただし、何年で破綻、という基準は、条文にも判決にもありません。数年とか、相当の期間とか、幅のある言い方で理解してください。年数は目安にすぎません。それに、前に見たとおり、別居しているだけで破綻とは限りません。単身赴任のように、夫婦の共同生活が続いている別居もあります。1号から3号との関係では、4号は、1号から3号にあたらない事情を拾う一般条項と整理されます。1号から3号を、4号の例示とみる見解もあります。そして、4号には、1つ、大きな特徴があります。すぐ後で見ます。

裁量棄却 1号から3号だけに働く

裁量棄却の対応表。条文2項=前項第一号から第三号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。1号○・2号○・3号○・4号×。4号×の理由(整理)=4号は破綻していて婚姻の継続を強いるのは相当でない、という判断を要件そのものが含む。 図:裁量棄却の対応表

  • 条文2項=前項第一号から第三号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる
  • 1号○・2号○・3号○・4号×
  • 4号×の理由(整理)=4号は破綻していて婚姻の継続を強いるのは相当でない、という判断を要件そのものが含む

770条2項を見ます。離婚原因が1号から3号にあっても、裁判所が、一切の事情を考慮して、婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却できます。棄却とは、請求を認めない判決をすることです。これを、裁量棄却と呼びます。問いです。不貞な行為があれば、裁判所は、必ず離婚を認めなければならないでしょうか?離婚原因がある以上、認めるしかないように思いますが、裁量棄却があるなら、認めないこともできるのですね。たとえば、不貞な行為があっても、本人が深く反省していて、妻も婚姻を続けたいと望み、幼い子の生活のことも考えると、婚姻の継続が相当だ、と裁判所が判断すれば、請求を棄却できます。大事なのは、対象です。2項は、第一号から第三号までです。4号は、入っていません。4号には、裁量棄却が働きません。大法廷判決も、当時の5号、いまの4号について、こう言っています。一項五号に基づく請求についてはかかる制限は及ばないものとしており、二項のほかには、離婚原因に該当する事由があっても離婚請求を排斥することができる場合を具体的に定める規定はない。

4号に裁量棄却が働かない理由は、説明のための整理です。4号は、婚姻を継続し難い重大な事由、つまり、破綻していて、続けさせるのは相当でない、という判断を、要件そのものが含んでいます。要件を満たしたうえで、さらに、続けるのが相当かを問うのは、二重になります。ここが、次の話のきっかけです。4号には、裁量棄却という歯止めがありません。それなら、破綻を自分で作った人が、破綻している、と言って4号で離婚を求めたとき、そのまま認めてよいのでしょうか。

有責配偶者の請求 かつての判例と判例変更

有責配偶者の離婚請求の問題。有責配偶者=破綻につき専ら責任のある一方の当事者(「有責配偶者」は判決の言葉)。冒頭の夫が典型。整理の名前(判決の語ではない)=消極的破綻主義(破綻していても、責任のある者からの請求は認めない)/積極的破綻主義(破綻していれば、責任の有無を問わず認める)。 図:有責配偶者の離婚請求の問題

  • 有責配偶者=破綻につき専ら責任のある一方の当事者(「有責配偶者」は判決の言葉)
  • 冒頭の夫が典型
  • 整理の名前(判決の語ではない)=消極的破綻主義(破綻していても、責任のある者からの請求は認めない)/積極的破綻主義(破綻していれば、責任の有無を問わず認める)

4つめの関門です。破綻につき専ら責任のある一方の当事者を、有責配偶者と呼びます。これは、後で見る大法廷判決自身が使った言葉です。冒頭の夫が、典型です。自分から家を出て、別の相手と暮らして、破綻を作りました。その夫が、4号で離婚を求めています。認めてよいか。先に、整理の名前を2つ、確認します。消極的破綻主義と、積極的破綻主義です。消極的破綻主義は、婚姻が破綻していても、破綻につき責任のある者からの離婚請求は認めない、という考え方。積極的破綻主義は、破綻していれば、責任の有無を問わず離婚を認める、という考え方です。この2つの名前は、学説や実務の整理で、判決の言葉ではありません。

判例の流れ。左=かつての判例(夫が愛人を持って破綻・夫からの請求は認めない・上告棄却・消極的破綻主義と呼ばれる)/中=大法廷判決(判例変更・信義誠実の原則の枠内で一定の場合に認める)。出典=最判昭27・2・19(民集6巻2号110頁)/最大判昭62・9・2(民集41巻6号1423頁)。 図:判例の流れ

