行政の観念と分類(控除説・侵害行政と給付行政)
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第1章 行政法の基礎 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
同じ役場が、取り上げ、そして与える
図:町役場Aの1日
- 税の通知をBに出す
- Bの店の建て替えを図面でチェック
- 病気で働けなくなったCの生活を支える
- 町の道路と図書館を維持する
- Bの段差解消の工事費の一部を出す
山あいの町の役場、Aの1日を並べます。朝いちばんに、駅前の喫茶店の店主Bへ、税の通知を出します。昼には、Bの店の建て替えの図面をチェックして、基準に合わなければ、工事を止めます。午後は、病気で働けなくなった住民Cの生活を、支える手続をします。町の道路と図書館も、毎日、維持しています。夕方には、Bが店の入口の段差をなくす工事をするので、その費用の一部を出します。取り立てたり、止めたり、支えたり、お金を出したり。同じ役場なのに、ずいぶん違うことをしています。この5つは、どれも行政です。ここで問題です。では、行政とは何でしょうか。
仕事の例を並べることはできます。けれど、それは例であって、定義ではありません。学者の多くが支持する答え、つまり通説は、立法でも司法でもないもの、です。それだけですか。それだけです。行政法という科目の主役なのに、通説の定義は、引き算です。今日の1問は、行政とは何か、そして、ばらばらな行政をどう整理するか、です。答えを先に言います。通説では、行政の定義は引き算で、これを控除説と言います。ただ、引き算では中身が見えないので、中身で分けます。国民の権利や自由を制限する侵害行政と、便益を与える給付行政の2つです。
この仕分けを、今日の軸にします。
国の働きは、3つに分けられている
図:国の働きの割り振り
- 国の作用→立法=国会〔41条〕
- 行政=内閣〔65条〕
- 司法=裁判所〔76条1項〕
定義の話に入る前に、憲法を確認します。憲法は、国の働きを3つに分けて、3つの機関に割り振っています。まず41条です。
条文日本国憲法41条
日本国憲法第41条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
法律を作る働きを、国会が担います。唯一の立法機関とあるので、法律を作る働きは、国会に集められています。次に65条です。
条文日本国憲法65条
日本国憲法第65条 行政権は、内閣に属する。
本当に、これだけです。行政権が何かは、書いていません。この空白が、今日の最初の問いにつながります。3つ目は、76条1項です。
条文日本国憲法76条1項
日本国憲法第76条第1項 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
司法は、法律上の争いに法を当てはめて、解決する働きです。これを担うのが裁判所です。立法は国会、行政は内閣、司法は裁判所。この割り振りの考え方を権力分立と言い、三権分立とほぼ同じ意味で理解されます。力を分けて、互いに歯止めにする仕組みです。税の通知も、建築のチェックも、生活の支えも、法律を作る働きではなく、裁判でもありません。立法でも司法でもない、行政という種類の働きです。注意が1つあります。町は、内閣そのものではありません。地方公共団体の位置づけは、別の回で見ます。今日は、行政という種類の働きの話に絞ります。
図:今日の地図
- 1.国の働きを3つに分ける
- 2.行政の定義は引き算=控除説と積極説
- 3.引き算では足りない
- 4.侵害行政と給付行政
- 5.なぜ2つの型が生まれたか
- 6.きれいに分かれないもの
- 7.それでも区別が効く場面
- 8.給付行政の2つの型
ここで、今日の道筋を1枚にします。今が1番目です。次に行政の定義、引き算では足りないこと、侵害行政と給付行政、2つの型が生まれた背景、きれいに分かれないもの、区別が効く場面、そして給付行政の2つの型です。
行政の定義は、引き算
図:引き算の図(国家の作用全体 − 立法作用 − 司法作用 = 行政〔強調〕)
65条は、行政権の中身を書いていません。その中身について、通説は控除説です。控除は、引き算のことです。国家の作用、つまり、国の働きの全体から、立法作用と司法作用を除いた、残りの作用。これが行政です。消極説とも呼びます。引き算の定義になった理由は2つあり、1つ目は歴史です。憲法の回で見たとおり、国を動かす権限は、もともと君主が丸ごと握っていました。そこから先に立法が、次に司法が切り出され、最後に残ったのが行政です。引き算の順番が、歴史そのものでした。2つ目は、行政の中身が多種多様で、引き算ならまとめて捉えられることです。今日の町役場の1日が、まさにそうです。税を取る仕事と、お金を出す仕事は、向きが逆です。この両方に当てはまる共通の特徴を、一言で言うのは難しいですよね。
