民訴ゼロから民訴#36

当事者適格と第三者の訴訟担当

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第1章 訴訟の開始 ㊱/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

遺言を実現する人は、訴訟の被告になれるか

冒頭事案の関係図(Aは亡くなった人。生前に土地をBに譲るという遺言を書いていた。Aの相続人Cはこの遺言に納得しておらず土地を渡そうとしない。Dは遺言の中でAが指定していた遺言執行者。BはDを被告として土地の引渡しを求める訴えを起こす) 図:冒頭事案の関係図

Aさんが亡くなりました。Aさんは生前に、自分の土地をBさんに譲るという遺言を書いていました。ところがAさんの相続人であるCさんは、この遺言の内容に納得していません。土地を渡そうとしないのです。そこでBさんは、土地の引渡しを求める訴えを起こすことにしました。ここでもう一人、Dという人物が登場します。Dは、Aさんが遺言のなかで指定していた遺言執行者です。遺言の内容を実現するために、必要な行為をする役目を持つ人です。Bさんが訴えを起こすとき、被告になるのは相続人のCさんでしょうか。それとも遺言執行者のDさんでしょうか。

実は、答えはDです。鍵になるのは、訴訟をする力が、本人の意思で渡されたのか、法律によって渡されたのか、という区別です。今日の内容を最後まで追うと、この理由が分かります。今日は、誰が訴訟の当事者になれば意味があるのかという当事者適格と、本人ではない第三者が代わりに訴訟をする第三者の訴訟担当を扱います。

当事者適格とは何か——訴えの利益との対比

対比板(訴えの利益=請求との関係で正当な利益・必要性を検討する客観的要件/当事者適格=ある権利関係について、誰が訴訟を追行すれば本案判決を求められるかという、当事者側から見た資格(訴訟追行権)/判断基準=誰を当事者として訴訟を追行させ、本案判決の名宛人とすることが有効・適切か) 図:対比板

  • 訴えの利益=請求との関係で正当な利益・必要性を検討する客観的要件
  • 当事者適格=ある権利関係について、誰が訴訟を追行すれば本案判決を求められるかという、当事者側から見た資格(訴訟追行権)
  • 判断基準=誰を当事者として訴訟を追行させ、本案判決の名宛人とすることが有効・適切か

前回まで扱ってきた訴えの利益を覚えていますか?請求の中身との関係で、判決を出す意味があるかを見る要件でした。訴えの利益は、請求との関係で正当な利益や必要性を検討する要件です。請求の中身という客観的な面を見るので、客観的要件と呼ばれます。今日から見る当事者適格は、同じ問いを別の方向に向けたものです。ある権利関係について、誰が訴訟を追行すれば本案判決を求められるか、という当事者側から見た資格を、訴訟追行権といいます。これを持つ人を、正当な当事者と呼びます。訴えの利益が客観的要件なのに対して、当事者適格は主観的要件と呼ばれます。判断基準は共通していて、誰を当事者として訴訟を追行させ、本案判決の名宛人とすることが、有効で適切かという物差しです。

原則——訴えの3類型ごとの当事者適格

3類型ごとの当事者適格の板(給付の訴え=自己の給付請求権を主張する者が原告、義務者と主張される者が被告/確認の訴え=確認の利益を有する者が原告、本案判決を必要ならしめている者が被告(理事者の地位確認は法人自体を被告とすべきとした判例、法律上の利害関係を要するとした判例)/形成の訴え=法律が原告・被告となるべき者を定めていればそれによる(会社828条2項等・834条等)) 図:3類型ごとの当事者適格の板

  • 給付の訴え=自己の給付請求権を主張する者が原告、義務者と主張される者が被告
  • 確認の訴え=確認の利益を有する者が原告、本案判決を必要ならしめている者が被告(理事者の地位確認は法人自体を被告とすべきとした判例、法律上の利害関係を要するとした判例)
  • 形成の訴え=法律が原告・被告となるべき者を定めていればそれによる(会社828条2項等・834条等)

