当事者になれる資格とは何か——当事者能力
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第1章 訴訟の開始 ㉑/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
自治会は、被告になれるのか
図:冒頭の問いの板
山のふもとに、小さな自治会があります。会員が持ち回りで管理してきた、集会所の建物です。ところが、その土地の所有者が代わり——新しい所有者が、自治会を被告として、集会所の明渡しを求めてきました。そこに答える前に、確認しておきたいことがあります。この自治会は、法人ではありません。役所に法人登記もしていません。そこが、今日の入口です。
図:形式的当事者概念の1枚板
当事者かどうかは、実体法上その権利を持っているかどうかとは切り離して——訴訟法の側で、形式によって決める。これが、形式的当事者概念でしたね。今日のテーマである当事者能力も、実は同じ発想のもう1つの現れです。詳しくは、これから見ていきましょう。
当事者能力とは何か
図:当事者能力の定義板
- 請求の内容にかかわらず一般に必要な訴訟法上の能力
- 当事者適格との対比
では、さっそく当事者能力の中身に入りましょう。当事者能力というのは、誰であれば民事訴訟の当事者になれるかを、一般的なレベルで決める、訴訟法上の能力です。訴訟要件の1つで、これを欠くと訴え却下になります。本案の判断にすら入りません。
図:請求の内容にかかわらず、の板
ここで、大事な鍵になる言葉があります。「請求の内容にかかわらず」です。前回、名前だけ出しておいた当事者適格——あちらは「この請求との関係で」正当な当事者かを問います。当事者能力は、請求の中身とは関係なく一般に持っているかどうかを問うんです。言葉を丸暗記するのではなく、問いの立て方の違いとして押さえてください。「そもそも訴訟の当事者になれる団体か」が当事者能力。「この集会所の明渡しで争う相手として正しいか」が当事者適格です。もう1つだけ、触れておきます。もし、当事者能力を欠いたまま判決が出てしまったらどうなるか、という問題もあります。これは、訴訟要件を欠いた判決の効力の問題として、別の回でまとめて扱います。
28条——民法上の権利能力者
図:28条の位置づけ板
では、当事者能力はどんな基準で認められるのでしょうか。まず、原則の条文を見てみましょう。
条文民事訴訟法28条
民事訴訟法第28条(原則) 第二十八条 当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、この法律に特別の定めがある場合を除き、民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法令に従う。訴訟行為をするのに必要な授権についても、同様とする。
権利能力というのは、権利や義務の主体になれる資格のことです。その権利能力を持つ人、つまり自然人や法人には当事者能力があります。民事訴訟は、実体法上の権利義務の存否をめぐる紛争を扱います。だから、権利義務の帰属主体と認められる者に訴訟の当事者資格を認めるんです。
図:条文どおりの成立要件の板
これは「規範」ではなく、条文どおりの成立要件として押さえてください。規範というのは、条文に書いていないことを、解釈で導き出したものです。今回の28条は、そうではありません。覚え方は、逐語ではなく、条文番号と趣旨からの復元です。そして、もう1つ大事な点があります。この28条は、当事者能力と訴訟能力、両方の入口になっています。自分で訴訟を戦えるかどうか、という能力です。今日は、当事者能力の側だけを扱います。訴訟能力は別の回でじっくり見ます。2つの話を混ぜないよう、気をつけてください。
図:自然物を原告にできるかの板
この原則の帰結を、極端な例で確かめてみましょう。たとえば、アマミノクロウサギという絶滅危惧種の動物を原告として——自然を守るための訴えを起こしたら、どうなるでしょうか。動物は、原告になれません。自然人でも法人でもない、自然物だからです。権利義務の主体になれない以上、当事者能力が無く、訴えは却下されます。それが、訴訟要件を欠くということです。
29条——法人でない社団・財団
図:29条の趣旨の向き板
28条だけだと、法人格の無い団体は当事者になれません。そういう団体でも、当事者になれる道が29条で用意されています。
条文民事訴訟法29条
民事訴訟法第29条(法人でない社団等の当事者能力) 第二十九条 法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。
条文上の要件は、「代表者又は管理人の定めがあること」です。社団と財団の違いで言うと、社団は人の集まり、財団は目的のために出された財産のまとまりです。今日の主役は、社団のほうです。社団としての実質があるだけでは足りません。代表者または管理人が定められていることが、条文の要件です。これも成立要件なので、条文番号から復元してください。
