民訴ゼロから民訴#55

当事者尋問と鑑定

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第2章 訴訟の審理 #55/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

一番の目撃者なのに、最後に聞く

冒頭事案の関係図(患者Aが病院を営む法人Bを訴えた医療過誤事件・B代表者=当事者尋問の対象・執刀医C=手術の当時に自分がした処置を話す人・裁判所が選ぶ別の専門医D=鑑定人・Aが個人的に頼んだ医師E=私鑑定) 図:冒頭事案の関係図

今日の事件はこうです。患者Aが、手術を受けた病院を経営する法人Bを訴えました。この事件には、医師も3人出てきます。手術をした執刀医C、裁判所が選ぶ専門医D、Aさんが自分で頼んだ医師Eです。手術の前にどんな説明を受け、手術の後に体がどうなったか。それを一番よく知っているのは、当のAさん自身です。ところが、裁判所がAさんの話を聞く順番は、最後に回されます。この問いへの答えは、今日の中盤で戻ってきます。まず押さえておきたいのは、当事者本人という証拠方法が、証人とはまるで違う扱いを受けているという前提です。

当事者尋問とは

当事者尋問の定義の板(当事者自身に争いになっている事実を陳述させる手続207条・信用性には当然疑問があるが事案を直接経験した重要な証拠方法・法定代理人や法人の代表者も当事者尋問の対象211条) 図:当事者尋問の定義の板

まず、当事者尋問とは何か。当事者自身に、争いになっている事実について陳述させる手続です。当事者は自分に有利なように話すはずです。それでも証拠になるんですか。なります。当事者は訴訟の勝敗に直接の利害を持つので、供述の信用性には当然疑問がつきます。ただ、事案を直接経験した人であることも確かです。手術の前に何を説明され、手術の後にどんな症状が続いたかを、患者A本人ほど直接に知っている人はいません。信用性に疑問がありながらも、重要な証拠方法として認められているんです。

条文民事訴訟法211条

民事訴訟法211条(法定代理人の尋問) この法律中当事者本人の尋問に関する規定は、訴訟において当事者を代表する法定代理人について準用する。ただし、当事者本人を尋問することを妨げない。

その受けがここです。法定代理人や法人の代表者は、証人ではなく当事者本人の尋問の手続で話を聞かれます。今日の事件でいえば、法人Bの代表者が話を聞かれるとき、これは当事者尋問として扱われます。

証人尋問との違い4つ

4つの違いの板(①職権でも尋問できる207条1項・弁論主義の例外②宣誓は裁量207条1項後段③制裁は過料209条や真実擬制208条で証人の偽証罪や勾引とは違う④原則は証人が先=補充性207条2項) 図:4つの違いの板

ここからが今日の中心です。当事者尋問は、証人尋問と4つの点で違います。

条文民事訴訟法207条1項・2項

民事訴訟法207条1項・2項(当事者本人の尋問) 裁判所は、申立てにより又は職権で、当事者本人を尋問することができる。この場合においては、その当事者に宣誓をさせることができる。 2 証人及び当事者本人の尋問を行うときは、まず証人の尋問をする。ただし、適当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、まず当事者本人の尋問をすることができる。

①職権でも尋問できるの板(証人尋問は当事者の申立てが基本・当事者尋問は裁判所が職権で命じられる207条1項・弁論主義の例外・理由は当事者は法廷に呼び出しやすい手近な情報源・実務で使われるのは本人が自分で訴訟をしているまれな場合) 図:①職権でも尋問できるの板

1つ目、職権でもできるという点です。証人尋問は当事者の申立てで始まるのが基本でしたが、当事者尋問は裁判所が自分から命じることもできます。この207条1項は、その原則の例外にあたります。理由は、当事者は法廷に呼び出しやすい手近な情報源だからです。事案の解明と真実発見のために、裁判所が自分から当事者に聞いてよいことになっています。ただし、実務でこれが使われるのは、本人が自分で訴訟をしている、まれな場合に限られます。

