既判力の時的範囲(基準時・基準時後の形成権行使)
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第3章 訴訟の終了 #68/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
弁済のタイミングで結論が変わる
図:冒頭事案の関係図
- A=貸主・原告/B=借主・被告/300万円を支払えとの判決が確定
- ①基準時後にBが弁済→請求異議で争える
- ②基準時前にBが弁済していたが主張し忘れ→既判力で遮断
場合によります。Bさんが判決の確定より後に300万円を返したのなら、それを理由に強制執行を止められます。ところが、判決が確定するより前に、実はもう返していたのに、そのことを裁判で言い忘れていたのなら、話は変わります。この場合は、後からそれを持ち出しても、もう認められません。同じことをしていても、それが起きた時点によって、既判力に引っかかるかどうかが変わります。前回、既判力とは、確定した判断の中身について、当事者も裁判所も、もう争い直せなくする拘束力だと確認しました。ただ、これは無限の過去から無限の未来まで、あらゆる時点の権利関係を固定するものではありません。既判力が固定するのは、ある1つの時点における権利関係の判断です。今日は、その「いつの時点」を確定させます。
既判力の基準時——事実審の口頭弁論終結時
図:基準時のタイムライン板
- 訴え提起→事実審の口頭弁論終結=基準時→判決言渡し→確定
- 主張できた期間=手続保障が及ぶ期間
- 控訴審まで争えば基準時は控訴審の弁論終結時にずれる
- 上告審は事実審理をしない法律審=基準時を作らない
前回、既判力が及ぶ理由を2つ確認しました。紛争を一回で終わらせるという制度目的と、対等に主張する機会を保障された以上、結果は自分で引き受けるという自己責任です。この2つ目の理由、覚えていますか?対等に主張できる機会があったから、負けても文句は言えない、という話でした。今日は、この2つ目の理由の直接の帰結を見ていきます。当事者が主張や証拠を出せる期間には、終わりがあります。訴えを起こしてから、新しい事実を争える最後の期日まで、当事者には手続保障が及んでいます。この最後の期日を、既判力の基準時と呼びます。具体的には、事実審の口頭弁論終結時です。
図:控訴審・上告審と基準時のずれの板
- 事実審=新しい事実を争える審級・控訴審まで争えば基準時は控訴審の弁論終結時にずれ込む
- 上告審=法律審で新事実を争わない=基準時を作らない・控訴審の弁論終結時が最後の基準時
訴訟要件の回で見た、第一審と控訴審のことです。控訴審まで争えば、基準時はその控訴審の弁論が終結した時点までずれ込みます。基準時は、ずれません。上告審は法律の解釈だけを審理する法律審で、新しい事実を争う場ではありません。事実を主張する機会自体がそこには無いので、上告審は基準時を作りません。控訴審の弁論終結時が、最後の基準時になります。
図:基準時の2つの役割の板
- #3-5=口頭弁論の終結の日=252条1項4号・電子判決書の記載事項
- #3-3=訴訟要件も原則として事実審の口頭弁論終結時までに備わればよい
- この2つの「終結時」は既判力の基準時と同じ時点
この基準時、実は今日が初登場ではありません。電子判決書の必要的記載事項の回で、口頭弁論の終結の日という項目が出てきました。
条文民事訴訟法252条1項4号
民事訴訟法252条1項4号(電子判決書の記載事項) 四 口頭弁論の終結の日
あのとき、この日付は既判力の基準時の目印になる、とだけ触れて先送りにしていました。この日付こそが、今日の基準時です。判決書に必ずこの日付が記録されているのは、後の紛争で、この判決の判断がいつの時点のものなのかを確認できるようにするためです。訴訟要件は原則として、事実審の口頭弁論終結時までに備わっていればよい、という話でした。実はあれと今日の基準時は、同じ時点です。訴訟要件が最後まで備わっているかを見る時点と、既判力がどの時点の判断を固定するかを見る時点は、どちらも当事者が最後まで主張・立証できる期日、事実審の口頭弁論終結時で一致しています。1つの時点が、2つの役割を兼ねているわけです。
図:手続保障の限界としての基準時の板
- 基準時前の事由=主張できた期間の中にある=主張したか否か・過失の有無を問わず遮断
- 基準時後の事由=そもそも主張する機会が無かった=既判力の対象外
