証人義務と証言拒絶権
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第2章 訴訟の審理 #54/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
記者は取材源を明かさなければならないのか
図:冒頭事案の関係図
この事件を報じた記者Cが、法廷で「その話を誰から聞いたのか、取材源を明かしなさい」と求められたとします。Cはこれを拒めるでしょうか。この問いへの答えは、今日の後半で戻ってきます。まず押さえておきたいのは、証人として呼ばれた人には、原則として答える義務がある、という前提です。この前提がどれくらい強いものかを知らないと、記者が拒めるかどうかも判断できません。
証人とは・証人義務とは
図:証人の定義と証人義務の板
証人と、当事者本人、そして鑑定人の3つでした。今日はそのうちの1人目、証人に絞って見ていきます。まず証人とは何か。自分が過去に経験した具体的な事実を、裁判所で話す、訴訟の第三者のことです。契約書や写真のような客観的な証拠が最初から揃っている事件なら、証人の話は補助的なもので済みます。でも、契約書を作らずに進めた取引や、突然起きた事故のように、客観的な証拠に乏しい事件では、その場を見ていた人の記憶が、事実を知る唯一の手がかりになります。今日の事件でいえば、Bの工場で何が起きていたかを直接知っているのは、そこで働いていた人たちだけです。
条文民事訴訟法190条
民事訴訟法190条(証人義務) 裁判所は、特別の定めがある場合を除き、何人でも証人として尋問することができる。
この条文を裏から読んでください。裁判所が「何人でも」尋問できるということは、呼ばれた側からすれば、特別な理由がない限り、証人になることを拒めない、ということです。年齢の下限も上限もなく、精神状態に一定の制限もありません。Bの取引先の社長でも、Aの家族でも、誰でも証人になれます。この誰にでもかかる原則こそが、証人義務の実体です。誰でも証人になれるということは、Aさんの奥さんやお子さんも、証人として呼べるんですか。呼べます。当事者の親族であることは、証人になれない理由にはなりません。ただし1つだけ例外があります。
条文民事訴訟法211条
民事訴訟法211条(法定代理人の尋問) この法律中当事者本人の尋問に関する規定は、訴訟において当事者を代表する法定代理人について準用する。ただし、当事者本人を尋問することを妨げない。
当事者を代表して訴訟を進める法定代理人は、証人にはなれません。話を聞かれる場面はありますが、それは証人尋問ではなく、当事者本人の尋問の手続に乗ります。当事者側にすでに組み込まれている立場なので、外側から呼ばれる証人という枠には入らない、ということです。
出頭義務――呼ばれたら来なければならない
図:出頭義務と制裁3段の板
- 呼出しで出頭を確保・不出頭の制裁1=訴訟費用の負担
- 10万円以下の過料192条1項・制裁2=犯罪として10万円以下の罰金または拘留193条1項・制裁3=勾引194条1項=代わりがきかないから・実務でここまで使われることはほとんど無い
証人になったら、まず出頭しなければなりません。裁判所が呼出しを送り、証人を申し出た当事者にも出頭させる努力が求められます。3段階の制裁が用意されています。
条文民事訴訟法192条1項・2項
民事訴訟法192条1項・2項(不出頭に対する過料等) 証人が正当な理由なく出頭しないときは、裁判所は、決定で、これによって生じた訴訟費用の負担を命じ、かつ、十万円以下の過料に処する。 2 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
まず、訴訟費用の負担と、さらに10万円以下の過料です。過料は、刑罰ではない金銭の制裁で、前科はつきません。
条文民事訴訟法193条1項・2項
民事訴訟法193条1項・2項(不出頭に対する罰金等) 証人が正当な理由なく出頭しないときは、十万円以下の罰金又は拘留に処する。 2 前項の罪を犯した者には、情状により、罰金及び拘留を併科することができる。
次に、これは犯罪としての制裁です。10万円以下の罰金、または拘留。拘留は、30日未満の短い期間、身柄を拘束する刑罰です。
条文民事訴訟法194条1項・2項
民事訴訟法194条1項・2項(勾引) 裁判所は、正当な理由なく出頭しない証人の勾引を命ずることができる。 2 刑事訴訟法中勾引に関する規定は、前項の勾引について準用する。