たしかに、一言ではまとめられないです。正面から定義しようとした人は、いないんですか。います。積極説です。行政の中身を、言葉で正面から定義しようとする立場で、田中二郎が唱えた定義が有名です。
図:控除説と積極説
- 控除説=国家作用から立法と司法を除いた残り〔消極説〕・通説
- 積極説=行政の中身を正面から定義〔田中二郎〕:法の下で法の規制を受ける・現実具体的・国家目的の積極的実現をめざす・全体として統一性・継続的・形成的な国家活動
要素を拾うと、法の下にあって法の規制を受ける。現実に具体的に行われる。国家の目的を積極的に実現しようとする。全体として統一性がある。継続的で、形成的な国家活動。こうやって、いくつもの特徴を重ねて、行政を正面から描こうとしました。暗記は要りません。積極説という立場があり、行政に特徴を重ねて定義しようとした、と押さえれば足ります。ただ、行政の仕事は幅が広すぎて、全部に共通する特徴を言い切ることができません。それなら、立法と司法を除いた残り、と定めるほうが確かです。だから控除説が通説です。正面からの定義が誤りだ、というのではありません。書き切れないので、引き算で足りる、という位置づけです。定義の優劣を競う話ではありません。
引き算の定義では足りない
図:引き算の定義の限界
- 残り全部=性質の違う活動がひとまとめ
- 行政法の範囲も特色もこの定義からは見えない→控除説で外側の線を引き、中身で分類する
引き算の定義は、外側の線を引くには足ります。ただ、残り全部なので、性質の違う活動が、ひとまとめになります。税を取る仕事も、生活を支える仕事も、同じ行政です。しかも引き算は、行政が何でないかを言うだけで、行政が何であるかは言っていません。中身を言わない定義は、中身についての手がかりをくれません。税を取る仕事と、生活を支える仕事とで、必要なルールは同じなのか、違うのか。行政法がどこまでを扱うのかも、行政法にどんな特色があるのかも、この定義からは見えてこないのです。引き算の定義が無意味だ、というのではありません。行政法の守備範囲を画する道具にはならない、という意味です。そこで大事になるのが、行政の活動がどんな働きをしていて、どんな理由で正当化されるのかを考えることです。控除説で、行政の外側の線をざっと引いたうえで、中身で分類する。その代表が、これから見る侵害行政と給付行政の区別です。
侵害行政と給付行政
図:侵害行政と給付行政の比較
- 侵害行政〔規制行政〕=権利・自由を制限する。取る、止める、縛る向き。典型=課税、建築規制、交通規制、営業規制。町役場の例=税の通知、建築のチェック
- 給付行政=便益を提供する。与える、支える向き。典型=生活保護、補助金、道路・公園・学校。町役場の例=生活の支え、道路と図書館、補助
まず侵害行政です。国民の権利や自由を制限する行政をいいます。規制行政とも呼ばれます。これまでの回で見てきた規制の手法は、この型に入ります。典型は、課税、建築規制、交通規制、営業規制です。課税は、財源をつくる行為でもあります。ただ、国民の財産を取り上げるので、権利の制限として、侵害行政の典型に入ります。次に給付行政です。国民に、金銭、物、サービス、施設という便益を提供する行政をいいます。典型は、生活保護、補助金、道路や公園や学校です。町の図書館も、同じ型です。物差しは、国民の権利や自由を制限する側なのか、便益を提供する側なのか、です。侵害行政は取る・止める・縛る向き、給付行政は与える・支える向きです。実際に分けてみましょう。町役場の1日の5つを、侵害か給付かに仕分けてください。税の通知、建築の図面のチェック、Cの生活の支え、道路と図書館の維持、段差解消の工事費の補助です。
分け方は合っています。税の通知と建築のチェックは侵害行政で、生活の支え、道路と図書館、補助は給付行政です。ただ、最後の補助は、条件が付くと話が変わります。この点はあとで見ます。
なぜ2つの型が生まれたのか
図:夜警国家から給付国家へ
- 19世紀=自由放任・国家の役割は小さい・秩序の維持〔警察作用〕・法は国家権力を縛る→侵害行政に関心
- 市場の失敗〔貧困・格差〕
- 20世紀=経済政策・社会政策・便益の提供→給付行政
- 憲法の跡=29条2項・25〜28条
