民訴ゼロから民訴#26

訴状という一枚の紙——記載事項・審査・費用と、オンライン提出

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第1章 訴訟の開始 ㉖/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

訴状は誰に何を伝える紙か

訴状の二方向性の板(裁判所に対しては、どんな審判を申し立てているかを明示する。被告に対しては、どんな主張をしているかを明示する。以下の記載事項も審査も、この2つが満たせるかだけで決まる) 図:訴状の二方向性の板

訴状というのは、一枚の紙で、二方向を向いています。1つは、裁判所に対してです。どんな審判を申し立てているのか、裁判所に分かるように書きます。もう1つは、被告に対してです。どんな主張をされているのか、被告に分かるように書きます。手紙にたとえるなら、近いです。1枚の紙が、届け先の違う2つの役目を同時に果たしています。そして、これから見る記載事項も、審査の合否も、全部、この2つが満たせているかどうかだけで決まります。

条文民事訴訟法134条1項

民事訴訟法第134条第1項(訴え提起の方式) 訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。

訴訟は、この条文のとおり、訴状を裁判所に提出することから始まります。では、その訴状に、具体的に何を書くのかを見ていきましょう。

必要的記載事項は3つ

必要的記載事項の板(①当事者及び法定代理人②請求の趣旨③請求の原因。3つは、裁判所が審判対象を見定められるか、被告が戦い方を決められるか、という2つの目的から出てくる) 図:必要的記載事項の板

前回、請求はどうやって特定される、と言いましたか?請求の趣旨と、請求の原因の、2つでした。今日は、その2つを含めて、訴状に何を書くかを見ていきます。

条文民事訴訟法134条2項

民事訴訟法第134条第2項(訴え提起の方式) 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。 一 当事者及び法定代理人 二 請求の趣旨及び原因

訴状に必ず書かなければならないことは、この条文が定める3つです。当事者及び法定代理人、請求の趣旨、請求の原因です。この3つしか無いことには、理由があります。さっきの二方向を、思い出してください。裁判所が審判の対象を見定められるか、被告が戦い方を決められるか。この2つを満たすのに、最低限必要なものだけが、必要的記載事項になっています。請求の趣旨が無ければ、裁判所は何を判断すればいいか分かりません。請求の原因が無ければ、被告はどう防御すればいいか分かりません。3つのどれが欠けても、二方向のどちらかが崩れてしまうんです。試しに、当事者の欄が空白の訴状を、想像してみてください。

被告候補が複数いたら、誰が訴えられているのかも分かりません。たった1つの空白で、二方向とも崩れてしまうんです。では、それぞれの中身を見ていきましょう。

当事者を、どう書くか

当事者の書き方の板(自然人は氏名と住所、法人は商号・名称と本店・主たる事務所の所在地。なぜ住所まで書くのか——同姓同名を区別するため、そして訴状を届ける先を決めるため) 図:当事者の書き方の板

まず、当事者です。「その人だと特定できる」という程度まで書きます。自然人なら、氏名と住所です。法人なら、商号や名称と、本店・主たる事務所の所在地です。なぜ住所まで要るのか、考えてみましょう。1つは、同姓同名の人を区別するためです。もう1つは、この後の回で扱う送達——訴状を届ける先を決めるためです。訴訟能力を欠く人が当事者になるときは、法定代理人も書きます。例えば、破産管財人のような立場で訴える人は、どんな資格でその立場が認められるのかも、示すのが望ましいとされています。破産した人の財産を管理して、その財産のために訴える立場の人です。

Bの住所が分からないときは、管理会社などを通じて、事前に調べておく必要があります。Aの氏名と住所、Bの氏名と住所を書けば足ります。

請求の趣旨と請求の原因

請求の趣旨と請求の原因の板(請求の趣旨=求める審判の内容を、簡潔かつ確定的に。認容判決の主文にそのまま置ける表現で書く。請求の原因=趣旨だけでは足りない分を補い、二つ合わせて訴訟物を1個に絞りきるための事実) 図:請求の趣旨と請求の原因の板

次に、請求の趣旨です。求める審判の内容を、簡潔かつ確定的に書きます。認容判決の主文に、そのまま置ける表現で書く、ということです。訴訟物の回で見た図式を、覚えていますか。訴訟上の請求イコール訴訟物イコール請求の趣旨イコール判決主文、でした。請求の趣旨の書き方は、判決の主文の書き方でもあるんです。最後に、請求の原因です。請求の趣旨と合わせて、訴訟物を特定するために必要な事項を書きます。前回、なぜ請求を特定しなければならないかを見ましたね。それを、実際に紙の上でやるのが、請求の趣旨と請求の原因なんです。

