公物の管理と使用関係
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第1章 行政法の基礎 ⑳/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
駅前の市道の3人
図:駅前の市道の3人
- A=通行人〔許可なしで歩く=一般使用〕
- B=カフェの店主〔歩道にテーブルを出したい=許可を願い出る〕
- C=電力会社〔電柱を立てて長く使う=特別の許可〕
- D=市〔道路管理者〕
- E=警察
- DとEの間=協議
- 近所の人の物置で道がふさがれたら?
駅前の市道に、3人がいます。Aさんは、通勤で歩いているだけです。許可は要りません。Bさんは、カフェの店主で、歩道にテーブルを出したいと、市に願い出ています。Cさんは、電力会社で、電柱を立て続けています。長く、特別に使う権利をもらっています。どれも同じ、市の道です。それなのに、使い方によって、扱いが違います。さらに、近所の人が、道に物置を建てて、通れなくなったら、誰が、何を言えるのでしょうか。3人の扱いの違いを、今日の1問にします。道路や公園は、誰が、どんな資格で使えるのか。使えなくなったとき、何が争えるのか。答えを先に言います。公物は、何のために供されているのか、どう使うのか、で扱いが変わります。見分ける物差しを持ち帰ります。物差しを、4つの問いにして、板に出します。
図:公物の4つの問い
- ①何が公物か=定義と分類
- ②いつ始まり、いつ終わるか=公用開始・公用廃止
- ③誰が管理するか=機能管理・財産管理・公物警察
- ④どう使えるか=一般使用・許可使用・特許使用・目的外使用許可
1つ目は、何が公物か。2つ目は、いつ始まり、いつ終わるか。3つ目は、誰が管理するか。最後の4つ目は、どう使えるか。この順で、判決を通して見ていきます。
公物とは何か 4つの切り口
図:公物の分類
- 定義=国・公共団体等が直接公の目的のために供用している個々の有体物
- 目的=公共用物〔道路・河川・海岸・公園〕・公用物〔庁舎〕
- 成り立ち=自然公物〔河川・海岸〕・人工公物〔道路・公園・庁舎〕
- 所有者=国有・公有・私有
- 管理者=自有公物・他有公物
まず定義です。公物とは、国や公共団体などが、直接、公の目的のために供している、個々の有体物です。有体物とは、形のある物のことです。道路も、公園も、役所の庁舎も、これに当たります。見分ける切り口が4つあります。1つ目は、目的です。一般の人が使うための物を公共用物といい、道路、河川、海岸、公園が当たります。役所が自分で使うための物を公用物といい、庁舎と、その敷地が当たります。国有財産法では、公共用財産、公用財産と呼ばれます。2つ目は、成り立ちです。河川や海岸のように、自然のままで存在する物を、自然公物といいます。道路や公園や庁舎のように、人が造って供する物を、人工公物といいます。3つ目は、所有者です。国のものなら国有、自治体のものなら公有、私人のものでも公物になる場合があり、これが私有です。4つ目は、管理する人と所有する人の関係です。同じなら自有公物、別なら他有公物です。国が所有して、市が管理する道路は、他有公物です。後で、この形の事件を見ます。
住民の福祉のための施設が公の施設です。公民館や体育館のように、公共用物と重なる部分が大きい。公の施設の中心は、地方自治法244条です。この条文は、別荘の水道料金の回で見ました。当てはめます。市立体育館は、公共用物で、人工公物で、公の施設です。河原は、公共用物で、自然公物です。市役所の会議室は、公用物です。ここで、公物の背骨になる点があります。公物は、民法だけでは動かない物だ、ということです。道路の敷地は、所有権はありますが、私権を行使できません。河川の流水は、私権の目的になりません。条文を見ます。
条文道路法4条
道路法第4条 道路を構成する敷地、支壁その他の物件については、私権を行使することができない。但し、所有権を移転し、又は抵当権を設定し、若しくは移転することを妨げない。
条文河川法2条2項
河川法第2条第2項 河川の流水は、私権の目的となることができない。
骨格は、道路の敷地は、私権を行使できない、ただし、所有権の移転などは妨げない。河川の流水は、私権の目的にならない、というものです。道路の敷地には、物置を建てたり、売り物の花を並べたりして、勝手に使うことができません。所有者であっても、道路として供されている間は、道路の用を妨げることができないのです。では、ただし書は、なぜ売ることを許すのか。縛っているのは、使い方だからです。持ち主が替わっても、道路として使われ続けるなら、公の用は害されません。だから、所有権の移転や、抵当権の設定は、妨げないのです。公物を、民法の所有権だけで考えない。ここが、今日の背骨です。