  • 左=かつての判例(夫が愛人を持って破綻・夫からの請求は認めない・上告棄却・消極的破綻主義と呼ばれる)/中=大法廷判決(判例変更・信義誠実の原則の枠内で一定の場合に認める)
  • 出典=最判昭27・2・19(民集6巻2号110頁)/最大判昭62・9・2(民集41巻6号1423頁)

かつての判例から見ます。夫が、妻がいるのに、他の女性と関係を持って、妊娠させました。それが原因で夫婦が壊れ、夫が、妻に離婚を求めた事案です。判決を見ます。当時の5号は、いまの4号です。

判例最高裁判所第三小法廷判決 昭和27年2月19日(民集6巻2号110頁)

夫が愛人を持った場合の夫からの離婚請求 上告人さえ情婦との関係を解消し、よき夫として被上告人のもとに帰り来るならば、何時でも夫婦関係は円満に継続し得べき筈である、即ち上告人の意思如何にかかることであつて、かくの如きは未だ以て前記法条にいう「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するものということは出来ない ……結局上告人が勝手に情婦を持ち、その為め最早被上告人とは同棲出来ないから、これを追い出すということに帰着するのであつて、もしかかる請求が是認されるならば、被上告人は全く俗にいう踏んだり蹴たりである。法はかくの如き不徳義勝手気儘を許すものではない。

読み解きます。判決の上告人は夫、被上告人は妻です。結論は、夫の請求を認めない、上告棄却です。理由は2つあります。1つめ。夫が愛人との関係をやめて、よい夫として戻れば、夫婦関係は円満に続けられる。つまり、夫の意思しだいで、婚姻を継続し難い重大な事由とは言えない。2つめ。夫が勝手に愛人を持って、妻を追い出すことに帰着する。それを認めれば、妻は、俗にいう踏んだり蹴たりだ。法は、そういう不徳義勝手気儘を許さない。通称は、踏んだり蹴ったり判決です。有責配偶者からの請求を認めなかった判例は、のちに変わりました。大法廷判決です。判決は、かつての判例を、いずれも変更すべきもの、と述べました。ただし、変えた中身は、慎重に読む必要があります。まず、判決が、4号の条文について何と言ったか。次に、信義誠実の原則について何と言ったか。順に見ます。

判例最高裁判所大法廷判決 昭和62年9月2日(民集41巻6号1423頁)

判例の変更と信義誠実の原則 同条一項五号は、夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成しえなくなり、その回復の見込みがなくなつた場合には、夫婦の一方は他方に対し訴えにより離婚を請求することができる旨を定めたものと解されるのであつて、同号所定の事由(以下「五号所定の事由」という。)につき責任のある一方の当事者からの離婚請求を許容すべきでないという趣旨までを読みとることはできない。 ……離婚は社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶するものであるから、離婚請求は、正義・公平の観念、社会的倫理観に反するものであつてはならないことは当然であつて、この意味で離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念たる信義誠実の原則に照らしても容認されうるものであることを要するものといわなければならない。

読み解きます。1つめの段落。4号の文言からは、責任のある者からの請求を許してはならない、という趣旨までは読み取れない。つまり、条文から、有責配偶者の請求を一律に退ける根拠は出てこない、と言っています。ところが、判決は、常に認めてよいとは考えていません。2つめの段落。離婚は、婚姻という社会的、法的な秩序を廃絶するものだから、離婚請求は、正義、公平の観念、社会的倫理観に反してはならない。そして、民法全体の指導理念である、信義誠実の原則に照らして、容認されるものでなければならない。ここで、4号の条文ではなく、信義則を持ち出します。

条文民法1条2項

民法第1条(基本原則)第2項 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

条文に歯止めが無い4号の請求に、民法全体の原則から、歯止めをかけたのです。理由づけも、判決が述べています。破綻の原因を自分で作った者の請求を、常に認めれば、自ら原因となる事実を作り出した者が、それを自分に有利に使うことを、裁判所に認めさせ、相手方の離婚についての意思を、まったく封じることになる。ついには、裁判離婚制度を否定するような結果も招きかねない。これは、許されない、ということです。整理の名前で言うと、かつての判例は、消極的破綻主義と呼ばれます。この判決は、それを修正した、と言われます。ただし、積極的破綻主義に転換した、とは言えません。責任を一切問わないとは、言っていないからです。判決は、信義則の枠内で、一定の場合に、有責配偶者からの請求を認める、というものです。その一定の場合を、このあと見ます。