訴訟物の回で見たとおり、「100万円を支払え」とだけ書いても、それが貸したお金なのか、品物の代金なのかは決まりませんよね。どの権利について審判してほしいのかまで決めるのが、請求の原因です。いつ誰との、どの契約から生まれた権利かを書きます。この2つが揃って初めて、審判の対象になる権利が1個に絞られる。だから、必要的記載事項なんです。

特定されているか、いないか

特定の境界ペアの板(「Bは原告に相当の金額を支払え」は金額が無く特定されない。「Bは、午後10時から午前6時まで、床に衝撃を加える行為をしてはならない」は方法まで書いた具体的不作為請求で特定される) 図:特定の境界ペアの板

ここで、2つの請求の趣旨を比べてみましょう。1つ目、「被告は原告に相当の金額を支払え」。金額が無いので、被告は何に対して防御すればいいか分かりません。裁判所も、いくら認めればいいか判断できません。2つ目です。Aの請求の趣旨を、具体的に書いてみましょう。「Bは、午後10時から午前6時まで、床に衝撃を加える行為をしてはならない」。今回のAの請求は、時間も行為も具体的に書いた、方法まで指定する不作為請求です。抽象的不作為請求と並ぶ、もう1つの型として覚えておいてください。加えて、半年分の慰謝料として、24万円を支払え、という部分も書きます。

この2つの請求の趣旨なら、被告は何をやめればいいか分かりますし。裁判所も、何を認めるかを判断できます。何時から何時まで、何をやめればいいかが、はっきり分かります。だから、争うにしても、認めるにしても、方針を決められるんです。裁判所が審判対象を見定められるか、被告が戦い方を決められるか。この2つの物差しさえ持っていれば、どんな請求でも自分で判定できます。

訴状の骨組みを作る

Aの訴えの関係図(3階に住むAが、4階に住むBに対して、床への衝撃行為の禁止と、半年分の慰謝料24万円を求める) 図:Aの訴えの関係図

ここまでの中身を、実際に紙の形に組んでみましょう。訴状には、決まった見出しの並びがあります。表題は「訴状」、その下に作成年月日と、宛先の裁判所を書きます。続いて、当事者の表示と事件名です。そして中心になるのが、第1・請求の趣旨と、第2・請求の原因です。最後に、証拠方法と附属書類を添えます。

訴状の骨組みの板(表題「訴状」・作成年月日・宛先の裁判所/当事者の表示・事件名/第1 請求の趣旨・第2 請求の原因/証拠方法・附属書類) 図:訴状の骨組みの板

  • 表題「訴状」・作成年月日・宛先の裁判所
  • 当事者の表示・事件名
  • 第1 請求の趣旨・第2 請求の原因
  • 証拠方法・附属書類

当事者にAとBの氏名・住所を書き、請求の趣旨にさっきの2つを書きます。請求の原因には、半年前からの経緯や、管理会社に申し入れた事実を書きます。この並びは実務の型で、中身はケースごとに違います。当事者と請求の趣旨で、裁判所への説明が終わります。そして請求の原因で、被告への説明が仕上がるんです。

任意的記載事項——義務なのに却下されない

任意的記載事項の板(規53条1項=請求を理由づける事実を具体的に記載し、争いになりそうな点や判断の手がかりになる周辺の重要な事実・証拠を記載しなければならないと定める。なぜ書くのか=何が争いになるかを早い段階で表に出し、審理を早く濃くするため。必要的との違い=却下〈137条2項〉の対象は134条2項違反だけを指す→規53条は入らず、欠けても却下されない) 図:任意的記載事項の板

訴状には、これまでの3つ以外に、書くよう求められていることが、もう1つあります。民事訴訟規則53条1項には、請求を理由づける事実を具体的に記載したうえで、争いになりそうな点や、判断の手がかりになる周辺の重要な事実、そして立証に使う証拠を、「記載しなければならない」と定められています。請求の原因は、どの権利についての審判かを決めるだけでなく、被告が防御の方針を立てられ、裁判所も何を審理するか分かる程度の事実まで求められるものでした。規則53条1項は、それに上乗せして、その権利を理由づける事実を具体的に書くよう求めています。134条2項の請求の原因と同じ事実を指すこともありますが、根拠になる条文も、求められる具体性の度合いも違うんです。

