行政法ゼロから行政法#19

行政法規違反の契約の効力と行政上の権利

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第1章 行政法の基礎 ⑲/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

違反を盾に払わない買主

無許可の買主の設例(A=買主〔必要な許可を取らずに肉の小売を始めた〕/B=売主〔卸売〕/A→B=肉の売買/A「許可がないから無効だ。払わない」/C=行政〔許可制度・Aへの制裁〕はAとBの契約の当事者ではない) 図:無許可の買主の設例

  • A=買主〔必要な許可を取らずに肉の小売を始めた〕
  • B=売主〔卸売〕
  • A→B=肉の売買
  • A「許可がないから無効だ。払わない」
  • C=行政〔許可制度・Aへの制裁〕はAとBの契約の当事者ではない

Aさんは、必要な許可を取らないまま、肉の小売を始めました。肉は、卸売のBさんから仕入れています。ところが、代金を請求されると、Aさんは、こう言い出しました。「私は許可を取っていない。だから、この売買は、法律違反で無効だ。払わない」。違反したのは、Aさん自身ですよね。自分の違反を盾にして、払わずに済むのですか。そこが今日の入口です。ただ、同じように法律に違反していて、契約が本当に無効になる場面もあります。統制のあった時代の物資の売買や、違法な建物を建てる工事の請負、免許の名義貸しです。今日の1問です。行政法規に違反した契約は、有効か、無効か。何で分かれるのか。答えを先に言います。違法かどうかでは決まりません。決めるのは、違反した法規の趣旨と目的、それに、取引の中身です。見る点を、板に3つ出します。

無効になるかを決める3つの問い(①規定の趣旨・目的=取引の効力を否定する向きか/行為者を取り締まる向きか ②違反の程度・悪質性・当事者の関与 ③無効にする必要と、無効にして害される者) 図:無効になるかを決める3つの問い

  • ①規定の趣旨・目的=取引の効力を否定する向きか/行為者を取り締まる向きか
  • ②違反の程度・悪質性・当事者の関与
  • ③無効にする必要と、無効にして害される者

1つ目は、その規定が、取引の効力を否定する向きかどうか。2つ目は、違反の程度と悪質さ。3つ目は、無効にする必要と、無効にして困る人がいないかです。本編で、判決を通して、1つずつ確かめます。最後にもう1つ、答え合わせがあります。公権、つまり公法上の権利は譲り渡せない、と条文を離れて言い切る見方が、公法と私法の回で捨てられました。では、今は何で決めるのか。それも、判決で見ます。

制裁と契約の効力は別の層

2つの層(行政法規に違反→〔行政上の層〕罰則・監督処分・許可の取消し/〔私法上の層〕契約の効力=民法91条・90条と、違反した法規の趣旨・目的・働きを並べて決める/行政上の制裁があることだけでは契約の効力は決まらない) 図:2つの層

  • 行政法規に違反→〔行政上の層〕罰則・監督処分・許可の取消し
  • 〔私法上の層〕契約の効力=民法91条・90条と、違反した法規の趣旨・目的・働きを並べて決める
  • 行政上の制裁があることだけでは契約の効力は決まらない

まず、全体の形です。許可を取らずに営業した人には、行政上の制裁があります。罰則や、営業停止のような監督処分です。けれど、行政法規は、ふつう、そこまでしか定めていません。契約が有効か無効かという、私法上の効力は、直接は定めていないのです。たとえば、スピード違反で罰金を取られても、その日に買った中古車の売買が無効になるわけではありません。罰則は、運転した人に向いているからです。違反に制裁があることと、契約が無効になることは、別の層の話です。2つの層をつなぐのは、民法の規定です。民法の条文を、全文で読みます。

条文民法91条

民法第91条 法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。

公の秩序に関しない規定とは異なる意思なら、そのとおりに通る。裏返すと、公の秩序に関する規定に反する意思は通らず、契約は無効になります。公の秩序に関する規定が、強行規定でした。

