判決の種類と訴訟要件
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第3章 訴訟の終了 #64/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
訴えたのに、中身を判断してもらえなかった
図:冒頭事案の関係図
- A=原告、Bを被告として訴えを起こした
- B=名前だけの将棋同好会、法人格を持たない、代表者の定めも無い
- 裁判所は中身を判断せず訴えを却下した、という問い
前回は、和解、双方が譲り合って訴訟を終わらせる道を見ました。取下げ・放棄・認諾・和解、これで当事者自身の意思で終わらせる道を一通り見たことになります。今日からは、当事者ではなく裁判所が判決で終わらせる場面に入ります。こんな場面を考えます。Aさんが、代表者も会の決まりも無い、名前だけの将棋同好会を被告として訴えを起こしました。ところが裁判所は、審理の中身にはまったく入らず、「訴えを却下する」という結論を出しました。却下ということは、Aさんが負けたんですか。そこが今日の一番の入口です。先に答えの形だけ言っておきます。却下は、負け勝ちの判断そのものをしていません。今日の同好会の例で言えば、この同好会には、そもそも被告になる資格がありませんでした。訴えの中身、つまりAさんの言い分に理由があるかどうかは、まだ一度も見られていないんです。
今日は、裁判所が下す判断が形式でどう分かれるか、そして判決の中でも「中身に入ったかどうか」でどう分かれるかを、順番に見ていきます。
裁判=判決・決定・命令
図:裁判の3形式の対比板
- 判決=裁判所・原則口頭弁論必須・不服は控訴上告
- 決定=裁判所・口頭弁論は裁量・不服は抗告
- 命令=裁判官・不服は抗告
- 罠=文書提出命令は名前に命令とあるが裁判形式は決定・223条1項
民事訴訟で裁判所や裁判官が下す判断のことを、まとめて「裁判」と呼びます。この裁判には3つの形式があります。判決・決定・命令です。まず判決から見ます。
条文民事訴訟法87条1項・2項
民事訴訟法87条(口頭弁論の必要性)1項・2項 当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない。ただし、決定で完結すべき事件については、裁判所が、口頭弁論をすべきか否かを定める。 2 前項ただし書の規定により口頭弁論をしない場合には、裁判所は、当事者を審尋することができる。
判決を出すには、原則として、まず口頭弁論を開かなければなりません。当事者双方の言い分を、法廷という同じ場で聞いたうえで判断する、という建前です。これを必要的口頭弁論の原則と呼びます。例外はないんですか。あります。例えば、担保を立てるよう命じられた原告がそれを立てなかった場合、裁判所は口頭弁論を経ないで訴えを却下できます。もう1つ、こちらが今日により関わる例外です。
条文民事訴訟法140条
民事訴訟法140条(口頭弁論を経ない訴えの却下) 訴えが不適法でその不備を補正することができないときは、裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、訴えを却下することができる。
訴えが不適法で、しかもその不備を直しようがないときは、裁判所は口頭弁論すら開かずに、判決で訴えを却下できます。「不適法」で「補正のしようがない」という言葉、今日の後半でもう一度出てきますので覚えておいてください。
条文民事訴訟法249条1項
民事訴訟法249条1項(直接主義) 判決は、その基本となる口頭弁論に関与した裁判官がする。
判決の中身を確定させるのは、その口頭弁論に関与した裁判官自身でなければなりません。これを直接主義と呼びます。当事者の言い分を実際に聞いた裁判官が判断するからこそ、判決には重みがあるんです。判決に不服があれば、控訴、そして上告という形で争います。次に、決定と命令です。訴訟には、本案そのものではない手続上の細かい判断がたくさん必要になります。移送するかどうか、証拠調べをどう進めるか、といったことです。こうした判断を機動的に下すための形式が、決定と命令です。決定は裁判所がする裁判、命令は裁判官が裁判長や受命裁判官といった資格でする裁判です。口頭弁論を開くかどうかは裁判所の裁量で、多くは審尋、つまり当事者の言い分を書面や簡単な聴取で確認する程度で済みます。不服申立ての方法も、控訴・上告ではなく、抗告という別の道になります。例えば、将棋同好会の事件をどこか別の裁判所に移すかどうかという判断も、この決定という形式で行われます。