②宣誓は裁量の板(証人は宣誓させなければならないのが原則201条1項・当事者本人は宣誓させることができる207条1項後段=裁量・実務ではほぼ例外なく宣誓・勝ち負けがかかった本人に不利なことまで必ず誓わせるのは酷な場面がある) 図:②宣誓は裁量の板

2つ目、宣誓が裁量だという点です。207条1項の後段を見てください。証人には宣誓させなければならないのが原則でしたが、当事者本人には宣誓させることができる、という書き方です。実務では当事者にもほぼ例外なく宣誓させていますが、条文の建前としては裁量です。勝ち負けがかかった本人に、自分に不利なことまで必ず誓わせるのは酷な場面があります。だから、誓わせるかどうかを裁判所の判断に委ねているんです。

③制裁は過料と真実擬制の板(宣誓した当事者の虚偽陳述は10万円以下の過料209条=証人の偽証罪とは違う・出頭せず宣誓や陳述を拒むと相手方の主張を真実と認めることができる208条=真実擬制・証人の勾引のような身柄の強制は無い・当事者には証言拒絶権の制度自体が無い) 図:③制裁は過料と真実擬制の板

条文民事訴訟法209条1項〜3項

民事訴訟法209条1項・2項・3項(虚偽の陳述に対する過料) 宣誓した当事者が虚偽の陳述をしたときは、裁判所は、決定で、十万円以下の過料に処する。 2 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。 3 第一項の場合において、虚偽の陳述をした当事者が訴訟の係属中その陳述が虚偽であることを認めたときは、裁判所は、事情により、同項の決定を取り消すことができる。

宣誓した当事者が嘘をつくと、10万円以下の過料です。刑罰ではありません。前回見た、証人が嘘をついた場合の偽証罪とは違うんですか。違います。証人の虚偽陳述は刑法上の偽証罪という犯罪ですが、当事者の虚偽陳述は過料という金銭の制裁にとどまります。当事者は、自分の勝ち負けがかかった立場で話します。証人と同じように刑罰で真実を迫るのは酷なので、制裁を過料という軽いものにとどめているんです。過料に加えて罰金や拘留、さらに勾引まで、証人には3段階の制裁が用意されていました。当事者にはそれと同じ制裁は用意されていません。

条文民事訴訟法208条

民事訴訟法208条(不出頭等の効果) 当事者本人を尋問する場合において、その当事者が、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓若しくは陳述を拒んだときは、裁判所は、尋問事項に関する相手方の主張を真実と認めることができる。

これが3つ目の違いです。出頭しない、宣誓や陳述を拒んだ場合の効果です。証人の勾引のような身柄の強制は無い代わりに、相手方の主張を真実と認めてよい、という効果が用意されています。これを真実擬制と呼びます。法人Bの代表者が、正当な理由なく出頭を拒んだり、答えるべき質問に答えなかったりすると、裁判所は患者Aの主張を真実と認めてよいことになります。身柄を拘束される勾引よりも、訴訟で負けるという結果のほうが、当事者自身のこととして重く効きます。だったら、当事者には証人のような証言拒絶権は無いんですか。ありません。証人には、自分や家族が刑事訴追を受けたり名誉を害されたりするおそれがある場合や、公務員の職務上の秘密や、医師や弁護士などが仕事で知った秘密、技術や職業の秘密に関わる場合に、証言拒絶権が認められていましたが、当事者にはこの制度自体がありません。理由は今の208条です。答えを拒めば、その分だけ相手の主張が真実と認められてしまう。この不利益そのものが、証人の証言拒絶権の代わりに機能しているからです。

④原則は証人が先の板(207条2項本文=証人と当事者本人を尋問するときはまず証人・理由は当事者は信用性に疑問がつきやすいので客観性の高い証人の話を先に聞く・ただし書=裁判所が適当と認めれば当事者の意見を聴いて当事者本人を先に尋問できる・この決まりを当事者尋問の補充性と呼ぶ) 図:④原則は証人が先の板