そもそも、どうしてこの2つの型が出てきたんですか。国家の役割が変わったからです。19世紀、市民革命の後の近代国家では、経済は市場に任せるのがよい、と考えられました。自由放任です。国家の役割は、小さいほどよい。国家の仕事は、公共の秩序の維持にとどまる。夜回りだけをする番人にたとえて、これを夜警国家と呼びます。ここでいう秩序の維持は、警察署の仕事に限りません。公共の秩序を維持する作用一般を、理論の上では警察作用と呼びます。この時代、法律の役割は、国家権力を縛ることでした。だから行政法の関心も、侵害行政に集まりました。20世紀に入ると、資本主義の限界が見えてきます。市場に任せるだけでは解決しない貧困や格差が出てきた。これを市場の失敗と言います。たとえば、病気で働けなくなったCは、市場の中では、収入を得る手立てがありません。
そこで国家は、市場に手を入れる経済政策と、弱い立場の人を守る社会政策を行うようになります。これを給付国家と呼び、福祉国家や社会国家とも言います。道路、公園、橋、学校など、便益の提供にまで、国家の役割が及びます。これが給付行政です。憲法にも、その跡があります。まず、29条2項です。
条文日本国憲法29条2項
日本国憲法第29条第2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
かつて、財産権は絶対に不可侵のものとされました。それが、内容は公共の福祉に適合するよう法律で定める、と書かれた。財産権の制限が、正面から認められたわけです。これがなぜ、国家の役割が変わった跡なのか。夜警国家は、秩序を守るほかは、財産の使い方に口を出さないのが建前でした。役割が広がった国家は、与えるだけではありません。市場に手を入れる経済政策では、財産の使い方に、法律で縛りをかけます。与える仕事と一緒に、縛る仕事も広がったのです。29条2項は、縛る側が広がった跡です。憲法の跡の2つ目は、与える側が広がった跡で、社会権です。国に対して、人間らしい生活の支えを求める権利で、弱い立場の人を守る社会政策の土台になります。25条を見ます。
条文日本国憲法25条1項
日本国憲法第25条第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
条文日本国憲法25条2項
日本国憲法第25条第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
25条は生存権です。ほかの社会権も、条名と中身の一言だけ押さえましょう。26条は教育を受ける権利、27条は勤労の権利と義務、28条は団結権などの労働基本権です。日本国憲法は、この意味で20世紀型の憲法と言えます。憲法が、特定の給付を行政に直接命じている、とまでは言えません。25条2項が国に課しているのは、努める責務です。権利を具体的な制度にするのは、法律です。憲法に給付国家の跡がある、までにとどめます。もう1つ、補足します。行政法の関心が侵害行政に偏っていたのは、給付はもらえてありがたいもので、法で縛る必要が感じにくかったから、とも言われます。給付が増えると、その見方が崩れました。この点は、あとでもう一度出てきます。
きれいに分かれないもの
図:きれいに分かれない2つの類型
- 義務つき補助金=給付なのに受ける側に義務が付く〔町の例:一定期間は店を続ける・目的外に使わない・実績を報告する〕
- 誘導行政=経済的な得で行動を導く〔仮の例:省エネ型に買い替えた店は税を軽くする〕
現代の行政は、侵害と給付が混ざり合います。区別を徹底するのは難しい。それでも、行政の基本的な特徴の違いを意識することはできます。混ざる例を2つ見ます。1つ目は、義務つき補助金です。Bの段差解消の補助に、一定期間は店を続けること、目的外には使わないこと、実績を報告することという条件が付いたとします。給付であり、同時に縛りでもあります。条件にも歯止めがあります。国の補助金の場合、補助金等適正化法7条4項が、条件は公正でなければならないと定めています。
条文補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律7条4項
補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第7条第4項 補助金等の交付の決定に附する条件は、公正なものでなければならず、いやしくも補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであつてはならない。
