民訴ゼロから民事訴訟法 論文

当事者の確定と氏名冒用訴訟の書き方(前編)

元従業員が事業主の名前を無断で使って請負代金を請求した訴訟と、留守を預かる弟が被告本人と名乗って請求を認めてしまった訴訟を素材に、訴状の名前と実際に動いた人がずれたとき当事者はだれか、冒用が訴訟の途中で分かったときと判決の確定後に分かったときに名前を使われた人がどう扱われ、何で救われるかを、当事者の確定・係属中の処理・判決の効力と救済の順に検討し、答案の形にまとめます。

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ゼロから民事訴訟法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

事件1:名義人のA・冒用者のB・相手方のC社 図:事件1:名義人のA・冒用者のB・相手方のC社

事件を2つ見ます。どちらも、訴状に書かれた名前と、実際に訴訟を動かした人がずれています。まず事件1です。登場するのは、内装工事を営む個人事業主のA、Aの元従業員のB、飲食店の運営会社のC社です。AはC社の店舗の内装工事を請け負って、引き渡しました。請負代金は280万円です。支払期日を過ぎても、C社は払っていません。上の図のとおり、Bが、Aの名前を使って、C社に対して280万円の支払を求める訴えを起こしました。ところが、AはBに、訴えの提起も訴訟行為も頼んでいません。図でAからBへ引いた線は、授権していない、という意味です。授権とは、訴えを起こすことや訴訟でする行為を、本人が相手に任せることです。以下、名前を使われたAを名義人、名前を勝手に使ったBを冒用者と呼びます。C社は、訴えられている相手方です。

時系列:事件1(提訴まで) 図:時系列:事件1(提訴まで)

事件1の流れを順に追います。Bは、Aのもとを辞めた元従業員です。そのBが、Aに無断で、裁判所に訴状を出しました。訴状の原告欄に書かれているのは、Aの氏名と、Aの事務所の住所です。請求の趣旨は、C社に280万円の支払を求めること。請求の原因は、AとC社の請負契約です。書類を受け取る場所は、Bの自宅と届け出ています。第1回口頭弁論期日には、Bが原告のAとして出頭して、請求の原因を述べました。

時系列:事件1(判明後) 図:時系列:事件1(判明後)

提訴から4か月ほどたった頃、C社の担当者が、和解の相談のためにAの事務所へ電話をかけました。そこで、Aが訴えの提起をまったく知らないことが分かりました。口頭弁論は終結しておらず、次の期日は4週間ほどあとです。ここから、場合を分けます。変形1アは、Aが、これまでの手続を認めて、自分の訴えとして続けると裁判所に述べた場合です。変形1イは、Aが、頼んだ覚えはなく、C社とは別に話をつけると述べた場合です。そして変形1ウは、もし誰も気づかないまま審理が進んだ場合です。Bが完成を示す書類を出せず、請求は棄却され、判決書はBの届け出た場所へ送られ、控訴されないまま確定します。控訴は、第一審の判決に不服がある当事者が、上の裁判所に判断を求める手続です。決められた期間に控訴がなければ、判決は確定します。確定とは、もう通常の不服申立てでは争えなくなることです。Aが知るのは、確定から2か月ほどあとです。代金を催促したAに、C社が、その請求は判決で棄却されて確定した、と返してきて、初めて分かります。