原則を見ましょう。当事者適格を持つのは、訴訟物である権利関係についての判断に、法的利害関係を持つ者です。原告は、請求認容判決によって保護される権利や地位が、自分に帰属すると主張する者です。被告は、その原告の主張を争っている者です。給付の訴えでは、自己の給付請求権を主張する者が原告、義務者だと主張される者が被告です。確認の訴えでは、確認の利益と当事者適格がほぼ重なるので、確認の利益を持つ者が原告、本案判決を必要とさせている者が被告になります。ある法人の理事者としての地位を確認してほしいという訴えで、誰を被告とすべきかが争われた事件では、法人自体を被告とすべきだと判断されました。

法人を外して理事者どうしで争っても、その判決は法人を縛りません。法人との関係で地位が決まらなければ、争いは終わらないからです。もう1つ、神社の代表役員の地位をめぐって、氏子にすぎない人が確認を求めた事件では、その人の原告適格が否定されました。その地位について法律上の利害関係を持たない人に判決を出しても、争いの解決にはつながらないからです。誰でも確認を求められるわけではないということです。形成の訴えでは、法律があらかじめ原告や被告になるべき者を定めています。会社の決議を争う訴えなどが典型です。

当事者適格は本案の問題ではない

罠の板(当事者適格が認められても実体法上の権利者・義務者として認められるとは限らない=それは本案の問題/訴訟要件を欠く場合=訴え却下/本案で負ける場合=請求棄却/両者を取り違えない) 図:罠の板

  • 当事者適格が認められても実体法上の権利者・義務者として認められるとは限らない=それは本案の問題
  • 訴訟要件を欠く場合=訴え却下
  • 本案で負ける場合=請求棄却
  • 両者を取り違えない

ここで、初学者がよく取り違える点があります。当事者適格が認められたからといって、その人が実体法上の権利者や義務者として認められるとは限りません。当事者適格は、訴訟を進めるための入り口の資格です。実際に権利があるかどうかは、その先の本案で判断されます。当事者適格が無ければ、訴え自体が却下されます。当事者適格はあっても、実体上の権利が認められなければ、請求は棄却されます。この2つは、まったく別の場面です。

第三者の訴訟担当——総論

総論板(第三者の訴訟担当=権利義務の主体本人ではなく、その人の代わりに、あるいはその人とともに、第三者が当事者適格を持つ仕組み/本来の利益帰属主体は当事者にならないが、担当者が受けた判決の効力は担当者自身(115条1項1号)だけでなく利益帰属主体にも及ぶ(同項2号)/分類の基準=第三者が訴訟追行権を得た経緯が、本人の意思によるかどうか) 図:総論板

  • 第三者の訴訟担当=権利義務の主体本人ではなく、その人の代わりに、あるいはその人とともに、第三者が当事者適格を持つ仕組み
  • 本来の利益帰属主体は当事者にならないが、担当者が受けた判決の効力は担当者自身(115条1項1号)だけでなく利益帰属主体にも及ぶ(同項2号)
  • 分類の基準=第三者が訴訟追行権を得た経緯が、本人の意思によるかどうか

ここから、第三者の訴訟担当を見ていきます。本来の権利者に代わって、あるいはその人と並んで、第三者に当事者適格が認められることがあります。認められる場合があります。本来は権利を持つ本人が訴訟をするのが筋ですが、本人以外が訴訟をしたほうが、争いをうまく解決できる場面があるからです。その第三者が当事者になり、訴訟追行権を持ちます。代理人がついても、当事者は本人のままです。訴訟担当者は、自分の名前で当事者になります。他人のために、なぜ自分の名前で訴訟をするのか。その答えが、いま見た、争いをうまく解決できるから、です。本来の利益帰属主体は当事者になりませんが、担当者が受けた判決の効力は、担当者自身だけでなく、利益帰属主体にも及びます。

条文民事訴訟法115条1項

民事訴訟法第115条1項(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲) 確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。 一 当事者 二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人 三 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人 四 前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者

1号が担当者自身、2号が担当者に代わってもらった、その他人です。担当者が受けた判決の効力は、この2号によって、本来の権利者にも及びます。だから、本来の権利者が別に訴訟をやり直す必要は無いんです。では、どんな場合に第三者へ訴訟追行権が認められるのでしょうか。分ける基準は、明文があるかどうかではありません。条文で決まっていても、法定訴訟担当とは限りません。分類の基準は、第三者の訴訟追行権が、利益帰属主体の意思によって与えられたものかどうかです。本人の意思と無関係に法律が強制的に与える場合を法定訴訟担当、本人が自分の意思で第三者に委ねる場合を任意的訴訟担当と呼びます。

