当事者適格・第三者の訴訟担当・選定当事者——この事件で「誰が」争えるか〈後編〉
第3編「訴訟の開始(訴訟要件)」②の後編。前編の訴えの利益(客観面)に続き、訴訟要件の主観面=「この事件で誰が当事者として争えるか」を扱う。当事者適格は、当事者能力・訴訟能力(その人自身に備わる資格)とは違う、事件ごとの個別・相対的な資格で、欠けば却下・上訴事由○・再審事由×。類型別の判断基準(給付=形式的当事者概念/確認=確認の利益に吸収/形成=法定)と特殊な当事者適格(固有必要的共同訴訟・民衆訴訟・債権者代位訴訟・権利能力なき社団・法人代表者の地位)を整理。第三者の訴訟担当は、判決効が本人に及ぶ根拠(115条1項2号)を軸に、法定訴訟担当(債権者代位423条・質権者366条・株主代表訴訟847条/破産管財人・遺言執行者/職務上の当事者)と任意的訴訟担当(明文あり=選定当事者30条・手形取立委任裏書/明文なき=54条1項弁護士代理原則・訴訟信託禁止との衝突を乗り越える規範a・b)に整理。最後に選定当事者30条を全文構造で確かめる(3要件・多数決不可・書面・追加的選定・脱退と115条1項2号)。条文どおりの成立要件(54条1項・115条1項2号)と判例が立てる規範(明文なき任意的訴訟担当のa・b基準)の層の違いも恒久ガード。
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第3編 訴訟の開始(訴訟要件)②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
📺 この回は動画に合わせて前後編に分かれています。前編「訴訟要件総論・訴えの利益・確認の利益」はこちら(/notes/minso-c2-3/)。
前編#7aでは、「その訴えの中身は裁判所に取り合ってもらえるか」という客観的な入口条件=訴えの利益をたどった。給付は現在原則あり・将来は135条の例外のみ、確認は3基準で厳格に絞り込む、という線だった。中身が入口を通ったとして——では、その中身をそもそも誰が当事者として争ってよいのか。マンションの100世帯が同じ欠陥で被害を受けたとき、全員が原告として名前を書く必要があるのか。後編は、訴訟要件の主観面=当事者適格から、第三者の訴訟担当、そして完成形としての選定当事者30条までをたどる。
当事者適格とは何か
当事者適格とは、特定の訴訟物について、当事者として本案判決を求めることができる資格をいう。誰でも訴訟を起こすこと自体はできるが、誰でも「この事件」の勝ち負けを決める資格があるわけではない。事件ごとに、個別・相対的に判定される資格だ。
ここで#4a・#4bの3階層を思い出したい。当事者能力は訴訟の当事者に一般になれる資格(民法の権利能力に相当)、訴訟能力は自分の判断で有効に訴訟行為をする能力(民法の行為能力に相当)で、この2つは事件の中身と関係なくその人自身に備わっているかの話だった。これに対して当事者適格は「この事件について」当事者としてふさわしいかという事件ごとの個別・相対的な資格で、同じ人でもある事件では適格があり別の事件ではない、ということが普通に起こる。3つを混同すると短答でも論文でも足をすくわれる。
当事者適格も訴訟要件の一種なので、欠ければ中身に踏み込まず訴え却下(訴訟判決)となる。上訴の理由にはなるが、いったん確定した判決を覆す再審事由にはならない。この「却下・上訴事由○・再審事由×」の3点セットで押さえる。趣旨は2つ。①その権利と無関係な第三者が他人の権利の勝ち負けを勝手に決める訴訟を防ぐこと、②紛争にいちばん利害を持ち事情をよく知る者に当事者を絞って審理を充実させ、判決を紛争解決に役立つものにすること。この趣旨は、後でたどる訴訟担当(第三者に例外的に当事者適格を認める場面)がなぜ許されるのかの土台にもなる。
類型別の判断基準と特殊な当事者適格
当事者適格は訴えの3類型ごとに判断基準が変わる。給付の訴えでは、自ら給付請求権者だと主張する者に原告適格、義務者だと主張された者に被告適格が認められる。あくまで主張のレベルで形式的に決まる形式的当事者概念だ(本案で実際に勝てるかは別次元)。確認の訴えは独立した判断基準を持たず、前編の確認の利益の問題にそのまま吸収される(対象選択・即時確定・方法選択の3基準が当事者適格の判断材料もかねる)。形成の訴えは、法律が原告・被告となるべき者を個別に定めていることが多い(婚姻取消し・認知の訴えといった人事訴訟、会社訴訟が代表)。
