既判力の客観的範囲(114条・相殺の抗弁・争点効)
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第3章 訴訟の終了 #69/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
明渡しに勝ったのに、また所有権を争われる
図:冒頭事案の関係図
- A=原告・土地の明渡請求で勝訴・確定
- B=被告・敗訴した相手
- 後訴でBが「あの土地は自分のものだ」と所有権を争い直そうとしている
既判力では止められません。前の裁判であれだけ所有権を争って、裁判所も所有権があるという前提で判決を書いたのに、Bさんはもう一度、所有権そのものを争うことができます。不自然に感じるのは当然です。ただ、これは既判力の欠陥ではなく、既判力がどこまで生じるかという設計の問題です。前回までに、既判力とは何か、いつの時点の判断を固定するかを見てきました。今日は、既判力が「何について」生じるのかを確定させます。この線引きが分かれば、今の不自然さの正体も見えてきます。
114条1項——既判力は主文に包含するものに限る
図:訴訟物の読み取り方の板
- 判決主文は簡潔=例「被告は原告に金○円を支払え」
- 主文だけでは何についての判断か分からない
- 請求の趣旨と請求原因から訴訟物を特定し、その訴訟物についての判断が主文の中身になる
条文に入る前に、物差しを1つ置きます。前回までに見たとおり、既判力が当事者を縛ってよいのは、対等に主張する機会を保障されていたからでした。裏を返せば、縛ってよいのは、その機会が正面から保障されていた範囲だけです。この物差しを持って、条文を確認します。
条文民事訴訟法114条1項
民事訴訟法114条1項(既判力の範囲) 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
既判力が生じるのは、原則として判決の主文に包含されるものだけです。ただ、主文はとても簡潔です。「被告は原告に金百万円を支払え」というように、それだけを見ても、何についての判断なのかは分かりません。そこで、請求の趣旨と請求原因、つまり原告が何を求め、どういう理由でそれを求めたかから、訴訟物を特定します。主文に包含されるものというのは、実質的には、その訴訟物についての判断のことです。Aさんの請求は、所有権に基づく土地の明渡請求権です。訴訟物はこの明渡請求権であって、その前提として裁判所が判断した「Aに所有権があるかどうか」は、訴訟物そのものではありません。ここが今日の核心につながります。
図:訴え却下判決の既判力の板
- 訴え却下判決=訴訟要件の判断のみ
- 既判力が生じるのは却下理由とされた訴訟要件についてだけ
- 請求の中身は審理されていない=要件を整えれば訴え直せる
もう一点、訴え却下判決についても確認しておきます。以前見たとおり、訴え却下判決に既判力が生じるのは、却下理由とされた訴訟要件についてだけです。請求の中身までは審理されていないので、欠けていた要件を整えれば、また訴えを起こせます。114条1項の「主文に包含するもの」を、訴訟物ではなく訴訟要件で読み替えているだけで、考え方は同じです。訴訟物をどう画するかによって、既判力がどこまで及ぶかの範囲が変わってくる事案があります。ただ、その対立自体は今日の本筋ではありません。今日は、訴訟物についての判断にしか既判力が生じない、という枠組みの方を掘り下げます。
判決理由中の判断には既判力が生じない——なぜそう決めたか
図:冒頭事案の理由中の判断の板
- Aの請求=土地の明渡請求権
- 訴訟物=明渡請求権
- 理由中の判断=Aに所有権があるかどうか
- 既判力が生じるのは訴訟物である明渡請求権の有無だけ・所有権の帰属には生じない
冒頭のAさんの事案に戻ります。Aさんの訴訟物は、明渡請求権の有無です。裁判所は、その判断の前提として、Aに所有権があると認定しました。しかし、既判力が生じるのは訴訟物である明渡請求権の有無についてだけで、前提とされた所有権の帰属、つまり判決理由中の判断には既判力が生じません。
図:理由中の判断に既判力を認めない3つの理由の板
- 理由1=攻撃防御をどこに集中させるか自由に選べる
- 理由2=裁判所がどの順序で審理するか自由に選べる
- 理由3=拘束力が手続保障の程度に見合わない