基準時より後に生じた事情は、その時点ではまだ手続保障が及んでいる期間の外なので、そもそも前訴で主張しようがありません。だから既判力の対象になりません。逆に、基準時より前に生じていた事情は、主張しようと思えばできた期間の中にあります。ですから、実際に主張したかどうか、主張しなかったことに落ち度があったかどうかを問わず、丸ごと遮断されます。過失があったかどうかは関係なく、遮断されます。ここは模試の答案回収に近い感覚です。試験時間中に書けたことは、書いても書かなくても、その時間内の内容として評価が確定します。あとから「本当は時間内に思いついていたのに書き忘れた」と言っても、追加の採点はしてもらえません。基準時も同じで、主張できた期間の中にあった事情は、機会があった以上、使わなかった結果も自分で引き受けるしかありません。逆に、試験が終わったあとに新しく起きたことは、そもそもその試験の評価対象にすらなっていません。
図:民執35条・請求異議の訴えの板
- 基準時後の事由なら争える=請求異議の訴え
- 民執35条2項=確定判決についての異議の事由は口頭弁論の終結後に生じたものに限る
基準時より後に生じた事情を実際にどう争うかも、条文に手がかりがあります。
条文民事執行法35条1項
民事執行法35条1項(請求異議の訴え) 債務名義(第二十二条第二号又は第三号の二から第四号までに掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。
条文民事執行法35条2項
民事執行法35条2項(異議事由の制限) 確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。
確定した判決に基づく強制執行を止めたいとき、債務者はこの請求異議の訴えを使います。2項がまさに、今日の基準時の話を裏付けている条文です。異議の事由は「口頭弁論の終結後に生じたものに限る」とされています。裏を返せば、口頭弁論の終結、つまり基準時より前の事由は、この訴えでは主張できないということです。基準時後に生じた新しい事実だからです。ところが、判決が確定する前、つまり基準時より前にもう返していたのに、それを前訴で言い忘れていた場合は、この2項に当てはまりません。基準時前の事由なので、既判力によって、もう蒸し返せません。
基準時は絶対か——基準時の相対化
図:基準時の相対化の関係図
- 第三者の弁済=A貸主・B借主・C=Bとつながりのある第三者
- CがBに黙ってAに弁済
- BはCの弁済を基準時前には知りようが無かった
ここまでは、基準時より前の事情は問答無用で遮断される、という話でした。ただし、この線引きには例外を認めるべきだという有力な立場があります。学説は、代表的な例外として2つの場面を挙げます。1つめは、第三者の弁済です。Bさんとつながりのある第三者Cさんが、Bさんに黙って、300万円をAさんに弁済していたとします。Bさんは基準時の時点では、Cさんが弁済していたことをまったく知りようがありませんでした。基準時前に生じた事情ではあるものの、Bさんにその事情を前訴で主張しろというのは無理があります。主張することが現実に期待できなかった、という理由で、既判力による遮断を及ぼさない、とする立場が有力です。
図:基準時の相対化の板
- 予測できない後遺症=基準時にはおよそ予測できなかった損害の拡大
- 共通の理由=前訴での主張が現実に期待できなかった=既判力で遮断しないとする学説
2つめは、予測できなかった後遺症です。交通事故の損害賠償で、基準時の時点ではまったく予測できなかったほど、後になって症状が悪化した場合です。この場合も、基準時の時点で主張することは期待できなかった、という同じ理由で、後訴で追加の損害賠償を求めても既判力には反しない、とする学説があります。基準時という線引きの根っこにあるのは、手続保障が及んでいたかどうかです。だから、時点の前後という形式だけでなく、その時点で現実に主張が期待できたかどうかまで踏み込んで考える立場が出てくるわけです。
基準時後の形成権行使——なぜ結論が分かれるのか
図:形成権行使の問題設定の板
- 基準時より前から存在していた形成権=取消権・解除権・相殺権など
- 行使=意思表示自体は基準時より後にされた
- 問い=既判力によって遮断されるか
ここからが今日いちばんの中心です。取消権や解除権、相殺権は、基準時より前から発生していたとします。ただし、実際に行使する意思表示そのものは、基準時より後になってからされたとします。この場合、既判力によって遮断されるでしょうか。形成権とは、訴えの3つの型の回で見た、意思表示ひとつでその場で効果が生じる権利でした。つまり、契約が消えるといった効果が生じるのは、行使した基準時後です。それなら民執35条2項の「口頭弁論の終結後に生じた」事由に当たりそうに見えます。ところが、権利そのものは基準時前からありました。どちらを重く見るかが、ここでの問題です。
