権限濫用の禁止
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第1章 行政法の基礎 ⑮/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
要件は満たしたのに
図:隣に急いで申請した図書室
- 山あいの町
- A=町の担当
- B=駅前に貸しホールの開業を計画する人
- C=県
- 周りの住民が反対
- 条例で、図書館その他の施設の近くでは貸しホールの営業許可を出さない
- Aは予定地の隣の町有の空き家を急いで図書室として認可を申請する
- Cが異例の早さで認可
- Bの営業許可は出せなくなった
- 図書室を作る必要も急ぎの事情もほとんど無い
- 申請は図書室の要件を全部満たしている
山あいの町で、Bが、駅前に貸しホールを開く計画を立てました。町の条例では、図書館などの施設の近くでは、貸しホールの営業許可を出さないと決まっています。周りの住民は、開業に反対しています。町の担当のAは、条例を直している時間が無いと考えました。そこで、Bの予定地の隣にある町有の空き家を、急いで図書室として認可を申請します。県は、この申請を、異例の早さで認可しました。町に、図書室を作る必要は、ほとんどありません。急ぎの事情も、ありません。ただ、申請の中身は、図書室の要件を、全部満たしています。その結果、Bの貸しホールには、営業許可が出せなくなりました。
今日の1問は、これです。要件を満たした認可は、それでも違法になるのか。要件を満たしていれば適法、と考えるのが自然です。ただ、法律に反していない行為でも違法になりうる、というのは、適正手続の回で見たとおり、一般原則という第二の物差しの働きでした。前の回の信義則に続いて、今日は、権利濫用の禁止です。使い道が、制度の趣旨とずれていたらどうなるか。これが分かれ目になります。ただし、そう簡単には認められない、という点も、最後に確かめます。
権利濫用の原則と2つの向き
図:権利濫用と2つの向き
- 民法の権利濫用=権利はあるが通らない
- 行政上の法律関係にも及ぶ〔争いは無い〕
- 私人の側=申請権の濫用・開示請求権の濫用
- 行政の側=権限濫用〔行政権の濫用とも言う〕
- 問われるのは、権利や権限の使い道が許されるか
民法の権利濫用を思い出します。民法の回では、権利はある、それでも通らない、という場面を見ました。条文は、民法1条3項です。
条文民法1条3項
民法第1条第3項 権利の濫用は、これを許さない。
短い条文ですが、働きは大きいです。権利を持っていても、その使い方が許されないときは、行使の効果が認められません。民法の回の判断は、利益の釣り合いなど、客観的な事情が主役でした。害意のような主観は、あとから加わる要素です。民法の条文ですよね。行政にも使えるのですか。使えます。信義則と同じで、権利濫用の禁止は、法の一般原則だからです。民法の規定のうち、こうした一般原則は、行政上の法律関係にも適用されることに、異論はありません。行政の場面では、この原則が問題になる向きは、2つあります。1つは、私人の側です。私人が持つ請求の権利が、濫用だと言われる場合です。もう1つは、行政の側です。行政が持つ権限が、濫用だと言われる場合です。行政の側の濫用は、権限濫用とも、行政権の濫用とも言います。
民法の、権利はあるが通らない、を、行政の権限に置き換えます。権限はある。それでも、その使い方では通らない。導入の図書室の話は、この行政の側の問題です。先に、私人の側から見ます。
私人の側の濫用
図:繰り返し・大量の請求
- 山あいの町
- A=町の担当
- B=毎日同じ文書の開示を請求する人
- D=一度に数万点もの文書の開示を請求する人
- 開示請求は理由を問わず誰でもできる制度
- だからこそ、繰り返しや大量の請求が権利の濫用か、が問題になる