最後は、身柄を強制的に法廷まで連れてくる勾引です。勾引まで用意されているのは、証人の特殊さのためです。文書はコピーが取れますが、証人は代わりがきかない。Bの工場でその日その場に居合わせた人の記憶は、その人からしか得られません。だからこそ、他の証拠方法には無い、身柄の強制まで法律は用意しているんです。もっとも、実際の裁判で、ここまでの強制措置が取られることはほとんどありません。制裁の重さそのものが、証人義務の重さを表している、と理解してください。
証言義務と証言拒絶権――拒めるのは黙秘義務がある場合だけ
図:証言拒絶権の枠組みの板
出頭したら、次は証言する義務です。証人は尋問に答えなければなりません。ただし、これにも例外があります。さっき、証人義務は誰にでもかかる原則、と言っていましたよね。証言する義務にも、例外があるんですか。あります。ただし、その例外が開くのは、法律が別の場面で「それについては黙っていなさい」と義務づけている場合に限られます。証言を拒みたいから拒める、という順序ではありません。黙秘義務が先にあって、その裏返しとして証言拒絶権が認められる、という順序です。
条文民事訴訟法197条2項
民事訴訟法197条2項(証言拒絶権の限界) 前項の規定は、証人が黙秘の義務を免除された場合には、適用しない。
この2項がその順序をよく表しています。黙秘義務が免除されれば、証言拒絶権も一緒に消えます。根拠が外れれば、例外も一緒に外れる、ということです。今日この先で見る4つの場合は、すべて「何が証人に黙秘を義務づけているか」の一覧として見てください。なお、証言拒絶権が認められる場合は、後の回で扱う文書提出義務を免れる理由としても使われます。
4つの場合①・②――義務の出どころがはっきりしている場合
図:4類型のうち①②の板
4つの場合を、順番に見ていきます。まず1つ目は、公務員の職務上の秘密です。
条文民事訴訟法191条1項・2項
民事訴訟法191条1項・2項(公務員の尋問) 公務員又は公務員であった者を証人として職務上の秘密について尋問する場合には、裁判所は、当該監督官庁(衆議院若しくは参議院の議員又はその職にあった者についてはその院、内閣総理大臣その他の国務大臣又はその職にあった者については内閣)の承認を得なければならない。 2 前項の承認は、公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある場合を除き、拒むことができない。
公務員に職務上の秘密を尋問するには、まず監督官庁の承認が必要です。承認が得られなければ、その証人はその点について証言を拒めます。監督官庁は、いつでも承認を拒めるんですか。違います。拒めるのは「公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある場合」に限られます。承認するかどうかを監督官庁の好みで決めさせないための縛りです。
条文民事訴訟法197条1項1号
民事訴訟法197条1項1号(証言拒絶権) 次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。一 第百九十一条第一項の場合
この承認が得られない場合こそが、証言拒絶権の1つ目の場合にあたります。ここでの黙秘義務の出どころは、公務員としての秘密保持の立場そのものです。もし保健所の元職員が、この会社の製品を調査した記録について尋問されるなら、この場面に当てはまる可能性があります。次は2つ目、自己負罪拒否特権です。
条文民事訴訟法196条
民事訴訟法196条(証言拒絶権) 証言が証人又は証人と次に掲げる関係を有する者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれがある事項に関するときは、証人は、証言を拒むことができる。証言がこれらの者の名誉を害すべき事項に関するときも、同様とする。 一 配偶者、四親等内の血族若しくは三親等内の姻族の関係にあり、又はあったこと。 二 後見人と被後見人の関係にあること。
自分自身、または配偶者や一定の親族が、刑事訴追や有罪判決を受けるおそれがある事柄については、証言を拒めます。名誉を害する事柄についても同じです。Bの製法担当技術者Eを考えてみましょう。もし会社Bが違法な工程で製品を作るよう指示していて、Eがそれに従っていたとしたら、Eがその指示の内容を証言すると、Eは自分自身の刑事責任を認めることになりかねません。この場合、Eはその点について証言を拒めます。憲法38条1項は、自己に不利益な供述を強要されないという原則を定めています。この196条は、その考え方を民事訴訟の証人にも及ぼしたものだ、と理解しておいてください。