法定訴訟担当①——他人の財産の管理処分権を持つ者

法定訴訟担当①の板(本人の意思にかかわらず、法律の規定によって当然に第三者へ訴訟追行権が与えられる場合/例=破産管財人(破78条1項・80条)/差し押さえた債権を取り立てる差押債権者(民執155条1項・157条1項)/債権者代位訴訟の債権者(民423条)/責任追及訴訟の株主(会社847条)/遺言執行者(民1012条)) 図:法定訴訟担当①の板

  • 本人の意思にかかわらず、法律の規定によって当然に第三者へ訴訟追行権が与えられる場合
  • 例=破産管財人(破78条1項・80条)
  • 差し押さえた債権を取り立てる差押債権者(民執155条1項・157条1項)
  • 債権者代位訴訟の債権者(民423条)
  • 責任追及訴訟の株主(会社847条)
  • 遺言執行者(民1012条)

法定訴訟担当のうち、まず1つ目のグループです。他人の財産について、管理や処分の権限を持つ者が、その財産をめぐる訴訟を担当する場合です。典型例は、破産管財人です。

条文破産法78条1項

破産法第78条1項(破産管財人の権限) 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する。

条文破産法80条

破産法第80条(当事者適格) 破産財団に関する訴えについては、破産管財人を原告又は被告とする。

破産手続が始まると、破産者は自分の財産の管理や処分をする権利を失い、裁判所が選んだ破産管財人に専属します。だから、破産財団、つまり破産者の財産に関する訴えでは、破産管財人が原告や被告になります。似た構造の例が、ほかにも並びます。差し押さえた債権を取り立てるために訴えを起こす差押債権者、債権者代位訴訟で債務者の権利を代わりに行使する債権者、株主代表訴訟の株主です。そして、今日の冒頭で見た遺言執行者です。

条文民法1012条1項

民法第1012条1項(遺言執行者の権利義務) 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理その他必要な一切の行為をする権利義務を持ちます。遺贈の履行を求める訴えでは、この管理処分権にもとづいて、遺言執行者が、相続人の訴訟担当者として被告になります。Cさんは相続人であって、遺贈の目的物を実際に管理する立場ではありません。管理処分権を持つDさんが、訴訟でも相続人の代わりに矢面に立ちます。ここで、DさんはAさんが遺言で指定した人だから、本人の意思で選ばれた任意的訴訟担当ではないか、という疑問が浮かぶかもしれません。しかし、この訴訟で義務を負う本人は、相続人のCさんです。Cさんは、Dさんに訴訟を任せるとは決めていません。それでもDさんが当事者になるのは、法律が遺言執行者に管理処分権を与えているからです。だから法定訴訟担当です。

債権者代位訴訟の位置づけが揺れていること

罠の板(債権者代位訴訟は従来、法定訴訟担当の典型例として一括りに語られてきたが近時は議論がある/平成29年民法改正で、債権者が代位権を行使しても債務者は被代位権利の取立て・処分等を妨げられないとされた(民423条の5)/債務者にも当事者適格が認められることから、法定訴訟担当なのか債権者固有の当事者適格に基づくのか議論が続いている) 図:罠の板

  • 債権者代位訴訟は従来、法定訴訟担当の典型例として一括りに語られてきたが近時は議論がある
  • 平成29年民法改正で、債権者が代位権を行使しても債務者は被代位権利の取立て・処分等を妨げられないとされた(民423条の5)
  • 債務者にも当事者適格が認められることから、法定訴訟担当なのか債権者固有の当事者適格に基づくのか議論が続いている

ここで、1つ注意しておきたい点があります。債権者代位訴訟は、長らく法定訴訟担当の典型例として説明されてきました。ただし、この位置づけは近時揺れています。

条文民法423条の5

民法第423条の5(債務者の取立てその他の処分の権限等) 債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。

