比例原則
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第1章 行政法の基礎 ⑯/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
少しはみ出しただけなのに
図:はみ出した屋台と営業許可の取消し
- A=市
- B=駅前の歩道で屋台を出す店主
- Bの屋台が歩道に約20センチはみ出していた
- 違反は違反
- 根拠の法律は違反があれば営業許可を取り消せると定める
- Aは是正を求めず営業許可そのものを取り消した
- 取消しの要件は満たしている
- 軽い手段=是正命令・指導も使えた
駅前の歩道で屋台を出しているBがいます。ある日、屋台が歩道に、約20センチはみ出していることが分かりました。歩道に物を置いてはいけない決まりがあるので、違反は違反です。屋台の営業許可の根拠になる法律は、違反があれば、許可を取り消せると定めています。市のAは、はみ出しを直すように求めることもなく、いきなり営業許可そのものを取り消しました。取消しができる要件は、満たしています。今日の1問は、これです。権限があって、要件も満たしているのに、その使い方が重すぎるという理由で、違法になるのか。先に答えを言うと、違法になりえます。
気持ちの問題にしないために、物差しがあります。前の回の権限濫用は、権限を使う目的や動機がゆがんでいないか、を見ました。今日の物差しは、動機は正当でも、手段が目的に比べて重すぎないか、を見ます。権限の使い方の量を測る物差しで、名前を比例原則と言います。この回の終わりには、4つの問いで当てはめる型と、懲戒処分が重すぎると主張する方法まで、持ち帰れるようにします。
比例原則とは
図:比例原則の定義と由来
- 比例原則=行政目的を達成するのに必要な範囲でだけ行政権限を用いることができる
- 由来=警察比例の原則:①必要性の原則=そもそも権限を使う必要がある場面でなければならない
- ②過剰規制の禁止=必要がある場面でも手段の大きさが目的に見合っていなければならない
- ここでの警察=社会の安全や秩序を守るための行政活動のすべて〔歩道での屋台の取締りのように道路の使い方を規制する場面も含む〕
- 組織としての警察に限らない
- 明文の表れ=警察官職務執行法1条2項
定義から入ります。比例原則とは、行政が権限を使うとき、行政の目的を達成するのに必要な範囲でだけ、使うことが許される、という原則です。ハエを叩くのに、金づちは要りません。ハエを退治するという目的は正当でも、金づちを振るえば壁に穴があきます。目的が正しくても、手段が重すぎれば許されない。これが比例原則の骨格です。由来は、警察比例の原則と呼ばれるものです。2つの内容があります。1つ目は、必要性の原則です。そもそも権限を使う必要がある場面でなければ、権限を使えません。2つ目は、過剰規制の禁止です。必要がある場面でも、手段の大きさが目的に見合っていなければなりません。
屋台で考えます。歩道のはみ出しを直させる必要は、確かにあります。1つ目の必要性は、そこで満たされます。けれど、直させる手段が営業許可の全面取消しなら、20センチのはみ出しに対して、手段が大きすぎます。必要はあるのに、相応していない。これが2つ目の、過剰規制の禁止にあたる場面です。ここでいう警察は、組織の名前ではありません。社会の安全や秩序を守るための行政活動のすべてを指します。歩道での屋台の取締りのように、道路の使い方を規制する場面も含まれます。組織としての警察に限らない、という点が、短答で問われます。明文の表れもあります。警察官職務執行法の1条2項です。個別法なので、暗記は要りません。条文を板に出します。
条文警察官職務執行法1条2項
警察官職務執行法第1条第2項 この法律に規定する手段は、前項の目的のため必要な最小の限度において用いるべきものであつて、いやしくもその濫用にわたるようなことがあつてはならない。
骨格は、法律に規定した手段は、目的のために必要な最小の限度で用いるべきで、濫用にわたってはならない、というものです。警察の権限は、人の身体や自由に直接かかわるので、この考え方がはっきり条文に書かれました。この条文は、1つの表れです。一般原則としての根拠は、憲法13条に求める見解があります。人の自由を尊重する憲法の考え方から、必要以上の制限は許されない、と導くものです。憲法13条の中身は憲法の回で扱ったので、ここでは、根拠に挙げられることがある、という点を押さえてください。
当てはめの4つの問い
図:当てはめの4つの問い
- 目的は何か→その手段は目的に役立つか〔適合性〕→もっと軽い手段は無いか〔必要性〕→得られる利益と失われる利益は釣り合うか〔均衡性〕
- 前の3つ=手段が目的に見合うか
- 最後の1つ=利益のバランス