事件2:原告のD社・名義人のE・冒用者のF 図:事件2:原告のD社・名義人のE・冒用者のF

事件2です。米穀卸売の原告のD社は、個人で小料理店を営むEに、3か月にわたって毎月32万円分の米を納めました。合計で96万円です。ところが、Eは1か月目の32万円を、支払期日より前に払い済みで、領収書もEが持っています。D社は、それを帳簿に反映しないまま、96万円の全額を請求して、Eを被告として提訴しました。訴状の被告欄は、Eの氏名、住所はEの店です。このとき、Eは療養のため、遠方の実家にいて、店を弟のFに任せていました。訴状は、Fが、E本人として受け取りました。Fは答弁書を出しません。第1回口頭弁論期日に、被告のEと名乗って出頭して、請求の原因の事実をすべて認める、と述べました。Eが1か月目の分を払い済みであることは、主張されませんでした。提訴から4か月ほどで、裁判所は、96万円の全額を認める判決を言い渡しました。被告欄はEです。判決書は、Eの店を任されていたFが受け取り、控訴されないまま確定しました。確定から1か月半ほどあと、Eが店に戻ると、D社の申立てで、E名義の預金が差し押さえられたという通知が届いていました。Eは、訴えも判決も、そこで初めて知りました。

時系列:事件2(提訴まで) 図:時系列:事件2(提訴まで)

事件2の日付は、上の表と次の表にまとめています。

時系列:事件2(判決から) 図:時系列:事件2(判決から)

Eが知らないうちに、訴状の受取り、期日への出頭、判決の確定まで、すべて進んでいます。

事実の整理:事件1 図:事実の整理:事件1

記号で整理します。事件1の事実アは、Aの代金債権です。事実イは、Bが、Aに無断で、Aの名で訴状を出したこと。原告欄はAの氏名とAの事務所の住所で、書類の受取場所はBの自宅です。事実ウは、Bが原告のAとして出頭したこと。事実エは、C社の電話でAが知ったこと。事実オは、AがBに授権していないことです。

事実の整理:事件1の変形 図:事実の整理:事件1の変形

変形も記号で整理します。変形1アは追認です。追認とは、授権を欠く者がした行為を、あとから認めることで、ここでは、Aが、これまでの手続を認めて、自分の訴えとして続けると述べた場合です。変形1イは追認しない場合、変形1ウは、気づかないまま請求棄却の判決が確定した場合です。変形1エは、変形1ウの続きで、Aが知ったのが確定のあとだったことです。

事実の整理:事件2 図:事実の整理:事件2

事件2です。事実カは、D社の請求と、Eの払い済みの1か月目の分です。事実キは、被告欄がEで、Eが療養中で店をFに任せていたこと。事実クは、FがE本人として訴状を受け取り、請求の原因の事実をすべて認めたこと。事実ケは、全額を認める判決が確定したこと。事実コは、Eが知ったのが確定のあとだったことです。

この事例で問うこと 図:この事例で問うこと

問うのは、事件ごとにまとめると2つです。1つめは事件1で、問いはさらに3点に分かれます。事件1では、Bが原告のAとして動いています。原告はAなのか、Bなのか。訴訟の途中で冒用が分かったとき、裁判所と相手方のC社は何ができるのか。もし確定してから分かったら、Aに判決の効力は及ぶのか。2つめは事件2で、確定した判決はEに及ぶのか、及ぶなら、Eは何で救われるのか、です。

条文と検討の順番

検討の順番 図:検討の順番

検討の順番は2つです。1つめは、当事者はだれか。2つめは、氏名冒用のとき、名義人はどう扱われ、どう救われるか。2つめは、手続の途中で分かった場合と、判決の確定後に分かった場合に分けます。この順番にする理由は、訴状の名前と実際に動いた人がずれているとき、先に、だれが当事者かが決まらないと、そのあとの効力も救い方も決まらないからです。冒用の事件は、当事者が名義人だと決まったところから、その人を巻き込んだ手続をどう扱うかが問題になります。先に、条文を開きます。

条文民事訴訟法134条

民事訴訟法134条(訴え提起の方式) 1 訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。 2 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。 一 当事者及び法定代理人 二 請求の趣旨及び原因

134条です。訴状には、当事者及び法定代理人と、請求の趣旨及び原因を書かなければなりません。つまり、条文は、当事者を訴状に書かせています。ただし、条文が書いているのは、ここまでです。訴状に書かれた名前と、実際に動いた人がずれたときに、だれを当事者とするかは、書いていません。ここは解釈で立てることになります。