図:基準時後の形成権行使・一覧表
- 取消権=遮断される
- 解除権=遮断される
- 建物買取請求権=遮断されない
- 相殺権=遮断されない
通説の結論を先に一覧にします。取消権と解除権は遮断されます。基準時後に行使しても、もう認められません。ところが、建物買取請求権と相殺権は遮断されません。基準時後に行使しても、争えます。
図:実体法上の性質による説明の板
- 取消権解除権=前訴の請求権を生んだ契約に最初から付いていた瑕疵を主張するもの
- 建物買取請求権相殺権=前訴の請求権とは独立した別の権利・建物買取請求権には借地人保護の固有の政策目的
説明は2つ重ねられます。1つは、実体法上の性質による説明です。取消権や解除権は、前訴の請求権を生んだ契約に最初から付いていた傷、つまり瑕疵を主張するものです。契約がそもそも無効だったという、もっと重い主張ですら、契約のときからある基準時前の事情なので、さっきの弁済の言い忘れと同じく遮断されます。そうである以上、瑕疵の程度が軽い取消し・解除だけを別扱いにする理由がありません。これに対して、建物買取請求権や相殺権は、前訴の請求権そのものとは独立した、別の権利です。しかも建物買取請求権には、借地人を保護するという固有の政策目的まであります。
もう1つ、学説からは、より実質的な説明が重ねられます。建物買取請求権も相殺権も、行使すること自体が、前訴での自分の防御方針とぶつかってしまう、自分も損をする防御方法だという説明です。
図:ポーカーの板
- 前訴での防御との関係=取消権解除権はいつ切っても矛盾しない・建物買取請求権相殺権は切った瞬間に自分の場が崩れる
- 行使を控えていた理由=手続保障違反は無い
ポーカーを思い浮かべてください。前訴という1回の勝負に、実は最初から4枚のカードが配られていたとします。取消権と解除権のカードは、いつ切っても自分の他の手札と矛盾しません。契約を取り消せる、解除できる、と言い切るだけで、防御としてまっすぐ筋が通ります。ところが建物買取請求権と相殺権のカードは、切った瞬間に自分の場が崩れます。建物収去土地明渡しの訴えで、被告が「建物を買い取ってほしい」と言えば、それは「明け渡してもよい」と認めたに等しくなります。あくまで明け渡さないと徹底抗戦していた被告にとって、この主張は自分の防御方針を自ら壊してしまいます。相殺も同じです。相殺を主張するには、まず相手の債権があることを認めなければなりません。原告に借りは無いと争っていた被告にとって、相殺の主張は自分の言い分と矛盾します。
前訴でそのカードを切れというのは、酷な要求です。行使を我慢していたことに手続保障違反は無い、だから基準時後に行使しても遮断されない、という結論になります。
図:取消権の関係図
- A=買主・原告
- 売買で土地を取得したとして所有権確認の訴えで勝訴・確定
- B=売主・被告
- 確定後に詐欺による取消しを主張
まず取消権の判例です。Aさんが、Bさんから土地を買ったと主張して、自分が所有者であることの確認を求める訴えを起こし、勝訴して判決が確定したとします。その後、売主のBさんが「実はあの売買契約は、Aさんにだまされて結んだものだった」と主張し、詐欺を理由に取消しを持ち出したとします。
判例最判昭和55・10・23 民集34巻5号747頁〈百選77〉
確定後に詐欺取消しを持ち出した売主の事件(取消権と既判力) 売買契約による所有権の移転を請求原因とする所有権確認訴訟が係属した場合に、当事者が右売買契約の詐欺による取消権を行使することができたのにこれを行使しないで事実審の口頭弁論が終結され、右売買契約による所有権の移転を認める請求認容の判決があり同判決が確定したときは、もはやその後の訴訟において右取消権を行使して右売買契約により移転した所有権の存否を争うことは許されなくなるものと解するのが相当である。
前訴の事実審の口頭弁論終結までに取消権を行使できたのに、それをしないまま判決が確定した以上、後になって取消しを主張することはもう許されない、という判断です。解除権も、同じ理屈で、通説は遮断されると考えています。だからこそ、前訴で出しておくべきだった主張として扱われます。
図:建物買取請求権の関係図
- A=賃貸人・原告
- 建物収去土地明渡しを求める訴えで勝訴・確定
- B=賃借人・被告
- 確定後に建物買取請求権を行使し請求異議の訴えを提起
次は建物買取請求権です。借地上に建物を持つ賃借人Bさんに対し、賃貸人Aさんが建物収去土地明渡しを求める訴えを起こし、勝訴が確定したとします。Bさんは、前訴の中でこの建物買取請求権を行使していませんでした。
条文借地借家法13条1項
