行政法ゼロから行政法#5

近代行政法の基本構造と現代の課題(二面関係から三面関係へ)

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第1章 行政法の基礎 ⑤/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

建築のチェックに、Cの席はあるか

建築のチェックの登場人物(A=町役場がBの建て替えの図面をチェックして確認を出す、柱を減らしたら是正を命じる/B=駅前の喫茶店の店主/C=Bの店の隣に住む住民、倒れてこないか不安:Cの席は?) 図:建築のチェックの登場人物

  • A=町役場がBの建て替えの図面をチェックして確認を出す、柱を減らしたら是正を命じる
  • B=駅前の喫茶店の店主
  • C=Bの店の隣に住む住民、倒れてこないか不安:Cの席は?

山あいの町の駅前で、喫茶店を営むBが、店を3階建てに建て替えます。町役場のAは、図面が基準に合うかをチェックして、確認を出します。柱を減らして建ててしまえば、Aは是正を命じます。前に見た、建築のチェックの場面です。この場面の基本の登場人物は、チェックするAと、チェックされるBです。ここに、そのときの隣の住民、Cを加えます。Cは、Bの店の隣に住んでいます。柱の足りない建物が、地震で倒れてこないか、不安を抱えています。暮らしの上では、Cは当事者そのものです。けれど、建築のチェックを描いた法律関係の図に、Cの席はありません。Cの席は、設計図のどこにあるのでしょうか。行政法という法の組み立てを、ここでは設計図と呼びます。結論を先に言います。行政法の設計図に基本として描かれたのは、行政と、その相手方の2人でした。

どうして2人だったんですか。設計図が、国家権力から個人の自由と財産を守る盾として、組み立てられたからです。今日の1問は、なぜ設計図には2人が描かれたのか、そして今、その設計図のどこが足りなくなっているのか、です。前に、行政と相手方の2者の関係を二面関係、そこに第三者が加わる関係を三面関係と呼びました。今日は、その呼び名の裏にある、なぜを掘ります。

行政の基本の順番

民事・刑事・行政の比較(動く時期=民事は問題が起きてから裁判所へ、刑事は違反のあとに手続、行政は起きる前に介入もする/手続=民事と刑事は訴訟など裁判所の手続、行政は言い分を聴くなどの簡易な手続/判断の中心=民事と刑事は争いの決着を裁判所が、行政はまず行政機関が判断/行政への不服=行政の決定のあとから訴訟で争う) 図:民事・刑事・行政の比較

  • 動く時期=民事は問題が起きてから裁判所へ、刑事は違反のあとに手続、行政は起きる前に介入もする
  • 手続=民事と刑事は訴訟など裁判所の手続、行政は言い分を聴くなどの簡易な手続
  • 判断の中心=民事と刑事は争いの決着を裁判所が、行政はまず行政機関が判断
  • 行政への不服=行政の決定のあとから訴訟で争う

まず、設計図の下書きとして、行政の仕組みに共通する形を見ます。行政は、ある問題を個人どうしの問題として放っておかず、社会全体の問題、つまり公益の問題として、国家の機関が管理します。公共の福祉に関わる問題と言い換えてもかまいません。たとえば建物の安全は、BとCの間の問題にとどまりません。店の前の道を通る人にも関わります。民事の裁判も、刑事の手続も、裁判所や警察や検察という国家の機関が関わります。そこは行政と共通です。違いは、次の2つです。1つ目は、動く時期で、ここは前に見ました。民事も刑事も、問題が起きたあとで手続が動くのが基本です。行政は、起きる前に介入できます。社会全体に関わる問題は、起きてからでは取り返しがつかないことがあるからです。Bの建て替えで、工事の前に確認を受けるのが、その例です。2つ目は、手続です。今日、新しく足すのはここからです。行政は、訴訟ではなく、言い分を聴くなどの簡易な手続で、処理します。

裁判を待たずに、起きる前に動くのですから、最初に判断するのは行政機関になります。これが基本の形です。確認を出すかどうかを、まず役場Aが、法に照らして決めます。Bが不服なら、そのあとで、裁判所で争います。まず行政が決め、不服のある人があとから訴訟で争う。この順番が、行政の基本の順番です。民事や刑事では、争いに決着をつける判断を下すのは裁判所です。前に、行政は事前に一律に、民事や刑事は事後に個別に働く、という対を見ました。それは、いつ動き、だれに効くかの軸です。今日は、公益に関わる問題でだれが最初に判断するか、という軸を1つ足してください。行政の基本の順番に登場するのは、決める行政と、決められる相手方の2人です。設計図の2人が、ここにも顔を出しています。