ここで、なぜそう決めているのかを確認しておきます。理由は大きく3つ重ねられます。1つめは、当事者が攻撃防御をどこに集中させるか自由に選べるようにするためです。理由になりそうな点をすべて、隅々まで争っておかなければならないとしたら、当事者の負担は際限なく膨らみます。2つめは、裁判所がどの順序で審理するかを自由に選べるようにするためです。3つめは、たまたま先に取り上げられた攻撃防御方法の判断にまで拘束力が生じてしまうのは、そこに注がれた手続保障の程度に見合わない、ということです。主張する機会が保障されていた範囲でだけ、当事者を縛ってよい。理由中の判断は、訴訟物ほど本気で争うことを当事者に強制されていない部分だからこそ、既判力の対象から外れます。
図:もう一つの具体例の板
- A=原告・売買代金請求で勝訴
- B=被告
- 契約の有効性が理由中の判断
- 勝訴確定後もBは契約無効を別訴で主張できる
もう一つ例を見ます。Aさんが、Bさんに売買代金の支払いを求める訴えを起こし、契約が有効であることを前提に勝訴が確定したとします。この場合も、訴訟物は代金支払請求権であって、契約が有効かどうかは理由中の判断にすぎません。ですから、Bさんは判決確定後に、別の訴えで契約の無効を主張することができてしまいます。理由中の判断にとどまる核心部分にこそ既判力が欲しいと考える当事者のために、自衛策が用意されています。所有権についても既判力が欲しければ、最初から所有権確認の訴えを明渡請求と一緒に起こしておくことができます。これを訴えの併合と呼びます。訴えの途中で気づいた場合は、中間確認の訴えという制度で、途中から確認の請求を追加することもできます。どちらも、訴訟物を増やして、理由中の判断だった部分を主文の判断に格上げする、という発想です。制度の細かい要件は、また別の回で扱います。
唯一の明文の例外——相殺の抗弁(114条2項)
図:前回の予告の回収の板
- 前回=相殺権が基準時後に行使されても遮断されないという話・時的範囲の問題
- 今日=相殺の抗弁を出して裁判所が判断すると、その判断自体に既判力が生じるという話・客観的範囲の問題
- この2つは別の場面の別の問題
ここで、前回の終わりに触れた話を回収します。相殺権が基準時後に行使されても遮断されない、という話をしましたが、覚えていますか?あれは、いつ行使したかという時的範囲の問題でした。今日の話は違います。相殺の抗弁を裁判所に出して、裁判所がその中身を実際に判断すると、その判断自体に既判力が生じるかどうかという、客観的範囲の問題です。同じ相殺という言葉が出てきますが、場面がまったく別だ、ということをまず押さえてください。
条文民事訴訟法114条2項
民事訴訟法第114条第2項(既判力の範囲) 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。
判決理由中の判断には既判力が生じない、という114条1項の原則には、明文でただ一つの例外が置かれています。相殺の抗弁です。相殺の抗弁を出して、以前見た自働債権、つまり被告が原告に持っている別の債権の存否について裁判所が判断すると、対抗した額の限度で既判力が生じます。自働債権が仮に全額もっと大きくても、既判力が生じるのは、相殺に使った限度、つまり原告の請求と打ち消し合った額の範囲だけです。それを超える部分については、既判力は生じません。
図:具体例の板
- A=原告・代金債権者・80万円請求
- B=被告・相殺を主張する側
- Bが50万円の貸金債権で相殺を主張
- 認められれば80万円のうち50万円が消滅し30万円の限度で認容
- 認められなくても50万円の限度で既判力
数字で確かめます。Aさんが、Bさんに商品代金として80万円を請求したとします。Bさんが、Aさんに以前貸していた50万円の貸金債権を持ち出し、相殺を主張したとします。裁判所がこの50万円の存在を認めて相殺を認めると、80万円のうち50万円が消え、30万円の限度でAさんの請求が認容されます。この場合、50万円の自働債権が存在した、という判断に既判力が生じます。その場合も、50万円の限度で既判力が生じます。自働債権が無かった、という判断そのものが動かせなくなるからです。認められた場合も、認められなかった場合も、対抗した額の限度で既判力が生じる、という点は同じです。
図:なぜ例外を認めてよいかの板
- 理由1=二重取り防止・既判力が無ければ相殺に使った自働債権を後訴で再び請求できてしまう
- 理由2=手続保障・相殺の抗弁は自分の債権を失う不利益な防御方法なので予備的に主張され最後に審理される・審理順序が保障されている