私人の側には、2つの例があります。1つ目は、申請権の濫用です。許可を求める申請という形で出される行為が、権利の濫用にあたる場合を、あらかじめ想定した規定を置く個別法があります。ここでは、個別法がそうした規定を置くことがある、という点だけ押さえてください。2つ目は、情報公開の開示請求です。役所が持っている文書を見せてほしい、と求める権利です。この権利は、請求の目的を問わず、誰でも使えます。理由を言う必要がありません。制度としては、そのとおりです。ただ、だからこそ、使い方が問題になります。たとえば、同じ請求者が、毎日、同じ文書の開示を求めたとします。あるいは、一度に数万点もの文書の開示を求めたとします。役所は、その処理に追われて、ほかの仕事ができなくなります。
境目のペアで考えます。ある文書について、前の請求から内容が変わって、新しい事情が出たので、改めて請求した場合は、どうでしょう。事情が変わっているのですから、繰り返しには当たらないと思います。正当な請求です。決め手は、回数ではありません。同じ内容を、理由もなく繰り返し求めて、役所の事務を妨げることだけが目的になっているかどうかです。毎日同じ文書を求める人は、その意味で、濫用に近づきます。規定の有無を整理します。地方公共団体の情報公開条例には、濫用の禁止や、適正に権利を使う責務を定めるものがあります。国の情報公開法には、濫用的な請求に直接対応する規定は、ありません。大量の請求については、期限の特例を置く条文があります。板に出します。個別法なので、暗記は要りません。
図:情報公開法11条
- 開示決定等の期限の特例
- (開示請求に係る行政文書が著しく大量であるため、開示請求があった日から六十日以内にそのすべてについて開示決定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合には、前条の規定にかかわらず、行政機関の長は、開示請求に係る行政文書のうちの相当の部分につき当該期間内に開示決定等をし、残りの行政文書については相当の期間内に開示決定等をすれば足りる。この場合において、行政機関の長は、同条第一項に規定する期間内に、開示請求者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。/一 本条を適用する旨及びその理由/二 残りの行政文書について開示決定等をする期限/→期限を分ける規定にとどまる〔濫用を理由に請求を断る規定ではない〕)
骨格は1つです。請求が著しく大量で、期限内に全部を処理すると事務に著しい支障が出るおそれがあるとき、相当の部分を先に決定し、残りは相当の期間内でよい、というものです。つまり、期限を分ける規定にとどまります。濫用を理由に請求を断る、という規定ではありません。規定が無くても、断る道はあると考えられています。明文が無くても、法の一般原則としての権利濫用の禁止は及ぶ、と考えられています。適正手続の回で見た、明文に書かれていなくても働く第二の物差し、と同じ形です。開示請求の手続そのものは、後の回で扱います。
行政の側の濫用
図:余目町事件の流れ
- 営業を計画した業者に住民の反対運動
- 当時の法律は、児童福祉施設から一定の距離の内側では個室付浴場の営業を禁止
- 町は県・県警察本部と協議し、その示唆を受ける
- 予定地から約134.5メートルの町立の児童遊園について、業者の営業の規制を主たる動機として児童福祉施設の設置認可を申請
- 県知事は経緯を知りつつ認可〔営業許可の51日前〕
- 業者は営業を始め、営業停止処分
- 国賠と刑事の2つの裁判に
導入の図書室は、架空の話でした。実際に最高裁まで行った事件があります。余目町の事件で、個室付浴場、つまり、当時の営業類型の1つを開く業者をめぐる争いです。流れを見ます。業者が、営業を計画すると、住民の反対運動が起きました。当時の法律は、児童福祉施設の近くでは、個室付浴場の営業を禁止していました。子どもが通う施設の周りに、そうした店を置かないための規制です。児童福祉施設から、一定の距離の内側が対象で、どこでも禁止されるわけではありません。町は、県や県警察本部と協議して、その示唆を受けます。そして、業者の予定地から、約134.5メートルの場所にある町立の児童遊園について、児童福祉施設としての設置認可を申請しました。申請の主たる動機は、業者の営業を規制することでした。県知事は、その経緯を知りながら、認可しました。営業許可が出る51日前です。