条文民法90条

民法第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

民法で学んだことを、1文で受けます。強行規定に違反する契約は無効。取締規定、つまり、営業する人に決まりを守らせるための規定に違反しても、効くのは行政の側で、契約は有効。そして、条文が禁じていなくても、社会が許さない契約には、90条の網がかかる。以上です。今日足すのは、行政法の側です。前回は、ぶつかる規定を並べ、それぞれの趣旨と働きから、適用関係を決める物差しを持ちました。そこで残した、違反した契約の効力に、同じ物差しを当てます。違反した行政法規が、何のための、どんな働きの規定なのか。それを民法の規定と並べて、契約の効力を決めます。

⭐ 論文で書く規範:規範(判例の積み重ねから導く読み方):行政法規に違反してされた契約の効力は、民法90条・91条と、違反した行政法規の趣旨・目的・働きを並べて決める。違反に行政上の制裁があることだけでは、契約の効力は決まらない (短答・論文共通)

契約の効力を直接定めた条文も、少数ですが、あります。農地法3条6項は、許可を受けないでした行為は、その効力を生じない、と書いています。この場合は、条文のとおりです。けれど、こういう明文は多くありません。宅建業法が、その例です。免許制度、監督処分、罰則は定めていますが、免許を持たない者がした取引が有効か無効かは、書いていません。条文が語らないとき、効力は、規定の趣旨と取引の中身から決めることになります。

古典的な整理 強行規定なら無効・取締規定なら有効

2つの判決の対比(統制物資の売買=機構を通す取引だけに効力を認める→無資格者の取引は無効/無許可者の食肉の買入れ=営業許可は営業者の管理の制度→取引の効力は否定されない→有効/どちらも無資格・無許可の者が関わる売買なのに結論が逆) 図:2つの判決の対比

  • 統制物資の売買=機構を通す取引だけに効力を認める→無資格者の取引は無効
  • 無許可者の食肉の買入れ=営業許可は営業者の管理の制度→取引の効力は否定されない→有効
  • どちらも無資格・無許可の者が関わる売買なのに結論が逆

昔から使われてきた整理を、2つの判決で見ます。1つ目です。戦後の統制の時代、煮干しいわしのような物資は、決められた集荷、荷受、登録小売の機構を通して流す決まりでした。その機構を通さない、無資格者による売買が、代金をめぐって争われました。

判例最判昭30・9・30 民集9巻10号1498頁

統制物資の売買 同規則二条によつて指定された煮乾いわし等の物資については法定の除外事由その他特段の事情の存しない限り同規則三条以下所定の集荷機関、荷受機関、登録小売店舖等の機構を通ずる取引のみの効力を認め右以外の無資格者による取引の効力を認めない趣意であつて、右法令は此の意味に於ける強行法規であると解される

決め手は、法令が、取引の効力そのものを、機構の中だけに限っていると読めたことです。行為者を罰するだけの規定ではなく、取引の通り道を限る規定でした。だから、通り道の外の取引は、効力を認められず、無効です。2つ目は、冒頭のAさんの場面に近い事件です。食肉の買入れの契約で、買主は、食品衛生法の営業許可を受けていませんでした。許可がないことが、契約の効力に響くのかが問われました。条文を、板に出します。

条文食品衛生法55条1項(現行)

食品衛生法第55条第1項 前条に規定する営業を営もうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、都道府県知事の許可を受けなければならない。

骨格は、営業を営もうとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない、という許可の制度です。

判例最判昭35・3・18 民集14巻4号483頁

無許可者の食肉の買入れ 本件売買契約が食品衛生法による取締の対象に含まれるかどうかはともかくとして同法は単なる取締法規にすぎないものと解するのが相当であるから、上告人が食肉販売業の許可を受けていないとしても、右法律により本件取引の効力が否定される理由はない。