4つ目、そしてこれが冒頭の問いに関わります。もう一度207条2項を見てください。原則は、証人の尋問を先にする、という決まりです。当事者は勝ち負けに利害があるので、信用性に疑問がつきやすい。だから、より客観性の高い証人の話を先に聞き、その材料を持ってから、最後に当事者本人の話を聞く。これを当事者尋問の補充性と呼びます。確認の利益で出てきた補充性とは別の話で、ここでは、証人の後に回すという順番のことです。今日の事件なら、まず執刀医Cのような証人の話を聞き、Aさん本人の話はそのあと、最後に聞きます。これが原則です。

207条2項にはただし書があります。裁判所が適当だと認めれば、当事者の意見を聴いて、当事者本人を先に尋問することもできます。争点がまだ絞れておらず、当事者本人に先に大まかな経緯を話させたほうが、その後の証人尋問の的が絞りやすい、という場合です。原則は証人が先ですが、それが常に最善とは限らないので、ただし書で裁判所に選択の余地を残しているんです。

ウェブ会議は使えるが書面尋問は使えない

210条の準用リストの板(195条・201条2項・202条から204条まで・206条は準用=ウェブ会議204条も含む・202条から206条までのうち205条の書面尋問だけ準用リストから外れている) 図:210条の準用リストの板

条文民事訴訟法210条

民事訴訟法210条(証人尋問の規定の準用) 第百九十五条、第二百一条第二項、第二百二条から第二百四条まで及び第二百六条の規定は、当事者本人の尋問について準用する。

証人尋問のための規定のうち、いくつかは当事者尋問にも準用されます。204条のウェブ会議は、この準用リストに入っています。出頭が困難な当事者本人の尋問を、ウェブ会議でつなぐこともできるんです。この210条の号を見てください。195条、201条2項、202条から204条まで、206条。202条から206条までのうち、205条だけが入っていません。書面尋問は、当事者尋問には使えないんです。当事者は事案について一番の利害を持つ人です。書面での回答だけで済ませると、その場での反応を裁判官が見られず、相手方もその場で突っ込めません。証人以上に、直接顔を合わせて聞く必要が大きいから、と理解してください。

陳述書――書面だけで済ませてよいか

陳述書の問題の板(証人や当事者本人が法廷で話す内容をあらかじめ書面にまとめたもの・尋問の前に提出し内容を予測させる・疑問=書面だけで直接主義や反対尋問権や宣誓義務が満たされるか) 図:陳述書の問題の板

実務でよく使われるものに、陳述書があります。証人や当事者本人になる人が、法廷で話す内容をあらかじめ書面にまとめたものです。陳述書は、法廷での尋問に代わるものではありません。尋問の前に提出して、尋問の内容を裁判所や相手方に予測させておくためのものです。ただ、ここに疑問が出ます。陳述書という書面だけで済ませてしまうと、直接主義や反対尋問権、宣誓義務が保障されなくなるんじゃないか、という疑問です。ここで考え方が分かれます。

⭐ 論文で書く規範:陳述書――形式的直接主義と実質的直接主義 通説は形式的直接主義に立つ。実際に出頭した証人や当事者本人について直接主義や反対尋問権の保障が満たされていればよく、陳述書はそれ自体を理由に証拠能力を否定されない。有力説は、人証は法廷で直接聞くのが本来の姿だという考え方(実質的直接主義)を重く見て、陳述書だけで済ませてよい場面はごく限られると見る。 (学説の対立(論文で論点になりうる))

通説は、実際に出頭した人について直接主義や反対尋問権が満たされていればよい、という立場です。陳述書を書いた本人が法廷に出てくれば、相手方はその場で中身を反対尋問で突けるからです。たとえば法人Bの代表者が「手術の危険はきちんと説明した」と陳述書に書いていても、Aの側は法廷でその点を問いただせます。この立場なら、陳述書そのものは証拠として使ってよく、証拠能力を否定される理由にはなりません。証拠能力というのは、そもそも証拠として取り調べてよい資格のことです。有力説は、人証を調べる以上、実際にその場で直接聞くという原則そのものが原則的に働くべきだと考えます。この立場だと、陳述書だけで人証調べを済ませてしまうことには慎重になります。どちらの立場でも、資格があることと、中身をどこまで信用するかは別の話です。陳述書には、証言を予測しやすくする、尋問の時間を節約するという実際の利点がありますが、紛争が起きた後に訴訟のために作られること、嘘を書いても法的な制裁が無いことから、証拠としての評価はそれほど高くありません。

