民訴ゼロから民訴#34

訴えの利益と将来給付の訴え

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第1章 訴訟の開始 ㉞/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

財布が空の相手に、判決をもらう意味はあるか

冒頭事案の板(貸主Aは、友人Bに30万円を貸した。返済期限は既に過ぎている。ところがBには、めぼしい財産が何もない。Aは、それでもBを訴えて勝訴判決をもらう意味はあるか) 図:冒頭事案の板

Aは、友人のBに、30万円を貸しました。返済の期限は、もう過ぎています。ところが、Bには、めぼしい財産が何もありません。それでも、Aがこの訴えを起こす意味はあるでしょうか。実は、意味はあります。今日は、この「判決を出す意味があるか」という関門から始めます。この関門を、訴えの利益と呼びます。まず、この言葉の正体から見ていきましょう。

訴えの利益とは何か——判決を出す意味を測るものさし

訴えの利益の定義の板(訴えの利益=訴えの内容である請求について、本案判決を受けるために備えているべき正当な利益・必要性。①訴訟制度を無意味な紛争から守る選別機能 ②被告を無用な応訴の負担から解放する機能。欠けば訴え却下=本案の中身を判断してもらえない) 図:訴えの利益の定義の板

  • 訴えの利益=訴えの内容である請求について、本案判決を受けるために備えているべき正当な利益・必要性。
  • ①訴訟制度を無意味な紛争から守る選別機能
  • ②被告を無用な応訴の負担から解放する機能。欠けば訴え却下=本案の中身を判断してもらえない

訴えの利益とは、ある請求について、裁判所に本案判決、つまり中身の判断をしてもらうだけの正当な利益や必要性のことです。訴えた側の主張が認められるか、認められないか、その中身に踏み込んで答えを出す判決のことです。逆に、訴えの利益のような入口の条件が欠けていると、中身には入らず、訴えそのものを門前払いする判決になります。だからこそ、訴えの利益は入口で必ず確認されます。この関門には、2つの役割があります。1つ目は、意味の無い紛争に、裁判所という限られた場を使わせない役割です。裁判所が扱える事件の数には限りがあります。誰の得にもならない訴えまで受け入れていると、本当に判断が必要な事件の審理が遅れます。

2つ目は、被告を、無用な応訴の負担から解放する役割です。訴えられれば、答弁書を書き、法廷に出て、争わなければなりません。意味の無い訴えにまで、この負担を強いるのは酷です。この2つの役割のために、訴えの利益は訴訟要件の1つとされています。

訴訟要件は、誰が調べ、誰が資料を集めるか

訴訟要件の2軸の板(調査の開始=職権調査事項(裁判所が自ら気づいて調べる)/抗弁事項(被告の申立てで初めて調べる=訴訟費用の担保・仲裁合意・不起訴合意)。資料の収集=職権探知主義(裁判所も自ら資料を集める)/弁論主義(当事者が出した資料で判断)。訴えの利益=職権調査事項+弁論主義) 図:訴訟要件の2軸の板

  • 調査の開始=職権調査事項(裁判所が自ら気づいて調べる)
  • 抗弁事項(被告の申立てで初めて調べる=訴訟費用の担保・仲裁合意・不起訴合意)。資料の収集=職権探知主義(裁判所も自ら資料を集める)
  • 弁論主義(当事者が出した資料で判断)。訴えの利益=職権調査事項+弁論主義

訴訟要件の全体像は、別の回でじっくり扱いますが、今日の理解に必要な範囲だけ押さえておきます。訴訟要件には、大きく2つの軸があります。1つ目は、誰が調査を始めるか、という軸です。裁判所が自分から気づいて調べる場合を、職権調査事項と呼びます。当事者が何も言わなくても、裁判所が自分から調べます。二重起訴の回で、142条に違反していないかは裁判所が自分で調べる、と見ましたね。訴えの利益も、この職権調査事項です。さきほどの1つ目の役割を思い出してください。限られた裁判所の場を、意味の無い訴えに使わせないというのは、当事者2人だけの都合ではなく、順番を待っている他の利用者みんなのための話です。だから、被告が黙っていても、裁判所の側で確かめます。

逆のパターンもあります。被告のほうから申立てがあって初めて調べる、抗弁事項です。例えば、不起訴の合意は、この件は裁判にしないと、当事者同士で約束しておくことです。仲裁合意は、裁判以外の解決方法を扱った回で見た、仲裁人の判断に任せるという取り決めでした。訴訟費用の担保は、原告が日本に住所などを持たないとき、負けた場合の費用の支払いに備えて、担保を立てさせるものです。どれも被告の利益を守るための決まりなので、被告が言い出さなければ、裁判所は調べません。2つ目の軸は、誰が資料を集めるか、です。当事者が出した資料の範囲で裁判所が判断するなら弁論主義、裁判所も自分で資料を集めにいくなら職権探知主義です。