判決の言う強行法規と取締法規は、民法で学んだ強行規定と取締規定と同じものです。許可の制度は、営業者を管理するための制度で、取引を取り上げる制度ではありません。だから、許可がなくても、取引の効力は否定されません。冒頭のAさんの答えは、契約は有効。代金は、払わなければなりません。許可がなかったことは、行政上の制裁の問題として残ります。ここで1問です。どちらも、無資格や無許可の者が関わった売買です。それなのに、結論は逆でした。規定の、どこが違ったのでしょうか。先に、自分の言葉で考えてみてください。統制の法令は、取引できる通り道を限っていました。食品衛生法の許可は、営業する人を管理する制度で、取引そのものを取り上げてはいませんでした。規定が、取引の効力を限る向きか、営業者を取り締まる向きか。これが、分かれ目でした。

見分ける基準ははっきりしない 3つの問い

手順のフロー(①明文の効力規定があれば従う〔農地法3条6項〕→②明文がなくても趣旨から強行規定と読んで無効〔統制物資・均等法9条3項違反の措置〕→③取締規定にとどまるなら有効が原則〔無許可者の買入れ〕→④ただし公序良俗違反なら無効〔民法90条〕→⑤相手方との契約まで無効かは別に判断) 図:手順のフロー

ある行政法規が強行規定か取締規定かは、条文を見れば分かるのですか。分かりません。民法の強行規定の条文に、強行規定と書いていないのと同じです。条文の顔だけで見分ける基準は、はっきりしないのです。結局、個々の法令の趣旨と目的、それに、個々の取引の中身ごとに、有効か無効かを決めます。手順にします。1つ目。明文で効力を定めた規定があれば、それに従います。2つ目。明文がなくても、規定の趣旨から、強行規定と読んで、無効にする道があります。統制物資の事件がそうでした。雇用の場面では、妊娠や出産を理由とする不利益な取扱いを禁じた、雇用機会均等法9条3項を、最高裁が強行規定と読み、違反する措置は無効と判断しています。なぜ、強行規定と読めたのか。この法律の目的は、雇用の場で、男女に均等な機会と待遇を確保することです。妊娠や出産を理由に降格や解雇をしても、その措置が有効のまま残るなら、目的は果たせません。だから、違反する措置そのものを許さない規定だ、と読みました。統制物資と同じで、違反した行為の効力まで否定しないと、規定の目的が届かない向きの規定です。3つ目。取締規定にとどまるなら、契約は有効が原則です。無許可の買入れの事件がそうでした。ただし、4つ目。取締規定に違反していても、公序良俗に反するなら、民法90条で無効になります。

⭐ 論文で書く規範:規範(判例の積み重ねから導く読み方):ある法令の違反行為が無効かどうかは、その法令の趣旨・目的を踏まえ、個々の取引関係ごとに有効か無効かを判断する。取締規定に違反していても、公序良俗に反するなら無効となる (短答・論文共通)

この判断で、判決が見てきた点を束ねると、冒頭の3つの問いになります。まず、1つ目の、規定の趣旨は、ここまでの2件で見ました。残る2つ目と3つ目を、次の判決で見ます。民法で見た三枚の網とは、別のものです。網は、契約の中身が通る関門の並びでした。3つの問いは、行政法規に違反した契約が、91条や、最後の砦の90条の網にかかるかを決めるときに、判決が見る点です。

取締規定でも公序良俗違反で無効になるとき

違法建築の事案(A=注文者〔法令を守ると貸室が減る→確認申請用と実施用の別の図面を用意〕/B=請負人〔計画の詳しい説明を受け全部了承して契約・施工〕/C=行政〔建築確認・検査済証を詐取される〕/本工事=無効/追加変更工事=別評価〔違法を是正しない一部変更があるかで分かれる〕) 図:違法建築の事案

  • A=注文者〔法令を守ると貸室が減る→確認申請用と実施用の別の図面を用意〕
  • B=請負人〔計画の詳しい説明を受け全部了承して契約・施工〕
  • C=行政〔建築確認・検査済証を詐取される〕
  • 本工事=無効
  • 追加変更工事=別評価〔違法を是正しない一部変更があるかで分かれる〕

