行政の存在理由①(認可制と届出制)
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第1章 行政法の基礎 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
コーヒーは自由に値上げできるのに、運賃は?
図:駅前の喫茶店と山あいの町の鉄道
- コーヒー1杯=店主が決める
- X鉄道の運賃=会社が勝手には上げられない
山あいの小さな町の駅前に、喫茶店があります。店主が、コーヒー1杯の値段を、明日から倍にしたとします。コーヒーの値段は、店主が自由に決めてよいのです。法律も、何も言いません。ところが同じ町を走るX鉄道が、来月から全区間の運賃を2倍にすると掲示したら、そうはいきません。同じ値上げなのに、どうして鉄道だけ違うんですか。鉄道会社は、運賃の上限を決めて国の認可、つまり事前のお墨付きを受けなければならないからです。民法では、契約は自由が原則だと習いますよね。値段も当事者が決めるはずなのに、法律がわざわざ行政を間に入れているのです。
しかも、入れ方には濃淡があります。運賃は認可、特急料金は届出だけ。なのに新幹線の特急料金は、また認可に戻ります。今日の1問は、当事者の合意と裁判があるのに、なぜ行政が要るのか、です。答えを先に言いますと、事後・個別の解決では間に合わない利益を、事前・一律に守るため。この意味を、鉄道の運賃で腹落ちさせます。
値段は本来、当事者の合意で決まる
図:契約自由と約款
- コーヒー=店と客が値段で折り合う
- 鉄道=会社が決めた約款に、乗るか乗らないかだけ
まず原点を確認します。私人どうしの取引は、契約自由の原則に立ちます。自分のことは自分で決めてよいという、民法の前提です。値段も、売る側と買う側の合意で決まります。店が値段を付けて、客が高ければ別の店を選ぶ。選べる客がいる限り、店は高くしすぎられません。合意に任せて、ちゃんと回ります。そこで会社は、運賃などの条件をあらかじめ文書にしておきます。これを約款といいます。全員に同じ条件を一括で当てはめる契約書で、ネットの会員登録で、同意ボタンを押す利用規約のようなものです。利用者にできるのは、その条件を受け入れて乗るか、乗らないかの二者択一だけ。値段の中身を実質的に決めているのは、会社です。
他に乗る手段があれば、客が離れるので会社も無茶はできません。ところがX鉄道は、町で唯一の鉄道です。この前提が崩れると、話が変わってきます。
図:今日の地図
- 1.値段は合意で決まる
- 2.合意に任せると困る場面
- 3.上限を行政がチェック=認可
- 4.規制の濃淡=届出と変更命令・細目は省令へ
- 5.登場人物は何人か
- 6.民事・刑事・行政の比較
- 7.不満があるときの争い方
ここで今日の道筋を1枚にします。今が1番目です。次に、合意に任せると困る場面の条件を見ます。そのあと、法律が用意した上限の認可、規制の濃淡、登場人物は何人か、民事法・刑事法との比べ方を見て、最後に、行政の決定に不満があるときの争い方で締めます。
合意に任せると困る場面
図:合意に任せられない3条件とコーヒーvs町の鉄道の対比
- 1.利用者に選ぶ余地がない
- 2.一人ひとりの損は小さいが全体では大きい
- 3.生活に不可欠でやめにくい
乗らずに済むかどうかが、分かれ目です。合意に任せても適正な値段にならない場面には、3つの条件があります。重なるほど、任せられなくなります。1つ目は、利用者に選ぶ余地がないこと。代わりの手段がなく、地域に1社しかない状態です。2つ目は、一人ひとりの損は小さくても、全体では大きいこと。3つ目は、生活に不可欠で、やめにくいことです。コーヒーは、隣の店があるので選べます。やめても生活は困りません。値上げされても、1杯分の損にとどまります。3つとも当てはまりません。町の鉄道は、反対です。高校生は通学に、お年寄りは病院に使いますし、バスは本数が少ない。乗るのをやめる選択肢が、事実上ありません。