そこに、からくりがあります。137条1項が対象にしているのは、134条2項に違反した場合、つまり当事者や請求の趣旨・原因が欠けた場合だけです。その不備を裁判長が補正するよう命じて、それでも直らなければ、2項によって訴状が却下されます。書く義務はあっても、書かなくても訴状は却下されません。だから、任意的記載事項と呼ばれるんです。管理会社に何度申し入れたか、という記録などが、それにあたります。訴状に請求の趣旨と原因しか書かれていないと、何が争いになるかは、被告の答弁を待たないと分かりません。ですから、はじめの1枚で争点の見当をつけられるようにしておく。そうすれば、審理を早く、そして濃くできるわけです。例えばAの事案なら、管理会社への申入れの記録を最初から添えておく。そうすると、Bが「一度も苦情を聞いていない」と争うのか、それとも音の程度を争うのかが、早い段階で見えます。

効果でまとめると、必要的記載事項が欠ければ、補正を経て最後は却下されます。任意的記載事項は、欠けても却下にはつながらず、審理が少し遅く、薄くなるだけです。

名前も住所も明かせないとき

秘匿制度の板(社会生活を営むのに著しい支障が生じるおそれの疎明があれば、裁判所は秘匿する旨の裁判ができる〈133条1項〉。裁判所が定めた代わりの事項を書けば、必要的記載事項を満たしたとみなす〈133条5項〉) 図:秘匿制度の板

訴状は被告に伝える紙、という原則がありました。だからこそ、伝えることで人の生活が壊れる場面には、別の書き方が用意されています。住所や氏名を相手に知られると、社会生活を送るのに著しい支障が出るおそれがある。それを疎明できれば、裁判所は秘匿する旨の裁判ができます。133条1項です。一応確からしい、と裁判所に思ってもらう程度の証明です。この場合、裁判所が住所や氏名の代わりになる事項を定めて、それを書けば、必要的記載事項を満たしたとみなされます。133条5項です。この制度の詳しい中身は、別の回でじっくり扱います。

訴状をどう出すか

訴状の提出方法の板(原則=訴状を裁判所に提出する〈132条の10〉。オンライン提出=電子情報処理組織を使い、記載すべき事項をファイルに記録する方法で申立てができる。到達の時点=ファイルに記録された時に裁判所に到達したものとみなす〈132条の10第3項〉) 図:訴状の提出方法の板

ここからは、書き上げた訴状を、どう出すかという話です。原則は、さっき見たとおり、訴状を裁判所に提出することです。これに加えて、132条の10という条文が、電子情報処理組織を使った提出を認めています。オンライン提出は、これから始まる新しい制度ではありません。そこは正確に押さえておきたいところです。この制度は、令和4年の改正で作られ、すでに全面的に始まっています。もともとは、督促手続という別の手続のために作られたシステムを、訴訟一般に広げたものです。書面に書くべき事項を、ファイルに記録する方法で、申立てを行います。そして、ここが実務上とても大事な点です。132条の10第3項です。オンラインで出した場合、ファイルに事項が記録された時に、裁判所に到達したとみなされます。

時効の完成が止まる日や、出訴期限の最終日に、この違いが直接効いてきます。この効果の中身は、また別の回で見ましょう。

オンライン提出は、権利か、義務か

権利か義務かの板(本人訴訟=オンラインは権利、従来どおり書面でもよい。訴訟委任を受けた訴訟代理人=義務〈132条の11第1項1号〉。システム故障など自分の責めに帰することができない事由があるときは義務を課さない〈同条3項〉) 図:権利か義務かの板

では、オンラインで出すことは、義務なんでしょうか、それとも権利なんでしょうか。本人訴訟なら、オンラインは権利です。従来どおり、紙で出しても構いません。ところが、弁護士のように訴訟委任を受けた訴訟代理人には、義務が課されます。

条文民事訴訟法132条の11第1項第1号

民事訴訟法第132条の11第1項第1号(電子情報処理組織による申立て等の特例) 次の各号に掲げる者は、それぞれ当該各号に定める事件の申立て等をするときは、前条第一項の方法により、これを行わなければならない。ただし、口頭ですることができる申立て等について、口頭でするときは、この限りでない。 一 訴訟代理人のうち委任を受けたもの(第五十四条第一項ただし書の許可を得て訴訟代理人となったものを除く。) 当該委任を受けた事件