4つの場合③――専門職の守秘義務
図:4類型のうち③の板
3つ目は、医師や弁護士のような専門職です。
条文民事訴訟法197条1項2号
民事訴訟法197条1項2号(証言拒絶権) 二 医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合
医師、弁護士、公証人など、法律で列挙された職業の人が、仕事の中で知った、黙っておくべき事実について尋問される場合です。これらの職業は、法律そのものが守秘義務を課しています。列挙されていない専門職でも、法律上の守秘義務を負う職業であれば、この規定を類推できると考えられています。Dは、Aを治療する中で知った病状について、証言を拒めます。ただし、ここで思い出してほしいのが、さっき出てきた197条2項です。Dの黙秘義務は、そもそもAを守るためのものです。だから、Aが「もう話していい」と言えば、Dの黙秘義務はその範囲で消え、Dはその点について証言を拒めなくなります。黙秘義務の持ち主が免除すれば、義務も、それに乗っていた証言拒絶権も、一緒に外れるということです。
4つの場合④――技術又は職業の秘密の意義
図:4類型のうち④の板
さて、4つ目です。技術又は職業の秘密。
条文民事訴訟法197条1項3号
民事訴訟法197条1項3号(証言拒絶権) 三 技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合
①は公務員という法律上の立場、②は自分の刑事責任というはっきりしたリスク、③は資格法が課す守秘義務でした。どれも、黙秘義務の出どころが法律上はっきりしています。ところが④には、そうした裏付けがありません。技術や職業の秘密なら何でも当てはまる、と広く読めてしまいそうですが、実際にはそう単純ではなく、何が「技術又は職業の秘密」に当たるのかを、判例が絞り込んでいます。
判例最高裁決定(平成12年3月10日・民集54巻3号1073頁)〈百選A24〉
技術又は職業の秘密の意義を示した事件 「技術又は職業の秘密」とは、その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいう。
この判例が示した基準はこうです。その情報が公開されると、その技術の社会的な価値が下がって活動が難しくなる、あるいはその職業に深刻な影響が出て、以後の遂行が難しくなる。これに当たるものだけが「技術又は職業の秘密」です。単に「知られたら恥ずかしい」「不都合だ」というだけでは、当たらないんですか。当たりません。ここが境目です。たとえば、Eが持っている独自の製法が、公開されれば同業他社に模倣され、Bという会社の技術そのものの価値が下がってしまう、というなら、これは④に当たります。これに対して、単にBの社内的な体裁が悪くなる、経営陣が気まずい、という程度の不都合しか無いなら、社会的な価値の下落とは言えず、④には当たりません。会社にとって都合が悪いことと、社会的な価値が下がることは、同じではないんです。何でも秘密と言えば黙っていられるなら、誰にでもかかる証人義務という原則が骨抜きになります。だから、公開されると実害が出るものだけに絞るんです。
④の比較衡量――記者の場面で決着させる
図:④の比較衡量の板
では②の自己負罪拒否特権でも、同じように比較衡量するんですか。違います。②や③は、要件に当てはまれば、それだけで証言を拒めます。天秤にかける作業は挟みません。比較衡量が要るのは④だけです。1つ目から3つ目には、公務員の立場、刑事責任のおそれ、資格法の守秘義務という、条文が形で定めた根拠がありました。④の技術又は職業の秘密には、そうした条文上の根拠がありません。公開されたときにどれだけの実害が出るかという、実質的な大きさで判定するしかない。だから、当てはまるかどうかを決めるとき、④だけ比較衡量という作業が必要になるんです。この比較衡量が実際にどう働くか、冒頭の記者Cの場面で見てみましょう。
判例最高裁決定(平成18年10月3日・民集60巻8号2647頁)〈百選67〉
