準備書面と当事者照会
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第2章 訴訟の審理 ㊼/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
傍聴席から見た10分の法廷
図:冒頭事案の関係図
準備書面や、相手に情報を求める当事者照会、そして争点を整理する手続が、なぜ必要になったのか。今日は、そこを見ていきます。まず、ある法廷の場面を、1つ見てもらいます。傍聴席に座って、裁判を見ていたとします。原告の代理人と、被告の代理人が、それぞれ立って、短いやりとりをします。それだけですか。それだけです。10分も経たずに、その期日は終わります。次の期日は、2か月先です。法廷は、もっと激しくやり合う場所だと思っていた。その期待と、目の前の10分とのずれ。そこが、今日の出発点です。法廷という見える場所では、ほとんど何も起きていないように見えます。でも、裁判は確実に進んでいます。期日と期日のあいだ、法廷の外側で、当事者と裁判所が何をしているのか。この場面には、今日の後半でそのまま戻ってきます。
準備書面——書いておくべきことを先に渡す
図:準備書面の定義の板
口頭弁論という本番のやりとりの前に、当事者は、自分がその期日で何を主張するつもりか、相手の主張にどう応じるつもりかを、あらかじめ書面にして、裁判所に提出しておきます。これが、準備書面です。本番の前に、監督どうしがミーティングをして、今日はこの作戦でいきます、と伝え合っておくイメージです。条文を見てみましょう。
条文民事訴訟法161条1項2項
民事訴訟法161条1項2項(準備書面) 口頭弁論は、書面で準備しなければならない。 2 準備書面には、次に掲げる事項を記載する。 一 攻撃又は防御の方法 二 相手方の請求及び攻撃又は防御の方法に対する陳述
1項が、口頭弁論は書面で準備しなければならない、という大原則です。2項が、準備書面に何を書くかです。攻撃防御方法というのは、以前見たとおり、当事者がする主張と立証をまとめた呼び名でした。条文が挙げているのは、2つだけです。自分が使う攻撃または防御の方法と、相手方の請求や攻撃防御方法に対する自分の陳述です。当事者の住所や氏名、裁判所の表示は、書かなくていいんですか。書きます。ただし、それは161条2項の話ではありません。訴訟に出す書類全般に共通するルールとして、規則の2条が別に定めています。161条2項が定めているのは、あくまで中身、つまり主張と相手への応答の2つだけです。
もう1つ、初学者がよく見落とす点があります。答弁書という書面を、聞いたことがありますか。訴えられたほうが、最初に出す書面です。答弁書は、規則の80条が定める書面ですが、準備書面とは別の書類ではありません。答弁書は、準備書面の一種です。被告が最初に出す準備書面に、答弁書という名前がついている、と考えてください。
図:準備書面の出し方の板
出し方にもルールがあります。まず、相手方が準備するのに必要な期間をおいて、裁判所に提出します。規則の79条1項です。そして、裁判所に出すだけでは終わりません。相手方当事者にも、直接送ります。これを直送といいます。規則の83条です。裁判所に出すだけでは、足りないんですか。足りません。裁判所だけが内容を知っていて、相手方が知らないままだと、準備の意味がありません。直送を受け取った側は、受け取りましたという受領書を、相手方に返送し、さらに裁判所にも提出します。規則の47条の2、第3項です。この受領書が、あとで大事な意味を持ちます。
準備書面の2つの効果——書いただけでは足りない、書いていないと言えない
図:準備書面の2つの効果対比の板
- ①記載しただけでは訴訟資料にならず口頭弁論で陳述されて初めて訴訟資料になる・例外は158条の陳述擬制
- ②相手方が在廷していない口頭弁論では161条3項に該当する準備書面に記載した事実でなければ主張できない=不在廷の相手への不意打ち防止
ここが、今日いちばん取り違えやすい場所です。準備書面には、性質の違う2つの効果があります。1つ目、準備書面に何かを書いて提出しただけでは、それはまだ、裁判所が判決の基礎にできる資料、訴訟資料にはなりません。出したのに、資料にならないんですか。なりません。訴訟資料になるのは、その記載事項が、口頭弁論の期日で実際に陳述されたときです。書面はあくまで予告で、本番の口頭弁論で実際に述べて初めて、資料として扱われます。以前見た口頭主義の原則が、ここでも生きています。ただし例外があります。当事者が期日に出頭しなかったとき、提出していた準備書面の内容を、陳述したものとみなす制度です。陳述擬制と呼びました。以前、当事者の欠席を扱った回で見た制度です。