事案です。賃貸マンション2棟の建築でした。注文者は、法令どおりに建てると、貸す部屋の数が減って、採算が合わない、と考えました。そこで、建築の確認を受けるための図面と、実際に施工する図面を、別に用意します。確認と検査を通したあとで、違法な図面のとおりに施工する計画でした。工事を請け負った建築業者は、この計画の詳しい説明を受けて、全部了承したうえで、契約し、工事をしました。違反したのは、耐火構造の規制や、北側斜線制限、日影規制、容積率と建ぺい率の制限などです。どれも、建物の燃えにくさや、高さ、大きさを決める規制です。業者は、注文者に残りの代金を請求しました。裁判の途中で業者が破産し、破産した人の財産を管理して債権者に分ける管財人が、その裁判を引き継ぎました。条文を、板に出します。

条文建築基準法6条1項(抜粋)

建築基準法第6条第1項 建築主は、第一号若しくは第二号に掲げる建築物を建築しようとする場合(増築しようとする場合においては、建築物が増築後において第一号又は第二号に規定する規模のものとなる場合を含む。)、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は第三号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事又は建築副主事(以下「建築主事等」という。)の確認(建築副主事の確認にあつては、大規模建築物以外の建築物に係るものに限る。以下この項において同じ。)を受け、確認済証の交付を受けなければならない。

骨格は、建築主は、工事の前に、計画が基準に合うことについて、確認の申請をして、確認済証の交付を受けなければならない、というものです。この確認を、図面のすり替えでくぐり抜けたのが、この事件です。判決の結論は、工事ごとに2つに分かれます。もとの本工事と、途中で別に合意した追加変更工事です。まず、本工事から、判決の言葉を見ます。

判例最判平23・12・16 集民238号297頁

違法建築の請負契約 計画の悪質性 上記の計画は,確認済証や検査済証を詐取して違法建物の建築を実現するという,大胆で,極めて悪質なものといわざるを得ない。

判例最判平23・12・16 集民238号297頁

違法建築の請負契約 違法の程度 その違法の程度は決して軽微なものとはいえない。

判例最判平23・12・16 集民238号297頁

違法建築の請負契約 本工事の結論 以上の事情に照らすと,本件各建物の建築は著しく反社会性の強い行為であるといわなければならず,これを目的とする本件各契約は,公序良俗に反し,無効であるというべきである。

本工事への当てはめ(①規定の趣旨=確認と検査は建物の安全を事前に確かめる仕組み→詐取して潜脱/②違反の程度=生命・身体の安全に関わり、あとから直すことも難しい違反を含む/請負人は計画を全部知っていて従属的でもない/結論=本工事の契約は公序良俗に反し無効) 図:本工事への当てはめ

  • ①規定の趣旨=確認と検査は建物の安全を事前に確かめる仕組み→詐取して潜脱
  • ②違反の程度=生命・身体の安全に関わり、あとから直すことも難しい違反を含む/請負人は計画を全部知っていて従属的でもない/結論=本工事の契約は公序良俗に反し無効

3つの問いに順に当てはめます。まず1つ目、規定の趣旨。確認と検査は、建物の安全を事前に確かめる仕組みです。それを詐取して潜脱した。潜脱とは、制度の抜け道を作って、実質的には、その適用を免れることです。2つ目、違反の程度。生命や身体の安全に関わり、あとから直すことも難しい違反を含みます。そして、請負人は、計画を全部知っていて、従属的な立場でもありませんでした。だから、本工事の契約は、公序良俗に反し、無効です。無許可の買入れとの違いは、許可の単なる欠如ではなく、制度を潜脱する悪質さにあります。ここで1問です。同じ事件の、追加変更工事は、なぜ、無効と言い切れないのでしょうか。追加変更工事とは、工事の途中で、当局の是正の指示や近隣の苦情を受けて、別に合意した工事で、違法部分を是正する工事も含みます。判決は、こう言います。