民法改正で、債権者が代位権を行使しても、債務者は自分の権利について取立てや処分をすることを妨げられないと定められました。債務者自身にも、権利を動かす余地が残っているわけです。だから、債権者代位訴訟を、そのまま法定訴訟担当の典型例だと言い切ってよいのか、それとも債権者自身の固有の当事者適格にもとづくと見るべきなのか、議論が続いています。この論点は、今の段階では断定せず、揺れがあると押さえておいてください。

法定訴訟担当②——職務上の当事者

法定訴訟担当②の板(ある職務についていることを理由に、法律上その地位にある者へ訴訟追行権が与えられる場合/例=婚姻の無効・取消しの訴えなどの人事訴訟で、相手方が既に死亡しているときに検察官を被告として訴える) 図:法定訴訟担当②の板

  • ある職務についていることを理由に、法律上その地位にある者へ訴訟追行権が与えられる場合
  • 例=婚姻の無効・取消しの訴えなどの人事訴訟で、相手方が既に死亡しているときに検察官を被告として訴える

法定訴訟担当には、もう1つのグループがあります。財産の管理処分権ではなく、ある職務に就いていることそのものを理由に、訴訟追行権が与えられる場合です。これを、職務上の当事者と呼びます。例えば、婚姻の無効や取消しを求める人事訴訟で、本来の相手方がすでに亡くなっているときです。

条文人事訴訟法12条3項

人事訴訟法第12条3項(被告適格) 前二項の規定により当該訴えの被告とすべき者が死亡し、被告とすべき者がないときは、検察官を被告とする。

被告とすべき人がすでに亡くなっていて、ほかに被告とすべき人もいないときは、検察官が被告になります。検察官は、事件と直接関係があるわけではありません。検察官という職務にある人が、公益の見地から訴訟を担うという構造です。財産の管理処分権とは、まったく別の理由で当事者になる例です。

任意的訴訟担当——選定当事者

選定当事者の板(任意的訴訟担当=本人である利益帰属主体が、自分の意思で第三者に訴訟追行権を授けるもの/明文で認めるのが選定当事者(30条)=共同の利益を持つ多数の者のうち1人または数人を選んで当事者とし、他の者(選定者)は訴訟追行権を委ねる/判決の効力は選定者にも及ぶ(115条1項2号)/選定当事者は、自分にその資格があることを訴訟の場で書面によって示さなければならない(規15条)) 図:選定当事者の板

  • 任意的訴訟担当=本人である利益帰属主体が、自分の意思で第三者に訴訟追行権を授けるもの
  • 明文で認めるのが選定当事者(30条)=共同の利益を持つ多数の者のうち1人または数人を選んで当事者とし、他の者(選定者)は訴訟追行権を委ねる
  • 判決の効力は選定者にも及ぶ(115条1項2号)
  • 選定当事者は、自分にその資格があることを訴訟の場で書面によって示さなければならない(規15条)

ここから、任意的訴訟担当に入ります。本来の利益帰属主体が、自分の意思で第三者に訴訟追行権を委ねる場合です。これを明文で認めているのが、選定当事者という制度です。条文があるので法定訴訟担当に入りそうに見えますが、条文があっても法定訴訟担当にはならない、そこが分かれ目です。誰に訴訟を任せるかは、選定者それぞれが自分で決めます。本人の意思で委ねているので、任意的訴訟担当です。分ける物差しは、明文の有無ではなく、本人の意思でした。

条文民事訴訟法30条1項

民事訴訟法第30条1項(選定当事者) 共同の利益を有する多数の者で前条の規定に該当しないものは、その中から、全員のために原告又は被告となるべき一人又は数人を選定することができる。

共同の利益を持つ多数の者のうち、1人または数人を選んで、全員のために原告や被告とすることができます。選ばれた人を選定当事者、選んだ人を選定者と呼びます。選定者は訴訟に顔を出さなくても構いません。選定当事者が選定者それぞれの権利について訴訟を追行し、判決を受けます。当事者になっていない選定者にも、この判決の効力が及びます。さきほどの115条1項2号にあたります。訴訟の途中から選定当事者制度に切り替えることや、途中で選定者に加わること、選定の取消しや選定当事者の変更も認められています。30条2項から4項です。