そのうえで、特殊な当事者適格が4つある。①固有必要的共同訴訟——性質上、複数の者が全員そろって初めて当事者適格を持つ類型で、一人では追行できない(共同訴訟そのものの理屈は共同訴訟の回で扱う)。②民衆訴訟——法律が特に出訴資格を認めた者だけに原告適格を認める類型で、住民訴訟などがその例。自分個人の権利ではなく公益を守る客観訴訟だ。③債権者代位訴訟——民法423条により、債権者は一定の要件のもとで債務者の権利を自分の名前で行使できる(当事者適格と第三者の訴訟担当の橋渡し・後述)。④権利能力なき社団の原告適格——構成員全員に総有的に帰属する財産をめぐる訴訟では、当事者能力は#4bのとおり社団にも認められるが、原告適格として社団自身が訴えられるかは別判断で、判例は社団自身に原告適格を認める(社団名で一本化するほうが法律関係として簡明で、総有という財産帰属にも合致する)。加えて、法人代表者の地位についての紛争(誰が正しい代表者かの争い)は、判例・通説が法人自身を当事者とする。代表者が誰かという結論は法人に関わる全員に一律に及ぶ必要がある(対世効の必要性)からだ。
第三者の訴訟担当——総論
ここからは当事者適格の中でも特殊な一群、第三者の訴訟担当に入る。訴訟物である権利関係の本来の主体(実体法上の権利者)ではない第三者が、自分の名前で当事者となって訴訟を追行し、その判決の効力が本来の権利主体にも及ぶ制度だ。訴訟上の代理人と似て見えるが決定的に違う。訴訟代理人は「本人の名前」で訴訟行為をする代理人にとどまるが、訴訟担当者は「自分の名前」で当事者そのものとして追行する。
なぜ、自分の名前で訴訟しただけの第三者に本人への判決効まで及ぶのか。その根拠が民訴115条1項2号だ。確定判決の効力は「当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人」にも及ぶと定めている(既判力の主観的範囲の一般理論は別の回で扱う)。訴訟担当は大きく2つに分かれる。法律の規定により当然に生じる法定訴訟担当と、本人の意思・授権に基づく任意的訴訟担当だ。任意的はさらに、法律に明文があるものと明文がないものに分かれる。
法定訴訟担当
法定訴訟担当は、法律の規定によって本人の意思にかかわらず当然に第三者が当事者適格を取得する類型で、大きく3つに分かれる。
第1に担当者自身の利益のための型。お金を貸した債権者が無資力な債務者に代わって債務者の債権を自分の名前で取り立てる債権者代位訴訟(民法423条)が代表だ。ほかに、債権質権者が質に入れられた債権を取り立てる場合(民法366条)、株主が会社に代わって役員の責任を追及する株主代表訴訟(会社法847条)がこの型に当たる。いずれも代位・追行によって本人(債務者・会社)の管理処分権自体が奪われるわけではなく、民法423条の5により、債務者は被代位権利について自分で取り立てるなどの処分を妨げられない。
第2に本来の利益帰属主体のための型。破産財団に関する訴えは破産管財人が原告・被告となり(破産法80条)、遺言執行者は遺言の内容実現のため相続財産の管理その他一切の行為をする権利義務を持ち(民法1012条・1013条)、相続人は執行を妨げる行為ができない。どちらも本人に代わって職務上・法律上の必要から訴訟追行権を与えられている点が共通だ。
第3に職務上の当事者。本人死亡後の婚姻事件における検察官のように、公益的見地から職務上、当事者とされる者を指す。前2つと決定的に違うのは、担当者自身に実体上の利益や管理処分権があるわけではなく、あくまで職務として当事者になっている点だ。
任意的訴訟担当(明文あり)
任意的訴訟担当は、本人の意思(授権)によって訴訟追行権が第三者に与えられる類型だ。法定が「法律が当然に」なのに対し、任意的は「本人が選んで」という違いがある。明文がある代表例が、後述の選定当事者(民訴30条)と、手形の取立委任裏書(手形法18条)だ。裏書に「回収のため」「取立てのため」といった委任の趣旨を示す文言があるとき、裏書を受けた所持人は手形上の一切の権利を自分の名前で行使できる。
どちらの明文例にも共通の制約がかかる。訴訟信託の禁止だ。信託は訴訟行為をさせることを主たる目的としてすることができない。紛らわしいが、この禁止規定は民事訴訟法10条ではなく信託法10条だ(数字が同じでも法律が違う)。弁護士資格を持たない者が業として他人の訴訟を丸ごと引き受ける形になると、この禁止に触れるおそれがある。
明文なき任意的訴訟担当【本日の山】