2つ目は、逆向きの規律です。相手方が、その口頭弁論の期日に在廷していない場合、準備書面に書いて予告していなかった事実は、主張できません。1つ目は、自分が出した準備書面がいつ訴訟資料になるか、という話。2つ目は、相手方がその場にいないときに、自分が何を主張できるか、という話です。場面がまったく違います。1つ目は書面と口頭のリレーの話で、2つ目は不在の相手への不意打ち防止の話です。
条文民事訴訟法161条3項
民事訴訟法161条3項(主張の制限) 相手方が在廷していない口頭弁論においては、次の各号のいずれかに該当する準備書面に記載した事実でなければ、主張することができない。 一 相手方に送達された準備書面 二 相手方からその準備書面を受領した旨を記載した書面が提出された場合における当該準備書面 三 相手方が第九十一条の二第一項の規定により準備書面の閲覧をし、又は同条第二項の規定により準備書面の複写をした場合における当該準備書面
2つ目のルールは、条文の言葉をそのまま見ておく値打ちがあります。書いてあるというだけでは足りず、相手に届いたことまで条文が求めている。そこを、条文の文字で確かめます。
図:161条3項の3類型の板
2つ目のルール、161条3項をもう少し詳しく見ます。条文は、単に書いてあれば主張できる、とは言っていません。相手方が在廷していないとき、次の3つのどれかに当たる準備書面に書いてある事実でなければ、主張できないとしています。1つ目は、相手方に送達された準備書面です。2つ目は、相手方が受領書を提出した準備書面。さっき出てきた、あの受領書です。3つ目は、相手方が91条の2の規定で閲覧、または複写をした準備書面です。ここが、今日いちばんの罠です。書面に書いて出しておけばいい、と覚えると、短答で足をすくわれます。書いてあることに加えて、相手に届いたことが、送達か、受領書か、閲覧・複写かのいずれかの形で、手続上たしかめられていること。ここまでが条文の要求です。
口頭で伝えたことは、どの類型にも当たりません。不在の相手を不意打ちから守る、という趣旨からすれば、当然の帰結です。161条3項が効くのは、あくまで相手方が在廷していない場合だけです。相手方が在廷していれば、この制限は及びません。その場で、直接聞き返すことができるからです。在廷しているかどうかで、射程が変わる、という点を覚えておいてください。
当事者照会——裁判所を介さずに直接聞く
図:当事者照会の定義の板
続いて、準備のもう1つの道具、当事者照会です。裁判所は関与しません。訴訟が続いているあいだ、当事者は、これから自分が主張し、立証していくうえで必要な事柄を、期限を切って、相手方に直接たずねることができます。裁判所を通さない、当事者どうしの直接のやりとりです。試合の比喩でいうと、本番の前に、相手チームへ直接、今日はこの選手を出しますか、と聞いてしまうようなイメージです。
図:照会と回答の方式の板
条文を見てみましょう。
条文民事訴訟法163条1項
民事訴訟法163条1項(当事者照会) 当事者は、訴訟の係属中、相手方に対し、主張又は立証を準備するために必要な事項について、相当の期間を定めて、書面により、又は相手方の選択により書面若しくは電磁的方法のいずれかにより回答するよう、書面により照会をすることができる。ただし、その照会が次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
まず1項の本文です。訴訟が続いているあいだ、相手方に対して、これから主張や立証をしていくうえで必要になる事柄を、相当の期間を定めてたずねることができる、と書いてあります。そして、ただし書が付いています。
条文民事訴訟法163条1項各号
民事訴訟法163条1項ただし書(照会を拒める事由) 一 具体的又は個別的でない照会 二 相手方を侮辱し、又は困惑させる照会 三 既にした照会と重複する照会 四 意見を求める照会 五 相手方が回答するために不相当な費用又は時間を要する照会 六 第百九十六条又は第百九十七条の規定により証言を拒絶することができる事項と同様の事項についての照会
各号に並んでいるのが、回答を拒める照会です。相手を困らせるだけの照会や、意見を求めるだけの照会、そして証人尋問なら拒めるはずの事項を照会で取ろうとするものまで、条文が線引きをしています。中身は、このあと具体例で見ます。