訴えの利益は、職権調査事項でありながら、資料の収集は弁論主義です。裁判所は自分から気づいて調べますが、材料そのものは、当事者が出したものが基本になります。判決をもらう意味があるかどうかは、争いの中身と切り離せず、その事情を一番よく知っているのは当事者だからです。この位置づけだけ押さえて、本題の給付の訴えに入りましょう。

給付の訴えの利益——現在と将来の分かれ道

給付の訴えの分類板(給付の訴え=原告の被告に対する給付請求権を主張する訴え。給付判決には執行力があり、被告が任意に履行しなければ強制執行できる。現在の給付の訴え=履行期が口頭弁論終結時に既に到来。将来の給付の訴え=口頭弁論終結時にまだ期限が到来していない) 図:給付の訴えの分類板

訴えの3つの型を扱った回を、思い出してください。確認判決と給付判決は、何が違いましたか?確認判決には強制執行できる力が無くて、給付判決には、その力がある、という違いでした。Aの30万円の話も、この給付判決の力が効いてきます。Aの30万円の話は、給付の訴えという類型に入ります。原告が、被告に対して、何かを給付するよう求める訴えです。お金を払え、物を渡せ、といった請求がこれにあたります。給付判決には、大事な力があります。被告が判決に従わなくても、強制的に財産を差し押さえられる力、執行力です。そして、給付の訴えは、履行期を基準に2つに分かれます。口頭弁論が終わる時点で、もう履行期が来ているものを現在の給付の訴え、まだ来ていないものを将来の給付の訴えと呼びます。

ここから、その現在の給付に戻って、訴えの利益を確かめましょう。

財布が空でも、訴えの利益はある

実現困難でも訴えの利益ありの板(現在の給付の訴え=履行期が既に到来した請求権を主張する訴えなので、訴えの利益は通常問題にならない。訴え提起前に履行の催促をしていなくても、判決を得てもその実現が事実上不可能または著しく困難であっても、訴えの利益は認められる) 図:実現困難でも訴えの利益ありの板

現在の給付の訴えは、履行期がもう来ている請求権を主張するものです。だから、訴えの利益は通常は問題になりません。実は、驚くような場面でも、訴えの利益は認められています。判例を見てみましょう。

判例最高裁判決(昭和41年3月18日・民集20巻3号464頁)〈百選21〉

最高裁判決(現在の給付の訴えの利益が争われた事件) 不動産の抹消登記手続を求める請求は、被告が抹消登記を申請するという意思表示を求める請求であり、勝訴判決が確定すれば被告がその意思表示をしたものとみなされ、判決の執行はそれで完了する。したがって、抹消登記の実行が可能かどうかによって訴えの利益は左右されず、後順位の登記名義人への抹消請求が認められず、抹消登記の実行が事実上不可能であっても、訴えの利益を欠くことにはならないとした。

登記を実際に消せなくても、訴えの利益はあります。判決が確定すれば、被告が登記の抹消を申請する意思表示をしたとみなされて、判決の執行はそこで完了したことになります。実際に登記が抹消されるかどうかは、その先の話です。ここが、今日、最初につまづきやすいところです。「実現できるかどうか」と、「訴えの利益があるかどうか」は、別の階層の問題です。訴えの利益は、判決を出す前の段階で、その判決を出す意味があるかどうかを問います。実現できるかどうかは、判決が確定したあと、強制執行の段階で問われる話です。この考え方は、Aの場合にも当てはまります。いま財産が無くても、後で財産を手に入れるかもしれません。判決という形で、権利があることを確定させておく意味は、常にあります。

だから、現在の給付の訴えでは、訴えの利益は原則としていつでも認められます。では、逆に考えてみましょう。まだ起きていない将来の損害についても、同じように先に判決をもらえるでしょうか。多くの人が、先に判断してもらうのは無理だと感じます。ここから、話が変わります。

まだ来ていない将来の請求は、原則ダメ——135条の例外

将来給付が例外的に認められる場面の板(135条=あらかじめ請求する必要がある場合に限り可。典型的な場面は2つ:①義務者が義務の存在・履行期を争い、履行期到来時に任意履行が見込めない場合 ②義務の性質上、即時履行が無いと原告が著しい不利益を受ける場合(定期的行為・養育費等)。それとは別の理屈で、継続的・反復的給付なら、既発生分の不履行から将来分も同様の不履行が見込まれる場合も認められる(例:遅延損害金の一括請求)) 図:将来給付が例外的に認められる場面の板