図:29条の趣旨の向き板
なぜこんな規定が必要なのか、ここが詰まりやすいところです。法人格が無いことを理由に、団体を訴えられないとすると、どうなるでしょう。構成員を1人ずつ全員探し出して、被告にしなければなりません。29条の主眼は、この負担を無くすことにあります。気をつけてほしいのは、この趣旨の向きです。主眼は、団体と取引した相手方が、構成員全員を探し出さずに済むという便宜です。団体の側だけを見る規定ではない、ということです。同時に、団体自身がその名で訴えることもできる規定です。条文が「訴え、又は訴えられる」と両方書いているのは、そのためです。
図:29条が使われる2つの場面の板
この向きを押さえておかないと、あとで見る29条の当てはめがぶれます。ちなみに、法人化していない同窓会や自治会でも、代表者が決まっていれば——その団体名で訴えたり訴えられたりできます。
37条——団体が当事者になるときの手続
図:37条の位置づけ板
29条で当事者能力が認められた団体は、実際にはどう訴訟を進めるのでしょうか。
条文民事訴訟法37条
民事訴訟法第37条(法人の代表者等への準用) 第三十七条 この法律中法定代理及び法定代理人に関する規定は、法人の代表者及び法人でない社団又は財団でその名において訴え、又は訴えられることができるものの代表者又は管理人について準用する。
代表者や管理人が、法定代理人として訴訟を追行します。法定代理人というのは、本人が自分では手続できないときに、法律の定めで代わりに立つ人です。中身は、訴訟能力を扱う回でじっくり見ます。今日のところは、代表者・管理人が窓口になる、とだけ押さえてください。
29条の判断基準——従来の基準と4つの物差し
図:29条判断基準の板(実体法上の権利能力なき社団の基準に従ってきた歴史)
では、「社団としての実質」はどうやって判断するのでしょうか。従来は、実体法上の権利能力なき社団の基準に従ってきました。権利能力なき社団は、さっきの法人でない社団と同じものです。民法の側からは、そう呼びます。
判例最判昭和四二・一〇・一九 民集21巻8号2078頁〈百選8〉
最高裁判所判決(住民の任意団体による家屋明渡等請求事件) 古くからその地域に住む住民が福祉のために結成した任意団体(区)が、家屋の明渡し等を求めて訴えを起こした事案。最高裁は、権利能力のない社団といえるためには、団体としての組織をそなえ、多数決の原理が行なわれ、構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることを要する、とした。
学説は、この判例の内容を後から4つに整理し直しました。
⭐ 論文で書く規範:権利能力なき社団の4基準 ①組織性——意思決定のルールがある。②財産的独立性——構成員の財産と独立した団体財産がある。③対内的独立性——構成員が変わっても、団体そのものの同一性が保たれる。④対外的独立性——外から見て、独立した存在として認識できる。 判例自身が使ったのは「組織性・多数決原理・構成員変動への非依存・代表方法や財産管理等の確定」という言い回しであり、①〜④という4分類のラベルは学説が整理し直したものである。 (規範(最判昭和四二・一〇・一九))
この4分類の呼び名は、判例そのものの言葉ではありません。中身は判例、呼び方は学説。ここは正確に区別してください。なお、民法上の組合が、この29条の団体にあたるかという問題があります。判例は、社団としての実体を備えた組合について当事者能力を認めています。争いがあるのは、組合契約で結ばれているというだけで当然に29条が及ぶのか、という点です。ここは名前だけ押さえておいてください。
図:冒頭の自治会に4基準を当てる板
- 意思決定のルール
- 独立した会計
- 会員が変わっても同じ自治会
- 外から見て独立
具体的に、冒頭の自治会へこの4つの基準を当ててみましょう。まず①組織性——総会や役員会など、意思決定のルールがあります。②財産的独立性——会員から集めた会費で、独立した会計を持っています。③対内的独立性——役員や会員が入れ替わっても、同じ自治会として続いています。④対外的独立性——名前と代表者を持ち、外から見ても1つの団体として認識できます。だから、この自治会には当事者能力があります。法人ではなくても、集会所の明渡しを求める訴えの被告になれるんです。逆に、規約も総会も無く、集めたお金を会長さんの個人口座に入れたままの集まりだったら——意思決定のルールも、団体としての財産も無いので、この線の外側になります。
なぜ相対化するのか
図:相対化の理由板
- 訴訟法独自の判断へ
- 団体の性質と訴訟物によって必要な独立性は変わる