導入の話は、この事件を自前の場面に置き換えたものです。ただ、先に注意があります。この判決は、営業の良し悪しを言う判決ではありません。個室付浴場の営業を認めるべきか、という立法政策とは、別の問題です。ここで、1つ止まって考えます。児童遊園の認可は、児童福祉法の要件を、全部満たしていました。それでも違法になるとすれば、何が理由でしょうか?動機は大事な手がかりですが、それだけでは決まりません。まず、児童遊園の認可は、本来、何のための制度なのかを見ます。条文を板に出します。
条文児童福祉法40条
児童福祉法第40条 児童厚生施設は、児童遊園、児童館等児童に健全な遊びを与えて、その健康を増進し、又は情操をゆたかにすることを目的とする施設とする。
児童遊園は、子どもに健全な遊びを与えて、健康と情操を育てる施設です。これが、この制度の趣旨です。認可の申請も、認可も、この趣旨に沿ってされるべきものです。趣旨に沿っていなかったのが、この事件です。判断の流れを板で見ます。
図:違法と判断された理由の流れ
- ①児童遊園の認可には制度の趣旨がある〔子どもの健康と情操〕=申請も認可もその趣旨に沿うべき
- ②町は業者の営業の規制を主たる動機として申請
- ③営業の規制以外に、児童遊園を無認可から認可施設に整える必要性・緊急性は見当たらない
- ④県知事は経緯を知りつつ認可/→制度の趣旨に反し、行政権の濫用に相当する違法性
4つの段です。1つ目、認可には制度の趣旨がある。2つ目、町は、業者の営業の規制を主たる動機として、申請した。3つ目、営業の規制以外に、児童遊園を無認可から認可施設に整える必要性も、緊急性も、見当たらない。4つ目、県知事は、その経緯を知りながら認可した。ここまでそろうと、制度の趣旨に反する認可だと言えます。大事なのは、判決が、主たる動機と、必要性、緊急性が無いことを、セットで見ている点です。害意だけで決めているのではありません。民法の権利濫用で、客観が主役、主観は加重、と見たことと響き合います。ただ、行政法では、どんな目的や動機で権限を使ったかという、主観的な目的が、前面に出てきます。導入の図書室に、事実を1つずつ当てます。図書室は、子どもの読書のための施設という趣旨があります。担当のAは、貸しホールの規制を主たる動機として申請しました。規制以外に、図書室を急いで作る必要は、ありません。県は、その経緯を知って認可しました。4つとも、そろっています。
図書室を作る本当の理由が別にあるなら、規制が主たる動機とは言いにくく、規制以外の必要性もあります。判決の4つの段がそろわないので、この型の濫用には当たりにくいです。分かれ目は、規制のほかに、図書室を作る本当の理由があるかどうかです。入場券に例えます。半券が揃っているかを数えるのが、要件の検査です。でも、半券を揃えたこと自体が、特定の人を入れないための工作だったなら、半券の枚数を数えても、答えになりません。使い道の検査が、別に要ります。要件を満たした認可は、一連の経緯や動機から切り離して見れば、違法ではありません。むしろ、拒否できないとも考えられます。この認可は、施設が法律の決めた要件を満たすかを確かめる仕組みで、満たした申請を、知事が自分の判断で断る幅は、ほとんど無いとも考えられるからです。形式的には違法でないとき、一般原則の出番になります。
同じ事件の2つの判決
図:2つの判決の比べ方
- 国賠の判決=事件:業者が県に損害賠償を求めた
- 判断:認可は行政権の著しい濫用によるものとして違法・認可とそれを前提にした営業停止処分による損害に相当因果関係がある
- 結果:上告棄却〔賠償を認めた原審が確定〕
- 刑事の判決=事件:営業した業者の刑事事件
- 判断:認可は行政権の濫用に相当する違法性があり営業を規制する効力が無い→児童福祉施設の存在の証明を欠く
- 結果:原判決・一審判決を破棄して無罪〔破棄自判〕
- 時系列は国賠が先・刑事が後