いつ始まり、いつ終わるか 公物の時効取得
図:公物の始まりと終わり
- 自然公物=自然の状態で公物
- 人工公物=公用開始〔供用開始〕で始まり、公用廃止で終わる
- 問い=公用廃止の手続がないまま、他人が長く占有したら時効取得できるか
- 民法162条
ここで1問です。民法の取得時効は、国や自治体の持ち物にも及ぶのでしょうか。民法が行政の場面で働くかを見た回の、規定を並べて、趣旨から決める物差しを、ここで公物に当てます。自然公物は、自然の状態で公物です。始まりも終わりもありません。人工公物は違います。道路を造って、公衆に使わせ始めることを、公用開始といいます。使わせるのをやめることを、公用廃止といいます。どちらも、公衆に向けた行為と考えられます。では、公用廃止の手続を何も踏んでいないのに、いつのまにか、国の水路が、人の田になっていたら、どうでしょうか。民法の条文を、全文で確認します。
条文民法162条
民法第162条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
時効の中身は、民法の回で見たとおりです。ここでは、公物に特有の問いだけを扱います。公物は、公の目的のために供されています。個人が取得してしまうと、公の目的が害されるのではないか。事案です。登記所に備え付けの古い地図、公図の上では、国のものだった水路が、古くから田やあぜ道に作りかえられ、水路の外観を失っていました。農地改革で、その土地の売渡しを受けた人が、田と一緒に、自分のものだと信じて、占有を続けていました。国は、水路は公物だから時効にかからない、と争いました。判決の言葉です。
判例最判昭51・12・24 民集30巻11号1104頁
公共用財産の取得時効 公共用財産が、長年の間事実上公の目的に供用されることなく放置され、公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、その物のうえに他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなつた場合には、右公共用財産については、黙示的に公用が廃止されたものとして、これについて取得時効の成立を妨げないものと解するのが相当である。
⭐ 論文で書く規範:規範(判例で立てる):公共用財産が、①長年公の目的に供されず、形態・機能を全く失い、②他人の平穏公然の占有が継続し、③実際上公の目的が害されず、④維持すべき理由がなくなったときは、黙示的に公用が廃止されたものとして、取得時効の成立を妨げない (短答・論文共通)
公用廃止の手続が無いのに、廃止されたことにするのですか。そこが、この判決の工夫です。手続による廃止は無い。けれど、実態から見て、廃止があったものとみなします。無い廃止を、あったとみなす。このやり方を、擬制といいます。学説は、これを擬制的な構成と呼びます。決め手は、公物が公の目的のために守られているのは、公の目的があるからだ、という点です。目的がもう実際に失われているなら、時効だけを禁じ続ける理由がありません。4つの条件を、境界で確かめます。水路が、まだ水を流していて、近所の田に水を送っているなら、形態も機能も失っていません。時効は成立しません。草に埋もれ、田に作りかえられ、誰も困らない水路なら、4つがそろいます。この結論は、国の持ち物でも、変わりません。
図:時効取得に関する判例の一行
- 昭51の規範を竣功認可前の埋立地にも適用=公有水面埋立ての竣功認可がない土地でも、同じ要件で黙示の公用廃止、取得時効の対象
- 海はそのままの状態では所有権の客体たる土地に当たらない=自然の状態のまま一般公衆の共同使用に供されてきた公共用物
- 普通河川=河川法の適用も準用も受けない河川の例
板に、関連する判決を3つ、名前だけ並べます。埋立ての工事が終わったと認める竣功認可が、まだ無い土地でも、同じ要件で、黙示の公用廃止から時効取得が認められました。一方、海は、そのままの状態では、所有権の対象になる土地に当たりません。自然のまま、公衆の共同使用に供されてきたからです。もう1つ、用語です。道路法や河川法などの法律の適用を受けない公物を、法定外公共用物といいます。たとえば、河川法の適用も準用も受けない、普通河川です。歴史の中で、事実上、存在してきた公物です。条例との関係は、別の回で扱います。