- 屋台:目的=歩道の通行確保→取消しは役立つ→是正命令・指導という軽い手段がある→20センチのはみ出しと営業の全部を失うことは釣り合わない
定義だけでは、答案にも事例にも使えません。比例原則は、4つの問いを順に当てて使います。1つ目、行政の目的は何か。2つ目、その手段は、目的の達成に役立つか。3つ目、もっと軽い手段は無いか。4つ目、得られる利益と失われる利益は、釣り合っているか。2つ目を適合性、3つ目を必要性、4つ目を均衡性と呼びます。憲法の回で、ドイツ型の審査として紹介した、適合性、必要性、均衡性と、同じ3つの物差しです。刑事訴訟法の任意捜査では、必要性に見合った相当なものか、という形で出てきました。同じ考え方が、科目ごとに、少しずつ形を変えて現れています。前の3つは、手段が目的に見合うかを見ます。最後の1つは、手段で得られる利益と、手段で失われる利益のバランスを見ます。分けて覚えると、混ざりません。1つ注意します。由来で見た必要性の原則と、3つ目の必要性は、同じ言葉でも、問いが違います。必要性の原則は、そもそも権限を使う必要があるか。3つ目の必要性は、もっと軽い手段で足りないか。屋台なら、はみ出しを直させる必要はある、が前者で、取消しまでは要らない、が後者です。屋台を当てはめます。1つ目、目的は、歩道の通行を確保することです。2つ目、営業許可を取り消せば、屋台は歩道から消えます。目的に役立ちます。3つ目、是正命令や、はみ出しを直す指導という、軽い手段があります。これで十分に目的を達成できる以上、全面取消しは必要とは言えません。4つ目、得られる利益は20センチ分の通行の確保で、失われる利益は店主の営業のすべてです。釣り合っていません。
事情が変われば結論も変わります。屋台が歩道を半分ふさいで、何度命じても動かさない、という場合は、軽い手段では目的を達成できないので、重い手段が必要になる余地が出てきます。分かれ目は、軽い手段で足りるかどうかです。ここで、1つ確認します。屋台の取消しを軽くするとしたら、4つの問いのどこで引っかかるでしょうか?3つ目のもっと軽い手段、だと思います。是正命令や指導で足りるのに、取消しにしたので、必要性が無いことになります。軽い手段の存在を示せることが、重すぎるという主張の中心になります。
権力的な作用全般に及ぶ
図:比例原則の広がりと裁量
- 当初=警察作用
- 今=事実行為を含む権力的な作用全般・人の権利自由へのあらゆる制限に妥当
- 目的と手段のバランスを要請する原則
- 法令の文言が選択肢の1つとして認めていても比例原則に反すれば違法
- 何が比例するかは一義的に明確でない→行政に裁量→社会観念上著しく妥当を欠くとき裁量の逸脱・濫用として違法
比例原則は、もともと警察作用の原則でした。今は、警察作用に限りません。事実行為、つまり命令のように義務を課すのではなく、職員が実際に屋台を運び出すように、行政が実際に手を動かす行為も含めて、権力的な作用全般、つまり人の権利や自由を制限するあらゆる場面に、妥当すると考えられています。目的と手段のバランスを求める原則として、行政法の全体に広がりました。法令の文言が、その手段を選択肢の1つとして認めていても、比例原則に反すれば、違法になります。導入の屋台の取消しは、まさにこの形です。文言どおりだから適法、とは言えません。
重すぎるかどうかを裁判所が自分で決めることには、少し慎重です。何が比例するのかは、一義的に明確ではありません。そこで、行政には判断の幅、つまり裁量が認められます。その幅の中なら、違法にはなりません。社会の常識から見て、著しく妥当を欠くとき、つまり社会観念上著しく妥当を欠くとき、はじめて裁量の逸脱や濫用として、違法になります。この審査の詳しい形は、後の回で扱います。
懲戒処分での使われ方
図:懲戒処分の4種類と判断のしくみ
- 地方公務員法29条1項=処分の種類を並べるだけ:戒告→減給→停職→免職
- どの処分を選ぶかの基準は書かれていない
- →選び方は一般原則で統制される
- 懲戒権者は諸般の事情を考慮して処分を選ぶ裁量を有する
- 社会観念上著しく妥当を欠くと違法
比例原則の考え方が、実際の判決にどう現れるかを見ます。公務員の懲戒処分です。その前に、前の回の内容を1つ思い出します。要件を満たしていても権限濫用になるのは、どんなときだったでしょうか?前の回の答えは、権限を制度の趣旨と違う目的で使ったとき、つまり動機がゆがんでいるときでした。今日は、動機ではなく、処分の重さが問題です。条文を板に出します。個別法なので暗記は要りません。
条文地方公務員法29条1項