条文民事訴訟法163条2項3項
民事訴訟法163条2項3項(電磁的方法) 2 当事者は、前項の規定による書面による照会に代えて、相手方の承諾を得て、電磁的方法により照会をすることができる。 3 相手方(第一項の規定により書面又は電磁的方法のいずれかにより回答するよう照会を受けたものを除く。)は、同項の規定による書面による回答に代えて、当事者の承諾を得て、電磁的方法により回答をすることができる。
照会も回答も、原則は書面です。そこに、電磁的な方法、オンラインでのやりとりが、2つの経路で入ってきます。1つは2項です。照会する側が、相手方の承諾を得れば、書面の代わりに電磁的方法で照会できます。もう1つは3項です。回答する側が、当事者の承諾を得れば、書面の代わりに電磁的方法で回答できます。さらに、1項の本文をよく見ると、照会する側が、相手方の選択で、書面か電磁的方法かのどちらかで回答するよう求める、という形も用意されています。この形で照会を受けた相手方は、3項の対象から外れます。すでに選択肢が用意されているからです。
図:拒絶事由の具体例の板
- 該当する拒絶事由の例=今回の件について何か言いたいことはありますかという漠然とした照会は1号の具体的又は個別的でない照会に当たる
- 認められる照会の例=事故当日何時にどこで何をしていましたかという具体的な照会は認められる
ただし書に、拒める照会が6つ並んでいます。ざっくり3つのまとまりで見ると頭に入ります。1つ目のまとまりは、聞き方が雑なもの。漠然として的が絞れていない照会と、答えるのに不相応な手間や費用がかかる照会です。2つ目は、聞くこと自体が筋違いなもの。相手を辱めたり困らせたりするだけの照会、前に聞いたことの蒸し返し、そして事実ではなく意見を求める照会です。3つ目が、法廷でも答えなくてよい領域に踏み込むもの。証人として呼ばれたなら証言を拒める事項と同じ範囲の照会です。具体的な例で見ると、つかみやすくなります。事故が起きた当日、何時に、どこで、何をしていましたか、という照会は、具体的で個別的ですから、認められます。これに対して、今回の件について、何か言いたいことはありますか、という照会は、あまりに漠然としていて、1号の、具体的又は個別的でない照会に当たり、拒めます。
4号の、意見を求める照会も、同じ発想です。当事者照会は、事実を確認するための制度であって、相手の意見や評価を聞く場ではありません。法廷で証人として呼ばれれば、証言を拒める事項があります。196条や197条が定める、自分や近親者が刑事訴追を受けるおそれのある事実や、職業上の秘密などです。当事者照会でなら同じ事項を聞き出せてしまうと、法廷で証言を拒める保護が、裏口から素通りされてしまいます。だから、証言拒絶事由と同じ範囲を、6号でも拒める事由にそろえているのです。
図:情報収集機能への期待の板
- 条文上の位置づけ=口頭弁論を準備するための制度
- 使い方次第で期待されたもの=相手方の手元にある事実を訴訟の早い段階で引き出す情報収集機能
- 民事訴訟には相手の手持ち資料を広く開示させる仕組みが乏しいという背景
ここまでは、当事者照会を、口頭弁論を準備するための制度として見てきました。条文上の位置づけも、そのとおりです。ただ、この制度には、もう1つ、別の期待がかけられていました。別の期待、ですか。情報収集機能です。争いになっている事実の多くは、相手方の手元にしか資料がありません。たとえば、いつ、誰が、どういう指示を出したのか。こちらには分からず、相手だけが知っている。訴えを起こした側は、そこを聞き出せないと、そもそも何を主張すればよいのかが決まりません。相手に直接聞ける。そこが期待されたところです。裁判所を通さない、当事者どうしのやりとりなので、使い方次第では、訴訟の早い段階で、相手方の手元にある事実を引き出す道具になるのではないか。そう考えられました。
ところが、ここに大きな落とし穴があります。
図:強制力不在と跳ね返りの板
ここで、当事者照会のいちばん大事な性質に触れます。回答するよう照会を受けても、相手方に、回答を強制する手段がありません。制度としては、答えなくても、直ちに何かを命じられるわけではありません。せいぜい、訴訟上の信義則、条文でいうと2条を根拠に、訴訟に協力すべき義務がある、と言えるにとどまります。この協力義務を、強制的に実現する手段までは、条文に用意されていません。頼りない制度だと見えるのも、無理はありません。ただし、まったく効果がないわけではありません。正当な理由なく回答しなかったり、虚偽の回答をしたりすると、跳ね返りがあります。増加した訴訟費用の負担を命じられることがあります。63条です。また、その不誠実な態度そのものが、弁論の全趣旨として、裁判官の心証にしんしゃくされることがあります。247条です。