借地借家法13条1項(建物買取請求権) 借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
借地権が終了しても、借地上の建物は借地権者が権原によって設置したものなので、時価での買い取りを請求できます。
判例最判平成7・12・15 民集49巻10号3051頁〈百選78〉
明渡判決の確定後に買取請求をした賃借人の事件(建物買取請求権と既判力) 借地上に建物を所有する土地の賃借人が、賃貸人から提起された建物収去土地明渡請求訴訟の事実審口頭弁論終結時までに借地法四条二項所定の建物買取請求権を行使しないまま、賃貸人の右請求を認容する判決がされ、同判決が確定した場合であっても、賃借人は、その後に建物買取請求権を行使した上、賃貸人に対して右確定判決による強制執行の不許を求める請求異議の訴えを提起し、建物買取請求権行使の効果を異議の事由として主張することができるものと解するのが相当である。
この判決が適用したのは、当時の借地法4条2項です。今の借地借家法13条にあたる権利だと考えてください。Bさんは、前訴の口頭弁論終結までに建物買取請求権を行使していなかったのに、確定後にこれを行使したうえで、請求異議の訴えを起こせる、という判断です。
図:なぜ建物買取請求権は逆の結論かの板
- 独立の権利=明渡請求権に付着した瑕疵ではなく別個の目的で発生する独立の権利
- 行使しなかったことは実体法上の消滅事由にならない
- 行使の効果は民執35条2項の異議の事由にあたる
建物買取請求権が取消権と逆の結論になる理由は、この権利が明渡請求権に付着した瑕疵を主張するものではなく、別個の目的で発生する独立の権利だからです。それに加えて、行使しなかったことが実体法上の消滅事由になるわけでもありません。そして、この行使の効果は、さっき見た民執35条2項の「口頭弁論の終結後に生じた異議の事由」に当たるとされました。だから、前訴の段階でこのカードを切れというのは酷だ、という実質も、この結論を支えています。
図:相殺権も遮断されない板
- 相殺の意思表示=行使した時点で初めて効力を持つ
- 基準時前には相殺できる状態にあっただけで意思表示は基準時後
- 結論=相殺による債務消滅を理由に請求異議を主張できる
相殺の意思表示も、行使した時点で初めて効力を持ちます。基準時前には相殺できる状態にあっただけで、実際の意思表示は基準時後にされた、という場合、相殺による債務消滅を理由に請求異議を主張することは認められる、とした判例があります。例えば冒頭と同じ300万円の判決で、Bさんが前からAさんに200万円を貸していたのに、前訴では300万円など借りていないと争っていたとします。確定後に、その200万円の貸金で相殺すると言えば、その分は請求異議で争えます。学説は、これも、さっきのポーカーで見た、自分も損をする防御方法だからだ、と説明します。
図:遮断されない2つの理由の板
- 実体法的性質論=前訴の請求権に付着した瑕疵か・独立の別個の権利か
- 自分も損をする防御方法論=行使すれば前訴の防御方針と矛盾するか・前訴で行使を期待できたか
⭐ 論文で書く規範:基準時後に行使された形成権が既判力によって遮断されるか 前訴の請求権に付着した瑕疵を主張するにとどまる取消権・解除権は、基準時後に行使しても既判力によって遮断される。これに対し、前訴の請求権とは独立の別個の権利である建物買取請求権・相殺権は、基準時後に行使しても遮断されない。 (規範(判例・通説))
ここまでの2つの説明を重ねると、取消権や解除権は遮断され、建物買取請求権や相殺権は遮断されない、という結論になります。ただ、注意してほしいのは、この振り分けは形成権の種類だけで機械的に決まるものではない、ということです。
図:種類だけで機械的に決まらない板
- 個別の検討が必要=前訴での争い方・後訴で争わせることが公平か
- 混同注意=相殺権が時的範囲で遮断されないことと相殺の抗弁の既判力(客観的範囲)は別問題
前訴でその当事者がどういう争い方をしていたか、その形成権を前訴で出しておくべきだったと言えるか、後訴で争わせることが公平かどうかを、個別の事件ごとに検討すべきだ、という指摘があります。種類さえ覚えれば済む、という単純な話ではありません。例えば、さっきの建物の事件で、Bさんが前訴で明渡しそのものは認め、建物をどうするかだけを争っていたとします。この場合、建物を買い取ってほしいと言っても、自分の言い分とは矛盾しません。この指摘に立てば、前訴で出しておけた主張だとして、遮断される余地が出てきます。もう1点、混同しやすい注意点があります。相殺権が基準時の問題として遮断されないこと、これは今日の話です。これとは別に、相殺の抗弁を出して裁判所がそれを判断すると、その判断自体に既判力が生じるという条文があります。この2つは別の場面の別の問題です。今日は前者だけを扱いました。