誰が管理するか 機能管理・財産管理・公物警察
図:管理の2つの面と公物警察
- 機能管理=公物の効用を保つ〔道路法・河川法・海岸法など公物管理法〕
- 財産管理=財産的価値を維持する〔国有財産法・地方自治法の財産規定〕
- 公物警察=公物で展開される一般の警察作用〔道路交通法〕
- 公の施設=管理条例〔自治法244条の2第1項〕
管理には、2つの面があります。1つ目は、機能管理です。道路として通れる、河川として流れる、という、公物の働きを保つことです。主に、道路法や河川法のような、公物管理法が担います。2つ目は、財産管理です。公物の財産としての価値を保つことで、主に、国有財産法や地方自治法の財産の規定が担います。国有財産は、法律ではなく、管理規則という、役所内部の決まりで管理される例も珍しくありません。一方、公の施設は、管理条例が要ります。条文を、全文で読みます。
条文地方自治法244条の2第1項
地方自治法第244条の2第1項 普通地方公共団体は、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。
骨格は、公の施設の設置と管理は、条例で定める、というものです。公民館を、誰が、いつ、どう使えるかは、市の条例で決まります。次に、公物警察です。公物の上で行われる、一般の警察の作用を指します。道路で交通の安全を守る道路交通法が、代表です。道路法が公物の管理で、道路交通法が公物警察、と、おおまかに分かれます。
図:歩道のテーブルと2つの許可
- B=店主
- D=市〔道路法の占用の許可=管理〕
- E=警察〔道路交通法の道路使用の許可=公物警察〕
- DとEの間に協議の規定がある
冒頭の店主に戻ります。歩道にテーブルを出すとき、市の道路管理者の許可と、警察の許可の、両方が関わることがあります。道路を使えるようにする話と、交通の安全の話が、重なるからです。そのため、両者の間には、調整のための協議の規定があります。庁舎の管理者は、庁舎の管理権に基づいて、外部の人に退去を求めることはできます。応じない人を外へ押し出す程度の排除まで、管理権に含まれるとした高裁の判決もあります。ただ、管理権は、庁舎を管理するための権限で、警察権そのものではありません。だから、それを超える強い実力の行使は、警察の役割です。では、市は、道路の管理権とは別に、民法の権利で道路を守れるのでしょうか。事案です。市が、国から無償で借りた道路敷の上にある市道を、道路管理者として、現に管理してきました。ところが、登記の名義を得た業者らが、道路敷の所有者だと言って、通行を妨げるようになりました。
図:管理権がなくても占有権
- A=国〔所有者〕
- B=市〔無償で借りた道路敷を管理〕
- C=業者〔登記名義を得て通行を妨害〕
- A→B=無償貸付
- C→通行を妨害
- B→C=占有権に基づく妨害予防請求
占有権とは、物を、事実上、支配している状態に、民法が与える権利です。市は、占有権に基づいて、妨害を予防するよう、求めました。原審は、道路管理権は、道路法が独自に与えた権限で、民法の占有権の根拠にならない、として、請求を退けました。最高裁は、こう言いました。
判例最判平18・2・21 民集60巻2号508頁
道路を管理する地方公共団体の占有権 地方公共団体が,道路を一般交通の用に供するために管理しており,その管理の内容,態様によれば,社会通念上,当該道路が当該地方公共団体の事実的支配に属するものというべき客観的関係にあると認められる場合には,当該地方公共団体は,道路法上の道路管理権を有するか否かにかかわらず,自己のためにする意思をもって当該道路を所持するものということができるから,当該道路を構成する敷地について占有権を有するというべきである。
占有権は、事実上の支配に与えられる権利でした。だから、市が、道路を現に管理して、道路として使わせているなら、法律上の管理権があるかどうかに関係なく、占有権があります。結論の細部に注意してください。最高裁は、請求を認めたのではありません。原審を破棄して、事実の審理をやり直させ、差し戻しました。ここから分かることは、1つです。公物管理法の措置のほかに、所有権や占有権といった、民法上の権利に基づく妨害排除の道も、排除されません。公物は、民法だけでは動きませんが、民法が、まったく働かないわけでもないのです。道路などの設置や管理に不備があって、人が怪我をしたときの責任は、別の回で扱います。