大法廷判決の規範 認められる場合

大法廷判決の規範(逐語)。有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできない。 図:大法廷判決の規範

  • 逐語
  • 有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできない。

判決の中心の言葉を見ます。これは、条文にない基準です。判例が、信義則という条文外の制限から立てた規範です。770条1項の4つの事由が、条文どおりの成立要件だったのとは、性質が違います。ですから、言葉を正確に覚えます。

判例最高裁判所大法廷判決 昭和62年9月2日(民集41巻6号1423頁)

有責配偶者からの離婚請求が認められる場合 そうであつてみれば、有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。 けだし、右のような場合には、もはや五号所定の事由に係る責任、相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態等は殊更に重視されるべきものでなく、また、相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、本来、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰藉料により解決されるべきものであるからである。

分解します。判決が挙げているのは、3つです。1つめ、夫婦の別居が、両当事者の年齢及び同居期間との対比において、相当の長期間に及ぶこと。2つめ、その間に未成熟の子が存在しないこと。3つめ、相手方が、離婚により、精神的、社会的、経済的に極めて苛酷な状態におかれる等、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような、特段の事情が、認められないこと。なお、3要件、という呼び方は、この判決を整理した名前で、判決の言葉ではありません。

規範の分解図。有責配偶者の4号の請求→(ア)別居が年齢・同居期間との対比で相当の長期間か→(イ)その間に未成熟の子がいないか→両方yes→(ウ)苛酷な状態等の特段の事情が認められないか→yes=請求は許されないとはできない(認容)/特段の事情あり=棄却。脇=(ア)(イ)を欠く場合は、この規範は直接は答えていない。 図:規範の分解図

  • 有責配偶者の4号の請求→(ア)別居が年齢・同居期間との対比で相当の長期間か→(イ)その間に未成熟の子がいないか→両方yes→(ウ)苛酷な状態等の特段の事情が認められないか→yes=請求は許されないとはできない(認容)/特段の事情あり=棄却
  • 脇=(ア)(イ)を欠く場合は、この規範は直接は答えていない

構造に注意してください。1つめと2つめがそろった場合に、3つめの特段の事情が認められない限り、請求を認める。つまり、原則は認容、例外が棄却、という形です。3つめは、満たすべき条件として書かれているのではなく、例外にあたる事情として書かれています。判決の言葉は、特段の事情の認められない限り、です。立証責任が、どちらにあるかまでは、判決は述べていません。年数は、決まっていません。判決の言葉は、両当事者の年齢及び同居期間との対比において、相当の長期間、です。つまり、相対的です。同居が長かった夫婦と、短かった夫婦では、同じ別居期間でも、評価が変わります。

未成熟の子とは、経済的に自立して生活することを、まだ期待できない子、と整理されます。年齢だけでは決まりません。

判断のときに斟酌する事情。責任の態様・程度/相手方の婚姻継続の意思と請求者への感情/離婚後の相手方の精神的・社会的・経済的状態と子(殊に未成熟の子)の監護・教育・福祉/別居後に形成された生活関係/時の経過。けだし=経済的不利益は財産分与・慰藉料で解決されるべき。 図:判断のときに斟酌する事情

  • 責任の態様・程度/相手方の婚姻継続の意思と請求者への感情/離婚後の相手方の精神的・社会的・経済的状態と子(殊に未成熟の子)の監護・教育・福祉/別居後に形成された生活関係/時の経過
  • けだし=経済的不利益は財産分与・慰藉料で解決されるべき

判決は、判断のときに斟酌すべき事情も挙げています。斟酌とは、事情をくみ取って考慮に入れることです。有責配偶者の責任の態様、程度。相手方配偶者の婚姻継続についての意思と、請求者に対する感情。離婚を認めた場合の、相手方の精神的、社会的、経済的状態と、夫婦間の子、殊に未成熟の子の、監護、教育、福祉の状況。別居後に形成された生活関係で、たとえば、内縁関係の相手や子らの状況。そして、時の経過がこれらに与える影響です。判決の理由づけの、けだし、以下がその答えです。別居が相当の長期間で、未成熟の子がいない場合は、有責配偶者の責任や、相手方の精神的、社会的状態は、殊更に重視されるべきではない。また、相手方が離婚で被る経済的不利益は、本来、離婚と同時または離婚後に請求できる、財産分与または慰藉料で解決されるべきだ、と言っています。財産分与は、離婚のときに、夫婦が築いた財産を分けることを求める制度、慰藉料は、精神的な苦痛に対する賠償です。詳しくは、別の回で扱います。