鑑定とは

鑑定の定義の板(専門家に、その分野の経験から分かる一般的な法則そのものを教えてもらうか、その法則を裁判所が示した具体的な資料にあてはめた判断を教えてもらい、裁判所を補助する手続・212条以下・行う者が鑑定人・典型例は医療過誤事件で医療行為の適否を医師が意見陳述する場合) 図:鑑定の定義の板

ここから、もう1つの証拠方法、鑑定に入ります。専門家に、その分野の経験から分かる一般的な法則そのものを教えてもらう、あるいは、その法則を裁判所が示した具体的な資料にあてはめて得た判断を教えてもらう。これによって裁判所を補助する手続です。行う人が鑑定人です。今日の事件でいえば、執刀医C以外に、裁判所が選んだ別の専門医Dが、この手術の処置が医療水準に沿っていたかどうかを意見として述べる、という場面が典型です。手術の適否のような専門的な判断は、法律家である裁判官には分かりません。だから、専門家に経験則そのものを報告してもらい、それを判断の材料にするんです。

鑑定人と専門委員の違い

鑑定人と専門委員の対照板(鑑定人=裁判所が事実を判断するための証拠方法そのもの・専門委員=争点整理や訴訟の進行や和解のための専門的知識の提供者・専門委員の説明そのものは証拠資料にならない・例外的に証拠調べの期日にも関与できる92条の2第3項) 図:鑑定人と専門委員の対照板

以前、専門委員という制度を見ました。鑑定人と専門委員は、どちらも専門知識を持つ人が裁判所に協力する点で似ていますが、役割が違います。鑑定人は、裁判所が事実を判断するための証拠方法そのものです。鑑定人の意見は、証拠として直接使われます。専門委員は違います。争点や証拠を整理する段階や、訴訟の進め方、和解のために、専門的な知識を提供するだけの人です。

条文民事訴訟法92条の2第3項

民事訴訟法92条の2第3項(専門委員の証拠調べへの関与) 裁判所は、証拠調べをするに当たり、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、決定で、証拠調べの期日において専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。この場合において、証人若しくは当事者本人の尋問又は鑑定人質問の期日において専門委員に説明をさせるときは、裁判長は、当事者の同意を得て、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするために必要な事項について専門委員が証人、当事者本人又は鑑定人に対し直接に問いを発することを許すことができる。

専門委員の説明は証拠にならないんでしたよね。それなのに、証拠調べの期日にも出てくるんですか。出てきます。ただし、あくまで専門的な知見を分かりやすくするための関与にとどまります。この3項が例外で、証人や当事者本人の尋問、鑑定人への質問の期日に専門委員を関与させ、裁判長が当事者の同意を得れば、専門委員が直接、証人や当事者、鑑定人に問いを発することまで許されます。それでも専門委員の発言そのものが証拠になるわけではありません。証拠になるのは、あくまで証人や当事者、鑑定人の答えのほうです。

鑑定人の選任・義務・欠格――代わりがきくから裁判所が選ぶ

鑑定人の選任と義務の板(申出は当事者180条1項・規129条1項・選任と鑑定事項は裁判所213条・規129条4項=代替性があるから・鑑定義務212条1項・欠格212条2項) 図:鑑定人の選任と義務の板

鑑定の手続に入ります。鑑定を求める申出は当事者がします。証明したい事実を特定して申し出て、同時に鑑定を求める事項を書いた書面を出します。

条文民事訴訟規則129条1項・4項

民事訴訟規則129条1項・4項(鑑定事項) 鑑定の申出をするときは、同時に、鑑定を求める事項を記載した書面を提出しなければならない。ただし、やむを得ない事由があるときは、裁判長の定める期間内に提出すれば足りる。 4 裁判所は、第一項の書面に基づき、前項の意見も考慮して、鑑定事項を定める。この場合においては、鑑定事項を記載した書面を鑑定人に送付しなければならない。