地方公務員法第29条第1項 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。 一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれらに基づく条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合 二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合 三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
骨格は、1つです。戒告、減給、停職、免職の4種類を並べているだけで、どれを選ぶかの基準は、書いていません。号の列挙は、懲戒事由が3つあることを示すだけなので、読み飛ばして構いません。基準が書かれていない以上、文言だけを見れば、免職を選んでも違法とは言えないように見えます。ただ、文言が選択肢を認めていても、比例原則に反する選び方は違法になる。これが、先ほど見たとおりの話です。判例が、どう組み立てたかを見ます。
図:判決の3つの段
- 事案=卒業式の国歌斉唱で起立を命じる職務命令に従わなかった教員/減給処分
- ①懲戒権者の裁量の枠組み=社会観念上著しく妥当を欠くと違法
- ②戒告を超えて減給を選ぶ追加の条件=規律の必要性と不利益の権衡→相当性を基礎づける具体的な事情
- ③当てはめ=服装の戒告1回だけ→減給は違法・戒告は適法
事案です。公立学校の教員が、卒業式で国歌を斉唱するときに起立するよう命じる職務命令に、従いませんでした。教育委員会は、この教員を減給処分にしました。教員が、処分の取消しを求めた事件です。思想や良心の自由への間接的な制約が問題になる事案でもありましたが、その点は憲法の回で扱いました。この回の焦点は、処分の重さの選び方です。判決の判断は、3つの段に分かれます。1つ目は、懲戒権者の裁量の一般的な枠組み。2つ目は、戒告を超えて減給を選ぶときの追加の条件。3つ目は、この事件への当てはめです。まず1つ目、裁量の枠組みです。
判例最判平24・1・16 集民239号253頁
裁量の枠組み 懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有しており,その判断は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となるものと解される
懲戒権者は、行為の原因や動機、態度、処分歴など、諸般の事情を考えて、処分を選ぶ裁量を持ちます。ただし、社会観念上著しく妥当を欠くときは、違法です。ここまでは、裁量の一般的な枠組みです。2つ目です。判決は、戒告より重い処分を選ぶときの、追加の条件を示しました。比例原則の考え方が出てくる部分です。
判例最判平24・1・16 集民239号253頁
減給を選ぶための規範 不起立行為等に対する懲戒において戒告を超えて減給の処分を選択することが許容されるのは,過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為等の前後における態度等(以下,併せて「過去の処分歴等」という。)に鑑み,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合であることを要すると解すべきである。
判決の多数意見は、比例原則という言葉を使っていません。ただ、規律や秩序の保持の必要性と、処分による不利益の内容を、権衡、つまり釣り合いの観点で見る、という形は、比例原則の考え方に沿った判断です。そして、この規範が働くのは、戒告を超えて、減給以上を選ぶときです。戒告までは特別な条件が要らないのは、不利益の大きさが違うからです。戒告は、将来を戒める最も軽い処分で、処分それ自体が直接に給与を減らすものではありません。減給は、処分によって給与が直接に減ります。不利益が大きくなるぶん、それに見合う高い必要性を、具体的な事情で示す必要が出てきます。釣り合いの片方の皿が重くなるので、もう片方にも、重い事情を載せなければなりません。では、具体的な事情とは、どの程度のものでしょうか。判決は、続けて、例を挙げています。
判例最判平24・1・16 集民239号253頁
具体的な事情の程度 例えば過去の1回の卒業式等における不起立行為等による懲戒処分の処分歴がある場合に,これのみをもって直ちにその相当性を基礎付けるには足りず,上記の場合に比べて過去の処分歴に係る非違行為がその内容や頻度等において規律や秩序を害する程度の相応に大きいものであるなど,過去の処分歴等が減給処分による不利益の内容との権衡を勘案してもなお規律や秩序の保持等の必要性の高さを十分に基礎付けるものであることを要するというべきである。
足りない場合と、足りうる場合を、並べます。過去に1回、処分を受けた歴があるだけでは、減給を選ぶ理由として足りません。一方、過去の非違行為、つまり処分の理由になった過去の非行が、内容や頻度の点で、規律や秩序を害する程度が相応に大きければ、減給の必要性を基礎づけうる、ということです。処分歴の有無ではなく、その中身と、減給という不利益との釣り合いが、決め手になります。