正確には、少し違います。弁護士だから義務なのではなく。訴訟委任を受けた訴訟代理人だから、義務が課されるんです。簡易裁判所で、裁判所の許可を得て代理人になった人は、この義務から除かれます。弁護士という資格ではなく、委任を受けた訴訟代理人という立場に着目しているんです。訴訟代理人は、日常的に手続を扱う専門家だからです。システムを使いこなせる主体から義務化することで、無理なくアイティー化を進められます。そして、義務にも逃げ道があります。裁判所のシステムが故障するなど、自分の責めに帰することができない事由があるときは、オンラインでできなくても、義務を課されません。

義務があって、しかも例外もある。ここまでセットで理解してください。

訴状は、誰の目を通るのか

審査の流れの板(1.訴状が届く → 2.書記官が担当を割り振る(配布) → 3.割り振られた裁判官、合議体なら裁判長が中身を見る) 図:審査の流れの板

訴状を出したら、それで終わりではありません。まず、裁判所の書記官が、その事件を特定の裁判官や合議体に配布します。どの裁判官がこの事件を担当するかを、割り振る作業です。まったくの無作為ではなく、庁内の分担のルールに従って割り振られます。そうやって割り振られた裁判官が、合議体なら裁判長が、訴状の中身を見ます。審査で何が見られるのか。そこが、今日いちばんの山場です。実は、審査には2つのルートがあります。

訴状審査の2つのルート

訴状審査の2つのルートの対比板(①記載の不備=裁判長が補正を命ずる。直さないと裁判長が命令で却下、不服は即時抗告〈137条〉。②手数料の未納=裁判所書記官が納付を命ずる処分。異議を経てなお納めなければ裁判長が命令で却下、不服は即時抗告〈137条の2第1項・第6項・第7項〉) 図:訴状審査の2つのルートの対比板

  • ①記載の不備=裁判長が補正を命ずる。直さないと裁判長が命令で却下、不服は即時抗告〈137条〉。
  • ②手数料の未納=裁判所書記官が納付を命ずる処分。異議を経てなお納めなければ裁判長が命令で却下、不服は即時抗告〈137条の2第1項・第6項・第7項〉

実は、担当も手続も違います。たとえるなら、中身を読む校閲と、代金を数える窓口を、分けているようなものです。1つ目は、記載の不備です。裁判長が、相当の期間を定めて、補正を命じます。

条文民事訴訟法137条

民事訴訟法第137条(裁判長の訴状審査権) 訴状が第百三十四条第二項の規定に違反する場合には、裁判長は、相当の期間を定め、その期間内に不備を補正すべきことを命じなければならない。 2 前項の場合において、原告が不備を補正しないときは、裁判長は、命令で、訴状を却下しなければならない。 3 前項の命令に対しては、即時抗告をすることができる。

期間内に直らなければ、裁判長が命令で訴状を却下します。不服があれば、即時抗告ができます。2つ目は、手数料の未納です。こちらは、裁判長ではなく、裁判所書記官が担当します。訴額の計算を間違えて、必要な金額より少なく納めてしまった場合などです。書記官が、相当の期間を定めて、納付を命ずる処分をします。137条の2第1項です。それでも払われなければ、まず異議の機会が1週間だけ与えられます。それでも納めなければ、最終的には裁判長が命令で訴状を却下します。137条の2第6項です。こちらも、不服があれば即時抗告です。137条の2第7項です。

記載の不備は、審判の対象が読めるか、という中身の判断です。だから、裁判官である裁判長が見ます。一方、手数料の未納は、決められた金額が払われているかという、計算の話です。性質が違うから、判断する人も、そこに至る手続も、分けているんです。実務では、いきなり補正命令を出す前に、書記官が電話などで直すよう促す運用もあります。民事訴訟規則56条です。命令を出して却下まで進むより、原告にも裁判所にも負担が少ないからです。

訴状却下は、「命令」である

訴状却下命令と訴え却下判決の対比板(訴状却下命令=そもそも訴状が体を成していない、口頭弁論を経ない、不服は即時抗告。訴え却下判決=訴訟要件を欠く、口頭弁論を経た判決、不服は控訴) 図:訴状却下命令と訴え却下判決の対比板