条件が補助の目的を達成するために必要な限度を超えて、不当に干渉するものであってはいけません。町が独自の財源で出すBへの補助は、この法律の対象ではありませんが、給付に条件が付くと、その条件にも歯止めが要る、という例として見てください。条件に違反したときに交付決定を取り消せる場合があることも、同じ法律の17条1項が定めています。取消しの中身は、後の回で扱います。2つ目は、誘導行政です。税の軽減や融資など、経済的な得で、人の行動をある方向へ導く手法です。仮の仕組みとして、省エネ型の機器に買い替えた店は、税を軽くする、という制度があるとします。命令も強制もしません。得になるから、自分で選ぶ。
買い替えない店も、この仮の仕組みでは、税が上がるわけではありません。得をする機会を使わなかっただけです。だから、権利を制限する侵害行政とも、便益を与える給付行政とも、型どおりには言いにくい。区別が難しいのは、こうした手法があるからです。暗記は2つです。義務つき補助金は、給付だが縛りがある。誘導行政は、経済的な得で行動を導く。
それでも区別が効く場面
図:区別が効く場面
- 問い=行政が動くのに法律の根拠はどこまで要るか
- 侵害行政=法律の根拠が要る点に争いなし
- 給付行政=考え方が分かれる〔この議論=法律の留保〕
ここで前回の復習を1問。行政が、自分の手で義務を実現する強制には、何が要るとされていたでしょう?法律の根拠です。行政代執行法などでした。そうでした。強制は、行政が力で、相手の権利や自由を制限する場面です。権利を制限する行政には、法律の根拠が要る。この線が、今日の区別とつながります。区別が効くのは、行政が動くのに、法律の根拠がどこまで要るのかを考えるときです。まず侵害行政です。Bに税をかけたり、Bの工事を止めたり、権利や自由を制限する行政に、法律の根拠が要る点は、どの立場でも争いがありません。権利や自由を取り上げられる側から見れば、国会が法律で認めた場合に限る、という歯止めが無いと、行政の判断ひとつで奪われてしまうからです。
前回の強制と同じ線ですね。では、与える側はどうなんですか。そこが問いです。与える行政は、権利を取り上げるわけではありません。だから、同じ歯止めがそのまま要るのかが問われます。町が、法律の定めなしに、Bへ補助を出してよいのか。ここで、考え方が分かれます。この議論を、法律の留保と呼びます。各説の中身は、後の回で扱います。今日は、問いの形までです。ここは論文で論点になりうる、とだけ覚えておいてください。もう1つ、問いを置きます。Bには補助が出て、隣の店Eは断られたとします。この配り方は、誰が、何に基づいて決めたのでしょうか。次に、給付行政の中身を見て、この問いに近づきます。
給付行政の2つの型

給付行政には、2つの型があります。法律に基づく給付と、法律に基づかない給付です。まず、法律に基づく給付から。Cの生活保護です。憲法25条の理念を受けて、生活保護法が制度にしました。1条を見ます。
条文生活保護法1条
生活保護法第1条 この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
困窮の程度に応じて、必要な保護を行います。最低限度の生活を保障するだけでなく、自立を助長する、つまり自分の力で暮らせるよう助けることも目的に入っています。
図:生活保護法の条文
- 2条=要件を満たす限り無差別平等に受けられる
- 3条=健康で文化的な生活水準を維持できるもの
- 4条1項=補足性:利用し得る資産・能力その他あらゆるものを最低限度の生活の維持のために活用することが要件
- 25条1項=急迫のときは職権で決定し保護を開始
関連する条文を、3つ続けて見ます。2条は、要件を満たす限り、無差別平等に保護を受けられる、という定めです。受ける人の側の、権利の面が表れています。3条は、保障される生活が、健康で文化的な水準でなければならない、という定め。4条1項は補足性で、利用できる資産や能力を、まず生活の維持に活用することが、保護の要件になります。Cが保護を受けるには、どう進むんですか。7条です。
条文生活保護法7条
生活保護法第7条 保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し、要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても、必要な保護を行うことができる。
保護は、申請に基づいて始まります。要保護者は、保護を必要とする人のことです。ただし、急迫した状況のときは、申請がなくても必要な保護ができます。25条1項も、急迫のときは、職権で、つまり申請を待たずに行政の側から、決定して保護を開始する、と定めています。申請を受けて、決めるのはだれですか。19条1項です。
条文生活保護法19条1項