判決は、規範の前に、こう述べています。時の経過とともに、これらの事情は、それ自体が変わっていき、その社会的な意味や評価も変わる。だから、時の経過の影響も考えなければならない、と。言い換えると、夫婦が長く別々に暮らすほど、婚姻は形だけになり、離婚に応じずに守れるものは少なくなります。それにつれて、昔の責任を理由に請求を退ける意味も、薄れていく、というわけです。未成熟の子が入っている理由を、判決ははっきりとは述べていません。ただ、斟酌する事情に、殊に未成熟の子の、監護、教育、福祉を挙げていました。子の生活と監護への影響は、時がたっても薄れません。子が自立するまでは、離婚の影響を最も強く受ける人が、残っているのです。

大法廷の事案。別居約36年・未成熟の子なし/夫=愛人と同居し子を認知・経済的に極めて安定/妻=無職・資産なし/調停で夫が現金100万円と油絵1枚を提案、妻は拒否。結論=破棄差戻し(認容判決ではない)。36年は事件の事実で、基準の数字ではない。 図:大法廷の事案

  • 別居約36年・未成熟の子なし/夫=愛人と同居し子を認知・経済的に極めて安定/妻=無職・資産なし/調停で夫が現金100万円と油絵1枚を提案、妻は拒否
  • 結論=破棄差戻し(認容判決ではない)
  • 36年は事件の事実で、基準の数字ではない

問いです。この判決の事件は、別居が約36年で、夫婦の間に未成熟の子はいません。では、この大法廷は、夫の離婚請求を認めたでしょうか?認めたのではありません。事案を見ます。夫は、愛人と同居を始めて、愛人との間に生まれた子を認知しています。妻は、別居後に生活に困り、人形製作の技術を身につけて働きましたが、現在は無職で、資産がありません。夫は、会社の代表取締役などで、経済的に極めて安定しています。調停で、夫は、現金100万円と、油絵1枚を提案して、妻は受け入れませんでした。そのうえでの判断です。

判例最高裁判所大法廷判決 昭和62年9月2日(民集41巻6号1423頁)

約36年の別居・未成熟の子なし 破棄差戻し 上告人と被上告人との婚姻については五号所定の事由があり、上告人は有責配偶者というべきであるが、上告人と被上告人との別居期間は、原審の口頭弁論の終結時まででも約三六年に及び、同居期間や双方の年齢と対比するまでもなく相当の長期間であり、しかも、両者の間には未成熟の子がいないのであるから、本訴請求は、前示のような特段の事情がない限り、これを認容すべきものである。 したがつて、右特段の事情の有無について審理判断することなく、上告人の本訴請求を排斥した原判決には民法一条二項、七七〇条一項五号の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであり、この違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、この趣旨の違法をいうものとして論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

結論は、破棄差戻しです。別居は約36年で、相当の長期間で、未成熟の子もいません。だから、特段の事情がない限り認めるべきだ。ところが、原審は、その特段の事情があるかどうかを審理しないまま、夫の請求を退けた。そこが違法だとして、原判決を破棄して、審理のやり直しを命じました。認容判決ではありません。もう1つ、数字の扱いです。約36年は、この事件の事実です。基準の数字ではありません。判決は、別居の年数を、相対的に見ています。ですから、10年なら足りる、足りない、という数字の話は、この判決にはありません。ここは、論文で論点になりえます。

有責配偶者にあたらない3つの場面

有責配偶者にあたらない3場面(大法廷判決の枠組みを使わずに認められうる場合)。(ア)原告にも落ち度はあるが被告により大きな落ち度がある(最判昭30・11・24)=「かような場合に被上告人の離婚請求を認めても違法とはいえない。」/(イ)双方に婚姻を継続し難い事由がある(最判昭31・12・11)=「右七七〇条一項五号に所謂「重大な事由」もこれを必ずしも当事者双方又は一方の有責事由に限ると解する必要はないのである。」/(ウ)婚姻関係が完全に破綻した後に原告の有責事由が生じた(最判昭46・5・21)=「その同棲は、…婚姻関係を破綻させる原因となつたものではないから、これをもつて本訴離婚請求を排斥すべき理由とすることはできない。」 図:有責配偶者にあたらない3場面