ただし、ここに引っかけがあります。次の条文を見てください。
条文民事訴訟法223条1項
民事訴訟法223条1項(文書提出命令等) 裁判所は、文書提出命令の申立てを理由があると認めるときは、決定で、文書の所持者に対し、その提出を命ずる。この場合において、文書に取り調べる必要がないと認める部分又は提出の義務があると認めることができない部分があるときは、その部分を除いて、提出を命ずることができる。
「文書提出命令」という名前です。でも、条文をよく読んでください。「決定で…提出を命ずる」とあります。この裁判の形式は、命令ではなく決定です。名前と裁判形式は必ずしも一致しません。裁判所がする裁判か、裁判官個人がする裁判かという実質で見分ける必要があります。
判決を分ける2つの軸
図:判決を分ける2つの区分板
- 軸1=いつ終わらせるか=終局判決
- 中間判決・243条1項・245条・283条本文
- 軸2=どこまで完結させるか=全部判決
- 一部判決・243条2項3項
ここからは、判決の中身をさらに見ていきます。判決には、独立した2つの軸があります。まず「いつ終わらせるか」、そして「どこまで完結させるか」です。
条文民事訴訟法243条1項
民事訴訟法243条(終局判決)1項 裁判所は、訴訟が裁判をするのに熟したときは、終局判決をする。
まず軸の1つめです。訴訟が裁判をするのに熟した、つまり判断を出せる状態になったとき、裁判所はその審級での訴訟を終了させる終局判決をします。これが判決の基本形です。なお、当事者の一方または双方が期日に出てこず、弁論もしないまま退廷したときに、審理の現状をもとに判決してしまう仕組みもあります。こちらは不熱心な訴訟追行への対応として、別の回で詳しく扱います。
条文民事訴訟法245条
民事訴訟法245条(中間判決) 裁判所は、独立した攻撃又は防御の方法その他中間の争いについて、裁判をするのに熟したときは、中間判決をすることができる。請求の原因及び数額について争いがある場合におけるその原因についても、同様とする。
終局判決に対して、中間判決というものもあります。訴訟の途中で生じた、独立した攻撃防御方法や中間の争いについて、終局判決に先立って判断を示しておく裁判です。例えば、損害賠償を求める訴訟で、まず「賠償する義務があるかどうか」だけを先に判断しておく、という使い方があります。ただし、中間判決には気をつけてほしい点があります。中間判決を出した裁判所とその当事者は、以後その判断に拘束されます。しかも、中間判決だけを取り出して、単独で控訴したり上告したりすることはできません。
条文民事訴訟法283条本文
民事訴訟法283条本文(控訴裁判所の判断を受ける裁判) 終局判決前の裁判は、控訴裁判所の判断を受ける。ただし、不服を申し立てることができない裁判及び抗告により不服を申し立てることができる裁判は、この限りでない。
終局判決より前に出された裁判、つまり中間判決も含めて、その当否は終局判決に対する控訴の中でまとめて争われます。中間判決だけを切り離して先に不服を申し立てる、ということはできないんです。訴訟の途中で出る判断のたびに控訴を許してしまうと、審理がそのつど止まってしまいます。中間判決は、あくまでその審級の中で先に整理をつけておくための判断であって、最終的な決着は終局判決とセットで上級審に委ねる、という仕組みです。もう1つの軸に移ります。
条文民事訴訟法243条2項・3項
民事訴訟法243条(終局判決)2項・3項 2 裁判所は、訴訟の一部が裁判をするのに熟したときは、その一部について終局判決をすることができる。 3 前項の規定は、口頭弁論の併合を命じた数個の訴訟中その一が裁判をするのに熟した場合及び本訴又は反訴が裁判をするのに熟した場合について準用する。
終局判決は、事件をどこまで完結させるかでも区別できます。事件全体が熟したときにするのが全部判決、事件の一部だけが先に熟したときにできるのが一部判決です。一部判決をした残りの部分は、後で残部判決として判断されます。一部判決は、いつでもできるわけではありません。一部と残部に密接な関係があるときは、一部判決はできません。別々に判決して別々に上訴されると、主位の請求と予備の請求で矛盾した結論が出かねないからです。例えば、主位的な請求が認められないときに備えて予備的な請求も一緒に立てているような場合です。
却下か、棄却か——訴訟要件という門番
図:却下・認容・棄却のフロー板
- 訴え提起→訴訟要件という門番→【欠く】訴訟判決=訴え却下・中身を判断していない