ただし、選定という行為は、選定者それぞれが自分の利益についての訴訟追行権を授ける訴訟行為なので、選定当事者は自分にその資格があることを、訴訟の場で書面によって証明しなければなりません。選定書によって、個々の授権をはっきりさせるわけです。

明文なき任意的訴訟担当は、どこまで広げられるか

問題提起の板(選定当事者以外に、任意的訴訟担当をどこまで認めてよいか/本人の授権さえあれば誰でもよいとすると、訴訟代理人を弁護士に限定した弁護士代理の原則(54条)や、訴訟信託を禁止した信託法10条の趣旨が損なわれるおそれがある) 図:問題提起の板

  • 選定当事者以外に、任意的訴訟担当をどこまで認めてよいか
  • 本人の授権さえあれば誰でもよいとすると、訴訟代理人を弁護士に限定した弁護士代理の原則(54条)や、訴訟信託を禁止した信託法10条の趣旨が損なわれるおそれがある

では、明文の規定が無い場面で、本人が訴訟をやってほしいと頼んだだけで、誰でも第三者として訴訟担当者になれるでしょうか。明文の規定が無い場面で本人の授権だけを頼りにしてよいか、そこが問題です。本人の授権さえあれば誰でもよいとすると、困ったことが起こります。

条文民事訴訟法54条1項

民事訴訟法第54条1項(訴訟代理人の資格) 法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができない。ただし、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を訴訟代理人とすることができる。

条文信託法10条

信託法第10条(訴訟信託の禁止) 信託は、訴訟行為をさせることを主たる目的としてすることができない。

法は、訴訟代理人を弁護士に限る弁護士代理の原則を定めています。民訴法54条です。また、信託法10条は、訴訟をさせることを主な目的とした信託を禁止しています。なぜ、そんな決まりがあるんですか。本来の権利義務の持ち主を保護し、訴訟を円滑に進めるためです。もし、本人の授権だけで誰でも訴訟担当者になれてしまうと、弁護士でない人に実質的な代理をさせたり、権利だけを取り出して他人に訴訟をさせたりする抜け道になりかねません。そこで、明文が無くても任意的訴訟担当を認めてよいかどうかが、判例で争われました。

判例最大判昭和45・11・11〈百選13〉

最高裁判決(訴訟信託の該当性が争われた事件) 当該訴訟信託がこのような制限を回避、潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には許容するに妨げない。

弁護士代理の原則や訴訟信託の禁止の趣旨を回避したり、潜脱したりするおそれが無いこと。そして、これを認める合理的な必要があることです。この2つを満たす場合に限って、明文が無くても任意的訴訟担当が許されるというのが、判例と通説の立場です。

論文で書く規範:明文なき任意的訴訟担当の規範 任意的訴訟担当は、本来の利益帰属主体の意思に基づいて第三者に訴訟追行権が授与されるものであり、選定当事者(30条)がこれを明文で認めている。それ以外の場面で任意的訴訟担当を無制限に認めると、法が訴訟代理人を弁護士に限定した弁護士代理の原則(54条)や訴訟信託を禁止した信託法10条の趣旨(本来の権利義務の帰属主体の保護と円滑な訴訟進行の確保)が損なわれるおそれがある。そこで、①これらの規定の趣旨を回避・潜脱するおそれがなく、かつ、②これを認める合理的必要がある場合には、明文がなくても任意的訴訟担当が許されると解する。 (判例・通説の規範(条文に無い基準=出どころは判例・通説))

この規範は、論文で明文なき任意的訴訟担当が問題になったときに、そのまま使う骨格になります。あくまで判例と通説が積み上げてきた基準です。成立要件のように条文を読めば出てくるものではないので、規範として押さえてください。

2要件のあてはめ——認められる場合と、認められない場合

あてはめ板(民法上の組合の業務執行組合員=組合規約にもとづき組合財産の管理権とともに訴訟追行権を授与されている=実体的な管理権を伴う授権なので回避・潜脱のおそれがなく合理的必要も認められ許容される/単に訴訟をやってほしいと口頭で頼まれただけの第三者=実体的な権利義務を伴わず、訴訟追行権だけを取り出した授与に見える=弁護士代理の原則を潜脱するおそれがあり原則として許容されない) 図:あてはめ板