条文民事訴訟法135条

民事訴訟法第135条(将来の給付の訴え) 将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる。

将来の給付の訴えは、135条によって、大きく制限されています。現在の給付とは、話が逆転します。現在の給付は原則いつでも訴えの利益がありましたが、将来の給付は、原則ダメで、例外的にしか認められません。将来のことは、口頭弁論が終わるまでに、事情が変わる可能性があります。義務が本当に発生するか、まだ確定していないのに、先回りして判決を出すのは、慎重にならざるを得ません。「あらかじめ」認められる典型的な場面は、大きく2つあります。1つ目は、義務者が義務の存在や履行期を争っていて、履行期が来ても、すぐには履行してもらえないと見込まれる場合です。

2つ目は、義務の性質上、その時に即座に履行がないと、原告が著しい不利益を受ける場合です。定期的に行う必要のある行為や、養育費のような継続的な支払いが、これにあたります。さらに、これとは別の理屈で認められる場面があります。継続的・反復的な給付の場合です。既に発生している分について、支払いが滞っているなら、これから先の分についても、同じように払われないだろうと見込めます。だから、まだ来ていない分も、現在の分にまとめて請求できます。例えば、金銭を貸したのに元本を返してもらえず、支払い済みまでの遅延損害金を、一括で請求する場合です。既に発生した遅延損害金が払われていない以上、これから先の分も同じように滞ると見込めるからです。

継続する不法行為なら、先取りできるか——大阪国際空港事件の3要件

継続的不法行為の事案板(Bは、Aが所有する部屋に、契約が終わっても明け渡さず住み続けている。Aは、Bに対し、部屋の明渡しと、明渡しが完了するまでの家賃相当額の損害賠償を求めたい。家賃相当額の損害は、明渡しが完了するまで日々発生し続ける、まだ起きていない損害でもある) 図:継続的不法行為の事案板

もう1つ、将来給付が問題になる場面があります。継続的な不法行為です。Bは、Aが所有する部屋に住んでいましたが、契約が終わっても明け渡さず、住み続けています。Aは、Bに対して、部屋を明け渡すことと、明け渡しが完了するまでの家賃相当額の損害賠償を求めたいと考えています。訴えを起こす時点では、まだ起きていない将来の損害も含まれます。これを、あらかじめまとめて請求できるでしょうか。この問題に答えを出したのが、大阪国際空港事件と呼ばれる判例です。もともとは空港の騒音をめぐる事件ですが、そこで示された将来給付の判断枠組みが、今も使われています。まず、その枠組みを見てみましょう。

論文で書く規範:継続的不法行為に基づく将来給付の訴え・3つの要件 ①当該請求権の基礎となるべき事実関係および法律関係が既に存在し、その継続が予測されること、②当該請求権の成否・内容につき債務者に有利な将来の事情の変動が、債務者による占有の廃止、新たな占有権原の取得等のあらかじめ明確に予測しうる事由に限られること、③その事情の変動を、請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止しうるという負担を債務者に課しても格別不当とはいえないことを要する。 (大阪国際空港事件(最高裁大法廷判決)の判断枠組み)

3つの要件があります。1つ目は、請求権のもとになる事実関係や法律関係が既に存在していて、その継続が予測できることです。2つ目は、その請求権の成否や内容について、被告に有利な将来の事情の変動が、占有の廃止や、新しい占有の権原を得ることのような、あらかじめ明確に予測できる事由に限られることです。この場合なら、Bが部屋を明け渡すことです。明け渡せば、その日から家賃相当額の損害は発生しなくなります。3つ目は、その事情の変動を、請求異議の訴えという手続によって、被告のほうで証明させて、初めて執行を止められるという負担を課しても、格別不当とは言えないことです。

請求異議の訴えとは、確定した給付判決の執行力を、後から止めるための訴えです。今日は、こういう手続がある、という名前だけ押さえてください。この3つが揃って初めて、将来の分もまとめて請求することが適法になります。居座っているという事実は継続しそうですし、明け渡せば損害が止まるという変動は明確です。明け渡したかどうかは、Bのほうで簡単に立証できます。だから、この場合は、将来分も含めて請求することが認められます。認められないケースもあります。例えば、Cの土地の斜面が崩れやすく、大雨のたびに不定期に土砂が隣地に流れ込んでいるとします。Dが、将来分も含めて土砂の撤去費用をまとめて請求したいと考えても、次にいつ、どれくらいの土砂が流れ込むかは、天候や斜面の状態次第で、あらかじめ確定できません。②の「明確に予測できる事情変動」とは言えないので、将来分は認められません。