たとえば運賃が、1人1日100円上がったとします。1人にとっては痛くても、会社と争うには費用も手間もかかり、割に合いません。ところが住民が数千人いれば、会社には毎日、大きな増収になります。損をする側の一人ひとりは声を上げにくく、利益を得る側の会社だけがはっきり得をする。この、個人の手に負えない薄く広い損を放っておけないのが、行政が出てくる理由の出発点です。この3つは、条文に書かれた要件ではありません。規制の必要性を説明する、考え方です。答案では、行政が関与する理由を述べるときの背景になります。
法律の答えは「上限を行政がチェックする」
図:鉄道事業法の目的と、運賃が決まる流れ
- 1条=利用者の利益を保護
- 会社が上限を定める→大臣が審査して認可
では、法律はどう答えたのでしょうか。鉄道に関する法律が、鉄道事業法です。1条に、目的が書かれています。鉄道事業の運営を適正で合理的にすることで、輸送の安全を確保し、利用者の利益を保護する。ここが規制の出発点です。運賃については16条です。まず1項を、全文で見ましょう。
条文鉄道事業法16条1項
鉄道事業法第16条第1項 鉄道運送事業者は、旅客の運賃及び国土交通省令で定める旅客の料金(以下「旅客運賃等」という。)の上限を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
鉄道会社は、運賃と、省令で定める料金について、その上限を定めて認可を受けなければなりません。変更するときも同じです。行政が事前に中身を審査して、よしと認めることです。お墨付きが出るまでは、その運賃を使えません。認可も、前回の飲食店の許可と同じ、事前のチェックの仲間です。2つの違いは、後の回で整理します。審査の物差しは、2項に書かれています。
条文鉄道事業法16条2項
鉄道事業法第16条第2項 国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるかどうかを審査して、これをしなければならない。
大臣は、能率的な経営の下での適正な原価に、適正な利潤を加えたものを超えていないかを審査します。超える上限は、認可されません。これが審査基準で、そのまま覚えておくところです。無駄の多い経営の費用を、そのまま運賃に乗せることはできない、ということです。能率的な経営の下、という言葉が、まさにそこを押さえています。会社の言い値ではなく、効率的に運営した場合の費用が基準になります。なお、認可を申請するときは、国土交通省令により、申請書に原価の計算書を添える必要があります。原価の根拠を出させて審査する、ということです。ここで1問です。認可されるのは、運賃そのものでしょうか。それとも上限でしょうか。そして上限だとしたら、その範囲内の運賃は、誰が決めるでしょう。
条文のとおりです。行政が決めるのは上限まで、その中の具体的な値段は会社の自由です。この続きを、次に見ます。
範囲内の運賃は「届出」、行き過ぎは「変更命令」
図:運賃が決まるまでの流れ
上限の認可を受けた会社は、その範囲内で実際の運賃を定めます。そのときに必要なのが、届出です。3項を見ましょう。
条文鉄道事業法16条3項
鉄道事業法第16条第3項 鉄道運送事業者は、第一項の認可を受けた旅客運賃等の上限の範囲内で旅客運賃等を定め、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
認可は「お墨付きをもらう」もの、届出は「知らせる」ものです。認可は、それが出なければ進めません。届出は、行政に情報を集めておき、問題があれば後から改めさせる方式です。お墨付きと、お知らせ、と覚えてください。届出の一般的な話は、後の回で扱います。そこで、9項の変更命令があります。
条文鉄道事業法16条9項
鉄道事業法第16条第9項 国土交通大臣は、第三項若しくは第四項の旅客運賃等又は前項の旅客の料金が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、当該鉄道運送事業者に対し、期限を定めてその旅客運賃等又は旅客の料金を変更すべきことを命ずることができる。 一 特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき。 二 他の鉄道運送事業者との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるものであるとき。