生活保護法第19条第1項(柱書・1号) 都道府県知事、市長及び社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に規定する福祉に関する事務所(以下「福祉事務所」という。)を管理する町村長は、次に掲げる者に対して、この法律の定めるところにより、保護を決定し、かつ、実施しなければならない。 一 その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者
福祉事務所は、生活保護などの福祉の事務を担当する、役所の組織です。保護を決めて実施するのは、都道府県知事、市長、そして福祉事務所を管理する町村長です。1号は、その福祉事務所の区域に居住地がある要保護者です。居住地がないか明らかでない人は、2号で、現在地がある場合が対象になります。Cの町は、福祉事務所を置いているので、決めるのは町長です。福祉事務所を置かない町村では、都道府県知事が決めることになります。決める内容は、どう伝えられるんですか。24条です。保護の開始を申請する人は、申請書を、保護を決めて実施する機関、つまり実施機関に出します。これが1項です。そのあとの流れが、3項です。
条文生活保護法24条3項
生活保護法第24条第3項 保護の実施機関は、保護の開始の申請があつたときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもつて、これを通知しなければならない。
実施機関は、要否、種類、程度、方法の4つを決定して、書面で通知します。Cが申請書を出し、町長が決定し、書面で知らせる。法律の条文に沿って、申請から通知まで進みます。ここで特に重く問われるのは、法律がどこまで細かく定めているかと、受ける人の権利がどう守られるかです。憲法上の権利を、法律が制度にしたものだからです。

法律に基づかない給付の例が、Bの段差解消の補助です。町が、予算の範囲で、要綱に従って配ります。要綱は、行政が自分で決めた配り方のルール、つまり行政の内部の基準です。この補助を定めた個別の法律は、ありません。目的は、政策目標の実現です。段差のない店を増やす。生活保護のように、憲法上の権利を実現する制度ではありません。補助は、行政が思うままに配ってよいものではありません。法律に基づかない、というのは、その補助制度を定めた個別の法律が無い、という意味です。法の規律が何も無い、という意味ではありません。まず自治体の側から、地方自治法232条の2です。
条文地方自治法232条の2
地方自治法第232条の2 普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。
公益上必要がある場合に、補助ができる。補助できる場面を一般的に認める定めであると同時に、公益上の必要という歯止めでもあります。補助に使える予算の枠も、町役場だけでは決められず、町の議会の議決で決まります。地方自治法96条1項2号です。国の補助金は、少し構造が違います。個別の法律に基づく法律補助と、法律の根拠なく、予算だけで出す予算補助があります。後者が、法律に基づかない給付です。どちらにも、補助金等適正化法が、申請、決定、条件、取消し、返還などの、共通の手続と統制を定めています。統制は、使い方が正しいかを確かめて、外れていれば正す仕組みのことです。
条文補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律1条
補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第1条 この法律は、補助金等の交付の申請、決定等に関する事項その他補助金等に係る予算の執行に関する基本的事項を規定することにより、補助金等の交付の不正な申請及び補助金等の不正な使用の防止その他補助金等に係る予算の執行並びに補助金等の交付の決定の適正化を図ることを目的とする。
対象を決めている、2条1項を見ます。
条文補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律2条1項
補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第2条第1項 この法律において「補助金等」とは、国が国以外の者に対して交付する次に掲げるものをいう。
適正化法が対象にするのは、国が国以外の者に交付する補助金等です。だから、町が独自の財源で出す段差補助には、適正化法は適用されません。町の補助は、地方自治法232条の2と、町の予算と、要綱など町が自分で定める決まりの世界です。それに、この適正化法は、補助の手続と統制の法律です。補助を出す権限や対象を定める法律ではありません。まとめると、個別の根拠法が無いまま、予算と要綱で配る補助金がある。だからといって、行政の自由に任せきりでよいわけではない。国の補助金には共通の手続と統制の法律があり、自治体には補助の一般的な定めがある。この3点です。