では、条文に書いてあることと、解釈で立てることは、どう分けるのでしょうか。条文を読めばそのまま出てくる内容は、成立要件です。条文番号を添えて書けば足ります。条文に書いていない基準を、判例や解釈で立てるものが、規範です。このノートで条文どおりなのは、134条と、あとで開く34条2項、115条1項、312条2項4号、338条1項3号です。規範は3つです。当事者の確定の基準。氏名冒用が手続の途中で分かったときの処理。そして、判決の効力と名義人の救済です。

第1 当事者の確定

当事者はだれか 図:当事者はだれか

第1に入る前に、前提を1つ確かめます。当事者かどうかは、実体法上の権利を持っているかではなく、訴状の形式で決めます。理由はこうです。本当に権利者かどうかは、審理を終えて初めて分かります。それを当事者になる入口の条件にすると、審理を始める前に、審理の結論が要ることになります。入口と中身が堂々巡りになるので、当事者は、権利の有無ではなく、形式で決める必要があります。

では、問題に入ります。事件1の訴状には、原告として、Aが書かれています。ところが、実際に出頭して主張しているのはBです。どちらが原告でしょうか。

動いたのはBですから、Bが原告になるようにも見えます。このように、実際に訴訟を追行した者を当事者とする見方を、行動説といいます。しかし、だれが動いたかは、審理が進まないと分かりません。行動説は、そこで行き詰まります。理由は、あとで整理します。条文は、訴状に当事者を書かせますが、ずれたときの基準は書いていません。そこで、基準を立てる必要があります。

規範と答案の型|当事者の確定の基準 図:規範と答案の型|当事者の確定の基準

規範は、通説で立てます。答案でも、通説で立てると書きます。

当事者は、訴状の当事者欄の記載を中心に、請求の趣旨及び原因も含めて、訴状に現れた表示を合理的に解釈して確定する。

これが実質的表示説です。理由は3つあります。1つめは、明確性です。基準が訴状という書面なので、外から確認できます。2つめは、迅速性です。訴状の審査、書類を送る先、管轄の判断は、訴えの提起の直後にします。その前提となる当事者が、その時点で決められます。3つめは、妥当性です。当事者欄だけでなく、請求の趣旨と原因まで合理的に読むので、たとえば、当事者欄に単純な誤記があっても、ほかの記載から読み替えて救えます。

たとえるなら、受取票です。受取欄に書かれた名前の人が、受け取ったことになる、というのに近い考え方です。受取欄の名前は、書面に現れた表示です。受け取りに来た人の顔つきや振る舞いで決めるのではなく、書面に書かれた表示から、だれが受取人かを決めます。ただし、表示を機械的に読むのではなく、全体を合理的に読んで決める点が、実質的表示説の実質的、という部分です。

対比:実質的表示説と行動説 図:対比:実質的表示説と行動説

対立する見方を1つだけ見ます。行動説です。実際に訴訟を追行した者を当事者とする見方です。答案では採りません。理由は2つです。1つめは、実際の追行は、審理が進まないと分からず、訴えの提起の時点で、当事者が決まらないからです。2つめは、訴状の提出や期日への出頭は、代理人、事務員、家族もできるので、当事者として動いた、という線が引けないからです。

採らない理由は、この2つです。ここからは、理由の続きではなく、どちらの見方を採るかで結論がどう変わるかの確認です。上の表の3行目にあたります。行動説に立つと、事件1も事件2も、当事者は冒用者です。判決の効力は、原則として当事者に及びます。効力が及ぶとは、その判決の結論に縛られて、あとから争い直せなくなることです。名義人は当事者でないので、判決の効力を受けないことになり、名前を使われた人が、手続の外に置かれたままになります。実質的表示説なら、名義人が当事者です。名義人は、当事者として手続に巻き込まれます。基準の選び方が、名前を使われた人の扱いを左右します。このノートは実質的表示説で立てるので、当事者が名義人だと決まったところから、その人を巻き込んだ手続をどう扱うかが、第2の問題になります。