変更命令の理由は、2つです。特定の旅客に不当な差別的取扱いをしている場合と、他の鉄道会社との間に不当な競争を引き起こすおそれがある場合。どちらかに当たると大臣が認めるとき、期限を定めて運賃の変更を命じられます。X鉄道が、町の高校生にだけ極端に高い運賃を設定したら、不当な差別的取扱いに当たりえます。逆に、乗客を奪うために採算を無視した低運賃をぶつけて、他社を締め出そうとすれば、不当な競争のおそれです。境界も押さえておきます。全員に一律で、上限の範囲内で運賃を上げただけなら、この2つのどちらでもありません。値上げ自体は、変更命令の理由になりません。
規範というのは、条文に書かれていない、解釈で立てる基準のことです。これはそうではなく、条文に書かれた要件です。条文を読めば出てきますので、番号と一緒に、2つの理由を言えるようにしてください。ここで条番号の注意です。16条は改正で、地域の協議で決めた運賃の特例が4項から7項に入りました。そのぶん、あとで見る料金の届出が8項、変更命令が9項へ繰り下がっています。改正前の試験問題や解説に、届出が4項、変更命令が5項とあるのは、このためです。答案に書くのは、現行の8項と9項です。
特急料金は届出だけ、新幹線は認可に戻る
図:運賃と特急料金の規制の濃淡
- 運賃=上限認可+届出
- 在来線の特急料金・座席指定料金=届出のみ
- どちらも変更命令の対象
運賃は、乗るための基本の値段です。これに対して、特急料金や座席指定料金は、別の価値に払う料金です。こちらは8項です。
条文鉄道事業法16条8項
鉄道事業法第16条第8項 鉄道運送事業者は、特別車両料金その他の客車の特別な設備の利用についての料金その他の国土交通省令で定める旅客の料金を定めるときは、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
条文の特別車両料金は、グリーン車のような特別な車両の料金です。在来線の特急料金や座席指定料金も、この8項の側に入ります。上限の認可はありません。会社が料金を定めて、あらかじめ届け出るだけです。行き過ぎには、先ほどの9項の変更命令が使えます。ここで1問です。特急列車の料金が運賃より軽い規制で済むのは、なぜでしょう。利用者に選ぶ余地があるので、先ほどの3条件の1つ目が弱い。会社が工夫して、多様なサービスと料金を出せるようにしてもよい、という考え方です。規制の濃淡は、選ぶ余地がどれだけあるかで決まります。
新幹線の特急料金が上限認可になるという結論は、条文で言い切れます。16条1項は、運賃のほかに、国土交通省令で定める料金も上限認可の対象にしています。その省令が、鉄道事業法施行規則の32条1項です。
条文鉄道事業法施行規則32条1項
鉄道事業法施行規則第32条第1項 法第十六条第一項の国土交通省令で定める旅客の料金は、特別急行料金、急行料金その他の運送の速達性を役務の基本とする料金(以下「特別急行料金等」という。)であつて、新幹線鉄道に係るものとする。
速達性、つまり速く着くことに払う料金で、新幹線鉄道に係るものは、運賃と同じ上限認可です。それ以外の特急料金や座席指定料金は、別の規定で届出の対象になっています。ですから、運賃は上限認可と届出、在来線の特急料金は届出だけ、新幹線の特急料金は上限認可、と整理できます。条文には書かれていません。新幹線では、他に乗り換えて済ませる選択肢が乏しいためだと考えられます。結論は条文に書いてあること、理由は選ぶ余地という考え方からの説明、と分けて覚えてください。規制の濃淡を表にすると、こうなります。上限認可は、事前に審査してお墨付きを与える方式で、上限までは行政、範囲内は会社が値段を決めます。届出と変更命令は、事前には知らせるだけで、問題があれば後から是正する方式で、値段は会社が決めます。最近の流れは、事前のお墨付き型から、届出型へ軽くなる方向です。とはいえ、選ぶ余地が乏しい運賃は、今も認可のままです。
法律は大枠だけ、細目は省令へ
図:法律から省令へ
- 鉄道事業法16条1項「国土交通省令で定める旅客の料金」→施行規則32条1項