記者の取材源に関する事件 保護に値する秘密であるかどうかは、秘密の公表によって生ずる不利益と証言の拒絶によって犠牲になる真実発見及び裁判の公正との比較衡量により決せられる。当該報道の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該取材の態様、将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該民事事件において当該証言を必要とする程度、代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきである。
Cが受けた、取材源を明かせという求めは、まさにこの比較衡量の対象です。片方には、取材源を明かすと今後同じ種類の取材に協力してくれる相手がいなくなり、報道そのものが立たなくなるという不利益があります。もう片方には、AとBの裁判で真実を明らかにし、公正な裁判をするために、その情報がどれだけ必要かという利益があります。判例は、原則としてCは拒める、という立場です。報道が公共の利益に関わり、取材の手段が違法でもなく、取材源が明かすことを承諾してもいない。そのうえで、AとBの事件が社会的に重大で、Cの証言が無ければ真相に迫れないほど必要不可欠だ、という事情までは無いなら、取材源は守られます。逆に、事件が重大で、他に代わりになる証拠が無く、Cの証言が欠かせないなら、真実発見と裁判の公正が優先され、Cは拒めないことがあります。取材源だからといって、常に守られるわけではないんです。
⭐ 論文で書く規範:証言拒絶権――②③と④の違い ②自己負罪拒否特権や③専門職の守秘義務では、要件を満たせばそのまま証言を拒める。④技術又は職業の秘密だけ、判例は比較衡量という追加の作業を挟む。②③には刑事責任のおそれや資格法の守秘義務という、条文が形で定めた根拠があるのに対し、④にはそれが無く、公開された場合の実害の大きさそのものでしか判定できないためである。 (判例の立場(論文で論点になりうる))
証言拒絶権の審理――本案とは別に決める
図:証言拒絶権の審理の板
証人が証言を拒んだとき、それが本当に認められるのかは、事件の本筋の審理とは別に決められます。
条文民事訴訟法198条
民事訴訟法198条(証言拒絶の理由の疎明) 証言拒絶の理由は、疎明しなければならない。
証人は、拒む理由を疎明しなければなりません。証明ほど強い程度は要りませんが、一応確からしいと思わせる材料は必要です。
条文民事訴訟法199条1項・2項
民事訴訟法199条1項・2項(証言拒絶についての裁判) 第百九十七条第一項第一号の場合を除き、証言拒絶の当否については、受訴裁判所が、当事者を審尋して、決定で、裁判をする。 2 前項の裁判に対しては、当事者及び証人は、即時抗告をすることができる。
1つ目の公務員の場合は、監督官庁の承認が得られないことが理由でしたよね。この場合も疎明が要るんですか。そこは除かれています。1号の公務員の場合は、承認の有無という、監督官庁の判断そのものにかかっているので、証人が改めて疎明する必要はありません。それ以外の場合は、受訴裁判所が当事者を審尋して、決定で裁判をします。この裁判に対しては、当事者だけでなく、証人自身も即時抗告できます。Eは、公開されればBの技術の価値が下がる事情を疎明します。Aは「ただの体裁の問題だ」と争い、裁判所はAとBの意見を聞いて決定します。不服があれば、AもEも即時抗告できます。
即時抗告というのは、控訴とは違うんですか。違います。控訴は判決に対する不服申立てですが、即時抗告は決定に対する不服申立てで、期間も控訴より短く定められています。
条文民事訴訟法200条
民事訴訟法200条(証言拒絶に対する制裁) 第百九十二条及び第百九十三条の規定は、証言拒絶を理由がないとする裁判が確定した後に証人が正当な理由なく証言を拒む場合について準用する。
証言拒絶に理由が無いという裁判が確定した後も、証人が正当な理由なく拒み続けたら、さっき見た出頭義務違反と同じ制裁、訴訟費用の負担と過料、あるいは罰金や拘留が準用されます。拒む理由が認められなかったのに黙り続けることは、正当な理由の無い不出頭と同じ扱いを受けるんです。
宣誓義務――嘘をつけば偽証になる
図:宣誓義務の板
証人の3つの義務の最後、宣誓義務です。
条文民事訴訟法201条1項〜5項
民事訴訟法201条1項・2項・3項・4項・5項(宣誓) 証人には、特別の定めがある場合を除き、宣誓をさせなければならない。 2 十六歳未満の者又は宣誓の趣旨を理解することができない者を証人として尋問する場合には、宣誓をさせることができない。 3 第百九十六条の規定に該当する証人で証言拒絶の権利を行使しないものを尋問する場合には、宣誓をさせないことができる。 4 証人は、自己又は自己と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者に著しい利害関係のある事項について尋問を受けるときは、宣誓を拒むことができる。 5 第百九十八条及び第百九十九条の規定は証人が宣誓を拒む場合について、第百九十二条及び第百九十三条の規定は宣誓拒絶を理由がないとする裁判が確定した後に証人が正当な理由なく宣誓を拒む場合について準用する。
