申立事項と判決事項(246条)
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第3章 訴訟の終了 #65/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
立退料が増えたのに、なぜ許されるのか
図:冒頭事案の関係図
- A=貸主・原告、B=賃借人・被告
- Aは事務所の明渡しを求め、立退料400万円の支払いと引換えに明け渡すよう求めた
- 裁判所が審理の結果600万円が相当と認めた場合、600万円と引換えの明渡判決を出せるか、という問い
前回は、判決の種類、そして訴訟要件という門番の話をしました。今日は、その判決の中身を、裁判所がどこまで自由に決められるか、という話に入ります。こんな場面を考えます。貸主Aさんが、賃借人Bさんに事務所の明渡しを求めて訴えを起こしました。Aさんは「立退料400万円を支払うので、明け渡してほしい」と申し立てています。ところが審理を進めた裁判所は、400万円では足りず、600万円が相当だと判断しました。それなら、Aさんの申立てどおりにはいかない、ということです。ここで裁判所は、「600万円の支払いと引換えに明け渡せ」という判決を出すことができるでしょうか。
直感には反しますが、結論を先に言うと、これは許されます。今日はその理由を、条文から順に見ていきます。その前に、1つ確認させてください。前回見た一部判決は、訴訟のどこまでを先に終わらせるか、つまり事件を「どこまで完結させるか」の話でした。今日はどんな話だと思いますか?今日は、判決の中身そのものを裁判所がどこまで自由に決められるか、という出口側のルールを見ていきます。
246条——申し立てていないことは判決できない
図:処分権主義の入口と出口の板
- 入口=訴えの開始・請求の特定=以前見た回
- 出口=判決の中身・申立事項=246条=今日
以前、処分権主義の回で、この原則には訴訟を始める場面と、終わらせる場面の両方で当事者の意思が働く、という話をしました。その中で、訴訟の対象や範囲を決める場面には、入口と出口の2つがある、と予告していました。入口は請求の特定、そして出口が今日のテーマです。
条文民事訴訟法246条
民事訴訟法246条(判決事項) 裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。
条文はとてもシンプルです。「申し立てていない事項について、判決をすることができない」。これだけです。理由は2つあります。1つは、当事者自治の尊重です。訴訟の対象を決めるのは当事者自身であって、裁判所が勝手にそこへ踏み込むのは、私的自治への不当な干渉になります。もう1つは、不意打ちの防止です。この不意打ち防止という機能は、原告と被告で少し違う顔を見せます。原告にとっては、棄却されたときにどこまでの不利益を負うか、その上限を自分で決められるという意味です。被告にとっては、認容されたときにどこまでの不利益を負わされるか、あらかじめ知ることができるという意味です。冒頭の例で言えば、Bさんは、Aさんの申立てを見るだけで、「負けても、400万円を受け取って出ていく判決より悪くはならない」と分かります。だから、どこに力を入れて争うかを決められるんです。
この両方が満たされて初めて、判決という強い効力を持つ結論を、いきなり突きつけられずに済むんです。
例外——境界を割り切る訴訟
図:246条の例外の板
- 境界確定訴訟=形式的形成訴訟
- 原告が特定の境界線を掲げる必要がなく、当事者が示した境界線に裁判所は拘束されない
- 反対説=私人間の所有権争いなので処分権主義を適用すべき
- 留保=争っている範囲の外に境界線を引くのは不意打ち