  • 民法上の組合の業務執行組合員=組合規約にもとづき組合財産の管理権とともに訴訟追行権を授与されている=実体的な管理権を伴う授権なので回避・潜脱のおそれがなく合理的必要も認められ許容される
  • 単に訴訟をやってほしいと口頭で頼まれただけの第三者=実体的な権利義務を伴わず、訴訟追行権だけを取り出した授与に見える=弁護士代理の原則を潜脱するおそれがあり原則として許容されない

この2要件を、具体的な場面にあてはめてみましょう。民法上の組合の業務執行組合員という例があります。業務執行組合員は、組合規約にもとづいて、各組合員から組合財産の管理権とともに、訴訟追行権を与えられています。単に訴訟だけを頼まれたのではなく、実体的な管理権や、対外的な業務執行権とともに、授権されている点がポイントです。だからこそ、弁護士代理の原則を回避したり、訴訟信託の禁止を潜脱したりするものとはいえません。組合員全員がそろって訴訟をするのは大変で、財産を実際に管理している人に任せるほうが合理的なので、合理的な必要も認められます。2要件を満たすので、業務執行組合員には、任意的訴訟担当として当事者適格が認められます。逆に考えてみてください。もし、実体的な管理権など何も持たない第三者が、ただ訴訟だけをやってほしいと口頭で頼まれただけだったら、どうでしょうか。

それだと、訴訟追行権だけを取り出して渡しているみたいですね。実体を伴わない、訴訟追行権だけの授与は、弁護士でない人に実質的な代理をさせる抜け道に見えます。原則として、認められません。この境目が、2要件のあてはめの勘所です。

任意的訴訟担当が広がってきた場面

入会団体の板(固有必要的共同訴訟で全員がそろわなくても訴えられるようにする工夫として、総有権の確認については入会団体そのものに原告適格を認めた事案/同じ事案で、規約等の手続により登記名義人と定められた構成員は、代表者でなくても自己の名で登記手続請求訴訟を追行する原告適格を持つ=入会団体から訴訟追行権を授与されたとみるのが当事者の意思にそう) 図:入会団体の板

  • 固有必要的共同訴訟で全員がそろわなくても訴えられるようにする工夫として、総有権の確認については入会団体そのものに原告適格を認めた事案
  • 同じ事案で、規約等の手続により登記名義人と定められた構成員は、代表者でなくても自己の名で登記手続請求訴訟を追行する原告適格を持つ=入会団体から訴訟追行権を授与されたとみるのが当事者の意思にそう

近時は、明文なき任意的訴訟担当が認められる場面が、さらに広がっています。2つ紹介します。1つ目は、全員が揃わないと訴訟を起こせない固有必要的共同訴訟で、提訴や訴訟追行の負担を軽くする方策として、訴訟担当が活用される場面です。入会団体が、構成員全員がまとめて持つ総有権の確認を求めた事案があります。総有権の確認を求める部分について、判決が原告適格を認めたのは、第三者ではなく、入会団体そのものでした。入会権は、構成員一人ひとりが持分を持つ権利ではなく、団体としてまとまって持つ権利です。だから、団体が当事者になって一度に決着をつけるほうが、争いを長引かせずに解決できるとされました。

当事者になるのは団体自身です。ただ、全員がそろわなくても訴訟ができるようにする工夫という点では、同じ方向を向いています。同じ事件には、もう一つ場面があります。入会団体は、団体そのものの名義では登記ができません。そこで、規約の定める手続で、ある構成員個人を、入会権の対象になっている土地の登記名義人とすることにした事案です。判決は、その構成員は、団体の代表者でなくても、自分の名で登記手続を求める訴えを起こせるとしました。規約の手続で登記名義人と定められた以上、その構成員は、入会団体から、登記名義人になることを委ねられるとともに、登記手続請求訴訟を追行する権限を与えられたとみるのが、当事者の意思にかなうと判断されました。判決は、こう解しても弁護士代理の原則や訴訟信託の禁止の趣旨を潜脱するものとはいえない、としています。