使用関係の3類型 一般・許可・特許
図:使用関係の3類型
- 一般使用〔自由使用〕=誰でも許可なしで本来の目的に沿って使う〔例=歩く・ベンチで本を読む〕
- 許可使用=一般的な禁止を申請で解除〔例=道路上のロケ撮影・祭りの行列〕
- 特許使用=特定の人に独占的な使用権を認める〔例=電柱・ガス管・露店・流水占用〕
使用関係の3類型です。1つ目は、一般使用、自由使用ともいいます。公共用物を、誰でも、許可なしで、本来の目的に沿って使います。歩く、自転車で通る、公園のベンチで本を読む。公物の、いちばん基本の使い方です。2つ目は、許可使用です。法律が、一般的に禁じていることを、申請があったときに解除して、認める使い方です。一般使用の枠の中にあるけれど、通常と違う使い方なので、利用の調整のために、許可が要ります。道路上の映画撮影や、祭りの行列です。3つ目は、特許使用です。占用とは、道路に物を設けたり、川の水を引いたりして、特定の人が、継続して使うことです。特定の人に、公物の、独占的な使用権を認めます。電柱、ガス管、露店のための、道路の占用の許可、河川の流水の占用の許可が、代表です。ここで1問です。電力会社が電柱を立てるのと、歩道にテーブルを出す店主と、通勤で歩く人。それぞれ、どの使用でしょうか。少し考えてください。
電柱は、長く独占して使うので特許使用、歩くだけの通勤は、許可の要らない一般使用です。テーブルも、道路の上に物を置いて継続して使うので、占用に当たり、特許使用です。条文を、板に出します。
条文道路法32条1項(抜粋)
道路法第32条第1項(抜粋) 道路に次の各号のいずれかに掲げる工作物、物件又は施設を設け、継続して道路を使用しようとする場合においては、道路管理者の許可を受けなければならない。 一 電柱、電線、変圧塔、郵便差出箱、公衆電話所、広告塔その他これらに類する工作物 二 水管、下水道管、ガス管その他これらに類する物件 三 鉄道、軌道、自動運行補助施設その他これらに類する施設 四 歩廊、雪よけその他これらに類する施設 五 地下街、地下室、通路、浄化槽その他これらに類する施設 六 露店、商品置場その他これらに類する施設 七 前各号に掲げるもののほか、道路の構造又は交通に支障を及ぼすおそれのある工作物、物件又は施設で政令で定めるもの
骨格は、電柱や水道管のような物を設けて、継続して道路を使うなら、道路管理者の許可が要る、というものです。条文は、許可と書いています。ここに、注意が1つあります。条文が許可と書いていても、中身が許可使用か特許使用かは、個別の条文の趣旨を読んで決めます。実際の法律は、両者を区別せず、許可と書くことが多いからです。両者の違いは、相対的です。手がかりは、まず1つ目の、みんなの通行の中での調整か、特定の人に独り占めの地位を与えるか、です。これに加えて、長く続くか、取り消されたとき何を失うか、も判断の材料になります。祭りの行列は、その日だけの、通行との調整です。取り消されても、その日に行列ができないだけです。電柱は、電力会社に、何十年も、場所を独り占めさせます。取り消されれば、立てた設備ごと、使い方を失います。だから、同じ許可という言葉でも、与えた地位の重さで、読み分けます。
図:一般使用は権利か
- 原審=反射的な利益 ↔ 最高裁=使用の自由権
- 妨害=不法行為・続けば排除
- 供用が廃止されたら言えない
一般使用は、権利なのでしょうか。それとも、ただ、使えているだけですか。事案です。村道のそばに住む村民らが、日々の通行に使ってきた村道に、他の村民が物置を建てたり、柵を設けたりして、通れなくなったと主張しました。そして、妨害をやめさせるよう求めました。原審は、村道を使えるのは、村の施設が開設されていることの、反射的な利益にすぎない、として、妨害排除を認めませんでした。反射的な利益とは、行政の仕組みの結果、たまたま受けている利益で、法律が守るべき権利とまでは言えないものです。最高裁は、こう言いました。
判例最判昭39・1・16 民集18巻1号1頁
村道の使用の自由権 地方公共団体の開設している村道に対しては村民各自は他の村民がその道路に対して有する利益ないし自由を侵害しない程度において、自己の生活上必須の行動を自由に行い得べきところの使用の自由権(民法七一〇条参照)を有するものと解するを相当とする。
判例最判昭39・1・16 民集18巻1号1頁