理由は2つ重ねられます。1つめは、二重取りの防止です。もし既判力が無ければ、Bさんは相殺に使った50万円の債権を、後になってもう一度Aさんに請求できてしまいます。1回の裁判で使った自働債権が、また別の裁判で生き返るとしたら、紛争は一回で終わりません。あのときの発想がそのまま生きています。2つめの理由は、手続保障です。相殺の抗弁は、認めればその分だけ自分の債権を失う、被告にとって不利益な防御方法です。だからこそ、他の防御方法が通らなかった場合に備えて、予備的に主張されるのが通常で、裁判所も、まず原告の債権の存否を審理し、それが認められ、かつ弁済などの他の防御方法が認められなかったときに初めて、相殺の審理に入ります。
この審理順序が保障されているからこそ、判決理由中の判断であっても、既判力を認めてよい、と考えられています。理由中の判断だから既判力を認めない、という114条1項の原則に対して、二重取りの実害と、手厚い手続保障という2つの要素がそろって初めて、例外が正当化されるわけです。
争点効(学説)と信義則による遮断(判例)
図:争点効の定義の板
- 争点効=学説の提唱
- 要件1=前訴の主要な争点として当事者が真剣に争った
- 要件2=裁判所がその点を実質的に審理して判断した
- 要件3=後訴で争われる利益が前訴と同程度
- 効果=後訴でその判断と矛盾する主張・判断を許さない
- 位置づけ=信義則を判決の効力にまで高めたもの
ここまで、判決理由中の判断には既判力が生じない、という原則と、相殺という唯一の明文の例外を見てきました。ここからは、この原則を解釈で広げようとした議論です。まず学説から確認します。争点効という考え方です。学説が唱えた考え方です。ひとことで言えば、前の裁判で本気で争われて決着がついた争点については、次の裁判でその決着と食い違う主張や判断を許さない、という効力です。要件は3つに分けて押さえます。1つめ、その点が前訴の主要な争点で、当事者が真剣に争ったこと。2つめ、裁判所がその点を実質的に審理して判断したこと。3つめ、後訴で争われている利益が、前訴と同じ程度のものであること。
訴訟物ではない理由中の判断でも、そこまで争ったのなら縛ってよい、という発想ですか。そういう発想です。信義則の考え方を、判決の効力にまで高めたもの、と位置づけられています。
図:争点効と冒頭事案の板
- 冒頭のAB事案に当てはめると=Aの明渡請求訴訟で真剣に争われた所有権の帰属という争点
- 争点効を認めれば後訴でBは所有権を争えなくなる
- しかし判例はこの発想を認めていない
冒頭の事案では、所有権の帰属こそ、前訴で真剣に争われた主要な争点でした。争点効を認めれば、その判断に拘束力を持たせて、Bさんの後訴を封じることができます。ただし、これから見るとおり、判例はこの発想を認めていません。
図:昭和44年判決の事案の板
- 2つの訴訟が並行して係属していた事案
- 別件=Aが買主として売買契約の履行を理由に建物の明渡し等を求めた訴訟・先に確定
- 本件=Bが売主として詐欺による取消しを理由に所有権に基づく移転登記の抹消を求めた訴訟・上告審係属中に別件が確定
- 前訴確定後に後訴を起こした事案ではないという留保
判例を見ます。この事件は、注意が必要な事案です。前の裁判が確定してから、後で別の裁判が起こされた、という単純な形ではありません。2つの訴訟が同時に進んでいました。1つは、買主のAさんが、売買契約の履行として建物の明渡しなどを求めた別件の訴訟です。もう1つは、売主のBさんが、だまされて契約したとして、詐欺による取消しを理由に、所有権に基づく登記の抹消をAさんに求めた本件の訴訟です。本件が上告審まで争われている途中で、別件の判決が先に確定しました。別件の確定判決は、その理由の中で、売買契約が有効だという判断を示していました。別件で勝ったAさんは、その確定判決があるのだから、Bさんは本件でもう契約の有効性や所有権の帰属を争えないはずだ、と主張しました。
判例最判昭和44・6・24 判時569号48頁〈百選84〉
別件の確定判決の理由中の判断が本件に及ぶかが争われた事件(争点効) 右確定判決は、その理由において…右売買契約が有効であること…を確認していても、訴訟物である…請求権の有無について既判力を有するにすぎず、本件建物の所有権の存否について、既判力およびこれに類似する効力(いわゆる争点効…)を有するものではない。
最高裁は、争点効という考え方をはっきり認めませんでした。確定判決の理由の中でどれだけ実質的な判断が示されていても、それは訴訟物についての既判力を生むだけで、訴訟物以外の事項について、既判力に類似する効力まで持つものではない、と述べています。なぜ認めないのか。114条1項は、既判力を主文に限ると、条文で線を引いています。どの争点を真剣に争ったかは、後から振り返らないと測れません。その曖昧な基準で線を広げてしまうと、当事者は前訴の時点で、どこまで争えば縛られるのかを予測できなくなります。この判決は続けて、所有権について既判力が欲しければ、所有権確認の訴えを起こして、そこで既判力を持つ確定判決を得ることができる、とも述べています。理由中の判断に既判力が欲しいなら、争点効という解釈に頼るのではなく、訴訟物そのものを増やして正面から審理してもらうべきだ、という考え方が一貫しています。