この事件では、最高裁の判決が、2つあります。同じ事件の別の判決で、取り違えやすいところです。板で並べます。1つ目は、国家賠償、略して国賠の判決です。業者が県に、損害の賠償を求めた事件です。そして、2つ目は、刑事の判決です。営業を行った業者の、刑事事件です。時系列は、国賠のほうが先で、刑事のほうが後です。刑事の判決は、国賠の判決がすでに確定していることを、自分で言及しています。国賠の判決の結論を、カードで見ます。
判例最判昭53・5・26 民集32巻3号689頁
国賠の判決 本件児童遊園設置認可処分は行政権の著しい濫用によるものとして違法であり、かつ、右認可処分とこれを前提としてされた本件営業停止処分によつて被上告人が被つた損害との間には相当因果関係があると解するのが相当であるから、被上告人の本訴損害賠償請求はこれを認容すべきである。
認可は、行政権の著しい濫用によるものとして違法です。そして、認可と、それを前提とした営業停止処分による損害との間に、相当因果関係があります。相当因果関係とは、その原因から、その損害が生じるのが普通だと言える、つながりのことです。だから、賠償の請求が認められます。結果は、上告棄却です。県の不服が退けられ、賠償を認めた原審、つまり1つ前の裁判所の判断が、確定しました。決め手は、認可の違法が、営業停止処分につながる原因になっていた点です。次に、刑事の判決です。
判例最判昭53・6・16 刑集32巻4号605頁
刑事の判決 本来、児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操をゆたかにすることを目的とする施設(児童福祉法四〇条参照)なのであるから、児童遊園設置の認可申請、同認可処分もその趣旨に沿つてなされるべきものであつて、 ……(略)……本件認可処分は、行政権の濫用に相当する違法性があり、 ……(略)……これを規制しうる効力を有しないといわざるをえない
認可は、制度の趣旨に沿ってされるべきなのに、行政権の濫用に相当する違法性がある。そのため、営業を規制する効力を持たない、と言います。業者が問われたのは、児童福祉施設の近くで営業した、という罪でした。認可に規制する効力が無ければ、法律の上では、近くに児童福祉施設があった、と言えません。罪の条件の証明が欠けるので、業者は、無罪になりました。原判決と一審判決が破棄され、最高裁が自分で無罪を言い渡しました。言い方が違う点にも注意してください。国賠は、行政権の著しい濫用です。刑事は、行政権の濫用に相当する違法性です。どちらも、行政権の濫用による違法、という中身は同じで、言葉は、それぞれの判決の原文のままです。だから、どちらの判決が何を言ったのか、板の2列で、事件、判断、結果の3行を、取り違えないようにしてください。
刑事の判決には、もう1つの論点があります。違法な行政処分の効力と、刑事訴訟の関係です。取り消されるまで有効、という考え方と、今日の無罪の結論がどうつながるか、という問題で、後の回で扱います。今日は、違法な認可が、営業を規制する効力を持たないと判断された、という点まで押さえてください。
行政権の濫用と裁量権の濫用
図:2つの濫用の比べ方
- 行政権の濫用=対象:裁量が無い処分にも認められうる
- 認められる頻度:例外的で判例上は稀
- 裁量権の濫用=対象:裁量のある処分
- 「裁量権の逸脱又は濫用」の形で判例上は逸脱と明確に区別されていない
- 認められる頻度:稀ではない
- 余目町の認可は要件を満たせば拒否できないとも考えられる=裁量が乏しいと考えられる処分で濫用が問題になった
- 行政権の濫用の例として説明されることが多い一方、裁量権の濫用の例とみる整理もある
似た言葉に、裁量権の濫用があります。行政権の濫用とは、同じではありません。板で比べます。裁量とは、前の回でも触れた、法律が役所に認めた判断の幅のことです。行政権の濫用は、裁量が無い処分でも、認められうるものです。ただし、認められるのは例外的で、判例上は稀です。裁量権の濫用は、裁量のある処分で、裁量権の逸脱又は濫用という形で問題になります。逸脱とは、その判断の幅の外に出ることです。判例上、濫用は、この逸脱と明確に区別されておらず、認められる例は、稀ではありません。前の回の在留期間の更新の不許可は、裁量のある処分で、裁量権の逸脱濫用とされた例でした。