妨害は不法行為・継続すれば排除を求められる 故に一村民がこの権利を妨害されたときは民法上不法行為の問題の生ずるのは当然であり、この妨害が継続するときは、これが排除を求める権利を有することは、また言を俟たないところである。
決め手は、生活に欠かせない通行を、他人の妨害から守る必要があることです。反射的な利益で片づけず、使用の自由権という、法的に守られる権利を認めました。妨害されたら不法行為になり、続けば排除を求められます。ただし、判決も、差し戻しています。上告人らの主張が事実であれば、という前提です。それから、一般使用は、利用権ではありません。道路が供用されていることが前提なので、供用そのものが廃止されたら、文句は言えません。
図:特許使用の限界
- 流水の占用=特許使用
- 目的に必要な限度で排他的
- 第三者の排水まで直ちには禁じられない
次に、特許使用の限界です。流水の占用は、特許使用の代表です。では、許可を受けた人は、川の水を、独り占めできるのでしょうか。
条文河川法23条
河川法第23条(本文) 河川の流水を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。
判例最判昭37・4・10 民集16巻4号699頁
公水使用権の限界 公水使用権は、それが慣習によるものであると行政庁の許可によるものであるとを問わず、公共用物たる公水の上に存する権利であることにかんがみ、河川の全水量を独占排他的に利用しうる絶対不可侵の権利ではなく、使用目的を充たすに必要な限度の流水を使用しうるに過ぎないものと解するのを相当とする
判例最判令元・7・18 集民262号11頁
取水した水が流れる水路 その水について当該目的を満たすために必要な限度で排他的に使用する権利を有するとはいえるものの,直ちに第三者に対し本件水路への排水を禁止することができるとはいえない。
事案です。土地改良区が、河川法23条の許可を受けて取水し、灌漑に使う水が流れる水路がありました。そこへ周辺の住民が、浄化槽の排水を流しました。土地改良区は、無断の排水で、水路を独占的に管理する権利が害されたとして、使用料に当たる額の支払を求めました。最高裁は、取水した水が流れているからといって、直ちに第三者の排水を禁止できるとはいえない、として請求を退けました。特許使用は、独占的な権利です。けれど、無制限ではありません。判決の言う公水使用権とは、川の水を使う権利のことです。なぜ無制限でないのか。川の流水は、もともと、みんなのための公共用物です。その上に乗った権利なので、使う目的に必要な限度でしか、排他的に使えません。だから、許可に基づいて取水した水が流れる水路でも、第三者の排水まで、直ちに禁じられるとは限りません。庁舎や学校のような公用物の場合は、利用者が、職員や生徒のように、限られます。一般の人が、その場所を使いたいときは、どうなるのか。次の節です。
目的外使用許可と公の施設 裁量の型
図:目的外使用の3つの問い
- ①その物は公共用物か公用物か→②その使用は目的内か目的外か→③どんな場合に認められるか
- 目的内=原則認める〔公の施設なら正当な理由がなければ拒めない〕
- 目的外=用途・目的を妨げない限度で許可できる・許可するかは管理者の裁量
ここで1問です。別荘の水道料金の回で見た、地方自治法244条3項は、公の施設について、何を禁じていましたか?公の施設の利用で、住民への不当な差別的取扱いを禁じていました。その同じ244条は、2項で、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない、と定めます。これが、公の施設の、目的に沿った使用についての原則です。今日の節の中心は、その反対側です。行政財産の、目的以外の使用です。行政財産とは、国有財産法や自治法の語で、公用や公共用に供する財産のことです。条文を、全文で読みます。
条文国有財産法18条6項
国有財産法第18条第6項 行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる。
条文地方自治法238条の4第7項
地方自治法第238条の4第7項 行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。