図:信義則遮断の位置づけの板
- 争点効=前訴で争った争点に拘束力を及ぼす学説・判例は否定
- 信義則遮断=前訴で争っていない部分にも拘束力に似た効果を及ぼした判例の実例
- 両方とも訴訟物=既判力という原則の外側にある例外的な処理
ここでもう一つ、別の道具を見ます。争点効は、前訴で実際に争った争点に拘束力を及ぼそうとする発想でした。これとは違い、前訴で争っていない部分にまで、後訴を封じる効果を及ぼした判例があります。信義則による遮断です。
図:昭和51年判決の事案の板
- 前訴=売買契約(実質は土地返還の和解)に基づく移転登記請求で棄却確定
- 本訴=同じ買収処分の無効を理由とする抹消に代わる移転登記請求・訴訟物は異なる
- A=原告側(前訴はAだけ・本訴はAを含む相続人ら)
- B=登記名義人・被告
Aさんが、Bさんを相手に、売買契約に基づく移転登記を求める訴えを起こし、棄却されて確定していました。その後、Aさんは、同じ土地について、戦後の農地改革で国が農地を強制的に買い上げた処分、つまり買収処分が無効だったことを理由に、登記の抹消に代わる移転登記を求める訴えを起こしました。訴訟物は前訴と本訴とで違います。前訴は売買契約に基づく請求権、本訴は買収処分の無効に基づく請求権です。
判例最判昭和51・9・30 民集30巻8号799頁〈百選79〉
買収処分の無効を理由とする後訴が信義則で退けられた事件(信義則による遮断) 本訴は、実質的には、前訴のむし返しというべきものであり、前訴において本訴の請求をすることに支障もなかつたのにかかわらず、さらに上告人らが本訴を提起することは、本訴提起時にすでに右買収処分後約二〇年も経過しており…地位を不当に長く不安定な状態におくことになることを考慮するときは、信義則に照らして許されないものと解するのが相当である。
訴訟物が違うので、既判力そのものは及びません。それでも最高裁は、3つの事情を挙げて、Aさんの本訴を退けました。1つめは、本訴が実質的に前訴の蒸し返しだということ。2つめは、Aさんが前訴の段階で本訴の請求もできたのに、それをしなかったこと。3つめは、買収処分から約20年も経ち、Bさんの地位をこれ以上不安定な状態に置くべきではないこと。この3つを重ねて、信義則に照らして許されない、と結論づけました。原審は訴えを却下していて、最高裁もその結論を是認しました。既判力という正面の道具ではなく、訴訟上の信義則という一般条項を使って、後訴そのものを封じた、という点が、争点効とはっきり違います。
図:争点効と信義則遮断の違いの板
- 争点効=前訴で争った争点に既判力に類する効力を及ぼす学説・判例は否定
- 信義則遮断=前訴で争っていない部分も含めて蒸し返しと評価される後訴を信義則で封じる判例の実例
- 共通点=どちらも114条1項の原則の外側で拘束力を広げようとする試み
争点効は、前訴で実際に争った争点に、既判力に似た拘束力を及ぼそうとする学説でした。判例はこれを認めていません。信義則による遮断は、前訴で争ってすらいない請求について、後訴を起こすこと自体が蒸し返しだと評価して、訴えを封じた判例の実例です。争う対象も、封じ方の理屈も違います。共通しているのは、どちらも114条1項が定めた「訴訟物にしか既判力は生じない」という原則の外側で、何とか拘束力を広げようとしている、という点です。既判力という正規の道具を使わずに、信義則という一般条項で個別に処理してしまってよいのか、という批判が根強くあります。信義則は要件が抽象的なので、どんな場合に後訴が封じられるのか、事前に予測しにくくなるという懸念です。
限定承認と既判力に準ずる効力
図:限定承認の一部認容判決の受けの板
- 以前見た限定承認の一部認容判決=被告が限定承認の抗弁を認められ「相続財産の限度で支払え」との判決が確定
- 今日の論点=その後、原告が基準時前の法定単純承認事由を主張して無限定の給付を求める後訴を起こせるか
最後に、限定承認をめぐる応用を見ます。以前、被告が限定承認の抗弁を認められ、「相続財産の限度で支払え」という一部認容判決が確定する場面を扱いました。今日はその続きです。判決確定後、原告が、実は被告に相続財産を隠した事実があった、つまり法定単純承認にあたる事由があったと主張して、限度を付けない無限定の給付を求める後訴を起こせるでしょうか。前訴で訴訟物になっていたのは、相続債務の支払いを求める請求権のほうですか。だとすると、限定承認があったこと自体は、理由中の判断に見えます。原則どおりなら、理由中の判断には既判力が生じないので、後訴で法定単純承認の事実を持ち出して争えそうに見えます。ここで判例がどう判断したかを見ます。