あてはめ:事件1の原告はだれか 図:あてはめ:事件1の原告はだれか

あてはめます。事件1です。原告欄は、Aの氏名とAの事務所の住所です。請求の原因は、AとC社の請負契約です。請求の趣旨は、C社に280万円の支払を求めるもので、この債権はAのものとして書かれています。すべて、Aを指しています。Bは、訴状のどこにも、原告として書かれていません。したがって、原告はAです。

あてはめ:事件2の被告はだれか 図:あてはめ:事件2の被告はだれか

事件2です。被告欄はEの氏名、住所はEの店、請求の原因はD社とEの売買です。すべて、Eを指しています。Fは、訴状のどこにも、被告として書かれていません。FがE本人として訴状を受け取り、被告のEと名乗って出頭しても、訴状に現れた表示は変わりません。したがって、被告はEです。結論です。事件1の原告はA、事件2の被告はEです。実際に動いたBとFは、当事者ではありません。

第2-1 氏名冒用:訴訟の係属中に判明したとき

係属中に分かったとき 図:係属中に分かったとき

第2に入ります。まず、事件1で、訴訟の途中で冒用が分かった場合です。当事者はAです。ところが、AはBに、訴えの提起も訴訟行為も頼んでいません。口頭弁論の終結前に冒用が分かったとき、裁判所と相手方のC社は、何ができるのでしょうか。手がかりになる条文があります。34条2項です。

条文民事訴訟法34条2項

民事訴訟法34条2項(訴訟能力等を欠く場合の措置等) 2 訴訟能力、法定代理権又は訴訟行為をするのに必要な授権を欠く者がした訴訟行為は、これらを有するに至った当事者又は法定代理人の追認により、行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。

34条2項です。訴訟行為をするのに必要な授権を欠く者がした訴訟行為は、あとから、当事者が追認すれば、行為の時にさかのぼって有効になります。追認とは、授権を欠く者がした行為を、あとから認めることです。この条文が想定しているのは、たとえば、代理人が授権なしに訴訟行為をした場合です。冒用者は、名義人から授権を受けていない点で、授権を欠く者の訴訟行為と同じ形をしています。だから、この条文を使えそうです。ただし、冒用者の行為は、条文が直接定めている場合ではありません。そこで、答案では、類推して使うと書きます。

規範と答案の型|氏名冒用が係属中に判明したときの処理 図:規範と答案の型|氏名冒用が係属中に判明したときの処理

規範は、これも通説で立てます。

冒用者の訴訟行為は、名義人の授権を欠く者の訴訟行為と同視できる。したがって、冒用者を手続から外し、名義人に、訴訟を続けるか否かの機会を与える。名義人が追認すれば、34条2項の類推により、冒用者の訴訟行為は、行為の時にさかのぼって有効となる。追認しなければ、訴えを却下する。相手方は、訴えの却下を求めることができる。

冒用者を外して、名義人に続けるかどうかを選ばせるのは、なぜでしょうか。名義人は当事者ですが、訴えを起こす意思は、そもそもありません。その名義人の知らないところで手続を進めると、判決の効力が名義人に及んでしまいます。だから、まず冒用者を外して、名義人に、この訴訟を自分のものとして続けるか、やめるかを選ぶ機会を与えます。

追認を認める意味もあります。名義人が、これまでの手続を認めるなら、すでに積み重なった主張や証拠をやり直さずに済みます。追認が行為の時にさかのぼるのは、そのためです。逆に、追認しないなら、Bがした訴えの提起は、授権を欠く者の行為として、無効のままです。訴えを起こすかどうかは、当事者本人が決めることです。ところが、当事者のAは、訴えを起こしてもいないし、あとから認めてもいません。有効な訴えの提起が無いので、裁判所は、請求の中身を判断せずに、訴えを退けます。これが却下です。そして、相手方のC社は、名義人の意思に基づかない訴えにつきあわされるので、却下を求めることができます。