ここは、正確に区別してほしいところです。訴状の却下は、判決でも決定でもなく、命令です。だから、不服申立ての方法も、控訴ではなく即時抗告になります。この2つは、原因からして違います。訴状却下命令は、そもそも訴状が体を成していない場合です。だから、口頭弁論を開くところまで進みません。一方、訴え却下判決は、訴訟要件を欠く場合に出るもので、口頭弁論を経たうえでの判決です。判決・決定・命令という裁判の形の違いは、別の回で本格的に扱います。今日は、訴状の却下が命令であること、だから即時抗告になること。この接続だけを、押さえておいてください。審査を無事に通れば、裁判長は口頭弁論の期日を指定し、当事者を呼び出します。

条文民事訴訟法139条

民事訴訟法第139条(口頭弁論期日の指定) 訴えの提起があったときは、裁判長は、口頭弁論の期日を指定し、当事者を呼び出さなければならない

この呼出しは、訴状と一緒に被告へ送られる仕組みで実現します。

訴えを起こすと、いくらかかるか

手数料の階段の板(訴額100万円なら1万円、500万円なら3万円、1000万円なら5万円。訴額が上がるほど、1円あたりの負担は軽くなる。プラス定額部分2,500円〈オンラインなら1,400円〉、被告が1人増えるごとに2,000円) 図:手数料の階段の板

ここから、もう1つの山場です。訴えを起こすには、お金がかかります。訴額に応じた手数料があります。訴額100万円なら、1万円です。500万円なら3万円、1000万円なら5万円になります。訴額が上がるほど、1円あたりの負担は軽くなっています。単純な比例のままだと、高額な紛争ほど、事実上訴えられなくなってしまうからです。階段になっていても、請求が大きければ、先に納める額は重くなります。これに加えて、定額の部分もあります。2,500円です。オンラインで申し立てる場合は、1,400円に下がります。被告が2人以上いる場合は、1人増えるごとに2,000円が加算されます。

被告が増えるぶん、裁判所の審理の手間も増えるからです。この階段のおかげで、大きな請求でも訴えを起こしやすくなっています。

郵便料の予納がいらなくなった理由

郵便料の一本化の板(従来は各地裁が定める郵便料を、手数料とは別に納めていた。今は郵便料が手数料の定額部分に一本化された。なぜ=送達がシステム送達に置き換わっていく手続のデジタル化と対になっている。納め方は原則現金) 図:郵便料の一本化の板

印紙とは別に郵便代を納める、というそのイメージは、少し前まで正しかったんです。かつては、書類を送るための郵便料を、各地方裁判所が定める額で、手数料とは別に、あらかじめ納める必要がありました。訴状や呼出状を、当事者に郵送で届けるための費用です。今は、その仕組みが無くなり、さっきの定額部分に一本化されています。送達の仕組みが、少しずつシステム送達に置き換わっていくからです。紙を刷って郵送する必要が減れば、郵便料を別に納めさせる理由も薄れます。紙を刷って送る手間が減るぶん、費用も下がります。納め方についても、触れておきましょう。原則は現金です。書面で申し立てる場合で、やむを得ない事由があるときだけ、申立書に収入印紙を貼ります。

印紙を貼るほうが、今は例外側になっています。

勝っても、その場でお金は戻らない

敗訴者負担と費用確定の板(主文に書かれるのは「訴訟費用は被告の負担とする」という負担の裁判〈誰が負担するかの判断〉だけ。金額を決めるのは別の手続=訴訟費用額の確定〈第一審裁判所の裁判所書記官・71条1項〉。境界=弁護士費用は訴訟費用に含まれない) 図:敗訴者負担と費用確定の板

条文民事訴訟法61条

民事訴訟法第61条(訴訟費用の負担の原則) 訴訟費用は、敗訴の当事者の負担とする。

訴訟費用については、この条文が原則を定めています。Aが勝てば、判決の主文に「訴訟費用は被告の負担とする」と書かれます。その場では戻ってきません。ここが、誤解しやすいところです。主文に書かれるのは、誰が負担するかという判断だけです。この判断のことを、負担の裁判といいます。具体的にいくらか、という金額は、別の手続で決めます。訴訟費用額の確定という手続です。裁判官ではなく、第一審裁判所の裁判所書記官です。71条1項です。当事者の申立てがあって、はじめて動きます。金額の計算は、書記官の仕事なんです。不服があれば、まず異議を出し、その決定に対してさらに即時抗告ができます。