ただし、246条には例外があります。以前、境界確定の訴えの回で見た、形式的形成訴訟です。どう決めるかの基準、つまり形成要件が法律に無い訴え、でしたね。境界確定の訴えがその代表です。この訴訟では、原告が「境界線はここだ」と特定の線を掲げる必要がありません。そして、当事者が示した線に裁判所が拘束されることもありません。裁判所が自分の判断で、妥当だと思う境界線を引くことができます。理由は、境界確定の訴えの回で見たとおり、どこに線を引くかの基準が法律に無いことです。基準が無ければ、原告が申立てで線を特定する土台もありません。しかも境界は、当事者の意思で自由に処分できるものではなく、客観的に1つに定まっているはずのものです。もっとも、私人間の所有権争いである以上、処分権主義をもっと及ぼすべきだという反対説もあります。どちらの立場でも共通して言われるのは、当事者が争ってすらいない範囲の外にまで境界線を引くのは、それこそ不意打ちであって不当だ、という留保です。
申立ての範囲を測る3つの物差し
図:3つの物差しの一覧板
- ①訴訟物=申し立てた法律構成と異なる構成での判決は不可
- ②判決の仕方=給付の訴えに確認判決は不可
- ③量的範囲=申し立てた金額を超える判決は不可
ここからは、「申立ての範囲内」かどうかを、実際にどう測るかを見ていきます。物差しは3つあります。訴訟物、判決の仕方、そして量的範囲です。まず1つめは、訴訟物という物差しです。以前、訴訟物の回で見たとおり、原告が申し立てた法律構成と異なる権利関係について判決するのは許されません。相手に主張や立証の機会を与えていないからです。申し立てられていない別口の債権を持ち出すのは、246条違反になります。ここで、以前見た旧訴訟物理論と新訴訟物理論の違いが効いてきます。原告が不法行為として申し立てたのに、裁判所が債務不履行の構成で認容する場合、旧説に立てば、申立てを改める手続、つまり訴えの変更をしない限り、246条違反です。構成ごとに訴訟物が別だからです。新説なら、社会通念上の紛争は1つなので、構成を入れ替えても申立ての範囲内、ということになります。
以前見た交通事故の判例が示していたのは、まさにここです。損害賠償の訴訟物は総額で1個なので、費目の内訳を入れ替えたり、総額の枠内で慰謝料を増やしたりしても、246条には触れません。訴訟物という物差しで見て、範囲内に収まっているからです。
図:申立ての範囲を測る3つの物差し②判決の仕方の板
- 給付の訴えに確認判決を出すのは不可=求めた種類と違う判決
- 確認判決には強制執行の後ろ盾が無い
- 給付判決を求めたのに確認判決では取り立てにもう一度訴え直すことになる
2つめ、判決の仕方です。原告が給付を求めているのに、裁判所が確認判決を出す、というように、判決の型そのものを取り違えるのも許されません。給付判決には強制執行という後ろ盾がありますが、確認判決にはそれがありません。求めていない種類の判決を出すのは、申立ての範囲外です。例えば、100万円を払えと求めたのに、「100万円の債権がある」と確認するだけの判決が出たら、原告は困るんですか。困ります。相手が払わなくても、その判決では強制執行ができません。取り立てるには、もう一度訴え直すことになります。求めた種類の判決とは、中身がまるで違うんです。
図:申立ての範囲を測る3つの物差し③量的範囲の板
- 1000万円請求に1500万円の認定でも1500万円の判決は出せない=申立てが上限
- 800万円しか認められない場合は問題なし=量的一部認容
- 範囲の外に出るのがだめで内側で動くのは246条に触れない
3つめ、量的範囲です。ここが今日のタイトルにも掲げた話です。1000万円を請求している訴訟で、裁判所が1500万円が相当だと認定しても、1500万円の判決は出せません。1000万円という上限を、原告自身が申立てで決めているからです。逆に800万円しか認められない、という場合はどうですか。それは問題ありません。申し立てた1000万円の枠の内側で減らす分には、量的一部認容として認められます。範囲の外に出るのがダメなのであって、範囲の内側で動く分には246条には触れないんです。
一部認容判決とは何か
図:一部認容判決の趣旨の板
- 裁判所が申立ての範囲内でその一部を認容できる理由=①全部はだめでも一部なら勝ちたい、というのが原告の通常の意思②被告にも不意打ちにならない
- 混同注意=一部判決・一部請求・一部認容判決は別物