法律に授権の明文がないのに、本人の意思に基づいて第三者に訴訟追行権を認めてよいか——ここが本日の山だ。実務では明文のない場面でも訴訟担当を認める必要が生じるが、無制限に認めてよいわけでもない。ここに民訴54条1項が絡む。
【条文】民事訴訟法54条1項 法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができない。ただし、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を訴訟代理人とすることができる。
54条1項は弁護士代理の原則を定める(趣旨は非弁活動の防止)。明文なき任意的訴訟担当を無制限に認めると、弁護士資格のない者が「代理人」ではなく「担当者=当事者本人」という形式を借りて実質的に他人の訴訟を請け負え、54条1項の潜脱、ひいては訴訟信託禁止の潜脱にもなりかねない。だから明文なき任意的訴訟担当は原則として許されない。
ただし例外がある。判例は、次のいずれかの実質を備え、かつ弁護士代理の原則・訴訟信託禁止の潜脱にならないと認められる場合に限り許容する。a 担当者自身にもその訴訟の結果について独立した固有の利益がある場合。b 本人の財産・業務について包括的な管理権限を持ち、訴訟の実情にも通じている場合。このa・bは条文のどこにも書かれておらず、判例が独自に示した規範だ。隣にある54条1項や115条1項2号が条文どおりの成立要件・効果であるのと層が違う。ここも区別して持ち帰る。
a型の具体例——骨董品店の店主が、知人から預かった品を自分の在庫と勘違いして第三者に売ってしまった(他人物売買)とする。買主から「引き渡せ」と請求されたとき、店主は真の権利者である知人のために自分の名前で訴訟を追行する必要が生じうる。店主自身にも売買契約の当事者として履行責任という固有の利益があるので、a型に当たりうる。b型の具体例——商店街の福引き大会を仕切る実行委員会の代表世話人が、経理も会場手配もすべて包括的に任されているとする。会場設営業者とのトラブルで、この代表世話人は構成員全員のために自分の名前で追行することが考えられる。業務を包括的に管理し実情にも通じているからb型に当たりうる。どちらの型でも最後に必ず、弁護士代理の原則・訴訟信託禁止の潜脱でないかの確認が入る。
整理すると判定は3段階だ。①原則は不可、②a型かb型のどちらかの実質があるか、③それが54条1項・訴訟信託禁止の潜脱でないか。この3段階をすべて通って初めて明文なき任意的訴訟担当が認められる。
選定当事者(民訴30条)
冒頭のマンションの疑問に戻る。100世帯全員が原告として名前を書く必要はない——その仕組みが選定当事者(民訴30条)だ。共同の利益を有する多数の者が、その中の一人または数人を全員のために原告・被告となるべき者として選ぶ制度で、趣旨は多数当事者訴訟の負担を減らし手続を単純化・簡易化することにある。
選定できるのは3要件を満たすときだけだ。①共同の利益を有すること(主要な攻撃防御方法を共通にすること)、②多数の者であること(2人以上)、③29条に該当しない者であること。29条は代表者の定めがある法人でない社団・財団に当事者能力を認める条文で、これに当たる団体(権利能力なき社団など)は団体自身の名前で訴え・訴えられることが既にできるため、わざわざ30条を使う必要がなく対象から外れる。逆に法人格のない民法上の組合は29条に当たらないので、その構成員は30条を使える。マンションの100世帯も、社団のような団体を作っていなければ30条の枠組みに乗る。
30条は5項からなる。1項が選定の基本形(共同の利益を有する多数の者で29条に該当しないものが、その中から全員のために原告・被告となるべき者を選定できる)、2項が選定の効果(訴訟係属後に選定すると、その他の当事者は当然に訴訟から脱退する)、3項が訴訟の途中から加わる追加的選定(係属中の訴訟の原告・被告と共同の利益を有する当事者でない者が、その原告・被告を自己のためにも選定できる)、4項が選定の取消し・変更、5項が選定当事者に欠員が出たときの手当て(他の選定当事者が全員のために訴訟行為を続けられる)だ。
手続にも注意点がある。選定は各選定者による個別の単独行為で、100人いれば100人それぞれが自分の意思で選ぶ必要があり、多数決では決められない。そして選定は民事訴訟規則15条により書面で証明することが必要だ。効果をマンションの例で確かめると、100世帯のうち2世帯を選定当事者に選んだ場合、その2世帯は全員のために一切の訴訟行為ができる当事者そのものとなり、残り98世帯は(訴訟係属後の選定なら)30条2項により当然に訴訟から脱退する。ただし脱退しても無関係になるわけではなく、脱退した選定者にも確定判決の効力は115条1項2号によって及ぶ(訴訟担当の効果がここでつながる)。なお選定当事者の一部が死亡等で資格を失っても、30条5項により他の選定当事者が全員のために訴訟行為を続けられる(全員が資格を失えば手続の中断が問題になる)。