総有権の確認は団体、登記手続の請求は登記名義人とされた構成員個人と、場面によって当事者が変わります。この2つの場面は、あわせて押さえておいてください。

ソブリン債の板(発行要項に、債券の管理会社となった銀行が債券の所持人のために裁判上の行為をする権限を持つ旨の条項/債券を取得した者はこの条項を受け入れて訴訟追行権を授与したと認定=明示の授権が無くても2要件を満たす/管理会社は銀行で法律の規制・監督を受け、公平誠実義務・善管注意義務を負う=弁護士代理の原則・訴訟信託の禁止を潜脱するおそれなし/債券は多数の一般投資家に販売=各自が適切に権利行使することは期待できない=合理的必要) 図:ソブリン債の板

  • 発行要項に、債券の管理会社となった銀行が債券の所持人のために裁判上の行為をする権限を持つ旨の条項
  • 債券を取得した者はこの条項を受け入れて訴訟追行権を授与したと認定=明示の授権が無くても2要件を満たす
  • 管理会社は銀行で法律の規制・監督を受け、公平誠実義務・善管注意義務を負う=弁護士代理の原則・訴訟信託の禁止を潜脱するおそれなし
  • 債券は多数の一般投資家に販売=各自が適切に権利行使することは期待できない=合理的必要

2つ目は、外国の国が発行した債券をめぐる事案です。債券の発行要項に、債券の管理会社になった銀行が、債券を持つ人のために裁判上の行為をする権限を持つ、という条項がありました。判決は、債券を買った人が、この条項を受け入れて、訴訟追行権を与えたと認めました。明示にはっきり頼んでいなくても、2要件を満たすとされました。管理会社は銀行で、法律の規制や監督を受け、債券を持つ人に対して、公平誠実義務や善管注意義務を負っています。だから、弁護士代理の原則や、訴訟信託の禁止をすり抜けるおそれはありません。また、債券は多数の一般の人に売られるので、一人ひとりが自分で適切に権利を行使することは期待できません。そこに合理的必要があります。

要件の中身は変わりませんが、合理的必要の判断の幅が、以前より広がってきているといえます。

当事者能力と当事者適格の交錯

二段階審査の板(当事者能力=事件と関係なく一般に当事者になれるかという入口の資格/当事者適格=この事件について当事者になれるかという個別の資格/当事者適格は当事者能力を前提とするが、能力があるからといって適格があるとはいえない=入口の資格を確認してから、この事件についての資格を確認するという二段階の審査/逆に有効・適切な紛争解決のためにはその者を当事者とするほかない場合には、当事者適格が認められる者に当事者能力も認めるべき) 図:二段階審査の板

  • 当事者能力=事件と関係なく一般に当事者になれるかという入口の資格
  • 当事者適格=この事件について当事者になれるかという個別の資格
  • 当事者適格は当事者能力を前提とするが、能力があるからといって適格があるとはいえない=入口の資格を確認してから、この事件についての資格を確認するという二段階の審査
  • 逆に有効・適切な紛争解決のためにはその者を当事者とするほかない場合には、当事者適格が認められる者に当事者能力も認めるべき

以前扱った当事者能力を覚えていますか。訴訟の当事者になれる一般的な資格でしたね。預託金会員制のゴルフクラブの回で扱いました。当事者能力は、事件と関係なく、一般に訴訟の当事者になれるかという入口の資格、当事者適格は、この事件について当事者になれるかという個別の資格です。だから、当事者適格は当事者能力を前提としますが、能力があるからといって、適格があるとは限りません。まず入口の資格を確認し、それから、この事件についての資格を確認する、という順番です。実は、逆の発想も出てきます。当事者能力の規定も、私人間の紛争解決をどうすれば合理的で効果的に達成できるかという、訴訟法独自の観点で定められています。だから、その者を当事者として判決しても有効で適切な紛争解決がなされないなら、訴えは却下されます。これは、当事者適格と同じ働きです。

逆にいえば、有効で適切な紛争解決のためには、その者を当事者とするほかないという場合には、当事者適格が認められる者に、当事者能力も認めるべきだということになります。預託金会員制ゴルフクラブが、計算書類などの謄本の交付を求められた事案は、まさにこの発想で扱われました。当事者能力と当事者適格は、それぞれ独立した訴訟要件ですが、互いに関連し合っています。