今、量的範囲の話で「800万円なら認められる」と言いました。これが一部認容判決です。裁判所が、申立ての範囲内でその一部だけを認めることができるのは、理由が2つあります。1つは、全部はだめでも一部なら勝ちたい、というのが原告の通常の意思だから、ということ。もう1つは、申し立てられた範囲の内側である以上、被告にとっても不意打ちにならないことです。ここで一度、整理しておきましょう。今から3つの似た言葉が出てきます。一部判決、一部請求、一部認容判決です。一部判決は、前回見たとおり、訴訟のどこまでを先に終わらせるかという「終わらせ方」の話でした。一部請求は、処分権主義の回で入口の話として見た、原告が最初から債権の一部だけを訴訟物として立てる「請求の立て方」の話です。そして一部認容判決は、今日見ている、申立ての範囲内で判決の中身を絞る、という話です。例えば、処分権主義の回の町工場のように、3億円の損害のうち3000万円だけを訴えるのが一部請求。1000万円を請求して800万円だけ認められるのが一部認容判決。貸金と明渡しの2つの請求をまとめて訴えて、貸金のほうだけ先に判決するのが一部判決です。3つとも「一部」と付きますが、指しているものはまったく違います。詳しい区別は、最後にもう一度まとめます。前回、主位と予備の請求、つまり第1の請求が認められないときに備えて第2の請求を控えに立てる組み合わせでは、一部判決ができない、と触れましたが、その組み合わせ方そのものは、請求をまとめて訴える場面で改めて扱います。
一部認容判決の4類型①——引換給付は増額なら可
図:引換給付の増額は可の板
- 300万円の提示→裁判所が500万円に増額して引換給付=可・申し出た額と格段の相違のない範囲
- 減額・無条件は次の板
- A=原告・B=被告・C=裁判所
ここで、冒頭の事務所の例に戻ります。Aさんは立退料400万円の支払いと引換えに明渡しを求めていました。しかし裁判所は600万円が相当だと判断しました。この場合、裁判所は、600万円と引換えの明渡判決を出せるでしょうか。予想してみてください。実は、結論はさきほど言ったとおり、出せます。理由を、実際の判例で確認しましょう。似た事案で、店舗の明渡しが争われたものがあります。
判例最判昭和46年11月25日 民集25巻8号1343頁
最高裁判所判決(立退料と引換えの明渡判決の増額が争われた事件) 被上告人が上告人に対して立退料として三〇〇万円もしくはこれと格段の相違のない一定の範囲内で裁判所の決定する金員を支払う旨の意思を表明し、かつその支払と引き換えに本件係争店舗の明渡を求めていることをもつて、被上告人の右解約申入につき正当事由を具備したとする原審の判断は相当である。……右の趣旨において五〇〇万円と引き換えに本件店舗の明渡請求を認容していることは……相当であつて、原判決に所論の違法は存しない。
判決文に出てくる正当事由とは、貸主が建物の賃貸借を終わらせて明渡しを求めるのに必要な理由のことです。立退料は、その理由の足りない分を補うために支払われます。ポイントは、原告が「300万円、もしくはこれと格段の相違のない範囲で、裁判所が決める金額を支払う」という意思を、申立ての中にあらかじめ織り込んでいたことです。つまり、金額が動くことは、原告の申立ての範囲内に最初から含まれていた、と評価できます。だから、増額されても246条には触れません。ここで、さきほどのAさんの例に戻ります。Aさんも同じように、「立退料400万円、もしくはこれと格段の相違のない範囲で」という趣旨で申し立てていたと考えられますから、600万円と引換えの明渡判決は、申立ての範囲内として許されます。ここで向きにも注目してください。Aさんの側から見ると、「400万円払えば明け渡してもらえる」判決より、「600万円払えば明け渡してもらえる」判決のほうが、得るものの少ない、控えめな勝ち方です。1000万円の請求に800万円を認めるのと同じ向きで、申立ての内側に収まっています。
図:引換給付は減額・無条件なら不可の板
- 向きが逆=原告が求めた以上のものを与える判決になる
- 立退料100万円に減額=Aさんは自ら申し出た400万円より安く済む
- 無条件の明渡し=Aさんは1円も払わずに済む
- 1000万円請求に1500万円認容と同じ向き=申立ての外
- 増額にも限りがある=申し出た額と格段に違う増額までは織り込まれていない