短答ひっかけ
- 当事者適格・当事者能力・訴訟能力は別物。当事者能力・訴訟能力は「その人自身に備わる資格」(事件と無関係)、当事者適格は「この事件についての個別・相対的な資格」。
- 当事者適格を欠くと訴え却下(訴訟判決)。上訴事由にはなるが再審事由にはならない(却下・上訴○・再審×)。
- 給付の訴えの当事者適格は形式的当事者概念(主張のレベルで決まる/本案で勝てるかは別)。確認は確認の利益に吸収、形成は法律が個別に定める。
- 債権者代位訴訟(民法423条)は法定訴訟担当のうち「担当者自身の利益のための型」。代位しても債務者の管理処分権は奪われない(民法423条の5)。
- 訴訟信託の禁止は信託法10条(民訴10条ではない・数字が同じでも別の法律)。
- 明文なき任意的訴訟担当は原則不可。例外はa(担当者固有の利益)/b(包括的管理権+実情への精通)のいずれか+潜脱でないこと。a・bは判例が立てた規範、54条1項・115条1項2号は成立要件・効果。
- 選定当事者30条の3要件は①共同の利益(主要な攻撃防御方法の共通)②多数(2人以上)③29条非該当。選定は多数決不可の個別単独行為で、係属後選定なら選定者は当然脱退、脱退後も115条1項2号で判決効が及ぶ。
📝 論文の型
この回は解説(理解)回。下記はいずれも論文で正面から問われうる論点だが、規範定式・答案構成(フル論証)は対の「ゼロから民訴 論文」回で実演する。ここでは論点の所在と規範の骨格だけ押さえる。
- 明文なき任意的訴訟担当の許否——原則不可(54条1項の弁護士代理原則・訴訟信託禁止の潜脱防止)。例外は a 担当者自身の固有の利益/b 包括的管理権+実情への精通、いずれか+潜脱でないこと(判定3段階)。
- 権利能力なき社団の原告適格——社団自身に原告適格を認める(総有財産の帰属・法律関係の簡明)。
- 選定当事者を使った多数当事者訴訟の処理——30条の3要件、係属後選定による脱退(2項)、判決効の及び方(115条1項2号)。
今日の地図(保存版)
- 一本の軸:訴訟要件の主観面=「この事件で、この人は当事者としてふさわしいか」=当事者適格。
- 3階層の区別:当事者能力・訴訟能力(その人自身に備わる)/当事者適格(事件ごとの個別・相対的)。欠けば却下・上訴事由○・再審事由×。
- 類型別基準:給付=形式的当事者概念/確認=確認の利益に吸収/形成=法律が個別に定める。特殊=固有必要的共同訴訟・民衆訴訟・債権者代位(423条)・権利能力なき社団・法人代表者の地位(対世効)。
- 第三者の訴訟担当:本来の権利者でない第三者が自分の名前で追行し判決効が本人に及ぶ(根拠=115条1項2号)。法定/任意的(明文あり/明文なし)。
- 法定訴訟担当:①担当者自身の利益(債権者代位423条・質権者366条・株主代表訴訟847条)②本来の利益帰属主体(破産管財人80条・遺言執行者1012・1013条)③職務上の当事者(検察官)。
- 任意的訴訟担当:明文あり=選定当事者30条・手形取立委任裏書(手形法18条)/共通の制約=訴訟信託の禁止(信託法10条)。明文なし=原則不可、例外a・b+潜脱でないこと(54条1項)。
- 選定当事者30条:3要件(共同の利益・多数・29条非該当)、多数決不可の個別単独行為・書面(規則15条)、係属後選定で当然脱退(2項)、判決効は115条1項2号で脱退者にも、欠員は5項で処理。
- 恒久ガード:条文どおりの成立要件(54条1項・115条1項2号)と判例が立てる規範(明文なき任意的訴訟担当のa・b)は層が違う。
次回は #8「口頭弁論の基本原則」。訴訟要件という2つの入口(客観面=訴えの利益/主観面=当事者適格・訴訟担当)をくぐり抜けた先で、いよいよ本案審理が始まる。前編(訴訟要件総論・訴えの利益・確認の利益)はこちら(/notes/minso-c2-3/)。
参照条文
- 民訴30条(選定当事者)
- 民訴115条1項2号(当事者が他人のために原告・被告となった場合のその他人への判決効)
- 民訴54条1項(弁護士でなければ訴訟代理人になれない=弁護士代理の原則)
- 信託法10条(訴訟信託の禁止)