- 【備わる】本案審理→理由なし=請求棄却・理由あり=請求認容
ここからが、今日の一番の山場です。終局判決は、さらにもう1つの物差しで分けられます。中身、つまり請求そのものの当否まで判断したかどうかです。こんな場面で考えてみます。就職活動で、まずエントリーシートと必要書類を出しますね。応募資格そのものを満たしていなければ、そこで「書類選考落ち」になります。この段階では、面接官はその人の実力を一度も見ていません。一方、書類選考を通って面接まで進み、そのうえで「今回は見送ります」となったら、これは実力を見たうえでの不合格です。民事訴訟でも同じことが起きます。本案、つまり請求の中身に入る前提となる条件を、訴訟要件と呼びます。訴訟要件を欠いていれば、裁判所は本案の当否を判断せずに訴えを終わらせます。これが訴訟判決、実際には訴え却下という形を取ります。冒頭の将棋同好会の例に戻ります。あの同好会は法人格が無いうえに、代表者も決まっていない名前だけの集まりでした。被告として訴えられる資格、つまり当事者能力を欠いていたんです。だから裁判所は、Aさんの言い分の中身にはまったく入らず、訴えを却下したんです。
訴訟要件を欠いた訴えは、直しようのない不適法な訴えとして、口頭弁論すら開かずに却下されることもあります。もう1つ、別の設例を考えます。Aさんが、Bさんに対する請求について、すでに勝訴判決を得ていたとします。ところがAさんは、念のためにと、まったく同じ請求でもう一度Bさんを訴えました。一度勝っているのに、もう一度訴える意味はあるんですか。ありません。もう合格通知を受け取っている会社に、もう一度同じ職種でエントリーシートを出すようなものです。審査する意味自体がありません。この場合、Aさんには訴えの利益が無く、この訴えもやはり却下されます。では、同じ同好会に、代表者と会の決まりがきちんと定められていたらどうでしょう。当事者能力の回で見た29条により、法人格が無くても会の名前で訴えられます。今度は訴訟要件が備わり、裁判所は中身に入ります。そこでAさんの言い分を裏づける証拠が無ければ、今度こそ請求棄却です。
このように、訴訟要件がすべて備わっていれば、裁判所は初めて本案、つまり請求に理由があるかどうかを審理します。その結果、理由があれば請求認容判決、理由がなければ請求棄却判決です。この場合、裁判所は請求の中身まで判断したと言えるでしょうか?言えると思います。認容でも棄却でも、中身を見たうえでの結論だから。却下は中身を見ていない、棄却は中身を見たうえでの敗訴。同じ「負け」に見えても、判断した中身がまったく違うんです。
訴訟要件の3つの引き出し
図:訴訟要件3分類の一覧板
- ①裁判所に関するもの=裁判権・管轄権
- 事物土地管轄を欠くだけなら却下でなく移送・16条1項②当事者に関するもの=実在・当事者能力・当事者適格=訴訟追行権③請求に関するもの=請求の特定・訴えの利益・重複訴訟禁止142条・再訴禁止262条2項
訴訟要件は、大きく3つの引き出しに分けられます。①裁判所に関するもの、②当事者に関するもの、③請求に関するものです。1つめ、裁判所に関するものです。その事件が日本の裁判権に服していること、そして訴えを起こされた裁判所がその事件について管轄権を持っていることです。
条文民事訴訟法16条1項
民事訴訟法16条1項(管轄違いの場合の取扱い) 裁判所は、訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する。
ここで注意してください。管轄権を欠くとき、常に訴えが却下されるわけではありません。事物管轄や土地管轄を欠くだけなら、裁判所は正しい管轄裁判所へ移送するだけで済みます。却下になるのではなく、移送で済む、という点が短答で狙われやすい所です。逆に、日本の裁判権そのものが及ばない事件なら、回す先の裁判所がありませんから、訴えは却下です。移送の回で見たとおり、移送は裁判所を替えるだけで訴えは続きます。管轄違いなら、正しい裁判所に回せば訴えを生かせるんです。2つめ、当事者に関するものです。当事者が実際に存在すること、そして当事者能力と当事者適格を備えていることです。当事者適格、つまり訴訟追行権については、以前の回で詳しく見ましたね。
今日は名前の確認だけに留めます。深掘りはそちらの回に譲ります。3つめ、請求に関するものです。請求が特定されていること、そして訴えの利益があることです。訴えの利益についても、以前の回で「本案判決を受けるために備えているべき正当な利益・必要性」として詳しく見ましたね。
条文民事訴訟法142条