- 66条=実施のため必要な手続その他は省令で定める
16条1項は「国土交通省令で定める旅客の料金」と書くだけで、どの料金かは書いていません。具体は、国土交通大臣が定める省令が決めていました。省令のように行政が作るルールを、まとめて命令と呼びます。さきほどの変更命令のような、個別の相手への指図とは別の意味です。法律から任されて作られる命令を、委任命令といいます。66条にも同じ型の規定があります。
条文鉄道事業法66条
鉄道事業法第66条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のため必要な手続その他の事項は、国土交通省令で定める。
法律が大枠を決め、細かいことは省令に落ちる。任せる理由は、2つあります。どの料金を認可の対象にするかは、鉄道の実情を知る役所のほうが、的確に決められます。それに、法律に書いてしまうと、事情が変わるたびに国会で改正しなければならず、見直しが間に合いません。ですから条文を読むときは、法律から省令の順に追いかけます。委任命令が許される条件や限界は、後の回で扱います。今は、名前と、任せる理由と、読み方の順序までです。
同じ道具は、別の法律にも出てくる
図:鉄道事業法16条と道路運送法9条の並べ読み
- 上限認可・届出・変更命令の三点セットは共通
- 道路運送法には変更命令の理由に「著しく不適切で旅客の利益を阻害するおそれ」が加わる
ここで、同じ町のバスを見ます。乗合バスの運賃を定めているのは、道路運送法9条です。鉄道事業法と、ほとんど同じ作りをしています。1項は、運賃と料金の上限を定めて国土交通大臣の認可。2項は、審査の物差しが鉄道と同じ。3項は、範囲内で定めて届出。7項は、行き過ぎへの変更命令です。上限認可、届出、変更命令の三点セットです。条文では、乗合バスの事業を、一般乗合旅客自動車運送事業と呼んでいます。まず1項の全文です。
条文道路運送法9条1項
道路運送法第9条第1項 一般乗合旅客自動車運送事業を経営する者(以下「一般乗合旅客自動車運送事業者」という。)は、旅客の運賃及び料金(旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める運賃及び料金を除く。以下この条、第三十一条第二号、第八十八条の二第一号及び第四号並びに第八十九条第一項第一号において「運賃等」という。)の上限を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
鉄道事業法は、省令で認可の対象を加える形でした。道路運送法は逆で、影響が比較的小さいものを省令で除く形です。同じ道具でも、書き方の向きが違います。もう1つの違いが、7項です。
条文道路運送法9条7項
道路運送法第9条第7項 国土交通大臣は、第三項若しくは第四項の運賃等又は前項の運賃若しくは料金が次の各号(第三項又は第四項の運賃等にあつては、第二号又は第三号)のいずれかに該当すると認めるときは、当該一般乗合旅客自動車運送事業者に対し、期限を定めてその運賃等又は運賃若しくは料金を変更すべきことを命ずることができる。 一 社会的経済的事情に照らして著しく不適切であり、旅客の利益を阻害するおそれがあるものであるとき。 二 特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき。 三 他の一般旅客自動車運送事業者(一般旅客自動車運送事業を経営する者をいう。以下同じ。)との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるものであるとき。
バスには、変更命令の理由に、社会的経済的事情に照らして著しく不適切で、旅客の利益を阻害するおそれがある場合が加わっています。ただし、どの運賃にも使えるわけではありません。条文は、相手を2つに分けています。「第三項若しくは第四項の運賃等」が、上限の範囲内で定めて届け出た運賃と、地域の協議会で話がまとまって届け出た運賃。「前項の運賃若しくは料金」が、上限の認可から外されて、届出だけで済むものです。かっこ書きは、前のほうに使えるのは2号と3号、つまり差別的取扱いと不当な競争のおそれだけだ、と言っています。1号まで使えるのは、後のほう、届出だけの運賃や料金です。事前の審査が無いぶん、後から直せる理由を広く取ってある、と考えられます。