  • 大法廷判決の枠組みを使わずに認められうる場合
  • (ア)原告にも落ち度はあるが被告により大きな落ち度がある(最判昭30・11・24)=「かような場合に被上告人の離婚請求を認めても違法とはいえない。」
  • (イ)双方に婚姻を継続し難い事由がある(最判昭31・12・11)=「右七七〇条一項五号に所謂「重大な事由」もこれを必ずしも当事者双方又は一方の有責事由に限ると解する必要はないのである。」
  • (ウ)婚姻関係が完全に破綻した後に原告の有責事由が生じた(最判昭46・5・21)=「その同棲は、…婚姻関係を破綻させる原因となつたものではないから、これをもつて本訴離婚請求を排斥すべき理由とすることはできない。」

大法廷判決の厳格な枠組みが使われるのは、破綻につき専ら責任のある一方の当事者、つまり、有責配偶者からの請求のときです。次の3つの場面は、有責配偶者による離婚請求にあたらず、この枠組みを使わずに、請求が認められうると整理されます。1つめ。原告にも落ち度はあるが、被告のほうにより大きな落ち度がある場合です。判決は、被上告人側にもいくらかの落度は認められるが、上告人側により多大の落度があると認めている、かような場合に被上告人の離婚請求を認めても違法とはいえない、と言っています。この判決では、離婚を求めたのは被上告人で、より大きな落ち度があったのは、上告した側です。たとえば、妻が一度、別の相手と関係を持ったものの、夫のほうが何年も暴力を振るい続けて、それで夫婦が壊れた、という場合です。妻からの請求でも、認められうるわけです。2つめ。双方に、婚姻を継続し難い事由がある場合です。判決は、婚姻生活破綻の経緯は極めて微妙複雑で、故意過失その他責任の所在を当事者の一方のみに断定できない場合がある、と言い、重大な事由は、必ずしも当事者双方または一方の有責事由に限ると解する必要はない、と言っています。たとえば、夫は浪費を重ね、妻は家を空けがちで、どちらが先とも言えないまま、少しずつ壊れていった場合です。3つめ。婚姻関係が完全に破綻した後で、原告に有責な事情が生じた場合です。たとえば、別の相手との同棲です。判決は、その同棲は婚姻関係を破綻させる原因となったものではないから、これをもって離婚請求を排斥する理由にすることはできない、と言っています。

3つめの場面と冒頭の設例は、似ていますが、別物です。決め手は、その有責事由が、破綻の原因か、という点です。別居の後に、別の相手と暮らし始めたなら、破綻の原因は、別にあります。同棲が先で、それが破綻の原因なら、有責配偶者の問題です。破綻の原因が先か、同棲が先か。そして、責任は、誰に、どれだけあるか。この2つで、使い分けます。有責配偶者にあたらない3つの場面を示した判決は、事案の細かい事実までは覚えなくて構いません。結論と判決の言葉だけを覚えれば足ります。

冒頭の答え 2つの事情で当てはめる

冒頭の設例の当てはめ。事情A=15年同居した後に夫が家を出て10年・子なし・妻は正社員で自活・夫は離婚後の財産の分け方について誠意のある申出。→(ア)相当の長期間・(イ)未成熟の子なし・(ウ)特段の事情が見当たらない→認容されうる。事情B=家を出たとき子は2歳・いまは中学生・妻はパート収入で生活費の大半は夫からの送金。→(イ)未成熟の子がいる・(ウ)妻は苛酷な状態におかれうる→認められない方向。 図:冒頭の設例の当てはめ

  • 事情A=15年同居した後に夫が家を出て10年・子なし・妻は正社員で自活・夫は離婚後の財産の分け方について誠意のある申出
  • →(ア)相当の長期間・(イ)未成熟の子なし・(ウ)特段の事情が見当たらない→認容されうる
  • 事情B=家を出たとき子は2歳・いまは中学生・妻はパート収入で生活費の大半は夫からの送金
  • →(イ)未成熟の子がいる・(ウ)妻は苛酷な状態におかれうる→認められない方向