骨格は、行政財産は、用途や目的を妨げない限度で、使用を許可できる、というものです。国でも、自治体でも、同じ形です。これが、目的外使用許可です。判断の枠組みを、3つの問いにします。1つ目。その物は、公共用物か、公用物か。2つ目。その使用は、目的内か、目的外か。3つ目。どんな場合に認められるか。目的内なら、原則として認められます。公の施設なら、正当な理由がなければ拒めません。目的外なら、用途や目的を妨げない限度で許可でき、許可するかどうかは、管理者の裁量です。当てはめます。市立体育館で、バドミントン大会を開くのは、目的内の使用です。市役所の会議室を、市と対立している団体が、集会に使いたい。これは、公用物の目的外使用で、許可するかは、裁量です。
図:学校施設の事案
- A=教職員の職員団体〔教育研究集会の会場に中学校の体育館などを借りたい〕
- B=校長〔いったん了承〕
- C=市の教育委員会〔右翼団体の街宣による混乱を理由に不許可〕
最初の判決です。事案は、教職員の職員団体が、教育研究集会の会場として、市立中学校の体育館などを借りたい、と申し出たことです。校長は、いったん了承しました。ところが、市の教育委員会が、右翼団体の街宣による混乱を理由に、使用を不許可としました。まず、学校施設の性質について、判決は、こう言います。
判例最判平18・2・7 民集60巻2号401頁
学校施設の性質 学校施設は,一般公衆の共同使用に供することを主たる目的とする道路や公民館等の施設とは異なり,本来学校教育の目的に使用すべきものとして設置され,それ以外の目的に使用することを基本的に制限されている
判例最判平18・2・7 民集60巻2号401頁
目的外使用は管理者の裁量 学校施設の目的外使用を許可するか否かは,原則として,管理者の裁量にゆだねられているものと解するのが相当である。
判例最判平18・2・7 民集60巻2号401頁
支障がなくても当然には許可しなくてはならない 学校教育上支障があれば使用を許可することができないことは明らかであるが,そのような支障がないからといって当然に許可しなくてはならないものではなく,行政財産である学校施設の目的及び用途と目的外使用の目的,態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により使用許可をしないこともできるものである。
決め手は、学校施設が、道路や公民館とは違い、学校教育のために設置され、それ以外の使用を、基本的に制限されていることです。だから、支障が無くても、当然、許可しなくてはならない、とはなりません。裁量があるなら、不許可は、違法にならないのではありませんか。そこが、結論の細部です。最高裁は、裁量を認めたうえで、本件の不許可は、裁量の逸脱だ、と判断しました。
判例最判平18・2・7 民集60巻2号401頁
本件不許可処分は裁量の逸脱 本件不許可処分は,重視すべきでない考慮要素を重視するなど,考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており,他方,当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず,その結果,社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができる。
裁量があることと、不許可が常に適法なことは、別です。裁量があっても、考慮すべきでない事情を重く見て、考慮すべき事情を十分見なければ、違法になります。この審査の仕方は、裁量の回で扱います。
図:一般公共海岸の事案
- A=採石業者〔岩石を搬出する桟橋を設けたい〕
- B=海岸管理者〔海岸法の占用の許可を不許可〕
- 場所=国有の一般公共海岸区域=海岸保全区域に入っていない海岸
次の判決です。事案は、採石業者が、岩石を搬出するための桟橋を、国有の一般公共海岸の区域に設けたいと、海岸法の占用の許可を申請しましたが、不許可になった、というものです。一般公共海岸区域とは、国や自治体の海岸のうち、堤防などで守る海岸保全区域に入っていない区域です。判決は、2段で言います。
判例最判平19・12・7 民集61巻9号3290頁
用途又は目的を妨げるとき 一般公共海岸区域の占用の許可の申請があった場合において,申請に係る占用が当該一般公共海岸区域の用途又は目的を妨げるときには,海岸管理者は,占用の許可をすることができないものというべきである。
判例最判平19・12・7 民集61巻9号3290頁
妨げないときでも裁量 申請に係る占用が当該一般公共海岸区域の用途又は目的を妨げないときであっても,海岸管理者は,必ず占用の許可をしなければならないものではなく,海岸法の目的等を勘案した裁量判断として占用の許可をしないことが相当であれば,占用の許可をしないことができるものというべきである。