4項に出てくる「前項の意見」というのは、3項の話です。相手方は、申出の書面に意見があれば、それを書いた書面を裁判所に出します。裁判所はその意見も考えたうえで、最終的な鑑定事項を決めます。

条文民事訴訟法213条

民事訴訟法213条(鑑定人の指定) 鑑定人は、受訴裁判所、受命裁判官又は受託裁判官が指定する。

証人は、その場に居合わせた特定の人でなければ意味がありませんが、鑑定人は、必要な学識経験があれば誰でもよく、代わりがききます。だからこそ、鑑定人が誰かという選任は、当事者ではなく裁判所が決めます。今日の事件でいえば、Aを治療した医師Cではなく別の専門医Dが鑑定人として選ばれるのは、この代替性のためです。Cは手術に直接関わった人で、Dはそうではない第三者だからこそ、公平な判断が期待できるんです。

条文民事訴訟法212条1項・2項

民事訴訟法212条1項・2項(鑑定義務) 鑑定に必要な学識経験を有する者は、鑑定をする義務を負う。 2 第百九十六条又は第二百一条第四項の規定により証言又は宣誓を拒むことができる者と同一の地位にある者及び同条第二項に規定する者は、鑑定人となることができない。

必要な学識経験がある人には、鑑定をする義務があります。ただし、証人なら証言や宣誓を拒める立場にある人はそもそも鑑定人になれません。公平な鑑定が期待できないからです。16歳未満のように宣誓ができない人も鑑定人になれません。鑑定人には宣誓が求められますが、その宣誓自体ができないからです。

鑑定人には勾引が無い

鑑定人への準用リストの板(191条・197条から199条まで・201条1項・192条・193条は準用=公務員の秘密・鑑定拒絶・宣誓・不出頭の過料や罰金・出頭しないときの制裁192条から194条のうち194条の勾引だけが外れている216条) 図:鑑定人への準用リストの板

条文民事訴訟法216条

民事訴訟法216条(証人尋問の規定の準用) 第百九十一条の規定は公務員又は公務員であった者に鑑定人として職務上の秘密について意見を述べさせる場合について、第百九十七条から第百九十九条までの規定は鑑定人が鑑定を拒む場合について、第二百一条第一項の規定は鑑定人に宣誓をさせる場合について、第百九十二条及び第百九十三条の規定は鑑定人が正当な理由なく出頭しない場合、鑑定人が宣誓を拒む場合及び鑑定拒絶を理由がないとする裁判が確定した後に鑑定人が正当な理由なく鑑定を拒む場合について準用する。

整理すると、公務員の職務上の秘密は191条、鑑定を拒む場合は197条から199条、宣誓は201条1項、正当な理由のない不出頭や宣誓拒絶には192条と193条の過料や罰金が準用されます。ここで、大事な条文が抜けています。何が抜けているんですか。194条、勾引です。証人には、出頭しなければ身柄を強制的に連れてくる勾引まで用意されていましたが、鑑定人にはそれがありません。鑑定人には代わりがきくからです。ある専門医が出頭しなくても、別の専門医に頼めばよい。証人の記憶のような、その人にしか無い情報ではないので、身柄を拘束してまで確保する必要が無いんです。

条文民事訴訟法218条1項〜3項

民事訴訟法218条1項・2項・3項(鑑定の嘱託) 裁判所は、必要があると認めるときは、官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は相当の設備を有する法人に鑑定を嘱託することができる。この場合においては、宣誓に関する規定を除き、この節の規定を準用する。 2 前項の場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、官庁、公署又は法人の指定した者に鑑定の結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録の説明をさせることができる。 3 第一項の場合において、裁判所は、当事者に対し、同項の嘱託に係る鑑定の結果の提示をしなければならない。