分かれ道:冒用者を外したあと 図:分かれ道:冒用者を外したあと

図で整理します。まず、冒用者のBを手続から外し、名義人のAに機会を与えます。Aが追認すれば、これまでの手続は行為の時にさかのぼって有効になり、訴訟は続きます。Aが追認しなければ、訴えは却下されます。

あてはめ:事件1の係属中 図:あてはめ:事件1の係属中

あてはめます。事実ウとエから、冒用が分かったのは、口頭弁論の終結前です。事実オで、AはBに、訴えの提起も訴訟行為も頼んでいません。Bの訴訟行為は、授権を欠く者の訴訟行為と同視できます。裁判所は、Bを手続から外して、Aに、続けるかどうかの機会を与えます。変形1アです。Aは、これまでの手続を認めて、自分の訴えとして続けると述べました。これは追認です。34条2項の類推により、Bの訴え提起と、期日での主張は、行為の時にさかのぼって有効になります。変形1イです。Aは、頼んだ覚えはなく、C社とは別に話をつけると述べて、追認しませんでした。この訴えは、Aの意思に基づかないので、却下されます。C社は、訴えの却下を求めることができます。結論です。Aが追認すれば、訴えは有効に続きます。追認しなければ、訴えは却下されます。

一言だけ補います。冒用者自身が、本当の権利者だと言う場合があります。その場合は、名義人を冒用者に取り換える話になり、任意的当事者変更の問題になりえます。ここは、別の問題です。任意的当事者変更は、当事者を別の人に取り換えることで、後編のノートで扱います。

第2-2 氏名冒用:判決の確定後に判明したとき

確定後に分かったとき 図:確定後に分かったとき

次は、判決が確定してから冒用が分かった場合です。事件2のEで考えます。判決が確定していると、先ほどの、追認か却下か、という処理は使えません。名義人に判決の効力は及ぶのか。及ぶなら、名義人は何で救われるのか。ここが問題です。名義人のEは、この訴訟に一度も出頭していません。それでも、判決の効力は、Eに及ぶのでしょうか?手続に一度も関わっていない人に判決が及ぶのは、おかしく見えます。しかし、第1の結論を思い出してください。被告はEです。判決は、当事者に及ぶのが原則です。それを定めた条文を開きます。

条文民事訴訟法115条1項

民事訴訟法115条1項(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲) 1 確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。 一 当事者 二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人 三 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人 四 前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者

115条1項です。確定判決は、1号の当事者に対して、効力を有します。ここで使うのは、1号だけです。当事者は、被告欄に書かれたEです。判決はEに言い渡されて確定しているので、効力はEに及びます。Eは、96万円を支払え、という判決の結論に縛られます。

救済の道:再審と上訴 図:救済の道:再審と上訴

では、Eは、このまま従うしかないのでしょうか。救いの道は、上の図のとおり、確定前の上訴(控訴・上告)と、確定後の再審です。このうち、条文を開くのは2つです。1つは再審、もう1つは上告です。再審は、確定した判決の取消しと、審理のやり直しを求める手続です。上告は、原則として、控訴審の判決に不服があるときに、さらに上の裁判所に判断を求める手続です。

条文民事訴訟法338条1項

民事訴訟法338条1項(再審の事由) 1 次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。 三 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。

338条1項です。確定した終局判決に対しては、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができます。事由の1つが、3号の、法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたことです。ただし書きがあります。当事者が、控訴や上告で、その事由を主張したとき、または、これを知りながら主張しなかったときは、再審の訴えはできません。ここでは、控訴と上告をまとめて、上訴と呼びます。上訴で主張できたのに、使わなかった人は、救わない、という趣旨です。