同じ継続的な迷惑行為でも、境界線を引くのは、②の予測可能性がどれだけはっきりしているかです。この物差しを持ったまま、実際の最高裁の判断を見てみましょう。

同じ継続でも、航空機騒音はなぜダメなのか——核心は③

不法占有と航空機騒音の対比板(不法占有=Bが明け渡せば損害は止まる→①②③すべて満たす→将来分も認容。航空機騒音=飛行ルート・機体性能等の不確定要素に左右される→②予測困難、かつ③将来成立した請求権の要件具備は原告が立証すべきもの→立証負担を被告に課すのは不当→将来分は否定。決め手は③の立証負担をどちらに負わせるのが公平か) 図:不法占有と航空機騒音の対比板

判例最高裁大法廷判決(昭和56年12月16日・民集35巻10号1369頁)〈百選22〉

最高裁大法廷判決(航空機騒音をめぐる将来給付の訴えが争われた事件=大阪国際空港事件) 原審の口頭弁論終結後に生ずべき損害の賠償を求める部分について、②将来の侵害行為の違法性・損害の有無と程度は不確定要素に左右され事情変動の予測が困難であり、③将来の損害賠償請求権が具体的に成立した後にその要件具備を原告が立証すべきものであるから、この立証負担をあらかじめ被告に課すのは不当であるとして、将来の給付の訴えにおける請求権としての適格を有せず、権利保護の要件を欠くとし、その部分の訴えを却下した。

さきほどの空港の事件そのものです。周辺の住民が、口頭弁論が終わったあとに生じるはずの将来の損害の賠償を、まとめて求めました。最高裁は、認めませんでした。問題になったのは②と③です。将来、侵害行為が違法と言えるかどうか、損害がどれくらい続くかは、いろいろな不確定な要素に左右されます。飛行のルートが変わるかもしれませんし、機体の性能が変わって騒音が減るかもしれません。だから、②の事情変動が、あらかじめ明確に予測できるとは言えません。さらに、住民のほうに将来の損害賠償請求権が具体的に成立したあと、その要件を備えていることは、住民側が立証すべきだとされました。この立証負担を、あらかじめ被告に押しつけるのは不当だ、というのが③の判断です。なぜ不当なのか。本来、損害が生じたことは、賠償を求める側が立証するのが原則です。騒音では、飛行ルートや機体が変わるたびに、被害が減った、あるいは違法でなくなったことを、被告の側が一から立証し直すことになり、この原則を丸ごと逆転させてしまうからです。

だから、この訴えは、将来分について、請求権としての適格性、つまり将来の分を今のうちにまとめて請求できる資格そのものが否定されました。ただし、損害賠償のうち否定されたのは将来分だけです。口頭弁論が終結するまでに既に生じた損害の賠償は、この事件でも基本的に認められています。この判断は、その後の航空機の騒音をめぐる訴訟でも、繰り返し維持されています。もっとも、有力な批判もあります。被害が確実に続くと見込める期間を区切って将来の賠償を認めても、被告に不当な負担にはならないのではないか、不法占有への明渡し請求と、どれほど違うのか、という指摘です。

この対立の核心は、結局③に尽きます。将来の事情変動の立証負担を、どちらの当事者に負わせるのが公平か、その一点です。ここは、論文でも問われうる論点です。今日は、この物差しの中身を理解しておいてください。

今日の地図(保存版)

全体地図の板(訴えの利益=本案判決を出す意味を測る関門(①選別機能②被告保護機能)。給付の訴え=現在給付は原則あり(実現可能性とは別問題)、将来給付は135条で例外的。継続的不法行為=大阪国際空港事件3要件、核心は③の立証負担の配分) 図:全体地図の板

今日の話を、1本の線でまとめます。訴えの利益は、判決を出す意味があるかを問う関門でした。無意味な紛争から裁判所を守る役割と、被告を無用な応訴から守る役割の、2つがありました。訴訟要件の1つで、裁判所が自分から気づいて調べる、職権調査事項でしたね。給付の訴えでは、履行期が来ている現在の給付は、実現できるかどうかにかかわらず、原則として訴えの利益がありました。履行期がまだ来ていない将来の給付は、逆に、あらかじめ請求する必要がある場合に限って、例外的に認められました。継続的不法行為なら、大阪国際空港事件の3要件です。

不法占有では認められて、航空機騒音では認められなかった、あの対比でしたね。決め手は、将来の事情変動を、どちらの当事者に立証させるのが公平か、という一点でした。訴えの利益には、まだ続きがあります。

参照条文

  • 民事訴訟法135条

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