鑑定は、個人だけでなく、官庁や十分な設備を持つ法人に嘱託することもできます。以前見た鑑定嘱託の話が、ここに位置づけられます。病院の設備を鑑定するような場面で、大学病院という法人そのものに嘱託する、という使い方です。

忌避と鑑定人質問――尋問ではなく質問

忌避と質問の順序の板(忌避214条=陳述前に申し立て・理由あり決定には不服申立て不可・理由なし決定にのみ即時抗告・質問の順序215条の2=裁判長→申出当事者→他方当事者=説明会方式・ウェブ会議による鑑定215条の3) 図:忌避と質問の順序の板

条文民事訴訟法214条1項〜4項

民事訴訟法214条1項・2項・3項・4項(鑑定人の忌避) 鑑定人について誠実に鑑定をすることを妨げるべき事情があるときは、当事者は、その鑑定人が鑑定事項について陳述をする前に、これを忌避することができる。鑑定人が陳述をした場合であっても、その後に、忌避の原因が生じ、又は当事者がその原因があることを知ったときは、同様とする。 2 忌避の申立ては、受訴裁判所、受命裁判官又は受託裁判官にしなければならない。 3 忌避を理由があるとする決定に対しては、不服を申し立てることができない。 4 忌避を理由がないとする決定に対しては、即時抗告をすることができる。

誠実に鑑定することを妨げる事情がある鑑定人は、忌避できます。今日の事件で、鑑定人Dが法人Bと利害関係のある人物だと分かったら、Aは忌避を申し立てられます。鑑定人の忌避は、認められたときと却下されたときとで、不服の申立ての扱いが違います。忌避を理由ありとする決定には、不服を申し立てられません。逆に、理由なしとする決定には、即時抗告ができます。忌避が認められても、鑑定人はもともと代わりがきくので、別の専門医を選び直せば済み、当事者は困りません。逆に却下されると、公正が心配な鑑定人の意見がそのまま証拠になってしまう。だから却下された側にだけ、争う道を残しているんです。以前見た裁判官の忌避も、同じ作りでした。鑑定人は、意見を書面または口頭で述べます。口頭で述べる場合には、意見を述べた後で質問を受けます。

条文民事訴訟法215条の2第1項〜4項

民事訴訟法215条の2第1項・2項・3項・4項(鑑定人質問) 裁判所は、鑑定人に口頭で意見を述べさせる場合には、鑑定人が意見の陳述をした後に、鑑定人に対し質問をすることができる。 2 前項の質問は、裁判長、その鑑定の申出をした当事者、他の当事者の順序でする。 3 裁判長は、適当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、前項の順序を変更することができる。 4 当事者が前項の規定による変更について異議を述べたときは、裁判所は、決定で、その異議について裁判をする。

ここも鑑定人が証人と違う点です。順序も違います。証人尋問は申し出た当事者が先に聞く主尋問から始まりましたが、鑑定人質問は裁判長が先に聞き、そのあとで申出当事者、他の当事者という順序です。鑑定人は、当事者のどちらかを利するために話す人ではなく、裁判所を補助するために専門知識を報告する人です。当事者が最初から突っ込むように質問すると、鑑定人が敵対心を持たれているように感じてしまいます。まず裁判長が内容を整理するように聞き、そのあとで当事者が聞く。説明会のような形にすることで、鑑定人への非礼を避けているんです。

条文民事訴訟法215条の3

民事訴訟法215条の3(映像等の送受信による通話の方法による陳述) 裁判所は、鑑定人に口頭で意見を述べさせる場合において、相当と認めるときは、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、意見を述べさせることができる。

鑑定人の意見陳述も、ウェブ会議でできます。遠方の専門医Dに、法廷まで来てもらわなくても、この方法で意見を聞けます。

鑑定証人と私鑑定――混同しやすい2つ

鑑定証人と私鑑定の対照板(鑑定証人=特別の学識経験により知り得た過去の具体的事実を陳述する者217条=証人尋問に関する規定による=代わりがきかない・私鑑定=当事者が個人的に依頼した意見書=書証として扱う実務=欠格や忌避や質問順序や宣誓の仕組みが効かない慎重論) 図:鑑定証人と私鑑定の対照板