分野ごとの法律、つまり個別法が違っても道具は同じ、というのが前回の軸でした。ただし、条文の細部は個別法ごとに違います。だから道具の型を見抜いたうえで、個別の条文で確かめるのです。水道でも同じです。水道法14条は、地方公共団体の水道事業は料金の変更を届出、それ以外の事業者は、料金を含む供給条件の変更に認可を求めます。同じ水道でも、事業の主体で濃淡が違います。
登場人物は何人か:二面関係と三面関係
図:二面関係(A=行政/B=X鉄道:Bが上限の認可を申請・届出/Aが認可・変更命令)
道具の型は見えました。次は、その道具をめぐって誰が登場するかです。その前に、前回の復習を1問。行政法を3本の柱に分けたとき、行政が国民に何をできるかを扱うのは、どの柱だったでしょう?作用法です。組織法は誰が行政をするか、救済法は行政のチェックと救済、でした。今日の認可や届出、変更命令は、その作用法の中身です。ここで、登場人物が何人いるかを数えましょう。図のAが行政、BがX鉄道です。BがAに認可を申請し、Aが認可を出したり、変更命令を出したりします。このように、行政と、規制を受ける相手方の2者で成り立つ関係を、二面関係といいます。伝統的な行政法の関心は、行政の不当な介入から、相手方である私人を守ることでした。認可を断られたXが争う場面が、その典型です。
図:三面関係
- A=行政
- B=X鉄道
- C=利用者(町の住民):BとCの間は運送契約
- AはCの利益を守るため規制
- CはAの決定を争えるか?
そこで、Cを加えます。Cは、規制で利益を守られる利用者、つまり町の住民です。BとCの間には運送契約があり、AはCの利益を守るためにBを規制します。規制の相手方ではないのに、その規制から利益を受けたり害されたりする第三者が加わる関係を、三面関係といいます。運賃の認可は、AとBの間の行為ですが、Cの生活に直結します。認可が出たことに住民が不満なら、争えるんですか。そこが、三面関係の問題の所在です。規制の相手方ではない第三者に、争う資格が認められるのか。この原告適格という論点は、別の大きなテーマですので、後の回で扱います。ここでは、二面と三面を区別する視点だけ持ってください。以後の回で、何度も出てきます。
ほかの解き方では足りないのか
図:運賃が不当に高い問題を3つの法分野で解く
- 民事法=値上げ後に損をした個人が訴える
- 刑事法=違反後に処罰
- 行政法=値上げ前の審査と事後の変更命令・全利用者に一律
同じ問題を、3つの法分野で解いてみましょう。まず民事法です。値上げのあとで、損をした個人が、払いすぎた分の返還や、約款が無効だという確認を求めて訴えます。働くのは値上げの後、動くのは損をした個人、効くのは訴えたその人だけです。専門的な判断は、裁判所が個別に行います。弱点は、先ほどの1日100円の損です。一人ひとりの損が小さいと、訴える費用が見合わず、泣き寝入りになります。刑事法は、違反のあとで、検察と裁判所が動きます。ただ、刑罰は、人の自由や財産を奪う重い制裁です。だから、何をしたら罰せられるのかを、法律で前もってはっきり書いておかなければなりません。この原則を罪刑法定主義といい、はっきり書くことを、明確性の要請と呼びます。適正な原価に適正な利潤を加えたもの、という基準は、具体的な金額が条文から決まりません。会社から見ると、いくらを超えたら罰せられるのかが、前もって分かりません。これでは、超えたら即処罰、という規定を直接には書けません。
事後で、かつ個別なのが特徴です。前回、飲食店の営業許可で、被害が起きる前に防ぐために行政は先回りして動く、と見ました。運賃でも同じです。行政法は、値上げの前の認可や届出で、さらに後からの変更命令で関わります。動くのは行政自身で、効果は全利用者に一律です。原価の審査のような専門的な判断を、被害者個人ではなく専門の行政機関が引き受けます。事前・一律と、事後・個別。この対にして覚えてください。鉄道事業法には罰則が置かれています。行政が先に判断し、従わないときに罰則が後ろから支える形です。70条1項の3号と4号です。