利益拡散訴訟と当事者適格

利益拡散訴訟の板(近時は当事者適格を実体的利益ではなく手続的利益を基準に捉え直す考え方も有力/環境紛争など保護対象の利益が不特定多数に拡散している場合、誰が利益の主体かの特定が困難で、誰にも原告になる資格が無いことになりかねない/消費者団体訴訟制度=①適格消費者団体による差止請求訴訟(消費契約12条)②特定適格消費者団体が事業者の責任をまず確定し、個々の消費者の債権をその後確定する2段階の制度) 図:利益拡散訴訟の板

  • 近時は当事者適格を実体的利益ではなく手続的利益を基準に捉え直す考え方も有力
  • 環境紛争など保護対象の利益が不特定多数に拡散している場合、誰が利益の主体かの特定が困難で、誰にも原告になる資格が無いことになりかねない
  • 消費者団体訴訟制度=①適格消費者団体による差止請求訴訟(消費契約12条)②特定適格消費者団体が事業者の責任をまず確定し、個々の消費者の債権をその後確定する2段階の制度

最後に、現代的な広がりを見ておきます。近時は、権利や損害がその人自身に帰属しているかという実体面ではなく、手続を担うのにふさわしい立場かという面から、当事者適格をとらえ直す考え方が有力になっています。実体的な利益というのは、その人自身に権利や損害が帰属しているかという話です。ところが、環境紛争のように、保護すべき利益が不特定多数の人に拡散している場合、そもそも誰が利益の主体かを特定すること自体が難しくなります。そこで、被害を受けた個人ではなく、一定の要件を満たした団体に、手続を進める利益があるとして、当事者適格を認める制度が設けられました。消費者団体訴訟制度です。1つは、法律の要件を満たした適格消費者団体による、差止請求訴訟です。もう1つは、特定適格消費者団体が、まず第一の手続で事業者の責任を確定し、次に第二の手続で個々の消費者の債権を確定する、2段階の制度です。

団体が持つのは、自分の権利ではなく、手続を担う立場です。この団体は、不特定多数の消費者の利益を守る活動を目的とし、その活動を継続して適正におこなってきたことなどを確かめたうえで、内閣総理大臣の認定を受けます。散らばった利益をまとめて訴訟に乗せる担い手としてふさわしいと確かめられているから、手続を進める利益が認められるのです。

今日の地図(保存版)

総括マトリクスの板(訴訟要件の全体地図=管轄(裁判所を選ぶ要件)・当事者能力(訴訟の当事者になれる一般的資格)・訴訟能力(自分で訴訟行為ができる能力)・訴えの利益(請求との関係で判決を出す意味があるかという客観的要件)・当事者適格(誰が当事者になれば有効・適切かという主観的要件)) 図:総括マトリクスの板

今日の内容を、1本の線でまとめます。当事者適格は、誰を当事者として訴訟を追行させ、本案判決の名宛人とすることが有効で適切かという物差しでした。原則は、権利関係に法的利害関係を持つ者です。そして、本人の意思にもとづくかどうかで、第三者の訴訟担当が法定と任意に分かれました。法定は、管理処分権者と職務上の当事者。任意は、明文の選定当事者と、2要件で絞られる明文なき任意的訴訟担当です。だから、冒頭のDさんは、遺言執行者として管理処分権を持つから、法定訴訟担当として被告になれたんですね。当事者能力との関係では、入口の資格からこの事件についての資格へという順番のほかに、有効・適切な紛争解決のために逆転する場面もありました。そして、利益が拡散する現代的な紛争では、手続的な利益を基準にした制度が生まれています。これで、訴訟の入り口を審査する訴訟要件のうち、主なものを見てきました。管轄、当事者能力、訴訟能力、訴えの利益、そして当事者適格です。

参照条文

  • 民事訴訟法115条1項
  • 破産法78条1項
  • 破産法80条
  • 民法1012条1項
  • 民法423条の5
  • 人事訴訟法12条3項
  • 民事訴訟法30条1項
  • 民事訴訟法54条1項
  • 信託法10条

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