Aさんに不利な方向だからこそ、一部「認容」なんですね。冒頭で「Aさんに不利だからまずい」と思ったのは、向きを逆に見ていたんですね。では、逆に立退料を100万円に減らしたり、お金なしの無条件で明け渡せ、という判決はどうなりますか。それは許されません。今度は向きが逆だからです。立退料を100万円に下げれば、Aさんは自分で申し出た400万円より安く明渡しを受けられます。無条件の明渡しなら、1円も払わずに済みます。どちらも原告が求めた以上のものを与える判決で、1000万円の請求に1500万円を認めるのと同じく、申立ての外に出てしまいます。増やす方向にも限りがあります。申し出た額と格段に違うほどの増額までは、原告の意思に織り込まれていたとは言えません。決め手は金額の増減ではなく、原告の申立ての範囲に収まっているかどうかです。
一部認容判決の4類型②——債務不存在確認は残額を明示する
図:債務不存在確認の限度明示の板
- 貸主の主張=500万円
- 原告=120万円を超えては存在しないと確認を求める
- 審理の結果、残債務は280万円と判明
- 単純棄却では足りず「残債務は280万円まで」と残額を明示する一部認容判決をすべき
2つめの類型です。今度は債務不存在確認の訴えを考えます。貸主は500万円残っていると言っています。これに対して借主である原告が、「借金は120万円を超えては存在しない」という確認を求めたとします。ところが審理の結果、実際の残債務は280万円だったと判明しました。実は、単純な棄却では足りません。ここでの申立ての範囲、つまり訴訟物は「借金の総額から、原告が自ら認める120万円を差し引いた、残りの部分が存在しないこと」です。単純に棄却してしまうと、借金がいくらまで存在するのかが、判決文からはわからなくなってしまいます。
判例最判昭和40年9月17日 民集19巻6号1533頁
最高裁判所判決(債務不存在確認の申立ての範囲が争われた事件) 本件請求の趣旨および請求の原因ならびに本件一件記録によると、上告人らが本件訴訟において本件貸金債務について不存在の確認を求めている申立の範囲……は……残額……の債務額の不存在の確認であり……前記(ロ)および(ハ)の弁済の主張事実について判断を加えることなく、残存額の不存在の限度を明確にしなかつたことは、上告人らの本件訴訟の申立の範囲(訴訟物)についての解釈をあやまり……
この判例が示すとおり、裁判所は「残債務は280万円までしかない」というように、その上限を明示した一部認容判決をすべきです。単純な棄却では、申立ての範囲そのものを見誤ったことになります。原告が求めたのは、120万円から500万円までの部分が無いことの確認でした。判決が確認するのは、280万円から500万円までの部分が無いこと。求めた範囲の内側の一部だけを認めているので、一部認容なんです。
一部認容判決の4類型③——限定承認は責任財産を絞る
図:限定承認の一部認容の板
- 被告が限定承認の抗弁を主張・立証
- 裁判所は「相続財産の限度で支払え」と一部認容判決を出す=責任財産の範囲を限定する意味での一部認容
3つめの類型です。相続債務の支払いを求める訴えで、被告が限定承認の抗弁を主張したとします。限定承認とは、相続人が、相続で得た財産の限度でだけ債務を負担する、という民法上の仕組みです。例えば、亡くなった父の借金が、1000万円、残した遺産が300万円だったとします。子が限定承認していれば、子が責任を負うのは、この300万円の遺産の範囲までです。裁判所がこの抗弁を認めた場合、「相続財産の限度で支払え」という判決を出すことになります。
判例最判昭和49年4月26日 民集28巻3号503頁
最高裁判所判決(限定承認の抗弁と判決主文が争われた事件) 被相続人の債務につき債権者より相続人に対し給付の訴が提起され、右訴訟において該債務の存在とともに相続人の限定承認の事実も認められたときは、裁判所は、債務名義上相続人の限定責任を明らかにするため、判決主文において、相続人に対し相続財産の限度で右債務の支払を命ずべきである。
判決文の債務名義とは、強制執行のもとになる判決などのことです。もし主文に限度を書かず、ただ「1000万円を支払え」と命じたら、債権者はその判決で、子自身の預金や家まで差し押さえにいけるおそれがあります。だから、限度は主文にはっきり書かなければならないんです。これは、支払えという義務そのものを減らしているわけではなく、その義務をどの財産から履行させるか、つまり責任を負う財産の範囲を絞っているという意味で、一部認容判決の1つに位置づけられます。この判決に、後の訴訟でどこまで拘束力が及ぶかという中身は、また別の回で扱います。