今日の道筋(1.行政の基本の順番/2.国家と市民社会の二元論/3.町はどちら側か/4.設計図が描かれた時代/5.足りなくなった所 与える行政/6.足りなくなった所 3人目と二重効果/7.設計図の外へ 民間が担い、行政が見張る) 図:今日の道筋

  • 1.行政の基本の順番
  • 2.国家と市民社会の二元論
  • 3.町はどちら側か
  • 4.設計図が描かれた時代
  • 5.足りなくなった所 与える行政
  • 6.足りなくなった所 3人目と二重効果
  • 7.設計図の外へ 民間が担い、行政が見張る

今日の道筋を、1枚にします。今が1番目です。次に、設計図の前提になった国家と市民社会の二元論、町はどちら側に立つのか、設計図が描かれた時代を見ます。そのあと、足りなくなった所を、与える行政、3人目の順に見ます。最後に、設計図の外へ出る動きとして、民間が担い手になる場合を見ます。

国家と市民社会の二元論

国家と市民社会の二元論(国家=公の仕事を引き受ける/市民社会=個人の自由な意思に任される/その間にいた団体=公的な力をもつ地位が取り払われる〔中間団体の排除〕/個人のことは個人が決める=私的自治/行政法の中心課題=国家が外の私人に働きかける場面を、法的にコントロールする) 図:国家と市民社会の二元論

  • 国家=公の仕事を引き受ける
  • 市民社会=個人の自由な意思に任される
  • その間にいた団体=公的な力をもつ地位が取り払われる〔中間団体の排除〕
  • 個人のことは個人が決める=私的自治
  • 行政法の中心課題=国家が外の私人に働きかける場面を、法的にコントロールする

では、なぜ設計図は2人で描かれたのか。その前提にあるのが、国家と市民社会の二元論です。二元論は、世界を2つの領域に分けて考えることです。公の領域としての国家と、私的な領域としての市民社会です。近代国家ができると、2つのことが起きました。1つ目は、公的な仕事が国家に集められたことです。2つ目は、それ以外のことが、個人の自由な意思に任されたことです。たとえば、山あいの町で、昔は集落の寄り合いや同業の仲間が、道の手入れも、もめごとの仲裁も、商売の決まりも、まとめて決めていたとします。これは仮の例です。近代になると、公の性質をもつ仕事は国家に集められ、残りは個人どうしの契約に任されます。国家と個人の間にいた団体が、公的な力をもつことは、取り払われていきました。これを、中間団体の排除と言います。

団体が1つ残らず消えた、と言い切れるわけではありません。取り払われたのは、団体が公的な力をもつという地位です。2つ目の、個人のことは個人が自由な意思で決める原則を、私的自治と言います。契約が代表です。Bが客にコーヒーを売るのは、私的自治の世界の出来事です。この2つの組み合わせで、世界は、国家と、その外にいる人たちに分かれました。この見方では、公的な力は国家の側に集まります。だから、個人の自由と財産を守るには、国家の力を縛ることが、かなめになります。ここから、行政法の中心課題が定まります。国家が私人に働きかける場面、つまり行政作用を、法的にコントロールすることです。設計図の主役が、国家とその外の相手方の2人になった理由は、ここにあります。

私人というのは、私的な人、という意味ですか。違います。私人は、国家と向き合う側の個人と団体を指す言葉で、行政法学でよく使います。法令では、近い意味で国民や事業者といった言葉が多く使われます。事業をするBの店や会社も、私人に入ります。

町はどちら側か

国・地方公共団体・私人の位置(行政をする側=国、地方公共団体〔町役場A〕/行政をされる側=私人〔B、C〕/行政作用は、する側から私人へ向かう) 図:国・地方公共団体・私人の位置

  • 行政をする側=国、地方公共団体〔町役場A〕
  • 行政をされる側=私人〔B、C〕
  • 行政作用は、する側から私人へ向かう

前の回に言い残したことを、ここで回収します。町は、内閣そのものではない、と言いました。では町は、国家の側なのか、私人の側なのか。役場Aは、行政をする側です。町のような地方公共団体は、国とは別の主体です。ただ、私人の側ではなく、行政をする側に立ちます。その根拠の入口が、憲法92条です。

条文日本国憲法92条

日本国憲法第92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

地方公共団体の組織と運営は、地方自治の本旨に基づいて、法律で定める、とあります。地方自治の本旨は、地域のことはその地域で決める、という考え方です。92条は、地方公共団体という仕組みを、憲法の上に置いています。次に、94条を見ます。