原則として、証人には宣誓をさせなければなりません。ただし、3つの例外があります。1つ目は、16歳未満の人や、宣誓の意味を理解できない人には宣誓させられません。2つ目は、さっきの196条にあたる証人が、証言拒絶権を使わずに証言する場合には、宣誓をさせないことができます。3つ目は、証人自身や196条の関係にある人に著しい利害関係のある事柄について尋問されるときは、証人のほうから宣誓を拒めます。2つ目は裁判所の判断で宣誓を省く場面、3つ目は証人自身の意思で宣誓を拒む場面という違いです。宣誓を拒んだときの審査や、正当な理由なく拒み続けたときの制裁は、さっき見た証言拒絶と同じ仕組みが準用されます。
宣誓した証人が嘘の証言をすると、偽証罪という別の犯罪になります。宣誓は、証言に重みを持たせる手続なんです。
交互尋問方式――当事者が主導権を握る
図:交互尋問の流れ図
証人を実際に尋問するときの順序です。
条文民事訴訟法202条1項〜3項
民事訴訟法202条1項・2項・3項(尋問の順序) 証人の尋問は、その尋問の申出をした当事者、他の当事者、裁判長の順序でする。 2 裁判長は、適当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、前項の順序を変更することができる。 3 当事者が前項の規定による変更について異議を述べたときは、裁判所は、決定で、その異議について裁判をする。
まず、尋問を申し出た当事者が聞く主尋問。次に、相手方の当事者が聞く反対尋問。必要なら、申し出た当事者がもう一度聞く再主尋問。最後に、裁判長が補充で聞く補充尋問。この順序が原則です。まず尋問を申し出たAさんの代理人が聞く主尋問があり、そのあと、被告Bの代理人が反対尋問をします。裁判長は、適当だと考えれば、当事者の意見を聴いて順序を変えることもできます。ただし、それに当事者が異議を出したら、裁判所が決定で判断します。ここに、当事者主義という考え方が表れています。証拠調べも、まず当事者同士が攻め合う場であって、裁判官はその後に補充で聞くだけの立場です。この交互尋問方式は、証人尋問だけでなく、当事者本人の尋問でも使われます。手続の主導権を当事者が握るという点は共通しています。
尋問を合理化する4つの工夫
図:尋問を合理化する4つの工夫の板
証人の尋問には、当事者や証人の負担を減らすための工夫がいくつか用意されています。まず、付添いです。
条文民事訴訟法203条の2第1項〜3項
民事訴訟法203条の2第1項・2項・3項(付添い) 裁判長は、証人の年齢又は心身の状態その他の事情を考慮し、証人が尋問を受ける場合に著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認めるときは、その不安又は緊張を緩和するのに適当であり、かつ、裁判長若しくは当事者の尋問若しくは証人の陳述を妨げ、又はその陳述の内容に不当な影響を与えるおそれがないと認める者を、その証人の陳述中、証人に付き添わせることができる。 2 前項の規定により証人に付き添うこととされた者は、その証人の陳述中、裁判長若しくは当事者の尋問若しくは証人の陳述を妨げ、又はその陳述の内容に不当な影響を与えるような言動をしてはならない。 3 当事者が、第一項の規定による裁判長の処置に対し、異議を述べたときは、裁判所は、決定で、その異議について裁判をする。
年齢や心身の状態から、証人が尋問中に著しい不安や緊張を覚えるおそれがあるとき、それを和らげるのにふさわしい人を、証人のそばに付き添わせられます。ただし、付添人が尋問や陳述を妨げたり、証言に不当な影響を与えるような言動をしてはいけません。たとえば、健康被害を受けたAの幼い子どもが証人になるなら、そばに祖母を付き添わせる、という使い方です。遮へいです。証人と当事者本人の間や、証人と傍聴人の間で、互いに相手の状態が見えないようにする措置を、裁判長が命じられます。付添いも遮へいも、犯罪の被害者が改めて心理的な被害を受けないよう配慮する、犯罪被害者保護という同じ流れから設けられた制度です。次に、前回すでに触れたウェブ会議です。出頭が困難な証人の尋問そのものを、ウェブ会議でつなぐ204条でした。3つの要件のうち、1号は物理的に出頭できない事情への対応、2号は証人と当事者本人等が対面すると精神の平穏を著しく害されるおそれがある場合、つまり付添いや遮へいと同じ犯罪被害者保護の流れにある要件、3号は当事者に異議が無いことでした。3号は、当事者が納得しているなら、法廷で直接顔を合わせるという原則を緩めてよい、という考え方です。もう1つ、書面尋問です。