一部認容判決の4類型④——将来給付と定期金賠償
図:現在給付と将来給付の板
- 原告=現在の給付を求める
- 裁判所が支払期限未到来と認定
- 期限未到来を理由に棄却するより、訴えの利益がある限り将来給付判決を一部認容とするのが多数説
最後、4つめの類型です。原告が金銭の支払いを求めていて、裁判所が「まだ支払期限が来ていない」と認定した場合を考えます。例えば、来年3月末が返済期限の貸金100万円を、貸主が今すぐ返せと訴えた場合です。期限が来ていない以上は請求棄却にすべきだという考え方もありますが、多数説はもう一歩踏み込みます。将来の給付を求める訴えという枠組みが別にあります。あらかじめ請求しておく必要性が認められる場合に限って、まだ来ていない支払いも先に求めておける、という仕組みです。この、今のうちに判決をもらっておく必要があることを、訴えの利益がある、と言います。この枠組みを使って、現在の給付を求める申立ての中に、将来給付を求める趣旨も含まれていると見て、期限が来ていないなら将来給付判決を一部認容として出す、というのが多数説の立場です。棄却するより、訴えの利益がある限りはこちらのほうが、原告にとっても手続の手間が省けます。借主が「そもそも借りていない」と争っているなら、期限が来ても素直に払うとは思えません。ここで棄却すれば、貸主は期限が来てから一から訴え直しです。だから「期限が来たら払え」と、今のうちに判決しておくんです。
関連して、一時金でまとめて賠償を求めたのに、裁判所が定期的に分割して支払わせる、という組み合わせができるかどうかも議論されています。これを認めた裁判例もありますが、学説も裁判例も見解が分かれていて、まだ決着していない論点です。この中身は、また別の回で扱います。
審理過程への配慮——弁論主義ともつながる
図:処分権主義と弁論主義の両面板
- 申立ての範囲=処分権主義の側面=246条
- 主張・立証の機会=弁論主義の側面
- 両方が揃って初めて不意打ちのない判決になる
ここまでは、原告が申し立てた範囲だけを見てきました。ですが246条違反になるかどうかを最終的に判断するには、もう1つ見るべき視点があります。被告がその点をきちんと主張していたか、当事者双方が十分に主張や立証をする機会を持っていたか、という審理の過程そのものです。246条は処分権主義から来るルールですが、不意打ちを防ぐという目的そのものは、判決の基礎になる事実や証拠を当事者に委ねる弁論主義とも重なっています。申立ての範囲という入れ物の話と、その中身をどう埋めるかという話、両方が揃って初めて、不意打ちのない判決になるんです。
3つの「一部」を区別する
図:3つの一部の対比図
- 一部判決=訴訟の終わらせ方・243条2項
- 一部請求=請求の立て方
- 一部認容判決=判決の中身の絞り方・246条
最後に、もう一度3つの「一部」を並べておきます。一部判決は、審理をどこまで先に終わらせるかという、終わらせ方の話でした。一部請求は、原告が最初からどこまでを訴訟物として立てるかという、請求の立て方の話でした。そして一部認容判決は、申立ての範囲の中で、判決の中身をどこまで絞れるかという話です。同じ「一部」でも、指しているものはまったく別です。訴訟物も、判決の仕方も、量的範囲も、そして4つの類型も、全部、この1本の物差しで測れます。246条は、処分権主義の側からは申立事項という縛りをかけ、弁論主義の側からは審理の機会という縛りをかけて、両面から不意打ちを防いでいるんです。冒頭の事務所の例に戻りましょう。Aさんは400万円を提示し、裁判所は600万円が相当だと判断しました。Aさんの申立ては、格段に違わない範囲なら裁判所の決める額を払ってでも明け渡してほしい、という趣旨と読めます。そして600万円は、Aさんにとって求めたより控えめな勝ち方です。だから、600万円と引換えの明渡判決は、申立ての範囲内として許されます。
参照条文
- 民事訴訟法246条