児童遊園の認可は、さきほど見たとおり、要件を満たせば拒否できないとも考えられる処分です。知事に、断るかどうかを選ぶ幅、つまり裁量が、乏しいと考えられます。それでも、主たる動機と、必要性の欠如から、濫用が問題になりました。だから、行政権の濫用の例として説明されることが多い一方、裁量権の濫用の例とみる整理もあります。裁量権の逸脱や濫用の審査は、後の回で扱います。ここでは、分けて押さえてください。
条例で新しい規制をかけたとき
図:水源保護条例の事案
- 町の水道水源を守る条例
- A=町長
- B=産廃処理施設の設置を計画する事業者
- C=県
- Bが県の窓口に計画を出し許可の手続を進める
- Aは計画を知り、水源保護条例を制定してBの予定地を含む区域を水源保護地域に指定
- 条例は事前協議と住民説明会を義務づけ、町長が審議会の意見を聴いて規制対象事業場に認定
- 認定されると設置は禁止〔違反は罰則つき〕
- 県の設置許可があっても建てられない
- Aは認定→原審は適法→最高裁は破棄差戻し
もう1つ、よく似た場面があります。既存の仕組みを本来と違う目的で使ったのではなく、新しい条例を作って規制した場合です。この場合は、行政権の濫用とは異なる、と整理されています。行政権の濫用は、すでにある権限を、その趣旨と違う目的に使うことでした。事案です。産業廃棄物の中間処理施設を建てようとした事業者が、県の窓口に計画を出して、許可の手続を進めていました。計画を知った町は、水道水源の保護条例を作ります。そして、事業者の予定地を含む区域を、水源保護地域に指定しました。条例の仕組みは、こうです。対象事業を行う者は、町長と事前に協議をして、住民への説明会を開く。町長は、審議会の意見を聴いて、その事業を規制対象事業場に認定するかを決める。認定されると、その地域では施設の設置が禁止され、違反には罰則があります。県の設置許可を受けていても、建てられません。町長は、事業者の施設を、規制対象事業場に認定しました。原審は適法としましたが、最高裁は、その判断を破棄して、審理をやり直させるために差し戻しました。
水源を守ること自体は、問題にされていません。判決は、条例そのものの違法も、言っていません。見たのは、認定の手続の中で、町長が何をすべきだったか、です。3つの段で見ます。
図:判決の3つの段
- ①協議の手続は、条例の中で重要な地位を占める〔認定が事業者の権利に重大な制限を課すため〕
- ②事業者は条例制定前にすでに許可申請の手続を進めており、町長はそれを知っていた+水源保護と施設設置の必要性を調和させる措置を検討する機会があった
- ③町長は、事業者と十分な協議を尽くし、適切な指導をし、事業者の地位を不当に害しないよう配慮する義務があった→義務に違反した認定は違法
1つ目、協議の手続は、条例の中で重要な地位を占めます。認定が、事業者の権利に重大な制限を課すからです。2つ目、事業者は、条例ができる前から、許可申請の手続を進めていました。町長はそれを知っていて、調和させる機会もありました。この点を、カードで確認します。
判例最判平16・12・24 民集58巻9号2536頁
条例制定前の手続 被上告人は,上告人が本件条例制定の前に既に産業廃棄物処理施設設置許可の申請に係る手続を進めていたことを了知しており,また,同手続を通じて本件施設の設置の必要性と水源の保護の必要性とを調和させるために町としてどのような措置を執るべきかを検討する機会を与えられていたということができる。
町長は、事業者が許可の手続を進めていたことを知っていました。しかも、水源の保護と施設の必要性を、どう調和させるかを検討する機会もありました。前の回で見た、役所を信じて動いた人と、似た場面です。そのうえで、3つ目の結論です。
判例最判平16・12・24 民集58巻9号2536頁
配慮義務 被上告人としては,上告人に対して本件処分をするに当たっては,本件条例の定める上記手続において,上記のような上告人の立場を踏まえて,上告人と十分な協議を尽くし,上告人に対して地下水使用量の限定を促すなどして予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし,上告人の地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務があったものというべきであって,本件処分がそのような義務に違反してされたものである場合には,本件処分は違法となるといわざるを得ない。