条文民事訴訟法205条1項〜3項
民事訴訟法205条1項・2項・3項(尋問に代わる書面の提出) 裁判所は、当事者に異議がない場合であって、相当と認めるときは、証人の尋問に代え、書面の提出をさせることができる。 2 証人は、前項の規定による書面の提出に代えて、最高裁判所規則で定めるところにより、当該書面に記載すべき事項を最高裁判所規則で定める電子情報処理組織を使用してファイルに記録し、又は当該書面に記載すべき事項に係る電磁的記録を記録した記録媒体を提出することができる。この場合において、当該証人は、同項の書面を提出したものとみなす。 3 裁判所は、当事者に対し、第一項の書面に記載された事項又は前項の規定によりファイルに記録された事項若しくは同項の記録媒体に記録された事項の提示をしなければならない。
当事者に異議が無く、相当だと認められるときは、尋問そのものをせず、書面で回答させることができます。書面の代わりに、電子ファイルや記録媒体を提出することもできます。裁判所は、その内容を当事者に見せなければなりません。前回見たとおり、証人の話を聞く証拠調べは、公開主義、直接主義、口頭主義といった原則に支配されていました。誰でも見られる公開の法廷で、判決を書く裁判官自身が、証人の口から直接聞く、という原則です。そのうえ証人尋問では、相手方が反対尋問で突っ込めることも大切です。たとえば書面尋問なら、裁判官は証人の表情や言いよどみを見られず、相手方もその場で突っ込めません。この4つの工夫は、どれもそうした原則に抵触する危険をはらんでいます。だからこそ、当事者の意見を聴くこと、あるいは当事者に異議が無いことを要件にして、その危険を解消しているんです。
条文民事訴訟法210条
民事訴訟法210条(証人尋問の規定の準用) 第百九十五条、第二百一条第二項、第二百二条から第二百四条まで及び第二百六条の規定は、当事者本人の尋問について準用する。
ここで見比べてください。付添い、遮へい、ウェブ会議はいずれも準用対象に入っています。ところが、今見た205条の書面尋問だけは、この210条の準用対象に入っていません。つまり、当事者本人の尋問では、書面尋問を使えないんです。
Aさんの事件で振り返る
図:まとめの板
今日見てきたことを、Aさんの事件で振り返りましょう。証人義務は、190条によって誰にでもかかる原則の義務でした。公務員の職務上の秘密、自己負罪拒否特権、医師や弁護士のような専門職、そして技術又は職業の秘密。この4つの場合だけ、証人は証言を拒めます。技術又は職業の秘密だけは、資格のような定型的な裏付けが無いので、比較衡量という作業で当てはまるかどうかを決める。記者Cの取材源も、この比較衡量にかかっていましたね。黙秘義務が根拠だからこそ、根拠が外れれば拒絶権も消える。この原則と例外の関係を、最後まで一貫して覚えておいてください。拒絶が認められるかどうかは、本案の審理とは別に、疎明と審尋を経て決められ、不服があれば即時抗告できます。宣誓を経た証言には、偽証罪という重みが乗ります。そして、実際に証人を尋問するときは、当事者が主導権を握る交互尋問方式で進み、証人や当事者の負担を減らすための工夫が、直接主義などの原則との緊張関係を、当事者の意見を聴くことや、当事者に異議が無いことを条件にして解消しながら用意されています。
参照条文
- 民事訴訟法190条
- 民事訴訟法211条
- 民事訴訟法192条1項・2項
- 民事訴訟法193条1項・2項
- 民事訴訟法194条1項・2項
- 民事訴訟法197条2項
- 民事訴訟法191条1項・2項
- 民事訴訟法197条1項1号
- 民事訴訟法196条
- 民事訴訟法197条1項2号
- 民事訴訟法197条1項3号
- 民事訴訟法198条
- 民事訴訟法199条1項・2項
- 民事訴訟法200条
- 民事訴訟法201条1項〜5項
- 民事訴訟法202条1項〜3項
- 民事訴訟法203条の2第1項〜3項
- 民事訴訟法205条1項〜3項
- 民事訴訟法210条