ここまでは、実体法の権利能力なき社団の基準に、そのまま従う話でした。ただ、近時は、少し違う傾向があります。特定の訴訟物——何を求める請求か、そして相手方との関係で当事者能力を考える——訴訟法独自の判断へと相対化する傾向です。当事者能力は、たしかに実体法の権利能力に対応する概念ではあります。しかし、どんな基準で認めるかまで実体法に従う必然性はありません。さっき見た29条の趣旨を思い出してください。趣旨が訴訟法側の便宜にあるなら、基準も訴訟法側で決めてよいはずです。
図:相対化のもう1つの理由の板
もう1つ理由があります。結びつきの緩い団体は、判決を得る頃にはもう消えていることがあります。逆に、構成員の個性が強い団体では、団体を当事者にすると——個々の構成員の意思が、うまく反映されないこともあります。法人化していない同窓会で、幹事会が争わないと決めてしまえば、強く争いたい会員がいても、その意思は手続に反映されません。さっきの自治会でも、集会所の明渡しで訴えられる場合と——何千万円もの損害賠償を請求する場合とで、求められる財産のしっかりさは同じでよいでしょうか。同じでなくてよさそうです。団体の性質と、その訴訟で何を求めているかによって——必要とされる独立性の中身は変わってくるんです。実体法の権利能力から出発しながら、最後は訴訟法の側が自分の物差しで入口を決める。前回の実質的表示説と、同じ発想のもう1つの現れです。
ゴルフクラブ判例——訴訟物に照らして基準を緩める
図:ゴルフクラブ判例の導入板(預託金会員制ゴルフクラブの当事者能力が争われた事案)
相対化の具体例として、有名な判例を見てみましょう。預託金会員制のゴルフクラブの側が、ゴルフ場の経営会社に対して——決算の書類など、計算関係書類の写しを出すよう求めた事案です。ここで実際に、クラブが訴える側に立っています。
判例最判平成14・6・7 民集56巻5号899頁
最高裁判所判決(預託金会員制ゴルフクラブの当事者能力が争われた事件) 計算関係書類等の謄本の交付請求の事案で、固定資産ないし基本的財産が無くても、団体として内部的に運営され、対外的に活動するのに必要な収入を得る仕組みが確保され、その収支を管理する体制が備わっている等の事情を勘案して、預託金会員制ゴルフクラブに当事者能力を認めた。
固定資産や基本財産が無くてもよいとした、ここがこの判例の面白いところです。財産的独立性というと、普通は固定した財産を思い浮かべますよね。でも、この事案では、収入を得る仕組みと収支を管理する体制があれば——それで足りる、としました。
図:ゴルフクラブ判例の読み方の板
判例が挙げたのは、1つの決め手ではなく、事情の総合です。多数決の原則が行われていること、構成員が変わっても存続すること——規約で代表の方法や総会の運営が決まっていること、そして収入の仕組みと収支の管理体制。これらを合わせて見て、当事者能力を認めています。
図:判例の説示と学説の読みを分ける板
そのうえで、学説はこの判例をこう読んでいます。訴訟物との関係で、有効・適切な紛争解決ができる者に当事者能力を認めようとしたものだ、と。判決文にその言葉はありません。学説の読みとして押さえてください。この読みに立つと、②財産的独立性の基準を訴訟物との関係で緩めた、と説明できます。この事案には、まだ続きがあります。当事者能力と、当事者適格が交錯する場面として——当事者適格を扱う回で、もう一度扱います。
この回の軸を1枚に畳む
図:この回の1枚地図板
今日はここまでです。この回で通してきた、1本の軸を確認しましょう。当事者かどうかは、実体法上その権利を持っているかどうかとは切り離して——訴訟法の側で、形式によって決める。これが、形式的当事者概念でした。今日はその、もう1つの現れである当事者能力を見てきました。28条は、民法上の権利能力者、つまり自然人と法人に当事者能力を認めていました。29条は代表者または管理人の定めがあれば、法人でない団体にも当事者能力を認めます。この規定の主眼は、団体と関わった相手方の便宜にありました。同時に、団体自身がその名で訴えることもできる規定でしたね。
図:判断基準のふりかえり板
判断基準は、まず実体法の4基準に従い——組織性、財産的独立性、対内的独立性、対外的独立性でした。ゴルフクラブ判例は、固定資産が無くても、収入を得る仕組みと管理体制があれば足りるとしました。判例が挙げたのは事情の総合で、それを訴訟物との関係で読むのが学説でしたね。どちらの話も、実体法上の権利者かどうかを問わず、訴訟法の側で入口を決める——同じ発想の現れだったんです。
図:送り先一覧板
最後に、今日の話がつながる先をまとめておきます。この事件で当事者になれるかどうかは、当事者適格を扱う回で。自分で訴訟を戦えるかどうか、代理人を立てる話は訴訟能力を扱う回で。訴え却下の判決の位置づけは、判決の種類を扱う回で。複数の人が全員そろって当事者になる場面は、共同訴訟を扱う回で。権利能力なき社団の実体法上の扱いは、民法のシリーズで、それぞれ扱います。次に見ていくのは、訴訟能力です。その人は自分で戦えるか、代理人を立てるならどうするか——そこを、じっくり見ていきましょう。
参照条文
- 民事訴訟法28条
- 民事訴訟法29条
- 民事訴訟法37条