条文鉄道事業法70条1項3号・4号
鉄道事業法第70条第1項(抜粋) 次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、百万円以下の罰金に処する。 三 第十六条第三項若しくは第八項若しくは第三十六条の規定による届出をしないで、又はこれらの規定若しくは第十六条第四項の規定により届け出た運賃若しくは料金によらないで、運賃又は料金を収受したとき。 四 第十六条第九項の規定による命令に違反して、運賃又は料金を収受したとき。
3号は、条番号が多いので平たく言いますと、届出をしないか、届け出た運賃と違う運賃を取ったとき。4号は、変更命令に違反して運賃を取ったときです。どちらも、100万円以下の罰金です。罰則の詳しい話は、後の回で扱います。公営の水道のように、料金を条例で決める例はあります。自治体の使用料は、条例で定めるのが基本です。民営の鉄道で、運賃の金額を法律に書くと、物価や燃料費が動くたびに、国会で法律を改正しなければなりません。見直しが追いつきません。それに、前回触れたとおり、憲法は営業の自由を保障しています。値段を決めることは営業の中心ですから、金額まで国が決めるのは制約が大きすぎる、と考えられます。だから上限だけを行政が審査する形が選ばれています。喫茶店のコーヒーなら、客が隣の店に移るだけで済みました。町の鉄道では、それが効きません。事後・個別の解決では間に合わない利益を、事前・一律に守る。行政が要る理由は、ここにあります。
行政の決定に不満があるとき
図:行政の決定に不満があるとき
- 認可の拒否=X鉄道が争う
- 認可の付与=住民が争えるかが問題
- 争い方は救済法に別に用意されている
行政に事前の判断を任せる以上、その判断が正しかったかを、後から争う道が要ります。それが、前回整理した3本柱のうちの、救済法です。認可や変更命令は、行政が法律にもとづき、国民の権利や義務を一方的に具体的に決める行為、つまり前回触れた「処分」にあたります。不満があるときの道は、2つあります。どちらも、前回名前を挙げた、6本の通則的な法律の中にあります。行政不服審査法による不服申立ては、行政の側に見直しを求める手続です。行政事件訴訟法による訴訟は、裁判所に訴える手続です。訴訟には、処分を取り消してもらう取消訴訟や、行政に処分をするよう命じてもらう義務付け訴訟があります。今は、名前と役割までで足ります。
X鉄道が値上げの認可を断られた場面は、二面関係の争いで、Xが争います。町の住民が、値上げが認可されたことに不満な場面は、三面関係で、争う資格があるかが問題になります。行政が利用者から意見を聴く仕組みや、第三者の争う資格を広げる工夫など、行政を見張る方策もあります。いずれも後の回で扱います。
今日の地図(保存版)
図:今日のまとめ
- 合意に任せられない3条件=選べない
- 薄く広い損
- 不可欠
- 規制は濃淡=上限認可+届出+変更命令・特急は届出
- 二面から三面へ
- 事前・一律と事後・個別
最初の1問に戻ります。当事者の合意と裁判があるのに、なぜ行政が要るのか。事後・個別の解決では間に合わない利益を、事前・一律に守るため、でした。選べない、損が薄く広い、やめにくい。この条件が重なると、合意に任せても適正な値段になりません。そこで行政が、専門的な判断を引き受けて、事前に審査します。その関わり方には濃淡があって、運賃は上限を認可して範囲内は届出、行き過ぎは変更命令。特急料金は届出だけで、新幹線の特急料金は認可。濃淡は、利用者に選ぶ余地がどれだけあるかで決まります。最後に、条文の読み方です。細目は法律の委任を受けた省令に落ちるので、条文は法律から省令の順に読みます。道路運送法のように、道具が同じでも細部は個別法ごとに違います。次は、事前のチェックから命令、そして強制までの流れを見ていきます。
参照条文
- 鉄道事業法16条1項
- 鉄道事業法16条2項
- 鉄道事業法16条3項
- 鉄道事業法16条9項
- 鉄道事業法16条8項
- 鉄道事業法施行規則32条1項
- 鉄道事業法66条
- 道路運送法9条1項
- 道路運送法9条7項
- 鉄道事業法70条1項3号・4号