さらに、この当事者照会は、訴えを起こす前にも使える形が用意されています。提訴予告通知をすれば、訴え提起前の当事者照会ができます。132条の2という条文です。この中身は、証拠を集める道具箱をまとめて見る、別の回で扱います。
進行協議期日——裁判所と顔を合わせる場
図:進行協議期日と3類型の締めの板
- 規95条=口頭弁論そのものの準備が目的ではない・期日外で裁判所と当事者が証拠調べと争点の関わりを確かめ合いその他審理を進めるために必要な事柄を話し合う特別な期日
- 準備書面=書面のやりとり・当事者照会=当事者どうしの直接のやりとり・進行協議期日=裁判所と当事者が顔を合わせるやりとり
準備の道具を、もう1つだけ加えます。進行協議期日です。この期日自体は、口頭弁論そのものを準備するために開くものではありませんが、口頭弁論の期日の外で、裁判所と当事者が、証拠調べと争点の関わりを確かめ合ったり、その他審理を進めるために必要な事柄を話し合ったりするための特別な期日です。規則の95条です。ここで、3つを並べて整理します。準備書面は、書面でのやりとりです。当事者照会は、当事者どうし、裁判所を介さない直接のやりとりです。そして進行協議期日は、裁判所と当事者が、実際に顔を合わせる場です。ここまでが、期日の外でする準備の中身です。ですが、この準備の道具だけで、本当に、冒頭の10分の法廷は防げたのでしょうか。
なぜ争点整理手続が要るのか——失敗の歴史
図:五月雨式審理と漂流型審理の板
ここで、少し立ち止まります。前回まで見てきた、期日や期間の仕組みは、何のためだったでしょうか?期日を重ねること自体を規律する制度はありましたが、その中身をどう充実させるかは、また別の話でした。準備の道具、そしてこれから見る争点整理手続は、まさにその中身を充実させるための仕組みです。今見た準備の道具、準備書面と当事者照会だけでは、実は足りませんでした。旧い民事訴訟法のもとでは、実務にある病が広がっていました。五月雨式審理と呼ばれる現象です。口頭弁論の回で、名前だけは出てきましたね。書面を交換して、次の期日を決めるだけの期日が、数か月おきに開かれる。冒頭で見た、あの10分の法廷、次の期日は2か月先、という光景は、まさにこれです。
さらに、もう1つ、漂流型審理と呼ばれる現象もありました。主張をきちんとかみ合わせないまま、主張の段階と立証の段階を、いったり来たりして、漫然と期日を重ねてしまう状態です。こちらも、同じ回で名前だけ出ていました。
図:旧準備手続の3つの失敗理由の板
実は、旧法にも、こうした事態に対応する制度がありました。準備手続と呼ばれる制度です。旧249条以下に定められていました。ですが、この制度は失敗しました。理由は3つあります。1つ目は、失権効が強すぎたことです。準備手続で主張しておかなかった事項は、あとから口頭弁論で主張することが、原則として許されませんでした。旧255条です。この効果が、あまりに強すぎました。当事者は、うっかり準備手続で言い忘れることを恐れて、かえって使うのをためらうようになります。2つ目は、準備手続の中では、証拠調べや、途中の判断である中間的な裁判ができなかったことです。争点を詰めたくても、その場で証拠を見て当たりをつけることができないので、結局、何が本当の争点なのかを決めきれませんでした。3つ目は、準備手続を終えたあとに、あらためて口頭弁論をやり直す必要があり、手続が二度手間になったことです。せっかく整理しても、同じことを法廷でもう一度やるだけなら、当事者にとっては手間が増えただけです。
失敗の原因が、制度が弱すぎたことではなく、強すぎて使いにくかったことにある。そこが大事な点です。強すぎたから、使われなくなった。この理由を覚えておいてください。
図:弁論兼和解の板
条文上の制度が機能しなくなると、実務は、別の道を探します。そこで編み出されたのが、弁論兼和解と呼ばれる運用です。公開の法廷ではなく、和解室や準備室に、裁判官と当事者が同じ机を囲んで集まります。格式ばらない場で、実質的な弁論と、和解の協議を、まとめて行ってしまうやり方です。この運用への評価は、真っ二つに割れました。肯定する側は、間接的な事情や背景も理解しやすくなり、裁判官も当事者も見通しが立ちやすくなる、和解の機運も高まる、実質的な意味での口頭弁論の再生だ、と評価しました。一方で、批判する側は、こう言います。弁論兼和解には、直接の実定法上の根拠がありません。しかも、非公開の場で、実質的に弁論をして、裁判官がそこで心証を形成してしまうのは、公開主義に反するのではないか、と。以前、口頭弁論の諸原則で見た、公開主義の話です。