定期金賠償判決の変更を求める訴え——117条
図:117条の流れ図
最後は117条です。損害賠償の判決は、一時金でまとめて支払えと命じるのが通常ですが、毎月いくら支払え、という定期金による賠償を命じる判決もあります。
条文民事訴訟法117条1項
民事訴訟法117条1項(定期金賠償を命じた確定判決の変更を求める訴え) 口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。
条文民事訴訟法117条2項
民事訴訟法117条2項(専属管轄) 前項の訴えは、第一審裁判所の管轄に専属する。
交通事故で後遺障害が残り、将来の逸失利益や介護費用を定期金で支払え、という判決が確定したとします。この判決は、基準時までに分かっていた後遺障害の程度をもとに、将来分の金額まで算定して固定してしまいます。そこで117条です。口頭弁論終結後に、後遺障害の程度など、算定の基礎になった事情に著しい変更が生じた場合、判決の変更を求める訴えを起こせます。ただし、対象になるのは、訴えを起こした日より後に支払期限が来る部分だけです。過去にさかのぼって変えられるわけではありません。管轄も第一審裁判所に専属します。
図:なぜこの制度があるのかの板
- 予測できなかった事情の変化=基準時に誰にも予測できなかった以上そもそも前訴で主張する機会が無かった
- 手続保障が及んでいない以上既判力で縛る根拠が無い
- 基準時の相対化との関係=予測できない後遺症の相対化と根っこは同じ発想
基準時という考え方に戻ってみてください。基準時の時点で誰にも予測できなかった事情の変化は、そもそも前訴で主張する機会がありませんでした。手続保障が及んでいなかった以上、既判力で縛る根拠がありません。117条は、この考え方を定期金賠償という場面で条文にしたものです。さっき見た、予測できない後遺症についての基準時の相対化と、根っこは同じ発想です。
図:117条の対象の限界の板
- 117条の対象=口頭弁論終結前に生じた損害についての定期金賠償判決
- 対象外=将来の継続的不法行為・不法占拠等の損害金を命じた判決は文言上その外
- 有力説=対象外の場合にも類推適用を認める
ただし、117条には対象の限界があります。条文が対象とするのは、口頭弁論終結前にもう生じている損害についての定期金賠償です。ところが、不法占拠のような将来にわたって続く不法行為について、将来分の損害金を定期金で命じた判決は、この文言に当てはまりません。まだ生じていない将来の損害についての判決だからです。117条ができる前の判例で、将来の賃料相当損害金を命じた判決の額が、その後の地価の高騰などで不相当になった場合に、差額を新たな訴えで請求できる、という判断を示したものがあります。理由づけとしては、その差額分は前訴の請求からもともと除かれていたものだと見て、既判力が及ばないとするものです。117条の対象からは外れる場合でも、有力説はこの種の判決に117条を類推して同じように変更を認めようとしています。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図の板
- 基準時=事実審の口頭弁論終結時・手続保障が及ぶ限界
- 基準時後の事由=請求異議で争える・基準時前の事由は遮断
- 基準時後の形成権行使=取消権解除権は遮断・建物買取請求権相殺権は不遮断
- 117条=定期金賠償判決の変更を求める訴え
今日の4つの軸をつなげておきます。既判力は、事実審の口頭弁論終結時という基準時における権利関係の判断を固定します。この時点は、当事者に手続保障が及んでいた期間の終わりです。基準時後の事情は既判力の外にあり、請求異議の訴えで争えます。基準時前の事情は、主張したかどうかを問わず遮断されます。ただし、主張が現実に期待できなかった事情については、遮断しない有力説もあります。基準時後に行使された形成権は、前訴でその行使を期待できたかどうかで結論が分かれます。取消権と解除権は遮断され、建物買取請求権と相殺権は遮断されません。そして117条は、定期金賠償判決について、基準時後の著しい事情の変更を理由に、将来分の金額を変更できる制度です。
冒頭のBさんの弁済も、これで説明がつきました。基準時の、前と後、それだけで結論が変わるんですね。基準時という物差しを当てれば、今日見た論点はすべて説明できます。
参照条文
- 民事訴訟法252条1項4号
- 民事執行法35条1項
- 民事執行法35条2項
- 借地借家法13条1項
- 民事訴訟法117条1項
- 民事訴訟法117条2項