判例最判昭和49・4・26 民集28巻3号503頁〈百選85〉
限定承認の存在・効力についての前訴の判断に既判力に準ずる効力を認めた事件 限定承認の存在及び効力についての前訴の判断に関しては、既判力に準ずる効力があると考えるべきである。
最高裁は、前訴の訴訟物は給付請求権の存在とその範囲だとしながらも、限定承認の存在と効力についての前訴の判断には、既判力に準ずる効力がある、として、後訴での法定単純承認の主張を認めませんでした。
図:既判力に準ずる効力を認めた2つの理由の板
- 理由1=限定承認の結論が主文に現れる
- 理由2=基準時前の事情は後から持ち出せない=当時の民訴法の請求異議の規定〈今の民執法35条2項〉の趣旨
決め手は主文です。明渡しの判決の主文には、所有権はどこにも出てきません。ところが限定承認が認められると、主文そのものに「相続財産の限度で」と書き込まれます。限定承認の存否は訴訟物に準ずるものとして審理され、その結論が主文に姿を現している。だから既判力に準ずる効力を認めてよい、というのが判決の理由です。判決はさらに、確定判決に対する異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る、という当時の民事訴訟法の規定の趣旨も重ねています。今でいえば、前回見た請求異議の訴えの条文、民事執行法35条2項にあたる規定です。相続財産を隠したという事実は、前訴の口頭弁論が終わるより前の事情です。判決前に返していたのに言い忘れた弁済が蒸し返せないのと同じで、後から持ち出すことはできない、という筋です。
以前見た限定承認のカードとは矛盾していません。以前見たのは、同じ判決のうち、一部認容判決の主文をどう書くか、という部分でした。今日引いたのは、同じ判決の別の判示部分、既判力に準ずる効力という部分です。同じ判決が、2つの異なる場面でそれぞれ参照される、というだけのことです。
図:学説の批判の板
- 批判=法定単純承認にあたる事由は相続人=被告側の事情
- 基準時前の事由だとしても前訴で原告に主張・立証を期待するのは酷という批判
この判例にも、学説からの批判があります。法定単純承認にあたる事由、たとえば相続財産の隠匿は、被告である相続人の側の事情です。基準時より前に起きていた事由だとしても、それを前訴で原告に主張し立証しろというのは酷ではないか、という批判です。そうした批判があることも押さえたうえで、判例の立場としては、既判力に準ずる効力を認めて、後訴で蒸し返すことを封じている、という結論を覚えておいてください。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図の板
- ①114条1項=既判力は主文=訴訟物にしか生じない
- ②判決理由中の判断には既判力が生じない・自衛策は訴えの併合・中間確認の訴え
- ③唯一の明文例外=相殺の抗弁・対抗した額の限度で既判力
- ④争点効は学説が提唱・判例は否定/信義則による遮断は判例の実例
- ⑤限定承認の存在・効力には既判力に準ずる効力
今日の5つの軸をつなげます。既判力は、原則として判決の主文、つまり訴訟物についての判断にしか生じません。判決理由中の判断には既判力が生じませんが、これは当事者が攻撃防御をどこに集中させるかの自由と、裁判所が審理順序を選ぶ自由を守るための立法政策です。この原則には、相殺の抗弁というただ一つの明文の例外があり、対抗した額の限度で既判力が生じます。この原則を解釈で広げようとしたのが争点効という学説ですが、判例はこれを認めていません。ただし、信義則という別の道具で、蒸し返しにあたる後訴を封じた実例はあります。そして限定承認の場面では、既判力に準ずる効力という形で、理由中の判断にも似た拘束力が認められています。
図:冒頭事案の解決の板
- 所有権の帰属=理由中の判断だからBは後訴で争い直せる
- Aがそれを避けたければ所有権確認の訴えを併合しておくべきだった
冒頭のAさんとBさんの事案も、これで説明がつきました。所有権の帰属は理由中の判断だから、Bさんは後訴で争い直せる。もしAさんがそれを避けたければ、所有権確認の訴えを併合しておくべきだった、ということですね。既判力がどこに生じるかを知っていれば、事前にどう手を打てばよかったかまで見えてきます。
参照条文
- 民事訴訟法114条1項
- 民事訴訟法114条2項