図:旧法の2つの失敗を並べる板
- 準備手続=条文はあったが失権効が強すぎて使われない
- 弁論兼和解=使われたが条文の根拠が無い
- 現行法はこの両方を同時に解く必要があった
ここで、旧法の下で起きた2つの失敗を、並べてみます。準備手続は、条文としては存在しましたが、失権効が強すぎて、実務で使われなくなりました。弁論兼和解は、実務で広く使われましたが、条文上の根拠がありませんでした。現行法は、この2つを、同時に解く必要がありました。
現行法の答え——争点整理手続の誕生
図:現行法の2本立てと争点整理の作法の板
- ①争点および証拠を整理する手続164条から178条②集中証拠調べ182条・争点中心の集中審理構造
- 争点整理は訴訟の比較的初期の段階に両当事者と裁判所3者の綿密な協働作業として行う
現行の民事訴訟法は、2本立ての答えを用意しました。1つは、争点および証拠を整理する手続です。164条から178条にかけて定められています。もう1つは、集中証拠調べです。182条です。以前見たとおり、証人や当事者本人への尋問を、まとめて集中的に行うやり方でした。この2つを組み合わせて、争点を中心に、審理を集中させる仕組みを作りました。今日は、その手続がどんな性格を持つかだけ、押さえておきましょう。争点整理は、訴訟の比較的初期の段階で行います。そして、片方が書面を出して、もう片方が応じる、という応酬の形ではなく、当事者双方と裁判所、3者の綿密な協働作業として行われます。
ここが、当事者照会や準備書面と、いちばん違うところです。裁判所が正面から関与します。そして、争いのない事実はどうなるか。弁論主義は、以前見たとおり、当事者が争わない事実に裁判所は立ち入らず、そのまま判決に使うという役割分担の考え方でした。だから、争いのない事実は、そのまま判決の基礎になり、証拠調べも不要になります。179条です。裁判上の自白とは、近い関係にあります。裁判上の自白は、多数の事実の中から、争いのある部分とない部分をふるい分け、争点を整理する機能を持っています。争点整理の場面でも、この機能が生きてきます。
図:冒頭事案回収のフロー
では、冒頭の場面に戻りましょう。あの10分で終わる法廷、次の期日は2か月先、という光景。あれは、まさに五月雨式審理そのものでした。現行法は、この五月雨式審理を打ち破るために、争点整理手続を作ったのです。裁判は、何もしていなかったわけではありません。期日と期日のあいだで、当事者は書面を準備し、ときに直接照会し合い、そして裁判所は、争点を整理する手続の中で、事件を前に進めていたのです。
今日の地図(保存版)
図:今日の全体像の板
- 準備書面=陳述して初めて訴訟資料化・在廷していない相手には161条3項の3類型に当たる準備書面の記載事実しか主張できない
- 当事者照会=裁判所を介さない直接のやりとりで強制力は無いが訴訟費用63条と弁論の全趣旨247条で間接的に効く
- 争点整理手続=旧準備手続と弁論兼和解の2つの失敗を経て裁判所と当事者が協働する制度として誕生
今日は、期日の外側で何が起きているかを見てきました。準備書面は、書いて出しただけでは訴訟資料にならず、口頭弁論で陳述して初めて資料になります。逆に、相手方が在廷していないときは、送達や受領書などで届いたことが確認できる準備書面に書いてあることしか、主張できません。そして当事者照会は、裁判所を介さない、当事者どうしの直接のやりとりで、回答を強制する手段がない、という弱さを持ちながらも、訴訟費用や弁論の全趣旨という形で、間接的に効いてくる制度でした。準備の道具だけでは足りなくて、争点整理手続が生まれた、という歴史も、印象的でした。旧法の準備手続は、条文はあったけれど失権効が強すぎて使われず、弁論兼和解は、使われたけれど条文の根拠がありませんでした。この2つの失敗を踏まえて、現行法は、裁判所と当事者が正面から協働する、争点整理手続という答えを用意しました。では、その争点整理手続とは、具体的に何をする手続なのか。実は、そのための部屋が、3つ用意されています。
参照条文
- 民事訴訟法161条1項2項
- 民事訴訟法161条3項
- 民事訴訟法163条1項
- 民事訴訟法163条1項各号
- 民事訴訟法163条2項3項