条文民事訴訟法312条2項

民事訴訟法312条2項(上告の理由) 2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。 四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。

312条2項です。上告は、4号の、授権を欠いたことを理由とするときも、することができます。ただし書きで、34条2項の追認があったときは、この理由は使えません。確定前の救いが、上訴です。確定後の救いが、再審です。次に、判例を見ます。大審院の判決です。

判例大判昭和一〇・一〇・二八 民集14巻1785頁

大審院判決(被告名義を冒用された株金払込請求の事件・要旨) 要旨:株式の払込みを求められて敗訴した者らが、後に再審を求めた事件。前の訴訟では、第三者が、被告ら名義の委任状を偽造して訴訟代理人を選任し、被告ら名義で訴訟をさせていた。大審院は、裁判所もこれに気づかないまま被告らに対して判決を言い渡したときは、被告らが当事者となり、判決の効力は冒用者に及ばず被告らに及ぶとした。そのうえで、被告らは、判決の確定前は上訴により、確定後は再審の訴えにより、取消しを求めることができるとした(当時の再審事由は現行338条1項3号にあたる)。

これは要旨です。判決の言葉そのままではありません。事案は、被告側の名前の冒用です。名前を使われた人たちに対して、第三者が、偽造した委任状で訴訟代理人を選び、その人たちの名で訴訟をさせていました。原告側の冒用の事案ではありません。大審院は、裁判所が気づかないまま、名前を使われた人たちに判決を言い渡したときは、その人たちが当事者になり、判決の効力はその人たちに及ぶとしました。そして、確定前は上訴、確定後は再審の訴えで、取消しを求められるとしました。当時の再審事由は、現行の338条1項3号にあたります。

判決はだれに言い渡されたか 図:判決はだれに言い渡されたか

注意があります。この判決は、前置きとして、こうも述べています。冒用者自身の行為として訴訟がされ、判決も冒用者に言い渡されたときは、効力は冒用者に及ぶ、というものです。上の図のとおり、判決が冒用者に言い渡されたときは、効力は冒用者に及び、名義人に言い渡されたときは、効力は名義人に及ぶ、という分け方です。つまり、当事者は常に名義人、と言い切ってはいません。ただ、答案で使う基準は、第1で立てた実質的表示説のままです。このノートの2つの事件は、訴状の表示も、判決が言い渡された相手も、名義人です。だから、当事者は名義人、という第1の結論は動きません。

もう1点です。この判決の事案は、偽造した委任状で代理人を選んだ事件なので、338条1項3号の、代理人が授権を欠いた、という文言に、直接あたります。事件1や事件2では、冒用者が自分で出頭していて、代理人は登場しません。だから、この文言に、直接は当たりません。けれども、名義人から授権を受けていない点は、同じ形です。そこで、冒用者が自分で出頭した型は、授権を欠いた場合に準じて扱う、と書きます。

規範と答案の型|氏名冒用の判決の効力と救済 図:規範と答案の型|氏名冒用の判決の効力と救済

規範は、これも通説で立てます。大審院の判決は、被告側の冒用で同じ処理を述べています。原告側への広がりは、通説の整理です。判例が原告側を判断した、とは言いません。

冒用者が名義人の名で訴訟を追行し、名義人に対して判決が言い渡されたときは、名義人が当事者であるから、判決の効力は名義人に及ぶ。もっとも、名義人は手続に関与する機会を与えられていないから、授権を欠いた場合に準じて、確定前は上訴により、確定後は再審の訴えにより、取消しを求めることができる。

効力が及ぶのに、取り消せるというのは、矛盾するようにも見えます。しかし、矛盾しません。判決の効力が及ぶのは、名義人が当事者だからです。一方、取り消せるのは、名義人が手続に関与する機会を与えられていなかったからです。巻き込まれたのに関与できなかった人に、取消しの道を用意しているのです。効力が及ぶことは、取り消さない限り、判決が有効なままということで、取り消す道がなければ、名義人が一方的に不利益を負います。だから、授権を欠いた場合に準じて、上訴と再審で救うのです。