判例最判平23・12・16 集民238号297頁

違法建築の請負契約 追加変更工事 そうでなければ,これを反社会性の強い行為という理由はないから,その施工の合意が公序良俗に反するものということはできないというべきである。

本工事と追加変更工事(本工事=図面のすり替えの計画そのもの→公序良俗に反し無効/追加変更工事=途中で別に合意した工事〔違法部分の是正も含む〕→別に評価〔違法を直さず一部変えるだけの工事があるかで分かれる〕/差戻しで無効と確定したわけではない) 図:本工事と追加変更工事

  • 本工事=図面のすり替えの計画そのもの→公序良俗に反し無効
  • 追加変更工事=途中で別に合意した工事〔違法部分の是正も含む〕→別に評価〔違法を直さず一部変えるだけの工事があるかで分かれる〕
  • 差戻しで無効と確定したわけではない

「そうでなければ」の中身を補います。追加変更工事は、図面のすり替えの計画そのものではなく、あとから別に合意した工事です。だから、基本的には、本工事の一環とはいえず、本工事の悪質さを、そのまま持ち込めません。しかも、違法な部分を直す工事は、法令に近づける工事で、制度をくぐり抜けてはいません。ただし、違法を直さずに、違法な部分を一部変えるだけの工事があれば、違法な建物づくりの続きなので、別に評価します。そうでなければ、反社会性の強い行為とは言えません。判決は、追加変更工事についての判断を誤りとし、本工事の代金と区別できないため、請負人の側が負けた部分をまとめて破棄して、差し戻しました。無効と確定したわけではありません。差し戻しとは、上の裁判所が、判断をやり直させるために、事件を前の裁判所に返すことです。同じ事件でも、工事ごとに、結論が分かれたのです。もう1件です。無免許の者が、特定の不動産取引の1件だけ、免許を持つ宅建業者の名義を借りて取引をしました。名義貸し料を渡し、残りの利益は、無免許者が受け取る合意をしていました。その合意に基づく支払をめぐる争いです。宅建業法の目的の条文と、禁止の条文を、板に出します。

条文宅地建物取引業法1条

宅地建物取引業法第1条 この法律は、宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うことにより、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もつて購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目的とする。

条文宅地建物取引業法12条1項

宅地建物取引業法第12条第1項 第三条第一項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営んではならない。

条文宅地建物取引業法13条1項

宅地建物取引業法第13条第1項 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に宅地建物取引業を営ませてはならない。

骨格は、免許制度で、業務の適正と取引の公正を確保する。免許のない者は営んではならず、業者は名義を貸してはならない、というものです。

名義貸しの事案(A=無免許者/B=宅建業者〔名義を貸す〕/取引先=Bの名義で取引/A→B=名義貸し料/Aが残りの利益を受け取る合意/名義を借りる合意と利益を分配する合意は一体/行政の免許制度を潜脱) 図:名義貸しの事案

  • A=無免許者
  • B=宅建業者〔名義を貸す〕
  • 取引先=Bの名義で取引
  • A→B=名義貸し料
  • Aが残りの利益を受け取る合意
  • 名義を借りる合意と利益を分配する合意は一体
  • 行政の免許制度を潜脱

判例最判令3・6・29 民集75巻7号3340頁

名義貸しと免許制度の目的 同法が宅地建物取引業を営む者について上記のような免許制度を採用しているのは,その者の業務の適正な運営と宅地建物取引の公正とを確保するとともに,宅地建物取引業の健全な発達を促進し,これにより購入者等の利益の保護等を図ることを目的とするものと解される(同法1条参照)。

判例最判令3・6・29 民集75巻7号3340頁

名義貸しは免許制度を潜脱する 宅建業者が無免許者にその名義を貸し,無免許者が当該名義を用いて宅地建物取引業を営む行為は,同法12条1項及び13条1項に違反し,同法の採用する免許制度を潜脱するものであって,反社会性の強いものというべきである。