民事訴訟法142条(重複する訴えの提起の禁止) 裁判所に係属する事件については、当事者は、更に訴えを提起することができない。
請求に関するものには、もう2つあります。1つは、いま見た重複訴訟禁止です。すでに裁判所に係属している事件について、当事者はさらに訴えを起こせません。同じ紛争が2つの裁判所で並行して審理されるのを防ぐためです。例えば、Aさんが同好会を訴えている間に、同じ請求でもう一度別の裁判所に訴えを起こしても、142条に引っかかって認められません。もう1つ、思い出してほしいことがあります。訴えを取り下げたあと、同じ訴えをもう一度起こすと、どうなりましたか?本案について終局判決があった後の取下げなら、同じ訴えは提起できない、という話でした。
条文民事訴訟法262条2項
民事訴訟法262条(訴えの取下げの効果)2項 本案について終局判決があった後に訴えを取り下げた者は、同一の訴えを提起することができない。
再訴禁止です。この262条2項も、訴訟要件のうち請求に関するものの1つとして位置づけられます。せっかく出た本案判決を、取下げによって無いことにして、また同じ訴えをやり直す、ということを許さない仕組みでしたね。なお、訴訟要件には、存在することが要件になる積極的訴訟要件と、不存在であることが要件になる消極的訴訟要件があります。重複訴訟禁止や再訴禁止は、「係属していないこと」「取下げ後の再訴でないこと」を求める消極的訴訟要件にあたります。
誰が調べ、誰が資料を集めるか
図:職権調査事項/抗弁事項と職権探知主義/弁論主義の板
- 調査の開始=職権調査事項・裁判所が自ら気づいて調べる
- 抗弁事項・被告の指摘で初めて問題になる=訴訟費用の担保不提供75条4項・仲裁合意仲裁法14条1項
- 資料の収集=職権探知主義・弁論主義、公益性が弱い要件は当事者に委ねる方向
訴訟要件は、公益の要請から、当事者が何も言わなくても裁判所が自分から調べるべき事項とされてきました。これを職権調査事項と呼びます。以前、訴えの利益の回で見た区別と同じものです。ただ、実際には、訴えを却下してほしい被告の側から指摘されることが多いのも事実です。中には、被告が指摘しなければ問題にならない事項もあります。これを抗弁事項と呼びます。例えば、訴訟費用の担保が立てられていないこと、あるいは仲裁合意があることです。仲裁合意は、裁判以外の解決方法の回で見た、紛争を仲裁人の判断に任せるという取り決めでした。その合意を理由に被告が訴えの却下を求める仲裁の抗弁が、まさに抗弁事項です。どちらも被告の利益を守るための決まりなので、被告が言い出して初めて、裁判所は訴えを却下します。Aさんと同好会の間の契約書に仲裁の条項があったとしても、同好会がそれを指摘しない限り、裁判所は訴えを却下しません。もう1つの軸、資料を誰が集めるかです。裁判所も自分で資料を集めに行くのが職権探知主義、当事者が出した資料の範囲で裁判所が判断するのが弁論主義でしたね。
訴訟要件は全体として、公益性の強いものほど裁判所が主導し、公益性の強くないものほど当事者に資料収集の責任を持たせる弁論主義によるべきだ、という考え方が強くなっています。ここで、2つの軸を混ぜないでください。抗弁事項かどうかは、裁判所がその点を調べ始めるきっかけを、被告の申立てに委ねるかどうかの話です。弁論主義かどうかは、調べることになったあと、判断の材料を誰が出すかの話です。仲裁合意は、被告が言い出さない限り、裁判所はそもそも調べ始めません。訴えの利益は逆に、被告が何も言わなくても裁判所は調べ始めますが、材料は当事者が出したものが基本です。問いが違うので、同じ物差しではないわけです。
いつまでに備わっていればよいか
図:訴訟要件充足の基準時の板
- 原則=事実審の口頭弁論終結時までに備わればよい・訴え提起時でなくてよい
- 例外=管轄・15条は訴え提起の時が基準
- 抗弁事項もこの基準時の対象外
- この基準時は後で見る既判力の基準時と同じ時点
最後に、訴訟要件はいつまでに備わっていればよいか、という問題です。
条文民事訴訟法15条
民事訴訟法15条(管轄の標準時) 裁判所の管轄は、訴えの提起の時を標準として定める。
管轄については、この15条のとおり、訴えを提起した時点が基準になります。事情が変わるたびに管轄が動くと、審理する裁判所そのものが変わってしまうからです。しかし、それ以外の訴訟要件は違います。原則として事実審の口頭弁論終結時までに備わっていればよいとされています。事実審とは、序章で見た、新しい主張や証拠を出して事実を争える第一審と控訴審のことです。訴えを起こした時点で完璧に備わっている必要はなく、審理の途中で満たされれば足ります。例えば、訴えた時点では代表者がいなかった同好会も、審理の途中で代表者と会の決まりを整えれば、その時点で当事者能力が備わったことになります。抗弁事項も、この基準時とは別の扱いです。被告が本案について弁論したあとでは、もう却下を求められません。先ほどの仲裁の抗弁が、その典型です。