冒頭に戻ります。夫が家を出て、別の相手と暮らして10年。妻は反対。答えは、10年だから認められる、認められない、とは言えません。年齢と同居期間に対して、相当の長期間か。未成熟の子がいないか。妻が離婚で極めて苛酷な状態におかれないか。この3つで決まります。2つの事情で当てはめます。事情Aです。夫婦は結婚して15年同居した後、夫が家を出て10年です。子はいません。妻は正社員として働いて、自活しています。夫は、離婚後の財産の分け方について、誠意のある申出をしています。事情Aは、認められる方向で合っています。考える順序は、こうです。まず、別居の期間と、子の有無を見ます。両方そろっていれば、次に、特段の事情が認められないかを見ます。妻の自活と夫の申出から、特段の事情は見当たりません。ですから、認容されうる、となります。事情Bです。夫が家を出たとき、子は2歳でした。いまは中学生です。妻はパート収入で、生活費の大半は、夫からの送金です。この送金は、前に見た婚姻費用の分担にあたります。別居していても、離婚しない限り、夫は分担を免れない、と見ました。離婚すれば、妻自身の生活の分の分担は、なくなります。

ただし、正確に言います。未成熟の子がいる場合を、この規範は、直接は答えていません。規範の外に出て、信義則に照らし、判決が挙げた斟酌する事情で判断することになります。その事情の中に、未成熟の子の監護、教育、福祉と、離婚後の相手方の経済的状態がありました。事情Bでは、その2つがどちらも、請求を退ける側に働きます。ですから、規範が直接は答えていなくても、認められない方向、と言えるのです。判決の結論の形は、特段の事情の認められない限り、です。この形と、あてはめの順序を、あわせて覚えてください。最後に、問いです。家を出た夫が、家を出る前から、夫婦関係は完全に壊れていた、と主張したら、何が争点になるでしょうか?

破綻の原因が先か、同棲が先か、です。夫の言うとおりなら、同棲は破綻の原因ではなく、有責配偶者にあたらない3つめの場面になります。ここも、論文で論点になりえます。

今日の地図(保存版)

まとめ=関門の一覧。①調停前置(257条)→②離婚原因(1〜3号は具体・4号は一般条項・重婚は列挙外)→③裁量棄却(1〜3号だけ)→④有責配偶者の関門(4号の請求・信義則)。冒頭の答え=事情A(認容されうる)/事情B(認められない方向)。号の数え方=現行は4号まで・古い資料の5号は現行の4号。

  • まとめ=関門の一覧
  • ①調停前置(257条)→②離婚原因(1〜3号は具体・4号は一般条項・重婚は列挙外)→③裁量棄却(1〜3号だけ)→④有責配偶者の関門(4号の請求・信義則)
  • 冒頭の答え=事情A(認容されうる)/事情B(認められない方向)
  • 号の数え方=現行は4号まで・古い資料の5号は現行の4号

まとめます。1つめ、訴えの入口です。離婚の訴えの前に、まず家庭裁判所の調停を経ます。調停前置主義、家事事件手続法257条です。経ずに訴えると、却下ではなく、職権で調停に付されます。2つめ、離婚原因です。770条1項は、4つに限ります。不貞な行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、その他婚姻を継続し難い重大な事由です。条文どおりの要件で、重婚は列挙されていません。令和6年の改正で、現行は4号までです。3つめ、1号から3号です。不貞な行為は、自由な意思にもとづく、配偶者以外との性的関係です。悪意の遺棄は、正当な理由なく、752条の義務を果たさないことです。3号は3年で、失踪宣告は7年です。4つめ、4号と裁量棄却です。4号は、破綻主義の一般条項で、全体として破綻したかで判断します。裁量棄却は、1号から3号だけに働き、4号には働きません。5つめ、有責配偶者からの請求です。かつての判例は、認めませんでした。大法廷判決は、それを変更して、信義誠実の原則の枠内で、判断しました。有責配偶者からの請求でも、別居が両当事者の年齢および同居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、極めて苛酷な状態におかれる等の特段の事情の認められない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとはできない。ここは、論文で論点になりえます。判決自身は、破棄差戻しです。6つめ、有責配偶者にあたらない3つの場面です。相手方により大きな落ち度がある場合。双方に事由がある場合。破綻の後に、有責な事情が生じた場合です。

冒頭の答えです。家を出た夫の離婚の訴えは、10年という数字だけでは決まりません。年齢と同居期間に対する別居の長さ、未成熟の子の有無、そして、妻が極めて苛酷な状態におかれるような特段の事情があるかで決まります。事情Aなら認容されうる、事情Bなら認められない方向です。離婚の効果や、財産分与、慰謝料は、別の回で扱います。

参照条文

  • 家事事件手続法257条
  • 家事事件手続法244条
  • 民法770条
  • 民法752条
  • 民法1条2項

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