判例最判令3・6・29 民集75巻7号3340頁

利益分配の合意 無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者からその名義を借り,当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は,同法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして,公序良俗に反し,無効であるというべきである。

決め手は、名義貸しが、免許制度そのものを潜脱するところです。名義を借りる合意と、利益を分ける合意は、一体のものとして、制度の趣旨に反する、と見ました。結論の細部に注意してください。この判決は、本件の合意が無効だ、と確定したのではありません。本件の合意が、そうした計画の一環としてされたもので、条文の趣旨に反する疑いがある、として、その点を審理しなかった原審を破棄し、差し戻しました。境界のペアで考えます。無許可の者が肉を買う。これは、許可の単なる欠如で、制度を潜脱してはいません。一方、名義貸しは、免許制度の仕組みをくぐり抜けるために、他人の名義を使います。同じ無免許や無許可でも、潜脱の度合いと悪質さで、取締規定違反が、公序良俗違反になるかが分かれます。違法かどうかではなく、規定の趣旨と目的、それに取引の中身で決まる。冒頭で先に言った答えが、ここで確かめられました。

相手方との契約まで無効にするか

委任契約と和解契約(A=依頼者〔のちに破産〕/B=認定司法書士〔扱える額を超える140万円超の過払金の和解を代理〕/C=貸金業者/A–B=委任契約〔民法90条に照らし無効〕/B→C=裁判外の和解契約〔委任契約とは別に判断〕/無効にする必要は?/無効にすると害される者は?) 図:委任契約と和解契約

  • A=依頼者〔のちに破産〕
  • B=認定司法書士〔扱える額を超える140万円超の過払金の和解を代理〕
  • C=貸金業者
  • A–B=委任契約〔民法90条に照らし無効〕
  • B→C=裁判外の和解契約〔委任契約とは別に判断〕
  • 無効にする必要は?
  • 無効にすると害される者は?

3つ目の問いに入ります。違反した契約が無効でも、その違反を前提にして、別の相手方と結ばれた契約まで、自動的に無効になるのでしょうか。事案です。司法書士が、扱える額、140万円を超える過払金、つまり、払いすぎた利息を取り戻せるお金について、依頼者を代理して、貸金業者と、裁判外の和解をしました。これは、弁護士法72条の違反です。依頼者は、のちに破産し、管財人が、和解は無効だとして、過払金の返還を求めました。条文を、板に出します。

条文弁護士法72条

弁護士法第72条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

骨格は、弁護士でない者は、報酬を得る目的で、法律事務を取り扱うことを業としてはならない、というものです。判決は、2つの契約を分けます。司法書士と依頼者の委任契約は、民法90条に照らして無効です。けれど、その結果として貸金業者と結んだ和解契約の効力は、別に判断します。

判例最判平29・7・24 民集71巻6号969頁

和解契約の効力は別に判断する その和解契約の効力については,委任契約の効力とは別に,同条の趣旨を達するために当該和解契約を無効とする必要性があるか否か等を考慮して判断されるべきものである。

判例最判平29・7・24 民集71巻6号969頁

直ちに無効にすると害される者 同条に違反することから直ちに当該和解契約の効力を否定するとすれば,紛争が解決されたものと理解している当事者の利益を害するおそれがあり,相当ではないというべきである。

判例最判平29・7・24 民集71巻6号969頁

特段の事情がない限り無効にならない 認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することが同条に違反する場合であっても,当該和解契約は,その内容及び締結に至る経緯等に照らし,公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情がない限り,無効とはならないと解するのが相当である。

3つ目の問いに当てはめます。無効にする必要があるか。処罰や懲戒があり、委任契約も無効で、報酬は得られません。これで、禁止の実効性は確保できます。無効にして害される者はいるか。和解で、紛争が片づいたと考えている相手方がいます。割り勘の食事会で、幹事の違反を理由に、全員の会計をやり直すと、無関係な人が困ります。それと同じです。だから、和解契約は有効です。ただし、内容や経緯から、公序良俗違反の性質を帯びるような特段の事情があれば、別です。