判例最判平19・12・7 民集61巻9号3290頁
本件不許可処分は違法 本件不許可処分は,裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となるものというべきである。
型は、学校施設と同じです。妨げるなら許可できない。妨げないときでも、裁量で不許可にできる。ただし、本件は、考慮すべきでない事情を考慮し、考慮すべき事情を十分考慮していないので、裁量の逸脱で違法です。海岸法には、許否の要件の明文が無く、行政財産の使用許可の要件と同じ読み方をしました。目的外使用許可の型は、占用許可でも同じです。
図:判決の結論の対比
- 学校施設の目的外使用=許可するかは原則管理者の裁量→本件不許可は裁量の逸脱で違法
- 一般公共海岸の占用=妨げるなら不可・妨げなくても裁量→本件不許可は裁量の逸脱で違法
- どちらも「裁量を認めたうえで、逸脱を認めた」
許可を取り消せる場合も、条文にあります。自治法238条の4第9項は、公用や公共用に供するため必要が生じたときなどに、許可を取り消せる、と定めます。
条文地方自治法238条の4第9項
地方自治法第238条の4第9項 第七項の規定により行政財産の使用を許可した場合において、公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき、又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは、普通地方公共団体の長又は委員会は、その許可を取り消すことができる。
取り消された人に補償があるかについて、最高裁は、使用の権利そのものに、その財産本来の用途や目的のために必要が生じれば消える、という制約が、はじめから付いている、と見ました。だから、原則として補償は要らない、とされました。取消しの制限と、補償の要否は、別の回で扱います。最後に、公の施設の利用拒否の限界です。市民会館のような、集会のための施設の使用を、どこまで拒めるか。市民会館を集会に使うのは、施設の目的に沿った使用です。学校施設とは、2つ目の問いの答えが違います。だから、広い裁量の話ではなく、正当な理由が無ければ拒めない、の側で考えます。公の施設の利用を拒める正当な理由の限界は、集会の自由との関係で、憲法の回で詳しく見た、泉佐野市民会館事件が示しています。なお、国有の公園である皇居外苑についても、使用の許否は管理権者の単なる自由裁量ではない、と述べた判決があります。ただし、その事件の不許可自体は適法とされました。これで、今日の物差しがそろいました。同じ公の物でも、何のために供されているかで、扱いが変わります。目的に沿う使い方なら、原則として使わせる。目的の外なら、用途や目的を妨げない限度で、管理者の裁量です。
今日のまとめ
図:今日のまとめ
- 4つの問い=①公物=公共用物・公用物/自然・人工/自有・他有
- ②始まりと終わり=公用開始・公用廃止・黙示の公用廃止で時効取得
- ③管理=機能管理・財産管理・公物警察・管理権がなくても占有権
- ④使用=一般・許可・特許、目的外使用許可は用途・目的を妨げない限度で裁量
駅前の市道に、戻ります。通勤のAさんは、一般使用です。許可は要りません。もし、物置で道をふさがれたら、使用の自由権が妨害されたとして、不法行為になり、排除も求められます。カフェのBさんは、テーブルを出すなら、道路の占用です。市の許可に加え、警察の許可も関わりえます。電力会社のCさんの電柱は、特許使用で、独占的な権利です。ただし、無制限ではありません。4つの問いで回収します。何が公物か。目的で、公共用物と公用物に分かれました。いつ始まり、いつ終わるか。人工公物は、公用開始と公用廃止です。ただし、実態が失われきれば、黙示の公用廃止で、時効取得もありえます。誰が管理するか。機能管理と財産管理、それに公物警察は別で、管理権が無くても、占有権はあります。どう使えるか。一般、許可、特許の3つです。目的外使用は、用途と目的を妨げない限度で、許可は管理者の裁量です。
使えなくなったとき、争えるのは、使用の自由権の妨害と、裁量の逸脱です。この読み方は、裁量の回で、さらに深まります。
参照条文
- 道路法4条
- 河川法2条2項
- 民法162条
- 地方自治法244条の2第1項
- 道路法32条1項(抜粋)
- 河川法23条
- 国有財産法18条6項
- 地方自治法238条の4第7項
- 地方自治法238条の4第9項