あてはめ:事件2のEに判決の効力は及ぶか 図:あてはめ:事件2のEに判決の効力は及ぶか

あてはめます。事件2です。事実キから、被告欄はEの氏名で、住所はEの店です。第1で見たとおり、当事者はEです。事実クとケから、判決は、被告欄のEに言い渡されて、確定しています。115条1項1号により、判決の効力はEに及びます。D社が預金を差し押さえてこられたのは、Eを被告とするこの判決が確定しているからです。

次に、救いです。Eは、療養中で、訴えも期日も知りませんでした。Fに応訴を任せてもいません。授権を欠いた場合に準じます。Eが知ったのは、確定のあとです。控訴や上告で、授権を欠いたことを主張する機会はありませんでした。だから、338条1項のただし書の、主張したとき、又は知りながら主張しなかったとき、には当たりません。Eは、再審の訴えで、判決の取消しを求められます。再審で本案、つまり請求に理由があるかどうかを見直す場面では、1か月目の32万円を払い済みである、という主張ができます。

ここからは、事実を変えた仮の話です。もし確定の前に分かっていたら、どうなるでしょうか。Eは控訴できます。授権を欠いたことは、控訴でも主張できます。逆に、控訴できる間に冒用と判決を知ったのに、控訴しないまま確定させたなら、338条1項のただし書の、知りながら主張しなかったとき、に当たり、あとから再審の訴えは使えません。上告の場合は、312条2項4号の事由になります。ただし、34条2項の追認があれば、上告の理由にはなりません。

さらに、もし手続の係属中に分かっていたなら、どうなるでしょうか。事件1と違って、訴えを却下する話にはなりません。訴えそのものは、原告のD社が、自分の意思で起こしているからです。授権を欠いているのは、Fがした訴状の受取りと応訴だけです。だから、裁判所は、冒用者のFを手続から外して、Eに改めて訴状を送り、期日を指定し直します。

あてはめ:事件1の変形(確定後) 図:あてはめ:事件1の変形(確定後)

事件1の変形です。変形1ウで、Bが完成を示す書類を出せなかったため、判決は請求棄却です。Aにとっては不利な判決です。Aは当事者なので、115条1項1号により、この判決の効力を受けます。前の判決の判断に縛られるので、同じ債権について、あとから争い直して請求することはできません。ただし、AはBに授権していません。事実オと変形1エから、Aは確定まで一度も知りませんでした。授権を欠いた場合に準じて、Aは、再審の訴えで判決の取消しを求められます。

結論です。名義人に判決の効力は及びます。けれども、名義人は手続に関与する機会を与えられていなかったので、確定前は上訴、確定後は再審の訴えで救われます。判決が名義人に有利でも不利でも、効力は名義人に及びます。

対比:原告側と被告側 図:対比:原告側と被告側

原告側と被告側を並べます。名義人が当事者になる、という軸は、原告側の事件1でも、被告側の事件2でも、同じ形で働きます。表で違うのは、係属中に分かったときの行だけです。原告側は追認か却下、被告側は訴状の送り直しでした。

原告側か被告側かとは別の軸で、結論が分かれる型もあります。冒用者自身の行為として判決が冒用者に言い渡された型です。大審院の判決が述べているとおり、その場合は、効力は冒用者に及びます。表の下の注記のとおり、分かれ目は、判決が冒用者に言い渡された型かどうかです。

まとめ

完成答案:第1 当事者の確定 図:完成答案:第1 当事者の確定

第1の完成答案です。問題の所在から、規範、あてはめ、結論までを、順に並べています。図と同じ文面を、本文でも置きます。

第1 当事者の確定

1 問題の所在

 事件1の訴状の原告欄にはAが書かれているが、実際に訴訟を動かしているのはBである。同様に、事件2の被告欄にはEが書かれているが、実際に応訴しているのはFである。そこで、当事者はだれか、当事者の確定の基準が問題となる。