図:判決の当てはめと射程
- 過去の処分歴=服装の戒告1回だけ→給与が減る減給の不利益を支える必要性は示されていない→期間・割合にかかわらず減給は違法
- 戒告=処分それ自体は直接の給与上の不利益を及ぼさない最も軽い処分→昇給・勤勉手当への影響も勘案した上で、処分歴の有無にかかわらず基本的に裁量の範囲内=適法
- 組=戒告は適法・減給は違法
- 射程=不起立に対する懲戒で戒告を超えて減給を選ぶ場面の規範・ほかの懲戒に使えるのは必要性と不利益を釣り合いで測る考え方
3つ目、この事件への当てはめです。
判例最判平24・1・16 集民239号253頁
減給は違法 過去に入学式の際の服装等に係る職務命令違反による戒告1回の処分歴があることのみを理由に同第1審原告に対する懲戒処分として減給処分を選択した都教委の判断は,減給の期間の長短及び割合の多寡にかかわらず,処分の選択が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き,上記減給処分は懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものとして違法の評価を免れないと解するのが相当である。
カードの、同第1審原告は、この教員のこと、都教委は、東京都の教育委員会のことです。この教員には、過去に、服装に関する職務命令違反で、戒告を1回受けた歴がありました。減給の理由は、その1点だけです。判決は、これだけでは、減給の相当性は基礎づけられないとして、減給を違法としました。過去の処分は、服装に関する戒告が1回だけです。規律を害する程度が大きいとは言えず、給与が実際に減るという不利益を支えるほどの必要性は、示されていません。だから、期間や割合を小さくしても、減給という種類を選んだこと自体が、重すぎたのです。
戒告は、懲戒権者の裁量の範囲内として、適法とされました。判決が挙げた理由は、3つです。1つ目は、職務命令の遵守を確保して、学校の規律と秩序を保つ必要があること。2つ目は、戒告が、規律に違反した責任を確認して、将来を戒める処分であること。3つ目は、処分それ自体は、直接の給与上の不利益を及ぼさないことです。将来の昇給や勤勉手当への影響があることも、判決は考えた上で、なお裁量の範囲内としました。これを釣り合いの皿に例えると、不利益の皿が軽いので、規律の必要性の皿と釣り合う、と見ることができます。ただし皿はあくまで理解のための比喩で、判決の言葉ではありません。だから判決は、戒告を選ぶことは、過去の処分歴の有無にかかわらず、基本的に裁量の範囲内に属する事柄だ、としました。結論は、戒告は適法、減給は違法、という組です。条文が減給を選べると書いていても、同じ不起立行為に対して、軽い処分は許され、重い処分は、具体的な事情が無いと許されない。その分かれ目が、必要性と不利益の釣り合いでした。射程も確認します。この判決が示したのは、卒業式などでの不起立に対する懲戒で、戒告を超えて減給を選ぶ場面の規範です。懲戒処分の全部について、減給以上には特別な事情が要る、と決めたわけではありません。ほかの懲戒にも使えるのは、必要性と不利益を釣り合いで測る、という考え方のほうです。
重すぎると具体的に言う方法
図:重すぎる処分を言う2本の物差し
- 設例:市の職員Aが昼休み明けに庁舎のコピー機で私用の資料を数枚コピーした→懲戒免職/非行のはしご=私用コピー数枚→備品の無断持ち出し→公金の着服/処分のはしご=戒告→減給→停職→免職
- ①もっと重い非行との釣り合い:いちばん軽い段階にいちばん重い処分
- ②ほかの処分例との比較:同種の私用コピーは戒告・減給が多数/免職だけが飛び出している
判例の規範を見たところで、今度は、重すぎると主張する側の、組み立て方を考えます。ただ、公益上の必要に比べて処分が重い、と言うだけでは、弱いことがあります。相手から、それ自体が重大な非行だ、と返されれば、水掛け論で終わるからです。設例で考えます。市の職員Aが、昼休み明けに、庁舎のコピー機で、私用の資料を数枚コピーしました。市は、これを理由に、Aを懲戒免職にしました。私用でコピー機を使えば服務規律に反する、という点は、市も反論として挙げてきます。私用コピーは、それ自体が服務規律違反だ、と。だから、重すぎると言うための物差しが、さらに要ります。2本あります。1本目は、もっと重い非行との釣り合いです。非行には、軽い段階から重い段階まで、はしごのように段があります。この設例なら、私用コピーが数枚、その上に備品の無断持ち出し、さらに上に公金の着服、という並びです。処分にも段があって、戒告、減給、停職、免職の順です。Aの非行は、非行のはしごの、いちばん下の段です。そこに、処分のはしごの、いちばん上の段を当てています。もっと重い非行にも使う免職を、最も軽い非行にも使うのは、釣り合いが取れていません。2本目は、ほかの処分例との比較です。同じ程度の非行に対して、これまで、どの処分が選ばれてきたかを見ます。この市で、同種の私用コピーは、戒告や減給が大多数だったとします。そうだとすると、Aだけが免職というのは、飛び抜けています。同じような非行は同じように扱う、という要請は、次の回で扱う平等原則とも、つながっています。処分の基準が定められているなら、その基準との関係も検討します。