手順の整理(①明文があれば従う/②趣旨から強行規定と読んで無効〔統制物資・均等法9条3項〕/③取締規定なら原則有効〔無許可者の買入れ〕ただし公序良俗違反なら無効〔違法建築の本工事・名義貸しと利益分配〕/④違反した当事者間の契約が無効でも、取引の相手方との契約まで無効かは別に判断〔和解契約〕) 図:手順の整理

  • ①明文があれば従う
  • ②趣旨から強行規定と読んで無効〔統制物資・均等法9条3項〕
  • ③取締規定なら原則有効〔無許可者の買入れ〕ただし公序良俗違反なら無効〔違法建築の本工事・名義貸しと利益分配〕
  • ④違反した当事者間の契約が無効でも、取引の相手方との契約まで無効かは別に判断〔和解契約〕

手順を、4つにそろえます。明文があれば従う。趣旨から強行規定と読めば無効。取締規定なら有効が原則で、公序良俗違反なら無効。そして、違反した当事者間の契約が無効でも、取引の相手方との契約は、別に判断します。ここまでは、論文でも論点になりうる範囲です。

行政上の権利は譲り渡せるか

公権の譲渡(議員報酬を受け取る権利=公法上の権利/民法466条1項=債権は譲り渡せる〔性質が許さないときを除く〕/法令に定めがあればそれに従う→なければ趣旨・目的から譲渡性を判断/地方自治法・地方公務員法に譲渡禁止の規定はない) 図:公権の譲渡

  • 議員報酬を受け取る権利=公法上の権利
  • 民法466条1項=債権は譲り渡せる〔性質が許さないときを除く〕
  • 法令に定めがあればそれに従う→なければ趣旨・目的から譲渡性を判断
  • 地方自治法・地方公務員法に譲渡禁止の規定はない

最後の答え合わせです。公法と私法の回を思い出してください。そこで捨てられた見方は、公権について、何を言い切るものでしたか?公権は譲り渡せない、放棄できない、と、条文を離れて言い切る見方でした。では、今は、何で決めるのでしょうか。具体の判決で見ます。民法の原則から、全文で確認します。

条文民法466条1項

民法第466条第1項 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。

債権は、原則として、譲り渡せます。その性質が許さないときだけ、例外です。事案です。市議会の議員が、自分の議員報酬を受け取る権利を、他人に譲渡しました。その譲渡が有効かが争われました。議員報酬は、地方自治法が定める、公法上の権利、つまり公権です。譲渡とは、たとえば、お金を借りた議員が、返済にあてるために、来月からの報酬を受け取る権利を、貸した人に移すことです。移せるとすれば、報酬を受け取る権利は、貸した人のものになります。

条文地方自治法203条1項

地方自治法第203条第1項 普通地方公共団体は、その議会の議員に対し、議員報酬を支給しなければならない。

判例最判昭53・2・23 民集32巻1号11頁

議員報酬請求権の譲渡 普通地方公共団体の議会(以下、地方議会という。)の議員の報酬請求権は、公法上の権利であるが、公法上の権利であつても、それが法律上特定の者に専属する性質のものとされているのではなく、単なる経済的価値として移転性が予定されている場合には、その譲渡性を否定する理由はない。

判例最判昭53・2・23 民集32巻1号11頁

条例に譲渡禁止がなければ譲渡できる したがつて、地方議会の議員の報酬請求権は、当該普通地方公共団体の条例に譲渡禁止の規定がないかぎり、譲渡することができるものと解すべく

規範にまとめます。次の読み方は通説です。先ほどの判決は、この読み方を議員報酬で具体化しました。条例などに禁止が無ければ譲渡できる、としたのです。一身専属性とは、その人だけに結びついていて、ほかの人に移らない性質のことです。