訴訟要件は、本案判決を出してよいかどうかの前提です。判決を出す直前の時点で満たされていれば、本案の審理を続けてきた意味は保たれます。むしろ、訴え提起の一瞬だけを基準にしてしまうと、審理の途中で事情が変わって要件を満たした場合まで却下しなければならなくなり、不合理です。この「事実審の口頭弁論終結時」という時点、実はもう1つ大事な役割を持っています。判決が確定した後、その判断に後の裁判で当事者も裁判所も従わなければならなくなる、既判力という効力があります。この既判力がどの時点の判断に生じるかという基準時も、実はこの事実審の口頭弁論終結時と同じ時点なんです。中身はまた別の回で扱いますが、今日は同じ時点だということだけ覚えておいてください。
⭐ 論文で書く規範:訴訟要件の判断前に本案を棄却してよいか 訴訟要件を満たすかどうかを確認する前に、裁判所が本案について請求棄却の判決をすることは、原則としてできない。もっとも、被告を保護する目的で設けられた訴訟要件(訴えの利益・当事者適格など)については、本案に理由がないことが明らかであれば、訴訟要件の存否を判断せずに棄却してよいとする有力な反対説がある。既判力の抵触のおそれがある訴訟要件(重複訴訟禁止など)は、この反対説の対象から外れる。 (規範(通説で立てる))
図:訴訟要件より先に棄却してよいかの板
- 原則=訴訟要件を確認する前に本案の請求棄却はできない(訴訟要件は本案判決の前提)
- 有力な反対説=被告を守る目的の要件(訴えの利益・当事者適格など)は、本案に理由がないことが明らかなら先に棄却してよい・棄却なら既判力が生じ蒸し返しを封じられるため
- 対象外=重複訴訟禁止など、既判力の抵触のおそれがある要件はこの反対説の対象外
もう1つ、訴訟要件をめぐる論点があります。訴訟要件が備わっているかどうかを確認する前に、本案について棄却してしまってよいかという問題です。原則はできません。訴訟要件は本案判決を出すための前提だからです。ただ、被告を保護するための要件、例えば訴えの利益や当事者適格のような要件については、本案に理由がないことが明らかなら、わざわざ訴訟要件から詰めなくても、先に棄却してよいという有力な反対説があります。被告を守るための要件なのに、却下で終わると原告は何度でも訴え直せます。棄却なら既判力で蒸し返しを封じられるので、被告にはむしろそのほうが有利だ、というのが理由です。
見込みのない申立てには先に結論を伝える、という発想としては近いです。ただし、これは要件ごとに検討が必要です。例えば重複訴訟禁止です。同じ事件が別の裁判所にも係属しているのに、こちらで先に棄却判決を出してしまうと、2つの訴訟を1つにまとめる調整をしないまま、それぞれの判決に既判力が生じて、結論が食い違うおそれがあります。だから、重複訴訟禁止のような要件は、この反対説の対象になりません。訴訟要件はひとまとめの物差しではなく、それぞれの趣旨に応じて扱いが変わる、ということです。ここは論文で問われうる論点なので、原則と、反対説がどの要件を外すのかまで押さえておいてください。
今日の全体を1枚に重ねる
図:締めの一覧板
今日見た内容を、1枚に重ねます。まず、裁判には判決・決定・命令という3つの形式がありました。次に、判決の中には、いつ終わらせるかという終局・中間の軸と、どこまで完結させるかという全部・一部の軸がありました。そして、終局判決の中には、中身に入ったかどうかという、もう1つの軸がありました。これを分けるのが訴訟要件です。冒頭の将棋同好会の例に戻ります。Aさんが受け取ったのは、負けでも勝ちでもなく、そもそも審査の土俵に乗れなかった、という結果でした。もし当事者能力の問題が無かったら、Aさんの言い分は初めて中身を判断され、認容か棄却かという結論を受け取っていたはずです。
参照条文
- 民事訴訟法87条1項・2項
- 民事訴訟法140条
- 民事訴訟法249条1項
- 民事訴訟法223条1項
- 民事訴訟法243条1項
- 民事訴訟法245条
- 民事訴訟法283条本文
- 民事訴訟法243条2項・3項
- 民事訴訟法16条1項
- 民事訴訟法142条
- 民事訴訟法262条2項
- 民事訴訟法15条