違反があること自体は争わないまま、非行のはしごの最下段にあることと、過去の例では軽い処分が普通だったことを、並べて示せます。重すぎる、という抽象的な主張が、具体的な事実で支えられます。1つ、区別しておきます。最高裁が示した規範は、先ほどの、不起立に対する懲戒で減給以上を選ぶには相当性を基礎づける具体的な事情が要る、という部分です。この2本の物差しは、判例が立てた規範ではありません。重すぎるという主張を具体的にするための、整理です。答案では、両者を混ぜずに、規範と、当てはめの工夫として書き分けます。
足りなさすぎを問う余地
図:二面関係と三面関係
- A=行政
- B=規制を受ける事業者
- C=規制で守られる近隣住民
- 二面関係:A→B の規制が強すぎる=過剰規制の禁止
- 三面関係:A→C の守りが足りない=規制しない・弱すぎる
- 過小な規制の禁止として使われる余地がある〔確立した規範ではない〕
最後に、比例原則の向きを変えて見ます。ここまでの話は、行政と、規制を受ける相手方との、二面関係でした。規制が強すぎないか、という、過剰規制の禁止です。三面関係を考えます。Aは行政、Bは規制を受ける事業者、Cは、規制によって守られる近隣の住民です。Aが規制を強くしすぎれば、Bとの関係で、比例原則が問題になります。では、逆に、Aが規制をほとんどしないか、弱すぎる場合はどうでしょう。たとえば、深夜まで大音量で営業する店Bがあって、近所の住民Cが眠れない。行政Aが何の対応もしなければ、Cの側から見ると、規制が足りなさすぎる、という問題になります。
住民Cの側から比例原則を使う余地があると言われています。理由は、比例原則が、目的と手段の釣り合いを見る物差しだからです。三面関係では、規制の目的は、Cの利益を守ることそのものです。釣り合いは、手段が重すぎても崩れますが、守るべき利益に比べて手段が軽すぎても、崩れます。そこで、守るべき人の利益に対して、規制が過小になっていないか、という問いにもなります。過小な規制の禁止として使われうる、という考え方です。ただし、確立した規範とまでは言えないので、そのような余地がある、という程度に押さえてください。規制権限を使わなかったことの違法は、後の回で、国家賠償と合わせて扱います。
今日のまとめ
図:今日のまとめ
- 定義=行政目的の達成に必要な範囲でだけ権限を使える
- 由来=警察比例の原則〔必要性の原則・過剰規制の禁止〕・警察官職務執行法1条2項・憲法13条に根拠を求める見解・今は権力的な作用全般
- 4つの問い=目的→適合性→必要性〔もっと軽い手段〕→均衡性
- 懲戒=29条1項は種類を並べるだけ・不起立の事件で減給以上を選ぶには必要性と不利益の権衡から相当性を基礎づける具体的な事情が要る〔戒告は適法・減給は違法〕
- 2本の物差し=非行のはしごとの釣り合い・ほかの処分例との比較
- 三面関係=足りなさすぎを問う余地
導入の屋台に戻ります。Bの屋台は、歩道に20センチはみ出していました。市のAは、是正を求めずに、営業許可を取り消しました。目的は、歩道の通行の確保で、取消しは役に立ちます。でも、是正命令や指導という、もっと軽い手段があります。20センチの通行確保と、営業のすべてを失うことは、釣り合いません。取消しは、権限があって要件を満たしていても、重すぎるので、違法になりえます。要件を満たしていても、重すぎれば違法になる。そのとき、4つの問いで、軽い手段が無いかを探せばいい、ということですね。そして、懲戒処分は、29条1項が種類を並べるだけなので、選び方が一般原則で統制されます。判例の事件では、減給以上を選ぶには、規律の必要性と不利益の釣り合いから、相当性を基礎づける具体的な事情が要る。重すぎると主張するときは、非行のはしごとの釣り合いと、ほかの処分例との比較で、具体的に示します。
規範は判例、物差しは主張の組み立ての工夫、と分けておけば、答案が安定します。やりすぎを止める物差しは、これで1つ手に入りました。次は、同じ一般原則の仲間のうち、同じ扱いを求める物差しと、残りの原則を見ていきます。
参照条文
- 警察官職務執行法1条2項
- 地方公務員法29条1項