条文民事訴訟法217条

民事訴訟法217条(鑑定証人) 特別の学識経験により知り得た事実に関する尋問については、証人尋問に関する規定による。

最後に、混同しやすい2つを整理します。まず鑑定証人。特別な学識や経験があるからこそ知り得た、過去の具体的な事実を話す人です。執刀医Cを例に考えましょう。Cは、手術の当時、自分がどういう処置をしたかという、過去の具体的な事実を知っています。この事実を話すCは、鑑定証人にあたります。専門知識を持っているという点は鑑定人と似ていますが、話す内容は、裁判所が示した資料にあてはめて得た専門的な判断ではなく、過去に自分が経験した事実そのものです。だから217条は、鑑定証人の尋問には証人尋問に関する規定によると定めています。扱いは、鑑定人ではなく証人と同じです。宣誓も証人と同じやり方で、嘘をつけば偽証罪です。鑑定人のように代わりがきく立場ではなく、その手術に立ち会ったCでなければ話せない事実だからです。

Dは専門知識があれば誰でも務まる立場、Cはその場に居合わせたからこそ話せる立場。これが、鑑定人と鑑定証人を分ける決め手です。もう1つ、私鑑定です。今日の事件で、患者Aが自分で頼んだ医師Eに意見書を書いてもらったとします。それも、鑑定になるんですか。なりません。私鑑定は、裁判所の手続を通さず、当事者が個人的に専門家へ依頼して作ってもらった意見書です。裁判所の手続としての鑑定ではないので、実務では書証として扱われます。慎重論があります。正式な鑑定の手続には、鑑定人になれない人を排除する欠格の規定や、忌避、裁判長がまず質問する仕組み、宣誓をした鑑定人が虚偽の鑑定をすれば処罰される規定など、適切さを確保するための仕組みが揃っています。私鑑定には、これらの仕組みが働きません。Eは、Aに頼まれて意見書を書いた人であり、Bの側から忌避することもできず、宣誓もしていません。書証として無条件に扱ってよいのか、慎重に見るべきだという指摘があるのは、このためです。

Aさんの事件で振り返る

まとめの板(当事者は勝ち負けに利害がある一番の目撃者=職権・裁量宣誓・真実擬制・補充性の4つの違い・鑑定人は専門の経験則を報告する人=代わりがきくから裁判所が選び勾引なし尋問ではなく質問・鑑定証人と私鑑定は代わりがきかないか正式な手続を通っているかで区別) 図:まとめの板

今日見てきたことを、Aさんの事件で振り返りましょう。当事者は、勝ち負けに利害がある一番の目撃者だからこそ、証人とは違う扱いを受けます。職権でも尋問できる、宣誓は裁量、不出頭や供述拒否には過料ではなく真実擬制、そして原則は証人が先という補充性。もう1つ、鑑定人は事実ではなく専門の経験則を報告する人だから、代わりがきく。裁判所が選び、勾引はなく、尋問ではなく質問を受けます。手術の当時に自分が経験した事実を話す鑑定証人や、当事者が個人的に頼んだ私鑑定とは、はっきり区別してください。今日出てきた陳述書や私鑑定が、文書としてどう扱われるのかも、そこでつながってきます。

参照条文

  • 民事訴訟法211条
  • 民事訴訟法207条1項・2項
  • 民事訴訟法209条1項〜3項
  • 民事訴訟法208条
  • 民事訴訟法210条
  • 民事訴訟法92条の2第3項
  • 民事訴訟規則129条1項・4項
  • 民事訴訟法213条
  • 民事訴訟法212条1項・2項
  • 民事訴訟法216条
  • 民事訴訟法218条1項〜3項
  • 民事訴訟法214条1項〜4項
  • 民事訴訟法215条の2第1項〜4項
  • 民事訴訟法215条の3
  • 民事訴訟法217条

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