条文日本国憲法94条

日本国憲法第94条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

94条は、地方公共団体が、行政を執行する権能をもつと定めています。だから地方公共団体は、憲法に位置づけられた、行政をする側の主体です。国と地方公共団体の関係も、行政法のテーマで、後の回で扱います。ただ、行政法の伝統的な関心は、国家の内側の関係よりも、国家が外の私人に及ぼす働きのほうに向いてきました。今日も、AとBの関係を軸にします。

設計図が描かれた時代

設計図の生まれ方(フランスで生まれる/ドイツを経由/近代化をめざす明治憲法のもとの日本に取り入れる〔継受〕/中央集権の近代国家で、役人の組織が国を動かす基盤としてつくられた=特定の時代の産物) 図:設計図の生まれ方

  • フランスで生まれる
  • ドイツを経由
  • 近代化をめざす明治憲法のもとの日本に取り入れる〔継受〕
  • 中央集権の近代国家で、役人の組織が国を動かす基盤としてつくられた=特定の時代の産物

設計図がいつ描かれたかに入る前に、前回の復習を1問。国家の仕事を秩序の維持に絞った、19世紀の夜警国家のもとで、法律の役割は何だと考えられていたでしょう?国家権力を縛ることでした。それで、権利や自由を制限する侵害行政に、関心が集まったんです。国家権力を縛るという発想が、設計図の出発点です。行政法は、中央集権的な近代国家で、役人の組織が国を動かす基盤として、歴史の中でつくられた法理論です。特定の時代の産物であって、いつの時代にも通用する自然な形ではありません。だから、今の社会に合っているかを問い続ける必要があります。流れだけ見ます。行政法の理論は、まずフランスで生まれ、ドイツを経て、近代化をめざす明治憲法のもとの日本に取り入れられたと説明されます。外国の制度や理論を取り入れて、自分のものにすることを、継受と言います。

明治憲法のもとは、どんな仕組みだったんですか。立憲君主制でした。君主がいるけれど、憲法と法律で縛る体制です。ただ、明治憲法のもとでは、国の政治のあり方を最終的に決める力である主権を、君主がもち、行政の権限も君主に属していました。そこで伝統的な行政法は、君主の側にある行政権の働きを、法律という形式で縛り、私人の自由と財産を国家権力から守るものとして組まれました。前に、伝統的な関心は行政の不当な介入から私人を守ることだと言ったのは、この事情によります。盾として作られた、ということです。争いを裁く場所も、今とは違いました。明治憲法61条を、当時の規定として、板に出します。

当時の規定 大日本帝国憲法61条(原文:行政官庁ノ違法処分ニ由リ権利ヲ傷害セラレタリトスルノ訴訟ニシテ別ニ法律ヲ以テ定メタル行政裁判所ノ裁判ニ属スヘキモノハ司法裁判所ニ於テ受理スルノ限ニ在ラス) 図:当時の規定 大日本帝国憲法61条

現代語の要旨で読みます。行政官庁の違法な処分で権利を傷つけられたとする訴訟のうち、別に法律で定める行政裁判所の裁判に属するものは、司法裁判所、つまり普通の裁判所は受け付けない、という定めです。行政裁判所というのは、普通の裁判所とは別のものなんですか。別です。行政裁判所は、司法の裁判所の系統ではなく、行政権の側に置かれた特別な裁判所でした。

争いを裁く場所の比較(明治憲法のもと=主権は君主、行政の争いは行政権の側に置かれた特別な裁判所〔行政裁判所〕が裁く/日本国憲法のもと=主権は国民、行政の争いは通常の裁判所が裁く/行政裁判所は廃止) 図:争いを裁く場所の比較

  • 明治憲法のもと=主権は君主、行政の争いは行政権の側に置かれた特別な裁判所〔行政裁判所〕が裁く
  • 日本国憲法のもと=主権は国民、行政の争いは通常の裁判所が裁く
  • 行政裁判所は廃止

日本国憲法になると、国民が主権をもつ国になり、行政裁判所は廃止されました。その憲法上の根拠が、76条2項です。

条文日本国憲法76条2項

日本国憲法第76条第2項 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。

司法権は裁判所に属する、と1項が定めています。そのうえで2項は、通常の裁判所の系統の外に置かれる特別裁判所を禁じています。さらに、行政機関が、終審、つまり最後の裁判として裁判を行うことも禁じています。だから、行政をめぐる争いも、通常の裁判所が扱います。ただし、憲法の構造が変わっても、行政法の理論の骨組みには、当時の発想が残っていると指摘されています。たとえば、設計図が、行政と相手方の2人を前提にしていることも、その1つと考えられます。行政裁判所から今の訴訟制度への移り変わりの細部は、後の回で扱います。