手数料や、書類の作成にかかった費用なども、訴訟費用に含まれます。そして、もう1つ、境界線を引いておきましょう。弁護士費用は、この訴訟費用には含まれません。訴訟費用に何が入るかは、民事訴訟費用等に関する法律という別の法律が、項目を決めています。弁護士に頼むかどうかは当事者が自分で決めることなので、その報酬はその項目に入っていないんです。敗訴者負担の原則には、この輪郭があります。

お金が無い人は、どうするのか

お金が無い人への手当ての対比板(訴訟救助=裁判所が訴訟費用の支払を猶予する。法律扶助=法テラス〈日本司法支援センター〉が弁護士費用等を立て替え、無料相談を行う。裁判を受ける権利を絵に描いた餅にしないための2つの仕掛け) 図:お金が無い人への手当ての対比板

そこに答える制度が、2つ用意されています。1つは、訴訟上の救助です。

条文民事訴訟法82条1項

民事訴訟法第82条第1項(救助の付与) 訴訟の準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない者又はその支払により生活に著しい支障を生ずる者に対しては、裁判所は、申立てにより、訴訟上の救助の決定をすることができる。ただし、勝訴の見込みがないとはいえないときに限る。

二重に否定が入っていますね。ここは、丁寧に読む価値があります。「勝てる見込みがある人」だけを対象にしているのではありません。「勝てる見込みが無い、とは言い切れない人」まで対象に含めています。勝ちそうな人だけを助ける制度ではない、というのがポイントです。効果は、費用の支払の猶予です。免除ではありません。勝訴して相手から回収できたら、そこから払います。そして、ここでも弁護士費用は対象外です。敗訴者負担と同じ輪郭です。この判断は、審級ごとに行われます。第一審で救助を受けても、控訴審では改めて申し立てて判断してもらう必要がある、ということです。もう1つの制度が、法律扶助です。総合法律支援法のもとで、日本司法支援センター、通称、法テラスが担っています。ADRの回で、どの機関が自分の紛争に合うかを紹介する窓口として出てきましたね。あの法テラスの、もう1つの顔です。弁護士費用などを立て替えたり、無料の法律相談をしたりします。

担い手が違います。訴訟救助は裁判所が費用の支払を猶予する制度です。法律扶助は、法テラスが弁護士費用を立て替える制度です。対象も担い手も別なので、対比して覚えてください。この2つは、憲法32条が保障する裁判を受ける権利を、絵に描いた餅にしないための仕掛けなんです。

訴状の一生

訴状の一生の板(書く→出す→審査→〈次回〉被告に届く→訴訟係属。この紙が被告の手元に届いてはじめて、訴訟は動き出す) 図:訴状の一生の板

冒頭のAの話に戻りましょう。Aが紙に書くのは、当事者、請求の趣旨、請求の原因の3つだけです。それを、紙かオンラインで出すと、裁判長と書記官という2つの目を通ります。あわせて、訴額に応じた手数料を納めます。どの段階も、二方向を満たしているかを確かめる関門なんです。二方向を満たすまで、この紙は前に進めません。1枚の紙の周りに、今日の話全部がぶら下がっています。ただ、大事な注意点があります。この訴状は、まだ裁判所とAの間にしかありません。この紙がBの手元に届いてはじめて、訴訟は動き出します。

今日の地図(保存版)

まとめの板(軸=裁判所が審判対象を見定められるか、被告が戦い方を決められるか。この軸の上にあるもの=必要的記載事項の3つ・審査の2つのルート・費用とセーフティネット。丸暗記の結論ではなく、この1本の軸を持ち帰る) 図:まとめの板

今日の話を、1本の軸でまとめます。裁判所が審判の対象を見定められるか、被告が戦い方を決められるか。この2つの物差しの上に、必要的記載事項の3つも、審査の2つのルートも、費用とセーフティネットの話も、全部乗っています。そして、そもそも訴えられなければ、この軸も意味を持ちません。だからこそ、お金の壁を崩す仕組みも、あわせて用意されているんです。今日学んだ言葉の一つひとつより、この軸を思い出せることのほうが大事です。この紙がBの手元に届いて、初めて訴訟は動き出します。

参照条文

  • 民事訴訟法134条1項
  • 民事訴訟法134条2項
  • 民事訴訟法132条の11第1項第1号
  • 民事訴訟法137条
  • 民事訴訟法139条
  • 民事訴訟法61条
  • 民事訴訟法82条1項

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