⭐ 論文で書く規範:規範(通説で立てる):公法上の権利でも、法令に定めがあればそれに従い、定めがなければ、その権利に関する法令の趣旨・目的から、譲渡性・一身専属性の有無を判断する (短答・論文共通)

議員報酬請求権を譲渡できるとした理由は、2つです。1つ目。地方自治法や地方公務員法に、議員報酬請求権の譲渡や差押えを禁じる規定がありません。差押えとは、裁判所の手続で、借金を返さない人の財産を、勝手に処分できないよう押さえることです。2つ目。市役所の職員のような一般職の公務員は、法律で、職務に専念する義務を負い、ほかの仕事を兼ねることも制限されます。給料は、その暮らしを支えるものなので、仕事を滞りなく続けてもらうために、生活を守る必要があります。生活を守る必要が強い権利なら、他人に移すと本人の暮らしが立たなくなるので、移せないとする理由になります。議員は、特定の公職との兼職の禁止などを除けば、こうした拘束から離れています。だから、報酬について、生活を守る必要は薄い。条例に譲渡禁止の定めがない限り、譲渡できます。対比です。同じように、お金を借りた人が、生活保護の支給を受ける権利を、貸した人に移そうとしても、移せません。生活保護法59条が、明文で譲渡を禁じているからです。

条文生活保護法59条

生活保護法第59条 保護又は就労自立給付金若しくは進学・就職準備給付金の支給を受ける権利は、譲り渡すことができない。

明文があれば、それに従います。明文がなければ、趣旨と目的で決めます。結論の限定です。この判決の結論は、議員報酬請求権は譲渡できる、までです。公権のすべてが譲渡できるわけではありません。権利ごとに、法令の規定と趣旨で決めます。今日の契約の効力と、同じ読み方でした。

今日のまとめ

今日のまとめ(3つの問い=規定の趣旨・目的/違反の程度・悪質性/無効にする必要と害される者/判例の結論=統制物資は無効・無許可者の買入れは有効・違法建築の本工事は無効〔追加変更工事は別〕・名義貸しと利益分配の合意は趣旨に反し無効〔本件は差戻し〕・和解契約は特段の事情がない限り有効・議員報酬請求権は条例に禁止がなければ譲渡できる) 図:今日のまとめ

  • 3つの問い=規定の趣旨・目的
  • 違反の程度・悪質性
  • 無効にする必要と害される者
  • 判例の結論=統制物資は無効・無許可者の買入れは有効・違法建築の本工事は無効〔追加変更工事は別〕・名義貸しと利益分配の合意は趣旨に反し無効〔本件は差戻し〕・和解契約は特段の事情がない限り有効・議員報酬請求権は条例に禁止がなければ譲渡できる

冒頭のAさんに戻ります。無許可で肉を買ったAさんは、代金を払わなければなりません。許可の制度は、営業者を管理する制度で、取引を取り上げる制度ではないからです。許可がなかったことは、行政上の制裁の問題として残ります。同じ違反でも、無効になる場面もありました。統制物資のように、規定が取引の効力を限っているとき。違法建築や名義貸しのように、制度を潜脱する悪質なとき。見たのは、違法かどうかではなく、規定の趣旨と目的、違反の程度、無効にする必要と害される者でした。契約が無効でも、相手方との契約まで無効になるとは限らないのですね。和解契約のように、別に判断します。そして、公権の譲渡も、同じ読み方でした。法令の定めがあればそれに従い、なければ趣旨と目的で決めます。ラベルではなく、個々の法令からです。許可を受けずにした行為への制裁の中身は、別の回で扱います。

参照条文

  • 民法91条
  • 民法90条
  • 食品衛生法55条1項(現行)
  • 建築基準法6条1項(抜粋)
  • 宅地建物取引業法1条
  • 宅地建物取引業法12条1項
  • 宅地建物取引業法13条1項
  • 弁護士法72条
  • 民法466条1項
  • 地方自治法203条1項
  • 生活保護法59条

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