その設計図の、足りなくなった所は、どこに出てくるんですか。大きく2つあります。そこから、設計図の外へ出る動きが、もう1つあります。順に見ます。

与える行政の増大

設計図の向きと現実(設計図が主に描いた向き=奪う、止める〔侵害行政〕を縛る/現代=上下水道、病院、学校、社会保障など与える〔給付行政〕の重みが増す/盾の発想だけでは、与え方を縛る線が出てこない) 図:設計図の向きと現実

  • 設計図が主に描いた向き=奪う、止める〔侵害行政〕を縛る
  • 現代=上下水道、病院、学校、社会保障など与える〔給付行政〕の重みが増す
  • 盾の発想だけでは、与え方を縛る線が出てこない

1つ目は、与える行政の増大です。設計図は、権利や自由を制限する侵害行政を縛ることを、主に描いていました。ところが現代では、上下水道、病院、学校、社会保障のように、財貨やサービスを与える給付行政の重みが増しています。前の回で、給付にも法の統制が要る理由を、3つ見ました。元手が税金であること、配り方が公平であること、そもそも行政がやるべきことか、でした。盾は、奪われたり止められたりしないように、身を守る道具です。与える場面では、相手は奪われる側ではなく、受け取る側なので、盾を構える場面になりません。だから盾の発想だけでは、与え方をどう縛るかが出てきません。設計図には、与える側を縛る線が、足りないのです。

もう1つは、登場する人の数です。設計図に描かれた2人では、収まらない場面が出てきます。

3人目の登場と二重効果

二重効果の板(同じAの決定をBの欄とCの欄で読む/1.建て替えを認める確認=Bの欄はプラス、Cの欄はマイナス〔例:隣の日当たりが今より悪くなりうる〕/2.柱不足への是正命令=Bの欄はマイナス、Cの欄はプラス〔倒れる不安が減る〕/プラスとマイナスが人によって逆になる) 図:二重効果の板

  • 同じAの決定をBの欄とCの欄で読む
  • 1.建て替えを認める確認=Bの欄はプラス、Cの欄はマイナス〔例:隣の日当たりが今より悪くなりうる〕
  • 2.柱不足への是正命令=Bの欄はマイナス、Cの欄はプラス〔倒れる不安が減る〕
  • プラスとマイナスが人によって逆になる

2つ目は、3人目の登場です。同じAの決定、前に見た言葉でいえば処分を、Bから見た欄と、Cから見た欄に並べます。1つ目は、建て替えを認める確認です。Bには利益です。Cには、不利益になりえます。たとえば3階建てになって、隣の日当たりが今より悪くなる場合です。法律上どこまで保護されるかには、ここでは入りません。問題です。Aが、柱の足りない建物について、Bに是正命令を出したとします。Bの欄とCの欄は、プラスとマイナスのどちらでしょう?Bは工事をやり直すことになるのでマイナス、Cは倒れる不安が減るのでプラスです。確認とは逆になります。板の上で、同じ1つの決定が、人によってプラスにもマイナスにもなっています。このように、1つの決定が、ある人には利益、別の人には不利益になることを、二重効果と言います。前に見た鉄道の運賃も、値上げが認可されれば、会社には利益、利用者には不利益という、同じ形でした。関係者は3人です。行政のA、決定の直接の相手方である名宛人のB、そして、名宛人ではないけれど決定の影響を受ける第三者のC。この関係が、三面関係です。二重効果をもたない決定もあります。たとえば、役場AがBに町の税金を課す決定は、Bには不利益ですが、Cのような特定のだれかの利益にも不利益にも、ふつうはなりません。ただ、二重効果をもつ決定を考えなければならない場面が、現代では多くなっています。

国家と市民社会の二元論では、BとCの間は、私人どうしの関係です。前に見たとおり、CがBに建物を直させたければ、裁判所に訴えることになります。だから行政法の設計図には、AとBの2人が基本の登場人物として描かれ、Cの席がありませんでした。現代では、Cの席が要る場面があります。Cが決定を争えるかは、原告適格という論点で、後の回で扱います。今日は、設計図に席が足りない、というところまでです。

保障行政と公私協働

保障行政の関係図(A=町、住民の足を確保する側/D=町営バスを引き継ぐ民間のバス会社/C=住民/AからDへ=路線と便数の取り決め、赤字の一部の補助/DからCへ=運送の契約) 図:保障行政の関係図