図:なぜ給付行政にも法の統制が問われるのか
- 1.もとは税金=行政の自由にしてはならない
- 2.配り方が不公平なら異議を述べる道が要る〔Bには出てEには出ない〕
- 3.そもそも行政がやるべきことか〔民間に任せてよいか〕
配り方を決めたのは町です。物差しは、町が自分で作った要綱の基準と、議会が決めた予算の枠でした。この補助の配り方を定めた個別の法律は、ありません。給付にも法の統制が問われる理由は、3つあります。1つ目は、給付の元手が税金だからです。行政の自由に、してはいけません。2つ目は、配り方が不公平なら、異議を述べる道が要ることです。Bには出て、Eには出ない。それが筋の通らない配り方なら、争う道が要ります。3つ目は、そもそも行政がやるべきことか、民間に任せてよいことか、が問われることです。だから給付行政は、侵害行政と並ぶ、重要な関心分野です。もっとも、争えるかどうかの結論や、具体的な統制の中身は、後の回で扱います。今日は、問題意識までです。
図:給付の2つの型の比較
- 法律に基づく給付〔生活保護〕:根拠=生活保護法+憲法25条の理念
- 目的=最低限度の生活の保障・自立の助長
- 配り方=法律の要件・申請→決定→書面通知
- 立場=要件を満たす限り受けられる=権利の面が強い/法律に基づかない給付〔段差解消の補助〕:根拠=個別の法律は無い・予算と要綱〔国は予算補助、町は一般の定め232条の2+予算〕
- 目的=政策目標の実現
- 配り方=要綱の基準と予算の枠
- 立場=予算の枠で配られる〔断られたときの争い方は後の回〕/共通の問い=法の統制をどう及ぼすか
2つの型を、1枚で比べます。生活保護は、根拠が生活保護法と憲法25条の理念で、目的は最低限度の生活の保障と自立の助長です。配り方は、法律の要件に沿った申請、決定、書面での通知。受ける人は、要件を満たす限り受けられるので、権利の面が強くなります。段差解消の補助は、個別の根拠法が無く、予算と要綱で配ります。国なら予算補助、町なら、補助の一般的な定めである232条の2と予算。目的は政策目標の実現で、配り方は要綱の基準と予算の枠が決めます。断られたときの争い方は、後の回で見ます。共通の問いは、法の統制を、どう及ぼすか、です。もとは税金であること、配り方が公平であること、そもそも行政がやるべきことか。どちらの型にも、同じ問いが付いて回ります。
今日の地図(保存版)
図:今日のまとめ
- 定義=控除説:国家作用−立法−司法
- 積極説は書き切れない
- 分類=侵害行政〔権利・自由を制限〕と給付行政〔便益を提供〕
- 背景=夜警国家から給付国家へ〔29条2項・25〜28条〕
- 混ざるもの=義務つき補助金・誘導行政
- 区別が効く場面=法律の根拠はどこまで要るか
- 給付の2型=法律に基づく〔生活保護〕・基づかない〔要綱で配る補助金〕
最初の1問に戻ります。行政とは何か、そして、ばらばらな行政をどう整理するか。行政の定義は引き算で、控除説でした。国家の作用から立法と司法を除いた、残りです。ただ、引き算では中身が見えません。行政の中身は多種多様で、共通の特徴を書き切れないから、引き算になる。そのぶん、行政法の範囲も特色も、定義からは出てきません。だから、中身で分けます。国家が夜警国家から給付国家へ変わったことが、侵害行政と給付行政という2つの型の背景でした。憲法には、29条2項と社会権に、その跡があります。きれいに分かれないものも、あります。給付なのに義務が付く補助金と、経済的な得で行動を導く誘導行政です。
権利を制限する行政に、法律の根拠が要る点に争いはなく、給付はどうかで、考え方が分かれます。給付行政にも、法律に基づく給付と、基づかない給付があります。基づかない給付でも、行政の自由に任せきりではありません。法の統制をどう及ぼすか。その問いを抱えて、先の回に進みます。
参照条文
- 日本国憲法41条
- 日本国憲法65条
- 日本国憲法76条1項
- 日本国憲法29条2項
- 日本国憲法25条1項
- 日本国憲法25条2項
- 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律7条4項
- 生活保護法1条
- 生活保護法7条
- 生活保護法19条1項
- 生活保護法24条3項
- 地方自治法232条の2
- 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律1条
- 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律2条1項