2 規範

 (1) 条文は訴状に当事者を書かせるが(民事訴訟法134条2項1号)、ずれたときの基準は書いていない。

 (2) 当事者は、訴状の当事者欄の記載を中心に、請求の趣旨及び原因も含めて、訴状に現れた表示を合理的に解釈して確定する(実質的表示説)。基準が書面で明確であり、訴えの提起の直後に決められ、合理的な解釈で誤記を救える。実際に訴訟を追行した者を当事者とする行動説は、追行が審理を待たないと分からず、採らない。

3 あてはめ

 事件1は、原告欄がAの氏名とAの事務所の住所、請求の原因がAとC社の請負契約で、すべてAを指す。事件2は、被告欄がEの氏名、住所がEの店、請求の原因がD社とEの売買で、すべてEを指す。

4 結論

 よって、事件1の原告はA、事件2の被告はEであり、冒用者のBとFは当事者ではない。

完成答案:第2 氏名冒用訴訟 図:完成答案:第2 氏名冒用訴訟

第2の完成答案です。手続の途中で分かったときと、判決の確定後に分かったときを、続けて並べています。まず、手続の途中で分かったときの部分です。

第2 氏名冒用訴訟

1 係属中に判明したとき

 (1) 名義人のAは、冒用者のBに訴えの提起も訴訟行為も頼んでいない。口頭弁論の終結前に冒用が分かったとき、裁判所と相手方は何ができるかが問題となる。

 (2) 冒用者の訴訟行為は、名義人の授権を欠く者の訴訟行為と同視できる。したがって、冒用者を手続から外し、名義人に訴訟を続けるか否かの機会を与える。名義人が追認すれば(民事訴訟法34条2項の類推)、冒用者の訴訟行為は行為の時にさかのぼって有効となる。追認しなければ、訴えを却下する。相手方は、訴えの却下を求めることができる(通説)。

 (3) AはBに授権しておらず、Bの訴訟行為は授権を欠く者の訴訟行為と同視できる。

 (4) よって、Aが追認すれば有効に続き、追認しなければ訴えは却下され、C社は却下を求められる。

完成答案:第2 氏名冒用訴訟(続き) 図:完成答案:第2 氏名冒用訴訟(続き)

続きは、判決の確定後に分かったときの部分です。規範の出どころと、条文番号も一緒に確認できます。

第2 氏名冒用訴訟(続き)

2 確定後に判明したとき

 (1) 判決の確定後に冒用が分かったとき、名義人に判決の効力は及ぶか、及ぶなら何で救われるかが問題となる。

 (2) 冒用者が名義人の名で訴訟を追行し、名義人に対して判決が言い渡されたときは、名義人が当事者であるから、判決の効力は名義人に及ぶ(民事訴訟法115条1項1号)。もっとも、名義人は手続に関与する機会を与えられていないから、授権を欠いた場合に準じて、確定前は上訴により、確定後は再審の訴えにより(民事訴訟法338条1項3号)、取消しを求めることができる(通説。大判昭和10・10・28参照)。

 (3) 事件2では、判決は被告欄のEに言い渡され確定しているから、効力はEに及ぶ。EはFに応訴を任せておらず、確定まで知らなかったから、控訴又は上告で授権を欠いたことを主張する機会がなく、民事訴訟法338条1項ただし書にも当たらない。事件1の変形でも、請求棄却の判決はAに及ぶ。AもBに授権しておらず、確定まで知らなかったから、同様である。

 (4) よって、EもAも、再審の訴えで取消しを求められる。

表示の訂正と任意的当事者変更は、後編のノートで扱います。

参照条文

  • 民事訴訟法134条
  • 民事訴訟法34条2項
  • 民事訴訟法115条1項
  • 民事訴訟法338条1項
  • 民事訴訟法312条2項

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