  • A=町、住民の足を確保する側
  • D=町営バスを引き継ぐ民間のバス会社
  • C=住民
  • AからDへ=路線と便数の取り決め、赤字の一部の補助
  • DからCへ=運送の契約

最後に、設計図の外へ出る動きです。サービスの担い手が、行政から民間へ移ります。町が走らせていた町営バスをやめて、民間のバス会社Dが、路線を引き継いで走らせるとします。国や自治体の事業を民間の主体に移すことを、一般に民営化と言います。Dが事業ごと引き継ぐ今日の例は、こちらです。町が事業を続けたまま、運転だけをDに任せるなら、民間委託です。仕事は行政の責任のまま、実施を民間に任せる形です。町は、もうバスに関わらないんですか。関わり続けます。町がただ手を引けば、住民の足が途切れるおそれがあるからです。町は、Dと、路線と便数を守る取り決めを結び、赤字の一部を補助して、住民の足を確保する側に回ります。自分で提供するのをやめても、行政には、サービスがきちんと届くよう、規制や監督で担保する役割が残ります。担保するは、確実に行われるよう支える、という意味です。このスタイルを、保障行政と呼びます。登場人物は、A、D、Cの3人です。人数は、先ほどの三面関係と同じです。違うのはDで、もともと町がしていた仕事を引き受けた担い手です。Cは、ここでは、バスに乗る町の住民です。CがDのバスに乗るのは、運送の契約です。Aは、CとDの契約の当事者ではありません。AとDの間には、取り決めと、補助という給付があります。そこに、国の法律にもとづく規制や監督も重なります。

保障行政が型に収まりにくいのは、手法と内容の両方で、組み合わせが起きるからです。手法の面では、行政の一方的な決定と、契約が組み合わさります。今日の例では、町とDの取り決めが契約です。Dが安全の決まりを守らないときに、国などの行政が法律に基づいて出す命令が、一方的な決定です。内容の面では、縛る侵害行政と、与える給付行政が組み合わさります。前の回で、きれいに分かれないものがあると見ましたが、その延長にあります。公的な任務を、行政と私人が分け合って果たす形なので、公私協働とも呼ばれます。国家と市民社会をきれいに分ける前提そのものが、ここで問い直されていると言えます。バス事業を行うための法律の仕組みは別にありますが、今日は入りません。契約をどう統制するかや、事故が起きたときの責任は、後の回で扱います。

今日の地図(保存版)

設計図と現実の比較(登場人物=近代は行政と相手方の2人〔二面関係〕、現代は第三者が加わる3人〔三面関係〕で民間の担い手も加わる/行政の主な向き=近代は奪う、止める〔侵害行政〕、現代は与える、支える〔給付行政〕も増える/守られるもの=近代は相手方の自由と財産、現代は相手方に加えて第三者の利益や住民の暮らし/争いを裁く場所=明治憲法のもとは行政権の側の特別な裁判所、日本国憲法のもとは通常の裁判所) 図:設計図と現実の比較

  • 登場人物=近代は行政と相手方の2人〔二面関係〕、現代は第三者が加わる3人〔三面関係〕で民間の担い手も加わる
  • 行政の主な向き=近代は奪う、止める〔侵害行政〕、現代は与える、支える〔給付行政〕も増える
  • 守られるもの=近代は相手方の自由と財産、現代は相手方に加えて第三者の利益や住民の暮らし
  • 争いを裁く場所=明治憲法のもとは行政権の側の特別な裁判所、日本国憲法のもとは通常の裁判所

最初の1問に戻ります。なぜ設計図には、2人が描かれたのか。国家権力から、個人の自由と財産を守る盾として作られたからでした。近代国家では、公的な仕事が国家に集まり、公的な力をもつ中間団体が取り払われ、残りは私的自治に任されました。国家と、その外の私人。この2者が、行政法の設計図の主役になりました。今、足りなくなっている所は2つです。1つ目は、与える行政が増えたこと。2つ目は、二重効果によって、第三者の席が要ること。さらに、設計図の外へ出る動きとして、民間が担い手になり、行政が、サービスがきちんと届くよう担保する側に回る場面が出てきました。

明治憲法のもとでは、行政権の側に置かれた特別な裁判所が裁いていました。日本国憲法のもとでは、通常の裁判所です。それでも、理論の骨組みには当時の発想が残っていると指摘されています。行政法の中身は、特定の時代に形づくられたものです。この設計図が、今の社会に合っているかを問う目を持って、先の回に進みましょう。

参照条文

  • 日本国憲法92条
  • 日本国憲法94条
  • 日本国憲法76条2項

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