骨格は、3つです。事業者と十分な協議を尽くすこと。取水量を適正なものに改めるよう、適切に指導すること。事業者の地位を不当に害しないよう、配慮すること。この義務に違反して認定をしたなら、認定は違法になります。原審は、この観点を審理していなかったので、審理不尽、つまり、調べるべき点を調べ尽くしていない、とされました。判決は、配慮義務に違反した認定は違法、という組み立てで、濫用の語は使っていません。信義則や、権利濫用の言葉を、この判決に重ねてはいけません。条例そのものの法律適合性は、後の回で扱います。
余目町の事件のような、主観的な意図は、見られないのですか。そこは区別されます。条例を作ることは、一般に、行政権の濫用とは考えられない作用です。しかもこの事件は、特定の事業者を狙い撃ちにしたというより、同種の施設を広く規制しようとした事案だ、と整理されることもあります。余目町の事件では、主たる動機が前面に出ましたが、この判決では、手続の中の配慮が決め手になりました。
最後の手段
図:最後の手段
- 順番=①まず個別法の仕組みから違法と言えないかを検討
- ②届かないときだけ、一般原則〔権限濫用・信義則など〕
- 安易に持ち出すと法律による行政を崩すおそれ〔法律の優位〕
- 判例上、認められたのは稀
- 余目町は、要件を満たす形を行政機関が巧妙につくった特殊な事案
まとめの前に、問いを1つ。民法の回を、思い出してください。そこで見た一般条項は、先に使う道具でしょうか、最後に使う道具でしょうか?最後の道具でした。まず、個別の条文を探して、それで足りないときに開ける引き出しです。行政権の濫用も同じです。まず、個別法の仕組みから、違法と言えないかを検討します。届かないときに、いわば最後の手段として、一般原則を使います。適正手続の回で見た、まず法令の要件と効果、次に一般原則、という順序と同じです。この順序を守るのは、安易に持ち出すと、法律による行政を崩すおそれがあるからです。法律による行政の回で見たとおり、行政は、法律に基づき、法律に従って動くのが原則です。要件を満たした行為を、抽象的な原則で簡単に違法にできるなら、法律が引いた線が、意味を失います。判例上、認められたのは稀です。余目町の事件は、法律の要件はそろえつつ、特定の営業ができない状況を、役所の側が意図して作り出した、特別な事案です。応用できる場面は、少ないと考えておいてください。
今日のまとめ
図:今日のまとめ
- 私人の側=申請権・開示請求権の濫用
- 行政の側=余目町事件:趣旨に反し、主たる動機+必要性・緊急性なし+知りつつ認可→行政権の濫用に相当する違法
- 国賠=損害賠償を認める・刑事=規制効力なしで無罪
- 行政権の濫用と裁量権の濫用は別物
- 条例による新規制=協議の中で事業者の地位を不当に害しない配慮義務
- 最後の手段=まず個別法・次に一般原則
- 一般原則は法令に反しない活動を違法にしうる強力な武器だが、要件は比較的厳格
導入の図書室に戻ります。担当のAは、貸しホールを規制することを主たる動機として、図書室の認可を申請しました。規制以外に、必要性も緊急性もありません。県は、その経緯を知って認可しました。趣旨に反するので、行政権の濫用で違法になる可能性があります。ただし、要件を満たす形をつくった特殊な事例で、実際に認められるのは稀です。要件を満たしていても違法になるけれど、簡単には認められない、ということですね。条文だけを見れば違法とは言えない行政の行為でも、一般原則を持ち出して違法と判断できる場合がある、ということです。私人にとって、強力な武器です。ただ、内容が抽象的で、微妙な判断になるため、判例も、要件を比較的厳格に見ています。
結論と理由を組にして押さえておけば足ります。一般原則の顔ぶれは、まだ残っています。次は、やりすぎを止める物差しを見ていきます。
参照条文
- 民法1条3項
- 児童福祉法40条